最終章 最終話

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読了時間目安:58分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「さぁ、行こうぜ! 俺たちの戦いはこれからだ!!」

守連
「え、これで打ち切りなの?」

阿須那
「ええ最終回やったな…」

華澄
「だ、誰もツッコマないのですか?」

女胤
「何をイマサラタウンですわ…最後なのですから、思いっきり滑るのも一興でしょう」


シクシク…何か微妙に皆が冷たい!
まぁ、最終決戦前にこんな反応しづらいネタをぶっ込む俺が大体悪いのだが…
そもそも、これは完全に作者の悪い癖であって、ネタの神が大体悪いのだよ!
とはいえ、俺は気持ちを完全に切り替えて表情を変える。
そして、そんな俺を見て皆は円陣を組んだ。


恵里香
「とりあえず、お帰り聖君」


「恵里香、早速頼む」


俺は恵里香にいきなりそう頼む。
それを聞いて、恵里香は少し顔をしかめた。
そして、答えは解っているはずなのに、あえてこう聞く。


恵里香
「本当に良いの? ここから先は全てを滅ぼせる神との戦いだよ?」


「…そんな神に、俺は勝つと決めた」
「それに、アルセウスだってポケモンだ」
「ポケモンが相手なら、ポケモンで倒せるさ!」


俺の言葉を聞いて、恵里香は数秒黙る。
そして、決心した様に手を虚空にかざし、光の道を示した。
俺たちはその道筋を見つめ、思い思いの言葉を放つ。


阿須那
「行くで…アルセウスを倒して、正真正銘のハッピーエンドや!」

華澄
「行きましょう…全ての世界の、皆の未来の為に!」

女胤
「迷いはありません…理不尽な滅びを回避する為、勝利をこの手に!!」

守連
「行こう…皆の世界を救いに、私たち家族の幸せの為に♪」


「これが、正真正銘のラストバトルだ…俺は、お前たちを信じる!」


俺たちは全員で同時に頷く。
腹は決まった、後は恵里香次第だな…


恵里香
「…分かったよ皆の気持ちは、だからボクも覚悟を決める」
「そして、改めて皆にお願いするよ…未来を救ってと」
「この最果ては多分何も変わらないけど、それでも勝って…」
「世界の滅びを回避する事が、ボクの悲願だから」


俺たちはもう1度頷く。
そして、俺は右手の甲を上にして前に差し出した。
全員は?を浮かべたが、俺は笑ってこう言う。



「定番だけどさ、俺は結構良いと思ってる」
「折角、こうやって一丸になって集まったんだ…別に良いだろ?」


俺が笑ってそう言うと、守連はすぐに俺の手の上に自分の手を重ねる。
あえて、触れる手前で止める辺りが守連らしいか…
華澄もそれを見て、あえて守連の手には触れる手前で止める。
そして阿須那、女胤と順に手を重ねていった。
だが、後ひとり足りない。



「…どうした恵里香? お前もやれよ」

恵里香
「えっ…でも、ボクは…」


「バーロー! 今更何言ってんだ!?」
「お前は俺の嫁だろうが…さっさとやれ」


俺が強引にそう言うと、恵里香は少し俯いて微笑する。
そして、ゆっくりと重ねられた手の上に自分の手も重ねた。
俺はそれを確認してこう叫ぶ。



「俺はここに誓う!! 必ず、滅びの未来を救うと!!」

守連
「私も、手伝う…絶対に皆の世界を救ってみせるって!」

阿須那
「ウチもや! そんで、皆で家に帰るで!?」

華澄
「委細承知! 拙者の全てを持って任務を遂行いたします!!」

女胤
「これまで聖様が出逢った全ての方たちの為…私(わたくし)も全力を尽くしますわ!!」


皆がそれぞれの意志を見せる。
そして、最後に恵里香が呟いた。


恵里香
「…ボクから言う事は何も無いけど」
「それでも、信じさせてほしい…キミたちが、必ず勝つと」
「そして、救ってほしい…皆の未来を」


その言葉は悲哀に満ちていた。
恵里香にとってはまさに悲願。
自分にとっては、もう何も変わらない事なのに、恵里香はそれでも願った。
この滅びを救ってくれと…だから俺は今こそ約束を果たす!!
もう、反故にしたりなんかしない! 必ず、アルセウスに勝ってみせる!!



「やるぞ皆! 例え偽善と言われても構わない!!」
「俺は! 俺たちは!!」


この瞬間、全員の心がひとつとなったのを感じた。
そして、全員一斉にこう叫ぶ。


一同
「全部! 救ってみせる!!」


その言葉を持って、俺たちは手を離す。
そして、迷わずに光の軌跡を歩んで行った。
迷いは無い…この先には紛れも無い虚無があるのだろうが。
例え希望は無くとも…声すら届かなくても……
俺たちの絆は、絶対に…切れない!



………………………




「………」


俺たちは、階段の前にいた。
周りは暗闇に満ちているのに、その階段は光を放ち、まるで俺たちを誘う(いざなう)かの様に聳える。
俺たちは迷わずその階段に足を伸ばした。


守連
「………」
阿須那
「………」
華澄
「………」
女胤
「………」


皆、横一列になって階段を上って行く。
その階段は目も眩む程の長さだったが、俺たちは言葉ひとつ交わすことなく、ただ静かに上り続けた。
軽く気が遠くなりそうな距離の階段で、気を抜いて転んだら死ねる位には恐怖だな。
そして、そのまま1時間程上った所で、遂に頂上に着く。
流石に俺は足がかなり疲労してガタガタになったが、それもこれで終わりだ…

俺は息を切らし、上りきった階段の先を見据える。
その先は、光の差さない荒野。
暗闇だが、それでも地面は輝いて見える…そして遠目に見える先には、後光を放つ圧倒的な存在。
それを見て俺たちは確信する…アレこそが、アルセウスなのだと。

俺は、はやる気持ちを抑え、右足を1歩だけ前に踏み込む。
だが、次の瞬間阿須那に右肩を掴まれた。
俺は?を浮かべて阿須那を見るも、阿須那は真剣な顔でこう言う。


阿須那
「聖、アンタはここで見とき」


「あ、阿須那!?」

華澄
「阿須那殿の言う通りでござる…ここから先は人外の戦い」

女胤
「人の身の聖様は、ここで私たちの勝利を信じていただけませんか?」


俺は察する…確かにここから先、非戦闘員の俺は邪魔にしかならない…
今までの中でも最大規模の死闘となるだろう。
そこに俺がいたら、皆は気になって全力で戦えない…か。


守連
「大丈夫だよ…私たちは絶対に勝つから」
「だから、信じて…私たちの勝利を!」


守連の言葉を合図にして、4人は同時に駆け出す。
その速度は到底俺が追い付ける物ではなく、改めて戦闘における自分の無力さを痛感した。

だけど、俺には俺の仕事がちゃんとある。
アルセウスを倒した後、俺は夢見の雫を使い、皆をそれぞれの世界に戻すんだ。
そして、俺も同時に現実世界に帰る…

その先に何があるかなんて俺には解らないが、今は関係ない!
俺は皆を信じる…! そして必ず、全部救うと…!!



