第5章 第5話

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読了時間目安:75分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「ペダルを踏むタイミングを合わせるんだ!!」

阿須那
「任せとき!」

華澄
「承知!」

女胤
「了解ですわ!」


「◯ッタァァァァッ! シャァァァァァァインッ!!」
「◯ャイィィィィィンッ! スパァァァァァクゥ!!」


俺は開幕からネタを全力で叫び、勢い良く守連への世界へと向かう。
なお、ネタなので特に演出は無く、俺はただ走っただけだ。
もちろん大ジャンプするわけでも無し。
残念ながらペダルも無いので、皆ノリだけ。
いやぁ、終わってみると割と空しいなコレ…って言うか。



「ツッコミが来い!!」

恵里香
「あははっ、行ってらっしゃ~い♪」


結局、恵里香ののほほんとした声で俺は世界を渡った…グスン。



………………………




「…くっ」
「いつもながら、到着した瞬間は違和感がキツいな」


俺は自分の体をまず確認する。
最果てでは無傷でも、現実世界に渡ればそこは自分の元の体だ。
前回は無傷だったし、今回は違和感少ない方か。
まぁ実際の所、現在の俺の体は夢見の雫で擬似的に作っているに過ぎないんだがな…
俺の本当の肉体は死ぬ直前…全てが終われば、俺も同時に役目を終えて地獄に落ちる予定だ。



「今度は、草原か…」


見渡す限りの草原。
遠くに山とかは見えるが、今いる場所は割りと標高が低い感じがする。
空気もそんなに薄くないし、気圧は正常の様だった。
気温も安定しており、秋服だが寒いとも暑いとも思わないな。



「…風が気持ち良いな」


そよ風に吹かれながら、俺は呟く。
ここは、まるで平和な世界に感じた。
だが、この世界は既に滅びが確定している。
一見平和でも、どこにアルセウス配下のポケモンが潜んでいるか解らないからな。
今度も誰が助けてくれるか解らないし、期待はしているものの十分に気を付けないと。
俺はとりあえずスマホを取り出し、恵里香と通信する。



「のばら」

恵里香
『さては反乱軍だなテメー』


まずはネタをかます。
何気にネタで返されるとは予想外だったわ…



「怒った?」

恵里香
『怒ってないよ♪』


成る程、理解してやってたか…やるじゃない。
とりあえず、そろそろ本題に入ろう。



「…敵か味方は?」

恵里香
『リモコン次第だね♪』


「…そろそろ真面目にやろ!? 流石に敵に奇襲されたら泣いちゃうよ俺!?」


恵里香はクスクス笑い、楽しんでいる様だった。
ヤロウ…相当暇なんだな。
阿須那たちは今どんな顔して見てるのだろうか?


恵里香
『とりあえず、そこには何も無いよ』
『安全地帯かは解らないけど、見張らしも良いし奇襲には注意だね』


「そうか、守連の場所は予測出来るか?」

恵里香
『…ゴメン、ちょっと無理だね』
『もう3つも世界を修正してるし、この世界も相当食い違ってる』
『並行世界全体が、にわかに揺らぎつつあるのかもしれないね』


揺らぎ…か。
あくまで、ここは並行世界のひとつ。
元を辿れば1本の世界線から分岐しただけの世界で、最後には恵里香のいる最果てへと収束する。
それらが揺らぐという事は、元の世界に何かが起こりつつあるって事か…?



「…まさか、俺の体に何かが起こってるのか?」

恵里香
『…否定は出来ないね』
『ただ、夢見の雫がある限り、キミはそこにいられる』


俺は考えるも、結論は出なかった。
俺の本当の体は自殺直後の死に絶える寸前のはずだ。
夢見の雫で強制的に別の肉体を作っているとはいえ、現実の肉体は全てが停止しているはず。
そう、俺が本来いるべき現実世界は、世界全てが停止しているはずなんだ。
なのに、並行世界が揺らぐって事は…何かが起きている?



「恵里香、ひとつだけハッキリさせてくれ」
「お前は揺らぎの正体を知っているのか?」

恵里香
『…そういうわけじゃないんだ』
『でも、確かにボクは現実のキミの世界は見えていた』


俺はここで気付く。
恵里香が何故ここまで曖昧になってしまったのか。
何故、世界が揺らいでいると言ったのか。
恵里香は、見えていたとわざわざ過去形で言った。
それはつまり…



「今は、見えてないって事か?」

恵里香
『…そうだよ』
『今、この最果てからは、キミの本当の世界が見えない』
『つまり、キミにとっての現実世界は…』


「最果てに、収束しなくなったのか…」


俺が言うと、恵里香は黙ってしまった。
最果てには収束しない。
それはつまり、世界が滅びの未来をを回避したという事。
そして…その意味は。


恵里香
『あくまで、推論でしかないけど』
『キミの本当の世界は、もう並行世界を造った世界線から外れようとしているのかもしれない』


「…外れた、じゃなくてか?」

恵里香
『そう、恐らくだけどね…』


「そうか…つまり、この世界を救って、アルセウスを倒しちまって…」
「雫で元の世界に戻ったら…本当のお別れになるって事か」


恵里香は答えなかった。
あくまで、推論でしかない。
だが、可能性が高いのは確かだ。
どういう理由でそんな事になったのかは解らないが、現実世界は自ら滅びを回避した様にも思える。

それは同時に世界線の切断。
全ての並行世界を捨て、新たな世界線を造ろうとしているのかもしれないな…


恵里香
『これも、罰なのかもしれないね』


「世界は残酷だけど、無慈悲じゃなかった…って事だ」
「世界は自動的に滅びを回避した」
「そこに住む人々は、きっと幸せなんだろう…少なくとも近い滅びは回避したんだから」

恵里香
『でも、キミは戦うんだよね?』


「当たり前だ…俺は家族を救い、皆と一緒に最後まで神に抗う」
「そこから先の事は、今は置いておくさ」


そう言って、俺はスマホを耳から離した。
そして天を見上げる…そこは雲ひとつ無い晴天。
風が吹き、太陽の日差しが降り注ぐ。
ここから先、どこでどんな環境変化が起こるかも解らないが…
今は、とにかく歩こう…



………………………




「…本当に平和だな」


あれから数10分は歩くが、特に変化は無かった。
相変わらずの草原で、敵すらも出てこない。
もっとも、野鳥や他の動物の姿も無く、虫すら存在していないんだが。
何だか、返って不気味になってきた。

まさか、ボスの能力か何かで作られているのだろうか?
ここまで、キュレム、ジガルデ、ディアルガとかなり大物のボスラッシュだったからな。
次も相当な大物に違いないと予想出来る。
そして、満を持して空気が動いた。
俺はすぐに上を確認し、身構える。



「クッソ! 今回は空から奇襲かよ!?」


「シャァッ!」


見た目は完全にハーピーの様なそのポケモン女の姿は、まさに恐怖の対象。
全身を羽毛で覆い、両腕は大きな翼と一体化した腕、足は鉤爪。
そして相変わらずの人間らしさを一切感じない獣の様な無機質の瞳。
おっぱいは良いモノ持ってるが、欲情するにはかなり難易度が高いだろう。

何のポケモンかパッと見では判別出来ないが、鳥ポケモンという事は解る。
トサカを見るにピジョット辺りか?
とにかく、その内のひとりが急降下で俺に襲いかかって来た。
俺は逃げる事はあえてせず、その場で飛び退く態勢を取る。
背中を見せるのは返って危険だ。
成功するか解らないが、攻撃の瞬間をかわすしかない!


ピジョット
「シャァッ!!」


「ぐっ!?」


俺は間一髪、跳んでかわすも背中を切られる。
痛みに堪え、俺はすぐに地面から起き上がって相手を見た。
奴は再び上空に上がり、俺の頭上をグルグル飛んでいる。
そして、奴はけたたましい鳴き声をあげ、仲間を呼んだ。



「嘘…だろ?」


それは、おびただしいピジョット軍団だった。
いや、何気にオニドリルっぽいのがひとり混じってるな…
明らかにピジョットとは違う姿で、ひとりマトモそうな人間の姿のまま、背中から生えてる翼で飛んでる…
つか、サラッと自分もピジョットです!みたいな顔で混じってんじゃねぇよ!!
と、俺は心の中でツッコムも、流石にそこまで余裕は無い。

完全にアウトな状況だ…このままでは俺は為す術無く、劇場番◯ヴァ弐号機の様に食われてしまうだろう。
しかし、今まで通りならここでヒロイン見参が定番。
俺は期待しながら周りを見るも、残念ながらまだ来てないようだが…

これはもしかしたらダメかもしれんな…俺は半ば諦めて雫を使う事も念頭に置く。
やがて、ピジョット軍団は一斉に俺に襲いかかって来た。


ピジョット
「シャァァァッ!!」


「ぎゃーーー!?」


俺は為す術無く空へと運ばれる。
鉤爪が肩に食い込み、俺は激痛に叫んでしまった。
そして、次から次へと敵は近付いて来る。
チクショウ…そう簡単にはいかないわな!!
俺は雫を使う覚悟を決めた。
ダメージを受け過ぎたら、その状態でコンティニューしなければならない。
コンティニューして即アボンでは意味が無いのだ!


ドキャァ!!



「えっ!?」


突然、俺は空中で何かに掴まれ、俺を捕らえていたピジョットが吹き飛ぶ。
その衝撃で無理矢理鉤爪が剥がれ、肩が引き裂かれたが、俺は痛みを我慢した。

そして、俺は体を掴んでいる人物を見て驚く。
俺の体を掴んでいるのは、長い耳。
俺はそれをよく知っている…
いつも俺の側に居て、いつもこの耳を頭から垂らしていた、世界で1番頼りになるメイドさんを…



「あ、愛呂恵さんっ!?」

愛呂恵
「遅くなって申し訳ありません…このまま着地します!」


ザシャァ!!と、物凄い着地音がするが、愛呂恵さんは全く無傷。
流石は脚力に優れるミミロップだ…俺は愛呂恵さんの2本の耳で優しく衝撃を和らげられ、優しく草むらに降ろされた。


愛呂恵
「聖様、しばらく伏せていてください」
「これより、敵勢力を殲滅いたします!」


俺は言われてすぐに地面に伏せた。
それを確認した愛呂恵さんは上空を見据え、右膝を腰の辺りまで上げて迎え撃つ態勢を取る。


ピジョット
「シャッ!」

愛呂恵
「!!」


バビュゥ!!と空気を切り裂く音。
恐らく『エアスラッシュ』だろうが、愛呂恵さんをそれを右の耳で軽く横に凪ぎ払い、かき消してしまう。
それを見て危険を感じ取ったのか、軍団は一斉に飛びかかって来た。


愛呂恵
「敵数10を確認…同時攻撃への対処を実行します」


愛呂恵さんはいつもの攻撃態勢に加え、両腕も胸の高さで構える。
ポーズ的にはムエタイやテコンドーのそれに近いが、どことなく中国拳法の流れも感じた。
そして、愛呂恵さんの格闘術はまさに独特。


バキィッ! ドカッ! ゴキャァッ!


