最終章 第2話

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「地球か…何もかも皆懐かしい」

阿須那
「アホッ、とっとと戻るで!」


俺は阿須那からツッコミを受け、満足して笑う。
うむっ、やはりこうでなくてはボケ甲斐が無い!
ツッコミがいてこそのボケよ!!


守連
「じゃあね…ラルトスちゃん」

ラルトス
「うん、守連お姉ちゃんも頑張れ!」


守連は最後にラルトスちゃんと握手する。
ラルトスちゃんはその後、手を振り守連もそれを返す。


華澄
「サーナイト殿、どうもお世話になりました」

サーナイト
「怪我が治って何よりです」

女胤
「私(わたくし)からも、ありがとうございました」
「このご恩は、一生忘れませんわ…」


華澄と女胤はサーナイトさんに深々とお辞儀して礼をした。
サーナイトさんは終始笑っていた。
本当に、良い人だったな…


阿須那
「…ゲンガー、いや今は櫻桃やったか」

櫻桃
「…何? 恨み言のひとつでも言いたくなった?」


阿須那は櫻桃さんに話しかけ、櫻桃さんも気楽に答える。
昨日の事もあったし、色々不安もあったけど…とりあえず大丈夫そうで何よりだ。


阿須那
「ウチに恨みはあらへん…むしろ逆や」
「何かしらあるんやろ? 1発殴らせたるさかい、思いっきり来ぃや…」


そう言って阿須那は、指で自分の顔をトントンと叩く。
櫻桃さんはそれを聞いて、はぁ…とため息を吐いた。


櫻桃
「別に良いよ…もうこっちはあれから10年経ってんだ」
「聖と約束もしたし、アタシはもう誰も恨まない…」

阿須那
「ほうか…なら、ええわ……で、約束って何や聖?」


おっと、矛先がこっちに向いたか…
櫻桃さんは意地悪そうに微笑してるな。
くっそ…テキトーに誤魔化すか。



「別に…必ず滅びの未来を救うって、約束しただけだ」

櫻桃
「へぇ~? アタシの唇奪っといて誤魔化すんだ?」

阿須那
「く・ち・び・る?」


その言葉に、女胤もピクリとする。
華澄と、守連は割と冷静だな。



「…あれは櫻桃さんから奪った形でしょ?」

櫻桃
「ふ~ん、抱き寄せてくれたのは聖なのに…?」

阿須那
「ええやろ、ほんなら戦争や!」

女胤
「すぐにリセットボタンを押したくなる位にボコボコにしてさしあげますわ!!」


ダメだこりゃ、もうさっさと雫使うか。
こんな所で無駄ダメージ負っても困るし。



「それじゃ、突然ですがワープ!!」

阿須那
「ちょっ…!?」
女胤
「まっ…!?」
守連
「ばいば~い♪」
華澄
「では、御免!」


こうして、俺たちは即最果てに戻った。
ありがとう櫻桃さん、サーナイトさん、ラルトスちゃん…



………………………



サーナイト
「行ってしまいましたね…」

ラルトス
「お~早く私もテレポート出来る様になりたい…」

櫻桃
「…負けるなよ、聖? アタシも…諦めないから」


アタシは快晴の空を見上げてそう呟いた。
この空の先で、聖たちは戦っているんだろうか?
アイツの隣にいられないのは心残りだけど、アタシには守るべきものがある。
だから、ここで応援するよ…頑張れって。


櫻桃
(アンタはアタシの事なんて忘れて、思いっきり戦えば良い)
(だから、頑張れ…聖)



………………………




「ほい、到着!」

恵里香
「お帰り、皆…とりあえず、回復出来て何よりだね♪」

守連
「恵里香さん、ただいま~♪」


守連は恵里香に抱き付いて喜ぶ。
恵里香も笑いながら守連の抱擁を受けていた。


阿須那
「聖~アンタどういう事や?」

女胤
「聖様! そろそろ私も接吻が欲しいのであります!!」


おっと、早速ふたりが噛みついてきたな…
さてさてさ~て? どうやって切り抜けるか…


華澄
「おふた方、ここは抑えてくだされ…」
「櫻桃殿にも事情がありました」
「聖殿と櫻桃殿の事は…どうか、目を瞑っていただけませんか…?」


そう言って華澄が頭を下げる。
そんな華澄の行動を見て、阿須那は頭を掻いて息を吐いた。
同様に女胤も言葉を詰まらせている。


阿須那
「…しゃあないな、華澄にそこまでされたら」

女胤
「仕方ありませんわね…私もここは抑えます」


「悪いな…この件は今は忘れてくれ」
「華澄、すまない…」


俺が謝ると、華澄はいえ…と首を横に振った。
華澄は俺と櫻桃さんの1日を見ていたから、庇ってくれたんだろ…
俺はあの1日を絶対に忘れない。
櫻桃さんの真意は読めなかったけど、あれがただの演技とは思えなかった…
俺は、戦わなければならない…そして、必ず勝たなければ。


恵里香
「さて、じゃあ早速だけど…」


「待ってくれ恵里香!」

恵里香
「ラランテスの所に行くんでしょ?」


「ああ、そうだ……って! き、気付いてたのか!?」


恵里香は当然だよ…と言ってため息を吐く。
そして、真面目な顔でこう言い放った。


恵里香
「キミが櫻桃とイチャラブしてる間、こっちは草の根分けてモブ世界を探す羽目になったよ…」

阿須那&女胤
「イチャラブ…!?」

華澄
「お、おふた方…どう! どう!」


おのれ…恵里香の奴さては機嫌悪いな?
確かにあれはイチャラブだった…一線越えかけたからな。
流石の恵里香様もご立腹だったのか…



「とりあえず、見付かったんだな?」

恵里香
「もちろん…聖君の嫁は優秀だもの♪」


おっと、嫁を強調してきたな…やはり意識しているらしい。
とりあえず阿須那と女胤の視線が痛すぎるからさっさと話を進めよう。



「なら、先にその世界に送ってくれ」

恵里香
「構わないけど、誰を連れて行く?」


言われて俺は悩んでしまう。
次の世界がどんな世界か解らないが、全員で行くのはマズイか?
下手にダメージを受けるのは問題だし、全容が解らない内は慎重になった方が良いのか…


女胤
「聖様、ラランテスとはあのパルキア城の?」


「ああ…もし、櫻桃さんの様に絶望しているなら、俺はあの人を救ってやりたい!」


これは本音だ。
ラランテスさんが今どんな気持ちでいるのかは解らないが、白那さんに拾われなかった以上、本来の世界で何年も過ごしているはずだ。
大丈夫ならそれで良しだが、とにかくまずは無事だけでも確認したい。
必要なら、何が何でも救ってやらないと…!


女胤
「でしたら、私に同行の許可を」
「ラランテスさんとは面識もあります、是非」


「…分かった、なら女胤を連れて行こう」

恵里香
「後ひとり位は連れた方が良い…ちょっと、厄介な世界だからね」


厄介…と、あの恵里香が言うなんて。
つまり、何かしら危険があるという事か。
だとしたら、やっぱ慎重に選ばないとな。


恵里香
「一応最初に言っておくよ? ラランテスの世界も、過去にキミが関わっていない世界だ」
「そして、未曾有の大災害が起きた地」
「はっきり言って過酷な世界だ…生半可な覚悟では無いと思うけど、彼女を救う気なら決して心を折らない様に」


あの恵里香がそこまで言うのか…だが、それなら俺はなおの事退けないな。
そんな過酷な世界なら、ラランテスさんは相当つらい目にあってるかもしれない。
それなら、俺は絶対に助けたい!


阿須那
「…ほなウチが付いてくわ、火も料理も出来る人間は欲しいやろ?」


「確かに…過酷な世界となると、それも重要だな」
「よし分かった、なら女胤と阿須那で行こう! ふたりとも、手伝ってくれ!」


ふたりは強く頷いてくれる。
頼れる仲間だ…俺は自信を持って恵里香にこう言う。



「頼む、恵里香」

恵里香
「…分かった、あっちだよ」


俺たちは指差された先、光の道筋を見る。
そして、3人で道を駆け抜けた。
その先には、ラランテスさんの世界がある。
そこは一体、どんな世界なのか…?



………………………



阿須那
「んっ…!」

女胤
「け、結構…違和感がありますわね」


そういえばふたりは無傷で送られるのは初めてか。
最果てに慣れると、現実の体に違和感を覚えるからな…
俺もこれだけはまだ慣れん。



「しっかし…何だこりゃ?」

阿須那
「まさに世は世紀末!って感じか…?」


俺たちは周囲を見渡すが、そこは一面の荒野。
砂嵐が酷く、息をするのも一苦労だ。
とにかく、まずは移動しないと…



「ヒャッハー!!」


ドバァ!と、突然地中から何者かが飛び出して来る。
5ヶ所位連続して飛び出して来た。
俺たちを囲む様に移動し、ジリジリと距離を詰めて来ている。



「ちっ! ポケモン男だが、ソッコーで野盗か何かかよ!?」


見た感じ、岩タイプの様だ。
全身をゴツゴツした岩の鎧で覆っており、腕がかなり太い。
上半身と下半身がアンバランスで、いかにも岩って感じだな。


阿須那
「見た所、イシツブテって所かアンタ等?」
「痛い目に合いたないなら、とっとと消え…せやないと」
「消し炭にしたるで!?」


そう言った矢先、ドォンッ!と爆発音に似た音が相手の足元で鳴る。
阿須那は野盗の足元に火炎を放ち、威嚇したのだ。
その火力は凄まじく、野盗の足元はブスブスと焼け焦げている。
だが、野盗は一瞬怯んだものの、すぐに襲いかかって来た。
そして、すぐに阿須那が俺の前に立ち、女胤は俺の背中を護る。
とりあえず、ふたりに任せれば大丈夫か?


女胤
「聖様には指一本触れさせませんわ!!」


女胤は両手を前に掲げ、緑色の光弾をショットガンの様に放つ。
拡散して放たれたそれは、一気に3人を吹き飛ばした。
それを見て俺は思わずこう叫ぶ。



「○メラルドスプラッシュ!!」

女胤
「いえ、まぁポーズは似てますけどね! これは『種マシンガン』ですよ?」


成る程、種マシンガンだったのか…
あれじゃ種ショットガンだが、女胤的には種マシンガンらしい。



「ってか、お前は物理技って苦手じゃないのか?」

女胤
「私のは第三世代仕様なので、特殊扱いですわ!」


そりゃ相性は良いな…その分威力も低いわけだが。
あの頃の1発威力10はホントゴミ技だったからな…当時はタネボーに覚えさせる位しか使い道が思い浮かばなかった。


阿須那
「とりあえず片付いたで? どないする…?」


おっと、気が付けばもう終わってたか…
さて、とりあえず阿須那がひとり首根っこ掴んで捕まえている。
まずは話を聞こうか…



「とりあえず、お前らは何だ? ただの野盗で良いのか?」

イシツブテ
「そうだよ! こんな時代、力が支配するんだからな!!」


う~む、まさに時は世紀末…こりゃ、水が貴重そうだ。



「力こそ正義…良い時代になったものだ!」

イシツブテ
「とにかく、もうこの辺りの国はダメだ」
「女王アマージョが完全に支配して、弱い連中を弾圧してる…」

阿須那
「…弾圧? こんな環境なんに手を取り合おうとせんのか?」


確かに、マトモな思考ならそうだろうな。
だが、文明も退廃したこんな世界じゃ…そんな理屈はバカも見るんだろう。
野盗はそれを証明するかの様に嘲笑っていた。


イシツブテ
「何をバカな! 水も食料も貴重なんだ!!」
「女王が弾圧するのは、それこそ無駄な食いぶちを減らす為!」
「自分たちだけで国を作り、水と食料を安全確保する」
「弱い奴は虐げられるしかない…女王にライフラインを握られている以上、俺たちは他者から奪い取るしかないんだ!」


何て時代だ…女王、ね。
こりゃ本格的にラランテスさんが心配だな…
しっかし、未曾有の大災害とは…ベタに核戦争でも起こったのか?
ポケモンだけの世界に、そんな文明があるとも思えんが。


女胤
「…ところで、貴方はラランテスというポケモンの女性を知っていますか?」

イシツブテ
「ラランテス!? まさか、閃光のラランテスの事か!?」


せ、閃光のラランテスゥ…?
何か物凄いふたつ名が付いてるが…あのラランテスさんの事なんだろうか?
俺は紳士的な姿しか見てなかったから、ただでさえ戦うイメージが沸かないんだがな…
とはいえ、実際には女胤を追いつめる程に強かった人だし、世が世なら腕っぷしで有名にはなっているのかもしれない。


阿須那
「とりあえず、そのラランテスとやらに会いたいんやが、居場所解るか?」

イシツブテ
「ラランテスなら、そこかしこでレジスタンス活動をやってる」
「今この領土で、女王に唯一歯向かう組織のトップだからな」


成る程…なら、とりあえず会うしかないな。
まずはレジスタンスに接触しないと。
そこかしこで活動してるなら、偶然会う事もあるかもしれない。



「ありがとよ、とりあえずその辺でレジスタンスを探す事にする」

イシツブテ
「ま、待ってくれ! アンタ等一体何者だ!?」
「とんでもなく強いが、まさかアンタ等も女王に逆らうのか!?」


イシツブテは信じられないといった風にそう聞いてくるが、俺は首を横に振った。
そして、笑ってこう言い放つ。



「俺たちはただの人間だ、そして助けたい人がいる…それだけさ」
「女王とかは、ぶっちゃけどうでも良い…必要なら戦うけどな」


それだけ言って俺たちは背を向けて歩く。
砂嵐の中、俺たちは何も無い荒野を、ひたすらに歩き続けた…



………………………



阿須那
「…あれから1時間位か」

女胤
「レジスタンスらしき者は、まだ見かけませんね」


「国って言ってた位だ…多分相当広い領土なんじゃないのか?」
「偶然に頼るにしても、人の気配すらこう少なくっちゃな…」


俺たちは、今は岩影で休んでいた。
幸い砂嵐は収まり、視界も良くなってる。
だが、依然周囲は荒野が広がるのみ。
草木1本だって生えちゃいない…まさに地獄だな。


阿須那
「これやと、食料より水の方が遥かに重要やな…」
「華澄に来てもろた方が良かったかもな…」


「来てしまったものは仕方が無い」
「とにかく、宛もなく彷徨うのは返って危険だ、まずは状況を確認しよう…」


俺はスマホを取り出し、恵里香に連絡を取る。
まずは何かでもサーチしてもらわないと…


恵里香
『とりあえず、その場から右に1km進めば誰かに会うね』
『敵か味方かは解らないけど、気を付けて』


俺はそうアドバイスを受けてスマホを仕舞う。
そして、3人でまた歩き始めた。
そして約10分…俺たちは、ついに何者かに遭遇する。


デカイ男
「貴様か~! 俺の仲間をやったのは!?」


「…弱者だけを狙う外道め、貴方には今日を生きる資格は無い!」


ズバァッ!!と一閃。
突然小さい方の人間の手からビームが伸び、相手のデカイ方が縦に両断された。
血も蒸発し、傷痕からは鮮血すら出ない。
相手はそのまま地面に落ちて絶命する。



「絶・命・勝・利!!」


「何者だ!? ……っ!?」


声から判断して女性らしき人は、俺たちを見て驚いていた。
その人は全身にボロ布を纏っており、容姿はほとんど把握出来ない。
だが、俺は声を聞いて何となく確信していた。
その人は、まるで別人の様になってしまってるが、俺はあの声のトーンをまだ覚えている。



「ラランテス、さん…ですよね?」


「さ、聖…様?」


やはり、彼女はラランテスさんだった。
ラランテスさんはボロ布を脱ぎ、頭を露出させて顔を見せる。
その顔は俺の知っている顔だが、まるで印象が違う。
服装も燕尾服ではなく、厚い布の服を着込んでおり、帽子も被っていない。
髪型は変わらない…が、帽子が無い彼女の頭には、小さな触覚みたいな物がふたつ生えていた。
今までは見る事の出来なかった部分だ…少し新鮮だな。

そして何より、それまでの生活を物語るかの様な大きな傷が、右頬に刻まれているのを俺は確認した。
その傷は左目の下辺りから顎下辺りまで伸びる1本の切傷。
かなり深い様で、見るからに痛々しい痕だな。


ラランテス
「な、何故…ここに?」


ラランテスさんは怯えた様に俺を見ている。
何故そんな反応をされるのか、俺には解らなかった。
だけど、まるで会いたくなかった…と言いたげなラランテスさんの泣きそうな表情は、俺の胸に深く突き刺さっていた。

彼女は、一体どれだけの地獄を歩んで来たのだろうか?
そして、どれ程の人間を切って来たのだろう…?
ラランテスさんは、もう俺の知っているラランテスさんでは、ないのか…?
だが、俺には俺の目的がある…その為に、決して彼女を見捨てたりはしない!



