最終章 第3話

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「おい、お前…俺の名を言ってみろ?」

恵里香
「ジャッカル!!」


「ぬぁ~ぜだぁ~!?」


まさかそう返されるとは思っていなかったぜ…やるな恵里香。
まぁともあれ、これでようやくアルセウスに挑めるって所だ。
俺たちは最果てに戻っており、とりあえず今後の計画を相談する事にした。


守連
「どうするの? すぐに行く?」

華澄
「ですが、阿須那殿たちの疲労もありましょう…」

阿須那
「まぁ、万全とは言いがたいわな…腹も減ってたし」

女胤
「そうですね、ほぼ無傷とはいえ技は放っていますし」
「万全を期すなら、もう1日は静養したい所ですね…」


確かに、あの世紀末的世界では心を休ませる暇がなかったからな…
たった1週間とはいえ、精神的には参ってるか…


恵里香
「まぁ、とんだ寄り道だったからね…」
「それじゃあ、もう1日安全な世界で静養すると良いよ」
「流石にアルセウスも直接動く事は無いだろうし」
「刺客も、今更送られた所で返り討ちが関の山だろうからね…」


「そうなのか? だけど何人も集団で来られたらヤバイんじゃ?」

恵里香
「それだけの数がいれば有りうるけど、キミたちは行く先々でその幹部を倒しちゃったからね…」
「結果的に刺客を減らした事になってるし、多分そんなに強力な幹部はもういないと思うよ?」
「来た所で、烏合の衆じゃ時間の無駄だし」


俺はとりあえず成る程、と思う。
考えてもみれば、何だかんだでボスは倒し続けて来たからな…
今まで繋いだ絆のお陰とはいえ、本当に奇跡みたいな事なのかもしれない。


恵里香
「というわけで、行ってらっしゃい♪」


「分かったよ…すまないな、恵里香」

恵里香
「良いよ、ボクは聖君の嫁なんだから♪」


そう笑い、恵里香は道を示す。
俺たちは全員でゆっくりと歩いて行った。
そして、その先にある世界は…



………………………



女性
「いらっしゃいませ~! 5名様ですか!?」


「え…? あ、いや俺たちは…」

阿須那
「何やここ…木造建築みたいやけど」

華澄
「ど、どうするのですか? 拙者たちはこの世界の通貨を持っておりませぬぞ?」

女胤
「そもそも、世界ごとに通貨も違うでしょうし、持っていても使えるかどうか…」


俺たちはいきなり、どこかの建物内に送られていた。
どうやら玄関先の様で、どことなく旅館の雰囲気を感じる。
ニコニコ顔で俺たちを見ている女性は、藍色の着物を着ており、頭に生えてる耳からポケモン娘なのは解った。


女性
「あの~もしかして、聖様じゃありませんか?」


「はっ!? な、何で知ってるんですか!?」


俺は思わずオーバーリアクションで驚く。
そんな俺を見て女性はあははと笑い…


女性
「あ、やっぱり~! えっと、私パルキア様の城で働いてたオタチです♪」


「えっ!? もしかして白那さんの所のメイドさん!?」


俺の言葉にオタチさんは?を浮かべる。
そ、そっか…名前知ってるわけないもんな。
俺は改めてこう言い直す。



「あの、パルキアさんの所のメイドさんだったんですか?」

オタチ
「はい♪ 他のメイド仲間も何人か一緒にここにいますよ~?」
「じゃあ、とりあえず聖様ご一行でご案内しますね~♪」


「ちょ、ちょっと待って! 俺たち金持ってないから!!」


俺が慌てて止めると、オタチさんはまた、あははっと笑い。


オタチ
「タダで良いですよ~♪ 聖様からお金は貰えませんし、ゆっくり休んでいってください!」


簡単にそう言われる…って、良いのか~?
流石に、これはどうかと思うのだが…


阿須那
「ええんちゃう? 向こうがああ言うとるんやし…」

華澄
「そうですな…折角のご好意を無下にするのも」

守連
「私、お腹空いた~…」

女胤
「とりあえず、体は洗いたいですわね…」


俺はやれやれ…と諦めムードになる。
確かに好意なら素直に受けるのが礼儀か…
俺は素直に甘える事にし、オタチさんの案内を受ける事にした。



………………………



オタチ
「それでは! こちらがお部屋になります!!」
「全員相部屋でよろしかったでしょうか?」


「いや、流石に俺は…」
阿須那&女胤
「是非お願いします!!」

守連
「あ、あはは…」

華澄
「あ、あ、あ、相部屋…」(赤面)


俺が断る前に阿須那と女胤が無理矢理通す。
さてさてさ~て? これは聖ちんぴんち?
守連は苦笑いを浮かべ、華澄はオクタンに進化している。
オタチさんも笑顔でお楽しみください♪と、冗談混じりに言って出て行ってしまった…
おいおい…大丈夫かこれ?
流石に不沈艦の俺でも、酒池肉林とか耐えられる自信無いぞ?
しかし、もはや逃げ場無しか…やむをえんな。
いざとなったら雫使って強制帰還だ!
もう、それしか無い!!



………………………




「失礼します…担当のジグザグマですが」


「あ、どうも…貴女も城の?」


俺が言うと、ジグザグマさんはハイと答えた。
割とフツーの人っぽい。
何だで今までのポケモン娘ってアクが強いのばっかだったからなぁ~
ジグザグマさんも着物姿で、頭の耳がピコピコしていた。
そして、確認を取る様にこう聞く。


ジグザグマ
「御食事は先になされますか? それとも先に御入浴なされますか?」


「あ~俺は入浴するわ、流石に砂まみれだし…」
「洗濯とかもお願い出来ますかね?」


俺が聞くと、ジグザグマさんは優しい笑顔でハイと答えた。
その後、とりあえず色々説明を受けて俺たちはまず入浴する事に…
そして、俺は最大の鬼門を目の前にした。



………………………




「…ふ、これも男のサガか」
「だが、俺はこの程度では屈さん!!」

阿須那
「聖~背中洗ったろか~? ウチの、か・ら・だ・で♪」


「間に合ってます、帰ってください…てかカエレッ!」


俺は思わずどこぞの幼女みたく反応してしまう。
流石に物を投げ付けはしなかったが、そもそも俺はどこも直視出来ん!!
つか隠せよ!! 何で真っ裸なんだよ!?
混浴オンリーなんて聞いてないよ!!


女胤
「聖様、我慢なされず…さ、早く私の膣内に」


「それ以上俺に近付くなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


俺は皆に背を向けたまま叫びをあげる。
もはや精神は発狂寸前だ、次はどこだ…どこから来る!?
これ以上は息子が爆発しかねん。
つか、げきおこぷんぷん丸になってる。
つか、マジでいい加減に……


華澄
「おふた方…そろそろ目に余りますが」

阿須那
「ひぃっ!? 華澄!?」
女胤
「い、いつの間に背後に…!?」


俺は見えてないが、どうやら阿須那たちの後ろに華澄が立っているらしい。
そして、声色から華澄がアサシンモードに入っているのは間違いない。
その重圧に恐怖したのか、阿須那と女胤はピクリとも動けない様だ。


阿須那
「な、なぁ華澄~? 何やったらアンタから先にヤらせたるから見逃して~なぁ?」

華澄
「…それは宣戦布告と判断します、当方に…迎撃の用意あり!」

女胤
「覚悟完了~!?」


何だか知らんが、華澄さんが覚悟完了した様だ。
俺は既に頭が冷静になり、息子も怒りを鎮めていた。
俺はそのままシャワーで全身を洗い、さっさと湯船に向かう事にする。


阿須那
「あ、さと…」

華澄
「余所見とは余裕ですな…?」

阿須那
「お、落ち着こ華澄! なっ!?」


阿須那は華澄に後ろから首を捕まれ、恐怖におののく。
女胤は既に逃走しており、小物っぷりを披露していた。
俺はゆっくりと温泉に浸かり、体を休める。



「やれやれだぜ」

守連
「皆元気だね~♪」


守連はちゃんと体にタオルを巻いて隠している。
全く、アイツ等もこれ位慎ましければ良いのだが。
華澄もしっかりとタオルを巻いているし、ちゃんと自制しているな。
阿須那と女胤はどうにもタガが外れがちの様だ。
まぁ、最近は華澄さんも別ベクトルでタガが外れがちだが…


華澄
「さて、まずは拙者が体を洗って差し上げましょう…」
「ただし、命の保証は致しかねますが…」

阿須那
「ひぃぃぃっ!? もしかしてハイドロポンプですかぁぁぁぁっ!?」


「YESYESYES! …オーマイゴッド」
「って、流石にそれは待て華澄さん!!」
「休む為に来てるのにダメージ増やしてどうする!?」

華澄
「…良かったですな、助けが入って」

阿須那
「はぁ…はぁ…!」


華澄は酷く無感情な低い声で阿須那に呟き、手を離す。
阿須那は恐怖から解放されその場で座り込んだ。
ふぅ…とりあえず収まったか。



「とりあえず、ちゃんと体洗ってからタオル巻いて風呂に入れ」
「何の為に別のバスタオル用意してもらったんだか解らん様になる」

華澄
「全くですな…阿須那殿も少し大人としての自制心を出してほしい物です」


そう言って華澄はゆっくりと湯船に浸かる。
…俺から可能な限り離れた位置で。



「…華澄さん? 何もそこまで離れんでも…」

華澄
「めめめ! 滅相もない!! せせせ、拙者はここで構いませぬ!!」


あらら…華澄さんは華澄さんで自制心が強すぎる様ですな。
まぁ、これも華澄さんらしくて良いか。
俺はとりあえずゆったりと温泉を楽しんだ。
そういや、守連は電気とか大丈夫なのか? 一緒に入ってるがとりあえず感電はしてないけど…



「お前、電気とかコントロールしてるのか?」

守連
「え? ううん…基本的には出来ないよ?」


あっさり否定されたな…って、それ地味に感電の危機があるんじゃなかろうか?
とはいえ、俺は今の所大丈夫なのでそのままゆったりしていた。



「感電とか意外に大丈夫なんだな…」

守連
「そういえばそうだね…何でだろ?」


どうやら守連にも解らないらしい。
まぁ、ピカチュウは頬袋に電気を溜めるわけだから、そこさえ水に触れなきゃ大丈夫なのかもな…



「そういえば、この温泉って効能は?」

守連
「えっと…あ、あそこに書いてあるね~」
「ん~っと、精力増強、美肌効果、精巣、卵巣の活動促進…」


「ハイダメーーー!! 何じゃそのピンポイントなエロ効能は!?」
「ただでさえ混浴なのに、子作りしてくださいと言わんばかりの効能じゃねぇか!!」
「つか、そんな効能ホントにあんのか!?」(多分ありません)


俺は叫びながらさっさと上がる事にした。
流石に色々危険すぎるわっ!



