第4話:セナの涙とネイティオと――その1

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ありがとうございましたー!」
「うん、じゃあねぇー!」

 セナとヴァイスが救助隊を始めて数日後。オレンの実配達の依頼を済ませると、セナとヴァイスは依頼主のニドリーナというポケモンに別れを告げた。

「今日の依頼も大成功だね」
「まぁ、配達の依頼は簡単だからな」

 だいぶ仕事にも慣れ、救助隊キズナは毎日確実に依頼をこなす。セナは青色、ヴァイスは赤色のカバンを肩にかけ、2人は弾むように機嫌よく歩いていた。このカバンは初の依頼成功を祝福してガルーラおばさんが作ってくれたもので、見た目以上に道具がたくさん入るのでセナもヴァイスもすっかり気に入っている。救助隊員の証である救助隊バッジも、カバンにつけてみた。だいぶ救助隊がサマになり、臆病だったヴァイスも少しだけ頼もしい顔つきになっていた。見た目が可愛い割に強くて頼りになると、救助隊キズナの評判も悪くなかった。

 順調な日々に、ヴァイスの心は日々弾む。しかし、ヴァイスが知らないところで、セナは悩みを抱えていた。原因は、あのおかしな夢。毎日毎日見るそれは、最近になって新たな展開を見せている。


「う……ん」

 その日の夜中、いつものように、セナは夢の中の負の感情にうなされる。その隣では、ヴァイスがすやすやと寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っている。 
 自責の念に耐え切れなくなって、寂しさに涙が溢れて。堕ちゆくセナが手を伸ばすと、いつものように人間の手がセナの手を掴み、暗闇から引き上げてくれる。
 そこからさらに、夢が進展し始めたのだ。人間はセナを完全に引き上げると、そっと抱き上げて目の前に下ろした。

「セナ、大丈夫か?」

 しゃがみこみ、ゼニガメの姿のセナに目線を合わせて話しかけてくるその人間は、燃えるようなオレンジ色の、長めの髪の少年だった。少々目つきはきついが、綺麗に整った顔立ちをしている。

「ありがとう、焔(ホノオ)」

 夢の中のセナは、その少年を焔と呼ぶ。礼を言われた焔は微笑むと、謎多き一言を。

「いいか、セナ。過去に負けるなよ。お前は、悪くない。例えちょっと悪かったとしても、生きていていいんだからな」
「……うん」

 焔が大切そうに言い聞かせる言葉を、セナはそっと受け取る。その真意を汲み取ろうと考えたが、記憶がないので分からない。もどかしそうなセナに焔は苦笑いして、セナの頭をポンポンと撫でる。あどけなさを残した見た目の割に、強くて頼もしい手のひらだった。

「もうすぐ会えるからな。もうすぐ……」

 その言葉を残して、焔の身体は光の中に溶けていった。そして、セナは夢から覚める――。

「焔って誰だよ……? 過去に負けるな。悪くない。生きていていい。――オイラって、そんなことをわざわざ言い聞かせる必要があるような人間だったということか……?」

 涙をふきながら、セナは夢の内容について考えた。
 夢から覚めた時点で、その日の睡眠は終了。夢の内容が気になって、目をつぶっても、寝よう寝ようと思っても、少しも眠気がやってこない毎日を過ごす。何よりも眠りを妨げるのは、夢の中に焔が現れるまでに感じる、強い負の感情だ。記憶を失って“忘れたはず”の自責の念と向き合うのが、どうしようもなく気持ち悪い。オイラは一体、何をしでかしてしまったのだろうか? ――怖い。少しだけ、セナは震えていた。
 しかし、眠ることが大好きなセナにとって、睡眠不足は大敵。

「痛ッ……!」

 日中は救助隊活動に打ち込み、夜間は頭をフル回転。日々の疲労が癒えず、働きすぎた脳が悲鳴を上げる。割れそうに痛む頭を抱えながら、セナはもがいた。
 痛みは引かないどころかどんどん強くなり、気が遠くなってゆく。もう、疲れた――。
 意識を引き留める気力もないセナは、そのまま朝まで気を失っていた。