「俺は、ラランテスさんに会いに来ました」

ラランテス
「…っ、何故っ!? 何故今頃になって来たのですか!?」
「どうして、どうしてもっと早く来てくださらなかった!?」
「どうして…もっと早く、私を…ここから連れ去ってくださらなかったのですか……?」


ラランテスさんは叫ぶだけ叫び、その場で両膝を落として地面に伏した。
そして俺は聞いた…ラランテスさんの本音を。
俺は悟る…ラランテスさんはやはり苦しんだのだと。
ラランテスさんは、白那さんに拾われなかった事で、地獄を見ていた様だ…

こんな力が支配する世紀末的世界…あの優しいラランテスさんは、きっと誰かの為にレジスタンスとなって蜂起したのだろう。
でも、俺と出逢ってしまった事で、それまでの想いが一気に噴き出してしまったのだ。
俺は、ゆっくりラランテスさんに歩み寄る。
そして、地面に伏して泣くラランテスさんの背中を、優しく撫でた。



「すみませんでした、俺のせいで…」

ラランテス
「違うのです! 貴方は何も悪くない!! ただ、私が弱いのです!!」
「貴方を見た瞬間、あの時の城の楽しさが再び甦って来た…」
「そして、もうそこには戻れないのだと絶望した…」
「解っているはずなのに…解っているはずなのに!! 私は、貴方に甘え様とした!!」


ラランテスさんは顔を上げ、泣きながら俺の顔を見る。
その顔はもはや砂や土で汚れており、マトモに体を洗う事さえ難苦しているのだろうと俺は推測する。
そして、俺はそんなラランテスさんの顔を見て、拳を強く握った。
絶対に救わなければならない…彼女を。


女胤
「ラランテスさん…お久し振りです」

ラランテス
「な、女胤殿…お変りは、無い様で…」

女胤
「…貴女は、変わりましたね」


女胤は複雑そうな表情でラランテスさんに近付いて声をかける。
ラランテスさんもようやく立ち上り、俯いて女胤にはい…とだけ答えた。
どんな思いであるのだろうか? 互いに1度は殺し合った敵同士。
女胤は既に事情を知っているだけに、大丈夫だとは思うが…


阿須那
「アンタがラランテスか…一応、初めましてやな」

ラランテス
「はい…お初お目にかかります、阿須那殿」


ラランテスさんは少し落ち着いたのか、軽く笑って阿須那に挨拶を返す。
阿須那も特に思う所は無いのか、それ以上は特に話さなかった。



「ラランテスさん、女王に戦いを挑むんですか?」

ラランテス
「知っておられたのですか…はい、機は熟したと私は判断しています」
「レジスタンス全軍を持って、我々は女王の首を取りに行きます!」
「聖様…もし、よろしければ…その」


「はい、付いて行きます…ラランテスさんを救う為に!」


ラランテスさんは俺の力強い言葉に俯き、そして涙を流した。
だけどすぐにその涙を拭い、しっかりとした顔で俺を見る。
その顔は、以前に見た時よりも、より力強かった。


ラランテス
「聖様…お願いがあります、どうか私に名をいただけませんか?」


「…はい」


俺はしっかりと頷いて答える…がっ! 圧倒的に不足!! 既に…! 女性草使いのネームストックは無いのだ!
そして俺は頭をフル回転させるが、何も出て来ない。
しかし、この完全に信頼されきってるラランテスさんの前でネタはかませない。
さて、どうしますかね…?



「じゃあ…『浮狼』(ふろう)はどうです?」

ラランテス
「はい! ありがとうございます…私は、これより浮狼!」
「この名に誓って、私は必ず女王アマージョに勝ってみせましょう!!」


ラランテスさんは手を胸に当て、快く受け入れてくれた。
そして、強く誓いを立てる。
もう、さっきまで泣いていた彼女はどこにもいない。
ちなみに、名前のモデルはフランス語『Flo』でググってくれ。


浮狼
「聖様、まずは私たちの拠点にご案内いたします」
「女胤殿と阿須那殿も、それでよろしいでしょうか?」

女胤
「ええ、聖様が行くのでしたら」

阿須那
「ウチも構へんで」


とりあえず、目的は決まった。まずはレジスタンスの拠点だな。
俺たちは浮狼さんの案内の元、歩き始めた…



………………………




「大将、お帰りなさい!! って、あれ…その人たちは?」

浮狼
「ただいま、ペンドラー」
「こちらは、聖様、女胤殿、阿須那殿…これから、私たちに協力してくださるお方たちだ」


浮狼さんが俺たちをそう紹介すると、ペンドラーと呼ばれた長身の女性は、へぇ~と驚いていた。
彼女は紫の長髪で、軽装の黒い鎧を着込んでいる。
背中側の腰布がやけに長く、足元まで伸びているそれはペンドラーの長い体を表現しているかの様にも見えた。
前に見たアルセウス配下の異形共とは違い、こっちはフツーに人間っぽくて美女。
頭からは特有の角(触覚?)が付いている。


ペンドラー
「で、大将…決行はいつにする?」

浮狼
「明朝、全員でここを出ます」
「皆にもそう伝えておいてください…私は今日は聖様たちと共に過ごしますので」

ペンドラー
「了解っ、じゃあどうぞごゆっくり、ご客人♪」


ビシッと敬礼し、笑いながらその場を去るペンドラーさん。
内部は外から見た感じ、そんなに広くないみたいだけど、一体どの位の勢力なのか…?


浮狼
「レジスタンスは現在、全員で100名程います…」
「総数では勿論圧倒的不利ですが、例え女王配下の兵士が1000人集まろうとも、十分戦えるであろう精鋭たちです」


「10倍の戦力差を覆せるって事か…まぁ、例え話なんだろうけど」

浮狼
「どれだけ不利だとしても、7年前のあの戦いに比べれば、何もかも現実的に感じますよ」
「あの時の彼我戦力差は、数字以上に酷かったので」


成る程、それ程守連たちは恐ろしかったわけだ。
逆に言えば、それを知っているからこそ女王軍に臆する事も無いわけか…


阿須那
「…せやけど、国って言うからにはそれなりの防衛力があるんちゃうん?」
「少ない人数やと、籠城されたら敵わんで?」

浮狼
「そこはご安心を…籠城されるなら返って好都合ですので」


浮狼さんは微笑してそう言う…成る程、手はあるわけだ。
まぁ、機は熟したって言ってたし、勝てる算段があるから攻めるんだろうしな。


女胤
「それで、私たちはどうしますか?」

浮狼
「貴女方は、極力聖様を護ってください…敵の相手は、基本的に私たちがやります」

阿須那
「ええんか? 別に協力は惜しまんで?」


阿須那の好意も、浮狼さんは首を横に振って断る。
そして、キッと強い眼差しでこう言った。


浮狼
「この世界は、過酷です…いつどこで何が起こるか解らない」
「そんな状況で聖様を矢面に立たせる以上、決して敵の手にかけてはなりません」
「ですので、貴女方には極力聖様の護衛をお願いしたいのです」


ふたりはそれを聞き、とりあえず頷く。
そして、俺はさらりと不穏なワードを耳にしてしまい、こう尋ねた。



「つか、俺も戦場に出るんですか?」

浮狼
「お願いします…もし、貴方が側にいてくださるなら、私の力は何倍にもなりましょう」


浮狼さんは真面目にそう言った。
何でここまで信頼されてるのか、正直俺にはよく解らないんだが…?
とはいえ、頭を下げてまで頼まれたら断るわけにもいかない。
俺は躊躇いながらもそれを承諾し、浮狼さんと共に最前線に出る事が決まった。



………………………



浮狼
「そう、ですか…パルキア様、いえ白那様も、他の皆様も、聖様のお力になられたのですね」
「あの方のご悲願が、ようやく叶ったのですか…」


俺は、あれから浮狼さんに今までの経緯を話していた。
そして、浮狼さんは白那さんの事を聞き、静かに震えて涙を流している。
どれだけ、白那さんが浮狼さんに慕われていたかが解るな。


浮狼
「…私は本来7年前、白那様に拾われました」
「当時の私は15歳…この世界ではさして力も無く、ただの弱い存在でした」
「ですが、白那様はそんな私を助けてくださり、城に導いてくれたのです」
「そして、力の無い私でもやれる様にと、庭師としての仕事を与えてくださった」
「それから私は、白那様へいつか恩を返す為にと、この腕を磨き続けたのです」


浮狼さんは右拳をギリ…っと握り、思い出す様に目を瞑った。
今の浮狼さんを見れば、もう弱いだけの存在でないのは明白。
世界は残酷だったが、それでも彼女は誰かの為にその剣を振り続けていたんだろうな…


女胤
「そう、だったのですね…」

浮狼
「この世界は、基本的に力が全てです」
「力のある者が権力を持ち、無い者は泥をすするしかない…」

阿須那
「まぁ、そういう世界なら仕方あらへんのかもな…力の無いモンが淘汰される世界、それが世界の在り方なら」


それは、まさに理みたいな物なのかもしれない…
力のある者は奪い取り、無い者は奪われ、淘汰されて消えていく。
それが、どれ程の地獄かなんてわざわざ体験したくもない。
いや、だからこそ俺たちはここに来たんだ。


浮狼
「5年程前、隕石郡がこの世界に降り注ぎました…」


「…っ!」


それは、未曾有の大災害の事だろう。
やはり俺が関わらなくても、世界は滅びに向かおうとしてるのか?
それとも、それもアルセウスの暴走が何かしら関係しているのだろうか?


浮狼
「世界中のポケモンがほとんど死に、もはや残された僅かばかりの人は、失われた限りある食料と水を求め、略奪を始めました」
「その際に弱き者は生きる道を完全に絶たれ…私もまた、何度も殺されそうになりました」
「ですが、聖様たちにまた会うまで、私は死ねないと何度も思い、今日まで戦い、そして更に強くなろうとしました…」


「そして、強くなったんですね…弱者を救う為に」


浮狼さんはコクリと頷く。
その顔は、悔しさとも、怒りとも取れる顔だった。
だけど、浮狼さんは微笑んで俺にこう言う。


浮狼
「…ありがとうございます、聖様」


「えっ…?」

浮狼
「聖様が来てくださらなければ、恐らく相当苦しい戦いになっているはず」
「ですが、貴方が側にいてくださる今、もはや負ける気はしません!」


浮狼さんはそんな事をハッキリと言ってくれる。
だけど、俺はやっぱり腑に落ちなかった。



「待ってください浮狼さん! 俺は、そんなに浮狼さんに慕われる理由が解らない!」
「何故、浮狼さんはそこまで俺を信頼出来るんですか!?」


俺が叫ぶと、浮狼さんは不思議そうな顔をした。
そして口元に手を当て、噴き出して笑う。
俺は顔に?を浮かべた事だろう…そんな俺を見て、浮狼さんは優しく微笑んだ。


浮狼
「これでも、お慕いしていたのですがね…? 無論、消えない様にそれを抑えてはいました」
「貴方に恋をしてはいけない…その理に則り」
「ですが、今は違います…例え世界が変わっても、例え何度虐げられ様とも」
「私は、聖様や白那様たちの顔を思い出して戦い続けました」
「いつか再会出来る日を夢見て、聖様にいつか、この想いを伝える為にと…!」


それは、告白だった…そして衝撃的な事実だった。
正直、浮狼さんがそんな想いを隠していたなんて…


浮狼
「最初は、不思議な方だと思う程度でした」
「ですが、何度か共に外出する内、段々と惹かれていく自分に気付き始めました」
「その時悟ったのです…これが、白那様の抱いている気持ちなのだと」
「私は、常に努力し、強くなろうとする聖様の姿に自分を重ねました」
「そして私は確信もしました…ああ、この人はきっと、私よりも強くなるのだと、そう思って」


「そう、だったんですか…」


思えば、俺を外に出す様にしてくれたのは浮狼さんだ。
そして、外出する時はいつも浮狼さんが居てくれた。
愛呂恵さんの隣で、いつも俺が走り込むのを見ていてくれたんだっけ…
俺は、自分でも知らない内に、浮狼さんのフラグを立てていたのか…



「だったら、責任持って俺たちが最後まで手伝いますよ」
「ですから、これからしばらくの間よろしくお願いします!」

浮狼
「はいっ、こちらこそよろしくお願い致します!」


改めて、俺たちは握手をした。
浮狼さんの手は温かったが、その手は傷だらけ。
きっと、ここまで相当な修羅場を潜って来たんだろう。
そして、今こうやって優しい微笑みを俺に向けてくれる浮狼さんは、そんな地獄を戦い抜けたのだ。
俺は、そんな彼女を必ず救ってみせると心に誓う。
俺を慕ってくれる、この強くも弱い女性を……



………………………




「俺を愛していると、言ってみろ?」

浮狼
「はい、愛しています…」

阿須那
「愛しとるに決まっとるやろ!」

女胤
「愚問ですわ!」


ネタなのに思いっきり本音で言われる…シクシク。
つか、浮狼さんまでやっぱりマジなのね…



「そういえば、相手は国って聞きましたけど、アマージョの領土以外の国もあるんですか?」

浮狼
「いえ、この世界における国とは、まさにアマージョの世界です」
「完全独裁国家であり、その全ての民が女王の管理下に置かれています」
「故に、次の作戦はあくまでその国の国力を削り、逆にこちらの軍を大きくするのが最大の目標となります」


そう言って浮狼さんは棚から地図を取り出し、それをテーブルに広げた。
俺たちはそれに注目する…どうやら世界はひとつの大陸となっており、地図上ではそれを3等分に線引きされているのだ。
やがて浮狼さんは説明を始る。


浮狼
「私たちのいる拠点が、この南側の果て」
「そしてアマージョがいる城は、この世界の最北」
「その間に存在するこの3つの領土が、我々の攻撃目標となっているのです」


浮狼さんは地図を指差したりしながら、そう説明してくれる。
とりあえず、この線引きはその領土を仕切ってるって事か。
だとしたら、こりゃ相当大変な戦いになりそうだな…


ペンドラー
「大将! そろそろ会議だ、こっちに来てくれ!!」

浮狼
「分かりました、すぐに行きます!」


ペンドラーさんがそう告げると、浮狼さんは俺たちを連れて会議の場に向かう。
そこは外で、既に総勢100名の精鋭たちが綺麗に整列していた。
しっかりと統率が取れているみたいだな…皆真剣な顔で浮狼さんを見ている。
そして、俺たちの事には目もくれてないみたいだ…まぁ仕方ないが。



………………………



ペンドラー
「テメェ等! 覚悟は出来てるか!?」


おーーー!!と、全員が腕を上げて呼応した。
ペンドラーさんは笑って腰に手を当て、やがてこう叫ぶ。


ペンドラー
「今から作戦概要を説明する!! まずは、南方区を仕切ってるクソヤロウを地獄に送るぞ!?」
「編成は全5部隊! まず1番隊はアタシが仕切る!!」
「基本的に前衛担当だから、ほぼ特攻隊だと思えよ!?」


ペンドラーさんは気合いの入った声で説明している。
兵士たちもかなり指揮が高いのか、大きな声で応えていた。
つーか、ここまで浮狼さん何も喋ってないが…?