………………………




「お~、こりゃ美味そう♪」

守連
「はぅ~、早く食べよ~?」


俺たちは風呂上がりに1階の食堂で夕飯を取る事に。
そして、流石に守連が限界の様なので、俺たちはとりあえず食事を開始した。
守連は相変わらずバクバク食うな…
俺もまず目に入った小魚の煮付けを頂く。



「おっ、しっかり醤油が染み込んでる」
「ってか、この世界偉く和風なんだな…」

華澄
「確かに、食事もほぼ和食で統一されております…」

阿須那
「まぁ、とりあえず腹に溜まればええわ」
「あの世界やとマトモに飯も食えんかったし…」

女胤
「確かに、今はそれだけでも嬉しく思いますね…」


ちなみに皆今は浴衣に着替えている。
服は全員分洗濯してもらっており、今日明日はこっちで休んで行く予定だ。
とりあえず、ゆっくり休みたい所だな。



(まぁ、無理なんだろうが…)


既に確信に近いモノを感じていた。
絶対マトモに過ごせるわけ無い…
俺はそう思いながらも、久し振りの美味しい和食を楽しむ。



………………………




「…ちっ、やはりこうなるのか」


夜、寝静まる時間。
俺は危険を感じ、トイレに行く振りをして部屋を出て行き、外から様子を見ていた。
すると、女胤がやけに不振な行動を取りながら部屋に入って行く。
俺はそれを確認して、とりあえず部屋から離れた。

チクショウ…こうなったらどっか別の所で寝るしかないか。
あの部屋はあまりにも危険すぎる…もはや逃げ場の無い場所でゴキブリの大群と戦う様な物。
または○クズ手術無しで○ラフォーマーと戦う様な物だ。



「人が人でない者と戦うのはギャンブルだ!」


と、どこかの名言を思い出す。
ちなみに俺は完全にフツーの人間なので戦う気も無い。
とりあえず下に降りるか…部屋は2階だし、なるべくバレ難い所で寝るとしよう。
俺はそう思い、頭を掻きながら下に降りた。



………………………




「…この辺なら良いか」


下に降りて色々歩き回っていると、俺は誰もいない空間を見付ける。
割と狭い通路の端にベンチを発見し、俺はそこで横になる事にした。
アルミ材のベンチだったので流石に体が痛いが、気にせず眠る。
つか、もうフツーに眠い……



………………………




「………」


どれ位時間が経っただろうか?
俺は微睡みながら、少しづつ意識を覚醒させる。
が、後頭部に違和感があった…確か俺は、ベンチで寝てたはずだが……あれ?



「何か…柔らかい」


俺は、頭の下にある何か柔らかい物を手でニギニギする。
すると、それは少しビクッと動き、俺はこれが生きている事を理解した。
そして、まだ微妙に眠い頭を天井に向ける。
そこで俺の見た光景は……



「コー…ホー!」


「………」


俺は心の中で、ヒィィィィィィッ!?と叫ぶ。
何故か俺は誰かに膝枕されている様なのだが、俺と目が合った人は○ース・ベイダー似の誰かだったのだ。
いやよく見たら大分違うんだが、その人は茶色の鉄仮面(?)を被っており、目位しか人相が解らない。
そしてその僅かな目元から見える赤い瞳は…どことなく悲しそうに思えた。



「コー…ホー!」


「日本語でおk」


「…コー…おはようございます」


それは、挨拶の様だった。
っていうか、声が中に籠りすぎてリアルにベイダー声になってる。
だが、とりあえず目の前に聳えている素晴らしいおっぱいから女の子である事は理解した。
目測90前後だろうか? 脱がなくてもスゴいな…
しかし、一体この人は何者なのか?
何故俺はこの人に膝枕されていたのか?
当然だが全く記憶に無い…そもそも寝てたんだから何が起きたのかも理解出来ない。



「あの、一体コレはどんな状況で?」


「コー…ホー!」
「コー…聖様、寝づらそうだったから…」


聖様…って事は、この人もまさか…?
俺はとりあえず彼女の膝から一旦離れ、体を起こしてベンチに座る。
そして、確認の為にこう聞いた。



「貴女も、城のメイドさん?」


「コー…ホー!」


彼女は重そうな首を動かして頷く。
見た感じ、相当息苦しそうだな…
よく見ると、後頭部には大きな角が生えており、首回りには4本の刃の様な物が付いている。
服は他の従業員と同じ藍色の着物だが、先述した通り胸が相当大きい。
身長は165cm位と、俺とそんなに変わらない位だが、胸は改めて目測90以上はあると思えた。
着物の上からでもそれは特に強調されており、彼女のスタイルの良さを示している。
ウエストもかなり細いな…モデル体型って奴か?



「…まさか、タイプ:ヌル?」


「コー…ホー!」


彼女はコクリと頷く。
そして俺は理解した…彼女の鉄仮面は拘束具なのだ。
タイプ:ヌルは進化する事によって、その拘束具から解放される。
そう思うと、何だか途端に不憫に感じた…



「その仮面、相当重いんじゃ?」

タイプ:ヌル
「コー…もう、慣れました」
「コー…もう5年もこのままなので」


「5年か、あの…年齢は?」

タイプ:ヌル
「コー…15歳です」


って事は俺より年下…メイドの中では若い方だったんだろうか?
少なくとも、見た目とは裏腹に彼女はとても大人しい。
話している分には、とても優しい娘の様だ。



「でも、何でここに?」

タイプ:ヌル
「コー…聖様、誰かに狙われてたから」
「コー…私が、護りました」


誰か…ね、まぁあえて誰かは問うまい。
とりあえず、彼女のお陰で俺の安眠は守られたのだ。
それには、感謝の気持ちしかない…なので俺は笑顔でこう言った。



「ありがとう、ヌルちゃん」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


彼女は重い頭を横に振る。
気にするなという事らしい。


オタチ
「あ~ヌルっち、こんな所にいたー!」
「って、聖様と一緒だったの?」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんはコクリと頷く。
するとオタチさんはすぐにこう言った。


オタチ
「ヌルっち、すぐに朝食お願い!」
「今日もそんなにお客さんは来ないとは思うけど、それでも手が足りなくなりそうだから!」

タイプ:ヌル
「コー…はい、分かりました」
「コー…それじゃあ、聖様」


「あ、ああ…仕事頑張ってな」


ヌルちゃんはコクリと頷き、オタチさんと一緒に行ってしまう。
さて、部屋に戻るか…もう朝っぽいし。
俺は、窓から見える日射しに目をすぼめ、とりあえず2階へと向かった。



………………………



女胤
「………」

阿須那
「な、何があったんや?」

華澄
「わ、解りません…しかし、この怯え様はただ事ではありませんぞ?」


「皆おはよう~…って、どうしたんだコイツ?」


俺はひとりベッドでガクブルしている女胤を見て訝しんだ。
すると、女胤は呪文の様にこう呟いている。


女胤
「フォースの導きよ…フォースの導きよ……!」


(ヌルちゃん、何をやったんだ?)


恐らく、俺が寝ている間に女胤が何かやらかしたんだろうが…
ヌルちゃんが護りましたって言ってたし、多分コイツが犯人で間違いないだろう。
う~む、しかし何やったのかは気になるな。



「コー…ホー!」

女胤
「ヒィィィィィィッ!? お許しを○イダー卿!!」


ただの物真似にこの反応とは重症だな…
まぁ、普段の行いの悪さでバチが当たったのだろう。
これに懲りて少しは大人しくなると良いのだが…



(うん、無いわ)


ソッコーで否定する。
っていうか、コイツがマトモになる未来が見えない。
下手になっても個性消滅して空気と化すからな。



「さて、そろそろ朝食にするぞ?」

守連
「わ~い♪ あっさごっはん~♪」

華澄
「今度はどんな食事でありますかな?」

阿須那
「ほら、女胤! さっさと行くで!?」


女胤も何とか体を動かし、後ろをヨロヨロと付いて来た。
俺たちはそのまま1階の食堂へと向かう。



………………………



ジグザグマ
「おはようございます、聖様」


「はい、おはようございます」
「朝食は出来てますか?」


俺が挨拶してそう聞くと、ジグザグマさんははいと笑顔で答え、座敷を案内してくれる。
そして、テーブルに乗っていたのは実にシンプルな定食だった。


華澄
「おお…白ご飯に焼き鮭、目玉焼き、味噌汁に、たくあん、ポテトサラダ、そしてリンゴとヨーグルト」
「盛り沢山の朝食ですな…」


和食好きの華澄も絶賛していた。
しかし、朝にこれは少し重そうにも感じる。
華澄は少食だし、大丈夫だろうか?
俺はとりあえず靴を脱いで座敷に上がった。
そしてそのまま奥の座布団に座る。
皆もそれぞれの席に座り、準備は良い様だった。



「それじゃあ、皆さんご一緒に!」

一同
「いただきます!」


俺たちは早速食事を始める。
守連は相変わらずフードファイターだな…すぐに食い尽くしそうだ。
華澄も相変わらずゆっくりと箸を進める。
阿須那と女胤も特に味に文句は無い様だった。



「うん、美味しい…! そういえば、これ誰が作ってるんだろう?」
「さり気に気になるな…」


本来、あの城の食事担当は愛呂恵さんらしいし、愛呂恵さんがダメな時は櫻桃さんが担当してたわけで…
ここまで美味しいなら、一体誰が担当してるのか…?
俺がそんな風に考えていると、気を遣ってくれたのかジグザグマさんが声をかけてくれた。


ジグザグマ
「聖様、どうかなされましたか? 何か味に不満でも?」


「あ、いやそうじゃなくて…」
「この食事、誰が作ってるんですか?」


俺がそう言うと、ジグザグマさんは微笑してこう言う。
そして、それは俺の予想外な人の名前だった。


ジグザグマ
「この旅館の料理は、基本的にはヌルさんが作っています」
「元々、彼女以外では誰もロクに料理が出来なかったので、当時はかなり苦労していました…」


俺はそれを聞いて絶句する。
あのヌルちゃんが料理を作っているなんて…
そういえば、オタチさんもヌルちゃんに料理を頼んでたな…
何気に、ヌルちゃんは重要なポジションってわけだ。


ジグザグマ
「あっ…申し訳ありません! ヌルさんって言っても、解りませんよね?」


「いえ、知ってます…ヌルちゃんとは今朝知り合いましたから」


俺がそう答えると、ジグザグマさんは意外そうに驚く。
どうやら予想外だったみたいだ。


ジグザグマ
「そうだったんですか…あのヌルさんが」


「ヌルちゃん、やっぱり人見知りとかするんですか?」

ジグザグマ
「そういうわけでは無いと思うのですが…」
「ただ、あの娘は自分にコンプレックスがあるので…」


俺は何となく察する。
ヌルちゃんは、あの拘束具がコンプレックスなのかもしれない。
呼吸すらつらそうで、外からは表情も把握出来ない。
それでも、あの娘はとても優しく、誰かに気遣いの出来る良い女の子だと思う。
ただ、あの悲しい瞳は、何故か未だに忘れられなかった…


ジグザグマ
「…聖様、ヌルさんの事が気になりますか?」


「えっ? あ、いや…そうですね」
「気になると言えば、気になりますけど…」
「そもそも、ヌルちゃんって白那…じゃなくて、パルキアさんに拾われたんですよね?」


俺がそう言うと、ジグザグマさんはやや躊躇いがちに頷く。
何だか、曖昧な感じだな…?
ヌルちゃんは、何か他と違ったんだろうか?