物凄い音で3人のピジョットが吹っ飛んだ。
それはほんの一瞬の事だった…
左、右、正面と同時に襲いかかって来たピジョットは、まず左の敵が耳で殴られ、次に正面が腕で殴り抜けられる。
最後に勢いで回転して右の敵を蹴り飛ばした。

そのまま雪崩かかって来る敵を、愛呂恵さんは軽く一掃していく。
そして数分かかる事すらなく、残ったのはもえオニドリルだけだった…


愛呂恵
「………」


愛呂恵さんはクイクイ…と耳で挑発する。
まさに死にたいなら来い!だな…つか、愛呂恵さんやっぱ強ぇ!!
予想はしてたが、藍が最高傑作と言うのも頷ける。
あくまで戦闘力は副次的要素に過ぎないのだろうが、まさに愛呂恵さんは戦えるメイドさんだった。


オニドリル
「か、勘弁してください~!! 降参します~~!!」


そう言ってオニドリルが両手を振って懇願する。
ってか…



「キィィィェェァァァァァァァッ!? シャベッタァァァァァァッ!?」

オニドリル
「ひぃぃぃっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

愛呂恵
「…聖様、攻撃命令を」


愛呂恵さんはなおも警戒している様で、構えたままそう言う。
俺はとりあえず愛呂恵さんに構えを解く様、ジェスチャーで伝えた。
するといつもの直立不動待機ポーズに変わり、俺の側に近寄って来る。
そして倒れていた俺の上体を起こし、まず服を脱がさせる。



「ちょっ!? 愛呂恵さん!?」

愛呂恵
「傷を見ます、動かないでください」


そう言って、俺の上着とカッターシャツ、そして肌着をも優しく脱がす。
な、何かドキドキするな…


愛呂恵
「…とりあえず、緊急処置です」


そう言って愛呂恵さんは、手から水を練り出す。
ミミロップが使える水技だと『水の波動』か。
愛呂恵さんは出力を上手く調整し、軽く手で波動を潰し、残った水で俺の両肩と背中を洗ってくれた。
想像以上に冷たく、俺はビクッとなってしまう。


愛呂恵
「申し訳ありませんが、我慢してください」


「す、すみません!」


俺は今度は動かずに愛呂恵さんの処置を受ける。
愛呂恵さんはメイド服のポケットから包帯とガーゼを取り出し、それを丁寧に俺の体に巻いてくれた。

とりあえず、これで止血はOKかな?
俺は再び服を着て、改めてオニドリルを見る。
見ると、いつの間にかチョコンと近くで座って待っていた。
ただ、見ていただけの様だ…



「そういえば、お前はフツーの格好なんだな」

オニドリル
「フツー?」


解ってないのか…ひとり異彩を放ってたから目立ってたんだがな。
少なくとも、このオニドリルは人間と同じ雰囲気だった。
さっきのピジョットの様にモンスターモンスターしてはいなく、服は茶色のビキニで褐色の素肌が光る。
翼は背中に大きな物が付いており、その形状はまさにオニドリルのソレだ。
髪はいわゆるツンツン頭で、どことなくオニドリルのトサカを思わせなくもない。

足は裸足で、足首と手首に金色のリングを身に着けていた。
胸は…まぁフツーよりかは大きいかな?
でも身長150㎝位からしたら、カップサイズは結構大きいかもしれない。
まぁ、流石に愛呂恵さんの理想的巨乳と比べたら可哀想だが…



「とりあえず、お前は何でアイツ等に混じってたんだ?」

オニドリル
「う~ん…解んないけど、気が付いたら一緒になってた」
「付いてったら餌くれるし、良い人たちなのかな?って…」


餌くれたのかよ…何気に仲間思いだなアイツ等!
まぁ、空しくも全て撲殺されてしまったが…



「とりあえず、お前はどうすんだ?」

オニドリル
「お腹減った、何か食べたい~」


どうやら、欲求に忠実な頭してるらしい…
とはいえ、こんな所でそうそう食い物なんてありつけ…


愛呂恵
「…猪を捕まえました、昼食は焼き肉に致しましょう」

オニドリル
「お~! 肉ーーー!!」


流石は愛呂恵さん…言われる前に準備するとは、まさにメイドの鏡だ。
しかし、焼肉って…火とかどうするんだ?


愛呂恵
「とりあえず、ここでは火災の恐れがありますので、移動します」
「聖様は、私の側を決して離れませんよう」


「あ、はいっ…ほら、お前も来いよ?」

オニドリル
「は~い」


とりあえず、移動し始めた愛呂恵さんに俺たちは付いて行く。
敵もあれから現れる事は無く、しばらく歩いたら切り立った岩場に着く。
しかもそこには、岩で出来た竈(かまど)があった。
何でこんな所にこんな物が?


愛呂恵
「ご安心を、ここは私の厨房ですので」


「あ、そうだったんですか? じゃあ、この竈も愛呂恵さんが?」

愛呂恵
「はい、手頃な岩を削って組み上げました」
「とりあえず、石の串に差してバーベキューにしましょう」


そう言って愛呂恵さんは猪の肉を手刀で軽く捌いていく。
恐らく『居合い切り』だな…精密性は間違いなくA(超スゴイ)だ。
瞬く間に猪は分解され、岩の調理台に並べられていく。
そして、手早く一口サイズに切り分けられ、石の串に肉が刺さっていった。
ここまでで僅か5分…まさにスーパーメイドだ。
そういえば、元々愛呂恵さんは料理担当だったんだっけ?
…そりゃ慣れてるわな。


愛呂恵
「蓄えておいた野菜もありますので、そちらも刺しておきます」


愛呂恵さんは、何やら革で出来た大きなバッグから野菜を取り出す。
それは何やら冷気を放っており、開けた瞬間に水蒸気が一瞬見えた。
まさか、冷蔵してたのか?



「愛呂恵さん、そのバッグって…」

愛呂恵
「はい、中は『冷凍ビーム』で凍らせてあります」
「保温性の良い革で作ってありますので、凍らせた食材を入れておけば野菜も冷やして置いておけるので…」
「基本的には大きめの氷を作り、それを保冷材とします」


まさにセルフ冷蔵庫だ…ノーマルタイプの応用力ってやっぱスゲェ。
改めて愛呂恵さんも技レパートリーがスゴイよな…


愛呂恵
「ひとり分であればこの位ですが…聖様も食事にしますか?」


「あ、いや俺は良いです…腹減ってないし」


正直、まだカレーが腹に残ってるからな。
飯食ってすぐ戦闘だったし、あれからまだ時間経ってないから大丈夫だ。


愛呂恵
「解りました、では余った肉は凍らせて保存しておきましょう」
「では、調理いたします」


愛呂恵さんは両手に炎を纏い、それで竈に火を点ける。
そして、串に刺さった肉に調味料を振掛け、それを竈に差し入れて丁寧に焼いていった。
うわ、フツーに良い匂いするな…
腹が減ってないのが悔しくなる匂いだ。
そして、ある程度焼けた所で愛呂恵さんは串を取り出し、石皿に置いてそれをテーブルに持って行った。


愛呂恵
「どうぞ」

オニドリル
「えっ? 私だけが食べて良いの?」


「俺は腹一杯だからな」

愛呂恵
「私も既に済ませていますので」


何だか申し訳なさそうな顔をするも、オニドリルはバーベキューを食べ始める。
そして、一口目から…


オニドリル
「うんま~~~い!! 普通のお肉のはずなのに、スッゴい!!」

愛呂恵
「食材が新鮮ですので」
「普段はあまり食べる機会の無い希少部位もいくつか使っていますが、味は問題無いと思います」


オニドリルはそこからバクバク食べていく。
何だか見ていて幸せになる食べっ振りだ。
俺は、何となく守連の顔が浮かんだ。
アイツも…ここにいたら一緒に楽しく食べてたんだろうな。



「そういえば、愛呂恵さんはこの世界の出身だったんですね?」

愛呂恵
「はい、奇しくも守連さんと同じ世界だったのだと、この世界に戻って初めて気付きました」
「…そして、聖様がここに来てくださるとは」


愛呂恵さんは、俺の顔を見ずに俯いてしまった。
な、何だかこんな愛呂恵さんは見た事無いな。
…って、そういえば城にいた頃は藍が愛呂恵さんの意志を奪ってたって話だったな。
今はその呪縛も無いから、愛呂恵さんは自分の意志で俺を助けてくれたんだろう…
まさに、あの時の約束を守ってくれたんだな…

俺は、その時の愛呂恵さんの言葉を思い出す。


『助けます』
『聖様が私のご主人様でなくとも、聖様は私の友人です』
『友人の危機に駆けつけないのは、メイドとして失格ですので』



「愛呂恵さん、ありがとうございます」

愛呂恵
「…いえ、メイドとして当然の行動です」
「それから…あの、もし…その、よろしければ…」


愛呂恵さんは、微かに不安そうな目をして、何やら口ごもった。
そして、数秒黙った後…意を決したのか、無表情のままこう話す。


愛呂恵
「…事実上、無職となりましたので、私を雇ってはいただけないでしょうか?」
「もちろん、給金は必要ありません…側に置いていただければ、それで十分です」
「いかが…でしょうか?」


それは、不安そうな声だった。
でも、勇気を出して言ったのだと、俺は感じる。
こんな愛呂恵さんは、見た事が無い。
でも、これが本当の愛呂恵さんなのだ。
それなら、俺は迷わずこう言おう…



「はい、是非…お願いします」

愛呂恵
「あ、ありがとう…ございます」


愛呂恵さんは、何やら顔を赤くしている様だった。
こ、こういうのは反則だろ!?
あの愛呂恵さんが、こんなにも感情を表に出すなんて初めてだぞ!?
それとも、以前より理解した感情が増えているんだろうか?


