第31話 Time will tell

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「あっ......来た!」
 
 今までに無かった足音を聴き、村の出口前で待っていたのか、ユキハミが唐突に声を上げる。 ふっと息を吸い、全力で叫んだ。
 
 「長老様ー! みんなー! 帰ってきたよー!!」
 「......なんだユキハミ......って、帰ったのか?」
 「おーどうした」
 
 ぞろぞろと村のポケモンが集まって来るのと、ユズ達が辿り着くのはほぼ同時。 おかえりという声がわんさか飛んでくる。
 一方、当事者達は。
 
 
 
 
 
 「......えっと......」
 「こんな大がかりに迎えてくれるもんなのこの村って」
 「まあ普段は何も無い静かな村ですし......」
 「もっとも、俺達の世代は誰として山に向かわなかったからな」
 
 嬉しさと困惑。 大きいのはどちらの方だろうか......。
 予想外の盛り上がりに驚く2匹+aの前に、てけてけとユキハミが躍り出て来る。
 
 「あっ! ユキハミちゃん......ただいまー!」
 「おかえりなさい!どうでした!? 探検の方は!」
 「そりゃもう万事順調に!」
 「万事というわけではないけど......まあ、結果は良かったよ」
 「ふわあ......良かったです!」
 
 ユキハミはその場でぴょんぴょん跳ねる。 それほど待ってくれていたのだろうか。 ......かわいい。 とてつもなくかわいい。 ぎゅーっとハグしてあげたい。
 ユズとキラリは妙な威圧を持ちユキハミに忍び寄る。 ......が、それは1つの声により制止された。
 
 「どうしたお主ら......お、帰ってきたのか」
 「あっ、長老さん!」
 
 キラリが叫ぶ方向には、長老が立っていた。 片手を後ろに回し、杖を携えていることから、まだ腰が完全に治ったわけではないだろうけれど。

 「ひとまず、悪い結果ではなさそうだな ......成果の方は?」
 「無事頂上まで行けましたよ。 色々と情報も得られたので、それは後程、落ち着いて話します」
 「了解した」
 
 長老は1つ咳払いをする。 老ポケの咳というのはやはり誰もが心配してしまうものだが、それはどうやら杞憂のようだ。 村のポケモン全員に向かって、優しく言う。
 
 「......折角だ。 たまには皆で外で夕飯を食べないか? 語らいの時は、心を癒すものだ。
 特に4匹。 よくぞ無事に帰ってきてくれた。 今日はゆっくり、良い夜を過ごすと良い」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「はい、どうぞ」
 「ありがとうございます!」
 
 ご飯を作っていると、あっという間に夜になる。 そしてご飯はまさかの2夜連続カブのポタージュ。 特産とはいえなんでこんなにも食べるのか。 ......しかし、断るのは相手にも料理にも失礼だし、美味しいこともあり2匹は口をつぐんだ。
 
 『いただきまーす!』
 
 ......やはり温かく美味しい。 やはり作るポケモンによって味というのは異なるものだが、それでも美味しい。 今まで見た中でも最も賑やかな村の様子を眺めながら、2匹はそれを胃袋に収めていった。
 殺伐とした村のイメージは、一気に塗り変えられる。 こちらへの露骨な殺意は何処へやら、皆此方など気にせずにそれぞれの友と楽しく話していた。 仕事仲間らしきポケモンや、井戸端会議をする奥様方。 そして何より、キャッキャと明るく騒ぐ子供達。 どこか、オニユリタウンの街角の賑わいを思い起こさせた。 距離は離れているというのに......ポケモンの本質というのは、たとえ遠く離れていようとそう変わらないものなのだろう。
 
 「......あっ、ユズあれ、ジュリさんじゃない?」
 「本当だ。 囲まれてる?」
 
 見詰める先にあるのは、多くの子供に囲まれる彼の姿だ。 正直2匹にとっては意外でしかなかった。 彼のことだから、普段から1匹狼気質なものであると考えていた。
 だけど、彼は子供達の声に耳を澄ましている。 時折、少し微笑んで、その羽で優しく頭を撫でている。 その顔は、どこか悲しさも帯びているようであるけれど。
 
 「......あんな風に、笑うんだなぁ......」
 
 ボソリとキラリは呟く。 恐らく、自分達には絶対に見せない顔だろう。 見せてくれと望む気は勿論無い。 望んだところで断ると一蹴されるだけだ。 しかし、周りに群がる子供達に向ける優しさを見てしまうと、どうもあの純粋な子供達が羨ましく思えて仕方がなかった。 口元の空気が揺れると共に、ポタージュの湯気も、ゆらりと揺れる。
 
 
 「......お主ら、くつろいでおるか?」
 「あっ、長老さん......ケイジュさんも」
 「どうも」
 
 難しい話は終えたのか、長老とケイジュが2匹の方に近寄ってくる。 長老は隣失礼するぞとだけ断って、ケイジュはぺこりと一礼して。 ゆっくり彼らはベンチに腰をかけた。 長老がポケモン達を見つめるその眼は、どこか聖母のような柔らかさ、包容力を感じさせた。
 
