HR30:「学園物語だったな、そう言えば」の巻

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 ここから第2章:「守備練習」編がスタートします。そして節目の第30話に到達。ファンのみなさんこれからもよろしくお願いします。
  キーンコーンカーンコーン…………。
 「気をつけーー!礼!」


 ここはあさひポケ中学校1年2組の教室。たった今、朝のホームルームが終わったところである。学級委員になったコアルヒーの号令に合わせて他のみんなも、担任のキュウコン監督…………じゃないキュウコン先生に礼をする。


 「本当にカゲっちには参るわ。いきなり遅刻だなんて、気が緩んでるにもほどがあるわよ」
 「だからゴメンってば。次から気をつけるよ…………」
 「本当に?信用出来ないわね………」
 「だったらいいよ…………」


 1時間目の授業前の休み時間、チコっちはまだ今朝のことで機嫌を損ねていた。ちょうど自分の前の席なので声はかけやすい。しかしその表情はムスッとした感じのもので、やり取りをしても全然それが解消される様子も見られない。さすがの僕も根負けしてしまう。


 (本当女子ってめんどくさいなぁ………。話すら聞こうともしないや………。まぁいいや)


 結論としてしばらくの間、僕はチコっちのことを放っておくことにした。自分の悪さは認めるけど、ずっと謝ってばかりのこの状況じゃ僕だってストレスたまってきてしまう。それならもう嫌われたっていいや。幼なじみってこと気にしないで接することにしよう。この後気をつけて行動していけばいい。なんだか腑に落ちないし、そばで心配そうな表情をしているピカっちには可哀想かもしれないけど。今はこれ以上話し合いをするだけ無駄なような気がする。


 (ピカっちは争いが苦手だからなぁ………)


  キーンコーンカーンコーン…………
 (あ、チャイム鳴った。授業が始まる………)


 この音に合わせてガヤガヤしていた2組の教室もピタッと静かになった。今日の1時間目の授業は理科。教科担任のパッチール先生が教室の中に入ってくると、何だか妙な緊張感を覚えた。しかし、先生の一言でそれも簡単に消えてしまう。


 「はじめましてぇ~♪ぼくはぁ~、パッチール先生だよぅ~♪ちなみに言っとくけど~、ぼくはぁ~、理科教師歴15年♪」
 《ゲッ!!》


 その何と表現していいのかわからないけど、とにかく普通じゃないテンションだってことだけは理解できた。しかも千鳥足でフラフラしながらの発言である。ますます危うさを感じたのはきっと僕だけではない。


 「早速今日はぁ~♪他の授業でも~♪やってると思うんだけどぉ~♪授業の進め方、教えちゃうよぉ~♪」
 「!!」


 先生はそのように言うと、くるっと一回転。と、それと同時にバサッとプリントを教室全体にばらまいたのである。それにもビックリしてしまったが、クラスメイト15匹分のそれぞれの席に届いたことに更に度肝を抜かされてしまった。何と言うか、もう訳がわからない。


 「理科の実験はぁ~♪楽しいよぉ~♪理科の実験はぁ~♪不思議な世界だよぉ~♪みんなワクワクしちゃうよぉ~♪」
 「……………」
 「はい、みんなも続けて~♪」
 『え゛!?』


 くるっと一回転するパッチール先生の一言に、クラスメイトのみんなが驚いてしまう。いわゆるドン引き?理科の授業とはおおよそ思えない気まずい雰囲気になってきた。これから先が不安である。


 「何だか個性的なキャラクターだったわね。あの先生」
 「結局ひとりでずっと踊り続けちゃったもんね………」
 「僕、何だか疲れちゃったよ………ハハハ」


 1時間目の授業後、僕たち仲良し3匹組は再びお喋りをしていた。今朝の僕の寝坊事件のことが消えた訳じゃないけど、こうして話をするのは嫌いではない。何よりさっきと違ってピカっちがホッとしたような表情を見せてくれている。これで良いんだ。