「…浮狼さん、何も言わなくて良いんですか?」

浮狼
「そ、その…お恥ずかしながら、私はあまり作戦を考えたりするのが苦手で」
「こういった作戦会議は、基本的に軍師のペンドラーに全て丸投げしているのです」

阿須那
「無能指揮官かいな!? 大将が戦闘専門でええんか!?」

女胤
「ま、まぁ…幸いペンドラーさんは優秀な方の様ですし、指揮が問題無いのなら良いのでは?」


確かに、ペンドラーさんはガチに軍隊の教官系だもんな…
だけど昨日見た感じは、もっと優しそうなお姉さんって印象だったのに…
やっぱ実質全軍を指揮する軍師の立場だから、相当な胆力の持ち主なんだろうな。


ペンドラー
「妹のライト、レフトはアタシの所! 後は高速機動部隊のヤンヤンマ12名とストライク10名だ!!」

ライト&レフト姉妹
「は~い♪ 任せてお姉ちゃん!」


妹と呼ばれた、ふたりの双子っぽいポケモンが笑顔で同時に答える。
見た感じはホイーガって所かな?
背は小さいけど、薄紫の鎧を着込んでいる。
その鎧には槍の様な突起が付いており、ホイーガの角(?)とかそんなのにも思えるな。
見た目は本当にそっくりで、姉と同じ様に長い髪を靡かせて行動をシンクロさせていた。


ペンドラー
「続いて2番隊! 隊長はクワガノン!! 砲撃支援部隊として、トリトドン12名とヌオー12名!!」

クワガノン
「…了解だ、任せろ」


ホイーガちゃんたちの横に立っている、長い金髪の女性がそう答える。
クワガノンと思わしきその女性は、特徴的な角と羽を持っていた。
クワガタの角を模したそれは、頬から前に突き出しており、恐らく口から電撃を放つのだろうと予想出来る。
そして腹の部分は鎧で覆われておらず、肌が露出していた。
そこは特殊な模様が丸で描かれており、俺はクワガノンの設定から何なのかを予測する。



(蓄電器か…クワガノンは腹に電気を溜めて放つと言われているからな)

ペンドラー
「次は3番隊! 隊長はケケンカニ!! 迎撃防衛部隊としてゴーリキー12名、ゴローン12名だ!!」

ケケンカニ
「よっしゃあ!! 腕が鳴るぜぇ!!」


勢い良く答えたのはクワガノンさんの隣にいた、雪の様に白い短髪が特徴のケケンカニと思わしき女性。
彼女は拳と拳を強く合わせ、力強さをアピールしていた。
ケケンカニさんは特徴的な太い両腕が特に目を引く。
格闘タイプらしく腕力のありそうなその腕は、まさに『鉄の拳』なのだろう…


ペンドラー
「4番隊は隊長アブリボン! 索敵情報部隊としてミルホッグ12名、フラエッタ12名だ!!」

アブリボン
「OK! 任せといて♪」


続いて明るく答えたのは、ケケンカニさんの横にいた金髪セミロングのアブリボンと思わしき女性。
種族の特徴なのか、身長はかなり低い。
可愛らしい見た目にどれ程の強さがあるのかは解らないが、索敵担当なら前線にはあまり出ないのかもしれない。
虫らしく、頭には黒い触覚が2本伸びているな。


ペンドラー
「最後に大将率いる0番隊! 大将に付くのはこちらにいる客人たち3人だ!!」


最後に大きな声で俺たちは大々的に紹介される。
瞬間、ザワザワと兵士たちはざわめき始め、それを見てか浮狼さんはようやく前に歩み出た。
そして、ざわめく皆を落ち着かせる用にこう叫ぶ。


浮狼
「皆! この方たちは私の信頼する方たちです!!」
「突然の紹介で驚いたかもしれませんが、どうか信じてほしい!!」


浮狼さんの言葉を受け、兵たちは一気に咆哮する。
そして全員が笑い、士気が高まるのを俺は理解した。
改めて、浮狼さんは信頼されてるんだな…これだけの兵がいながら、その全てが浮狼さんを大将として信頼してるんだから。


ペンドラー
「全員出撃準備だ!! 惰眠を貪ってる南方のクソヤロウに、アタシたちの力を思い知らせてやるぞぉ!?」


最後にペンドラーさんがそう叫び、一気に軍は動く。
皆がそれぞれの担当を理解し、素早く部隊編成を済ませてしまった。
やがて出撃準備が終わると、ペンドラーさんはデカイ馬車みたいなのを押して来る。
まさか…ペンドラーさんこれ手押しするの!?


ペンドラー
「全員配置に着きましたぜ! 大将たちも乗ってくれ!!」

浮狼
「はい…さぁ、聖様たちも」


俺は浮狼さんに手を引かれ、馬車(ペンドラー車?)の荷台に乗った。
阿須那と女胤も続いて乗り込む。
荷台はそこそこ広く、4人乗っても余裕はある位だ。


阿須那
「へぇ…ここが実質本丸って事か?」

女胤
「の、ようですね…0番隊がここに集まる以上、そういう事でしょう」

浮狼
「基本的にはペンドラー率いる1番隊が私たちを前線に送ってくれます」
「後は到着次第、私が敵将を討ちます!」


「基本特攻か…だけど、成功するなら被害は最も抑えられそうだな」

女胤
「しかし、裏を返せば弱点を常に露出させて戦うも同然」
「大きな危険が伴うのも確かです」

阿須那
「その為のウチ等やろ? 最高戦力わざわざ集中させとるんや、奇襲で速攻かけるんやったら最善手とも取れるわ」


確かにそうかもな…その為に俺はここにいる。
浮狼さんは俺がいれば必ず勝てると言っていた。
なら、俺は信じよう…そして、守ろう。
浮狼さんの戦いは、俺たちの戦いでもある。
その先に救いがあるなら、俺は迷いはしない。



………………………



ガタンガタンガタン!!


ペンドラーさんとホイーガさんの姉妹が手押しで引っ張る車は、信じられない速度で走っていた。
どうやら3姉妹全員『加速』の特性の様で、時速にして軽く100km前後は出ている様だ。
ただ、その分荷台の揺れ方が激しいのが困り所だが。


女胤
「そういえば、実質遠征に近いこの進軍、少ない食料事情は解決出来るのですか?」

阿須那
「せやな…仮に勝ったとしても、結局食料が足らんならその先は苦しゅうなる」
「その辺はどないする気なんや?」


ふたりの言葉に浮狼さんは小さく頷く。
そして、明確なビジョンを持って彼女はこう答えた。


浮狼
「当面、南方の領土を奪えば、概ねそこにある畑と川が手に入ります」
「畑はそれなりの規模で、奪えれば食料事情はかなり改善される事になるでしょう」
「川の水も、ろ過法が有りますので問題無く利用出来るはずです」


「って事は、極力被害を抑えて速攻が理想だな」

阿須那
「せやな、戦線が広がればそれだけ畑は無くなるし、長引けば敵も増援を呼ぶやろ」

女胤
「可能な限り、満足な状態で領土を奪うのがやはり重要ですね」

浮狼
「南方を納めているラッタは、アマージョの幹部の中でも特に非道な男です」
「女王の威光を利用し、他者を虐げて己の保身だけを考える外道」
「南方の者たちは、女王の為に間引きを行われ、今やその生存数も半分以下となりました」


聞けば聞く程、頭に来る話だな。
とりあえず女王アマージョが暴君かつ独善的なのは良く解った。
部下を使い、他者を積極的に間引き、自分の食料だけを安全に確保し、与しない他者には何も与えない。
はっきり言ってふざけてやがる! こんな悪政、あっちゃいけない。


女胤
「幹部とは、他にも?」

浮狼
「はい…南方のラッタ、中央のヨワシ、そして北方のエンニュート」
「この3名が主に領土を与えられ、その全てがアマージョに忠誠を誓っています」
「この幹部を倒さない限り、アマージョに剣を突き付ける事は決して出来ません」


浮狼さんは強い怒りを燃やしていた。
あの浮狼さんが、こんな顔をするんだ…相当怒ってるんだな。
浮狼さんも元々は弱者だったらしいから、こんな時代を1番憎んでいるのかもしれない。
本来なら、優しい人のはずなのに…な。


阿須那
「…とりあえず、領土をひとつひとつ奪えれば、その度にこっちは増強されるって寸法か」

浮狼
「はい、少なくとも食料事情はかなり改善されるはず」
「ましてや、そこでもっと多くの方が生産者となれれば、きっと世界は少しづつでも変わるはずなのです」


とにもかくにも、三大幹部を倒さないとならないわけだ…
これは予想以上にしんどそうだな。
だけど、根をあげるつもりはない…まだ、始まったばかりなんだから。



「アマージョ軍はレジスタンスに対して、積極的に攻撃を仕掛けて来てるんですか?」

浮狼
「いえ、基本的には私たちから交戦する事がほとんどですね」
「アマージョはレジスタンスの事など、露程にも恐れてはいません」
「故に、そこに驕りがある」

女胤
「奇襲など想定もしていない…という事ですね」


浮狼さんは頷く、そして地図を荷台の机に広げ、その上に赤い印をひとつ描いた。
次に青の印を別の場所に…どうやら、こちらと敵を示しているらしい。


浮狼
「幹部ラッタがいるのはここ…」
「ほぼ城塞と言える城ですが、ラッタがここを動く事はありません」
「ほぼ最上階の安全地帯でふんぞり返っているでしょう」

阿須那
「なら、狙撃でも何でも狙えるって事か?」


阿須那の言葉に対し、浮狼さんは首を横に振って否定する。
外からの狙撃は相当難しく、ピンポイントに狙うのは困難らしい。


浮狼
「ラッタは私がひとりで仕留めます、他の仲間は事実上露払いを担当するので」
「その際には、貴女方のお力も借りたいと思います」

阿須那
「ええやろ、で?」

女胤
「どんな作戦で行くのですか?」


浮狼さんは微笑み、作戦詳細を俺たちに伝える。
俺はそれを聞いてギョッとした…
それは、マトモな作戦と呼べる物じゃない…まさに極端にシンプルかつ、成功すれば最善とも思える作戦だった。



………………………



ペンドラー
「大将! 見えてきましたぜー!!」

浮狼
「ペンドラー、そのまま前進を!!」


あれから数時間、俺たちの目前には一際デカイ城が見えた。
あれが、ラッタの城か。
だけど、ここまで敵は兵も出していない…明らかにこちらの進撃を予測してなかったって感じだ。
こりゃ、相当に無能な幹部みたいだな…


ペンドラー
「予想通り! 連中油断しまくってますぜ!?」

浮狼
「ならば作戦通りに! 阿須那殿!!」

阿須那
「任しとき! 思いっきりやったれや!!」


阿須那は荷台から体を出し、突然熱量を上げる。
そして特性の『日照り』を発動させ、その場で日差しが強くなった。
浮狼さんはその後両手を真上にかざし、日光を集める。
そのエネルギーはとてつもなく大きく、間違いなく強烈な威力の技が放たれるのだと俺は予想出来た。


女胤
「では、浮狼さん…全力でどうぞ」

浮狼
「受けよ我が剣閃!! ソォォラァァッ! ブレェェェェド!!」


浮狼さんは女胤から『手助け』のエネルギーを受け、両手から極太の『ソーラーブレード』を真上に射出する。
その長さは凄まじく、何mあるのかも解らない。
そんな超威力の剣を、浮狼さんは城に真上から切り下ろし、最上階から城壁を真っ二つにした。
ラッタがふんぞり返っているなら、間違いなく死んでいるだろう…ちなみに作戦はこれだけだ。

まずはあらかじめ浮狼さんが『馬鹿力』を使えるだけ使っておく。
浮狼さんは『天の邪鬼』の特性なので、これで力が上がるからだ。
そして阿須那の日照りで日差しを強くし、チャージ速度を加速。
後は女胤が『手助け』で浮狼さんを更にブーストさせる。
で、結果はこれ…まさに一刀両断、改めてスゲェな浮狼さん…



「○ランザム! ライザーーー!!」


と、思わず叫んでしまう。
つか、あの技マジで色々似すぎだろ…まぁ、凄まじく格好良いから良いのだが。
敵は、もはや怯えすくみ、俺たちは反撃を受ける事無く、そのまま城内に車で突っ込んで行った。



………………………



ラッタ
「ひ、ひぃ…ひぃ…!」
「こんな、こんなバカな事がっ!?」
「あれが、閃光のラランテス…! ま、まさに化物!!」

浮狼
「逃がさんぞ外道!」


私は今にも逃げ出そうとしているラッタを追い詰めていた。
惰眠を貪り、だらしなく太りきったその体は動きも鈍く、いかにも食料を無駄食いしていたであろう外道だと、私は確信出来た。
運良く生き残っていた様だが、大将の自分が真っ先に逃げようとは…!
私は問答無用で右手からビームソードを伸ばす。
それを見てラッタはただ恐怖し、腰を抜かしながらも這いつくばって逃げようとした。
私はそんな無様な外道の首を容赦無く跳ねる。



………………………



浮狼
「見よっ!! ここに幹部ラッタの首は取った!!」
「もはや、この領土で女王の威光は存在しない!!」
「南方に住む民たちよ、これからは皆で手を取り合おう!!」
「私は今より、新たな王として国を興す!!」
「住む者たち全てが、争う事無く平和に暮らせる様に生活出来る! そんな優しい国を造る為に!!」


ワァァァァァァァァァッ!!