ジグザグマ
「…ヌルさんは、捨てられていた娘なんです」


「!?」


俺は衝撃を受けるが、冷静に考える。
恐らくそれは元々の世界、つまり過去のこの世界での話だ。
そして、それはジグザグマさんやオタチさんも同様のはず。


ジグザグマ
「…私たちもそうなんですけど、パルキア様に拾われたメイドは、基本的に捨て子なんです」


「捨て子…」

ジグザグマ
「はい…ですので皆身寄りは無く、パルキア様が実質の母親とも呼べました」
「ですけど、私たちは…また身寄りの無いこの世界に戻って来てしまった」


それは、全て俺のせいだ…
俺が、あんなクソ世界を造ったから…!
だけど、それを悔やむ暇は無い。
あんな世界でも、意味はあったと俺は知った。
なら、ジグザグマさんたちにとっても、意味があると思いたい。


ジグザグマ
「この世界に戻った元メイドは、私を含めて5人です」
「リーダーのオタチ、エイパムさん、ヨーテリーさん…そしてヌルさん」
「18歳のオタチと私が最年長で、エイパムさんとヨーテリーさんは16」
「そして、1番若いヌルさんが15ですね…」
「そんな中でも、ヌルさんは誰よりも先に自分からコックを志願しました」
「元々ヌルさんは努力家で、城にいた頃でもミミロップさんに料理を教わってましたし」
「メイドの基本もしっかり出来ていましたし、今やヌルさんは、若くしてこの旅館を支えてくれる存在になったと思います…」


俺は淡々とそれを聞いていた…そして、気付く。
やっぱりヌルちゃんは頑張っているのだと…
1番若いのに、それでも1番努力する。
自分にコンプレックスがあるのに、それでも克服する。
凄い娘だな…ヌルちゃんは。


ジグザグマ
「…聖様、もし良ろしければ…ヌルさんの事、貰って頂けませんか?」


「…それは、どういう意味で?」

ジグザグマ
「…この世界は、じきに滅びます」
「でも、聖様ならヌルさんだけでも救う事が出来る…そう思うんです」


ジグザグマさんは、未来の滅びを悟っていた。
いや、元々白那さんから話されていたのだろう。
そして、白那さんたちの為に死ぬ覚悟も出来ていたのだ。
だけど、ジグザグマさんはヌルちゃんだけでも救ってほしいと今思った。
例え、他の仲間が全て滅んでも…ヌルちゃんには生きてほしいと…
俺はその思いを汲んだ上でこう言う。



「ジグザグマさん…俺は誰ひとりとして見捨てません」
「必ず、皆救ってみせます!」
「ヌルちゃんだけでなく、ジグザグマさんも、他の皆も!」
「ですから、俺を信じてください…」
「俺が、俺たちが…必ずこの世界も救いますから!!」


俺が拳を握って力強くそう言うと、ジグザグマさんは嬉しそうに笑ってくれる。
その笑顔は、純粋で優しい笑顔だった。


ジグザグマ
「…ありがとうございます、聖様」
「やはり、聖様はパルキア様が好きになった方…」
「パルキア様の目に狂いはありませんでした…!」
「ですので、私も信じます」
「聖様なら、必ず救ってくださると…!」


ジグザグマさんは祈る様に両手を胸の前で合わせてそう言った。
俺はそれを見て、更にこう言う。



「今は、そんな暗い話は止めましょう」
「俺たちは、鋭気を養う為にここにいます」
「ですから、今は…ただ笑ってください♪」


俺がそう言うと、ジグザグマさんは涙を拭いて立ち直る。
俺は、やはりこの世界に来たのも必然だと思った。
あの城のメイドさんたちとは、愛呂恵さんや櫻桃さん以外には面識が無かったけど、それでもどこかで何か繋がりはあったのだろう。
俺はそう思い、食事を進める。
ヌルちゃんが作ってくれたこの朝食は、とても美味しく、そして愛情に溢れている気がした…



………………………




「昔さ、ポケモントレーナーって、ポケモンバトルに関してはスペシャリストがいたよな…」
「そういうのって、大概個人的には不幸だったんだよな?」

華澄
「聖殿! それは流石に迂闊なフラグですぞ!?」


今回は華澄さんが珍しくツッコンでくれる。
まぁ、今回は決戦前の休息なんだから死亡フラグ立てるのは流石にダメか…
そして、そんな事もお構い無しな奴もここにはいる…


守連
「ジグザグマさん、おかわり~♪」

ジグザグマ
「あっ、はい! 只今お持ち致します!」


守連は既に1食分食い終えていた。
朝から絶好調だな…もうおかわりとは。
俺はまだ半分しか食ってないぞ…


華澄
「ふふ、流石守連殿です…」

阿須那
「やれやれやな…」
「あ、そういや聖~? あんまりフラグ立てすぎるなや?」

女胤
「そうです! ただでさえライバルが増えてきてるのに…」


「あん? フラグって何の…」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」

女胤
「ヒィィィィィィッ!? ○イダー卿!?」


気が付いたら、俺の隣にヌルちゃんがいた。
そして、ヌルちゃんの手には守連のおかわりが乗っている。
彼女はそれを守連の前に置き、ヌルちゃんはひとつお辞儀をした。
こういう所も丁寧だよな…しっかりしてる。


守連
「ありがと~♪ 貴女がこの料理を作ってるの?」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんはコクリと頷く。
それを見て、守連は嬉しそうな顔でこう言った。


守連
「そっか~、貴女は料理がとっても上手なんだね♪」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんは褒められて恥ずかしいのか、体を少しくねらせてモジモジしている。
俺はそんなヌルちゃんを見て、笑顔でこう言った。



「ありがとうヌルちゃん! この料理も凄く美味しい♪」
「今なら、ミミロップさんやゲンガーさんにも負けてないと思うよ?」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんは益々モジモジしてしまう。
何か可愛いな…フツーに俺はそう思ってしまった。
ヌルちゃんはこんなゴツゴツした仮面で顔を覆っているけど、やっぱりちゃんとした女の子なんだ。
フツーに努力して、フツーに生きてる。
俺は、そんなヌルちゃんをフツーにスゴイと思った。


阿須那
(いやいやいや! おかしいやろ聖!?)
(何でこの○レデターもどきにそこまで笑顔で接せれるんや!?)
(それともあれか!? あの巨乳に騙されてるんか!?)
(聖は胸しか見えてないんかっ!?)
(ってか、誰かツッコメや!?)


何やら阿須那が蒼い顔で固まっていたが、俺は無視する事にした。
女胤もやたらビビってるが、そんなにトラウマだったのか?
華澄と守連は何も気にしてないのにな…


華澄
「ヌル殿…感謝致します」
「この愛情籠った料理は、必ずや拙者たちの力となりましょう」


華澄も素直にそう言う。
ヌルちゃんは俯いて、すぐにその場を離れてしまった。
むぅ、素直に可愛いなああいう所は…
さり気に俺としてはポイントの高い反応だ…ギャルゲーなら狙いたくなるタイプだな。
その場合は大概、エンディング前後で仮面取れてハッピーエンドが定番だが。
まぁ、あの娘の場合は進化がフラグだから、難しいかもしれない。
あの見た目だし、懐き進化は現実にはキツそうだよな…
ってか、現実的には原理どうなってるんだろ?


守連
「はぁ~美味しかった♪」


「って、もう食い終わったのかよ!」
「結局俺の4倍速で食いやがって…」


守連はご満悦の様で、朝からあのボリュームを2セットも平らげた。
華澄も苦笑してるし…阿須那と女胤は何やら震えながら飯食ってるが、気分でも悪いのか?
まぁ、何となく理由は解っているんだが…


阿須那
(結局、誰もツッコマへんのか…)
女胤
(恐ろしい…さも当然の様にあれがヒロインと化す等!)


やれやれ…何か思い詰めている様だが、どうせくだらない事でも考えてんだろうな。
全く頼むぜ…? 一応最終決戦前なんだから。


守連
「そういえば、これからどうするの?」


「ん? そうだな…まだ服は乾かないだろうし、今日1日は休む予定だぞ?」

守連
「そうじゃなくて、何をして過ごすの?」


俺は言われて固まる、確かにそれは問題だ。
浴衣で彷徨くのもそれはそれで風流だが、早朝からそれってどうなんだ?とも思う。
とはいえ、部屋内で遊ぶアイテムも無いし、これはかなり重要な問題だな…


女胤
「この際、1日中5P○クロスと言う素晴らしい遊びがありますが?」


「却下! つか、1日中4人も相手とか俺の体が持たんわ!!」
「決戦前に俺をミイラにする気かっ!?」
「つか、流石にそんだけやったら全員もれなく妊婦になるわっ!」
「決戦前に妊婦4人連れるとか鬼畜か俺はっ!?」


冷静に考えても有り得んだろ…
とはいえ、何でエロゲ主人公は平然とラスボス戦前にヒロインとするんだろうな…?
色んな意味でおかしいと思うのだが、これは素人考えだろうか?
あ、いや…あの世界一有名なスナイパーも仕事前は大抵女抱くし、意味はあるのか…?



「つか、俺は未成年だ!!」


思わずひとりツッコミしてしまった…
流石に全員?を浮かべている。
うむ、とりあえず早く飯を食おう!



………………………



女胤
「では、脱ぎますか」

阿須那
「最初は肝心やで? 誰がヤる?」


「ヤる方向で進めるな!! 俺は混ざらんぞ? ヤるならお前らだけでヤれ…」


俺はそう言ってさっさと部屋を出ようとする。
すると、守連が俺の袖を軽く指で摘まんでいた。
な、何だ…? 守連にしては珍しいな…


守連
「私も一緒に行って良い?」

華澄
「あ、それなら拙者もご一緒に…」


「ん? ああ…別に良いぞ」
「とりあえず、外には出てみたいしな…」


俺はそう言って、守連たちふたりと一緒に部屋を出る。
そして、部屋には空しく残りのふたりが残されたのだった…



………………………



阿須那
「ふ…やはり聖はまだお子様か」

女胤
「しかし、このままではいつ誰の手に堕ちるかも解りません…」

阿須那
「ああ…やっぱこの辺りで手ぇ打たんと」

女胤
「しかし、華澄さんは厄介です」

阿須那
「確かに、大幅にスケジュールがズレるな」

女胤
「守連さんも今は大人しいですが、本気になれば恐ろしいですよ?」

阿須那
「やっぱ、あのふたりがネックやな…」

女胤
「ええ…聖様の不沈艦を支える極悪な護衛艦でしょう」

阿須那
「何か策はあるか?」

女胤
「自爆スイッチを押せ!」

阿須那
「さらばや…○タク!!」
「って、玉砕前提かい!? せめて、何か抵抗しようや!?」


ウチはノリだけでここまで話すが、流石にツッコンでしもた。
つーか、聖の性への無欲っぷりは仏陀クラスや…どうやったらあれ堕とせるねん?
これが乙女ゲーやったら、ルート無いんちゃうか?と思う程や…
いやまぁ、エロゲ的なルートの話なんやが…


女胤
「実際、聖様はエロネタは好きでも実行は絶対にしませんものね…」

阿須那
「本質的には純愛好きやからな…せやからあの○レデターもどきにもフラグ立てよるし」

女胤
「あの○イダー卿は恐ろしいですわ…思い出したくもない」


そういえば、女胤の奴アレに何されたんやろ?
完全にトラウマになってるみたいやし、話す気は無さそうや…
ウチは、はぁ…とため息をし、布団に背を預ける。
そして、始まるであろう決戦へと意識を変えていった。

アルセウス…か、全ての世界を滅ぼす存在。
ウチ等はそれと戦う為に選ばれた精鋭。
聖が家族として選んでくれた最愛の存在。
ウチは全力で戦う…聖の為に。
悪いとは思うけど、他の世界は正直どうでもええ…

ウチは必ず聖を取る。
その為やったらこの命は安いモンや…例えアルセウス道連れにしてでも、必ず聖を護ったる!!