 「そういえば、朝練で言われたわ」
 『え?何を?』


 チコっちの言葉に僕とピカっちは少し不思議そうな表情をする。


 「私たちのポジションのことよ。今日は守備練習がメインになるらしいの。本当は朝練の時点で相談して決めたかったらしいけど、ほら………カゲっちが寝坊した関係でピカっちも遅れちゃったでしょ?だから放課後に改めて決めるってシャズ先輩が言っていたわ」
 「そうなんだ…………」
 「みんなに悪いことしてしまったなぁ」
 「そういうこと。だから私もうるさく言うのよ。カゲっちは嫌な想いするかも知れないけどね」


 チコっちの言葉に僕は何も言えなくなる。そして彼女に申し訳ない気持ちが生まれる。何も知らずに彼女の話なんてほっとこうなんて考えてしまったのだから。


 (本当に守られてばっかりだな、僕)


 僕は自分が不甲斐なく感じた。昔はこんなことなかった。あんなことさえ無ければこんな惨めな気持ちにならなくても済んだのに。


 2時間目の授業は数学。自業自得だったとはいえ、昨日の授業ですっかりピクシー先生の恐ろしさが身に染みてしまった僕は、他のみんなよりも緊張感が強かったと思う。あまりにガチガチになりすぎて、隣の席に座っているピカっちに心配されてしまうくらいだった。おかげで授業の内容もほとんど頭の中に入って来なかった。


 「ふぇ~。疲れたぁ…………」
 「お疲れ様。あんまり無茶しないでね?」
 「ありがとう」


 授業の終了を知らせるチャイムが鳴り、ピクシー先生が出ていくのを見ると、僕はすぐに机に附した。ピカっちが苦笑いをしている。まだ午前の授業すら終わって無いのに、なんだか1日分の疲れを感じている。緊張感で喉もからからだったので、一旦教室の外へ出て水飲み場で“おいしいみず”を飲むことにした。ちょうど中休みの時間だし。








 中休みってことだけあって、廊下は他のクラスや学年の生徒たちも多かった。賑やかな会話もするし、時折やんちゃな生徒たちが走り回ってるかと思えば、それを注意する先生の姿もいる。僕にはその全ての光景がなんだか羨ましくてたまらない。良かれ悪かれ、みんな学校生活を楽しんでるような気がしたからだ。


  ゴクッゴクッゴクッゴクッ。
 「ぷはぁ~。冷たい………!!さすがにこの時期はまだこんな感じだよね、どこも」


 僕は水飲み場でこんな風にぶつぶつと一人言をつぶやく。僕たちの世界、「ポケモン・カントリー」では各地の町の至るところにキレイな地下水が湧き出ている。そういう場所を利用して公園やお店、学校、ポケモンセンターなどの施設を作っているわけだ。単なる飲料水なのだが、僕たちポケモンの疲労回復の効果もあった。そのため、あれほどクタクタだった僕もたちまち元気になった。


 「よし、次の授業も頑張らなくちゃね………」


 気分がスッキリした僕は教室の方へ戻る。


 (さて、どうしようかな?チコっちとピカっちは一緒にまた中庭の花壇に行くって言ってたし。その間ただ何もせずにボーッとするの、もったいないもんなぁ)


 今日も気持ちいい天気。少し日なたぼっこでもしながら寝ようかって僕は決める。そうなったら自然と足取りは軽くなっていった。…………と、その時である。


 「あれ、カゲっちじゃん。お前も暇してるのか?こんなところでブラブラしてるところ見ると」
 「マーポ…………」


 そんな感じで僕に声をかけてきたのはマーポだった。ニヒッとした感じでポンポンと肩を叩いてくる。なぜだかそれに僕は安心感を感じる。それもそのはず、彼が中学生になって初めての友達なのだから。朝練のときに聞いてみたけど、彼は3組らしい。リオも同じクラスみたいだ。