愛呂恵
「…では、最初のご命令を」
「今なら受精も可能です、どうぞご自由に」


そう言って、以前と同じ様に両手を広げてヘイカモン!する愛呂恵さん。
俺は苦笑しつつも、真面目にこう言った。



「守連を助けたい…協力してくれますか?」

愛呂恵
「聖様、そうではありません」
「私は今や、正真正銘、聖様専用のメイドです、協力してくれますか?ではなく…」
「協力しろ、と…遠慮なくご命令ください」


愛呂恵さんは相変わらずの無表情無感情でそう言う。
だけど、俺には俺の頼み方がある。
だから逆にこう言ってみた。



「愛呂恵さん、これが俺の命令の仕方です」
「俺は、愛呂恵さんの意志で決めてほしいと思ってますんで…」

愛呂恵
「…了解しました、確かにそれが聖様、ですね」
「お任せを、必ず守連さんを助けてみせましょう」


俺は頷き、拳を握る。
愛呂恵さんが助けてくれるなら、この上なく頼もしい。
俺は、ここに来て最高の強敵(とも)を得た。


オニドリル
「あ、あの…」


「ん? あぁ、そういや忘れてた…どうしたお代わりか?」


俺がそう言ってやると、愛呂恵さんはすぐに串を準備する。
流石に速い…だけど、オニドリルはそういうわけでは無い様だった。


オニドリル
「そ、そうじゃなくて…私も、付いてって良いですか?」


「えっ? そりゃ、構わないっちゃあ構わないけど…」
「相当危険だと理解はしてくれ…最悪死ぬ可能性はある」
「単に興味本意なら、止めた方が良い」


俺はややキツ目の口調でそう言う。
正直仲間は欲しいが、足手まといとなれば別だ。
この娘はさっきの戦いでも、ロクに戦わずに白旗を上げている。
どれだけ戦えるのか解らないが、愛呂恵さんと並んで戦えるとはとても思えない。


オニドリル
「そ、そんな興味とかじゃなくて…私、ひとりは怖くて」


「………」


俺は考えた。
確かに、アルセウス配下が跋扈するこの世界で、配下でもないただのこの娘を、ひとりで置いておくのは無責任か。
関わってしまった以上、これから狙われる可能性はかなり高いかもしれないな…


愛呂恵
「聖様、私は連れて行った方が良いと判断します」
「彼女は仮にも飛行タイプ、戦う事は出来なくても、逃げる時は役に立つかと」


「かなり後向きな理由だけど、同感だ」
「悪いな、巻き込んだみたいで…これからは一緒に行こう」

オニドリル
「あ、ありがとうございます~!!」


そう言ってオニドリルは俺に抱き付いた。
そのまま、俺の胸に頬を擦り寄せてくる。
やれやれ、懐かれてしまったかな?



「仕方ない、折角だから名前付けるか?」

オニドリル
「名前?」


よく解ってないな…
俺はまぁ良いか…と思い、とりあえず引き出しを探してみた。
って、飛行使いって意外と少ないんだよな~、かと言ってノーマルには逃げたくないし。



「よし、香飛利(かひり)! コレに決めた!」

オニドリル
「香飛利~? それが私の名前?」


「そっ、気に入らなかったか?」


俺がそう聞くと、香飛利はん~んと、首を横に振った。
何だか、見た目以上に子供っぽいな。
折角だから、歳も聞いてみるか?



「香飛利は何歳なんだ?」

香飛利
「えっと~覚えてない~…多分14位?」
「私、何かを覚えるのスゴく苦手なの…」


俺はそれを聞いてスゴく不安になった。
試しに、香飛利を3歩歩かせてみる…



「お名前は?」

香飛利
「オニドリル~」


ダ、ダメだコイツ…早く何とかしないと!
って何処の鳥頭だよ!? そもそも雀は違うだろ!!
って、オニドリルだから、もはや雀ですらないのか!?



「とりあえず、お前は香飛利」

香飛利
「香飛利~」

愛呂恵
「…聖様、とりあえず歩きながら覚えさせては?」
「その方が効果的に覚えるかもしれません」


俺は不安になりつつも、そうしてみる事にした。
そして1時間程歩いた時点で、ようやく自分の名前を記憶…
ちなみに、何回教えたか数えたくもない!



………………………




「そうか…反応は無し、か」

恵里香
『うん、ひょっとしたら相当高所にいる可能性があるね』


高所、か…確かに射程外となるとその方が確率は高そうだが。
一か八かで香飛利に空を飛んでもらって調べてみるか?
いや、この辺りで高所と言っても山だらけだ。
それも相当遠くに見える距離、それらを虱潰しに調べてたら手遅れになりかねない。


愛呂恵
「聖様、高所…と言うのでしたら、『天空の塔』を目指してみては?」


「…天空の、塔?」


それはいかにも凄そうな響きだ。
名前からして高そうなイメージだからな。
もっとも天空装備持ってないから入れなさそうなイメージもするが…


愛呂恵
「天空の塔は、文字通り天へと続くかの如く高い塔です」
「曰く付きでもあり、可能性は高いかと推測します」


「って事は、ボスがいる可能性か…」

恵里香
『ボクもそう思うよ、守連が向かっている可能性も高いね』


俺は頷き、スマホを仕舞う。
そして、改めて方針を決めた。



「案内出来ますか?」

愛呂恵
「愚問です」

香飛利
「私はとりあえず付いてく~」


俺は愛呂恵さんの案内の元、天空の塔に向かう事に決めた。
その際に当然ながら邪魔をするザコ敵も現れたわけだが…



………………………



ギャラドス
「ギャーッス!!」


ズッシィィンッ!!と、物凄い重量の音が響く。
愛呂恵さんは身長3mはあろうかというギャラドス男を、右アッパー1発の元に沈めてみせた。
使った技は『雷パンチ』…流石に効果は抜群だな。


愛呂恵
「…敵沈黙、周囲を索敵します」


愛呂恵さんは長い耳を斜めに立て、周囲の音を探る。
愛呂恵さんの聴覚は凄まじく高く、4万2千Hzもの高周波を聞き取れるらしい。
逆に低周波の音が聞き取りにくいらしく、声の低い男性の声などは聞き取りにくいのだとか。
愛呂恵さんはしばらく索敵し、やがて安全と判断したのか警戒を解いた。


愛呂恵
「問題は無い様です」


「じゃあ、行きましょう」

香飛利
「あい~」


とりあえず、天空の塔はもう少しかかるらしい。
今日は野宿になりそうだな…もう日が暮れ始めている。



「愛呂恵さん」

愛呂恵
「はい、この辺りで夜営を張りましょう」
「香飛利さん、少しお手伝いをお願いしてもよろしいですか?」

香飛利
「私で役に立てるなら~」


そう言って、愛呂恵さんはテキパキと指示をしていく。
場所は岩場の隅辺りを選び、愛呂恵さんは近くの岩を凄まじい速さで切り出していった。
つか、『岩砕き』と居合い切りの応用か…みるみる内に石のテントが完成してしまったな。
いや、テントと言うよりかはピラミッドか?



「…お師さん、もうすぐ貴方の○帝十字陵は完成する!」

愛呂恵
「…聖様、どうぞ先にお休みを」
「私はこのまま、料理の準備をいたします」


そう言って愛呂恵さんはまた岩を切り出していく。
っていうか、あのテーブルとかキッチンとか、こんなに超人的な速度で出来るのね…メイドスゲェ。
こうして、俺たちは夜営を瞬く間に張り、明日への英気を養うのだった…



………………………




「うーー! まーー! いーー! ぞーーー!!」


俺は思わず叫んでしまう。
しかし、それ位愛呂恵さんの料理は絶品だった。
あくまでサバイバル式の料理ながら、最低限の味付けでここまで食材の旨味を引き出すとは…!
しかも、肉と野菜に加え、果物で栄養バランスも!
これは本当に、口から光のバズーカが発射されてもおかしくない程の美味さだった。


香飛利
「ホントに美味しい~♪」

愛呂恵
「お代わりもありますので、必要でしたらどうぞ」


「う~む、まさかこんな場所でもここまで美味しく出来るとは…」
「冷凍保存してた肉でもこんなに美味いんだな…」


まさに愛呂恵さんマジック。
やっぱり、本格的に料理出来る人は応用力もスゴいんだろうな…
阿須那も料理は美味いけど、こんなサバイバル状態で料理は上手く作れないだろうしな。
改めて愛呂恵さんのスペックの高さを感じる。



………………………



愛呂恵
「では、行きましょうか? 香飛利さん、バッグをお願いします」

香飛利
「は~い」


次の日、俺たちは早朝食事を取ってから出発した。
香飛利は冷蔵バッグを背負い、トテトテと俺の後を付いて来る。
何だで力はあるのか、それ程つらそうには見えなかった。
あれ、結構重いと思うんだが…



「愛呂恵さん、後どの位で着きそうですか?」

愛呂恵
「敵の出現にも左右されますが、本日の正午には着くと思われます」


となると、大体5時間位か…
昨日は敵も盛り沢山だったし、打ち止めになってると助かるんだがな。


ズルッグ
「ヒャッハー!!」


とか言ってたらモヒカン来たよ!!
一応ポケモン男だけど、モヒカンだよ!!