………………………



アルセウス
「来たか、我が子らよ…」

阿須那
「コイツが…アルセウス!?」

華澄
「まさか…アルセウスも人化しているとは!」


守連たちが向かった光の正体は、玉座に座ったアルセウスだった。
そのアルセウスは、何故か人化を果たしており、白と黒の色が混ざる長髪を靡かせている。
額近くの前髪だけが金髪なのがやや印象的で、人間と同じ位置の両耳、その少し上辺りから二本の角の様な物が上に伸びていた。

瞳は赤で、目の下に黄緑の丸い模様が入っており、その瞳は酷く無感情。
だが、一見して間違いなく美女だと断言出来るであろうその美しさに、4人は一瞬見とれてしまっていた。

アルセウスの姿は、白き洋風のローブを思わせる衣服で、胸の上部ははだけている。
そしてその胸を覆っている部分だけが黒色だった。
ある意味妖艶ともいえるその衣服を身に纏い、アルセウスはゆっくりと立ち上がる。

豊満な両胸がたゆんと揺れ、その際に腰に付いている金色のリングも揺れた。
リングは左右にひとつづつ付いており、ふたつ合わせるとまるでメビウスの輪の様にも見える。
輪には4つの宝石の様な物も埋め込まれており、色は黄緑。

そしてそれはまさに、アルセウスが創造ポケモンである事を象徴するかの様な印象を4人に植え付けた。

一見すれば、その形は∞…一は全、全は一。
創るも崩すも、全てアルセウス次第なのだと主張しているかの様な…
そんな、絶対的なオーラすら無言で放つアルセウスが、静かに言葉を放つ。


アルセウス
「我が子らよ、何故抗う? 何故、我に牙を向ける?」

女胤
「愚問ですわね…私たちが戦う理由はひとつ!」
「貴女が引き起こそうとしている、滅びを救う為ですわ!!」


女胤は意志を強く持ってそう言い放つ。
だが、アルセウスは全く意に介さず、無感情に言葉を返した。


アルセウス
「何故、それを滅びだと断言出来る?」

4人
「!?」


その言葉は、4人にとってやや衝撃的だった。
世界の滅び…だが、それはアルセウスにとっては滅びでは無いとでも言わんばかりの言葉。
アルセウスは、そんな驚く4人を無感情に見ながら言葉を続ける。


アルセウス
「我が行使するは、創造の力」
「だが、その為には増え過ぎた世界を崩さねばならぬ」
「その結果、崩される世界は滅ぶのではない…新たなる創造の為に崩れるのだ」
「そして崩れた世界は、やがて正しい世界として再構築されよう…」

阿須那
「…訳の解らん事をゴチャゴチャと」

華澄
「全くですな…馬の耳に念仏でござる」
「そして、神たるアルセウスにそれを説明するのも、釈迦に説法ですな…」

守連
「アルセウスさん…私たちが戦う理由はひとつだよ?」
「私たちは、その崩される世界を見捨てられないからここにいる!!」
「崩されて、新しく創られたら、きっとそこにはもう前の心は残らないんだよ!!」
「そして、きっとそれは救いじゃなくて、滅び…」
「そんな滅びを、誰も救ってくれないなら…」


全員は心をひとつにして、強く想いを込める。
暴走したアルセウスの救済に、救いは無い。
それは最果てに辿り着いた、悲しいセレビィが証明している。
今のアルセウスは、もはや創造する事すら出来なくなるのだと、恵里香が知っているのだから…
だからこそ、4人の言葉と瞳には一切の迷いも無かった。


守連
「私たちが救ってみせる!!」
阿須那
「ウチ等が救う!!」
華澄
「拙者たちが救うでござる!!」
女胤
「私たちが救ってみせます!!」


そう、全員同時に言い放つ。
その言葉を聞いても、なおアルセウスは表情ひとつ変えなない。
いや、そもそもこのアルセウスは悪意や憎悪を受け止めすぎたせいで暴走している。
もはや、このアルセウスに正常な思考は出来ないのだ。

だからこそ、4人は止めなければならない。
この、邪神と化したアルセウスを…



………………………




「皆…」

恵里香
『信じよう、聖君…』


「ああ…大丈夫、俺は信じてるよ」


俺はスマホを片手に、遠くから皆を見ていた。
アルセウスは目映いばかりの光を放ち、皆と対峙している。
だけど、あれは暴走して堕ちたアルセウスだ。
そこに、創造神としての正常な思考も能力も多分無い。
だからこそ、アレは力ずくでも止めなければならないんだ…!

あのアルセウスを倒さなければ、世界は全て無かった事になってしまうのだから!!



「頑張れ、皆…お前たちには、皆が付いているんだから」


俺は夢見の雫を外に出して呟いた。
ここまでの使用で、大分濁ってはいるものの、まだ透き通ってはいる雫。
そして、この雫に今は不可思議な力を感じていた。
それは、今まで感じた事の無い力で、俺はその力に温かさを覚える…



「恵里香、お前は夢見の雫に眠っている力とか、そういうのは感じられるか?」

恵里香
『流石に解らないね…ボクが知っているのは、今まで使った用途の力位で、更に深いフルスペックとなると、全く想像が付かない…』
『そもそも、その雫の出生すらボクには解らないし、何故生み出されたのかも解らない…』
『ただ、その雫は時に歴史をも変え、時に夢を現実にする…』
「その結果に多大な代償を支払いながらも、いつの時代にも存在したと思われる、チートアイテムのはずだよ…」


俺は色んな色が混ざりあい、美しく輝く雫を見て思う。
コイツは…本当は誰かを助ける為に生まれたんじゃないかと。
もうどうしようも無くなった時、コイツはそっと手を差し伸べてくれる優しさを持った…そんな神の右手なんじゃないかと。

俺は、何となくだけど…そう思ってしまった。
そして、その優しい神の右手が本当にあるなら…



(どうか…皆の世界を、救ってください)


そう、願った。
だが、雫は何も反応を示さない。
あくまで今のは俺の個人的な希望であり、願いだ。
神に頼んだのであって、雫にそれを頼んだわけじゃないからな…

とはいえ、そんな願いを雫に頼んだらどんな代償が待つのか…俺は逆にそれが恐怖だ。
どこまでいっても、これは悪魔にもなれる恐怖のチートアイテムなのだから…



………………………



アルセウス
「愚かな子らよ…人の悪意に惑わされたか」
「ならば…せめて、我が自ら救済してやろう」
「2度と愚かな考えを抱けぬ様…」


その言葉と共に、アルセウスの背後から17枚のプレートが規則正しく宙に並ぶ。
これこそがアルセウスをアルセウスたらしめていると言われる、伝説の宝具。

それぞれ炎、水、電気、草、氷、格闘、毒、地面、飛行、エスパー、虫、岩、ゴースト、ドラゴン、悪、鋼、フェアリーのタイプを司る17枚。
それらがアルセウスの創造と崩壊を形成する根幹であり、力の源でもある。

そしてそれらを持ってして、まさにアルセウスは最上の神たらしめる存在となっているのだ。


アルセウス
「我が胸の中で安らかに眠るが良い…」
「そして崩壊の後、新たな世界に生まれるが良い…」


段々、アルセウスを中心に力の波動が巻き起こる。
守連たちは既に臨戦態勢を取り、覚悟を決めた表情でアルセウスを睨み付けていた。
そこに恐怖は微塵も無い、あるのは…希望の光。
そう、この戦いを持って…全ての未来を救うのだから!


アルセウス
「我が力の前には、もはや抵抗は無意味…諦めよ、我が子らよ」
「そして安心せよ…そなた等は我が救おう」
「崩壊の後、全てはまたひとつに創造され、新たに始まるのだから…」


アルセウスの力が最高潮に高まるのを守連たちは感じた。
だが、彼女たちは不適に笑ってみせる。
初めからこうなるのは解っていたのだから、恐れる事など何も無かった。
そう、初めからやる事は変わってないのだ。


守連
「行こう皆!」

阿須那
「ああ…絶対にぶっ倒したる!」

華澄
「あのアルセウスに言葉はもう必要ありませぬ…!」

女胤
「ええ…ここは最終決戦の場、戦うしかない相手に問答など無意味!!」


4人はそれぞれ構える。
そして、遂にラストバトルは始まった…
まずは、1番素早さの速い華澄が前に出る。


華澄
「まずは、拙者が先制致す! 阿須那殿、続いてくだされ!!」


華澄は叫び、まずは様子見とばかりに『水手裏剣』を5枚アルセウスに放つ。
アルセウスは微動だにせず、ただ全身から光を放った。


バシャシャシャシャシャ!!