 ホノオとシアンは着々と精霊の崖に近づいていた。突然たくさんのポケモンに襲われたり、早瀬で溺れかけたホノオをシアンが助けたり……。数々の困難を乗り越えながら、ホノオはふと思う。シアンが居なかったら、セナに会う前に死んでいたかもしれない。空気が読めないのが困り者だけど、そんなシアンに日々感謝するホノオなのだった。 

 そんなある日のこと。

「とどめだ! “火の粉”!」

 場所は、精霊の崖にあと1歩のところにある、“新緑の森”。しばらくポケモンとして生活し、だいぶ戦闘慣れしてきた。ホノオは今の相手であるアリアドスに火の玉を飛ばした。

「ギャアア!!」

 虫タイプのアリアドスには、炎タイプの技は効果抜群。大ダメージを食らい、ドサリと倒れた。

「やった!」
「すごいでちゅー!」

 その様子をそばで見守っていたのは、男の子のピカチュウと、小さな女の子のピチューだ。シアンは、アリアドスが背後に隠していたピンクの花形のアクセサリーを、ピチューのもとへ持っていった。

「はい、キララちゃん。取り返したヨ!」
 
 キララと呼ばれたピチューは、目を輝かせてアクセサリーを耳の付け根の辺りにつけた。

「わぁー、ありがとうでちゅ! ホノオお兄ちゃんに、シアンお姉ちゃん!」
「ぷっ」

 思わず吹き出しそうになり、ホノオは慌てて口元を押さえた。シアンの表情がわずかに引きつる。
 
「良かったな、キララ!」

 キララの兄のピカチュウ、キラロは、キララの頭を撫でた。キララがシアンの機嫌を損ねる発言をしたことに、微塵も気が付いていない。これは、事情を説明した方が良さそうだ。ホノオは咳ばらいをして真面目な声で話し始めたが。

「あのな、2人とも。驚かないで聞いてくれ。実は、シアンは……お、男なんッ……アハハハ! シアンお姉ちゃんだって〜!」

 たまらず途中で笑い転げてしまった。シアンが行く先々で女の子に間違われるのが、何度見ても面白い。

「シアンは男の子だモン!」

 頬を膨らませてぷんぷん怒ったシアンは、くちばしで思い切りホノオの背中を突っついた。
 
「ぎゃっ!!」

 強烈な一撃に、ホノオは悲鳴をあげて倒れこむ。目を回すホノオを見つつ、キララは怯えながら謝った。

「ご、ごめんでちゅ……。シアンお兄ちゃん」
「ちゃんと謝って、キララちゃんはいい子だナー。……ホラ、ホノオ君は?」

 キララには恐怖を和らげるような曇りない笑顔を向け、同時に横たわるホノオのお腹を蹴り謝罪を促す。二面性を違和感なく両立させるシアンに、キラロは引き気味な苦笑いを浮かべて1歩後ずさりした。

「ご、ごめんなしゃい……」

 すぐに怒る上に、怒り方に迫力がない。そんなシアンをいじるのが楽しみになりつつあったホノオだったが、怒りの規定値を超えると容赦してくれないらしい。おまけに、ポッチャマは水タイプだから、ヒコザルのオレは相性が悪いわけで……。
 これからは、シアンいじりはほどほどにしよう。ホノオは強くそう誓った。――喉元過ぎれば熱さを忘れがちな性格ではあるが。


 キララ、キラロと別れた後、ホノオとシアンはいよいよ精霊の崖を登ろうとした。頂上にいるネイティオのところへとたどり着く方法は2つ。シアンは、どちらの道で行くかホノオに尋ねた。