愛呂恵
「敵発見、速やかに排除いたします」


愛呂恵さんは素早くズルッグたちの群れに突っ込んで行く。
そして、ズルッグたちはあっという間に空へと舞い上がって行った。
まぁ、所詮はモヒカンか。


ズルッグ
「ひでぶぁっ!?」

愛呂恵
「敵沈黙、安全を確認……聖様、行きましょう」


最後のモヒカンを蹴り飛ばし、愛呂恵さんは構えを解いてそう言う。
う~む、改めて見るとパンチラ上等のあのメイド服は凄まじくエロいな。
愛呂恵さんも返り血ひとつ浴びないし、まさに優雅華麗。
しかし、その実態は比類無き殺人拳!って感じだもんな。
基本的に手加減無いのもあってか、死屍累々の道中だ。



「そういえば、愛呂恵さんのその服って、自分で作ったんですか?」

愛呂恵
「はい、やはり…思い出のある服でしたので、記憶に残っている範囲から再現をしてみました」
「…何か、不備がありましたか?」


愛呂恵さんは少しだけ俯いてそう聞く。
俺はそんな愛呂恵さんに微笑み、こう答えた。



「いえ、むしろ…あの城の時と同じみたいで、安心してます」

愛呂恵
「…ありがとうございます」
「私からすれば、もう1度10年の月日をやり直しましたのですが…やはり、あの城での出来事は、私にとってとても充実していた日々でした…」


10年…つまり、今から10年前位に愛呂恵さんは人化を果たしたのか。
白那さんの時に話は聞いたが、夢の世界で死んだ後は人化した直前に戻されたらしい。

その際、体は人化したままで、そのまま新たな人生を過ごす事になったそうだ。
白那さんたちは、その間ひたすらに訓練を積み、後の戦いを見据えていた。

だけど、白那さんが世界を見限らなかった為に、本来巻き込まれるはずの愛呂恵さんは、この世界でひとり成長してしまったんだな…


愛呂恵
「本来ならば、パルキア様に救われるはずだったこの命…」
「ですが、私には既に聖様から頂いた勇気がありました」
「例えパルキア様の助けがなくとも、それまでに蓄積した経験は確かに私を未来へと導いてくれたのです」
「そして、私は…大切な主人の元に、ようやく辿り着きました…」


愛呂恵さんは無表情ながらも、強い口調でそう語ってくれる。
やはり、俺の造ったクソ世界は、無駄では無かったんだ…
あまりに悲しい結果ではあったけど、それでも未来には繋がった。
ここまでに出逢った皆は、全員が自分の意志で成長し、そして結果を出している。

愛呂恵さんもまた、こうやって俺の為に努力して、力を貸してくれるんだ…
それは、とても嬉しい事だった…



「ありがとうございます、愛呂恵さん」
「そして、これからも頼みます…未来の為に」

愛呂恵
「はい…お任せください」
「私は、必ず聖様の為に結果を出してみせます」
「例えこの先に何があろうとも、決して聖様の負担にはなりません」


愛呂恵さんの決意は固かった。
そして、俺はその言葉に勇気を貰う。
だが、同時に少し気掛かりも増えてしまった…
今は置いておくが、それもまた解決しなければならない事なのだと、俺は心の奥に決意しておく…



………………………




「しっかし、敵が多いなぁ…」

香飛利
「何でこんなにも襲って来るの~?」

愛呂恵
「…これも、滅びの予兆なのでしょう」
「この様に、半端な人化を果たす等、見るに耐えません」


あれから何度も俺たちは交戦する。
今までに比べても、相当な数の敵が配置されている様で、愛呂恵さんはひとりでそれらを全て薙ぎ払ってくれた。
そして、愛呂恵さんは表情を変えないものの、微かに怒っている。
アルセウス配下の連中はまさに半端な人化。
ボスはまだ人の姿をしている方だったけど、それでもフツーではなかった。
愛呂恵さん的には、意志無く襲いかかって来る敵を哀れんでいるのかもしれないな。



………………………




「そして、ようやく…」

愛呂恵
「はい、到着です」

香飛利
「天空の塔~」


あれから、更に何度か敵と交戦したものの、ほぼ予定通りの正午過ぎ。
俺たちは目的地である、天空の塔に辿り着いた。
その塔はまさに空高く立ち上っており、塔の先が雲に隠れて見えない。
まるで高さは◯リンの塔だが、この塔は中に入って上って行くタイプの塔。
果たして、ここに守連はいるのか?
俺はスマホに耳を当てて恵里香に確認を取った。



「どうだ恵里香?」

恵里香
『ダメだね…その塔にいるとしても、間違いなく射程外の距離だ』


そりゃそうだろうな…雲を突き抜けてるって事は最低でも2km以上はあるだろう。
こりゃ、相当歩かされそうだな。


愛呂恵
「少し休憩を挟みますか?」


「愛呂恵さんの疲労は?」

愛呂恵
「問題ありません、が…万全をとなれば」


それなら休憩だ。
流石に直接戦闘を頼まなきゃならない愛呂恵さんには、万全の状態でいてもらわないと。
守連の事が気がかりだが、アイツに限って無茶は絶対しないだろうし。
今は信じて休もう。
俺たちは塔の近くで昼食を取り、小休止してから改めて塔に乗り込んだ。



………………………




「ぐあ…だだっ広」

香飛利
「天井高い~」


中は事実上がらんどう。
だが、1階層ごとの広さが半端無かった。
塔の幅は半径50m位なのだが、高さはよく解らないレベルの高さ。
少なくとも、愛呂恵さんが全力ジャンプして届くのか?と言える位の高さだ。
ここなら香飛利でも自由に飛び回れるだろう。
そして、塔を上る階段は螺旋状に壁を伝って伸びている。
とりあえず、ここは何も無いし上るしかないな。



………………………




「はぁ…長ぇ!」

香飛利
「飛んだ方が速い~」

愛呂恵
「聖様、注意を」


次の階層に届こうかという所で、先頭の愛呂恵さんがそう言う。
明らかに警戒した感じで、愛呂恵さんはそのままゆっくりと歩を進めた。



「…敵ですか?」

愛呂恵
「恐らくは…」


確信は無いって事なのか?
俺は念の為、恵里香に連絡を取った。


恵里香
『…敵と言えば敵なんだけど』


「ん? 何かあるのか?」

恵里香
『いや、これは直接会った方が早いかも』


何だか恵里香まで曖昧な感じだな。
とりあえず、敵は敵なのか…
俺たちはとりあえず階段を上りきり、次の階層に到着した。
そこは下とほとんど同じ構造で、上る為の階段は向かい側の壁際にある。
だが、明らかに下と違う点がひとつ。



「カーッカッカッカ!!」


「な、何だコイツ~?」


俺たちが見た者は、黒尽くめのタイツ女だった。
頭はストッキングでも被ったかの様になっており、目の部分には黄色のボタン、口元にチャックが付いてる。
って事は…コイツ。


愛呂恵
「ジュペッタと推測します」

香飛利
「う~何か不気味で怖い…」

ジュペッタ
「天空の塔へようこそ!」


「ゲッ!? コイツも喋った!」


ジュペッタは口を閉じたまま、腹話術の様に器用に喋る。
どうやら意志を持ったポケモン娘の様で、表情は全く解らないが、笑っている様だった。


ジュペッタ
「この塔を上りたければ私と戦う事デーッス!」
「最上階にはミス・Rがピカチュウを捕らえて待ってマーッス!!」


「守連がミス・Rに!?」
「っていうか、◯イレム版の◯パルタンXかよ!!」

ジュペッタ
「カーッカッカッカ!!」


「バカ野郎! そこは、ワッハッハッハッハハハ!だろが!?」


全く中途半端にネタに走りおって!
っていうか、恵里香があんな言い方したのも納得だ。
コイツは確かに敵なんだが、見た目とは裏腹に何故か悪意を感じない。
わざわざ守連の事を教えてくれたりと、むしろ敵に見えなくもある。
だが、ルールが提示された以上、それには従わなければならないだろう。


愛呂恵
「聖様、退がってください」
「眼前の敵は、全て私が排除します」


そう言って愛呂恵さんはいつもの様に構える。
それを見てか見えてないのか、ジュペッタも変態挙動で何やら構えた様に見えた。

そして、暫しの沈黙…
やがて、愛呂恵さんが意を決してジュペッタに近付いた。
相手はゴーストタイプ、搦め手だらけのタイプだし、状態異常には気を付けないと。


愛呂恵
「!!」


ドガアッ!と床が抉れる音。
愛呂恵さんは低空ジャンプして右脚を縦に『ぶん回す』が、ジュペッタには直前で回避された。
良い反応だな! 愛呂恵さんのスピードに対してしっかり対応するなんて…


ジュペッタ
「ものスッゴい威力デーッス!」
「デスがっ! こっちも反撃デーッス!!」


ジュペッタは両手を合わせて拳を握る。
そしてそれを頭上に上げて振り下ろす体勢に入った。
ジュペッタは力がある種族だ、マトモに食らうとヤバイ!


ボォンッ!!


ジュペッタ
「グペーーー!?」

愛呂恵
「…隙だらけですね」


愛呂恵さんは右手を目の前にかざし、ジュペッタの反撃を軽く『シャドーボール』で迎撃した。
反応は良くてもスピードが無いからな~
まぁ、ここは愛呂恵さんを褒めるべきだな。


ジュペッタ
「カ、カーッカッカッカ!! まだ終わらんよ!!」

愛呂恵
「投降する事を推奨します…貴女では私に勝てません」


愛呂恵さんは無感情にそう言う。
今の動きで見切ったという感じだな。
愛呂恵さんは根拠も無しに断言する人じゃない。
あのジュペッタはそこまで強くなさそうだ。
っていうか、1面ボスで苦戦しても困るのだが…


ジュペッタ
「何の! 私は1面ボスの責務を果たしてみせる!!」

愛呂恵
「では、追撃を…」


ドガアッ!と、愛呂恵さんの顎が突然カチ上げられた。
一瞬の速度でジュペッタは唐突に踏み込み、愛呂恵さんの顎を『不意打ち』で真上に蹴り上げたのだ。
流石に今のは効いた!?
愛呂恵さんは体勢を崩されたまま、ジュペッタは更に拳を握る。
マズイ! このまま追撃されたら…


ゴシャァ!!