華澄
「なっ!?」
阿須那
「水手裏剣がかっ消えた!?」


水手裏剣は確かにアルセウスに命中した…が、それらは空しく霧散したのだ。
気が付くと、アルセウスは髪の色が変わっている。
前髪と後髪の一部が黄緑色になり、腰輪も同じ色に変わっていた。

輪の宝石は黄色になり、胸の部分も緑となっている。
4人はすぐに理解した。
これが、これこそがアルセウスの持つ神の特性『マルチタイプ』なのだと。

17枚のプレートは、全てのタイプをアルセウスに持たせられる。
だが、あくまで同時に持てるのはひとつのタイプのみ。
さしずめ、今のタイプは色から草タイプだと阿須那は予想していた。
そして、阿須那がすかさず右手から炎をアルセウスに放つ。


ゴォォォォォォッ!!


アルセウス
「………」


だが、またしてもアルセウスは傷ひとつ負わず、髪が風圧で靡くだけ。
アルセウスは瞬時に青色を基調としたカラーに代わっており、『火炎放射』は霧散したのだ。
阿須那はこの瞬間、即座に判断した。


阿須那
「タイプチェンジに隙が見当たらん!! ここは同時攻撃で揺さぶるんや!」
「多分今ひとつの技は無効化されるで!!」
「せやから、有利タイプで受けられへん様に、別々の弱点を同時に攻めるんや!!」

女胤
「でしたら、次は私が行きますわ!!」


女胤はあらかじめ舞っていた速度で動き、撹乱しながらも『エナジーボール』をアルセウスに放つ。
そして、同時に阿須那がタイミングを見計らって火炎放射を再度右手から放った。


ボォンッ! ゴワァァァァァァッ!!


アルセウス
「………」


華澄
「くっ! 同時でも無理なのでござるか!?」

阿須那
「ちゃう! 今度はドラゴンタイプで受けられたんや!!」
「草と炎やったら、同時でも通用せんか…!」


阿須那は頭をフル回転させるが、ここは神の戦場。
アルセウスはすぐに暗い茶色を基調としたカラーに代わり、腕を真上にかざして数々の光弾をばら蒔く。
それらは鋭利な岩の塊となって阿須那を襲った。

あまりのスピードに阿須那は反応を遅らせ、その塊の一部で体を傷付けられる。
幸い、致命傷は受けておらず、何発か掠った程度の様だ。
阿須那は痛みに耐え、すぐに全員に叫んで指示を出す。


阿須那
「今のが『裁きの礫』や! 気ぃ付けぇ!!」
「ほんで今は岩タイプ確定! 女胤、もう1発かますで!!」

女胤
「わ、分かりました! 行きますわよ!!」


再び阿須那と女胤が同時に着弾する様に技を放つ。
アルセウスはやはり微動だにせず、それをマトモに受け止めるつもりの様だった。
だが、今度は同じにはならない。


アルセウス
「!?」

華澄
「はあぁっ!!」


コキィィィンッ!!


アルセウスの頭上から、突如『冷凍ビーム』が放たれる。
華澄の口から放たれたそれは、見事にドラゴンタイプの状態となっていたアルセウスに効果抜群のダメージを与える。
そして、パァンッ!と破裂音に似た様な乾いた音が響き、アルセウスのプレートが1枚砕け散った。
これで、残りのプレートは16枚…


アルセウス
「…おのれ」

華澄
「!?」


アルセウスは砕け散ったプレートを見て、初めて表情を変える。
そして、すぐに真上の華澄に向かって左腕を薙ぎ、その波動ともいえる風圧だけで華澄を吹き飛ばした。
特に技と呼べる物ではなさそうで…強いて言うなら『八つ当たり』みたいな物か。

華澄は咄嗟に両腕を交差させてそれをガードするも、着地に失敗して地面を数m程滑ってしまった。


阿須那
「やったで…! どうやら弱点突いたらプレートは減るみたいや!」
「せやったら、この調子でじゃんじゃん攻めるで!?」


今のアルセウスは色的にノーマルタイプに戻っている。
だが、アルセウスはすぐにタイプを変え、また腕から無数の光弾を放った。
今度はそれらが地面に突き刺さり、地面エネルギーが全員に向かって行く。

だが、ここで女胤が動いた。
女胤はアルセウスの色からすぐに地面と予測し、『蝶の舞』で速度を上げて攻撃を回避してみせたのだ。
そして、そこから最速のタイミングで『種マシンガン』を散弾銃の様に一気にばら蒔く。
しかしながら、アルセウスはすぐにタイプを変えて草に有効な炎へと変化した。

女胤の技は惜しくも無効化されるが、ほぼ同時にアルセウスの背中に突き刺ささった1枚の水手裏剣。
華澄は女胤の動きに合わせて死角に入り、裁きの礫を回避して隙を突いたのだ。

パァンッ!とまたプレートが砕ける。
これで残り15枚…だが、まだ戦いは始まったばかりだ。


守連
「くっ!!」


守連は地面を伝って襲いかかる、裁きの礫を巧みに回避していた。
だが、あまりに不規則な軌道で向かって来るそれは、守連の速度を持ってしても完全回避は難しい。
守連は回避に失敗し、左足をやられて地面を転がる。

だが、痛みに耐えながらも守連はしっかりと立ち上がった。
そしてまだ足は動く事を確認し、守連はアルセウスを強く睨み付ける。
アルセウスは、ことのほか険しい表情をしており、予想外の抵抗に若干苛立っている様にも見えた。


阿須那
(アイツ…冷静さを欠いとる?)
(やっぱ恵里香が言うとった様に、悪意や憎悪を大量に取り込んだせいで、正常な思考は出来てへんねんな…)
(これなら、付け入る隙はいくらでもあるで!)


阿須那はアルセウスの異常に勝機を見る。
今のアルセウスは、本来の性能を発揮出来ていないのだと予測したのだ。

所詮、悪意や憎悪といった負の感情に侵された神は、完全に感情を捨て切れていない。
そう、今のアルセウスもまたポケモンであり、また人間なのだ。
それを確信した阿須那は、すぐに攻撃を開始する。


阿須那
「もうドラゴンと炎は無い! 行くで華澄!?」


阿須那は華澄に声をかけ、タイミングを合わせる。
アルセウスは初めてその場から移動し、自ら距離を取った。
そして阿須那が火炎放射、華澄が水手裏剣を高速で放つ。

アルセウスは回避が無理と判断したのか、足を止めてタイプチェンジを試みた。
そして炎と水を同時に受ける為、自らを水タイプに変化。
その瞬間、アルセウスの背後から緑色の光線が照射され、アルセウスの体は光に貫かれた。

だが、アルセウスもまたタダでは受けず、プレートが砕けた瞬間に毒タイプになり、裁きの礫を放つ。
それは紫の光弾となり、女胤の体を貫いて毒のエネルギーを体内に染み込ませた。


女胤
「ああぁっ!!」


大技を放った後だけに、女胤は礫をマトモに受けて絶叫する。
幸いアルセウス側も無理を通して放った為か、直撃というには甘い当たりだった。
とはいえ、毒は草の弱点…女胤はその場で膝を着き、ダメージを堪えた。