大歓声だった。
幹部の首を高く掲げ、浮狼さんは一身に民の声を浴びる。
そして、浮狼さんは更に皆に宣言した。
必ず暴君アマージョを倒し、恒久平和の世を築くと…
この日、この時間を持って、ここに新たな王が誕生した、それは歴史的瞬間となる。



………………………



ペンドラー
「大将、お疲れ様!」

浮狼
「ありがとうございますペンドラー…」


浮狼さんはさっきの演説の後、1度俺たちの所に戻って来た。
そして、ペンドラーさんから労いを受け、渡された水を飲み切る。
浮狼さんは汗を拭い、息を吐いた…思ったよりも疲れてそうだな。
戦い自体は楽勝だったけど、精神的にはやはりつらかったのかもしれない。
浮狼さんは、本来人殺しをする様な人では無いはずなのだから。



「まず、ひとつ…か」

阿須那
「割りと呆気無かったな…ほとんど戦闘もあらへんかったやん」

女胤
「ですが、その分彼女の驚異はすぐに女王に伝わります」
「同じ手は2度と通用しないでしょうね」


確かに、あんな奇襲が何度も成功する方がおかしい。
あれが何度も通るなら、軍なんてそれこそいらないんだから…


浮狼
「結果的にラッタの兵がほぼ丸々得られたのは幸運でした」
「所詮、敵兵は恐怖政治により女王に従ってる者ばかり、引き入れるのは容易でしたね」
「こちらも脱落者はありませんし、戦力は十分補強出来たと言えるでしょう」
「全て集めておよそ1000以上の兵、これならば残りの幹部とも十分渡り合えるでしょう!」


浮狼さんは既に先を見ていた、次は王としての最初の仕事だな…
これから、忙しくなる…でも、俺はそんな浮狼さんを心から支えてやらないと。



………………………



アマージョ
「閃光のラランテスが国を興したぁ?」


私は、食事中にそんな報告を軍師のナッシーから聞く。
どうやら、南方で細々と反抗してたバカ共が奮起したらしい。
そして無能のラッタが首を取られて、領土を丸々取られたと言うのだ。
私はリンゴを平らげ、重い体を動かす。
この体はぶくぶくに太った、いわゆる肥満の体型。
しかし、既にこの世界において私は神その物。
自らが戦う時代は既に終わっている。


アマージョ
「舐められたモンだねぇ~? たかだか領土ひとつ奪った位で調子に乗るとは…」

ナッシー
「ですが、ラッタの兵が全て寝返ったのならば、それなりの勢力」
「直ちにヨワシとエンニュートの軍を集中させ、中央にて全戦力を持って叩くのが最善かと」


ナッシーは長い首を揺らしながらそう進言する。
ちなみに、コイツは顔が複数あり、それぞれが意志を持っているんだそうだ。
頭は良いし、腕もある…側近の中じゃ別格の存在とも言えるね。
そんな軍師のもっともな作戦…特に否を唱える要素も無い、か。


アマージョ
「だけど全戦力を使うと言う事は、負けは許されないんだよ? それは解ってるんだろうねぇ~?」

軍師
「恐れながら、中央と北方の合計戦力は約5000…たかだか1000しかいないレジスタンスでは、物の数ではありますまい?」

アマージョ
「確実なんてモノは存在しないんだよ? これはもう戦争だ」
「勝った者だけが生き残り、負けた者は死ぬしかない」
「そんな、極限状態の中で不確定要素なんて物はいくらでも生まれる…」


アタシは過去を思い出す。
そう、あの大災害の後の世界を…まさに地獄と言えるあの世界。
奪うか奪われるか…生き残るには強くなるしかない。
アタシは、そんな地獄を生き延びて世界を制したんだ。
その過程は、決して力だけが結果を残した訳じゃない。
アタシは、運も良かったんだろうさ…


ナッシー
「…陛下、何故笑うのですか?」

アマージョ
「そりゃおかしくもなるさ…アタシの世界で、反乱分子が生まれた」
「ソイツは…一体何を考えているのかねぇ?」
「まぁ、どうでも良いさ…アタシはアタシだけが生きられればそれで良い」


そう、国とか軍とか、アタシには付属品でしかない。
所詮、アタシが生きる為の部品…アタシが1番信じられるのは、アタシ自身だ。



………………………



浮狼
「では、城の再建はゴーリキーに任せる」

ゴーリキー
「はいよっ、任せときな! 野郎共、すぐに取りかかるぞー!?」


浮狼さんは半壊した城の再建を指示していた。
正確には1度解体して、一般人でも住み易く建て直すらしい。
時間はかかるが、 いずれ身寄りの無い弱者を守る為の家にするそうだ。
あくまで自分の為ではなく、他者の為に浮狼さんは力を注ぐんだな…


阿須那
「聖~そろそろ昼食やで!?」


「ああ分かった! 浮狼さん、そろそろ……」


って、浮狼さんもう別の仕事に回ってる。
こりゃ当分話しかけられそうにないな…
俺は仕方無く、ひとりで食事に向かう事にした。



………………………




「流石に、贅沢は言えないわな」

阿須那
「当たり前や…必要最小限の食料やからな」
「水は川の水を煮沸消毒したり、ろ過したりで何とかなるけど、食料だけはまだキツ目やな…」
「畑の食料も、可能な限りは民に渡さなあかんし…」

女胤
「やはり、畑の拡大と生産者の雇用ですね」
「浮狼さんも既に計画されているみたいですし、これは少しづつ変えていくしかないでしょう」


俺たちは質素な軽めの食事をし、そう話し合う。
味に問題は無いが、やっぱ量が問題だな。
だけど、しばらくは我慢…か。
浮狼さんも、しばらくはてんてこまいだろうし、次の出撃はまだかかりそうかな?
その間に、敵に先手を取られないかが気になる所だ。



………………………



浮狼
「すみません聖様…食事を共に出来ず」


「いえ、気にしないでください…それより、もう大丈夫なんですか?」

浮狼
「はい、ペンドラーのお陰で概ね仕事の指示は終わりました」
「明日からはまた進撃可能になるはずです」


浮狼さんはやはり疲れている様だ。
まぁ、慣れてない事をしたろうからな…
とはいえ、まだ前半が終わったばっかり…難関はまだふたつもある。
果たして、無事に女王の所まで辿り着けるのか?
俺にはまだ、不安を拭い去る事は出来そうになかった。



………………………



ナッシー
「バカな! そんな作戦を実行すると!?」

アマージョ
「そうさ! 面白いだろう? バカ共の嘆く姿が目に浮かぶよ!!」


ナッシーは複数の顔で、それぞれ別の表情をしていた。
その中で中央の顔が苦そうな顔でアタシにこう言う。


ナッシー
「陛下…貴女はやはり悪魔だ」

アマージョ
「最高の褒め言葉だね! 所詮この世は弱肉強食!!」
「弱者は弱者らしく、アタシを楽しませれば良いのさ!!」


アタシは腹を抱えて大笑いする。
そして、少しづつ気分が高揚していくのを理解した。
こんな気分になるのは久し振りだ…
そう、アタシは勝つのが好きだ! だけど勝つのが解りきっている戦いなんて何の面白味も無い!
それなら、もっと別の楽しみを見付けるのが通ってモンさね…♪


ナッシー
「世界は…奇しくも勇者と魔王を造り出したか」

アマージョ
「面白い比喩だね? アタシはさしずめ魔王ってわけだ」

ナッシー
「ですが、魔王もまた英雄であります」
「少なくとも、世界の勝者となってここにおられる陛下は、間違いなく歴史の英雄でございましょう!」


ナッシーはそう言って背を向け去って行く。
作戦を実行する為の準備だろう…ククク、面白くなりそうだ。


アマージョ
「勇者ラランテス、か…果たして、アタシの所まで辿り着けるかな?」


アタシは、何となく拳を握った。
もう自分で戦わなくなってから筋肉も衰えている。
今更、直接戦闘となったらアタシはただの肉塊に過ぎないだろう。
と、なると…最後まで楽しむには、どうする?


アマージョ
「クククククッ! アハハハハハハハハハハハッ!!」
「ヒヒッ!! フヒヒヒヒヒヒッ!!」


アタシは面白すぎて大笑いした。
誰もいない王室で、アタシは床を転がって腹を抱える。
楽しい! こんな気分は久し振りだ!!
アタシはだらけきった手足を見て目を細める。
懐かしいねぇ…あの時も、アタシは同じ事を思った。
欲しいなら、強くなるしかない。
生きるなら奪うしかない!


アマージョ
「勇者ラランテス…アンタもアタシから奪おうとしている」
「そうさ! やっぱりこの世界はそれが正義なんだ!!」
「さぁ、殺し合おうじゃないか!? そして勝った方がこの世の支配者だ!!」
「アハハハハハッ! ヒハハハハハハハハハハハハッ!!」


アタシは床に背を預け、天井を見上げて笑い続けた。
そして、ラランテスの事を頭に浮かべる。
アイツは…地獄よりも酷い光景の前で、正気でいられのかねぇ~?



………………………




「何を躊躇う事がある? 奪い取れ! 今は悪魔が微笑む時代なんだ!!」

女胤
「阿須那さん、聖様は私が頂きますわ!!」

阿須那
「狂ったか! 女胤!!」


「ふふふ…我がポケモンながらマヌケな奴らよ」

ペンドラー
「えっと…とりあえず次の作戦、説明初めても良い?」


俺は真面目にペンドラーさんに頭を下げて詫びを入れた。
すまぬ…俺には言葉が見付からぬ!
とりあえず、真面目な場でネタをぶち込むのは控えよう!

ちなみに、今は元ラッタ領の城の側で会議をしている。
俺と阿須那と女胤、そして浮狼さんとペンドラーさんが会議に参加していた。


ペンドラー
「とりあえず、数日後にはここを出る予定…準備もあるし、編成含めて3日以内には何とかしてみますよ」
「んで、次は中央のヨワシ領を落とす!」
「編成は前と同じ5部隊! だけど割り振る兵隊はそれぞれ200づつ!」


「200か…相当な大所帯だけど、隊長だけで纏まるんですか?」

ペンドラー
「まぁ、それなりにはしんどいだろうね…でも、無理は承知でやるしかない」
「相手は国家だ…こっちも同条件とはいえ、それは所詮建前」
「戦力は明らかに負けてるんだ…だったら、無理でも速攻決めるしかない!」
「相手に作戦を練らせる時間を与える方が不利だからね…人数差は作戦で埋めるしかない」

阿須那
「…正確な戦力比は解ってるん?」

ペンドラー
「元女王配下からある程度は聞いてる…少なくとも5倍以上は総戦力に差があるね」


5倍以上か…戦争やるからには絶望的な数字だな。
とはいえ、これは人間というよりポケモン同士の戦争。
タイプ相性や技の性能で如何様にも変わる戦力差だ。
例えるなら、いくら数で負けていても、相手が竹槍でこちらが戦車なら10倍の戦力差でも覆せるだろうからな。


女胤
「次の領土を納めているヨワシは、どんな人物なのですか?」

浮狼
「ラッタ同様、女王の威光を盾に君臨する外道です…が」
「厄介さはラッタの比ではありません…ヨワシの戦力は、まさにヨワシ自身の強さが成り立たせているのです」
「ヨワシのその独特な力は、人にこう異名を付けさせたそうです」
「あれは『一人師団』…だと」


一人師団…ねぇ。
ヨワシつったら、ワラワラ群れて戦うイメージだけど、ポケモンならどうなるんだろ?
ジガルデの例もあるし、また巨人みたいなのがが出て来そうだな。
って、そこまで予想すると何だか微妙にも感じる…
まぁ、油断は大敵…侮るわけにはいかないが。


女胤
「…成る程、さしずめヨワシ自身が軍であり、将ですか」

浮狼
「流石は女胤殿…ご明察です」
「お気付きの通り、幹部ヨワシは実質ひとりではありません」
「それこそ無数のヨワシが領土を守り、それが軍となっている」
「それらが合わさった総戦力は、まさに強大無比…が、それだけに弱点もあります」

阿須那
「削げば削ぐ程、弱体化するっちゅうわけやな」


浮狼さんはコクリと頷く。
そして、ヨワシを討てば大量の水と食料が領土と共に手に入る。
特に水は水源がいくつもあるらしく、かなり余裕がある模様。
リスクを侵すだけのメリットはちゃんとあるわけだな。



「ちなみに…勝算はあるんですよね?」

ペンドラー
「無けりゃこんな戦争はやらない…楽観視は出来ないけど、それでも総戦力という意味ではこっちに分があるはずだ」
「ヨワシが強いっていっても、それは大将とタイマン張れる様な戦力じゃないからな」

女胤
「ですが、ヨワシは実質ひとりではない」


確かに、ヨワシの集団が全軍その物なら、それは数の力と言っても良い。
いくらなんでもたった1000で覆せるのか?
こっちも、南方復興に人員を割かなきゃならないし、ベストで戦えるというわけじゃないのに…


浮狼
「聖様、心配は無用です…私は、聖様が側にいてくだされば絶対に負けません」


俺は彼女の強い眼差しを見る。
だけど、俺は信じてはいるものの不安だった。
浮狼さんが油断しているとは思えないけど、それでも何かあるんじゃないかと…



………………………



ペンドラー
「…聖さん、ちょっと良い?」


「? ペンドラーさん…俺に何か?」


時刻はもう夜更け。
皆は大分寝始めているであろう時間だが、ペンドラーさんはひとりで俺の部屋に現れた。
ちなみに、俺には個室を用意されており、ここには俺とペンドラーさんしか今はいない。
ペンドラーさんは今鎧を来ておらず、普段着を着ている様だった。
そして、俺はペンドラーさんの胸部に目を奪われる。
身長190㎝はあろうかという長身に、バスト90超えは間違いない巨乳!
やや露出度の高い薄着というのもあって、ペンドラーさんのスタイルの良さをこれでもかと見せ付けていた。


ペンドラー
「ん? アタシの体が何か気になる?」


「あ、いや!? す、すみません!! スタイルそんなに良いとは思わなくて…!」


俺が慌てて顔を背けると、ペンドラーさんはアハハッと笑った。
そして大人の雰囲気を醸し出しながら微笑んでくれる。
そんなに気にはされてないか…まぁ、子供だしな俺は。


ペンドラー
「スタイル、ねえ…そんな事言われたのは初めてだけど」
「まぁ、それは今置いておいて…大将の事なんだけどさ?」


「…浮狼さん、ですか?」


ペンドラーさんはコクリと頷く。
そして、やや真剣な顔で目を細め、俺に低い声で話し始める…
その時の緊張感は尋常ではなく、ペンドラーさんはただならぬプレッシャーを俺に向けて放っていた。
それは、ただの女ではない…側近であり、軍師のペンドラーとして、俺に相対している様だ。
普段とのギャップがスゴいよな…ペンドラーさんは、やっぱりスゴイ人な気がする。


ペンドラー
「アンタさ、大将の恋人なの?」


「!? まさか…そんなわけないじゃないですか」


突然の事に俺は驚くも、正直に答える。
嘘ではない、俺は浮狼さんに慕われてるとはいえ、決して恋仲というわけではないのだから。
しかし、ペンドラーさんはそれを聞いて頭を掻く。
まるで、望んだ答えじゃなかった…って感じで。