ウチは天井に向けて右手を伸ばし、拳をキツく握った。
そして、戦いの方向に意識を向けていく…
女胤も、徐々に気持ちを変えてる…結局、ウチ等だけか。
こうやって、純粋に戦いを捉えてる人間は…



………………………




「…最後の決戦、か」

守連
「…うん」
華澄
「…はい」


俺たちは外の林道を歩いていた。
道はちゃんと整備されており、レンタルしたサンダルでも歩き難くはない。
気温はやや暖かい位で、日本で言えば夏日手前位の感覚かな。
俺は右に守連、左に華澄を並べて3人で散歩していた。
天気も良く日差しが暑い位だ。
ちなみに他のポケモンが見える事もなく、正直あの旅館は繁盛してるのかちょっと不安になるな…


華澄
「…平和ですな、ここは」


「ああ、でも滅びは近付いている…だから守らなきゃならない」
「必ずアルセウスに勝つ…そして、皆を救うんだ」

守連
「うん…出来るよ、きっと」
「私たちが、助けるよ♪」


守連の笑顔を見て、俺は頬笑む。
俺には、こんなにも愛おしい家族がいる。
いや、守連たちだけじゃない…騰湖たちや、舞桜さんたち、白那さんたちや愛呂恵さんたち、そして櫻桃さんたちや浮狼さんたち…
それに、ヌルちゃんたちも…
皆…皆、俺は大好きだ。

だから、俺はもう諦めない…今度こそ最後まで戦う。
最期まで、守連たちの側にいて信じてやる。
そして、全てが終わったら…



(地獄へ行くのは…俺ひとりで良い)


現実には死に行く俺の体。
雫で形成したこの疑似体も、アルセウスを倒せば必要無くなる。
俺は夢から覚めて…それで、終わりだ。
約束はしたものの、この現実は多分揺るがない。
夢から覚めて俺は死に、もう夢見の雫の所有者では無くなるんだろうから…


守連
「聖さん? どこか、痛いの?」


「ん? ああいや、そうじゃない…」
「死ぬのは…怖いなって、思っただけだ」

華澄
「ご安心を、聖殿は必ず拙者たちが命に代えても護ります!」


「いや、ダメだ」


俺は即答する。
華澄は驚いた顔をしたが、俺はすぐに笑ってこう言った。



「全員、生き残って勝つ」
「誰ひとりとして、死ぬ事は俺が許さない」
「ひとりでも死んだら、俺もすぐに後を追う」
「だから、死ぬな…!」


俺の言葉に華澄は俯き、そして表情を変える。
こうなった華澄は強い…俺は良く解ってる。
守連もニコニコ顔だが、解っているんだろう。
守連はいつだって、俺のやりたい事をそっと背中から後押ししてくれるんだから…


華澄
「拙者は、生きます」
「そして、必ず全員で生き延びると約束します」


「ああ、期待してる」
「俺もお前たちとなら、ずっと一緒にいたい…」

守連
「今まで出逢った、皆もね♪」


俺は頷く、そしてある意味後悔した。
俺は、何て嘘吐きなのだろう…
出来もしない約束をしてでも、皆を救いたかった。
もう会えないと解っているのに、再会を約束した。
俺は…やっぱり地獄行きだな。

まぁ、その時は地獄の鬼ポケモン娘と結婚でもするかな…?
いや、そうなったら地獄の亡者や閻魔様もヒロインかもしれない。
何だ…結構地獄も楽しそうじゃないか。

俺は苦笑してしまった。
結局、俺はどこまで行っても俺なのだと…
例えひとりになっても、俺は家族を求めるのだと…
そしてそれが、それこそが…

魔更 聖なのだ…



「あ~あ、全部終わったら次は17歳で高校3年か…」

守連
「そういえば、聖さんの誕生日はいつなの?」


「2月15日、だからその日で17歳だな」
「んで、高校3年の2月で18歳…その1ヶ月後には卒業」

華澄
「そうでしたか…それでは、卒業後はどうなされるのですか?」


俺は歩きながら考える。
別に進学も就職もまだ考えてないし、いっそ専業主夫にでもなるか?
そう思うと、俺はとりあえずこんな事を口走ってしまった。



「とりあえず、結婚するか華澄?」

華澄
「はい、喜んで……ってぇ!?」
「け、けけけ、結婚!? せ、拙者とぉ!?」


予想通り慌ててくれる華澄さん。
俺は面白がって更にこう言った。



「子供もふたりは欲しいな…そんで、俺が育児するから、頑張って生活費稼いでくれないか?」

華澄
「は、ははは、はいぃ! せ、拙者でよろしければっ!!」


おやおや、顔を真っ赤にして…ホントに可愛いな華澄さん。
まぁ、実際華澄なら良い奥さんになるだろう…
基本努力家だし、何でもこなせる。
華澄なら愛人いても許してくれるだろうしな…


守連
「ふふ、そうなったら幸せだね♪」


「おう、その時はお前も嫁さんだからな?」
「もちろん、阿須那や女胤も…俺は全員と結婚してやる」
「…だから、絶対に勝つ」
「勝って…皆で幸せになろう」


俺は晴天の空を見上げる。
まだ昼前のその太陽を見上げ、俺は目をすぼめた。
そして、その後は他愛もない話をしながら、ただ歩いて行く……



………………………



タイプ:ヌル
「コー…ホー!」

阿須那
「げえっ!? ○レデターもどき!?」

女胤
「○イダー卿!? 一体何故ここに!?」


私たちが部屋で休んでいると、突然ベイダー卿が入って来る。
手には掃除用具を持っており、どうやらこの部屋の清掃に来た様ですわね。
私たちはすぐに冷静になり、彼女の言葉を待っていた。


タイプ:ヌル
「コー…掃除、しに来ました」

阿須那
「ああ…悪いな、すぐ出てくわ」

女胤
「よろしくお願いしますね…」


私たちは彼女に任せて部屋を出る。
あの方…ヌルと呼ばれていましたわね。
あの様に仮面で素顔を隠すとは…あれも種族としての特徴なのでしょうか?
あまりに見た目のインパクトが強すぎて、初見の恐ろしさは半端ではありませんでしたし…今思い出しても恐怖ですわ。
恐らくただの『怖い顔』だったと思いますが…


女胤
(聖様は心を許されている…根は良い人なのでしょう)


少なくとも従業員をやっている以上、特に問題児ではないはず。
しかし、第一印象とは大事な物。
私や阿須那さんは、どうにもすぐには慣れそうにありませんわね…悪いとは思うのですが。


阿須那
「とりあえず、水飲みに行こうや…」

女胤
「そうですわね…」


私たちはふたりで1階に降りる。
そして、食堂に向かって水を貰う事にした。



………………………



女胤
「すみません、水をいただけますか?」

エイパム
「あっ、は~い」
「えっと…コップそっちにある?」

ヨーテリー
「うん、はいこれ!」


どうやら、例の従業員ふたりの様ですね。
エイパムと思われる着物の従業員はコップに水を入れ、それを私たちにそれぞれ渡した。
私たちは礼を言い、それを片手に近くの椅子に腰かける。


女胤
「ふぅ…思ったよりも空いていますね」

阿須那
「そもそも繁盛しとるんか? それともシーズン外なんかな?」


考えてもみれば、旅館としての機能は良いものの、従業員もそんなにはいませんし、客もまばら。
正直、経営が心配になりますわね…


オタチ
「まぁ、この世界では住民がそもそもそんなにいませんからね~」

阿須那
「ん…そうなん?」


突然、女将のオタチさんが割り込んで来た。
客の気配が無いのか、休憩に来た様ですわね。


オタチ
「この世界、5年前に大災害があってから、ほとんどの住民が死んじゃって…」
「残った私たちが何か出来ないかな?って考えて、それでこの旅館を建てたんです」


大災害…それは、前の浮狼さんの世界の様な感じでしょうか。
あの世界に比べれば、ここはまだ平和に感じますが、それでも裏では相当の被害だったのですね…


オタチ
「最初は5人で立ち上げて、てんやわんやでした」
「城でのメイド生活を糧に何とか接客して、お金稼いで」
「今でもお客は少ないですけど、皆充実はしてます♪」
「例え滅ぶのが解ってても、それでも最期まで前を向いて頑張ろって…」


オタチさんは、一切悲しそうな顔をせずにそう言って頬笑む。
強い方ですわね…例え滅んでも、ですか。

聖様は、こんな理不尽に憤っている。
だからこそ、アルセウスを倒さなければならない。
この旅館の従業員は強く生きている。
例え大災害で多くを失っても、それでも前を向いていた。

その先に、決して暗闇だけが広がっていてはならない。
私は聖様のお望みに従い、必ず勝利します。
そして、全ての滅びに救済を…!



………………………




「あれ? 何か騒がしいな…」

守連
「あ、阿須那ちゃんたちだよ?」

華澄
「これは…一体?」


俺たちは散歩帰りに阿須那たちを見付ける。
何やら旅館の方が騒がしいみたいだけど、何かあったんだろうか?
俺たちはまず阿須那と女胤に話を聞く事にした。


阿須那
「聖たちか…丁度良かったわ」

女胤
「ええ、聖様にも聞いていただきましょう」


ふたりはまずそんな事を言う。
その顔は真剣そのもので、むしろ今から戦いに行くかの様だった。



「一体何があったんだ? 旅館が何やら騒がしいみたいだけど…」

阿須那
「脅迫状が届いたんや…何モンかがここを狙うて書いてあったらしい」


それはかなり物騒な話だな。
しかし、何でこの旅館を?
俺が考えていると、女胤が補足してくれる。


女胤
「どうやら女将のオタチさんが目的の様で、従わないなら旅館を潰すと…」

華澄
「何という非道…許せませんな」

守連
「どうして、そんな酷い事…?」


守連と華澄も怒っている様だ。
そりゃそうだろう…旅館に罪があるとは思えない。
オタチさんが目的って、オタチさんには何かあるのか?