阿須那
「女胤ー! 大技は控えるんや!!」
「プレートを破壊せん事には、恐らくマトモなダメージは通らん!!」


阿須那そう叫んで女胤に注意する。
アルセウスの状態を見て、すぐに判断したのだ。
既に多くの技を受けているにも関わらず、アルセウスの体には傷ひとつ無い。

これは恐らく、プレートがダメージを肩代わりしている可能性が高いと阿須那は踏んでいた。
それならば、大きなダメージを狙う技は恐らくメリットが薄い。
あくまでプレートを破壊出来るだけのダメージが通せれば良いのだから、隙の少ない小技を使う方が安全と言えるのだろう。


華澄
「ならば、今1度行くでござる!!」


華澄は再び水手裏剣を1枚だけ作る。
既に1度割っているだけに、威力もスピードも調整は容易い。
華澄はそれをアルセウスに向けて放とうと踏み込む。
とはいえ、毒タイプのアルセウスに水は抜群ではない。
これはあくまで牽制であり、弱点を突くのは別の技。
アルセウスは特に狼狽える事なく、華澄を見て一瞬身を屈めた。

次の瞬間、アルセウスはノーマルタイプに戻り、一瞬で華澄の目前に踏み込む。
華澄は呆気に取られ、直後にアルセウスの右膝が華澄の顎を跳ね上げた。


華澄
「っぅ!?」

阿須那
「クソッタレ! 『神速』かっ!?」

守連
「華澄ちゃん!!」


守連は痛む足を無理にでも動かし、吹き飛ばされた華澄を空中でキャッチした。
華澄も歯を食い縛って痛みに耐えており、口からは血を流している。
恐らく口の中を切ったであろうその出血は、華澄の体力を如実に奪った事を証明していた。


阿須那
「!!」


阿須那はすぐにその場で『穴を掘る』を使う。
一瞬で地中に潜り、アルセウスに向かって地中を掘り進んだのだ。
それを見て、空中の守連は華澄を近くの地面に投げる。
華澄は驚くものの、何とか着地しその場で呼吸を整えた。

その際、若干守連の電気で痺れたのか、華澄はその場で片膝を着く。
それでも、華澄はアルセウスを睨んで目を離さなかった。
地面を受けるなら飛行か草。
そして、この2タイプに一貫して通るのは…


華澄
「ここでござる!!」


華澄は阿須那の攻撃タイミングを勘で読み、口から冷凍ビームを放った。
そして阿須那はほぼ同時に地中から攻撃を仕掛ける。
アルセウスは瞬時に飛び上がり、阿須那の攻撃をかわして上から阿須那を踏み潰すが、代わりに冷凍ビームの直撃を貰う羽目になった。
そして飛行のプレートをも砕かれ、アルセウスは苛立った様に阿須那の腹を足で踏み砕く。

ベキベキベキィ!と、阿須那の骨が砕かれる音が鳴り響いた。
阿須那は叫び声をあげ、そのダメージは相当な物と予想される。


阿須那
「ぐあああぁぁっ!!」

守連
「阿須那ちゃんからどいてぇぇぇぇぇっ!!」


バチバチバチィ!!と凄まじい電気がアルセウスに向かった。
だが、アルセウスはここで地面タイプにチェンジしてそれを無効化する。

しかし、それは既に女胤の読み通りだった。
女胤はダメージを感じさせない動きで腕を振り、アルセウスの背中に『エナジーボール』を叩き付けたのだ。
これで地面も割れ、残りは12タイプ…着実にアルセウスは追い詰められていた。


アルセウス
「…!! おのれ…!」


アルセウスは次第に激昂を露にしていく。
既に冷静さは失われつつあり、戦い方も段々と荒々しくなっていっている。
そこには、もはや神の威厳も失いつつある様だった。
勿論、4人もダメージはあるが、それでも誰ひとりとして勝利は諦めてはいない。

むしろ、そんなアルセウスを見て全員が笑っている。
4人は、必ず勝てると信じているのだ。
残りのプレートは12枚…まだ半分以上もあるが、4人は既に精神的に上に立っていた。

アルセウスはそんな4人の微笑を見て、更に苛立つ。
そして、アルセウスは自らタイプを変え、次の攻撃体勢に入った…



………………………




「さて皆さん…とうとうお別れの時がやって参りました」
「もう…私に語るべき事は、何も残されておりません…」
「そう!  これが最後のポケモンファイト!!」
「さぁ~! 皆さんご一緒に!!」

今までの出演者全員
「レディーーー!  ゴーーーーー!!」










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』





最終章『願い』…完結




最後の最後でネタをぶちかましてしまい、本当に申し訳ない!!
皆、ここまで読んでくれてありがとう!! 後もう少しだけ、付き合ってくださいな♪










アルセウス
「抵抗を止めよとは、もう言わぬ…!」
「我が力の源のプレートをここまで砕いた以上、万死を持って償うが良い!」

阿須那
「ぬかせや!  その時点で死亡フラグ確定や!!」


アルセウスは岩タイプに変化し、言葉を放った阿須那に裁きの礫を放った。
しかし、阿須那は既に1度その技を見ている。
故に阿須那はそれを冷静に対処した。

阿須那はその場で素早く右回転し、自身の大きな尻尾を鋼鉄化させ、『アイアンテール』で礫を叩き割る。
アルセウスはそれを見て明らかに狼狽えた。

全知全能の神でありながら、もはやこのアルセウスは人と同格だと阿須那は判断する。
アルセウスは、こんな予想外の事態に焦り、感情を露にしているのだ…
そこに、神としての威厳はもはや感じられない。


アルセウス
「!?」 

阿須那
「1度見せた技をウチに使うのは凡策や! そして、その時点で冷静さが無いで!?」


阿須那がそう言った瞬間、アルセウスの頭を守連が『瓦割り』のチョップで叩く。
すると岩のプレートは砕け、アルセウスは若干ながらも怯んだ様に見えた。

だが、すぐに守連の顔面を右拳で打抜き、守連は派手に吹き飛ばされてしまう。
今のは流石にダメージも大きく、守連はすぐに起き上がれなかった。
阿須那は痛む肋骨を抑えながらも、キッとアルセウスを見る。


阿須那
(クソッタレ…まだ11枚もあるんか?)
(今ので守連も相当なダメージやろ…流石に無理させてもうたな)
(ウチもアバラが何本もやられとる…さっきの攻撃をいなせたんは奇跡やったかもな…)


阿須那は冷静にダメージを計り、メンバーの状況を確認する。
アルセウスはプレートを失っても、肉体に実ダメージは無い。
そしてそのプレートを破壊する事は出来ても、その度にアルセウスは強烈な攻撃を確実にこちらに返して来るのだ。

阿須那はこの状況に舌打ちする…これは、明らかに不利なダメージレース。
本来なら可能な限りダメージを受けない様に立ち回るのが基本なのだ。

だが、アルセウスはプレートを犠牲にしてでも、こちらに大ダメージを与える行動に変えて来ていた。
しかし、この状況でなお阿須那は不適に笑う。
アルセウスはそれ見て更に苛立つ。

そして、アルセウスは色を変化させて攻撃体勢に入った。
阿須那はそれを見切り、その瞬間にカウンターで目を光らせて『神通力』を発動させる。
すると、アルセウスの攻撃前にプレートは割られ、裁きの礫はただのノーマル技と化して阿須那に向かって行ったのだ。
勿論、阿須那にそれはかわせないが、それを横から助ける者は現れる。

ピキィィィィィンッ!!と音が響き、阿須那の前で障壁を張る女胤の姿…
裁きの礫は全て『守る』の障壁によって弾かれた。
万能の技とはいえ、ポケモンの技はどこまでいってもポケモンの技なのだ…


女胤
「阿須那さん、大丈夫ですか!?」

阿須那
「ナイスタイミングや女胤…これで格闘も割れたな!」


この時点で、アルセウスはもはや阿須那の思考を読めていなかった。
逆に変化するタイプまで読み切られ、更に狼狽える。
そしてアルセウスはようやく理解した。
今、自分に対して必至に抵抗している4人は、世界で最も危険な存在なのだと…