ペンドラー
「まぁ、人の恋路にとやかく言う気は無いけどさ」
「ただ、アタシ等は命賭けて戦争やってる…聖さんが大将にとってどんな大きな存在かは知らないけど、アタシは下の連中の命を預かる責任がある」
「アンタは、そんなアタシたちに命を賭けられるのか?」


「…命なら、いくらでも賭けますよ」
「全ての未来を救う事に比べたら、俺の命なんて一瞬の煌めきでしかない」
「ただ、それでも…俺は浮狼さんを救いたいと思っただけなんです」
「全部救うなら、俺は浮狼さんをも救わなきゃと思ったから…」


そう、それはただのワガママだ。
俺はエゴイストだから、そんな不器用な考え方しか出来ない。
どの道、俺には未来は無い予定だしな…全てが終われば、きっと地獄に落ちる。
だから、それまでに救える人は全部救うつもりだ。
せめて…俺が直接関わった人位は、全員救いたい。


ペンドラー
「…ハッタリって風じゃないね、本気で言ってんのかい?」
「だったら、アンタは相当のバカだ…見た感じ、何の力も無さそうなのに」


「実際無いですよ…俺に出来るのは、仲間を信じる事だけ」
「でも、救いたいのは本気です」


実際には、夢見の雫を使えば奇跡は起こせる。
反動がどこまであるのかが解らない以上、易々と使うのは危険過ぎるが。
基本的に、雫の使用は世界移動程度に限定してるからな…それ位なら、濁りは少量で済むのは実証済みだし。


ペンドラー
「ハッ…成る程ねぇ~、大将が色めき立つわけだ」
「なら良いや…精々大将を支えてやってよ」
「それが大将の力になるなら、アタシは何も言わない…」


「ペンドラーさんは、浮狼さんを信頼してるんですね」

ペンドラー
「…そりゃそうさ、大将はアタシたちの光なんだから」
「こんな絶望しか見えない荒野で、甘っちょろい理想掲げて他人を救うおうと、世界にケンカ売った人だからね~」
「アタシ等は、そんな大将に命救われてここにいるんだ」
「だから、大将の成すべき事はアタシの成すべき事…!」


ペンドラーさんは拳を握り、強い意志でそう言った。
俺はペンドラーさんの姿に感銘を受ける。
この人にも、つらい過去があったんだ…でも浮狼さんに救われたから、浮狼さんを助けようとしてくれてる。
そんなペンドラーさんに、俺は微笑んでこう言った。



「ペンドラーさんは、浮狼さんと同じなんですね…」

ペンドラー
「えっ? 何が…?」


「浮狼さんも、過去にある人に救われてるんです」
「だから、浮狼さんは強くなれました…誰かを救いたいと願える位に」


ペンドラーさんは複雑そうな顔で俯いた。
長い前髪が垂れ下がり、ペンドラーさんは何かを考えている様だ。


ペンドラー
「…聖さん、さ」
「正直に言ってよ…大将の事は好きなの?」


「そう、ですね…好きですよ」
「でも、俺は愛情を誰かひとりには与えられない…」
「俺は、俺が好きだと思う皆を、救いたいから」

ペンドラー
「…そっ、訳ありって事か」
「ははっ、なら大将も相当難儀だな…」


そう笑って、ペンドラーさんは背を向ける。
そしてそのまま部屋を出て言ってしまった。
俺はひとりになり、少し考える。



(…俺は、やっぱ地獄行き決定だな)


好きなのは嘘じゃない。
でも、俺は皆が好きだから…誰かひとりを選ぶ事は出来ない。
そう、もう……無理なんだ。



………………………



ペンドラー
「えっさ! ほいさっ!」
ライト&レフト
「えっさ! ほらさっ!」


次の日、俺たちは再び荷車に乗っていた。
次に目指すのは中央のヨワシ領。
時間的にはそろそろ関所が見える頃で、そこを抜ければ中央区だ。
一体、そこにはどんな罠があるのだろうか?


ペンドラー
「予定通り2番隊は後方支援! 4倍隊は上から索敵! 3番隊は前衛で白兵戦だ!!」

クワガノン
「了解!」
アブリボン
「お任せっ!」
ケケンカニ
「おおよっ!」


3人の隊長が同時に強く答える。
ペンドラーさんは関所が見えた所で一旦速度を落とし、代わりにケケンカニさんを先頭にした3番隊が前に出た。
すると、それを見越してか突然関所が開き、そこから大量の青い人間が雪崩れ込んで来る。
その体はまるで水の塊で、何かの集合体の様にも見えた。
ま、まさか…アレがヨワシなのか?


アブリボン
「索敵完了!! 数は小型ヨワシ1000!!」
「フラエッタ部隊、障壁展開!!」


ズバシャァァァァァッ!!と前線で水が弾ける。
どうやらヨワシの『水鉄砲』が『光の壁』で止められた様だ。
しかし、ケケンカニさんたちの部隊は出足を挫かれ、踏み込む前に攻撃されてしまった。


クワガノン
「前線を支援しろ!! トリトドン部隊、『呼び水』で3番隊を守れ!!
「まずは1発ぶち込むぞ!? ケケンカニ、射線に入るなよ!?」

ケケンカニ
「おおよ、思いっきりやれ!!」


クワガノンさんはひとり真上に上昇し、腹から電気を口に集める。
そして、それを頬から飛び出ている2本の角に集束させ一気に『電磁砲』を放った。


バァァァァァァンッ!! バチバチバチィ!!


守連程では無いが、十分強い電撃が敵の群れの中心に直撃する。
3番隊さんはそれに合わせて若干左にズレた。
ヨワシの部隊は着弾点から散り散りになり、直撃した者たちはバラバラの小人になって、そのまま地面に伏して動かなくなる。

やはり、所詮群れなければ最弱のポケモン…ああなったらもうどうしようもないんだな。
どうやら、ヨワシは固まっている時はゲル状の人間みたいな姿をしており、バラバラになった時の大きさは30cm程の小ささ。
赤子の以下の大きさが、ああやって群れて戦っているのか…


アブリボン
「敵離散! いや、一方で戦力集中!! 固まってる!?」
「中型ヨワシ発生! 右から『ハイドロポンプ』が来る!!」

ケケンカニ
「ヤバイ…! 狙われてるぞペンドラー!?」


右翼で突然集まって出現した中型ヨワシは、口を大きく開けて『ハイドロポンプ』の体勢に入っていた。
そして、それをこちらに向けて遠距離から放とうとしている。

が、ジュァァァァァァァァァァァァッ!!と、突然の『ソーラービーム』が水を蒸発させた。
それは女胤が放った物で、軽く敵のハイドロポンプごと中型ヨワシの体を貫いたのだ。
それを食らったヨワシたちは、干からびたミイラの様になってバラバラに落ちる…どうやら固まってたのは全員死んだ様だな…



「ぐっ…!?」


俺は死体の凄惨さを目の当たりにし、あまりの光景に吐きそうになる。
解ってはいたが、相当キツい…
いくら敵とはいえ、人があんな風に死んでいくなんて…!


浮狼
「申し訳ありません、聖様…」
「やはり、本来なら聖様をここに置くのは間違っていたのかもしれません…」


俺は口元を抑えながらも首を横に振る。
そして、俺は顔を上げて強く浮狼さんを見た。
浮狼さんに、そんなつらそうな顔をさせちゃいけない!
俺は、彼女の支えになってやらなきゃならないんだから…



「大丈夫です! 俺が…自分で決めた道ですから」
「だけど、覚悟は出来てても慣れちゃいませんからね…所詮俺はフツーの高校生」
「いざ戦場じゃ、この体は何の役にも立たない…」


俺の言葉を受け、浮狼さんも首を横に振る。
そして、優しく俺の背中を擦りこう言った。


浮狼
「聖様は、ここにいてくださるだけで、私に勇気をくださいます」
「それだけで、それだけで…良いのです」


そう言った後、浮狼さんは荷台から外に出る。
そして、関所の先に見えたのは、高く聳える超巨大なヨワシの姿。
そのサイズはまさに50m級…!?
前に見たパーフェクトジガルデ以上の大きさかよ!?


ヨワシ
「アアアアアアアアアッ!!」


咆哮。
幹部であり、軍その物でもあるヨワシの声は風圧すら起こし、こちらの進軍を止める。
ペンドラーさんは危険を感じたのか、すぐに急ブレーキして部隊の進撃を停止させた。


ペンドラー
「あの大きさ…野郎はここで全戦力を投入しているのか!?」

アブリボン
「推定数量ヨワシ2000人分!! 周りの小型も全部取り込んでる!!」


ヨワシは力を小出しにせず、むしろ一極集中で巨大化したんだ。
個々の力じゃ勝てないと判断したのか…しかし、これはこれで逆にやり易い!


ペンドラー
「ちっ! どうする大将!?」

浮狼
「この場で沈める!! 相手がひとりなら好都合!!」


そう言って浮狼さんはひとり飛び出す。
って、やっぱそうなるよな!! 浮狼さんは笑いながら特攻するものの、それは明らかに大将が取る行動じゃない!
しかし見越していたのか、ペンドラーさんは素早く皆に指示を飛ばした。


ペンドラー
「クワガノン! 先に電磁砲を撃ち込め!! 2番隊はそのまま一斉砲撃!!」
「4番隊は全力で光の壁を展開! 3番隊は荷台を死守しろ!!」
「1番隊! 大将に続くぞ!? 出っぱぁぁぁぁぁぁぁつ!!」

クワガノン
「了解だ! 全員、一斉放火!! うおぉぉっ!!」
アブリボン
「障壁展開!! 前衛へのダメージを軽減するのよ!!」
ケケンカニ
「荷台の前に並べぇ!! 流れ弾は全部止めるぞぉ!!」


ペンドラーさんの指示から、すぐにクワガノンさんが強烈な電磁砲をぶちかます。
かなりの威力が集約されており、直撃した超巨大ヨワシは体を若干揺らした。
これで麻痺もするはずなのだが、女王ヨワシは食らった部位のヨワシをすぐに剥がし、全身に麻痺が及ぶのを無効化してみせる。
あんな、無理矢理な方法を取るなんて…コイツは一筋縄じゃいかないか!?

その後、2番隊の『マッドショット』や『泥爆弾』が多数放たれるも、威力が足りてないのか、ヨワシはまるで怯まない。
むしろ、部分的に『守る』を発生させ、某時空要塞ばりにダメージを軽減していた。
かなりの防御力に全員が攻めあぐねている…

そしてヨワシが攻勢に転じると途端に、大地震。
かなりの威力を叩き出した『地震』で、前線の1番隊は一気に薙ぎ倒されてしまった。
辛うじてペンドラーさんは無事だったものの、その後の『ハイドロポンプ』で、障壁の上からヤンヤンマやストライクたちを初めとした高速機動部隊は一気に壊滅してしまう。
マズイ!? 一撃の威力が違いすぎる!!


阿須那
「とりあえず日照りにしたる! 水は弱まるはずや!!」


そう言って阿須那が遂に日照りを発動。
約5分が限度らしいが、コレでこちらが俄然有利になるはず。
そして日照りの効果で速度を倍加させた女胤が、一気に外へと飛び出した。


女胤
「聖様は任せます! 私は浮狼さんたちをフォローしますので!!」

阿須那
「任しとき! 存分にやれや!!」


女胤は舞いながら高速で戦場を走り抜けて行く。
その速度は凄まじく、一瞬でペンドラーさんの速度をも上回ろうかという速度を出した。
そして前線のペンドラーさんに追い付いたと同時に両手を構え、そこから大技の体勢に入る。


女胤
「これでも…食らいなさい!!」


女胤は強い日差しのお陰で一瞬の内にチャージ完了し、全力の『ソーラービーム』を放った。
『蝶の舞』の効果で威力倍増したそれは、ヨワシの胸を容易く貫き、ヨワシは苦しむ。
そして段々とヨワシは体を小さくしていった。

あまりの威力に恐怖を覚えたのか、固まっていたヨワシは統率が乱れ、体が四散し始めていっていく。
どうやら複数のヨワシで統率していたらしく、そのいくつかは既に逃亡を図っているみたいだ。
こうなったら、後は案外脆そうだな…


ヨワシ
「!! アアァ!?」

女胤
「何と…たったこれだけで瓦解するとは」

浮狼
「ペンドラー、私を関所の先へ!!」

ペンドラー
「あいよっ! 任せな!!」


浮狼さんはペンドラーさんの背中に乗り、ペンドラーさんは浮狼さんを背負ったまま一気に直進する。
女胤もその後を追い、幹部のヨワシを更に追いつめて行った。


女胤
「まだ、完全に崩れてはいませんか…ならばもう一撃!!」


2発目のソーラービームが今度は頭部を貫く。
すると更にヨワシは小さくなり、もはや形がバラバラとなりそうになっていた。
もう恐れる事は無いな…ただでさえ浮狼さんや女胤はタイプ相性が良いんだし。


ペンドラー
「大将、どうする気だ!?」

浮狼
「あくまで真の幹部であるヨワシはひとり」
「女胤殿の援護で、護っている装甲は無くなりつつある…ならばっ!」


浮狼さんはペンドラーさんの背中から飛び出し、空中でソーラーブレードを振り下ろして関所の門を破壊、ついでにヨワシを攻撃した。
そして、もはや数m位にまで小さくなったヨワシに、浮狼さんは遅い足で走って近付く。
それを見て女胤は微笑み、浮狼さんの行き先に手を差し出してこう言った…


女胤
「もう、よろしいでしょう…では『お先にどうぞ』」

浮狼
「助かります! 後はお任せを!!」


浮狼さんは女胤の技で急加速する。
今の技の効果で、一時的だが浮狼さんは女胤と同等の反則速度を叩き出せるのだ。
浮狼さんは両手からそれぞれビームソードを出し、ヨワシの残りカスを瞬時に削り取って行った。
その姿はまさに剣豪、あっという間に幹部のヨワシはその最後の姿を現す。


幹部ヨワシ
「ま、待って…!」

浮狼
「外道が! 虐げた者たちに、あの世で詫びるがいい!!」


浮狼さんは容赦無く小さなヨワシの首を跳ねる。
俺は一瞬目を背けてしまったが、距離も遠くそこまで細かい部分は見えなかった。
だが、これで…ふたつ、後関門はひとつか。

だが、関所を抜けた先に広がっていた光景は、俺たちが想像もしていなかった光景だった……



………………………



浮狼
「…バ、バカな?」

女胤
「な、何という事を!! これが、こんな事を女王アマージョは平然と行うと言うのですか!?」


女胤が怒りに震えて叫ぶ。
そう、ヨワシを討ったのは良いが、そこから見える中央区の領地は、地獄以上の光景だった。
全ての畑は焼き払われた後、残された領民も全て殺されており、広がるのは全て虚無。
浮狼さんは愕然とし、その場で震えている。
部隊の兵士たちは全員が息を飲み、女王アマージョの残忍性を目の当たりにして、意気消沈してしまっていた。