阿須那
「とりあえず、ウチ等は周囲を警戒するわ」
「聖は、旅館の中にいとき…オタチの側にいたれ」


俺は無言で頷く。
阿須那たちなら不安は無いし、丸く収まれば良いんだが…


華澄
「では、拙者も外で警戒に当たります…人手は多い方が良いでしょう」

守連
「それなら、私も手伝うね!」


そう言って4人はそれぞれ散り散りに走り出した。
すぐにその場は俺ひとりになり、とりあえず俺はざわめく旅館に向かって走る。



………………………




「オタチさん、大丈夫ですか!?」

オタチ
「あ、聖様…! その、すみません!」


まずオタチさんは頭を下げて謝る。
あくまでお客に対しての謝罪だろう。
だけど、今はそんな事言ってる場合じゃない。


「どうして、オタチさんが狙われてるんですか?」

オタチ
「それは…その」

ジグザグマ
「…有り体に言えば、子孫を残す為です」
「この世界には男は希少で、ほとんど女しかいませんが、その中でも例外は存在します」


「…例外?」

ジグザグマ
「メタモンです…この世界においては、唯一男女誰が相手でも子孫を作れる存在」
「故に貴重な存在でもあり、世界では繁栄の為に1部ではもてはやされてもいます」


俺は納得する。
確かに、メタモンがいれば誰とでも繁殖が出来るのか…!
変身能力で男にも女にもなり、遺伝子をも作ってみせる。
確かに貴重な存在だろう…いわば生存本能だ。
種族を絶やさない為に、メタモンは貴重な存在になってしまったのか…


ジグザグマ
「メタモンは事実上不老不死で、それなりの数がいますが、全てが善人とは限りません」
「今回の脅迫も、オタチとの性交が単なる目的でしょう」
「質の悪い変態です」


つまり、オタチさんの体があくまで目的な訳ね…そりゃ確かに変態だ。
そんな奴、当然許すわけにはいかない。
とはいえ、これはかなり問題だな。
相手がメタモンという事は、誰に変身しているかは多分解らない。
そして脅迫状が届いたという事は、既に潜入されてる恐れもある。
マズイぞ…よりにもよってメタモンとは。
守連たちが外で警戒しているのは完全にミステイクだ。
相手がメタモンなら堂々と旅館に入り込める。
多分阿須那たちはメタモンとは知らない…知っていたら中で警戒するはず。



「くっそ…見破る方法も無いし、どうすれば?」

ジグザグマ
「とにかく、従業員全員をここに集めます」
「オタチの側にいれば、自然とメタモンも現れるはず…」


「待ってください、行くなら俺たちも一緒に行った方が良い」


俺はそう言って離れようとするジグザグマさんを止める。
そして、俺はとりあえず理由を話した。



「今離れたら、もう誰も信用出来なくなる」
「この3人がとりあえず安全なら、常に3人で行動するべきです」

オタチ
「そ、そうだね…その方が良いかも」

ジグザグマ
「そうですね…迂闊でした、申し訳ありません」


ジグザグマさんは頭を下げて謝る。
俺は微笑し、とりあえず他の従業員を探す事に協力した。



………………………



エイパム
「メタモン…ねぇ」

ヨーテリー
「何か怖いね…誰に化けてるかも解らないなんて」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


とりあえず、てっとり早く3人を見付けた。
これで従業員は全員だ。
とはいえ、メタモンかどうかは解らないし、簡単に信じるべきかどうか…
メタモンの変身がどの位の物なのかは俺には解らないが、もし記憶までコピー出来るなら厄介極まりない。

そもそも、本来なら俺自身が疑われてもおかしくないのだ。
人の良いオタチさんだから信じてくれるが…正直安易とも言えた。
こうなったら誰も信用出来なくなるのがフツーだからな。
くっそ…犯罪者のメタモンがこれ程怖いとは。



「オタチさん、メタモンに従う気は無いんでしょ?」

オタチ
「…でも、旅館を守る為なら私は」

ジグザグマ
「ダメ! 体を売ってまで拘るなんて許さない!!」


それはジグザグマさんが初めて見せる激昂だった。
オタチさんとジグザグマさんは同年代らしいが、やっぱり特別な強い絆があるんだろうな…


オタチ
「ごめん、ジグザグマ…」

ジグザグマ
「大丈夫、私が必ず守るから…だから諦めないで」


ジグザグマさんはオタチさんの体を抱いて慰める。
オタチさんは気丈な様に見えても、やはり怖いのだ。
早く、何とかメタモンを特定しないと…


タイプ:ヌル
「コー…聖様、大丈夫ですか?」


「あ、ああ…俺は大丈夫だけど」
「メタモン…か」

タイプ:ヌル
「コー…何か、来る」


俺は言われてヌルちゃんの見ている方を見る。
それは、明らかにおかしな挙動の女(?)だった。
っていうか…



「変身せずに正面から出て来んのかよ!? 本気で悩んだのがアホらしいわ!!」


俺は思いっきりツッコンでしまった。
そして、本来この作品がギャグメインである事を思い出す。
俺のツッコミを受け、メタモンは怪しく蠢いた。
つか、完全にスライム系だな…不定形にも程があるぞ。
または人の形をしたゼリーだ。
服すら来ていないが、エロさはあまり感じない。
っていうか、偽乳に興味はない…まぁ、ロマンはあるが。


メタモン
「オタチちゃん、○ックスしよ~♪」


「変態がっ! ド直球で下ネタを突っ込むな!!」


流石のオタチさんたちもドン引きしてるぞ…あ、いやヌルちゃんは意外に冷静だな。
俺は変態メタモンを睨み付け、とりあえずオタチさんを庇う様に前に出る。
すると、メタモンはニヤリと笑い、変身を始めた。
グニャグニャと蠢き、体を再構築していくメタモン。
そして、数秒後には俺が目の前に立っていた。


メタモン
「おっけ~これで子作り可! 服はいらんのでさっさと…」


ビュォン!!と、突然の風切り音。
すると、メタモンの首筋に何かが当てられている様だった。
俺にはそれがよく見えないが、メタモンの顔は青ざめている。
そして、メタモンの前にはいつの間にか踏み込んでいたヌルちゃん。
ヌルちゃんは、何か持っているかの様なポーズで右手を構えていた。
そう、強いて挙げるなら…剣を構えているかの様な。


タイプ:ヌル
「コー…ホー!」

メタモン
「ま、ままま待って!!」


メタモンは恐怖を感じたのか命乞いするが、ヌルちゃんは構えを解かない。
そして、微動だにせずメタモンを無言で睨み付けている様だった。
場が一気にひんやりとする…何か空気が流れている様だ。
だとすると飛行タイプの技? ヌルちゃんが使えるとしたら『エアスラッシュ』か?
あんな風に風で見えない剣にするなんて、どこぞのセイバーさんか。


タイプ:ヌル
「コー…変身を解いて」
「コー…そしてすぐに消えなさい」
「コー…さもなければ、この場で切る!」


それは、怒りに満ち溢れた言葉だった。
そして恐らく最大の譲歩。
ヌルちゃんは本気で切るだろうと、こちらにまで伝わって来る気迫を放っていた。


メタモン
「くっ…くそ!!」


メタモンは変身を解き、通常形態になる。
そして、俺たちに背を向けてこう言い放った。


メタモン
「覚えてろ!? 必ず孕ませてやるからなっ!!」


そんな変態的な捨てゼリフで逃げて行った…誰が覚えるかっ!
つか、1秒で忘れたいわ!!
全く、簡単に終わって助かったわ…頭の悪いメタモンである意味良かった。
…作品的には凄まじく品位の下がる相手でもあったが。


タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


「ヌルちゃん、助かったよ…ありがとう♪」


俺が礼を言うと、ヌルちゃんはモジモジしてしまう。
戦いの時はあんなに格好良いのに、不思議なモンだな…
とはいえ、ヌルちゃんは本質的には人を傷付ける娘じゃないのだろう。
だから、怒りながらも寸止めで警告した。
あれが阿須那や女胤なら問答無用で切断フィニッシュだったろう…容赦しそうにないからなアイツ等。


オタチ
「でも、あれだとまた来そうね…」

ジグザグマ
「確かに、何とか対策考えないと」


あれがまた来るとか考えたくないな。
っていうか、警察とか無いんだろうか?
放置してたらダメだろ流石にアレは…


阿須那
「おっ、聖やったで~! 犯人ゲッツ♪」

メタモン
「お願いもう改心しますから許してぇぇぇっ!?」


俺は心の中でグッジョブと思い、ふたりでグッと親指を立ててサムズアップする。
プスプス焦げてる辺り、何発か炎貰ったな?
しっかし運の無い奴…逃げた所で阿須那に出会うとは。
メタモンは阿須那に首根っこを掴まれ、温められている様だ。


女胤
「全く、とんでもない変態でしたわ…いきなり阿須那さんに向かって下ネタ連発するのですから…」

メタモン
「いやだってこれは本能だから!?」

阿須那
「ほな次はミディアムで焼こか~」

メタモン
「ごめんなさい! もう言いません!! だから温度上げるの止めてぇぇぇっ!?」


成る程、自分から死にに行ったのか…凄い漢だ。
とりあえず今度こそ釘を指しておいた方が良いな…



「もう2度とこんな犯罪犯すなよ?」
「次やったら、命の保証は出来んぞ?」

メタモン
「はいっ! 誓います!! だから精子ください!!」


「全然反省してねぇじゃねぇか!! もう良い…やれ阿須那!」


俺が投げやりにそう言うとメタモンは泣き叫んで謝罪した。
阿須那は結局ミディアムレアで留めた様だ。
ダメだこりゃ!!

とりあえず、これにて事件終了…
俺はやれやれと思い、とりあえずメタモンを解放する様に言ってやった。
するとメタモンは俺に涙目で感謝し、いつか孕みに来ます♪と、変態的感謝を述べて去って行くのだった…ちゃんちゃん。



………………………




「んんんんんー、許るさーん!! 私の休暇の邪魔をしおって!!」

阿須那
「全くやな…とんだ事件やったわ」
「後、『る』が1個余計やろ」


おっと、何だかんだで阿須那がツッコンでくれるとは。
それでこそネタが生きると言うものよ!