アルセウス
「おのれぇ…!!」


アルセウスは更に怒り、タイプチェンジして裁きの礫を放つ。
それらは様々な虫の姿に変わり、女胤たちに対して不規則に襲いかかった。
そして、それを見て阿須那は前に出て女胤を庇う。
そのまま体を傷付けられるも、阿須那は全身から『熱風』を放ち、礫を焼き払いながらアルセウスを攻撃した。

そして虫のプレートも砕ける。
だが、阿須那も今の無茶でかなりのダメージを負い、その場で崩れてしまった。
女胤はそんな阿須那を支えてやり、ふたりでアルセウスを睨む。

アルセウスはもはや怒りに満ちていた。
何が何でもこの4人を殺すのだと、表情が物語る。
そんなアルセウスを見て、4人はただ笑う。
苦しいのは苦しい。
だけど、体の奥から力がどんどん湧き上がって来る。
今、4人の体には明らかに不可解な力が注ぎ込まれていた。



………………………



恵里香
『聞こえる?  聖君…』


「ああ、聞こえるよ…皆の声が、夢見の雫を通して伝わっていく」


俺は今まで出逢った皆の声を聞いていた。
何故、今になってそんな現象が起こったのかは俺には解らない。
だけど、それは間違いなく皆との絆が生み出した物だと俺は確信していた。
俺はそれを心に受け、雫を通して守連たちに伝えていく…



………………………



騰湖
『信じています…必ず勝つと』


『絶対に負けるんじゃねぇぞ?  俺たちが信じてやるからなっ!』

喜久乃
『まっ…ぎょっ』



守連
「…!  力が溢れる…まだ、動ける!!」


守連は騰湖たちの想いを受け、痛みのある体を突き動かす。
意識が朦朧としながらも、しっかりとアルセウスを見た。
そして駆ける…アルセウスに向かって真っ直ぐに。


アルセウス
「!!」


アルセウスはエスパータイプに変化し、守連を迎え撃つ。
守連は超能力の礫と化したそれらを全て回避してみせた。
そして、そのまま距離を詰めて掌を振るい、アルセウスの頭を『叩き落とす』。

悪タイプの技に、エスパーのプレートまで砕かれた。
だが、すぐにアルセウスは悪タイプへと変化し、至近距離の守連に攻撃を放とうとする。

その瞬間、アルセウスの背後から華澄がすれ違い様に手刀でアルセウスの背中を切る。
その手刀には虫のエネルギーが込められており、華澄は攻撃後、素早く『とんぼ返り』の効果で距離を離した。
これで、悪のプレートも砕き割れる。


アルセウス
「馬鹿な…!?  この不可解な力は何だ!?」
「何がそなたたちにそんな力を与えている!?」


アルセウスは理解出来ていなかった。
だが、4人は解っている。
聖が、皆が4人に『想い』を届けているのだと。
そして、その力は夢見の雫によって力に変わり、4人に大きな力を与えている。



舞桜
『皆、頑張って…!』

水恋
『アタシたちが信じてるよ!』

神狩
『…絶対に、勝つ』



女胤
「食らいなさい!!」

アルセウス
「!?」


女胤は更に力を増幅させ、得意の『種マシンガン』を放つ。
アルセウスは咄嗟に毒タイプに変わり、それを無効化。
そして、それを見て阿須那が再び『神通力』を当てる。
毒のプレートも砕け、アルセウスは怒り狂い、氷タイプの礫を女胤にばら蒔いた。

女胤はそれをマトモに食らうものの、それでも倒れる事なく踏み止まる。
身体中を氷で貫かれながらも、その瞳は死んでいなかった。

そして、突然アルセウスの背後から守連が瓦割りで殴り付ける。
これで氷も砕け、残りは電気、草、ゴースト、鋼、フェアリーの5枚のみ。
この時点で、もはや既に決着は着いたも同然と4人は思っていた。

それは決して慢心ではなく、確信。
何故なら、4人を支えてくれる絶大な絆が、彼女たちの背中を後押ししてくれるのだから。
もう少しだ、頑張れと、聖の想いもそれらに乗って…



白那
『大丈夫、オレたちが見守ってるから』

夏翔麗愛
『ファイト~!!』


『まっ、軽く蹴散らすんだな!』


『…信じているわよ、皆』



アルセウス
「何故だ何故だ何故だ!? この様な力は見た事が無い!!」
「そなた等の背後にいるのは、一体何だ!?」


アルセウスは守連たちの背中にうっすらと浮かぶ、僅かに見える光の粒子に恐怖していた。
あの全知全能の創造神たる神が、人間の様に恐れているのだ。
だが、それは同時にアルセウスもやはり人間なのだと4人に教えている。

万能な創造の力はあれども、その心は人間と同じだったのだ。
ましてや、悪意に飲まれて暴走したアルセウスは、本来の力は出しきれていない。


アルセウス
「おのれぇぇぇぇっ!!  何故倒れぬ!?」


アルセウスは草タイプに変化し、全員を同時に攻撃する。
裁きの礫は地面に突き刺さり、そこから大量の蔦が伸びていった。
4人はそれをかわそうとするが捕まってしまい、全員は首と体を締め付けられる。
だが、すぐに阿須那がその蔦を炎で焼き付くし、残りの3人を助けた。

そして、守連がアルセウスに両手を向け、そこから『シグナルビーム』を放つ。
赤と青の光が帯を結び、草タイプのアルセウスを貫いた。

これで草のプレートも砕け、残り4枚…アルセウスはすぐにゴーストタイプとなり、至近距離で守連のみに裁きの礫を集中させる。
黒い気流の礫が発射され、それらは守連の体を貫き、ゴーストのエネルギーで体を蝕んでいく。

守連は悲鳴をあげるが、それでも決して倒れはしなかった。
その後、阿須那の『悪の波動』がアルセウスを包む。
ゴーストのプレートも砕けた事で、守連は痛みから解放された。

そして、守連は両拳を固く握り締める。
残りは電気と鋼とフェアリーのみ…もはやアルセウスの防御は無いも同然。
更に、なおも4人の背中を押す想いは増える。



愛呂恵
『信じています、必ず勝つと』

香飛利
『頑張って~…応援してるから~』

レックウザ
『妾が着いておる!  存分に戦え!!』



アルセウス
「あ、あぁ…! ぐ…っ!  ああああああああぁぁっ!!」


アルセウスは大きく咆哮し、鋼タイプに変化する。
そして、もはや出鱈目に全方向へと裁きの礫を発射した。
鋼鉄の刃と化したそれらは、全員を無秩序に狙う。
だが、所詮は分散された攻撃…今の4人を仕留める事など出来はしなかった。

今更、体のいくつかを切り裂かれただけでは、もう誰も怯まない。
そして、女胤は片手に、本来ドレディアが使えないはずの炎を練る。


女胤
「隠し玉ですが、私の『目覚めるパワー』を見せて差し上げますわ!!」


女胤は目覚めるパワーによって作り出した、炎球をアルセウスに投擲する。
そこまでの威力は無いものの、それは十分アルセウスのプレートは破壊出来た。

そして、アルセウスはフェアリーのプレートで変化し、同じ様に全体に礫を放つ。
守連はそれを受けながらも、接近して全力の『アイアンテール』をアルセウスの体に見舞う。
犠牲は大きいものの、遂にアルセウスのプレートは残り1枚となった。

そのまま守連はタイプチェンジのタイミングを先読みし、爪先を地面に突き刺して『泥かけ』を放つ。
地面から蹴り上げられたその技は威力等感じられないものの、それでも最後の電気プレートは粉々に砕け散る…