「…奪われる位なら、全部消すって事かよ!!」

阿須那
「クソッタレが…! こんな胸クソ悪い作戦取るとか、人の心が無いんか!?」

ペンドラー
「ちっ…こっちの士気を落とすって作戦なら、これだけ効果的な作戦は無いだろうね!」
「ただでさえ、こっちは背水の覚悟で戦ってるってのに…」


そう、俺たちは勝ったとしても、それは相手の領土を奪う事を前提にした背水の陣なのだ。
だが、女王アマージョはそれを見越し、あらかじめ全てを消してしまっていた。
ヨワシひとりに戦いは全てを任せ、中央区の領土は全て焼き払うなんて…
これじゃあ、こっちは消耗しただけで一切の補給が出来ない。
そして、肝心の女王は万全の体勢のまま…何てこった。


浮狼
「沈むな皆の者よ!!」


浮狼さんはガタ落ちした士気の中、大きく声を張り出す。
全兵士が王である浮狼さんに注目した。
そして浮狼さんは空高くビームソードを掲げ、部下を鼓舞させる。


浮狼
「女王アマージョの暴虐を、これ以上許せはしない!!」
「だからこそ、この怒りを力に変えよ!! 我々に後退は無い!!」
「私は、例えひとりでも女王を追いつめる! ここからは、付いて来たい者だけが共に来るが良い!!」


浮狼さんはあえて切り捨てる覚悟でそう言っていた。
俺は目を瞑り、それでも誰よりも先に浮狼さんの側に歩く。
阿須那と女胤も黙って付いて来る…まぁ、考えは変わらないからな。


浮狼
「…有り難うございます、感謝の言葉もありません」

阿須那
「気にせんでええよ…ウチかてドタマに来とるからな」

女胤
「ええ…例え聖様がおられずとも、私は貴女を手伝いますわ」


「俺は浮狼さんを助ける為にここにいます…安心してください、誰も助けなくても、俺は絶対に助けますから♪」


浮狼さんは俯いて震えていた。
喜んでくれているんだろう…でも涙は見せたくないんだろう。
浮狼さんは拳を強く握り、皆に背を向ける。
そしてひとり歩き出し、それに俺たちはそれに付いて行く。
それを見て、我慢出来なくなったのかひとり声をあげる者がいた。


ペンドラー
「待ちなよ!! 大将を助けるのはアタシの役目だ!」
「それに…足も遅い! 頭も回らない! 料理も出来ない!の三本柱大将を放っとけるか!!」

ライト
「だったら私も行く!」

レフト
「お姉ちゃんとはいつも一緒だもん!」


そう言ってペンドラーさんたち三姉妹は付いて来る。
それに呼応する様に、他の隊長たちも笑った。


ケケンカニ
「ハハハッ! どの道アタシは他に道は無いからな!」
「大将の為なら、火の中水の中!!」

クワガノン
「やれやれ…出遅れたのは癪だが、私も逃げる気は無い」

アブリボン
「そうよ! ちょっとテンション下がっただけなんだから!」


やがて、隊長たちに呼応するかの様に多くの叫び声があがる。
再び、浮狼さんの為に皆は奮い立ったのだ。
これから先、更につらい事が待っているかもしれないのに、それでも皆は浮狼さんに付いて行く事を選んだのか…

まさに、浮狼さんは皆の希望となっているんだな…
俺は、少し寂しい気持ちになった。
浮狼さんの姿はまさに王たる王…それは未来を掴む為に戦う、英雄の姿なのだ。
俺みたいな、ただの高校生とは全然違う立場なんだと、俺は理解してしまった。


阿須那
「聖、これはアンタが選んだんやろ?」


「阿須那…」

阿須那
「なら、最後まで信じて見といたり…あれが、浮狼はんが選んだ道や」
「アンタから力もろて、あそこに立ってるんや」


阿須那は気を使ってくれたのか、俺にそう言ってくれる。
俺は浮狼さんの背中をその目に刻んだ。
彼女の、王としての生き様を……



………………………



アマージョ
「へぇ~なら、さして効果も無かったと?」

ナッシー
「結果的に戦力を削ぐ事には成功しています」
「奴らは中央区にいくつか兵を残し、復興の準備をしている様です」
「食料不足も重くのしかっていますし、更に過酷な環境となる北方への進出は困難を極めるかと…」


ナッシーは3つの顔からそれぞれ別々の感情を込め、順にそう説明する。
声色も若干違うから、少し聞き取るのが鬱陶しいのが難点だね…
しかし、アタシはそれを聞いて笑った。
この期に及んで復興とか、バカじゃないのかい?とアタシは真剣に思う。
勝てるかどうかも解らない戦争で、復興に力を入れるとは舐めすぎている。
そんな物は勝ちが確定している側の考えさ。


アマージョ
「気に入らないね…そんなにラランテスの軍は強いのかい?」

ナッシー
「予想外な部分が2点程あります…ひとつは、今まで見た事も無いドレディアとキュウコンの女」
「このふたりは報告によると規格外の能力を持っているとの事で、その力はひとりでこちらの一個師団に相当すると思われます」


一個師団だって…? そんな化け物がふたりもいるって言うのかい?
成る程、強気になるわけだね…そんな隠し球の味方を取り入れてたとは。
道理であのヨワシが大した戦果もあげずに死んだわけだ…全部ソイツ等の仕業って訳か。


ナッシー
「…そして、もうひとつは謎の少年の存在」

アマージョ
「あ? 何だいそりゃ?」


ナッシーは少し言葉を詰まらせていた。
そして、左に付いている顔が代わりにこう呟く。


ナッシー
「その少年は、ポケモンではないと予想されます」

アマージョ
「ポケモンじゃない? まさかニンゲンって事かい?」


ナッシーは小さく頷く。
ニンゲン…それは遥か過去に、この世界に現れたと言われている幻の存在だ。
歴史においては何の証拠も残っていない眉唾な情報だけど、それが今何故?
そして、それが何故ラランテスの所にいる?


ナッシー
「…かつて、この世界にニンゲンが現れた時、その者は多くのポケモンを従え、世界を救ったとされるとか」

アマージョ
「どこの情報だい? そんなのは聞いた事も無いよ?」

ナッシー
「あくまで口伝での言い伝えです」
「今より1000年以上も前の出来事だそうなので」
「我々が、人化もしていない遥か昔…」


ナッシーは別々の顔で順にそう答える。
人化していない頃…つまりそれは、アタシたちが産まれる前よりも遥かに昔の事だ。
そもそも、ポケモンが人化した日というのは一切記録に残されていない。
何故人化したのか? そもそもの原因は何なのか?
それは、アタシたちには何ひとつ解らない現象だ。


ナッシー
「真実かどうかは私にも解りかねますが、個人的な推測としては、ニンゲンが関わっているのでは?と、私は思っています」

アマージョ
「根拠はあるのかい?」

ナッシー
「いえ、勘です」


勘…ね。
ナッシーに関しても、実は出自はよく解っていない。
たまたまアタシと出会って、たまたま世界を取った。
そもそもナッシーがアタシに付いた理由は、単にアタシが強かったからだ。
コイツは欲なんて何も無い…今一、アタシでもよく解らない存在だよ。


ナッシー
「…ともかく、このまま進行されれば1週間以内には北方に入るかと」

アマージョ
「エンニュートの軍で止められるのかい?」

ナッシー
「荷が重すぎると言わざるを得ませんな…まず蹂躙されるかと」


アタシは苦虫を潰した様な顔をしているだろう。
つまり、それ位負け確定って訳だ。
だが、ナッシーは一切恐れを抱いていない…何か策があるのか?


ナッシー
「有り得ないとは思いますが、降伏もひとつの選択かと」

アマージョ
「そう思うなら口にするんじゃないよ! アタシはこの世界で力を持って君臨している!」
「負ける時は死ぬ時だ…それまではどんな手を使おうが足掻いてやる!!」


そう、アタシは強い。
力を持って世界を取った。
しかし、現実は非情…今のこのアタシは、もはや戦う術すら怪しまれる。
怠惰を貪った結果、醜く太りきり、動く事すら難儀するこの体。
前線で戦い続けるラランテスとは、対照的この上ない。
だけど、これは戦争だ。
最後に勝った者が全部手に入れる。
負けた者には…何も残らない。


ナッシー
「…陛下がそう仰られるのは予想しておりました」
「ですので、私から授けられる策はこれのみです…」


そう言ってナッシーがアタシに差し出したのは、ひとつの種。
見た事も無い毒々しい色の物で、何やら怪しげな雰囲気を漂わせていた。


アマージョ
「何だいこりゃ?」

ナッシー
「秘薬でございます…陛下が勝利する為の」
「それを使えば、一時的にではございますが、陛下の身体能力を大幅に引き上げる事が出来るでしょう」
「ただし、大きな力には代償が付き物…その反動は」

アマージョ
「面白いじゃないか…! つまりお前はこう言うわけだ」
「アタシに戦って勝利しろと!!」


アタシはニヤリと笑う。
後先など後で考えれば良い。
今は、これが必勝の策! これを持って、アタシはラランテスを倒せば良い!!



………………………




「次は北方か…そして、その先には女王アマージョがいる城」


俺はひとり個室で休んでいた。
中央区の領地は残らず廃棄されており、簡易的に作られたキャンプで俺たちは休んでいる。
最後の領地を前に、軍の士気はギリギリを保ってると言って良い。
もし何か悪い事でも重なれば、それだけで瓦解する可能性はあるかもしれないんだ。


ケケンカニ
「お、いたいた!」

アブリボン
「聖様~はろ~♪」

クワガノン
「…失礼する」


誰かと思えば、隊長たちじゃないか。
3人まとめて登場とは、一体何の用なのか?


アブリボン
「ほら、やっぱイケメンだって!」

ケケンカニ
「そうか? 普通だと思うけどな…」

クワガノン
「どうでも良い、目的は別だろう…」


「…あの、何か?」


俺が複雑そうに聞くと、アブリボンさんは慌てながらバタバタする。
どうやら普段から飛んで移動してる様で、せわしなく羽を動かしていた。
対して、落ち着いた雰囲気のクワガノンさん。
この中だと1番冷静そうだな…ケケンカニさんは逆にニコニコしており、何だか意味も無く楽しそうだった。


アブリボン
「ねぇねぇ! 聖様って独身なの!?」


「そりゃ、未成年ですからね…結婚とか法律で出来ないし」

ケケンカニ
「法律~? 何だか難しそうな言葉だな…」

クワガノン
「聖様はこの世界の存在じゃない…そもそも私たちとは住んでいる世界が違うんだろう」


どうやら、3人とも単に俺に興味があっただけの様で、特に深い理由があって来たわけじゃ無いらしいな。
とはいえ、仮にもこの3人は隊長を務める強者たち…次の戦いも期待されてるはずだ。



「皆、次の戦いもありますし、早く休んだ方が…」

クワガノン
「そうだな、邪魔をして悪かった…」

ケケンカニ
「何だよ、もう行くのか?」

アブリボン
「仕方無いね、聖様だって休みたいだろうし…」


結局、それだけで3人は出て行った。
突発イベントだが、とりあえず興味は持たれているらしい。
何だかんだで、俺はそれなりの存在なのかね?
実感はあまり無いが、やはり浮狼さんの信頼の手前、俺の存在は周りには大きく写るのかもしれない。
とはいえ、俺が与えている影響はどれ程の物なのか?
少なくとも浮狼さんには相当な力になっていると思いたいが…



………………………




「後、ひとつですね…」

浮狼
「はい、これを越えれば遂に女王アマージョを追いつめられます」


あれから数日後、俺たちは僅か10名の精鋭のみで北方に向かっていた。
中央区の惨状を鑑みた結果、残りの兵士は全て復興作業に回したのだ。
結果、北方へ向かう戦力は、俺たち3人と浮狼さん、そしてペンドラーさん三姉妹に残りの隊長3人と、完全に少数精鋭の編成となった。

かなり無茶にも感じる編成だが、こちらには阿須那と女胤がいる以上、数の不利は実質無いに等しい。
前の戦いにおいても女胤の貢献は凄まじく、ヨワシの全戦力を相手にひとりで大立ち回りだったからな。

解ってはいたことだが、やはり阿須那や女胤は規格外なのだ。
浮狼さんもあれから相当強くなっているみたいだけど、まだこのふたりには多分追い付いていないんだろう…と、素人目にも俺は予想出来ていた。


ペンドラー
「基本的には特攻だ…エンニュートの部隊はほぼ全てが部下のヤトウモリで固められている」
「炎、毒と全体的にはタイプ不利だけど、こっちには力強い味方もいるからな…」


今は休憩中で、俺たちは作戦会議を開いている。
少ない人数な以上、やれる事は非常にシンプルだ。
もっとも、それはやはり阿須那や女胤がいる事前提の作戦。
逆に言えば、ふたりがいるからこそ、この状況でも全兵士を復興に回すという無茶も通るわけだが…


阿須那
「とりあえず今度はウチの出番やな…女胤、聖は任せるで?」

女胤
「分かりました、この命に代えても護り通してみせます」


次の敵は草や虫にとっては天敵とも言えるタイプだからな…
相性で言うなら、こっちは阿須那以外全員弱点と来た…確かにそれなら下手に戦術組むより、阿須那を前面に出して強行突破が良いのかもしれない。
幸い、幹部といえども阿須那にとっては物の数じゃないだろうし。
頭さえ潰せれば、それこそ一気に勝負は決まるだろ。


ペンドラー
「とりあえず、もうすぐ関所だ…食料は最小限で余裕も無い」
「ってなわけで、ここで盃はどうだい?」

ケケンカニ
「おっ、良いねぇ! 決戦って感じで悪くねぇ!」

アブリボン
「確かに! 次勝ったら、もう後は女王だけだもんね!」


ペンドラーさんはひとつのグラスを取り出し、それに酒らしき透明の液体を瓶から注いだ。
匂いでは何とも言えないが、どんな飲み物なのやら?


浮狼
「ふふ…まだ勝った気になるのは早いと思いますが」

阿須那
「かめへんのちゃう? ウチは頂くで!」

女胤
「阿須那さん…私たちは未成年ですよ?」

ライト&レフト
「私たちもお酒はムリー」


おっと、流石に無理な人もいるわな…
酒となったらちょっと子供の俺には事だ。
シャンパンみたいな物ならともかく、ガチな度数の酒だと流石に避けたい所だな。


ペンドラー
「まぁ、飲みたい奴だけ飲めば良いさ! 子供は水で雰囲気だけ味わいな!」


そう言ってペンドラーさんは別のグラスにただの水を注ぐ。
それを俺に渡してくれた。
って、これを回し飲みするのか?


ペンドラー
「とりあえず、大将からどうぞ!」

浮狼
「では、僭越ながら…」


そう言って浮狼さんは一口グラスから飲んだ。
そして、次にペンドラーさんがそれを受け取って飲む。
続いてクワガノンさんに…その次はケケンカニさん…次はアブリボンさん。
そして、最後に阿須那が残りの酒を飲み干した。


阿須那
「ぷっ! キッツ~!! これ、何度あるねん!?」

ペンドラー
「はははっ!! ウン十年物の濁り酒だからな!」
「多分50度前後はあるんじゃないか?」

クワガノン
「全く…こんな世によく持ち歩いてたな?」

アブリボン
「ホント! ペンドラーってお酒好きなのは知ってたけど…」

ケケンカニ
「へへっ、まぁ旨いなら良いじゃねぇか! 気分も良くならぁ!!」


阿須那はかなりキツそうな顔をしていたが、ペンドラーさんたちは笑って平気そうな顔をしていた。
浮狼さんもそう問題は無い様だ。
俺も、とりあえず水を少し飲む…うむ、ただの水だな。
そして、それを俺は女胤に渡す。


女胤
「はぁ、はぁ…! 聖様の飲まれたグラスをこの私が!!」


「おっとつまづいたーーー!!」


俺はワザとらしく女胤にエルボーを食らわして吹き飛ばす。
その際にグラスは地面に転がり、見事に砕け散ってしまった。
ふぅ、危ない所だったぜ…女胤の変態性がこんな所で発揮されようとは!