ジュペッタ
「ペッ……!?」

愛呂恵
「………」


ジュペッタは追撃前に愛呂恵さんの反撃を受ける。
愛呂恵さんは仰け反った反動を利用し、頭ごと思いっきり両耳をジュペッタの上から『ぶん回し』、ジュペッタを床にめり込ませたのだ。
ジュペッタはそのままピクピクし、起き上がる事は無い。
愛呂恵さんはゆっくり頭を持ち上げ、口元の血をハンカチで拭った。


香飛利
「勝ち~」


「強くなったのぅ」

愛呂恵
「…不覚にも一撃貰いました」


愛呂恵さんは無感情にそう言うが、ちょっぴり悔しそうだった。
ノーダメ攻略する気だったんかい…
俺たちはとりあえず最初の門番を倒し、上の階層を目指す。
っていうか、今度はもっと長え!!
次の階層は数百mは上に見えた…



………………………




「くっそ~こんな長い塔作りやがって…空気も段々薄くなってきてるな」

愛呂恵
「聖様、小まめに深呼吸を」
「現在の高度はまもなく1000mとなります、酸素を多く取り込める様、徐々に慣らしておくのが良いでしょう」
「香飛利さん、バッグから水を出してもらえますか?」


俺は愛呂恵さんに言われ、大きく深呼吸する。
まだ、そこまでつらいとは思わないが、このまま雲の上となると富士山に匹敵する高さだ。
高山病には気を付けないとな…


香飛利
「聖さん、はい」


「ありがとう香飛利、んぐっ…」


俺は水筒を受け取り、水を飲んだ。
これだけでも大分楽になるなやっぱ…
俺は適量飲んだ所で香飛利に水筒を返す。


愛呂恵
「…次の階層はもうすぐです」
「聖様はなるべく体を休めておいてください」


「はい、分かりました」


俺は頷き、少し休憩してから更に階段を上る。
そして、いよいよ第3階層に到着した。



………………………




「よくぞここまで来た!」


「うおっ、今度も派手な奴だな…」


見た目は太った女性で、派手な模様の服を着ている。
基本は黒色だが、所々白い輪っかや黄色い点があったりし、何か儀式的な感じもする。
目は充血した様に真っ赤で、左目だけが閉じていた。
ここまで、特徴的だと今度は解りやすいな。



「私はネンドール! この階層の主である!」


「で、例によって倒して進めと…」

ネンドール
「そのとーーーり!」

愛呂恵
「では、すぐに始めましょう…時間が惜しいので」


愛呂恵さんは足早に前へと歩き、構えを取る。
それを見てネンドールは両手を横水平に掲げ、その場で回転を始めた。
さて、今度は地面、エスパータイプ…どんなトンデモが来るのか?


ネンドール
「この塔では小細工など無用!」
「真っ向勝負の力比べこそがミスRの望む戦い!!」


そう言ってネンドールは回転を速め、浮遊して突っ込んで来た。
そこまでの速度じゃないが、回転は速い。
まともに衝突したらいくら愛呂恵さんでも…


ドバキィィィッ!!


ネンドール
「ぶべっ!?」

愛呂恵
「………」


愛呂恵さんは回転して突っ込んで来たネンドールの顔面に右回し蹴りをぶん回す。
効果抜群の技にネンドールは顔を歪ませ、そのまま壁までぶっ飛んで叩き付けられた。
そのまま起きる気配無し!ってか速ぇっ!?

愛呂恵さんは涼しげな無表情で服の乱れを整え、階段の方に歩いて行った。
俺たちは特に休む事も出来ず、愛呂恵さんの後を追う。



「意外に呆気なかったな…」

愛呂恵
「正直、あんな物でしょう」
「このままラスボスまですんなり行きます」

香飛利
「愛呂恵さん、強い~」


愛呂恵さんは既に敵の強さを見切ったかの様な言い方で簡単に言い放つ。
実際、大した事無いのかもしれない…今までの世界でも、ボス以外は苦戦とか無かったもんな。
むしろ一対一だからやり易い位か…その代わりこっちも愛呂恵さんひとり頼みだけど。
さて、次もまた長い階段だ…



………………………



愛呂恵
「高度1500m到達、聖様大丈夫ですか?」


「はい、何とかまだ」

香飛利
「水も飲んでね~?」


俺は香飛利から水筒を受け取り、水分補給する。
流石に呼吸が若干苦しくなってくるな。
小まめに深呼吸をして酸素を取り込まないと…



「ここまで来たかっ! 久し振りの挑戦者だな!!」


今度は背中に赤い◯ビルウイングを生やした青髪短髪の女。
前ふたりに比べれば色モノでもなく、割とフツーの美少女系だった。
服はレースクイーン系のハイレグで、
色は白。
体は筋肉質で、いかにも力が強そうだ。
つか、コイツも解りやすいポケモンだな…



「次はドラゴン系か、いかにも強そうに見えるが…」

愛呂恵
「私の相手には少々力不足かと」


「言ってくれる! 相当自信があるみたいだな!?」
「このボーマンダのアタシに力比べで勝てるかな!?」


そう言って、ボーマンダは地面に伏せ、右肘を床に付けてこちらを見る。
ってまさか…


愛呂恵
「成る程、理解しました」


愛呂恵さんも同じ様に地面に伏せ、ボーマンダの右手に自分の右手を合わせる。
やだ、これただの腕相撲ですやん…
っていうか、愛呂恵さん大丈夫か!?
相手は仮にもボーマンダ…どっからどう見ても力自慢のポケモンですぜ!?


ボーマンダ
「おい、どっちかコール頼む!」

香飛利
「じゃあ、れでぃ~~~~~~~ごっ!」


ズバァァァンッ!!


まさに一閃…ごっ!の声と共に、ボーマンダの体ごと腕を床に叩き伏せた愛呂恵さん。
つ、強ぇ~! まるで相手になりませんがな…?


ボーマンダ
「だだだっ!! 何つースピードだよ…!?」

愛呂恵
「単に力が強いだけでは、アームレスリングには勝てませんよ?」
「むしろアームレスリングに重要なのは瞬発力とスピード」
「私はさして力は入れていません…タイミングを合わせ、最速のスピードで、力を入れられる前の腕を倒しただけです」


そう言って勝因解説をする愛呂恵さん。
成る程、スピードや反応が拮抗しない限り、力勝負にはならないって事か…参考になるな。


ボーマンダ
「ちぇ~まぁ良いや、ここは通って良いぞ~」

愛呂恵
「ありがとうございます…では聖様、行きましょう」


愛呂恵さんはペコリとボーマンダにお辞儀して歩き始める。
俺と香飛利はそれを追った。
ボーマンダは軽く手を振って見送ってくれたが、ここで俺は妙な違和感を覚える。



「この塔の奴らって…もしかしてアルセウス配下じゃ無いのか?」

愛呂恵
「そうですね…少なくとも外の敵たちとは明らかに違うとは思います」
「ですが、今の所は敵です」
「少なくとも守連さんを捕らえている以上、私たちは戦わなければなりません」


俺はそれを聞いて頷く。
確かに、守連が本当にここにいるなら助けなければならない。
相手の正体が今一把握出来ないが、守連を取り返すまでは敵なのは確か、か…



「…恵里香、どう思う?」

恵里香
『とりあえず、守連の反応は確認出来た』
『後1km以内にいるのは間違いないね』


成る程、って事は間違いなくこの塔の主とやらがいる場所だろう。
それは恐らく最上階。
2500m以上もの高さに、守連はいる。
俺は、少し頭痛を感じながらも、深呼吸をして酸素を多く取り込んだ。



………………………



愛呂恵
「高度2000m到達」


「アイツが次の相手か…これまた解りやすいポケモンだな」


第五階層を守る敵は、まるでサイボーグの様な姿だった。
青い装甲で全身を纏っており、両手両足には鉤爪が付いている。
あからさまに鋼タイプだが、コイツはエスパータイプでもあった。



「ワタシはメタグロス」
「ミスRのマエにアイテをスル、サイゴのヒトリ」


メタグロスと名乗った女は、まさに機械的な喋り方。
愛呂恵さんも無感情さは似ているが、まだ愛呂恵さんの方が人間味はある。
コイツはホントにロボ娘だな…感情所か痛みとかもあるのだろうか?
仮にもポケモン娘だろうし、流石に感覚はあるだろうが、ここまでロボットしてると気にもなるな。


愛呂恵
「…では、行きます」


「はい、気を付けて」

香飛利
「がんば~」


愛呂恵さんは駆け足でメタグロスに向かった。
初めから仕掛ける気満々…メタグロスはまだ構えてもいない。
愛呂恵さんは例によって体を鋭く捻り、蹴りをぶん回す体勢に入った。


ガキィッ!!


愛呂恵
「!?」

メタグロス
「…イリョクシスウケイサン、キョヨウナイ」


まさか片手で止められるとは…!
仮にも効果抜群の技だぞ!?
愛呂恵さんはメタグロスに足を掴まれ、宙ブラリになってしまう。
だが、すぐに両耳を床に立て、それをバネの様にしならせて体を上に跳ね上げた。
メタグロスは足を掴んだままで、愛呂恵さんと一緒に宙に浮く。
そして、愛呂恵さんはアクロバティックに空中で体を捻り、耳と腕でメタグロスの関節を極めた。

ゴキィッ!と金属がネジ曲がる音がする。
メタグロスの右肘はあらぬ方向に折られ、愛呂恵さんは足を解放出来た。
そして、着地と同時に右拳を顔面に放つ。


メタグロス
「!!」


ガシィ!と今度は左手で止められる。
だが、愛呂恵さんはそれと同時に左耳で炎を纏ったパンチをメタグロスの顔面にぶち込んだ。
メタグロスの体は後ろにグラつくものの、倒れはしない。
だが、顔は明らかに火傷しており、態勢はフラフラとしていた。


メタグロス
「ソンショウ…ジンダイ」
「セントウゾッコウは、カノウ」
「ハンゲキを…」


ドガシャァ!!