「はぁ~アホらし…まさか女胤以上の変態がいようとは」

女胤
「さらりと変態に並べられた!?」

阿須那
「何を今更…」

守連
「あはは~阿須那ちゃんも最近変態だよね~♪」


阿須那は守連に言われて言葉を詰まらす。
自分でもそれなりに理解しているのか、否定はしなかったな。
俺たちは結局事件後、部屋で休んでいた。
まだ時間は昼過ぎだし、突然あんな変態が現れるとは世も末過ぎである。


女胤
「しかし、ただ繁殖の為だけに事件を起こすとは…」

阿須那
「変身やったら同一人物になるわけやけど、ヤる時はふたなりにでもなるんか? それはそれでキモいな…」

華澄
「まぁ、性癖は人それぞれですし…」


確かにある意味気にはなるな。
メタモンはどうやってピーな事をするつもりだったのか…?
さっきはたまたま俺がいたから男になったが、いなかったらどうなるんだろ?
後、逆に孕む際もどうしてるんだ?
やはりアーッ!してしまうのだろうか?
色々アウトな気しかしない…もう考えるのよそう。


タイプ:ヌル
「コー…ホー!」

女胤
「ひぃっ!? また貴女ですの!? いきなり現れると怖いですってば!」


気が付けばヌルちゃんが部屋に来ていた。
ここの部屋は襖だから、静かに開けられたら確かに気付かんわな…
そうでなくてもヌルちゃんは気配遮断A位のスキルがありそうに思えるが。


タイプ:ヌル
「コー…そろそろ、お食事の用意が」

守連
「あっ、うん分かったよ~♪」


「すぐ下りるよ、ありがとうヌルちゃん」


ヌルちゃんはペコリとお辞儀をして足早に去って行った。
やっぱり、まだ恥ずかしいのかな?
それとも、何か理由があるんだろうか?


阿須那
「立ったな…」

女胤
「ええ…」

華澄
「…おふた方、行きますぞ?」


阿須那たちの呟きが気になったが、とりあえず俺たちは食堂に向かう。
そして、守連は既に臨戦態勢の様だった…



………………………



守連
「わぁ~色々ある~♪」

華澄
「ふむ、各種刺身に漬物お吸い物、後は野菜の天ぷらも…」


色とりどりの昼食はまさに綺麗だった。
俺は小皿に早速醤油を垂らす。
そしてわさびを適量混ぜ、刺身からいただくことにした。
まずは赤身だ。



「ん、これは美味い…やっぱ新鮮な魚は良いな~♪」

華澄
「はい、やはりヌル殿の食事はどれも丁寧ですな」


確かに、こういった和食は見た目も結構重要だからな。
盛り付け方も凄く見映え良いし、ちゃんと拘ってるのが解る。
俺は順に箸をつけていき、味をしっかり楽しんだ。
守連は例によっておかわりしている…もう、最初から倍に盛ってもらった方が良いんじゃないか?
流石のヌルちゃんもちょっと焦っている様だった。



………………………




「ふぅ、ご馳走さま!」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんはペコリと頭を下げ、皿を片付けていく。
そしてカートに食器を全部乗せ、ひとりで運んで行った。
何気にひとりだとつらそうだよな…



「ヌルちゃん、良かったら手伝おうか?」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんは無言で首をブンブンと横に振る。
そしてそれを見てか、すぐに別の従業員がやって来た。
あれはジグザグマさんだな。


ジグザグマ
「すみません、私が手伝いますので聖様はどうかお休みを…」


「あ、はい…すみませんこちらこそ、差し出がましく」
「でも、何かあったら気軽に言ってください…いつでも手伝いますんで」


俺が言うと、ジグザグマさんははい…とだけ言ってお辞儀をする。
そして、ヌルちゃんと一緒に片付けを手伝った。
他の客も今はいないみたいだし、あれなら大丈夫か…?
俺はヌルちゃんたちの背中を眺めつつ、とりあえず部屋に戻る事にした。



………………………



阿須那
「さーて、暇やし子作りでも励む?」


「そういうのはメタモンとやれ…」


俺がそっけなく言うと、阿須那はえ~?とあからさまに嫌そうな顔をした。
流石の阿須那もアレは嫌か…


阿須那
「ウチ聖以外の子供なんか孕みたないし~」

女胤
「それは同感ですわね…まぁ、いつもの冗談でしょうし、お気になさらず」
「さっ、聖様…危険日ですが膣内にどうぞ♪」


そう言って布団に寝転がり、くぱぁアピールする女胤。
とりあえずいい加減にしろと言いたい。
暇なのは解るが、もっと出来る事位あるだろ…つーか○クロスは消耗するから止めぇっちゅうのに…


華澄
「おふた方、おふざけは大概に…」

阿須那
「解っとるっちゅうねん…どうせ聖は反応せえへんのやし」

女胤
「まぁ、解ってはいる事ですからね…」


何だか遠回しに諦められてるな…
まぁ実際ヤる気は無いんだから当然だが。
とはいえ、何か勘違いされてそうな言い方だな。



「別に興味無いわけじゃないからな?」
「単に節度を守ってるだけだ」

阿須那
「せやけど、相手から求められてるのに答えへんのはどうなん?」
「ウチは、聖としたいで?」


直球だなオイ…いや、解っちゃいるんだが。
それに俺は答える気が無い。
だが、阿須那の言い分も確かだ。
相手からの好意をはね除け過ぎては、それはそれで相手が可哀想だし。
とはいえ、やはり許すわけにもいかない…なので、俺は仕方無く妥協案を出す事にした。



「…まぁ、モチベの問題もあるからな」

阿須那
「ん? 何々……っ!?」


俺はやや強引に阿須那の唇を奪う。
他の3人は唖然としている。
そして俺は数秒後に唇を離し、顔を近付けたままこう阿須那に囁く。



「今はこれで我慢してくれ…俺が阿須那の事好きなのは本当なんだから」

阿須那
「…は、はい」


阿須那は顔を真っ赤にして驚いた顔をしていた。
そして、すぐに顔を蕩けさせる…よっぽど嬉しかったか。


女胤
「聖様! 私も……っ!?」


俺は言われるのを予測して女胤の唇も奪う。
そして、舌を入れられる前に離れた…危ねぇ、後3フレーム遅かったら捩じ込まれていた。


女胤
「あん…聖様もっと♪」


「次は華澄な…」

華澄
「えっ!? あ、いや拙者は別に……っ!?」


俺は優しく華澄にキスをする。
華澄は目を瞑って震えていたので、俺は抱き締めて後頭部を撫でてやった。
すると、華澄は安心したのか震えを止める。
そして、俺に全てを委ねていた…

い、いかん…可愛過ぎてこれ以上は俺の理性がヤバイ!!
俺は心臓が爆発する前に唇をゆっくりと離す…すると、華澄の口から、つーと涎が垂れた。
ヤバ…エロ過ぎる!!
華澄さんの顔はトロリとしており、もはや天に昇りそうな顔をしておられる…これはしばらく帰って来ないかも。


ドサッ!


守連
「わっ!? か、華澄ちゃん!?」

女胤
「う、羨ましい…あんなに濃厚に!!」

阿須那
「アンタは邪な事考えてるからや…」


華澄は顔をボンッと赤くし、そのまま後ろに倒れてしまった。
こりゃ気絶したかな?
俺はとりあえず、最後に守連の頭を両手で抑える。


守連
「えぇっ!? わ、私も~?」


「当たり前だ、じゃないと不公平だろ…じっとしてろよ?」


俺はそう言って守連の頬を優しく撫で、キスを……


バチバチィ!!



「あんぎゃ~!?」

阿須那
「アホか守連!! 痺れさせてどないすんねん!?」

守連
「そ、そりゃ…頬袋に直接触ったらこうなるよ~」


俺は完全に失念していた…コイツはピカチュウだというのに。
俺は思いっきり電気袋を素手で触ってしまい、感電したのだ…死ななくて良かった~!!
危うくマトモに1憶ボルトを食らう所だった…俺は『ほっぺすりすり』の凶悪さを直に感じる…
アレは一見可愛い技に見えるがとんでもない!
アレは、悪魔の技だ…!!
とりあえず、俺は当分動けそうになかった…


女胤
「…聖様、まさか動けないのですか?」


「む、無理そう…痺れがヤバイ」

阿須那
「どないした女胤?」


俺は女胤の顔を見てゾッとする。
コイツ、悪魔の様な笑みを!?


女胤
「動けないのでしたら、何しても抵抗されない…」

阿須那
「!? あ、悪魔かアンタ…!!」
「せやけど、許せるっ!!」


コノヤロウ結託しやがった!!
よりにもよって華澄さんが気絶している時に~!


女胤
「うふ、うふふふふふふふふ…」
阿須那
「クク…クククククククククッ」


オーノー…悪魔がふたりに。
誰がエクソシストさん助けて~!!
と、そこで前にも聞いた、ビュオゥ!!という風切り音が場に放たれた。


一同
「!?」


それは、以前に見た光景と似ている。
そして今度は、俺と女胤たちの間を断ち切る様に空気の刃が遮っていた。
当然だが、その持ち主の名は…



「ヌ、ヌル…ちゃん」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!!」
「コー…苦しんでる聖様に何を?」

女胤
「い、いえ…これは、介抱しようと」

阿須那
「せ、せやせや!」


ふたりは平気で嘘を吐く。
騰湖がいたら消し炭にされている所だな…
そして、ヌルちゃんも全く信用していない様だった。


タイプ:ヌル
「コー…信用出来ない」
「コー…聖様は、私が助ける」


そう言ってヌルちゃんは俺を優しく抱き上げてくれた。
俺は痺れのせいでマトモに動けず、なすがままにされるしかない…


守連
「ヌルちゃん、私も行くよ~! 私のせいでこうなったし…」


守連がそう言うと、ヌルちゃんはコクリと頷く。
そして、ふたりで歩き始めた。


阿須那
「あ、待ちぃな! ウチも…」

守連
「…それは無理だと思うよ?」


守連は非常に残念そうな顔をしていた。
こういう表情は、あまり守連からは見ない顔だぞ…?
とりあえず何かあるんだろうか?
俺は角度的に部屋の中は見えない為、詳細は把握出来なかった。
ただ、恐ろしげな何かは感じ取れる…



………………………



阿須那
「あっ、守連待…」


追おうとした直後、女胤に肩を強くバンバン!と叩かれる。
ウチは何や!?と乱暴に聞くが、女胤は顔面蒼白涙目で後ろを指差した。
そして、室内の気温が一気に下がるかの様なこの嫌な感じ。
ウチは全てを理解し、血の気が引いていくのを理解する。
そして、ギギギ…と音がするかの様な固さで首を後ろに向けけた。
そこには…鬼が。
いや、鬼と言うにも生易しい。
アレは…地獄の裁判官や。


華澄
「おふた方に判決を言い渡す…」
「地獄行き!! 特と見よ!!」

阿須那&女胤
「御許しをぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」



………………………



タイプ:ヌル
「コー…ホー!」

守連
「大丈夫…?」


俺はスタッフルームらしき部屋で、治療を受けていた。
感電で熱傷を起こした手に、ヌルちゃんが優しくクリームを塗ってくれる。
そしてその後包帯で患部をグルグル巻きにし、どうにか手の処置は終わった。

幸い、一瞬の事だったから大事には至らなかったが、ホントに危なかったな…
守連も流石に電気袋をコントロールは出来ないだろうし、これからは迂闊に触らない様にしないと…
っていうか、これだとキスをするのも危険すぎるな…
考えて、俺は守連を不憫に思った。
そして、今更やっと知った…何故守連が俺に甘えないのかを。