「どうする、ホノオ。近道だけど、落ちたら即死の恐怖の急斜面を登る? それとも、なだらかで遠い、坂道がいい?」
「坂道でお願いします」

 いつにもまして、ホノオの決断は早かった。

「えーっ、せっかく木登り崖登りが得意なヒコザルなんだヨ? ホノオは急斜面を選んでも死なないんじゃない?」
「嫌ですー。お前それ、絶対に適当に言ってるだろ」
「まあネ。ホノオは意外とチャレンジ精神がないナー」
「うるせーよ! じゃあお前が崖を登れば?」
「ポッチャマに崖は登れないもんネー。まあ、ホノオと違って泳げるケド!」
「くっ……挑発に乗るなホノオ……ここで死んだらセナに会えないぞ……」

 シアンの煽りを必死に振り切ると、ホノオはなだらかな坂道をスタスタと登り始めた。

「チッ。ホノオの崖登り、見たかったのにナー」

 悟られぬように舌打ちすると、シアンはホノオの背中を追いかける。
 いよいよホノオとシアンは、ネイティオに会うための最後の道のりに足を踏み入れた。




 その日のセナとヴァイスは、依頼を受けて“西の砂漠”を歩いていた。依頼の内容は、ヤジロンというポケモンにモモンの実を配達する、というものだった。

「暑い……」

 セナの目は虚ろ。ただでさえ寝不足で火照る身体に、太陽の陽射しが容赦なく照り付ける。歩行が頭を揺さぶる振動すら気持ち悪くなり、ヴァイスに歩くペースを合わせるだけで疲れ果てているようだ。

「大丈夫、セナ? フラフラしてるよ」

 ヴァイスの心配そうな眼差しで、セナはハッと我に返った。そうだ。今は救助隊の仕事をしているんだ。夢を気にして睡眠不足で体調を崩したなんて、言い訳は許されない。ヴァイスを心配させちゃいけないし、迷惑もかけられない。

「なんだよ、お前、過保護だなー。ちょーっと暑いって言っただけで、そんなに心配するなよ」 

 走ってヴァイスに追いつくと、からかうようにヴァイスの背中をポンと叩く。これ以上ヴァイスに体調の悪さを悟られないように、表情を読み取られないように、そのままセナが先頭を歩いていった。

「セナ……」

 かけるべき言葉が分からない。切ない表情を浮かべ、ヴァイスはセナの後ろ姿を見ながら呟いた。


 この日、セナとヴァイスは初めて依頼に失敗してしまった。
 依頼主のヤジロンに会いに行く途中、届け物のモモンの実をハリネズミのような地面タイプのポケモン、サンドパンに奪われた。セナとヴァイスは取り返そうと戦うが、サンドパンによく効くセナの水鉄砲がことごとく外れてしまった。さらに、攻撃を全くかわせなかったセナはあっという間に倒され、ヴァイスも相手との相性が悪く、やられてしまった──。

 チーム全員が戦闘不能になると、救助隊バッジの力で戦闘から離脱できる。危険な仕事を行う救助隊のポケモンたちの命を守るシステムだ。
 安全なはるかぜ広場までワープしたセナとヴァイスは、うつむきながらサメハダ岩に帰る。