今度こそ愛呂恵さんは思いっきり蹴りをぶん回した。
今までで最高の威力かもしれない。
メタグロスは効果抜群の悪技で後に吹き飛ぶ。
そして起き上がらないのを確認し、愛呂恵さんは服の乱れを整える。

さ、流石に焦ったけど圧倒的だったな。
パワー勝負で上回られたから、すぐにテクニック技に切り替えるなんて…改めて愛呂恵さんはスゲェ。
何よりも、愛呂恵さんは両手両足両耳と、それぞれが独立して攻撃を生むのが特徴だ。
あの攻撃方法は独特すぎて、とても人が反応出来るモンじゃない…

例えるなら三面六臂の阿修羅だろうか?
手が2本しかない人間じゃ手数が違いすぎる。
華澄の奴、よく愛呂恵さんに勝てたな…
愛呂恵さんの性格だから容赦の無さも予想出来るし…


愛呂恵
「さぁ、行きましょう…次こそは守連さんと会えるはずです」


「はいっ!」

香飛利
「次で、らすと~」


俺たちは、最上階へと続く長い螺旋階段をゆっくり上って行く。
気圧は更に下がり、俺は何度も深呼吸をしてゆっくり上って行った。
体を少しでも鍛えておいて良かったな…仮初めの体とはいえ、走り込んだりした努力は無駄になってないし。
守連、無事なんだろうな?
今すぐ、助けに行くからな…!



………………………




「というわけで勝負だ!! 改めてアンタに、ポケモンファイトを申し込む!!」


「ほう、随分面白い事を言う小僧じゃの♪」
「愛(うい)奴よ、妾(わらわ)を存分に楽しませよ…」


そう言って、謎の緑髪少女が笑って手招きする。
今いる場所は、塔の最上階の屋上。
外周は高い壁で覆われ、これなら外に叩き出される心配は少ない。
少女の後ろには長い石で出来た太い柱があり、その頂点近くに縄で縛られて捕らえられている守連の姿が見える。
守連の体には傷ひとつ無いが、ただ気絶している様でピクリとも動かなかった…

俺はややキツ目の顔で少女を睨む。
少女は緑の髪で、それは地面スレスレまで着きそうな長さのロングヘアー。
目は細い釣り目で、金色の瞳が小さな体に威圧感を生んでいる。
服は黒のビキニでトコトン薄着。
身長は130cm程で、見た目は完全に幼女のそれだった。
だが、尻から生えている長大な緑の尻尾は、妖しく空中で揺らめき、まるで重さを感じさせない挙動。
それには黄色のラインが入っており、少女の象徴の如く目立っていた。
そして、緑色の長い2本の角と合わせ、俺は少女の正体を確信する。



「ここに来て、レックウザかよ…大物だな!」

レックウザ
「ほう? この姿を見ただけでレックウザと見抜くか…」

愛呂恵
「むしろ解りやすいかと思われます」
「貴女の尻尾や角は、まさにレックウザの特徴でもありますので」


レックウザはそれを聞いてふむ…と考えた。
そして、数秒考えた所で大笑いする。


レックウザ
「カッカッカッカッ!! まぁ、どうでも良いわ!!」
「さぁ、妾と闘え! 妾を楽しませよ! 妾を満たせ!!」
「さもなければ、あのピカチュウの命は無い!!」


「待てよ! 何でお前は守連を狙う!?」
「いや、何故先に殺さない!? お前はアルセウスの幹部じゃないのか!?」


俺がそう捲し立てると、レックウザははぁ…とため息を吐く。
そしてやや怖い顔で目を細め、こう言い放った。


レックウザ
「少し黙れ…『小僧!!』」


ドンッ!とその瞬間、俺は何かの衝撃で吹き飛ばされる。
一瞬、レックウザの声がエコーがかった様に感じた…!
音波系の…技かっ。


愛呂恵
「敵性意志の確認…これより迎撃に入ります!」

レックウザ
「ほう、出来るなお主…?」
「ここまでやって来たのはお主の力か?」


愛呂恵さんはすぐに攻撃体勢に入り、ダンッ!と思いっきり踏み込んでレックウザへと高速接近する。
レックウザは特に構える事無く、両腕を胸の前で組み、その場で攻撃を待っていた。
そして愛呂恵さんは、まず射程に入ったと同時、右足で横蹴りを放つ。


ガシィッ!


レックウザ
「…っ! やるのぉ…! 初手から妾に両手を使わせるとは!!」


レックウザは直前まで余裕を見せていたが、愛呂恵さんの全力の蹴りを見てすぐに対応をする。
両手でしっかりとガードし、愛呂恵さんの蹴りは見事に止められたのだ。
やはり、レックウザはパワーがスゴい!
愛呂恵さんの技でも、正面衝突じゃキツいのか!?


愛呂恵
「…相手の力量を再予測、対応を変えます」
「中~遠距離では不利と結論、近接戦闘特化に切り替えます」

レックウザ
「面白くなって来た! 久し振りに妾の血が滾る!!」


愛呂恵さんは至近距離に踏み込む。
中距離の蹴り主体から、手や耳も使うインファイトスタイルに切り替えたのだ。
レックウザも呼応する様に踏み込んで来る。
彼女の短い手足のリーチでは、愛呂恵さんとは打ち合えないと思うが、それでもレックウザは自信満々で、楽しそうに笑っていた。



(何だ…? レックウザからはやはり悪意みたいな物は感じない)
(純粋に愛呂恵さんとの格闘を楽しんでいるみたいだ…)


愛呂恵さんは自分の持つ全ての格闘技術を持って、レックウザを攻め立てる。
レックウザは射程外から繰り出される手、足、耳の攻撃を的確にパーリングなどで捌き、懐に入った。

そしてレックウザの目が光り、愛呂恵さんは一瞬体を浮かされ、その場で止まる。
懐に入ったレックウザは、そこから渾身の右ブローを愛呂恵さんのボディに叩き込んだのだ。

かなりの衝撃に、愛呂恵さんの背中は一瞬盛り上がった様に見え、その威力の高さを物語る。
だけど、愛呂恵さんにとってその一撃は、初めから想定範囲の一撃だった。


愛呂恵
「!!」

レックウザ
「…なっ!?」


メキャァッ!!と、今度はレックウザの首が横に吹き飛ぶ。
愛呂恵さんはワザとレックウザの右ボディを食らい、ガラ空きの横っ面に『冷凍パンチ』を斜め上から打ち下ろしたのだ。
流石に効果抜群の技! レックウザは頬を凍らせ、膝を揺らす。
だが、それでも意地で耐えていた。
揺れる自分の膝を自らの拳で打抜き、渇を入れる。

そして、細い釣り目で愛呂恵さんを睨み、不適に笑って見せた。
口の端から血が滴り、レックウザはそれを拭う事無く、こう言葉を放つ。


レックウザ
「肉を切らせて骨を断つか…! お主の胆力、認めるぞ!!」
「だが、骨を立たれたのはむしろお主の方かな?」

愛呂恵
「…ぷっ!」


愛呂恵さんは口に溜まった血を地面に吐き出す。
そして、右手の親指で口元を拭い、依然無表情なままでレックウザの射程にゆっくり歩いて行った。


レックウザ
「あの一撃をまともに受けて平然と歩いて来るか…恐ろしい女子(おなご)じゃな」
「ここまで、ひとりで勝ち抜いて来ただけの事はある!!」
「これ程の相手は久しい…妾もそろそろ本気になれそうじゃな!!」


何だと…? アレでまだ本気じゃないのか?
レックウザの底知れぬ力に、俺は軽く恐怖した。
たった数分の攻防とはいえ、実力の高さは感じられたのに…
俺は愛呂恵さんを信じてはいるが、それでも本当に勝てるのか?

腐っても相手は禁伝のレックウザ…愛呂恵さんは強くてもただのミミロップ。
そこに優劣はホントに無いのか? 実は大きな溝があるんじゃないのか?
俺は不安で一杯だった。

だけど、そんな俺の心境を理解してくれたのか、愛呂恵さんは背中越しに優しくこう言う。


愛呂恵
「心配はいりません聖様」
「聖様が信じてくださる限り、この愛呂恵は無敵です!」

レックウザ
「…! 凄まじい闘気よ!! お主もまだ本気ではなかったか!?」


ここに来て、愛呂恵さんは更に気迫を増す。
無表情なままで、愛呂恵さんは闘志を燃やしていたのだ。
背中越しに絶大な信頼を感じる。
俺はこれに答えなければならない!
信じよう…俺に出来るのはそれだけだ!
俺は声を振り絞って叫ぶ。



「信じてる! だから勝ってくれ、愛呂恵さぁぁぁぁんっ!!」

香飛利
「がんばれ~!」


愛呂恵さんは俺の声を受けて今1度踏み込む。
レックウザの射程でもあるが、愛呂恵さんはあえて至近距離で戦う事を選んだ。
そして、レックウザの腹に右の冷凍パンチを素早く打ち込む。


レックウザ
「ぐぅっ!?」

愛呂恵
「!?」


瞬間、レックウザの右爪が愛呂恵さんの左頬を切り裂いた。
鮮血が迸り、愛呂恵さんは頬を赤く染め、一旦距離を取る。


愛呂恵
「………」


そして頬の血を左手で救い取り、それを舌で舐める。
その後、愛呂恵さんは構えを取り直してこう言った。


愛呂恵
「…ここまでで貴女の攻撃は見切りました、投降する事を推奨します」

レックウザ
「!? 面白い事を言う!!」


愛呂恵さんの警告に反応したレックウザは、一瞬で距離を潰した。
数mはある距離を一瞬で潰すとは…『神速』か!
だが、愛呂恵さんは狼狽える事無く、レックウザの攻撃を待っている。
レックウザは踏み込んで再度右ボディを放とうとするが…


レックウザ
「なっ!?」


愛呂恵さんはレックウザの右腕を両手でしっかりと止めて防いでいた。
そして、ガラ空きの顔面に愛呂恵さんは首を思いっきり縦に振り回し、両耳でレックウザの脳天をカチ割る。

メキィィッ!と骨が軋む音がここまで響いた。
間違いなくフツーの人間なら致命傷だ。
だが、レックウザはまだ倒れない。
それ所か、ダメージを食らいながらも、まだ笑っていた。


レックウザ
「本当に最高だお主は!! よもやここまで妾を追い詰めるとは…!」
「もう、そろそろ良いだろう…妾の真の姿を見せてやる!!」
「そして、慄け(おののけ)!! この力の前に!!」
「これぞ、強者が祈り…! 妾が最大戦力!!」
「メガ…進化ぁぁぁぁぁっ!!」


レックウザは全身を震わせ光輝く。
まるで宇宙をイメージするかの如く、暗くも美しい輝きを放ち、レックウザは姿をガラリと変えてしまった…



「な…バ、バカな…!?」


レックウザは、妙齢な女性に一気に変貌した。
胸も含めたスタイルが、一気に大人のそれに変わり、身長も愛呂恵さんを上回る。
そして、耳から伸びる金色の触手と、角から伸びる同様の物は異様な神秘さを併せ持っていた。

尻尾の模様も変わり、体の周囲から明らかに異質な空気を生み出す…これが特性の『デルタストリーム』!?
上空では雲が乱気流によって激しく蠢き、それは塔の最上階付近にまで影響を及ぼしている。

ヤバイぞ…? この状態では飛行タイプの弱点が無くなる!!