「守連…お前、こうなるのを恐れて、俺とは触れ合おうとしなかったのか?」

守連
「あ…う……」


守連は露骨に顔をしかめた。
やっぱり、そうなのか…
守連は規格外の強さのピカチュウだ。
しかも、自分でもロクに電力を調整出来ない程強い物で、その最大出力は10憶ボルト程。

今は普段から戦闘用に電力を溜めている状態だし、余計に危険だったんだろう…
守連は優しい娘だから、俺の為にいつも距離を空けてくれていた。
そして同時に悲しくなる…俺は、守連と触れ合う事すら難しいのだと。
それは、種族としての絶対的な壁だった…ただの人間である俺の限界。
たった一瞬でもコレなのだ…きっと抱き締めなんかしたら、死んでしまうんだろうな。


守連
「…今は、電力を満タンにしてるから」
「でも、大丈夫だよ?」
「私…聖さんからは、例え触れられなくても、一杯愛情を感じてるから♪」


守連は気丈にそう言う。
強がっているのは誰でも解る。
守連だって、本当は触れ合いたいのだ…
だが、その為には電気を全て放出しなければならない。
前に城で抱き締めた時があったが、あの時は全放電した後だったから無事だったのだろう。

だけど、普段からそんなピカチュウとしての性質を放棄して生活してたら、返って守連は苦しんでしまう。
俺は、何となくヤマアラシのジレンマを思い浮かべた。
自分の身を守る針が、好きな人をも苦しめてしまうジレンマ…
今の守連は、まさにそれなんだ…


タイプ:ヌル
「コー…守連さん、つらいなら、つらいと言った方が良いと思います」

守連
「ダメだよヌルちゃん…まだ、ダメ」


守連は笑顔で言う。
そして、守連は明確な意志を持ってヌルちゃんにこう告げた。


守連
「私のこの力が今は必要だから、つらいとは思わない」
「でも…戦いが終わったら、その時は…」


「ああ、思う存分、キスしてやるよ…」


俺がそう言うと、守連はうんっと笑った。
それは約束だ…俺は、また嘘を吐いた。
そして、俺は泣きそうになるのを我慢する。
俺は守連とはもう2度と触れ合えない事を理解した。
戦いが終われば、俺は夢から覚める。
そこにはもう、俺はいない…


タイプ:ヌル
「…コー…聖様?」


「ごめん、ヌルちゃん…少しここで休ませてくれ」


俺がそう頼むと、ヌルちゃんは快く頷いてくれた。
そして、俺は少し昼寝をする事にする…
側にはふたりがいてくれる…それだけで俺は安心出来た。



………………………



守連
「…ねぇ、ヌルちゃん」

タイプ:ヌル
「コー…ホー! ……?」


ヌルちゃんは首だけをこちらに向けて?を浮かべる。
私は聖さんの寝顔を見ながらこう言った。


守連
「ヌルちゃんは、聖さんの事好き?」

タイプ:ヌル
「!! コー…ホー!」


ヌルちゃんは少し躊躇いがちでも、静かに頷く。
私はそれを見て微笑んだ。
やっぱり、聖さんはモテモテだね…
私は気分を良くして更にこう続ける。


守連
「じゃあ、ヌルちゃんも家族だね♪」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」
「コー…でも、私は…」

守連
「大丈夫だよ」


私はヌルちゃんに笑顔でそう言う。
心なしかヌルちゃんの瞳は不安そうだった。
私は彼女を気遣ってこう続ける。


守連
「聖さんは、皆を家族にしてくれるんだよ?」
「だから、きっとヌルちゃんも家族になれるよ♪」

タイプ:ヌル
「コー…ホー!」


ヌルちゃんは答えなかったけど、きっと嬉しいはず。
聖さんの事が大好きなら、きっと聖さんはヌルちゃんたちも家族にしてくれる…
聖さんは、とっても優しい人だから。



………………………




「………」


やがて、俺は1時間程眠ってから目を覚ます。
頭はボーッとしてるが、すぐに意識を覚醒させた。
そして、俺はまた誰かに膝枕されているのを知る。
俺は上を見る…が、そこには俺の知らない白髪の美少女がいた。
しかし、この角度から見えるおっぱいは間違え様がない!
俺はとりあえずこう叫ぶ。



「その瞳…色は違うけど、まさかヌルちゃん!?」


俺の言葉を受けて、ヌルちゃんらしき美少女はコクリと頷く。
そして、静かな声でこう言った。


タイプ:ヌル?
「私、進化しました…多分」


「し、進化…」


俺は進化したヌルちゃんの膝から離れ、ゆっくり立ち上がってその姿を上から見下ろす。
服は変わらないが、首から上は大変わりしている。
長い白髪に後頭部から延びる太いポニーテール。
口内にはキラリと光る牙もあり、瞳は赤から銀に変わっていた。

色は違っても、ヌルちゃんだと解る位には俺もこの娘を見てたって事か。
そして、俺はとりあえずこう呟く。



「そうか、これが…『シルヴァディ』の姿なんだな」

タイプ:ヌル?
「聖様…その名は?」


どうやら、本人は進化系のシルヴァディを知らなかったらしい。
元々、タイプ:ヌルは人工ポケモン。
造られた本人からしたら、教えてくれる人がいないなら何も解らない状態だったのかも…
なので、俺はちゃんと彼女に教えてあげる事にした。



「タイプ:ヌルの進化系、シルヴァディ…それが、今の君の姿だよ」

タイプ:ヌル?
「シルヴァディ…進化系」


シルヴァディちゃんは呆然としていた。
だけど、理解はした様だった…目にはしっかりと強い意志が宿っているのを俺は見る。
そしてタイプ:ヌル改め、シルヴァディちゃんはゆっくり立ち上り俺にこう告げた。


シルヴァディ
「…すみません聖様、今から夕飯を作りますので…これで」


シルヴァディちゃんは長い髪を靡かせ、俺に一礼して足早に部屋を出て行く。
守連も既に部屋を出ている様で、俺はひとり残されていた。
もう痺れも無い…とりあえず大丈夫だな。
手はまだ若干痛いが、これもすぐに収まるだろう。
薬がちゃんと効いてくれてるのが解る…
俺は、とりあえず部屋に戻る事にした。

そういや、アイツ等死んでないと良いが…
俺は脳裏にアサシンモードの華澄さんを浮かべ、阿須那たちの冥福を祈った…って、だから休んでるのにダメージは勘弁よ!?



………………………




「ふい~、ただいま~」

華澄
「あ、聖殿…もう、大丈夫なのですか?」


「ああ、ヌルちゃん…じゃなくて、シルヴァディちゃんが治療してくれたよ」

華澄
「シルヴァディ…殿、ですか?」


俺はああ、と言って部屋に入る。
中は特に変わり無いが、他の3人が見当たらないな…
どこかに行ったのか?



「他の奴らは?」

華澄
「阿須那殿と女胤殿のおふた方には、少々灸を据えました…」
「まぁ、肉体的ダメージは皆無ですので問題はありません」
「今は守連殿が連れ添っておりますので、概ね大丈夫でござる」


灸、ね…何をしたのかは気になるが、あえて聞かない事にしよう。
とりあえず夕飯までには戻って来るだろ…
しかし、予想に反して阿須那と女胤は戻って来ず、守連だけが先に部屋に戻って来た。



………………………




「あにぃ? 食堂の手伝い~?」

守連
「うん、華澄ちゃんが罰にってふたりに…」

華澄
流石にあの狼藉…拙者も堪忍袋の緒が切れました」
「穏便に済ませる代わりに、ふたりには今日1日働く様に、キツく言っておいたでござる」


成る程ね…まぁ、自業自得だわな。
ったく、これでまた疲れましたじゃないか…もう、次は知らんぞ?
俺が頭を掻いてため息を吐くと、襖が開き、シルヴァディちゃんが現れる。
どうやら、夕飯の支度が出来た様だな。


華澄
「…その瞳、色は違うがもしやヌル殿っ!?」
「まさか、仮面が取れたのですか?」

守連
「そうだよ~進化したんだよ~♪」


知ってるって事は、どうやら守連はその場に居合わせていた様だな。
シルヴァディちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤らめてモジモジする。
す、素顔でやられると、これは反則的に可愛い…!
ポニテもゆらゆら揺れて恥ずかしさを表現してるな…
目付きは華澄さんの様に鋭い方だが、素直にこういう反応は可愛かった。


シルヴァディ
「あ、あの…食事が用意出来ましたので、どうぞ」


「ありがとう、シルヴァディちゃん」
守連
「ありがと~♪」
華澄
「感謝致します…」


俺たちがそう言うと、更にモジモジするシルヴァディちゃん。
やっぱり、進化してもこういう所は変わらないんだな…
俺は微笑みながら食堂に向かった。



………………………



阿須那
「ほい、お待ち!」

女胤
「お待たせしました…」


食堂に着くと、すぐに阿須那たちが皿を置いていってくれた。
どうやらちゃんと働いている様で何より。
まぁ阿須那は慣れてるだろうし大丈夫だろうが。
俺はここでひとつの疑問を投げ掛けた…



「女胤、まさかお前が作ってないだろうな?」

女胤
「流石にそんな勇気はありませんわ…私は洗い物と切り分け担当です」


それは安心した。
女胤の料理は化学兵器だからな…何でそうなるのか誰にも解らんが、レシピ通り作っても必ず不味くなる。
本当に意味が解らないが、何故かそういう物なのだ…
とりあえず阿須那の料理なら危険はあるまい。



「今回は海鮮丼か…流石に美味そうだな!」

阿須那
「まぁ、ある物で作るならこの方が楽やし早いやろ」
「野菜も冷やしサラダにしてあるし、ドレッシングかけて食い」
「味噌汁もおかわりいるなら気軽に言いや?」
「守連のは倍に盛っとるけど、足りんかったら遠慮なく言い…」


阿須那はそう言って厨房に戻る。
流石我が家のおかん…板についてるな~
俺は3人でとりあえず手を合わせた。

そして、いただきますの声と共に食事を開始する。
味はやはり文句無し…流石阿須那だな。
とはいえ、和食という点なら僅かにシルヴァディちゃんの方が上かもしれない。
やっぱり、相性もあるだろうからな…阿須那は中華と洋食が得意だし。
とりあえず、間違いなく満腹になる量を俺たちは食べ、やがて部屋に戻る事にした。



………………………



阿須那
「あ~疲れたわ…」

女胤
「流石に夜は客も増えて仕事量が倍加しますわね…」

シルヴァディ
「ご苦労様です…残りは私がやりますので、どうぞお食事を」


ウチ等はそう声をかけられ、エプロンを外す。
そして見知らぬ従業員に挨拶し、ウチ等は食堂に向かった。
あんな綺麗な店員もいたんやな…しかし、どっかで見たような?
女胤も疑問には思っている様やったが、何も浮かばんかった様や。


