主要登場キャラ
・リアル(ピカチュウ)
・ヨゾラ(ツタージャ)
・デリート(イーブイ)
・ソワ(ルンパッパ)
etc.
「アリガトウゴザイマシタ! オカゲサマデ、アリアドスヲ タイホスルコトガ デキマシタ!」
「ゴキョウリョク カンシャシマス! ビビビ……!」
プリンのギルド、ロビーにて。
初めての依頼をこなし、お尋ね者のアリアドスを無事に連れて帰ったリアル達。ギルドにて待っていた保安官のジバコイルとレアコイルに彼を引渡すことが出来た。
警察から派遣されたという二匹の保安官にお礼を言われ、嬉しそうに胸を張るヨゾラとは対照に、縄でキツく縛られたアリアドスは不貞腐れていた。
「ア……ソワサン、コンカイモ アリガトウゴザイマシタ」
リアル達の後ろに控えていたソワに声が掛かる。
「いやいや、これも我々の仕事ですから。それに、今回は初依頼だった彼らを褒めてやってください」
こういう時の、外部のポケモンに対するソワの姿勢はとても丁寧なものだ。いつもの頼りない教官の姿は何処へやら。それにしっかりと若手を立ててくれる。よそ行きの顔はやはりプロを感じさせる。
「リアルサン、ヨゾラサン、デリートサン……アリガトウゴザイマシタ! デハワレワレハ コレデ」
お互いに会釈した後に、ジバコイル達がお尋ね者を引きずって行った。観念したのかされるがままのアリアドス。
彼らの姿が玄関に消え、見えなくなった所で──
「かぁーっ……。これで依頼も無事終了か。良かった良かった」
「良かった良かった、じゃないっ!」
大きく息を吐いたリアルに盛大なツッコミを入れたのはヨゾラだった。
「そうだよ、リアルはまだ寝てなきゃ! 無理して引き渡すまで寝ないって……あんなにフラフラだったんだから!」
「いやぁ……でも……」
デリートまで加勢して、たじろぐリアル。
彼らが怒るのには理由があった。
※
揺籃の洞窟における依頼は、アリアドスとの戦闘を経て完遂された。しかしその戦いの中で、リアルはクロスポイズンを受けて毒を食らってしまったのだ。当時解毒のアイテムを持ち合わせていなかったリアル達はあなぬけのたまを使うことでギルドに帰還、そしてギルドにて治療を受けることとなったのだが……。
「もうモモンのみ食べたし……元気になったぞ?」
大慌てのデリートとヨゾラ、そして意識が少し朦朧とするリアルに、看護としてついたラッキーが渡したものはモモンのみ一つ。
曰く、「それ食べればすぐ治るわよ」と。
あまりに簡単な治療に呆気に取られたデリート達だったが、まあ実際に毒はその木の実一つで抜けた。
それに加えてリアルとしては、初依頼なのだからお尋ね者を引き渡すまでしっかり成し遂げたかったのだ。その為、まだ休んだほうがいいと反対する二匹を押しのけてロビーで保安官に引渡しを行った。
「それでもまだ完治してないでしょ! 休んでなよ!」
「そんなこと……とっ」
反論しようとしたリアルの視界がブレる。
足の力が一瞬抜けてしまいバランスを崩してしまった。
「ほら! まだふらついてるんじゃん!」
二匹はそれ見た事かと責め立てる。いや、それはリアルの身を気遣っての事なのだが。
そしてヨゾラに、肩を押されるようにして強引に廊下を歩かされる。どうやら部屋に連れていかれるらしい。
「本当に大丈夫だって……」
「大丈夫じゃありません。今日は時間に余裕があるし、しっかり休んでて」
デリートにきっぱりと言われてさすがに口を閉じるしかない。確かに疲れは溜まっているし、時間はまだ昼過ぎ。依頼の終わったチームは自由時間になるから、休むのも吝かでは無いのだが──
(今は、休むべきじゃないんだよな……)
複雑な心境だが、もう無理やり部屋の前に着いてしまった。ドアを開けて中に入れられる。入口に立つ、ヨゾラとデリート、そしてソワ。傍観する教官に頼ってみるが……。
「ソワぁ、止めてよ……」
「まぁ……ここは潔く休んどけ。毒は抜けても体力が落ちてるだろう?」
「そんなぁ……」
虚しく助けを断られてしまった。
