File 11 -運命の氷解-

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読了時間目安:16分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 えっこたちは翌朝を迎え、空港のメインターミナルへと足を踏み入れる。模倣体とメディオキュールの関係性の手がかりを探す彼らの前に、驚くべき人物が姿を現す。
 翌朝8時半、えっこたちはターミナル4の建屋内に設けられたカフェテリアで朝食を取っていた。といっても、ネクタールジュースにネクタールシチューにネクタールの塩漬けにネクタールのサラダ、全てがネクタールによって構成されたネクタール尽くしのフルコースのようだ。


「えっこー、ちゃんと食べないと後でフラフラになっちゃうよ? せっかくサーチャーならネクタール食べ放題サービスなんだし、食べなきゃ損損!!」
「うー……よくこの気色悪くて青臭い代物を、こんな温めた状態で食べられますね……。臭みが熱で悪化して、最早腐敗臭みたいに感じられるんですが……。」

「この香りがいいのにー、えっこの舌ってまだまだお子ちゃまだなー。私はもう一回全部のメニュー取ってこよっかなー。」
「本当よく食うよなコイツ……またデブるぞ。」

スィフルはユヅキが席を外したタイミングを見計らい、えっこにこっそりとそのように告げた。えっこはというと、Complusにたくさん忍ばせて持って来ていたドライトマトを齧っていたが、やがて観念してネクタールジュースに大量の砂糖を入れ、無理やり風味をごまかして飲み込み、腹の足しにしていた。

腹ごしらえが済んだ一行はターミナル4を出発し、メインターミナルがある方向へと足を進めていった。


「こっからターミナル3までは約3kmか……。滑走路やターミナル間には模倣体は出ねぇだろうけど、あっちのターミナルまで入ったら危険区域だからな、常に最警戒を怠らず進まなきゃならねぇ。」
「ターミナルの内部図はみんなデバイス内に放り込んであるよね? ターミナル3のD8搭乗口から建物内部に侵入して、外周をぐるっと回る形で探りを入れようか。あまり奥まで入ると危険だからね。いつでも撤退できるような状態にしとかないとだ。」

「何か有力な収穫が得られるといいのですが……。今の俺たちが自分から起こせるアクションはこれくらいなんだ、この探検こそが細いながらも可能性が最も高い一手……。ユヅキさん、スィフルさん、どうかお力添えをよろしくお願いします。」

えっこはターミナルビルを見つめて思いを馳せる。この世界を抜け出してローレルの待つ場所へと帰るため、できる限りのことを尽くしたい彼にとっては、現状では模倣体と接触する機会を増やすことのみが、自分から起こすことができる最良のアクションだ。だからこそ彼は神にも祈る思いでこの探検に臨む。

もっともその願いは神どころか、更に巨大な宿命の戦いへの序章へと通じているという事実は、今のえっこにとっては知る由もないことだった。









 「着いたぜ、ここがターミナル3だな。さっき地図で見た通り、同じ大きさのターミナルがY字を形作る陣形で中央から外に伸びてる。各ターミナルからは両側に搭乗口が出ていて、乗り捨てられた飛行機もいくらか残ってる。とはいっても、俺たちはトレジャーハンターとかじゃねぇから、航空機の貨物やら何やらには用はないんだがな。」
「1階搭乗口になってるD8搭乗口から内部へ入り、階段で2階通路へ。そして2階の外周を伝って各ターミナルで模倣体を探る、そんな算段でしたね?」

「だね、例の変な液体を持ってる模倣体が出てくれるといいんだけどね……。ううん、大丈夫だよ、きっと手がかりが掴める。だから頑張ろ、えっこ!! 私たちも全力を尽くすからさ!!」

ユヅキに励まされるようにして、えっこたちはターミナルの内部へと潜入していった。建物内部はかなり長い間放置されていたのか、半ば朽ち果てたような状態になっており、ホコリの積もったタイルの床に壊れた椅子やソファが並んでおり、便名などを表示していたであろうスクリーンも割れて真っ黒になっていた。