 「......お主らに先に謝らねばならない。 すまなかったな」
 「えっ......?」
 「詳細はケイジュから聞いた。 道中でお主らを襲った試練のこともな......この村の過去のことだ。 奴の気持ちを考えて、言わん方がいいと思っていたが......少しは伝えておくべきだった。 長老として情けない」
 「......長老」
 
 決心したかのように、長老は口を開いた。
 
 「......奴に対しては。 いや、我以外の住民全員にこの話は出すな」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ......少しの沈黙が流れる。 周りの喋り声がやけに大きく聞こえる。 キラリは思わず周りを見渡してみた。 ユズも、やり場のない気持ちを逃すように前足に力を込める。
 この村の大人全員が、そんな酷い経験をしているのかと。 そう思うと、笑っているポケモンにどこか影が浮かぶ。 ジュリだけに限った話ではなかった。 それがどうしようもなく悲しく感じてしまうーー
 そんな時、長老は声のトーンを1つ下げて威圧をかけてきた。
 
 「言っておくが、半端な共感をするのは絶対に認めない。 こちらの受けた理不尽を、余所者に勝手に怖かったねだの、悲しかったねだので済まされるいわれはない。
 我は出来る限り、お主らに対して寛容でありたい。 悪意が無い事ももう分かり切っているからな。 だがそれだけは許さない」
 
 こちらの感情を読み切ったような長老の言葉に、2匹はぎくりと身体を震わせる。
 別に怖がらせる気はなかったのか、彼はすぐにフォローに入った。
 
 「......お主らを責めたところで何も変わらぬ。 もし一瞬思ったとしても構わぬよ。 当然の反応だろう。
 だが、これだけは知って欲しいのだ。 恨みを抱えながら進まねばならないポケモンがいる事。 ドス黒い、泥のような重りを背負い生きるポケモンがいる事。 ......此処にいる大人全員......もしかしたら我も、復讐者に成り果てる可能性を持つ事を」 
 「......復讐者」
 「そうだ。 そして我らはこの恨みを紡ぐべきでは無い。 我らが紡ぐべきは、『恨み』ではなく実際に起こった『悲劇』だ。 ユキハミ達にも、我らの気持ちは分からない。 分かってもらうつもりもない。 あんなもの、繰り返してなるものか。
 だが、我らも変わらねばならぬのだろうな。 少しずつ外との繋がりも増やさねばならぬだろう。 お主らが、余所者にもちゃんとしたポケモンがいるというのを村全体に証明する鍵となった。 ......改めて礼を言おう」
 
 長老は礼をする。 ケイジュも含めて、3匹に対するものであろう。 こそばゆいような、でもまだ心を雲が覆っているような。
 キラリがボソリと、長老に疑問を投げかける。


 「......ねえ、長老さん。 もし、それでも、そんな苦しんでるポケモン達の気持ちをちゃんと知って、寄り添ってあげたいと思うポケモンは......どうするべき?」


 ポタージュのお碗を握り、キラリは口元をきゅっとさせる。
 長老は少し考えて、一言さらっと言った。
 
 「さあな」
 「......やっぱそうかぁ......」
 「長老さん、答えはやはり無いんでしょうか?」
 「それは己で考えるものだ。 若人よ、思考を止めるな。 誰かの言葉も大事だが、最終的には己の言葉で結論を導き出せ」
 
 キラリとユズの頭を、大きな手が覆う。 愚直でありながらも、優しい草の香りの手だった。 その手は、温かさの他に、今の言葉を触覚を通して伝えようとしているような。 そんな気がしてならなかった。
 
 「だから案ずるな。 時が経てば、分かるだろう」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「明日には、帰るんだよね」
 「だよねぇ......みんな元気にしてるかなぁ、懐かしいや」
 「見せてあげないとね、水晶」
 「勿論!」
 
 暫く経って、お開きになった後。
 柔らかい藁布団に頬杖をつきながら、キラリはカバンから水晶を取り出してみる。 少し月明かりに当ててみると......
 
 「あっ......ユズ、ちょびっと虹色になってる」
 「本当だ。 これもまた風情があっていいね......月の光も、太陽の光が反射されたものだし」
 
 水晶は、透明な色合いを残しながらも確かに虹色になる部分があった。 月の光は太陽からの直接の光に比べると拙いためだろう。 昼の強い輝きとはまた違い、どこか朧月夜のような繊細さがあった。 柔らかく、ホロリと崩れてしまいそうな。
 微かに煌く水晶を見つめながら、ユズは呟いた。
 
 「......ねぇキラリ。 みんなの心を明るく照らす探検隊になりたい......そうあなたは言ってたよね」
 「うん」
 「この村に来て思ったけど、それって難しいのかなって......ただ優しさに頼るだけじゃ、意味ないのかなって。
 ......なんだか遠いね。 道のり」
 「そうだねぇ......」
 