 「どうしたんだよ?そんなキョトンとして。まさか昨日のこととか、朝のこととか気にしてんのか?」
 「ま、まぁ………そうだね」


 いきなり声をかけられてちょっと僕は動揺していた。そのせいでぎこちない返事となってしまう。一方でマーポは大きく笑って嬉しそうに僕と話をしてくれた。あまり根に持たない性格なのだろうか?昨日や今朝のカリカリとした雰囲気はそこには感じられない。


 (いや、野球の事から離れてるときってこんな感じなのかもね。あんなに熱心に練習してるんだから)


 思えば「あの事件」から僕には一人の友人も出来なかった。僕自身も無意識なうちに避けていたこともあったけど。しかも彼の場合、ただの友人としてではなく「お前はオレの仲間なんだ」と、自分のことをもっと強い絆で結ぼうとしてくれている。だからこそ、余計に安心感を感じてるのかもしれない。


 「よそよそしくしてるなって。大丈夫だ。オレはいじめだとか、“友情”とか“仲間”という言葉を借りて相手を無理っくり丸め込もうなんて考えてないからよ。そんなんで友人作ったって楽しくないしな!!」
 「そう…………」
 「信用してないだろ?」
 「今すぐには難しいよ。だからと言って僕もマーポのことを疑ったりしないよ。君が悪い人じゃないってことは昨日わかったし」
 「じゃあ信用しろよ。めんどくせぇ………」


 僕とマーポはそんな奇妙な会話をする。多分お互いに本来したかった会話の内容ではないだろう。どこに話の結論を持ってくれば良いのかわからなくなってきた。なので僕の方から思いきって彼に伝えようと決めた。


 「お願いマーポ。僕の気持ち、聞いてほしいんだ」
 「なんだ?言ってみろ」
 「待ってて欲しいんだよね」
 「は?どういう意味だよ?」


 僕の言葉を聞いてマーポが眉間にシワを寄せる。怒らせてしまったかも知れない…………と、僕は一瞬焦る。しかしここで怯むわけにはいかない。動揺する気持ちを振りほどいて話を続けた。


 「…………正直なところ、僕はちょっとまだ落ち着かない部分がある。特に野球部の事がね。今まで挑戦したこと無い分野の事だし、きっとまだまだみんなに迷惑かけてしまうと思うんだ。だからそうならない為にもしばらく考える時間が欲しい……………」
 「言っている意味がわかんねぇ!」
 「!?」
 「よくわかんねぇけど…………ハハ。まあ良いや。お前はお前なりになんか必死になってるんだなって事にしとくさ。でもよ忘れるなよ?」


 僕の言葉に苦笑いをしていたマーポ。そんな彼が最後に言った言葉…………それは。


 「あんまり頑張りすぎて自分潰すなよ?今朝チコっちに聞いたけど、お前…………なんか一瞬に過ぎない過去に振り回されてんだろ?」
 「聞いたの?」
 「まあな。暇だったし。それを振りほどこうと頑張ること自体は否定しないけど、何でも頑張れば良いって問題でもないからな?」
 「うん、そうだね…………ありがとう」
 「んじゃな。どっかでみんなで遊びに行けたら良いな!」


 マーポはちょっぴり熱さのある温かいメッセージを残して、自分の教室へと帰っていった。


 「あんまり頑張りすぎて自分潰すな………か」


 とぼとぼと廊下を歩く僕。マーポから受け取った言葉をつぶやきながら。


 (そんなこと出来るならそうしたいよ…………。僕が一番わかってるもん。無理はいけないというのは…………。でも…………)


 今の自分にはそんな選択肢は存在しない。理由は簡単だ。目の前に目標が出来たのだから。それにどんなときでも味方でいてくれた“彼女”の……………昨日のあの言葉を聞いたら頑張らない方がおかしい。


 (マーポには悪いけど、やっぱり頑張ることにしよう。せっかく見つけたやりがいだし)


 “彼女”だけの為に動くのはおかしいと思われるかもしれない。でも、今の自分にとって一番の心の支えになってるもの…………それは“彼女”の言葉。だからこそ一番実行してあげないといけないと…………なぜかそのように感じる僕がいた。






   キーンコーンカーンコーン…………
 (危ない危ない、もう少しで授業に間に合わなくなるところだったよ………)