阿須那
「あ~あ、ホンマえらい目におうたわ…人間、欲に負けたらアウトやなホンマ」


ウチは骨身に覚えた。
華澄は絶対怒らせたらアカン!
もう女胤の様に変態路線に行くのは論外や。
これからはウチらしく攻めんと…


女胤
「そう言えば、この食事はヌルさんが作っていたのでしょうか?」

阿須那
「いや、厨房にはあの白髪の女しかおらんかったし、あの娘が作ったみたいやで?」
「…ん、でもこの味付けよう似とるな」


ウチは魚の煮付けを一口食ってそう思う。
この味付けはヌルと同じや…もしかして姉妹か何かか?
考えたら背格好もよう似とったし、あながち双子とかかもしれへんな。
って、姉妹やったら仮面も被ってるんちゃうんかな?
それとも、あの仮面はヌルだけの趣味か?
それやとかなり特殊な趣味やが…

と、ウチは考えるも、すぐに食事に意識を切り替える。
悔しいけど、この味付けは美味い…
やっぱり和食はウチにはまだまだやな…こういう味付けの応用が解らへん。
この味は長くここで作り続けた証拠やろ、流石に経験がちゃうのが解るわ。
とはいえ、もうすぐ飯作る暇もなくなるか…

明日は流石に最終決戦やろ…そうなったらもう飯作る事は多分無い。
最悪、これが最後の食事になるな…
そう考えたら、ええモン食わせてもろてるわ…純粋に感謝や。
ウチ等は美味しく食事を平らげる。
そして、タイミング見計らった様に白髪の女が現れた。
やっぱヌルに似とるな…歩き方とかもそっくりや。


阿須那
「美味しい料理御馳走さん! アンタ良い腕やな♪」

シルヴァディ
「………」


白髪の娘は俯いて顔を赤くしモジモジする。
こんな所までよう似とる…流石に気になったんで、ウチは直接聞いてみる事にした。


阿須那
「アンタ、ヌルの姉妹か何かか?」

シルヴァディ
「いえ、本人です…進化系のシルヴァディ、です」


ウチ等はふたりして固まる。
進化、系?
まさか、あの○レデターもどきの顔がコレになるんかい!?
恐ろしい…タイプ:ヌルの鉄仮面の下に、こんな美少女顔が潜んでたとは…
これやと、普通にヒロイン候補やないか!


女胤
「ですが、これで納得しました…やはり本人だったのですね」
「ありとあらゆる所で共通点があったので、もしやとは思いましたが…」

阿須那
「まぁ、仕事中に聞くわけにもいかんかったからな…」
「ほうか…進化ねぇ~まぁ、良かったやん♪」


ウチは笑顔でそう言ってやる、別に悪意は無い。
するとシルヴァディはモジモジしながら赤くなった。
あの仮面が無いだけで可愛さがダンチやな…
これなら、美少女と呼ばれても間違いないわ。
これは、強敵になりそうやな…


シルヴァディ
「今日はお疲れ様です…後は私がやりますので、もう休んでください」


そう言ってシルヴァディは食器をカートに乗せて炊事場に向かった。
ウチ等もそれを見送り、部屋に戻る。
とりあえず、風呂にも入りたいな…



………………………




「むぅ…」

華澄
「ふふ、どうしました聖殿?」


俺は華澄と五目並べをやっていた。
石は無かったので、紙にペンで書いてやっているのだ。
しかし、華澄さん容赦なく強い!
やはり基本的に知能が違うのか、こういうのでも華澄には勝てないな~
逆に守連相手なら良い勝負になるんだが…



「あーダメだ! 降参!!」

守連
「華澄ちゃん強~い♪」

華澄
「これでしたら、ある程度の定石を抑えておけば簡単です」
「後は、そこからどう相手を誘導するかがコツですな」
「聖殿は、比較的読み易い打ち方ですので、誘導は楽でござるよ」


成る程なぁ~誘導されてるとは思わなかった…
流石は華澄さんだな…
さて、そろそろ阿須那たちが風呂から戻るし、俺も風呂に入るかな?
俺はそう思って着替えの浴衣を持ち、温泉のある大浴場に向かう。
途中予想通り阿須那たちとすれ違い、俺は二三言葉を交わしてから温泉に向かった。



………………………



かぽーん!という効果音がいかにもしそうだが、そんな事は意外と無い。
そもそも、ここには今俺しかいないのだから…
俺は体をしっかりと洗い、誰もいないのを良い事にノーガードで温泉に浸かった。
そして、ゆったりと体を湯船に沈め、疲れを取る。
俺は明日の決戦を想定し、戦意を高めていた。



「明日で、全て終わらせる…俺たちは、必ず勝利する」


そして、滅びの未来に希望を…この願いは、必ず届くと信じる。
だけど、俺は自分だけが見る事は出来ないであろう未来に、少しだけ嫉妬した…



………………………




「俺の墓標に名はいらぬ…死すならば、戦いの荒野で」


「聖様、そんな悲しい事言わないでください…」


俺は一瞬固まる。
何故か声が聞こえた。
そして、声の方を見ると、そこにはまっ裸のシルヴァディちゃんが。
俺はすぐに顔を背けて謝る。



「ゴ、ゴメンッ! まさか、何も隠してないなんて!!」

シルヴァディ
「隠し……っ!?」


シルヴァディちゃんはどうやら素で忘れてた様で、すぐにタオルを体に巻く。
そして、赤面しながら体を洗いに行った。
な、何つーラッキースケベ…華澄さん以来だな。
しかし、ちゃんと恥じらいがあって良かった…
シルヴァディちゃんも俺がいるとは想定してなかったんだろうか?



………………………



シルヴァディ
「あ、あの…失礼、しますっ」


「は、はいっ、どうぞ…」


俺たちは下手くそなお見合いみたいに挨拶をする。
そして、シルヴァディちゃんは俺のすぐ隣の湯船に浸かった。
俺は思わず息を飲む…スゲェ。
シルヴァディちゃんのおっぱいは、湯船にぷかぷか浮いているのだ。
華澄さんのもそうだが、予想通りシルヴァディちゃんのも素晴らしいおっぱい。
俺好みのおっぱいランキングトップ3に入れても良いだろう。
ちなみに他ふたりは華澄と愛呂恵さんだ…


シルヴァディ
「………」


「………」


ふたりとも、特に会話は無かった。
ただ、のぼせるかと思う位には体が熱い。
シルヴァディちゃんも顔を俯けて恥ずかしがっている。
俺は、そんな彼女に何となく話しかけてみた。



「シルヴァディちゃん…どうして、進化出来たんだ?」

シルヴァディ
「解りません…ただ、守連さんに家族になれるよって言われて」
「聖様の家族になれるって想像したら…気が付けばこの姿に」


そうか、結局俺が引き金になってしまったのか…
しかし、家族にか…守連の奴、気軽に言ってくれたものだな。
とはいえ、俺が断らないのも理解されているか…
俺は頬をポリポリと掻いて俯いた、きっと赤面している事だろう。


シルヴァディ
「…聖様、私でも家族になれますか?」
「人工的に造られた、兵器の様な私でも…」


「なれるなれないじゃない…俺がする!」


俺の言葉を聞いて、シルヴァディちゃんは目を見開いて言葉を詰まらせる。
俺はそんなシルヴァディちゃんに笑って断言した。



「例え誰が否定しようとも…例え世界に見捨てられても」
「俺が、シルヴァディちゃんを大切な家族にするよ」


俺の言葉にシルヴァディちゃんは俯いて涙を流す。
彼女は確かに人工ポケモンだ。
でも、今は人化して人間となった。
こうやって涙も流すし、恋もするし、痛みもある。

このシルヴァディちゃんを見て、誰がただの兵器だと頭ごなしに言うのか…?
確かに、本物の人類とは違うかもしれない。
それでも、俺はシルヴァディちゃんを人間として家族に迎える。
これだけは、絶対曲げはしない。


シルヴァディ
「…ありがとうございます、聖様」
「私、聖様の為なら、いつでも力になりますからっ」


「こちらこそありがとう…でも、今は俺を信じてくれるだけで良い」
「この世界の未来も必ず救うから、信じてくれ」
「信じてくれるなら、俺たちは絶対に勝つから♪」


俺は最後に最高の笑顔を見せてそう言った。
それを見て、シルヴァディちゃんもコクリと頷く。
そして、真っ直ぐな瞳で強く言葉を放つ。


シルヴァディ
「…信じます」
「ですから、勝ってください…」
「そして、私たちも家族にしてください…」


「約束するよ…必ず勝って、家族にするって」
「だから、シルヴァディちゃんには、先に家族としての名前をあげるよ…」
「悠久に、家族の和が結ばれる…そんな想いを込めて『悠和』(はるか)、っていうのはどうだい?」

シルヴァディ
「悠和…良いんですか!? 私が、私なんかがそんな素敵な名前を頂いて!!」


俺は無言で笑って頷く。
こうしてシルヴァディちゃんは悠和となり、正式に俺の家族の一員として迎えられた。
彼女は幸せそうだ、その顔を見られて俺も嬉しくなる。
だけど、俺はまた罪を増やした。
それでも、彼女に信頼される以上、約束をした。

可能性は限り無く0…それでも、もしかしたら何か別の可能性はあるかもしれない。
今は、そう自分に言い訳を作り、心を奮い立たせる。
そうでもしなければ、俺は良心の呵責に耐えられないからだ。
この戦いは、もう俺ひとりの戦いじゃない。
皆の想いと一緒に戦うんだ…だから。



(俺たちは、皆との絆で必ずアルセウスを倒す!!)



………………………



オタチ
「もう、行ってしまうんですね…」

ジグザグマ
「聖様たちのご武運をお祈りしています」


「ありがとうございました、オタチさん、ジグザグマさん」
「このご厚意は、決して忘れません…」


俺たちは翌日の朝、食事を取って旅館の皆と別れの挨拶を交わした。
そして、今日…俺たちは最終決戦へと向かう。
皆、顔は真剣でコンディションは完璧。
俺は勝利を信じるだけだ。


エイパム
「聖様、頑張ってください!」

ヨーテリー
「私たち、あまりお役に立てなかったですけど…応援してます!」


「ありがとうふたりとも…その応援で十分助かるよ!」


そして、俺は最後に悠和ちゃんを見た。
今更語る事は互いに無い。
昨日、交わす言葉は全て交わしたつもりだからな。
だから俺たちは無言で笑って頷き合う。
そして、俺は夢見の雫の力で、再び最果てへと舞い戻った。
いよいよ、ラストバトルだ!!



………………………



オタチ
「行っちゃったね…」

ジグザグマ
「うん…」

エイパム
「聖様、勝てるよね?」

ヨーテリー
「解らないけど…でも、ここから応援しよ!」

悠和
「大丈夫です…聖様はきっと勝ちます」
「ですから、皆で信じましょう…きっと勝つって」
「私は信じます…絶対に、聖様は約束を守ってくれるって!」


私たちは快晴の朝空を見上げ、ただそう信じた。
そして願う…次に合う時は、悠久の和を結ぶ…そんな幸せな家族に、なれますように、と…










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが後悔はしていない』



第3話 『解き放たれし信頼:シルヴァディ』


To be continued…

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