えっこたちは階段で2階の出発フロアへと上がっていき、止まってしまった動く歩道を尻目にしてターミナルを進んでいく。模倣体の巣窟と聞いていた割には誰一人いないような静まり返った建物に、えっこたちが歩く足音だけがかすかに響いている。


「妙ですね……てっきり模倣体に囲まれて大忙しになるものだと予想していたのですが……。本当にここは模倣体の巣なんでしょうか?」
「らしいけどな。俺も初めて訪れたから普段がどうなのかは分からねぇが、それにしても聞いていたのとは全然違う感じだぜ……。こんだけ何もないと、かえってどこか不気味だな……。」

「ありゃりゃ……ターミナルの分岐点まで来ちゃったね……。仕方ない、次はターミナル2に探りを入れてみよっか。」

ユヅキに促されたえっこたちは、続いてターミナル2の探索へと乗り出す。搭乗口が立ち並ぶ出発フロアを抜け、本来ならば立ち入りが制限されていたであろう到着エリアに足を進める。監視する空港職員がいないために、出発フロアも到着フロアも行き来し放題だ。


「このターミナルには屋上の展望デッキもあるのか……。このままシラミ潰しに歩いてても埒が明かねぇし、取り敢えず展望デッキに出て、何か怪しそうなとこがないか見渡して探さねぇか?」
「アンタにしちゃ冴えてるじゃん、それで決まりだね!! 展望デッキに行こうよえっこ。」

こうして一同は、到着フロアから動かなくなり錆び付いているエスカレータを階段の如く踏みしめ、5階の展望デッキへと上がっていった。昨日の午前中まで空を覆っていた暗雲も少なくなり、明るい曇り空からはかすかに日の光も差し込んでいる様子だ。


「それにしても、結構な数の旅客機が放置してあるんですね……。そりゃ疫病が流行れば飛べる便も限られてくるから、飛行機を空港にキープせざるを得ないか……。」
「それにしても静まり返ってるね……。まさか模倣体も定休日……!? んな訳ないよね。」

「冗談じゃねぇ、夜分遅くにズカズカと乗り込んできやがった連中だぜ? 労働基準法もクソもねぇブラック野郎共じゃねぇのか?」

そんな会話を続けながら滑走路やターミナルを眺めるえっこたち。えっこは何者かの気配を感じた気がし、ふと後ろを振り返った。


「なっ……!! お、お前まさかっ……!!」
「何何!? まさか模倣体が出たの!? ってえ……?」

顔を強張らせるえっこと、呆気に取られた表情を見せるユヅキ。果たしてその目の前に現れた者は……?








 ところ変わって、ここはアーク市庁舎内部にある喫茶店。レトロな木造内装と大きな柱時計に、ふかふかのソファとガラス細工が施されたテーブルが並ぶこの店では、コーヒーもお茶もケーキも、街中にある普通のカフェの3倍はするだろうか。

お茶やお菓子を買うというよりも贅沢なスペースで過ごす時間を買える場所、そんな高級な憩いの場で、何やら話し込んでいるグループがいた。


「ふー、久々だねー。君たちも相変わらずって感じで僕も嬉しいよ。それとこのカフェの貸し切りもありがとう。ギルドや市庁舎の会議室でもよかったっちゃよかったけど、せっかく3匹揃うんだしって思ってね。」
「ま、あのクッソシケた会議室に放り込まれるよりゃ、私も楽ってもんよのぉ。ここのソファはガチで病みつきになる座り心地してっからな。」

「それよりも本題に移ろう。プルヌスがえっこ君やユヅキさんから受け取ったこの液体……。メディオキュールと名付けられたこの代物についてだが……。」

プルヌスに加え、サーチャーギルドマスターのプクリン・レヒトと、アークの総統であるヨノワール・エクトルが相見える。彼らは全員古くからの知り合いらしく、メディオキュールに関して話し合うためにこの場を用意したようだ。


「てな訳な、おかしいだろ? 普通に考えてあのアホったれの模倣体がこんなもん持ってる訳ねぇじゃん、それが現実として見つかった訳よ、こりゃどう考えても背後に何かいると思うんよ。」
「だね……。プルヌスの言う通り、模倣体がそんなオーバーテクノロジーじみた物を作れるはずがない……。だとしたら模倣体は何者かの手駒なのか? 誰かが陰で操っているということか……。」