アルセウス
「……!?」

守連
「これで…もう貴女を守る物は無くなったよ?」


守連は、誰にも見せた事の無い程の気迫を込めた表情で、しっかりとアルセウスを見る。
守連は既に全身血だらけでボロボロの体だが、それでも力が衰える様子は無かった。

アルセウスはそんな守連に睨まれ、恐怖する。
いや、本来のアルセウスであれば恐怖などは有り得ない。
今のアルセウスは、数々の並行世界から放たれた悪意と憎悪を受け止め、もはや正常な思考が出来ていないのだ。

それは同時に、アルセウスを人間の様に貶めている鎖でもあると言えた。
そう…この怯えもまた、今のアルセウスだからこそ感じる負の感情なのだ。


アルセウス
「おのれ…何故、ここまでの力が!?」

守連
「貴女にも、見えているんでしょ?」



櫻桃
『ほら、もうちょっとだ…頑張りな』

サーナイト
『頑張ってください…信じています』

ラルトス
『がんば~!』



守連の、いや4人の体には、更に想いの力が集中していく。
アルセウスは理解不能のその力に、ただ後ずさる。


アルセウス
「こんな、こんな不可解な力…理解出来ぬ!!」

守連
「違う…今の貴女はアルセウスじゃないから解らないだけ」


守連は抑揚の無い口調でそう言い放った。
アルセウスは意味が解らない…といった顔で守連を見ている。
守連はそれ以上語る事はせず、右拳を固く握り、少し後ろに引いて構える。

隙だらけの状態だが、守連は最大の力を拳に込め、首から下げられている電気玉から全ての力を吸い上げていた。
その際に凄まじい電気が全身から弾け、その右拳に守連の全電力が集まっているのが傍目からでも解る。
更に、ここで想いの力はまだ加速した。



浮狼
『信じます…皆の力を』

ペンドラー
『そら行け~!!』

ホイーガ姉妹
『えっさ!  ほいさっ!!』

アブリボン
『頑張れ頑張れ!』

クワガノン
『やれる、絶対に!』

ケケンカニ
『思いっきりやっちまえーーー!!』



アルセウス
「う…あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


アルセウスは無様に怯え、拳を固く握り、それを守連のがら空きの顔面に体重をかけて叩き付けた。
凄まじい打撃音がしたが、それでも守連の首は微動だにしない。

まるで、人間が大岩か何かを殴り付けた様な…とでも言えば良いだろうか?
アルセウスはその結果に呆然とし、拳を無気力に引き戻す。
そして守連の目は、完全にアルセウスの怯えた目を捉えていた。



オタチ
『皆さん…どうか』

ジグザクマ
『決して、諦めないで…』

エイパム
『私たちも応援してるから…』

ヨーテリー
『だから…頑張って!』

悠和
『私たちは…信じています!』



遂に最後の絆が、想いが、守連の背中を後押しする。
もはやアルセウスには抵抗の意志も薄れていた。
それ程に圧倒的な存在感。
今、アルセウスの前にいるのは、まさしく神にも等しい力を纏う存在なのかもしれない。

そんな守連は、大きく息を吸い込んで息を止める。
そこから思いっきり地面を踏み込み、右拳をただ乱暴にアルセウスの顔面に振るった。

アルセウスの顔は、その衝撃で激しく歪み、頭蓋が砕けるかと思う程の威力をその身に受ける。
そして、アルセウスは人形の様に激しく吹っ飛び、そのまま地を転がった…

今の衝撃でアルセウスの顔面は酷く歪み、首はあらぬ方向に曲がり、地面との激突で手足も折れている。
守連はその姿を見る事無く、拳を振り抜いた体勢から膝を落とし、その場で両膝を着いた。

そして荒い息を吐いた後、何も無い天に向けて咆哮する。
この瞬間、戦いは終わった…4人は、聖たちは、勝ったのだ。



………………………




「皆…やったのか?」

恵里香
『うん…終わったよ、今度こそ…ボクたちの…勝利、だ……!』


恵里香は泣いている様だった。
もう、何度繰り返し見たであろう、滅びの結末。
恵里香はそんな絶望の未来を変える為、幾度と無く時渡りをし、未来を探し続けていた。

だけど、それでも見付からず、最終的に最果てへと辿り着き、時間の外に放り出されて全ての滅びを悟る。
しかし、恵里香は諦めなかった。

あの何も無い世界で、ただ俺が来るのを待ち…希望を探したんだ。
俺は1度諦めたのに、それでも恵里香は諦めなかった。
そして、遂に…その悲願は報われたんだな。



「…光が」


世界は光の粒子へと変わっていく。
ここから、歴史が修正されていくんだろう…
俺は、最後の仕事を果たす事にする。

そして、俺は順番で家族に最期の礼を述べる事にした…



………………………




『ありがとう、阿須那』

阿須那
「…?  聖……?」


アルセウスが消えた後、阿須那もまた光の粒子へと変わっていく。
だが、夢見の雫の力により、阿須那は本来いた元の世界へと送られる。
聖に関する記憶を、犠牲とする事で…



『華澄、結婚してやれなくてゴメンな…』

華澄
「聖殿!?  一体…っ!?」


次に華澄が元の世界へと帰る。
そして、聖は残りのふたりもすぐに送る事に。



『女胤、元気でな…』

女胤
「聖様!?」


残りは守連。
守連は皆が突然いなくなって呆然としている。
だが、聖はそんな守連に、優しく礼を言った。



『頑張ったな…守連』
『そして、ありがとう…救ってくれて』

守連
「…さと、し……さん」


守連は涙を流した。
そして、全てが消え行く前に元の世界に送られる。
これで、この世界に残されたのは…聖ただひとりだけだった。



………………………




「………」
「……」
「…終わった、な」


俺は消え行く世界を尻目に、最後になるであろう雫の力を行使する。
そして、俺は正真正銘、最後の世界移動を行った…
これで俺は夢から覚め、死に逝く体を取り戻すのだ。



………………………




『…!? な、何で…!?』


俺は体に違和感を感じ、目を開くと真っ暗闇にいた。
いや、どっちかというと最果てにいる時と同じ様な感覚だ。
でも、俺は現実世界に戻る様に雫を行使したはず…



『それは、我が呼び寄せたのだ』


突然聞こえる曖昧な響きの声、そして気が付くと俺の目の前には後光を放つアルセウスがいた。
いや、この場合は…アルセウス様と言った方が本来は良いのかもしれないが。

とりあえず、そんな神様は無感情ながら少しだけ微笑み、俺に言葉を告げる。
その声はまるで頭に響く様な響きで、この世界が酷く曖昧なのだと俺は感じた。


アルセウス
『夢見の雫を継承し人の子よ…まずは礼を言う』
『よくぞ、暴走した我を止めてくれた…』


アルセウスさんは、どうやら正常に戻っている様だった。
守連たちにやられた事で、悪意の塊となったアルセウスの体は滅び、本来のアルセウスさんに戻れたんだろうな…



『礼なんて言われる覚えは無いですよ…元はと言えば、俺が無節操に並行世界を増やしてしまったせいなんですから』

アルセウス
『確かに…それも一因ではある』
『だが、正確には少し違うのだ人の子よ…いや、聖よ』


アルセウスさんは一切表情を変える事無く、曖昧な響きでそう告げた。
少し違うって、じゃあ何か別の要因が?


アルセウス
『我が悪意の底に堕ちたのは、夢見の雫のせいなのだ』


『…え!?』


ここで、いきなりトンデモ設定公開ですかい!?
もうそろそろ作品終わるタイミングですよ!?