レックウザ
「これが、妾の真の姿じゃ…どうじゃ、色気が増したろう?」


そう言って、レックウザは俺に向かって悩ましいポーズを取る。
服は露出度の高いビキニのままだから、確かにエロい!!
声も比例して低くなり、大人の魅力をプンプン出していた…
だが、そこは天下無双の愛呂恵さん!
俺は、まだまだエロさなら愛呂恵さんの方が優れていると断言する!!


愛呂恵
「………」

レックウザ
「ククッ…恐ろしくて声も出ぬか?」


愛呂恵さんはレックウザの姿を見て、構えを解いていた。
だけど、その顔は決して絶望してはいない。
むしろ何かを期待している様な…
そして、愛呂恵さんは静かに俺にこう聞いた。


愛呂恵
「…聖様、メガストーン発動の許可を」


「…えっ!?」

レックウザ
「な、何っ!?」


俺どころか、レックウザまで驚いていた。
そういえば、以前城で出来るとは聞いていたけど…



「この世界でも持ってるんですか!? メガストーン!?」

愛呂恵
「…こんな時の為に、10年の歳月をかけて世界中を探しました」
「そして、見付けたのです…後は、聖様の許可だけ!」


俺は、信じる事しか出来ない。
そして、愛呂恵さんは待っている…俺との、絆の証を!
俺は、コレに答えなきゃ漢じゃない!!



「メガストーン! 発動!! しょぉぉぉぉにんっ!!」

愛呂恵
「了解、メガストーン発動! これより、進化いたします!」


愛呂恵さんがそう言うと、全身を光のオーラが纏う。
そして、胸の谷間からメガストーンが浮き上がり、ミミロップナイトの模様が浮かび上がった。
そして、愛呂恵さんも即座に姿を変える!!


愛呂恵
「…進化完了、これで対等のままですね?」

レックウザ
「…ふ、ふふふ……アッハッハッハ!!」
「愉快愉快愉快っ!! まさか、これ程の器だとは!!」
「良いぞ! もう妾は何も言わん!!」
「最後まで、存分にやり合おうぞ!?」


レックウザは大笑いして構える。
そして、愛呂恵さんもまた構える。
まだ、ふたりの闘いは終わらない。


愛呂恵
「…行きます!」

レックウザ
「来い!!」


愛呂恵さんは更に速くなった速度で踏み込んだ。
それはパワーアップしたレックウザの速度を更に上回っている。
しかし、愛呂恵さんは進化すると飛行に弱点が…!


愛呂恵
「!!」

レックウザ
「ああぁっ!!」


愛呂恵さんの蹴りとレックウザの拳が激突する。
だが、そうなると流石にレックウザの力がスゴイ!
愛呂恵さんは右足を拳で押し戻され、レックウザに押し込まれていく。
だが、愛呂恵さんはすぐに足を引き戻し、今度は左耳でレックウザの頭部を狙った。
レックウザは直ぐ様それに反応し、体を下に捻って耳をかわす。
レックウザはそれで体勢を崩し、愛呂恵さんはそれを見逃さない。
愛呂恵さんは耳を振り抜いた後一瞬屈み、レックウザの顔面めがけて右の飛び膝蹴りを放つ。
レックウザは辛うじて両腕をクロスしてガードするも、あまりの威力にガード越しで顎を跳ね上げられた。


レックウザ
「ぐぅっ!?」

愛呂恵
「!!」


愛呂恵さんは怯んだレックウザを追撃する体勢に入る。
上体を浮かされたレックウザに対し、愛呂恵さんは体を回転させ、左耳でレックウザの首を狙った。
ガシッ!と、愛呂恵さんはレックウザの首を耳で掴み、拳を固く握る。
これは決まる…! そう俺が思った矢先、レックウザは空中で停止し、ほくそ笑んでいた。


レックウザ
「馬鹿め! 妾が飛行タイプという事を忘れたか!?」


レックウザは愛呂恵さんの拳を受ける前に高速で体を真横に捻る。
すると愛呂恵さんはレックウザに振り回され、回転して地面に叩き付けられた。
そして、レックウザは追撃で尻尾を横薙ぎに思いっきり振るって来る。


ドガァッ!


愛呂恵
「かはっ…!」


愛呂恵さんはレックウザの『ドラゴンテール』を顔面に受けて壁まで吹っ飛んだ。
そして壁に叩きつけられ、愛呂恵さんは壁を背にぐったりとし、レックウザは笑いながら飛んで追撃する。


レックウザ
「ハハハッ!! これで終わりかっ!?」
「まだ、妾は満足していな……!?」


ゲシィッ!と、右足の前蹴りでカウンターキックを顔面に決める愛呂恵さん。
レックウザは無意識に繰り出されたその蹴りに反応すら出来ず、後に仰け反った。
そして、愛呂恵さんは表情すら変えずに反撃に移る。


愛呂恵
「!!」

レックウザ
「がっ!?」


まず、愛呂恵さんの右耳がレックウザの横顔を捉える。
そして流れる様に左の回し蹴りがレックウザの腹に。
その間!愛呂恵さんは反撃を許さない。
直ぐ様、右の拳で顔面を打抜き、息をする間もなく左耳を打ち下ろす。
続いて右足でローキックを放ち、膝が曲がった所を左拳で腹を狙う。
遂にレックウザの体がくの字に曲がり、右のショートアッパーを顎に放った。
レックウザの顎は上に跳ね上がり、愛呂恵さんは左足でそれを垂直に蹴り上げる。
無防備に蹴り上げられたレックウザの体に対し、愛呂恵さんは渾身の力で右拳を硬く握った。
そして、迷わず愛呂恵さんは空中に浮いたレックウザのボディに向け、『スカイアッパー』を放って上空に打ち上げたのだ…


ドッシャァッ!!


レックウザは無造作に受け身も取らず、背中から床に落ちる。
ダウンは明白だ…これは流石に立てない!
俺は愛呂恵さんの勝利を確信し、倒れたレックウザを遠目に見ていた。
レックウザの体はやがて光を放ち、メガ進化を解いていく…
再び幼女の姿に戻ったレックウザは、天を仰いでいた。
息を荒くし、虚ろな目で空を見る。
そして、その顔は非常に満足そうだった。


レックウザ
「カッ…カカカッ!」
「ま、さかっ……ここまで、強いとは…のっ!!」

愛呂恵
「…まだ、続けますか?」

レックウザ
「…ククッ、本音はトコトンまでやりたいが…そうもいかんな」
「ほれ、本命がやって来おったぞ…?」


レックウザが寝ながら満足そうに言うと、高空から何者かが降りて来る。
それは、銀に近い白色の体色をした大きな翼のポケモン女。
長い銀色のポニテを揺らめかせ、ゆっくりとこちらに羽ばたいて来ている。
何だあの翼…? それに、目元の黒い模様。
服はハイレグで尻尾もある…スタイルは抜群だな。
俺はすぐに何か判別出来なかったが、俺の隣にいた香飛利が怯えた様にこう呟いた。


香飛利
「…ルギア?」


「!?」


俺はそれを聞いて納得する。
成る程、ここに来て本当のボスが現れたってわけかよ!?
やっぱり、あのレックウザはボスじゃ無かったんだ!!


ルギア
「カアァァァァァッ!!」


ルギアは高空で高らかに吼える。
そして口にエネルギーを溜め、それを一気に塔の屋上へと射出した。
一瞬拡散エネルギーの様に分散し、すぐにそれらは1本のレーザーへと収束する。
そして、それは真っ直ぐ俺の方に向かって来ていた。


香飛利
「聖さ~ん!!」


「!?」


俺は香飛利に抱き締められ、その場から押し倒される。
そして俺の左頬をレーザーが掠め、俺は頬を抉り取られた痛みに絶叫した。
レーザーは容易に塔の床を貫通し、風が巻き起こる。
今のは、レーザーじゃなくて『エアロブラスト』かっ!
危なかった…香飛利が助けてくれなかったら、死んでいたぜ。


愛呂恵
「聖様!?」

レックウザ
「待て愛呂恵とやら…お主は妾とアレの相手をせい」


レックウザは何かを愛呂恵さんに呟き、ヨロヨロと立ち上がる。
そして、石の柱の前に立ち、それに右手を当て…

ガゴッ! ガガガガガガッ!!と、柱は一瞬でバラバラになり、守連が上から落ちて来た。
レックウザはそんな守連を優しく抱き止め、それをこちらに投げる。
俺はそれを何とか受け止めるも、足を滑らせて後に滑ってしまった。
そして背中の痛みに耐えつつも、俺は守連が生きている事に安堵する。
そんな俺を見てレックウザは叫ぶ。


レックウザ
「さっさと逃げよ小僧!!」
「あやつは、責任を持って妾たちが打ち倒す!!」


「なっ!? どういう事だよ!?」


俺が理解出来ずにいると、レックウザはケラケラ笑い出した。
フラフラのくせに余裕だなオイ。
そして、捕捉する様に愛呂恵さんが言葉を放つ。


愛呂恵
「聖様、ここは危険です」
「これ程の高空、かつ塔を容易く破壊出来るであろう相手と戦えば、落下の危険が非常に高いでしょう」
「ですので香飛利さん、聖様をどうかお願いします」

香飛利
「は、はい~! ほら、聖さん~!!」


「ま、待て香飛利! 愛呂恵さん、レックウザ!!」


俺は香飛利に抱き付かれるも、愛呂恵さんたちに声をかける。
ふたりの顔は決して絶望してはいなかった。
むしろ、余裕すら感じる。
俺はそんなふたりを、信じる事にした。