「だがレヒトのところのサーチャーたちが、これと同じ物を発見したという報告は他に1件もないのだろう? 極めてレアなケース……しかし出てきた物が物だけに、見て見ぬふりを決め込むべきではない……。一体どうすれば……。」

一同は再び沈黙の最中へと戻っていく。彼らにとっても前代未聞とも言える事象らしく、誰もが頭を抱えて考え込んでいる。議論はすぐに結論に辿り着きそうにはない。


「それにしても、私にはこれが偶然とは思えねぇ……。私は科学者だ、だから根拠がなく証明できん憶測に現を抜かしたりなんかしねぇ。でも、何となく感じるんだよな……。どこか見えねぇとこで、えっことかいう元人間の異世界から来たポケモンが現れたことと、今回のメディオキュールとが結び付いてる気がしてよ。」
「確かに、現状では因果関係を立証することも否定することもできない……。でも僕もプルヌスの考えに頷けるかも知れない。何となく、感じたんだよ……彼から滲み出てくる気配がね。きっとこのポケモンは、何か大きな運命の転換をもたらすのだと、そんな気さえした。」

プルヌスやレヒトは、えっこの特異性に関してそのように口を揃えて語った。えっこがこちらの世界にやって来たことと、メディオキュールの発見とがどこかで結び付いているのではないかと推測したようだ。


「お前……!? 何でここにいるんだ、間違いない、その姿は……!!」
「えっこ、どうしたの突然!? 知り合い? というか、人間だよねこれ……歴史の教科書に載ってるのを見たことがある……。」

「逆に言えば、現実じゃ初めてだぜ。というか、絶滅したと思ってたんだがな。えっこ、この人間は何者なんだ?」
「……創世主。何故お前がこの世界に、そして夢の中ではなく現実に姿を見せているんだ……? 答えてもらおうか!?」

そう、えっこの目の前に姿を見せたのは、彼やローゼンやシグレ、ローレルの前に度々姿を現した白き少女・創世主だった。しかしこの場所は夢などではなく、紛れもなく現実に存在する空港跡地だ。白髪に透き通るような氷を思わせる膚を持つ少女は、ふわりとその場に舞い降りてみせた。


「それを語ることは出来ません。今ここにいる私は、どちらかといえばあなたたちの敵となる存在なのですから。」
「創世主とか言ってたよな? 奴は一体何者なんだよ?」

「俺や他の人間たちを、あちらの世界のアークに飛ばした張本人ですよ。そして俺たちが敵対していた勢力とも関係があった……。奴の言う通り、倒すべき敵と見なした方がいいのでしょうね。」
「まー何でもいいよ。重要なのは、ぶっ飛ばすかぶっ飛ばさないか、それだけなんだからね。」

既にえっこたちとは敵対する立場にあると語る創世主に対して、ユヅキとスィフルは鋭い眼光を飛ばして臨戦態勢を見せていた。創世主はそんな彼らの状態には目もくれずに、続けてえっこに語りかける。


「えっこ……あなたがこの世界にやって来たということは、私が次に倒すべき相手はあなたということになる……。最も危険で、最も厄介な相手なのだから。」
「訳の分からんことを……!! やはりあの巨大なレギオンをアークに送り込んで来たのもお前って訳だな!? あれのせいでローゼンさんは…………落とし前はきっちり付けさせてもらう!!」

「ええ、そうですとも。ローゼンはいち早く私の居場所と正体を見抜いていた。故に最も危険で、早急に潰す必要があった。最大の切り札を失う羽目にはなりましたが、彼を始末するという絶大な収穫を得ることができた。」
「お前……よくも…………!! 絶対に許さねぇ……。創世主だろうが何だろうが、必ずぶちのめしてやる……!!」