ペンドラー
「あ~あ…何やってんの~! ほら~!! もったいないじゃ~ん!!」


な、何だかペンドラーさんの様子がおかしいぞ!?
いきなり顔を真っ赤にしてベロンベロンに酔ってる!
それを見てか、クワガノンさんたちは苦笑していた。


クワガノン
「やれやれ…下戸の癖に酒は好きだという奴だからな」

アブリボン
「こんな強いの飲んだら、そりゃ一口で酔うわよね~」

阿須那
「いくらなんでも回るのが早すぎやろ!?」


確かに、これはいくらなんでも早すぎだ。
とはいえ、既に出来上がってしまったペンドラーさんは、普段からは想像も付かない程に酔っぱらい、 もはやただの酔いどれ姉さんになっていた。


ペンドラー
「ライト~レフト~…ゴメンね~、ダメなお姉ちゃんで~!」

ライト
「よしよし…お姉ちゃんはダメじゃ無いよ~?」

レフト
「お姉ちゃんは世界一のお姉ちゃんだもん♪」


妹ふたりにそう言って慰められるペンドラーさん。
何だか微笑ましい光景だ…ペンドラーさんは妹から信頼されてるのを感じる。



(…姉さん、か)


俺は、何となく思い出してしまった。
俺にも、血は繋がってないが姉と慕う人はいる。
今は出来るだけ考えない様にはしてるが、俺はその人に謝らなきゃならない。
だけど、もしかしたら…それは叶えられないかもしれないな。



(…現実の俺は、死にかけている)


そして、その死体を最初に発見するのは紛れもなく姉さんだろう。
俺はただ絶望し、姉さんと慕った人ですら遠ざけ、全てを否定して命を絶った。
だからこそ、俺はきっと地獄に落ちるのだろう…償う事すら出来ずに。


浮狼
「聖様…どうか、したのですか?」


「!! いえ、大丈夫です」
「さぁ、そろそろ休みましょう…ペンドラーさんがこれだと、進撃も出来そうに無いですし」


とりあえず、今日はこれで一旦休む事となった。
その間、特に敵の襲撃も無く、割りと平和な1日となった。



………………………



そして、翌日…俺たちは早朝から敵の拠点を一直線に目指す。
北方の関所を抜けてからは急に気温が下がり始め、ちらほらと雪が降るのを確認した。
どうやら山岳地帯の様で、この先にエンニュートの軍が展開されている様だ。
推定戦力は約3000…たった9人で迎え撃つと言うのだから、正気の沙汰ではない。
だが、それは決して無謀では無いのだと、結果は語っていた……


ペンドラー
「おらおらぁ!! どけどけどけぇ!!」

阿須那
「片っ端から消し炭にしたる!」


高速で走るペンドラーさんたちの速度に、ヤトウモリ部隊はマトモに攻撃が出来ていない。
ペンドラーさんの背中には阿須那が乗っており、周りの敵を全て炎で薙ぎ払っていた。
不利ではないとはいえ、半減でも阿須那の炎はザコには即死クラス…
もはや相手が気の毒になる位で、阿須那の放つ『熱風』は雪すら溶かし、兵士を蹂躙していた。
もはや敵兵は怯え始め、戦闘の意志すら奪われていく。
そうした中、段々と敵の攻撃は弛み、やがて巨大な城が見え始めた。


浮狼
「見えた、城だ!!」

アブリボン
「正面にヤトウモリ多数! でも何だか騒がしいみたい!」

クワガノン
「おい! ヤトウモリの奴らが城からどんどん逃げて行くぞ!?」


言われて遠目に荷台から見るが、確かに城門からワラワラと大多数のヤトウモリたちが逃げていた。
どうやら戦況不利と判断し、女王を見限った様だな…


阿須那
「…ペンドラーはん、左に旋回や」

ペンドラー
「んっ? ここは城に突入するべきじゃないのか?」

阿須那
「後顧の憂いは断つ…! エンニュートが背後から襲わんとは限らんからな!」


突然、ペンドラーさんは左に旋回する。
同時に荷台もその方へ向かい、俺たちは逃げているヤトウモリの集団へ向かっていた。


阿須那
「見付けたで!? とりあえず消し炭にしたるわぁ!!」


阿須那は怒りを露にし、『炎の渦』を集団に放った。
爆音と共に、多数の悲鳴が聞こえる。
そして、ペンドラーさんはすぐに集団に追い付いて一旦停止した。


ペンドラー
「当たりか!?」

阿須那
「ドンピシャや…! 後は任し!!」


そう言って阿須那は日照りを発動させる。
そしてペンドラーさんの背中から飛び降り、ひとり渦から逃げ出そうと這い回る女性がいたのを確認して近付く。
どうやらその女性がエンニュートの様で、細く黒光りする体と、いかにもな感じを醸し出している。
服は炎で焼け落ち、ボロボロになりながらもまだ逃げようとしていた。
阿須那はそのエンニュートに対して無言で歩み寄り、エンニュートの進行方向に『火炎放射』を放って、足止めする。
エンニュートは完全に怯え、阿須那を見て命乞いをした。


エンニュート
「た、頼む!! 私はもう逆らわない!! 女王とは縁を切る! だ、だから命だけは助けてくれ!!」

阿須那
「…そう言って命乞いをした連中を、アンタは助けた事があるんか!?」
「中央区の焼き払われた畑と、死体…明らかに『腐食』された鉄の跡、アンタがやったんやろ!?」

エンニュート
「あ、あれは命令されて仕方なく!! ぜ、全部女王のせいだ!!」
「私は何も悪くな……」


言い終わろうとした瞬間、ズバッ!と一閃。
浮狼さんは、割り込む様にエンニュートの横から首を跳ねた。
そして、ポカンとしている阿須那に向かってこう告げる。


浮狼
「…阿須那殿が業を背負う必要はありません」
「全て、私が引き受けますので…」

阿須那
「…ほうか、ならウチは何も言わへん」
「さぁ、ようやく城に着いたんや…決戦と行こうやないか!!」


そう、俺たちは遂に女王アマージョの城へと辿り着いた。
外から見ても、明らかに場違いな荘厳さを放つその城は、雪に覆われながらも威厳を保っている。
まさにラストダンジョン…これが、最後の戦いなんだろうな。



………………………



ナッシー
「お待ちしておりました…閃光のラランテス殿」

浮狼
「!? 軍師のナッシー殿か…貴方がここで出るという事は」


城門を潜り、中庭に出た所でひとりの男が立ち塞がる。
出て来たのは、まるで騎士の様な服を着た首長のナッシー男。
どうやら、リージョンフォームらしく、その首は3mはあろうかという高さに伸びていた。
体は結構ゴツく、長い首を支える体はドッシリと重量感を感じる。
だけど両腕は腰の後に回しており、まるで戦う気配は見せていなかった。


ナッシー
「女王陛下は貴女をお待ちです」
「決着は王同士で着けようと」
「さぁ、勇気がお有りならどうぞおひとりで…!」


ナッシーは3つある顔から順に言葉を放っていく。
異様な口調だが、とにかくこの提案は罠の臭いがプンプンする!
簡単に受け入れるのは流石に…


浮狼
「…分かりました、ではここからは私ひとりで行きましょう」

阿須那
「正気か!? 確実に罠やろ!?」

ペンドラー
「そうだ! 何で兵士が誰もいないんだよ!?」
「どこかに潜ませてるんじゃないのか!?」


阿須那とペンドラーさんがツッコムと、ナッシーはふぅ…とため息を吐く。
そして、真ん中の顔が呟く様にこう言った。


ナッシー
「もうこの城に兵はおりません」
「残された配下は私ひとり…故に罠の張り様がありません」
「無論、信じろと言うのは愚の骨頂…よって、ここで私は自らの命を賭けて最後の仕事をさせていただきます!」


そう言ってナッシーは体を光らせ、何かをしようと腕を振り上げる。
その瞬間、俺たちは気が付けば城の屋上らしき場所にいた。


女胤
「なっ!? こ、これは『テレポート』!?」

ナッシー
「…陛下はあくまで勇者の挑戦を望んでおられる」
「故に、他の者は一切の手出し不要!」
「どうしても行きたければ、この私を倒して行くが良い!!」


ナッシーはそう言って異様な雰囲気を放つ。
手は腰に回しているものの、コイツはエスパー技を使える!
加えてドラゴンタイプ…馬力は相当あると思うが。


阿須那
「…なら、待とうやないか」

女胤
「阿須那さん!?」


阿須那はあえて相手の策に乗る気の様だった。
女胤は驚くものの、この状況を考えてか、それ以上は言葉を続けない。


ペンドラー
「待ちなよ!? 罠に決まってんだろこれは!?」

ケケンカニ
「そうだぜ! 今頃大将はどうなってんのか…」

アブリボン
「ま、待って皆! 索敵したけど、ホントに誰の気配も感じないよ!?」


アブリボンさんの言葉にペンドラーさんとケケンカニさんは驚く。
信頼しているアブリボンさんの言葉だ、つまり…それは嘘偽り無い背水の陣。
本気で、女王アマージョはタイマンを望んでいる…?


恵里香
『大丈夫だよ、伏兵は感じない…アブリボンの言う通りだ』


俺はスマホを耳に当て、保険で恵里香に確認を取った。
それなら確実だろう…だが、それなら何故ナッシーはこんな策を?


クワガノン
「…何を考えているお前は?」

ライト&レフト
「首長いし、顔怖い!」

ナッシー
「…私は多くは望みません、ただ陛下の覇道を見ていたいだけ」
「首が長いのはご容赦を」
「後、顔は生まれつき故」


ナッシーは律儀に別々の顔で順に全部答える。
色々苦労してそうな人だな…見た目とのギャップがパナイ人だ。
ナッシーのインパクトがあるのに、性格は異様に良識人だし…


阿須那
「ええやん…勝つのはどうせ浮狼はんや」
「ウチ等は、ただ信じればええやろ…」


「そうだな…それで全部終わるなら、俺たちは信じるだけだ」


俺の言葉に、全員が言葉を詰まらせる。
そして、ひとりナッシーのみが、俺を見て訝しげな顔をしていた。
な、何かあるんだろうか?


ナッシー
「…ニンゲン、か」


「…人間って、解るのか?」


まぁ、ポケモンとは明らかに違うとは思うけど。
だけど、この世界はポケモンしかいないはず…なのに、ナッシーは俺を見て人間だと呟いた。
それに、意味はあるのか?


ナッシー
「この世界においては、幻とされる存在」
「そして過去に現れたニンゲンは、世界を統一し、英雄となった」
「…と、世には伝えられている」


3つの顔が一々別に発言するのは何か聞き取りづらいな。
とはいえ相手は真面目に言ってるみたいだし、そこをツッコムのは野暮ってもんだ。



「ちなみに、その人間はその後どうなったんだ?」

ナッシー
「全てが終わった後、ひっそりと消えたそうだ」
「それ以来、1000年以上もニンゲンは現れていないと言われている」
「そして今また、世界を変える為にニンゲンが現れた」


俺は、はっきり言って英雄とはかけ離れてる存在だ。
でも、誰かを救いたい一心だけでここに来た。
そんな不可思議な伝承があるのは気になるが、伝承通りなら俺が浮狼さんを勝たせる事になるのか…?


阿須那
「伝承、ねぇ…まぁええやん、それなら勝ったも同然や!」

女胤
「そうですね…浮狼さんは紛れもなく聖様と出会って強くなりました」
「惰眠を貪った女王ごときに敗北は有り得ないでしょう」


ふたりがそう言うと、ナッシーはクスクス笑う。
俺たちはその笑みに?を浮かべる。
すると、ナッシーは笑いながらこう呟く。


ナッシー
「失礼…よもやそこまで楽観されているとは思いませんでした」
「陛下のお言葉でもありますが、随分舐められたモノです」
「確かに、閃光のラランテスは強い…ですが、勘違いをされては困ります」
「女王陛下は、己の力だけを持ってこの世界を支配した魔王!」
「そのお力は確かに衰えど、しかし! 決してその執念は衰えておりません!!」
「私は断言する!! 女王陛下は、あの閃光のラランテスに負けていない、と!!」


ナッシーの高らかな宣言は、全員の緊張感を一気に上げる。
女王アマージョ…部下に魔王とまで言わせるその力、一体どれ程の物なんだ…?



………………………



浮狼
「…!? 貴女が、女王アマージョ…!」


私が辿り着いたのは、玉座のある謁見の間。
そこに女王アマージョは鎮座しており、巨大な肥満体型の体を見せ付けるかの様にふんぞり返っていた。
その顔に恐怖の類いは無く、むしろ眼からは笑みが見える。
口元は上着の襟で覆われており、表情は解りづらい…が、何となく自信満々という感じは伝わって来た。


アマージョ
「…アンタが閃光のラランテスかい? 成る程、確かに力はある様だ」


アマージョは私を見て目を細める。
そして値踏みする様な声色で笑っていた。
私は特に感情を込めず、とりあえずこう言葉を放つ。


浮狼
「女王アマージョ…これ以上貴女の暴虐を許すわけにはいきません」
「ここで、その命を貰い受ける!!」


私はそう言って右手からビームソードを出す。
それを見て、アマージョは少しつまらなさそうな顔をした。
そして戦う気配を見せる事無く、アマージョはため息を吐く。


アマージョ
「…実に王道のセリフだねぇ~、で?」

浮狼
「……?」


私は言葉に詰まる。
アマージョの言葉の意味が解らなかった。
アマージョはそんな私に呆れたのか、首を横にゆっくりと振る。
そして、足元近くまで伸びる緑色の長い髪を揺らし、重い体を玉座から動かしてアマージョは立ち上がった。
ここから伸びる階段の上にある、玉座の前から私を見下ろし、アマージョはこう告げる。


アマージョ
「アンタ、アタシを殺してどうする?」

浮狼
「知れた事! この世界の民に自由を!!」
「もはや誰も争わずに、皆が手を取り合って生活出来る世の中を造る!!」


私は剣を突き付け、そう答える。
そんな私の答えを受け、アマージョはまたため息を吐いた。
そして、そんな物は幻想だとばかりに、否定の言葉を放つ。


アマージョ
「バカじゃないのかい? この弱肉強食の世界でどうやって手を取り合う?」
「アンタがどう言った所で、争いは必ず起こる!」
「力のある奴は、絶対に弱者を虐げる!!」
「アンタは神にでもなるつもりかい? 全ポケモンを意のままに操れるとでも思ってるのかい!?」


アマージョの言葉は、私の信念を貫いていた。
解ってはいる…そんなに簡単に世界は変わらないのだと。
しかし、誰かが立たねば弱き者は救われない。
例え私の行動が間違っていると言われても、私は信じて進まねばならない。


浮狼
「私は神にはなれない…だが、標(しるべ)にはなれる!!」
「例えこの身が燃え尽きようとも、私は正しいと思う事をただ成し遂げるだけ!!」

アマージョ
「…はっ、夢物語だね」
「まぁ良いさ…所詮はアンタもアタシを殺して世界を取ろうとしてるんだ」
「なら、これは殺し合い! 強い奴が全取りするゼロサムルールだ!!」
「さぁ、試してみるかい!? アタシとアンタ、どっちが世界を取るのに相応しいか!!」


アマージョは何やら右手に種の様な物を持っており、それを躊躇無く口に入れた。
そして、アマージョは苦しそうに体を震わせる。
だが、そこから放たれる気は尋常ではなく、階段の下にいる私は得体の知れないプレッシャーを感じていた。

私は臨戦体勢を取る。
左手からもビームを出し、一気に攻め落とすつもりで前傾姿勢になった。
そこから飛び出そうと私は踏み込む……が、私の目の前には既に、アマージョの足首が迫っていた。

ドガァッ!!と音をたて、私の首は体ごと容易く吹き飛ばされる。
部屋の端まで一気に吹き飛び、私は後頭部を壁に激突させて意識を揺らした。
辛うじて倒れる事はせず、私は左手を壁に付けて前を見る。
すると、階段の側で体を仰け反らせ、高らかに笑っているアマージョの姿が見えた。


アマージョ
「ハハハハハハハハハハハハッ!! こいつぁ良い!! まるで体が羽の様だよ!!」
「これならアタシは無敵だ!! 負けるわけがない!!」

浮狼
「くっ…! 今のスピード…さっきの種の効果?」


少なくとも、かなりの効力がある種の様だ。
あの体で目にも止まらぬスピードを出せるとは…!
しかし、今の一撃で逆に私の力は増すのを感じた。
どうやら、運良く私の特性には相性が良い様ですね!