「じゃ、そういう事だから、しっかり休んでて」
「数時間は寝てなよ! 今日もリアル大活躍だったんだから。お疲れ様」
完全に重症の扱いだが止むを得まい。大人しく藁の上に寝転ぶ。
ヨゾラが部屋のドアを閉じるのを見送って、天井を見上げた。そして大きなため息。
静かになってしまった。
つい数十分前まで激闘を繰り広げていたのが嘘のようだ。少なくとも、初依頼達成の余韻は消えてしまっていた。
確かに既に毒は抜けたとはいえ、もう依頼は終わったのだから、本来休むのも問題は無いだろう。少なくともヨゾラ達はそう思ったはずだ。
しかしリアルにはそれよりも重要なことがあったのだ。
毒の対処より、毒を受けたことそのものの問題。
つまり、遠距離攻撃の手段についてだ。
※
(……失敗だ)
寝転がったまま、天井に手をかざす。
思い出すのはあのかみなりパンチ。あの技自体まだ未完成なのは自覚している。根本的に技の出し方が正統派じゃないのだろう。それでも慣れと共に相手へのダメージも増してきている。だからそのことは及第点。
だがアリアドスはその技をクロスポイズンで受け止めたのだ。結果的に倒しはしたものの、毒を負って戦闘を続けられなくなった。もし依頼の途中だったらリタイアしていた可能性もあっただろう。
何が問題だったのか。
「……そんなことは分かってる」
簡単な話だ。
単に技が出せない。その障害が今顕著になっただけの事だ。
そもそも今回の敵は「いとをはく」を多用してくる、距離を取って戦うスタイルの敵だった。それは最初の交錯で分かっている。一直線に突進した結果、糸に絡め取られ一時戦闘離脱を余儀なくされた。
しかしそれでも接近戦を仕掛ける他なかったのだ。
何故なら技が出せないから、というより遠距離攻撃が出来ないから。
愚直な近接の物理攻撃。
意外にも身体能力は良いものだから、今まで誤魔化してギルドに入団した訳だが──
(問題は解決した訳じゃない)
今回こそヨゾラの隙をつく機転により何とか物理攻撃が機能した。だが次また上手くいくとは限らない。それに、頼った結果に毒を食らっているのだから、それも無視することは出来ないだろう。
とはいえ……。
「どうしろってんだよ」
かざした手を強く握り締めた。
問題なのは分かってる、だがそれを解決する術が無い。知っていたら元々やっている。
自分で疑問を反芻させても答えは出ない。
二時頃の部屋は相変わらず静かで、余計に自分自身を責め立てる声が騒がしくなる。
そもそも何で自分は技が出せないのだろうか。確かに記憶喪失なのは分かっている。でも基本的な常識はあるし、日常生活における動作にも問題は無い。なのに、なのにどうして技を忘れてしまうのか。
「はぁ……」
大きなため息は部屋に響いた。それが何だかんだ虚しく思えて、天井に伸ばした手を力無く下ろす。
初依頼を成功させ、本来ならお祝いムードにすらなるところだったが、それどころでは無い。
天井を見つめながら、頭の中で思考をぐるぐると回していると、次に浮かんできたのはチームメンバーの二匹の顔だった。
ああ、そうだ、今回は迷惑をかけてしまった。
戦闘でも自分だけでは何も出来なかったし、本来なら二匹こそ喜びたかっただろうに、毒を食らってこのザマだ。どちらも身体を心配してくれていて、喜ぶどころじゃなくて……。
それに加えて今後も迷惑をかけてしまうことになる。役割分担こそ大事だが、また近距離攻撃の効かない相手が出た場合、デリート程道具も使えない自分はただの足手まといで──
「……ダメだ……」
考えても考えても気持ちが沈む。どうしようも無くて、思考を放棄して目を瞑る。
もう寝てしまおう。寝てどうにかなるとも思えないけど、こうネガティブになるよりマシだろう。それに、デリート達も寝ろと言っていた。何だか逃げるようだがここはお言葉に甘えて……。
思ったより疲れていたらしい。
考えるのを止めた頭は直ぐに休息に入って、音と光が遠ざかる。
悩みは現実に残したまま、身体は感覚を手放していく。