「ごめん……」

 沈黙が重々しく破られる。今回の失敗に責任を感じたセナは、覇気のない声でヴァイスに謝った。

「そんな……。誰だってたまには失敗しちゃうし、仕方ないよ。それに、ボクたちはチームなんだから、セナだけが悪いんじゃないし……ね?」

 ヴァイスに励まされるほどに、自分が情けなくなる。ヴァイスは悪くない、悪いのはオイラだ。そう確信しているから、ヴァイスの言葉を受け止められない。

「ねえ、セナ」

 もう少しで、広場を抜けてサメハダ岩にたどり着く。そこでヴァイスは、足を止めてセナに呼びかけた。

「ボク、ちょっと広場に用事があるんだ。先に帰って、リンゴ食べてて」

 そう言うと、ヴァイスはセナに背を向け、走り出した。


 いつもは心地よいさざ波の音が、今日は切なく感じる。もうすぐ1日が終わり、頭を悩ませる夜がやって来る。1人でサメハダ岩に帰ってきたセナの気持ちは沈んでいた。毎日の夢が気になり、眠れない日々。疲れがたまり、救助隊の仕事にまで悪影響が出てきてしまっている。世話になっているヴァイスにも、迷惑をかけてしまった。このまま迷惑をかけ続けたら――きっと、ヴァイスと一緒に居られなくなる。
 このままじゃいけない。なんとかしなきゃ。でも、どうしたらいいんだろう。眠らなければ、きっと悪夢に心を蝕まれないけど。そんなの、何度も何度も試したけど、いつも気絶するように眠ってしまう。カゴの実を食べればいいのかもしれないけれど、一睡もしないで救助隊の仕事をするのは……そんな生活を何日も続けるのは、怖い。
 考えても、考えても、答えは見つからなくて。日に日に悪くなる体調が、迫るタイムリミットのように感じて。焦って、心をすり減らして。しんどい。でも、これ以上ヴァイスに迷惑をかけたくなくて……。

 ぐるぐると考え込むセナを、ヴァイスはサメハダ岩の階段の陰に隠れて密かに見ていた。ただでさえ最近元気がないセナを心配していたけど、今日の失敗で、今にも倒れそうなほどに落ち込んでしまっている……。
 どう声をかければよいのか迷い、サメハダ岩に入るのをためらう。ヴァイスがそうこうしていると、セナが右手をスッと目元に当てた。その行動の意味を悟ると、キュッと胸が締め付けられるような気がした。
 セナは泣きたいほどに辛いのに、ボクに気付かれないように、一生懸命隠そうとしている……。

 このままだと、ボクまで泣いてしまいそう。そう思ったヴァイスは、何食わぬ顔をしてそろりそろりとセナに近づく。ここはあえて、おどけちゃおう。セナとボクのために。ニヤリと笑うと、ヴァイスはセナのしっぽに手を伸ばす。以前から、どんな触り心地なのか気になっていたのだ。

「ふぁ!」

 セナのしっぽに軽くさわると、重い空気を一瞬で塗り替えるような間抜けな悲鳴が上がる。ただでさえ、ぷにぷにとみずみずしい手触りなのに、こんなに可愛い反応をされたら――。ヴァイスのいたずら心がニョキっと顔を出した。
 好奇心に抗えず、ヴァイスは爪で優しく引っ掻くようにセナのしっぽを撫で始めた。

「ひゃあッ! あははははっ、何!? 誰っ!?」
「だーれだ?」
「ヴァイス!? あああ、やめろって! くすぐったいーっ!」
「へー。セナってしっぽが敏感なんだねー。いいこと知っちゃったなぁ」
「オイラも今知ったのっ! 人間にしっぽなかったもん!」

 物憂げなため息が幻だったかのように、セナは黄色い声を上げて身をよじる。セナのこんな声、初めて聞いた。喋り方も、なんだかいつもより子供っぽくて……。
 ――楽しい。もっといじわるしてみたい。うっかりテンションが上がってしまったヴァイスは、セナのしっぽをまさぐるようにくすぐり始めた。

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「ちょっ、待って待って! にゃはははは!! やめてってば! ねえ!!」
「さあて、弱点を探しちゃうぞぉ~。くすぐったいのはここかなぁ? それともこっち?」
「んくっ……く、くすぐったくなんか……ッ! ひゃあああ、そこはやだぁ!!」

 セナは悔しくなって悲鳴を堪えるが、しっぽの付け根をくすぐられるとゾワゾワと全身が痒くなり、5秒も持たずに転げまわる。しっぽをぶんぶん、手足をばたばた。そんな抵抗がヴァイスの加虐心を煽るが、さすがに涙目が可哀想なのでセナを解放した。