アルセウス
『正確には、先々代継承者の生み出した濁りを浄化する際に、我がその悪意と憎悪を体に取り込んだ』
『そこから先…本来ならば、ゆっくり時間をかけて体内で浄化するはずだったのだが…』
『完全に浄化が終わる前に、そなたが不用意に並行世界を作り過ぎたが為、再び雫の汚染が進み、その際に悪意が残っている我が心をも蝕んでしまった…』


何てこった…やっぱ俺が引き金は弾いたって事なんだな。
しかし、雫の浄化はアルセウスさんが体で取り込んでやってた事だったのか。
だけど、それが完全に浄化される前にガキの俺がイタズラに使い続けたから…


アルセウス
『だが、その事はもう良いのだ…』
『ようやく、こうやって元の我に戻れた…それにはただ感謝をしたい』


『そんな…俺なんかが、勿体無いです』
『俺はただの自己満足で、今まで出逢った皆を救いたかっただけなんですから…』


俺は元々アルセウスさんを救うつもりで戦ったわけじゃない。
ただ皆を救いたいから、それだけで戦ったんだ…
そんな俺の反応に対して、アルセウスさんは少しだけ目を瞑り、そして瞼を開いて右手を俺に差し出し、こう言った。


アルセウス
『…聖よ、夢見の雫を』


『え?  あ、はい…』


俺は突然そう言われて雫を出す。
濁りもかなり増し、もうそろそろ透き通ってはなくなってきたな。
そんな雫を見て、アルセウスさんは僅かに俯く。
何かを思うかの様な仕草だったが、俺には何とも言えなかった。


アルセウス
『美しい雫だ…かつて、ここまで美しい濁りを出した継承者は、先代以外にいなかった』


『そ、そうなんですか?  って、アルセウスさんは夢見の雫と何か関係が!?』


俺が聞いてみると、アルセウスさんは数秒黙る。
そして、意を決した様に、俺を見てこう告げた。


アルセウス
『これは、遥か昔に我が生み出した物だ』


『!?  アルセウス、さんが…?』
『で、でも何の為に!?  こんな、一歩間違えたら世界すら危険になる代物…!』


俺が目を見開いて驚くが、アルセウスさんは全く表情を変えない。
そして、淡々とした口調で俺に説明し始めた。


アルセウス
『元々は、ポケモンの為に生み出したのだ』
『だが、最初の継承者はそれを1度も使う事無く、その存在にすら気付かずに生涯を閉じた』
『その後も継承者を変え続けて観測を続けたが、さして雫は使われる事も少なく、そもそも存在を認知する者も少ないという結果が何代も続いた』
『やがて、その力を理解した者が遂に現れたが、雫は即暴走してしまった…』


暴走…か。
やっぱりコイツは爆弾でもあったんだな。
結果どうなるかは俺には解らなかったが、暴走させたソイツはどうなったのか…?



『…暴走した奴は、ちなみにどうなったんですか?』


俺は気になったので、恐る恐る聞いてみた。
するとアルセウスさんは簡単にこう言う。


アルセウス
『世界ごと消滅した…あくまで並行世界のひとつがではあるが』
『その後、雫はまた別の世界にて継承者を選び、またその姿を隠し続けた』


聞いて俺は息を飲む。
やっぱり、トンデモだったな…世界消滅とは。
やっぱコイツは怖い代物だ…俺みたいな人間がホントに所持していて良かったのか?


アルセウス
『それから幾星霜もの間、我は夢見の雫を見守ってきたが、やはりそれを正しく扱う者は現れなかった…』
『数を数えるのも忘れる程の継承者を見て来て、先々代の継承者が雫を暴走させた時、我も遂に諦めようと思った』
『やはり…夢見の雫は悪意を呼ぶ事しか出来なかったのだと我は結論を出し、諦め様としたのだ』
『次の者を最後にと我は思い、そして最後の最後でひとりの少女が継承者に選ばれた』
『それがそなたの先代継承者であり、まだ幼きケンホロウだ』
『そして、その者は死に逝くギリギリの状態で雫を使い、世界移動を果たした』


『幼いケンホロウ…が、世界移動を?』


先代の継承者はケンホロウの少女ねぇ…?
ケンホロウって最終進化系だけど、子供でもなれるモンなのか。
まぁ、世の中レベル詐欺で進化する奴らなんていくらでもいるのだが…


アルセウス
『あれは、まだそなたが生まれる前の頃だったな』
『そなたにとっては、20年程前の話…その時、その者は夢見の雫に人化を願い、過去の記憶を捨てる事で人となる事を願った』
『そして、その者はそなたのいる世界へと移動したのだ…人化したポケモンとして』


俺はギョッとする。
それはつまり…現実世界には既にポケモン娘がいたという事実で、その人が夢見の雫の先代継承者。
20年前で子供って事は、もしかしたらまだ生きている可能性も?


アルセウス
『…その者は、ただ幸せになりたいと願っただけだった』
『今までの長い継承者の歴史で、そんな悪意の欠片も無い純粋な願いを願ったのは、その者だけだった』
『そしてその者は、それ以降自分の為には2度と雫を使う事無く、そなたに雫を託したのだ』


『えっ!?  ま、まさか…そのケンホロウって、俺の知り合いなんですか!?』


アルセウスさんは肯定も否定もしなかった。
俺は戸惑う…そして、俺は思い出す。
そんな事を願う様な知り合いなんて、俺には世界でひとりしか知らないのだから…
そして、俺は全て理解する…それこそが全ての発端で、俺の運命や世界の命運すらも変えてしまったのだと…


アルセウス
『…そのケンホロウの選択した道を見届け、ようやく我は満足した』
『本来は、弱き子らの為にとこの雫を造り、長い…永い時を経て、そしてようやく相応しい継承者に出逢えた』
『そんな幸せな願いを求めてくれた事に、我は感謝したい…先代にそしてそなたに』
『だから、我の代わりに伝えてはくれぬか?  先代に…我が、感謝していたと』



『あ…で、でも俺…それは多分、無理だと思います』


俺は俯いてそう答える。
現実の俺は自殺している…もう、後は死に逝くのを受け入れるだけなのだから…
しかし、アルセウスさんはそんな俺に対して、優しく言葉を告げる。


アルセウス
『…無理ではない、そなたが願うのであれば、それは必ず叶う』
『夢見の雫は、弱き子の為にと思って造った、奇跡の雫』
『その願いが、正しい心で願われるならば、必ず雫は答えてくれるだろう…』


そう言ってアルセウスさんは、夢見の雫から濁りを体内に吸い込む。
夢見の雫は濁りが綺麗に浄化され、完全に透き通った透明の玉に戻ったのだ。
そしてアルセウスさんはそんな雫に手をかざし、雫は白く輝きを放つ。
それを、アルセウスさんは俺に再び返した。
俺はそれを受け取ると、今までに無い力を感じる。


アルセウス
『…我が創造の力を、少しだけその雫に与えた』
『我が創造の力を使えるのは1度きりだが、そなたはその雫に何を願う?』
『そなたが好きに願うが良い…これは、我の感謝の気持ちだ』
『さて、そろそろ我も、本来の世界に還ろう』
『最後に、ありがとう聖よ…そなたが、これからも正しい継承者である事を、我は願う』


アルセウスさんは、最後に優しく微笑んでそう言い、光の粒子となって消えてしまった。
俺はポツンとそこにひとり残され、綺麗になって輝きを放つ夢見の雫を見る。
正しい心で…か。

だったら、俺が願う願いは簡単だ…



『俺の、願いは……』










………………………











「………」
「……」
「…」


俺は重い瞼を開き、目を覚ます。
そして、最初に見えるのは白い天井。
家の天井じゃない…ここは、どこだ?
俺は、ダルすぎる体を無理にでも起こし、状況を確認した。
何やらチューブとかが顔や体に付けられており、俺は咳をして顔に付けられていたチューブを無理矢理外した。
どうやら、無理矢理流し込まれてた様だな…気持ち悪ぃ~