そして、意識が沈んだ。
※
「ヨゾラはどう思う?」
「どうって……リアルのこと?」
午後のロビーは、ヨゾラ達のように今日の仕事を終えたギルドメンバーが集まっていて、談笑する声が聞こえる、和やかな雰囲気になっていた。自由日のロビーはいつも誰かがいるらしい。まさに自由ゆえにスケジュールがバラバラだからだろう。
そんな中椅子に座って向かい合うヨゾラとデリート。お互いに木の実ジュースを手にしている。
「そう。元気なかったから……」
「毒が残ってたのかな」
「そうじゃなくて」
否定され、オレンのジュースのストローを咥えたままデリートを見上げた。
「……ちょっと落ち込んでたこと?」
「うん、それ。ダンジョンから帰ってからなんか悩んでたみたいだった」
うーん、と唸り声をあげるヨゾラ。
リアルは今は部屋にいる。病み上がり(速攻治ってたけど)だから休んで欲しくて無理やり放り込んだけれど……ちゃんと寝ているだろうか。
リアルはダンジョン脱出直後こそ毒の影響でぼうっとしていたようだが、モモンのみを食べてからはなんだか思い詰めた表情であまり言葉を発さなかった。
「リアル、時々考え過ぎなことあるからね」
「ね。大雑把かと思ったら変なこと気にするし」
「ほんと、僕らとはなんか違うよね……」
自分で言って、ふと考え込む。本当に彼はどこから来たのだろうか。
空から落ちてきた、としか情報は知らない。そしてそれも別に彼が隠してるという訳ではなく、多分本当に彼自身も知らないのだ。
時々当たり前のことを聞いてきたりする彼の常識は、きっと自分たちとは異なっている。どこか遠い国から来てたりして。
そんな彼が今、何に悩んでいるのか──
「やっぱり、毒受けたのがショックだったのかなあ」
「どうでしょうね。あんまり思い詰めないといいんだけど……」
でもまあ、きっとリアルなら自分で解決してしまうだろう。ちょっといじっぱりな彼だけど、本当にダメな時は相談してくれるはず。そう信じている。
突然椅子を引いて立ち上がったヨゾラに、デリートが少し疑問を浮かべた目を向けた。
「街に遊びに行ってみるよ。商店とか覗いてみたいんだ」
「そう……気をつけてね」
「それ、飲み終わったの捨ててこよっか?」
「あ、ありがとう」
ヨゾラはデリートから空のカップを受け取って席を離れた。
依頼が終わった今日は余裕がある。前からもう一度行っておきたかった街探訪をしてみたい。
リアルのことは……ギルド内だ、心配する必要もないだろう。
でも、デリートは最後まで心配そうな顔を浮かべていた。
※
「あれ……」
ふと気がついて目を開け、体を起こす。すっかり寝ていたらしい。
壁を振り返ると時計は四時半を示していた。二時間以上寝ていたのか。……と言ってもまだ時間はあるのだが。
横を見るとトレジャーバッグが置いてある。寝る前にはなかった。普段デリートが持ち歩いているものだから、寝ている間に彼女が一度来ていたのだろうか。
「全然気が付かなかったな……」
起こさないように気遣ってくれたのかもしれない。
そもそも、二匹とも自分のためを思って休憩を促してくれたのだ。申し訳ない気持ちと、ありがたい気持ちが半々くらいで湧いてくる。
外を見ると少し陽が落ちてきていた。
まだもう一眠りする時間はあるが……目が冴えてきてしまって、何だか寝る気にはなれない。
(顔洗うかな)
目を擦りながら立ち上がる。朝は目覚めが異様に悪いが、流石に昼寝は直ぐに起きられる。どうして朝の寝起きはこう絶望的なのだろうか。
そう適当に考えながらリアルは部屋のドアを開けた。
「お」
「?……あ」
水道で顔を洗っていたリアルは、隣に立つ気配を感じて顔を上げた。そしてその相手を認識する。
「ラウド……さん」
こちらを見つけて小さく声を上げた彼は、あのマンキー。以前廊下で、ソワに異常なほどの殺気を向けていた、あの──
かつての記憶を思い出すと、自然と一歩下がって身構えてしまう。
(一体自分に何の用だ……?)