「頼みます愛呂恵さん! アイツはきっとこの世界のボスだ!!」
「倒せばこの世界の滅びは回避出来る!!」

愛呂恵
「了解しました、この愛呂恵にお任せを!」

レックウザ
「まぁ、妾のせいであやつを呼んだ様な物じゃからな…」
「責任位果たしてやる…早う逃げよ」


レックウザも笑っていた。
瀕死に近い癖に、まるでこの戦いを楽しむかの様に。
俺は信じて頷く。
そして、香飛利は俺と守連のふたりを抱えて一気に空を飛び、塔の外壁を越えて地上へと向かった。


香飛利
「聖さん逃げるよ!? 脱兎の如く!!」


「お前は…鳥ポケモン……だ!」


と、最後までネタを仕込んでおく。
こういう時こそ重要なスパイスだ!
後は、信じて待とう…



………………………



ルギア
「!!」

レックウザ
「やれやれ…妾を恐れ、今まで出て来れなかった臆病者が」
「妾が弱った所を狙って来るなど、小者にも程があるぞ?」
「さて、行くぞ愛呂恵! 妾が空に運んでやる!!」

愛呂恵
「了解しました、攻撃はお任せを!」


私はレックウザさんに背中から抱き締められる。
腰に手を回され、私はルギアのいる上空へと舞い上がった。
とはいえ、レックウザさんはダメージが大きい。
回避もそこまでは期待出来ないでしょう。
であれば、やれる事は自ずとひとつ。


ルギア
「!!」


ルギアの瞳が怪しく光、空間が捻れる。
『サイコキネシス』ですが、私たちはそれを食らう事無く、レックウザさんが急速上昇して回避してくれました。


レックウザ
「舐めるなよ小娘!? 妾の『竜の舞』…とくと見よ!!」


レックウザさんは一気に速度を上げ、ルギアの下から突っ込んで行く。
そして私は瞬時に軌道計算し、体を振って攻撃体勢に入った。
相手はエスパータイプ、格闘タイプの技はほぼ通用しません。
なので、私はあえてシンプルな技で対応します。


レックウザ
「やれぇ愛呂恵ーーー!!」

愛呂恵
「!!」


メキメキメキィ!!とルギアの顔が歪む。
レックウザさんはすれ違う様にルギアの横を通り過ぎ、そこへ私は全力で蹴りを放った。
レックウザさんの加速スピードと合わさり、ルギアは一撃で大きく後方に吹き飛ぶ。
そして、そのまま気絶したのか、力無く地上へと落ちて行った…


愛呂恵
「Arrivederci(アリーヴェデルチ)…ですね」
「もっともこの言い方ですと、実はまた会う時まで…という意味でのサヨナラになるのですが…」

レックウザ
「おぉ~凄まじい蹴りじゃったが、さっきの技は何じゃ?」

愛呂恵
「…非常にシンプルな技であり、私の最高の技のひとつでもあります」
「ただの…『恩返し』ですので」


そう、これは…私の大切な主人への恩返し。
あの恩返しという技に、決まったモーションは存在しません。
大切な主人の為に、ただ全力で攻撃するのが、この技最大の特徴なのですから…
私の言葉を聞き、レックウザさんは大笑いする。
そして私を抱えたまま、雲の下へと下降して行った。


レックウザ
「大した者よ! お主、良ければ妾の朋友(ポンヨウ)にならんか!?」

愛呂恵
「…考えておきます」
「ですが、聖様に手を出した事は、まだ許していませんので…」


私が少々凄むと、レックウザさんは渇いた笑いに変わる。
ルギアはまだ無造作に落ちていますが、聖様はご無事でしょうか?


レックウザ
「あの一撃で終わったと思うか?」

愛呂恵
「少なくとも意識を刈り取れたと思いたいですが…」


私たちはどこか不安に包まれていた。
手応えは確かにありましたが、あまりにも呆気ないルギアの落下…そして、私はその下にある者を見て思わず叫んだ。


愛呂恵
「私を投げてください! 全力で!! 彼女の落下より速く!!」

レックウザ
「任せとけい!! 行くぞ愛呂恵ぇぇぇ!?」


レックウザさんはすぐに状況を察し、勢いを付けて私を全力でルギアに投げ付けた。
私の体は落下速度を遥かに上回る速度で下降し、ルギアの背中に追い付こうとする。
ルギアは地上にゆっくりと向かう3人の背中を見て、薄ら笑っていたのです。
その時点で私は一気に集中力を高める。
そして、必ず助けると心に誓う。
約束は、絶対に守ってみせます!!


ルギア
「!!」


「なっ!?」

香飛利
「ひぃ~~~~~~~~!?」


ルギアは落下しながら大きく口を開け、背中に付いている吸気口を全て開いた。
間違いなくエアロブラストの体勢! それが放たれれば聖様は確実に死ぬ。
ですが……


愛呂恵
「それが貴女の失策です!」


メキャアァッ…!!と私は容赦無くルギアの背骨を足で踏み抜き、へし折った。
ルギアは吸気口を開けて風を溜める事でエアブレーキがかかり、落下速度が低下して私に追い付かれる結果となったのです。

私は、そのまま落下の勢いのまま地上にルギアを叩き付け、ルギアの背中をクッションにして着地してみせた。
周りは凄まじい粉塵で完全に視界を覆っていましたが、私は迷わず聖様のいるであろう場所に向かって歩く。
流石に…落下の衝撃で両足がガタガタになっていますね。
私は今のでメガ進化も解け、通常形態に戻る。

そして粉塵の中…私は聖様の声を聞いた…



………………………




「愛呂恵さーーん!!」

香飛利
「愛呂恵さ~ん!」


俺たちはルギアと一緒に高空から落下した愛呂恵さんの元に走る。
俺は香飛利に守連を抱かせ、粉塵が舞う中に入ろうとしていた。
だが、その粉塵の中からゆっくりと現れる人影を見て、俺はホッと安堵する。



「あ、愛呂恵さん…」

愛呂恵
「敵、撃破しました…」
「ですが、少々…」


愛呂恵さんは突然、糸が切れた操り人形の様に、無造作に俺の肩へと倒れ込む。
俺は愛呂恵さんの肩を優しく抱き、穏やかに声をかけた…



「愛呂恵さん…無事で、良かった」

愛呂恵
「申し訳ありません…肉体の消耗が激しく、足が言う事を聞きません」
「もし、ご迷惑でないのなら…このまま肩をお借りしても、よろしいですか?」


俺は無言で頷く。
そして、ここまで戦い抜いてくれた最強のメイドさんを俺は誇りに思う。
愛呂恵さんは…俺の最高のメイドさんだ!!


レックウザ
「ふっ…どうにか無事に終わったの」


「お前…結局アルセウスの配下じゃなかったのか?」


俺がそう言うと、レックウザは、はぁ…とため息を吐いた。
そして、何だかやるせない様な表情で俺を見た後、こう言う。


レックウザ
「…これでも、何年か前に助けてやったのにのぅ」


「…えっ!?」


それは、全く身に覚えの……あ、いや、あったわ。
俺は思い出す…あの時の冒険を。
守連を連れ、パーティを組んで…俺は確かにこの塔を上った事がある。
そして、俺は…


レックウザ
「思い出したか? 妾は忘れておらぬぞ…お主の熱い想いは」
「人間になっておったから、最初は解らなんだが…言葉を聞いてすぐに解ったわ♪」
「お主は、あの時のヒトカゲじゃったと…」


「じゃあ、アンタがあの時のレックウザだったのか…!」
「この世界を滅ぼすと言われる、巨大隕石を破壊してくれた…」


レックウザはカッカッカッ!と笑う。
そういえば、こんな性格だった気もする…
あの時も、力を貸してほしくば闘え!だった気がするなぁ~
成る程、それならこの縁も納得か…
俺はまた、絆に助けられたんだな。



「ありがとう、レックウザさん…守連を守ってくれてたんですね」

レックウザ
「気にするな、妾は闘いが好きなだけじゃ…」
「今回はたまたまお主がここに来て、ここに守連がたまたまおっただけの事…偶然じゃて」


俺は首を横に振って否定する。
レックウザさんは不思議そうな顔をしたが、俺は確信した笑顔でこう言う。



「偶然なんかじゃないです…これは必然だったんだ」
「俺たちの絆に、運命や偶然なんてモノは無い」
「俺は、そう信じてる…」

レックウザ
「ククク…やっぱりお主は愛奴よの♪」
「さて、名残惜しいが…そろそろ別れの様じゃの…」

香飛利
「聖さん…」


俺は既に光の粒子に変わろうとしている香飛利から、守連を受け取る。
愛呂恵さんは代わりに香飛利に抱き抱えられた。


愛呂恵
「聖様、しばしのお別れです」

香飛利
「聖さん、優しくしてくれてありがと♪」


「ふたりとも、こちらこそありがとう!」
「ふたりがいなかったら、きっと俺は何度も失敗してた」
「後は俺たちを信じてくれ…必ず、滅びの未来を救うと!」


ふたりは、はい!と強く答えてくれる。
俺は最後にレックウザさんを見た。
その顔は満足げで、とても満ち足りた顔をしている。
でも、俺は少し申し訳ない気持ちが残っていた。
そんな俺を見てか、レックウザさんはこう言う。


レックウザ
「そんな顔をするな…お主はお主の道を行け」
「その道を遮る愚か者がおるなら、次からは妾が薙ぎ払ってやる」
「お主の為なら、妾は操をくれてやっても良いぞ?」


「メガ進化中なら考えておきます…」
「まっ、どうせレックウザさんの事だから、冗談だろうけど」


俺がそう言うと、レックウザさんは大笑いする。
そして、俺は消える皆を見て最後にまた感謝をした。
これで、全員揃った…後は、ラスボスと戦うだけだ!!
俺は雫の力を行使し、時空の最果てへと戻る。
そして、俺は微かに夢を見た…
全てが終わって…ひとり天へ帰る、自分の姿を……










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第5話 『魔更さんちのメイドウサギ』


第5章 『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢から覚めた。俺は、絶対に皆を救う!』




To be continued…

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