アマージョ
「さぁ、足掻いて見せな!? すぐに死ぬんじゃないよ!!」


アマージョは一瞬体を屈めたと思うと、猛スピードで接近する。
私は何とか反応し、両腕を交差させてガードを固めた。
すると、アマージョの重い飛び蹴りが私を壁に押し込み、私は痛みに耐えながら歯を食い縛る。
かなりの力ですが、私の力はまた増す。
恐らく、これがアマージョ特有の『トロピカルキック』!
本来なら受けた相手は力が入らなくなりますが、私の特性は『天邪鬼』…
こういった技に対しては、逆に力が増してくれます!!


浮狼
「はああああっ!!」

アマージョ
「おっと危ないねぇ!!」


アマージョは凄まじい反応で、ビームで形成された私の『リーフブレード』をかわす。
あっという間に数mは退いており、完全に射程外。
いくら力が増しても、私は基本鈍足。
あれ程の快速を相手にしては、不利は免れませんか。
しかし、腐っても仕方が無い。
私には愚直な攻め方しか出来ない! 死力を尽くしてでも、アマージョは倒してみせる!!


アマージョ
「良いねぇ! まだまだ余裕はある顔だ!! 精々アタシを楽しませな!!」


アマージョは左右にステップを踏み、まるで肥満体型の重さを感じさせない動きを見せている。
だが、その踏み込みは凄まじい音をたてて砂煙を上げた。
アマージョの一歩一歩が石で出来た床にヒビを入れているのを確認する。
体重が減ったわけではない…それだけにあの重量と速度は厄介過ぎる。
単純な力でも上回られていますね…アマージョを捉える前に私の体力が持てば良いのですが。


浮狼
「だが! 諦めるつもりは無い!!」


私は我武者羅に剣を振り回す。
だが、距離も考えずに振ったそれが当たるわけもない。
アマージョは嘲笑い、カウンターで私の顎を膝で蹴り上げてすぐに離れる。
私は血を吐きながらも、倒れる事なくアマージョを睨み付けた。


アマージョ
「ハハハハハッ!! サンドバッグだね、まるで!!」
「アンタの動きは止まって見える!! 負ける気がしない!!」
「さぁさぁさぁさぁさぁ!? アンタはまだ諦めないのかい!?」

浮狼
「諦めるという文字は…私には無い!!」


私は全力で『ソーラーブレード』を溜め始める。
当然だがその間は隙だらけ、アマージョは高笑いしながら接近した。
私はマトモに攻撃を食らうつもりで歯を食い縛る。
どんな一撃でも耐える覚悟で私は力を溜め続けた。
が…それを見越したのか、アマージョは一撃でなく、連撃で私を攻めたてる。

ドガガガガガッ!!と私の顔は左右交互に弾かれる。
アマージョは片足だけで高速の『往復ビンタ』を放ち、見事に5発の蹴りを一瞬で見舞ったのだ。
アマージョは体型の都合で足は高く上がらず、あくまで空中に1度飛び上がって蹴りを放っていた。
故に、攻撃の後には一瞬着地の隙がある。
私は攻撃に耐え切り、その隙に向けてソーラーブレードを振り回す。


浮狼
「受けよ我が剣閃!!」

アマージョ
「!?」


私のソーラーブレードは横薙ぎに振るわれ、アマージョの着地の隙を狙う。
タイミングは合っている…が、それでもそこにアマージョの姿は無かった。
私の渾身の一撃は、虚しく空を切ったのだ。
私は勢いで体勢を崩し、そのまま床を転がった。
そして息を荒らげ、這いつくばって無様に震える。


アマージョ
「ハハハッ! 今のはヒヤッとしたよ!!」
「だけど、切れたのは服だけ…肉はやられてないね!」

浮狼
(つ、強い…! スピードもパワーも、私の想像を遥かに越えている)


私は強く拳を握り、力の差を痛感する。
だが、それでも私の心は折れはしなかった。
この程度の戦力差が何だ!? あの時の女胤殿は、もっと速かった!!


アマージョ
「まだ立ち上がるのかい!? 良い加減諦めたらどうだい!?」


アマージョは更に飛び蹴りを私の腹にめり込ませる。
私は血を吐くも、後に退がっただけで、倒れはしなかった。
アマージョは驚き、すぐに距離を離す。
私は意識を繋ぎ止め、強い目でアマージョを睨み付けた。


浮狼
(この程度の一撃…女胤殿の技に比べれば大した事は無い!!)


女胤殿の一撃は軽く肉を抉り取る程の一撃でした。
アマージョは所詮遊んでいる…そんな程度の一撃では私の心は折れない!!


アマージョ
「気に入らないねぇ! まさか勝てるつもりでいるのかい!?」
「この圧倒的な差を見せられても、まだ諦められないのかい!?」

浮狼
「諦めるに値しない! 私の目的を果たす為には、必ず貴女を倒してみせる!!」


私は再び力を溜める。
隙だらけだが、それでも私にはこれしか手は無い。
例え無様でも、私にはこの一刀に賭ける事しか思い付かない!!


アマージョ
「ハハハッ!! 終わらせてやるよ!!」
「今度こそ、その首の骨でも折って殺してやる!!」
「死ねぇ!! 閃光のラランテス!!」


アマージョは一瞬で飛び込み、私の首に蹴りを放つ。
だが、私の意識は切れない。
首の骨もギリギリで持った。
全身が痙攣し、もはや目の前はボヤけている。
それでも、私は剣を天高く振り上げた。
城の屋根を貫き、私の剣閃は真っ直ぐ伸びる。
アマージョは既に着地し、いつでもかわせる体勢。
私はそれでも、その一刀を全力で振るう事しか考えられなかった……


アマージョ
「ハハハッ! こんなトロい一撃、目を瞑ってても……がっ!?」


突然、アマージョは何か呻き声をあげる。
まだ私の剣閃は振り下ろされてない。
私は視界がほとんど見えておらず、ぼんやりとアマージョの巨体が見えるだけ。
そして、私はそれに向かってただ、無心で剣を振り下ろした。

ガガガガガガッ!!と屋根を縦に切り裂き、ソーラーブレードは真っ直ぐ振り下ろされる。


アマージョ
(こ、これが…あの種の副作用か……体が、麻痺した様に動かない)
(悔しいねぇ…最期の最後に、アタシは運が無かったって訳だ……)


ジュアアアアアアアッ!!と、何かを焼き切る音が聞こえる。
私はそれに手応えを感じ、ビームを消して両膝を床に落とした。
もはや、何も見えない…意識も遠退く。
そんな中、私の頭で真っ先に浮かんだのは、聖様の笑顔だった。



………………………




「い、今のは浮狼さんのソーラーブレード!?」

女胤
「屋根を切り裂きましたわ! 一体どうなって……」

ナッシー
「…陛下、そうですか」


突然のソーラーブレードが天に向かって伸び、それが振り下ろされたのを確認した俺たちは息を飲む。
だが、次の瞬間に俺たちは城から遠ざかった場所に移動していた。
どうやら、またナッシーのテレポートで運ばれたらしい。


ナッシー
「…こちらの負けですね、お見事です」

阿須那
「何やと…? ほな、浮狼はんは……」

ペンドラー
「大将は勝ったんだ!!」


その場の全員が喜びの声をあげる。
ペンドラーさんは姉妹で抱き合い、ケケンカニさんはクワガノンさんやアブリボンさんと顔を見合わせて喜んでいた。
これで…終わったのか?


ナッシー
「………」


ナッシーはその場からテレポートし、移動する。
何処へ行ったのかは解らないが、何となく…予想は出来る気がした。



………………………



ナッシー
「…陛下」

アマージョ
「……はっ、無様だろ? コレが、力に溺れた者の末路さ」


アタシの前に現れたのは、ナッシーだった。
アタシは仰向けに倒れており、体は動かない。
ラランテスの一撃で体を焼き切られ、既に死に体なのだ。
左肩から斜めに両断されており、残っているのは右肩から腕だけの様だった。


ナッシー
「お見事です…やはり、私の目に狂いはありませんでした」


もはや答える事も出来ない。
だが、ナッシーは満足そうな顔をしていた。
アタシは空笑いする…後悔は無い。
ナッシーが結局何を考えているのかは解らなかったけど、あの種が無きゃ、アタシは戦う事も出来なかったんだ。
負けはしたが、それでも最後まで自分の力で抗えた。
それだけが、幸運だったねぇ~


ナッシー
「陛下、すぐに私も逝きます…少々お待ちを」



………………………




「!? ふ、浮狼さん!!」


しばらくするとナッシーが再び現れ、浮狼さんを俺の元に連れる。
浮狼さんは完全に気を失っており、顔はかなり腫れて内出血を起こしていた。
かなりの激闘だったのが予想出来るな…そんなに、あの女王様は強かったのか。


ナッシー
「これで、貴方方がこの世界の覇者です…」


「!?」


突然地震が起こり、城が揺れていた。
まさか、定番の城爆破か!?
しかし、そんな中ナッシーは微笑み、俺にこう告げる。


ナッシー
「やはり、言い伝えは本当であった様です」
「それでは、失礼……地獄に陛下ひとりは、あまりに寂しすぎますので」


そう言ってナッシーは城の入り口にテレポートする。
そして背中を向け、そのまま崩れ去る城と共に、その命を捧げた様だった。
いや違うか…捧げたのは、城じゃなくて、女王に…だな。

結局、アイツは何を考えていたのか解らなかった。
ただ、女王アマージョに心酔していただけじゃない。
何か、寂しげなアイツの目は、もっと別の感情が込められている様にも俺には感じられた……



………………………



こうして、戦争は遂に終結した。
世紀末的な退廃世界の中、浮狼さんは確かに勝利を手にしたのだ。
この戦争の意義は大きい。
浮狼さんは今後、この世界で新たな王となり、人々を導いて行く事だろう。
そして、その先にはきっと…浮狼さんの笑顔があるはず。
俺はそんな思いを胸に、この世界から旅立つ決意をしたのだった。



「阿須那、女胤…行こう」

阿須那
「ええんか? 最後に一言言わんで」


今、浮狼さんは中央区のベースキャンプで治療を受けている。
俺は阿須那に構わないと告げた。
言いたい事は手紙に残してあるし、これ以上関わるのは俺の役目じゃない。
浮狼さんには浮狼さんの、俺には俺の戦いが残っているのだから。


女胤
「…彼女は、救われたのでしょうか?」


「そうであると思いたい…少なくとも、力にはなれたと思う」
「さぁ、俺たちには俺たちの戦いが待ってる」
「今度こそ…俺は全てを救う為に戦うんだ」
「今まで出逢った皆の為に、世界を無かった事には絶対にさせない!!」


俺はそう強く決意し、夢見の雫を行使した。
そして最後に心の中でこう告げる…さようなら浮狼さん、どうか…お元気で、と。



………………………



浮狼
「…聖、様?」

ペンドラー
「大将! 動いて大丈……」
浮狼
「ペンドラー、聖様たちは!?」


私は嫌な予感を感じ、痛む体を動かしてペンドラーに詰め寄った。
しかし、ペンドラーは?を浮かべ、別のテントを指差す。
私は全力で走り、遅い足を必至に動かしてそのテントに向かった。
そして中に入るが、そこには誰もおらず、私は途方に暮れてしまう。
解っていたはずなのに、それでも信じたくはなかった…


浮狼
(聖様は、まだ戦わなければならない…)


そして、それは絶対に避けられない物。
出来るなら、私も共に行きたかった…!
ただ、それは叶わぬのだと悟る。
私は一切れの手紙を見付け、それが聖様の残した物だと確信し、目を通した。


浮狼
「………」



浮狼さん、黙って帰ってしまってすみません。
ですが、もう大丈夫だと思ったので、俺たちは行きます。
まだ、俺たちには最後の戦いが残っているんで。

そして、その戦いを持って俺たちは全ての世界の滅びを救います。
浮狼さんの世界も、放っておけば滅びを迎える。
俺たちは決してそれを許す事は出来ない。

だから、信じてください。
浮狼さんの世界も、俺たちが必ず救うと。
俺も浮狼さんを信じます。
浮狼さんなら、必ず素晴らしい王となれると。
そして必ず、皆の希望の光になれると……



浮狼
「さ、とし…様……」


私は、涙が止まらなかった。
そして改めて理解する…聖様は本来の戦いを置いてまで、私を助けてくれたのだと。
私のワガママに、ただ聖様は無償で付き合ってくれたのだ。
こんなバカな私なんかの為だけに、聖様はここに来て助けてくださった…
涙で視界がボヤける中、私は手紙の後半部分を辛うじて読み進める。



最後に、俺から約束します。
必ず、また会いましょう。
いつか、王である事を忘れ、ただの女性に戻った…浮狼さんと再会出来る様に。



浮狼
「う…あぁ……っ! …うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「聖様、聖様ぁぁぁっ!!」
「私、私…! 必ず成し遂げます!!」
「そして全て終わって、王を止めたら……必ず貴方の元に向かいます!!」
「その時は……その時は、抱き締めてもらえますか?」
「うぅ……! あああぁぁぁぁぁっ…!!」


私は思いの丈を叫んで泣いた。
その声が決して聖様に届く事は無いと解っていても。
それでも、私は聖様を信じて、ただ情けなく泣いた……










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第2話 『世界を救う剣閃、閃光のラランテス』


To be continued…

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