「あぁ、いや、そんな警戒しなくてもいいんだ」
彼の第一声は意外にも穏やかだった。
怪訝な顔をしながらも、身構えた姿勢を戻すリアル。どうやら敵意は無いらしい。
「……この前は済まなかったな! 巻き込んで」
「え……、まぁ……」
正直あの時のことを思い出すとまだモヤモヤするので否定はしないが……。
ただ、目の前で話すラウドは、あの時の憎悪に満ちたマンキーとは同じとは思えないほどに優しげだった。相変わらず少し声量は大きいが。
申し訳なさそうな顔のまま話を続けるラウド。
「少なくともお前は無関係の一年生で、俺の発言はお前に失礼だった! 本当に済まない」
リアルはソワの言葉を思い出した。「自分以外には気さく」。確かに目の前の彼は優しそうな青年だった。とするとやはり気になるのは──
「一つ、聞いてもいいですか」
「ああ」
恐る恐る、距離を計るように質問を放つ。
「ソワとは、どんな関係なんですか」
「……」
下を向いてすぐには答えないラウド。何かを思い出しているようで、そして言うのを躊躇っているようでもある。
ややあって、口を開いた。
「アイツは……。……いや、昔からの知り合いなんだが……すまん、ちょっと言えない」
「そうですか」
過去に二匹の間に何があったのかは知らない。
だがラウドの思い悩む表情、逡巡、そして苛立ちを見る限り、ただならぬ出来事があったのはわかる。そしてそれは簡単には言い表せないのだろう。
「俺にはとやかく言うことはできないっすよ。だから別に……」
「おう……済まないな。……あ、そうだ、そういえばお前に用があって探してたんだ」
「俺を?」
てっきり偶然会ったものだと思っていたが。
それはまたいったい何の用が……?
「師匠が呼んでいるぞ。屋内訓練場に来て欲しいとの事だ! ……この呼び出しも、本当はアイツの仕事なんだが……」
最後に何が気になることがぼそっと聞こえたが、それよりも師匠が訓練場に呼んでいるというのが気にかかる。
まあこの後の予定もなかったし、行くのは問題ないが……。
「屋内訓練場ですね?」
「ああ、そうだ! 早く行くといい」
師匠の呼び出しとあっては断る訳にもいかない。ラウドに頭を下げて走り出す。
目指すは屋内訓練場。ラウドとソワのことは気になるし、今度また聞いてみたい気もするが……。
(それはまたそのうち)
二匹の確執は、そう簡単なものではなさそうだし。
※
「ここだったな」
廊下を曲がった先に、見覚えのある大きな扉が見えて、スピードをゆっくりと落としながら立ち止まる。
幸いに廊下には誰の姿もなく、ぶつからずに走ることが出来た。さらには先輩がいれば廊下を走ると咎められるし。
両開きの、訓練場の扉は固く閉まっていた。
それにしても師匠が自身の部屋以外に呼び出すのは珍しい。特に訓練場は初めてだ。
加えてあまりにも静かな廊下。そして中から物音も聞こえない。
(何だか嫌な予感がする……)
大概自分の嫌な予感は当たる。それは経験済みだ。とはいえずっとここに立っているわけにもいかないし……。
ついにリアルは意を決して扉に手を掛けた。
そして重く硬い扉をゆっくりと引き開けると──
「お、やっと来たな」
扉を開けた先、そこに師匠の姿はなく。
「あ……アンタは!!」
忘れもしないあのコリンク──シュンが、待っていた。
※
「な、な、なんでアンタが!」
後輩にアンタ呼ばわりされるのは気にも留めず、シュンは笑いかける。
「何でって……これから俺が君を指導するからだよ」
「指導ぉー!?」
おかしい。師匠に呼ばれて訓練場に来たのだ。わざわざここに呼ぶんだから訓練か何かをするのは分かっていたが……どうして、彼がいる!?
「嫌か?」
「嫌って言うか……その……」
単純に疑問なのだ。
シュンはギルド直属の探検隊。つまりは二年生とか三年生とかのレベルじゃなく目上の先輩。むしろ先生に近い。
それに彼の強さは身をもって知っている。その実力差ゆえ、到底自分が何かを直接教えて貰えるなんて思えない。
それに──
(この先輩、ちょっと胡散臭いんだよな!!)