 せっかく疲れを癒したというのに無意味だった。むしろ先にピカっちとチコっちの方が戻ってきていて、「どこに行っていたの?」と心配される始末。情けない。


 (でも気を取り直していかないとね。さ、頑張ろう)


 3時間目の授業は国語だ。教科担任はキュウコン先生。理科のパッチール先生や数学のピクシー先生と違って、特に表情が変化することも無く教科書を読んだり、板書したりと淡々と授業は進む。昨日の野球部での様子もそうだったけど、本当にキュウコン先生は物静かなイメージが強かった。


 (それでいて野球部の先輩に慕われてるほど、周りのことを思いやるような行動をするなんて………何だか凄いな)


 僕は授業を受けながらそんなことを考える。「先生だからそれくらい当然だろう。子供に大人の事情の何がわかるんだよ」と言われてしまうかもしれない。でもいくら部員たちの為とはいえ、自らの体力を犠牲にする“みがわり”を発動させてまで活動をサポートするなんて…………、本気で他人を想いやっていないと難しいだろうな……………なんて思うばかりだった。


 (やっぱりそれも“仲間”だからって理由だからなのかな。みんなよくそこまで見ず知らずの他人に頑張れるよ。いつ自分が相手から捨てられるかもわからないのに。マーポもきっと“仲間”だからって、たったその一言で済まそうとしてる感じがする。はぁ…………なんだかよくわからないや…………)


 授業以外のことを考えると疲れてくる。僕自身“仲間”という言葉の響きを、この時点ではかなり敬遠していた。理由はもはや言わなくてもわかると思う。


 (本当に…………本当にあんなことが無ければ今ごろきっと…………、こんな風にならないで済んだのに)


 教科書を広げながら難しい顔をして、過去の自分の身に起きた出来事と“仲間”という言葉をリンクさせる。…………そうしていくうちにだんだんと頭の中がこんがらってきた。ちゃんと授業の内容が頭の中に入ってるか心配になってきた。でも、それほど僕には納得出来ないものもあるということなのだろう。


 (そんな気分を吹き飛ばしたいな。またいつかちゃんと“仲間”とか“友達”とか、そういう言葉を実感できる日が来るといいな………)



 そのあと時間は淡々と進む。さすがに昼休みのあとの午後の授業は眠たく感じたけど、それもなんとか乗り切る。その過程でだんだんと先程の気持ちは消えていた。最後に帰りのホームルームでキュウコン先生から連絡事項を聞いていた頃には、気持ちはすでに部活の方に向いていた。昨日には無かったワクワク感である。


  キーンコーンカーンコーン………。
 「気を付けーーーー!!礼!」


 コアルヒーの号令に合わせて、僕たち1年2組のメンバーが頭を下げた。こうして火曜日となった今日1日の学校生活が終わった。しかし放課後とは言え、まだ部活動を決めてないクラスメイトはこれからまた見学をすることになる。そんなこともあってか、必ずしも嬉しい反応ばかりとは限らなかった。


 「よーーし!!頑張るぞー!!」
 「待ってよ、カゲっちくん!!」
 「そうよ!レディたちを置いていくつもり!?」
 「だけど、元気なのは良いぜ!」


 そんななか僕は足早に野球部のグラウンドに向かう。途中でマーポとリオとも合流した。なぜだかわからないが気持ちは晴れ晴れとしている。不思議だ。不安な気持ちが完全に途切れた訳じゃないのに。気づいたらみんなを置いてきぼりにしている。


 「そう言えば、朝練で野球部に入部したいって子がいたわね?」
 「え!?そうなの?」
 「誰だったっけ?確か………」
 「1組の“ロビー”くんよ。ツタージャの。マーポにも丁寧に挨拶してたじゃん」


 僕を追うのを諦めた4匹は、そんな会話をしていた……………。
 
 
 





 本来的には5月5日(火)更新予定だったので16日遅れになりますね。遅れを少しでも取り戻せるようにがんばります。応援よろしくお願いします。

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