「って事は、ここは病院か…」


とどのつまり…俺は結局生き延びたらしい。
運が良かったのかね…? わざわざ1番強力な睡眠薬選んだんだってのに。
とはいえ、死ぬほど頭が重い…睡眠薬自殺は、後遺症も相当あるって話だったからな。
くっそ、体が動くのは一応僥倖か…これからはマトモに体鍛えないとな。
改めて現実の俺の体が貧弱なもやしなのだと再確認する。
やれやれ、しばらくは大変そうだ…



「さて、とりあえず…どうするかな?」


まぁ、どうするといっても体がマトモに動かないのだが。
ちなみに、知っての通り俺には血の繋がった家族はもういない。
故に、俺の現実の家族は存在しないのだ。
ただ、それでも今までずっと俺の面倒を見てくれた人はいる。
きっと、その人は…俺の所に来てくれるだろう。

俺がそんな事を考えていると、タイミング良く病室のドアが開いた。
この部屋は俺しかいない様で、専用の個室みたいだ。
そんな部屋にひとり入って来た人間を見て、俺は一言こう言う。



「…おはよう、風路姉さん」

風路
「っ…!? バ… バカァッ!!  何よそれぇ!?」
「こんなに…こんなに! こんなに心配させてぇぇ!!」
「何で、何でそんなに嬉しそうな顔してるのよぉぉぉっ!!」


俺は、ただひとり俺の面倒を見てくれていた風路姉さんに飛び付かれ、そしてただ抱き締められた。
そう、この人は…苧環 風路で、俺の姉とも言える大事な人。
現実世界における、喫茶『こすぷれ~ん』の店長、苧環 勇気さんの養子で、俺の幼馴染みの姉さんだ。

そして、恐らく…先代の夢見の雫、継承者。
現実世界の勇気さんと風路姉さんは、元々俺の両親と知り合いで、俺の両親が死んでからは風路姉さん共々、ずっと面倒見てくれてたんだ…
色々と言いたい事はあるんだが、とりあえず俺は申し訳なさそうにまず謝る。



「…ゴメン、今まで心配ばかりかけて」
「でも、もう大丈夫だから…もう、姉さんを悲しませる事は、絶対にしないから」

風路
「うぅ…っ!  良かったぁ…生きててくれてっ、本当に…良かったぁぁ……!!」


姉さんは余程嬉しかったのか、そのまま泣き止みそうに無かったが、俺はやや強引に姉さんの体を離し、先にこう言う。



「姉さん、本当にありがとう」

風路
「えっ?  な、何…どうしたの急に?」
「あ、あははっ…そういえば姉さんだなんて…随分久し振りに呼ばれたね♪」


姉さんは涙を拭い、笑顔でそう言う。
そうだったな…確かに、中学に入ってから俺はロクに姉さんとは会話してない。
全てに絶望して、諦めて、俺はただ優しかった姉さんの手も振り払って自殺を選んだんだから。
そんな自殺する直前だって、俺は何も言わずに、遺書だけ残して死ぬつもりだったからな。



「姉さん、実はケンホロウだったんだね…知らなかったよ」

風路
「!?  ど、どうしてその事…? お父さん以外、ほとんど誰も知らないはずなのに」


驚いて不思議がる姉さんに、俺は夢見の雫を出してみせた。
その色は濁りひとつ無く、綺麗な物。
もうあの創造の輝きは失われているが、夢見の雫としての性能には問題が無い様だった。
姉さんは、驚いた顔でそれを見る。
そして、姉さんは微笑んでこう言ってくれた。


風路
「そっか、それが神様のくれた幸せの為の力なんだね…」
「って事は、もしかしてその力で私の知り合いにでも会ったの~?」
「まぁ、多分無いとは思うんだけど…」


「この雫を造った人に教えてもらったんだ」
「姉さんが俺にコイツを託したって」


姉さんはそれを聞いて更に驚く。
俺はそれ以上は特に追求せず、息を軽く吐いた。
そして、優しい神様との約束を果たす為に、俺はこう続ける。



「神様がこう言ってたよ、姉さんに感謝してるって」
「この雫を正しく使ってくれて、ありがとうって…」

風路
「うん、そっか…それなら、良かった♪」


姉さんは屈託の無い、優しい笑顔でそう笑う。
さて、そろそろ俺も家に帰らないとな…



「姉さん、俺の着替えある?」

風路
「うん、一応持って来てるよ?」
「でも、1度先生に診てもらった方が…」


確かに後遺症とかあったら心配だし、診察は受けた方が良いな。
俺はとりあえず姉さんに付き添ってもらい、1度診察室に向かう。
そして担当医の人に診察を受け、俺は体に異常が無いのを確認して安堵した。



………………………



担当医
「ふむ、とりあえず後遺症の心配は無さそうだし、保護者の同伴を条件に退院を認めよう」
「だが!  とりあえず医者として一言言っておく…」
「悲しんでくれる人がいる内は、絶対に自殺なんてするんじゃない」
「残された人は、君以上に苦しむ事になるんだからな?」


俺は担当医にキツく言われ、ハイ…と申し訳なさそうに頷く。
とりあえず…俺はこうして姉さんと一緒に家に戻る事になった。



………………………




「姉さん、俺の家にはもう行った?」

風路
「うん、着替え取りに1度行ったけど?」


俺は姉さんの運転する車で帰宅する。
街並みは特に変わり無いな…夢の世界は本当にそっくりだった。
俺はそんな現実世界の街並みを助手席から眺め、姉さんにこう質問する。



「何か、家で変わった所は無かった?」


俺の質問に姉さんは?を浮かべる。
そっか…まぁ、それならそれで良いんだが。
俺は、微笑して風景を眺める。
やがて見慣れた道、見慣れた公園、そして見慣れた家に辿り着く。
俺は、その全てが懐かしく感じ、姉さんから家の鍵を受け取り、玄関の扉を開けようとした。
あえて鍵は差し込まず、俺はドアノブに手をかけて無造作にドアを開ける。

やはり鍵はかかっておらず、姉さんは驚いていたが…俺は家の中から見える光景に、ただ微笑みを向けた。
その先から、迎えてくれたのは…


守連
「あ…」


「ただいま、守連…」

守連
「…うんっ、お帰りなさい聖さん♪」


そう、そこにいたのは守連だった。
俺たちは守連に出迎えられ、とりあえず家の中に入る。
姉さんは?を浮かべてかなり戸惑っているが、今は置いておく。
そして、中に入ると他の面子も次々に顔を見せてくれた。


阿須那
「おっ!  お帰り聖~♪  あれ、風路はんもおるやん?」

華澄
「本当ですな…ですが、こっちの世界で拙者たちと面識は無いのでは?」


阿須那と華澄はそんな事を話していたが、俺は軽く会釈だけして女胤を見る。
どうやら掃除をしていた様で、手には掃除機が握られていた。
気が利く様で何より…俺が笑うと、女胤も微笑んで迎えてくれた。


女胤
「お帰りなさいませ、聖様♪」


「おう、悪いな掃除をしてくれたみたいで」

女胤
「い、いえ…むしろほとんど掃除する所が無くて、途方に暮れていましたわ…」


まぁ、そりゃそうか…姉さんが基本掃除してくれてただろうしな。
俺はとりあえず皆を見て苦笑する、そして安心した。
そう、これが…俺の願った願い。
最初で最後の、たった1度きりの創造の力の行使。

それは…家族を創る事。
そう、俺たちはここからもう1度歩み始める。
新たに、現実の世界で家族になる事で……



















最終話 『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢から目覚めた。だが、今はこの現実が1番幸せだ♪』





Happy End…♪

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