「なんだその目は。はは、信用されてないなぁ」
愉快そうに笑うシュン。
しかし信用していないというのもあながち間違ってはいない。リアルにとってはその強さ以外全く知らないのだ。あの訓練以来姿すら見かけなかった。
めっちゃ強くて、訓練で突然戦わされたちょっと嫌な目上の先輩。
そんな彼がなぜ突然……。
「俺、師匠に呼ばれてきたんですけど……」
「その師匠が君の担当を俺に任せたんだよ」
「師匠が?」
全くもって分からない。
師匠が言うなら何かしら意味はあるんだろうけど……安心感は多少増すが疑問も増えるばかりだ。
「……まあ信用出来ないのはいいけど……」
疑い深い目で見つめてくる後輩に、シュンは問いかける。
「君、技が出せないんでしょ? というより、上手く電気が使えない」
「……聞いたんですか、師匠から」
「まあね。でもそれくらい、君と戦った時にすぐに分かったよ」
穏やかな森で、ヨゾラとデリートと共に戦ったあの時。自分は確かに殴り掛かる事しかしていない。とはいえただ使わなかっただけという可能性もあっただろうに、やはり強者の視点では分かってしまうのだろうか。
「というか入団試験見てたって。俺」
「あー……って、見てたんですか!?」
つまりあの電気ショック不発の失態も見られていた──!?
いや、そもそも皆に見られてたから恥ずかしいも何も無いけど、この先輩に見られてたのはなんか嫌だ!!
内心大暴れする感情が顔に出て、しかめっ面で俯くリアル。
「ま、その技が出せない問題を俺が解決してあげようってこと」
「……出来るんですか」
疑い半分、希望半分でシュンを見上げた。
もし……もしこの症状が治るなら。ずっと悩んでいた遠距離攻撃の問題は解決する。もちろんワザのレパートリーは広がるだろうし、引け目を感じる必要もなくなる。
今最も重要な課題。それが治るなら──
「君次第ではあるよ。俺だって万能じゃないからな、手術をする訳でもない。練習で君がどれだけ頑張れるかだ」
「……」
……やるしかない。自分の何倍も強い先輩に直接教えて貰えるなんてこと、これからそうそうあるもんじゃない。それに、これからチームメンバーに迷惑をかけるような問題が無くなるなら、ちょっと嫌だ、なんて言っていられない……!
「……お願いします」
深々と頭を下げた。
それを見て、シュンが微笑む。そして「じゃあ早速!」と手を叩いた。
「ちょっとこっち来て、腕を見せてごらん」
「?」
言われるがままに先輩に近寄り、右腕を差し出した。
そしてシュンはその腕を片手で掴むと──
電撃が走った。
「ぎゃっ……ぁあああああ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!
シュンが腕を掴んだ瞬間、全身を電気が駆け巡った。それは止まることなくリアルを焼き続ける。
床に倒れて悶絶しているのに、シュンはその片手をガッチリと握ったまま離さない。それどころか、
「ふーむ。なるほどねぇ。そうかそうか」
と何か考え込むように電気を流し続ける。
「やめてやめてやめて痛い痛いいいい!!」
「こっちはどうかな……ふむ、やっぱり……」
──全く聞いてない!
床を転がりながらもんどりうって叫び声を上げ続ける。目の奥で火花が散った。身体が焼けている気がする!!
「もうちょい強くしてみるか」
「嫌ぁぁああああ!!」
──数分後。
唐突に電撃は止んで、リアルは床の上に息も絶え絶え転がっている。
「……何で……こんな酷いこと……するんですか……」
「ん、君の身体を調査するためにね。同じでんきタイプだし、電流を流したほうが身体の構造が把握出来る」
もう怒る気力すらない。顔をシュンに向けるので精一杯だ。
こんな酷いもの……一応病み上がりなのに……(速攻治ったけど)。
「それで……何かわかったんですか……?」
「うん。どうやら君は技を忘れたというより、そもそも全く使い慣れてないらしい」
「え……?」
「君の電気の回路はほとんど新品に近い。生まれたてみたいなもんだ。つまりは練習あるのみってこと」
そう、だったのか……。
何か病気とかだった訳ではなく、ただ使っていなかっただけ……。疑問は残るけど、それが知れただけでも進歩だろう。というよりこんな事までして何もわからなかったらあまりにも酷すぎるが。
手荒な調査だったけど、理由が分かったんだし、この先輩について行くのは正解だったかもしれない──
「あ、ごめん、もう一回電気流してもいい?」
「……やっぱ嫌だぁぁあああ!!」
過去一場面変更が多い。