 キラリは空を見上げる。 今まで受けてきた言葉に、改めて意識を向けながら。
 空には天の川があった。 小さな星達が群れを成して、美しい光景を生み出している。 それぞれがどんな傷を持っているかは分からないけれど、それでも弱い星というのはやはりある。 だが、その傍らにある月の輝きは、それを全て調和させるには遥かに「元」より弱い。 太陽に至っては、星の原型すらも青のベールで覆ってしまう。 殆どの星々は抵抗なんてしないで、静かにそれに身を委ねる。 強い光を持つ太陽は、全てを抱き締めるのだ。 この水晶も、他に強い光を浴びればそれに釣られて輝きを強めるのだろう。 小さな光を捨てて。
 ......大きな光には及ばないのが、今の自分達の光。 これを象徴しているのが、あの星々、そして、手元で柔く輝く水晶なのだ。
 キラリが、不安げな声で呟く。
 
 「......ねぇ。 光って、なんであんなに、私達の心を癒すんだろうね。
 なんであんなに、明るいんだろうね」
 
 その答えは、今出ることはなかった。
















 朝になる。 用もないのにこれ以上のんびり居座るのもまずそうなため、2匹は早急に荷物を纏めた。 そんな長い間滞在したわけではないのに、どこか寂しさが募った。
 早朝はまだやはり涼しい。 昼になればまた炎天下だろうが、どこか学校に通っていた頃、夏休みが終わる感覚をキラリは感じていた。
 
 「長老さーん......」
 
 そろりと、広間の方に出てみる。 まだ自分の部屋で寝ているのか、そこはがらんとしていた。 一応出て行く事は先に連絡してあったので、迷惑をかける事はないだろうが。
 ジュリやケイジュのところにも直接行こうかと話し合ったが、やめておく事にした。 大人の男性の部屋に勝手に入るのは少し憚られるところがある。

 簡単に感謝をつづった置き手紙をそっとテーブルに置いて、2匹は玄関へと向かった。
 
 『......お世話になりました』
 
 深々と礼をする。 こちらの我儘を何度も聴いてくれたのだ。 感謝はしなければならないだろう、たとえ直接届かなくても。 2匹はそれに加え少し、長老の腰の健康と長寿を祈った。
 
 
 
 真っ直ぐ村の出口へと向かう。 入る時は恐怖、終わる時は清々しさ。 中々面白い変わりっぷりだとユズは笑った。 だが、出る時に聞き覚えのある声が2匹の耳に届く。
 
 「......ユズさん! キラリさん!」
 「ふえ......あっ、ユキハミちゃん!」
 「私もいますよ」
 「ケイジュさんまで!?」
 
 近くの茂みからひょっこり、ユキハミとケイジュが出てくる。 待ち伏せしていたのだろうか。 ......早朝だというのに。
 
 「どうして......」
 「やはり感謝は伝えたいと、昨日の夜にユキハミさんが私に直談判してきたのです。 どうやら長老から今日帰るのを聞いたらしく......私も共に探検した身ですし、行くべきかなと思いまして」
 「共に探検と言うと、ジュリさんは?」
 「聞いてみましたが普通に断られました。 『別れを言う義理はない。 借りももう返したのだからいいだろう、出たい時にさっさと出て行けばいいのだあんな厄介者』......とのことです」
 「借りって......?」
 「さあ......? 正直私も全く」
 「あはは......でも、ジュリさんらしいや」
 
 さあ、と優しい風が来る。 ユズはその風に釣られるように、ケイジュに1つ問うた。
 
 「......ケイジュさん。 私達また、会えますよね?」
 
 ケイジュはこくりと頷き微笑む。 波の立たぬ水面のように、静かな笑顔。
 
 「......ええ。 縁というのが、この世界にはありますからね。 一度出来た縁は、切ろうとしても切ることが出来ない。 必ずまた巡り合う。 そういうものですから」
 「......はい!」
 
 寂しさを吹き飛ばすかのように、ユズは大きく返事をした。
 
 「ユズさん、キラリさん。 街に戻っても頑張って......!」
 「ありがとユキハミちゃん! 素敵な大人になるんだよー! いつか大人になったら、名前教えてくれたら嬉しいな!」
 「もちろんです!」
 「長老も世界を広げたいと仰っていましたし、もしかしたらこちらから貴方達の街に出向くかもしれません。 もしその時が来たら、また」
 「はい! ほんと色々、ありがとうございました! ジュリさんや長老さんにも、よろしくお伝えください!」
 「分かりました、抜かりなく」
 「よし......行こうか、ユズ!」
 「......うん!」
 
 2匹は村に背を向ける。 手を振るケイジュと、手が無いので体を振るユキハミが見えなくなる頃には、日は完全に顔を出していた。
 まだまだ、足りないところがあるのなら。 誰かの気持ちを、分かってやれないというのなら。
 「その時」が来るまで、出来ないなりに足掻いてやるしかないのだろうか。
 2匹はそんなことを考えながら、少しずつ村から離れていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ......伝説。 人間。
 
 もしかして......
 
 いや、まだ早とちりが過ぎる。
 
 まだだ......まだ様子を見た方がいい。
 
 慎重にいかねばならない。 ただでさえ茨の道なのだから。
 
 
 
 
 「その時」が来れば、我らの勝ちだ。

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