「はあ、はあ……。ヴァイスのばかぁ……」
「てへへ、ごめーん。なんか可愛かったから、つい」

 ちっとも悪びれないヴァイスにため息をつくと、セナは呼吸を整えた。むず痒さがしつこく残り、思わず布団にしっぽをこすりつける。ようやく甲羅がある身体に慣れてきたのに、致命的な弱点が見つかってしまった。さらに、ヴァイスのまさかのいたずらっ子っぷりに震えあがる。――しばらく、背後に気を付けよう。
 思考回路が上書きされ、夢のことを考えるよりもはるかに気持ちが楽になったが、セナがそれを自覚することはなかった。

「ところでヴァイス、今まで広場で何してたんだ?」

 ヴァイスに見られたくなかった――自分すら知らなかった情けない一面を見られ、すっかりセナはふくれっ面。そんな不満げなセナの視線を、ヴァイスは笑顔で受け流した。

「別にー。それよりセナ。リンゴまだ食べてないでしょ?」

 ヴァイスに見事に言い当てられ、セナはギクリと飛び上がった。
 
「な、何でそれを──」
「えへへー。実はボク、エスパーなのです!」

 セナの言葉を遮り、ヴァイスはおどける。不満げなセナは明らかに納得していない。ヴァイスはぺろりと舌を出すと、さりげなさを装って核心に触れた。

「なんてね、嘘だよ。最近セナが元気ないから、ボク、心配なんだ」
「えっ、どこがだよ。全然元気じゃん!」
「嘘つき。キミ、最近全然上手に笑えてないじゃん」
「……そりゃ、まあ。体調が悪くて、ちょっと疲れていただけだよ」

 全てを見通すように真っ直ぐなヴァイスの視線から、逃げ出したくなってしまう。きっと、逃がしてもらえない。でも、隠したい――。
 セナは渋々、体調不良を認め、その奥に潜む心の不調をカモフラージュしようとしたが。

「ねえ、セナ。辛いことがあるなら、ボクに話してくれないかな?」
「……お前に話したところで、問題が解決するわけでもないだろ」
「でもセナ、このまま独りで辛いことを抱え込み続けたら、ボロボロになっちゃいそうだよ。そんなセナを見ているのが、ボクは辛いよ……」
「確かにオイラにだって、ちょっとした悩み事くらいあるけどさ。自分の気持ちを整理するのは、自己責任じゃん」
「そうかも、しれないけど……。気持ちの整理をするお手伝いなら、ボクにもできると思うんだ。でも……そう思っちゃうのは、セナにとっては、迷惑……なのかな……」

 必死に歩み寄ろうとするが、セナは突き放すような言葉で心を閉ざし続ける。
 力になりたい。でも、その気持ちを受け入れてもらえない。心が痛くなって、気が付いたらヴァイスはポロポロと涙を流していた。

「どうして……どうして、お前が泣くんだよ……」

 頑なに閉ざしていた心に、ヴァイスの涙が染み込んでふやけていくようだった。意地を張るのを諦め始めたセナの瞳も潤み始める。

「迷惑なんて、思うわけないじゃん。……逆だよ。悩んで元気がなくなって、お前を心配させて。救助隊の仕事にも集中できなくて、足引っ張っちゃって……。迷惑ばっかりかけてるのは、オイラの方じゃん……」

 世話になっているヴァイスに、恩返しをするどころか迷惑をかけ続けている。独りで抱え続けた罪悪感を言葉に出してみると、セナは涙をこらえきれなくなった。

「このままじゃ、ダメなんだけど……。オイラ、どうすればいいのか、色々考えたんだけど……もう、どうしたらいいのか、分からないんだ……。なあ、ヴァイス。ちょっとだけ、泣いてもいいかな? 愚痴言っちゃっても、いいかな?」
「ふふっ、もう泣いてるじゃん。うん、いいよ。たまには、ボクに甘えちゃいなよ」

 いつもは気弱で臆病なヴァイスが、包み込むような頼もしい言葉をかけてくれる。

「うう……ごめん、ヴァイス……」

 ヴァイスの優しさに甘えることを決めると、セナは躊躇いを捨て、ヴァイスに初めての涙を見せるのだった。

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