完全に怒り心頭の様子で創世主を睨み付けるえっこを遮るように、ユヅキの大きな背中が目の前に飛び出した。


「待ちなよえっこ。よく分からないけど、頭に血が上った状態はよろしくないよ。それに君の敵は、私やスィフルの敵だからね。ぶっ倒すなら力を貸すよ。それで文句ないよね、創世主さん?」
「ええもちろん。ユヅキ、あなたもまた早めに潰しておきたい存在……。えっこと共に消し去れれば、これ以上美味しい話はありませんからね。」

「アンタみたいな透かした奴に狙われる筋合いはないんだけど、そんなのどっちでもいいよ。何かムカつくから叩き潰す、それだけのお話。」

何故かユヅキも優先して倒すべき相手だと告げる創世主。ユヅキも冷めてはいるが、鋭く刺すような目つきを相手に向けている。


「あのー、俺は仲間外れなんかね? 勝手に話進められるとすげぇ腹立つんだけど。」
「ご心配なく、えっこやユヅキの味方をするならば、ついでですからお相手して消し去ることとしますよ。」

「ほぉー、そりゃ嬉しいねぇ。もっとも、俺に喧嘩売ってくたばることになるのは、てめぇの方なんだがな。」

スィフルも殺気立った様子で地面にツバを吐いて、創世主を見つめていた。誰もが戦闘態勢に入っており、まさに一触即発といえる状況だ。


「最後に1つだけ。もしもこの戦いに生き延びて勝てたならば、地上の街にある『総合ホール』へと来なさい。そこがあなたたちの進むべき場所……次の道標なのだから。」
「どうせてめぇの言うことだ、俺たちを罠にハメるための嘘だろそんなの!! えっこ、騙されんじゃねぇぞ。コイツの言うことは間違いなく俺たちへと向けられた地雷だろうならな!!」

「いえ、恐らくそこが次に向かうべき道となる……。コイツはまだゲームを楽しむ気です。考えてもみてください、自分の正体や目的を探り当てた強力なプレイヤーを消し去り、創世主というゲームマスターの独断場が再び訪れた。そして今こうして、わざわざ自分から出向いて俺たちに姿を見せた。ご丁寧にいくつもの重要な情報を引っ提げてね。」

えっこはスィフルと違い、創世主が自分たちに正しいヒントを与えているのだと推測しているようだ。


「1つ、何でかは分からないが、ユヅキさんも奴にとって目障りな存在であること。」
「身に覚えはないんだけどね……ま、コイツが仮に全てを知っているゲームマスターなら、そうなんだろうね。」

「2つ、この世界と俺が元いた世界との接点ができたこと。カラクリは分からないけれど、創世主はあちらとこちら、両方の世界に自由に干渉できるようです。そして他ならない俺自身も、向こうの世界とこっちの世界の境界線を踏み越え、こうして今この場所にいる。それなら、必ず再びあちらの世界へ渡る手段があるはず……!!」

ユヅキがえっこと並び、創世主にとって厄介な存在であるのだと、彼女自身がわざわざえっこたちに向けて伝えてきた。この情報の確実さは非常に堅いものと思われる。同時にえっこと創世主、2人の存在が接点となり、えっこが元いた世界とユヅキたちの住む世界が重なり合って接している。えっこはそのように予想したようだ。


「さてと、レギオンを呼び出してくるか? それがお前らのいつものやり口だもんな?」
「レギオン? そんなものはこの世界には存在しませんからね、この世界ではこの世界に蔓延る手駒を利用させてもらう、それだけのこと。」

「この世界の手駒……まさかっ!!」

えっこがそう叫んだ瞬間、一同を貫くようにビリリと強い振動が襲った。模倣体の襲来を知らせてくれる音波の振動が、今回は普段の何倍にも強く感じられる。


「ふう……ノイズディテクタの自動ロック機能が掛かったか。これでノイズにやられることはねぇが……問題はこのノイズの持ち主だよな?」
「うん……コイツ、普通の個体より明らかに巨大だね……。気を抜いたらやられかねない……!!」

ユヅキたちの前に舞い降りた巨大なエアームドは、その体高が7m程はあるように感じられる。通常個体より3.5倍は大きいと思われるこの模倣体を相手に、えっこたちは武器を手に取り戦いを挑む。


(To be continued... )

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