第5章 第4話

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読了時間目安:57分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「くっ…どうやら、ここまでの様だな…!」
「だが、俺は貴様の拳では死なん!!」


「ククク…嬉しいぞ、わざわざそっちから来てくれるとは」


とりあえず、開幕からクライマックス!!
世界送り(ワールドメール)で送られた矢先、俺は山岳地帯っぽい所で、いきなりボス前に現れたって寸法だ。
まさに、フロア入ったら即モンスターハウスの如く凶悪なトラップ。
俺はいきなり雫でのコンティニューを強要されそうになっていた。
が、それよりも俺は、この目の前の相手に激情を押さえられないでいるんだ…!



「テメェは…あの時の!!」


俺は、未だに脳裏に残っているトラウマを引っ張り出す。
コイツは、今俺の目の前にいるコイツは…!!



「ほう、覚えていたのか? なら、もう逃げられんという事も理解しているな?」
「この『ディアルガ』の前から、もはや逃げる事は出来んぞ特異点!?」


ソイツはディアルガと名乗った。
時間ポケモン、ディアルガ。
髪は青色のロングヘアーで、後髪をお下げの様に首の辺りで縛っている。
全身は銀色のフルアーマーで武装している感じで、イメージ的には○闘士星矢の聖衣と言えば解りやすいか。
頭部は2本の角が後斜めに飛び出しており、背中には突起が3本、腰からは下側に5本も飛び出ている。
尻尾もパルキアさん同様、爬虫類のソレを連想させた。
そして、最大の特徴とも言える胸元には、ダイヤを象った五角形のアーマー。

ちなみにここまで見て気になる点がある…何故かディアルガの鎧の一部で破損、亀裂などがあり、一部焼け焦げてもいた。
どうやら、誰かと交戦した様だが…それは今置いておく。
とにかく、コイツはパルキアさんと対になっているポケモンで、恐らくユクシーちゃんたちの実母。
そして、俺の目の前でパルキアさんをぶっ殺した帳本人!!



「テメェも、アルセウスの幹部かよ?」

ディアルガ
「ほう? という事は、ふたつ程世界が修正されたのは、貴様の仕業か…道理で」


どうやら、概ね俺たちの計画は知れ渡っていたらしい。
恵里香の言ってた通りだな…下手にひとりづつ回復させてたら、すぐにでも見付かってたかもしれない。

コイツは、キュレムやジガルデとは明らかに違う。
全く感情も見られず、マトモな言葉も口にしなかったアイツ等と違い、コイツは明確に意志を持って俺の前にいるし、会話から推測も立ててくる。
間違いなく、コイツは幹部の中でも上位クラスだと俺は予想した。



「…流石に、こりゃどうしようもない、か」

ディアルガ
「安心しろ、苦しまぬ様…一撃で消してやる」


そう言ってディアルガは、右手に何か空気というかオーラというか、そんな感じの物を練り始めた。
いや、もしかしなくても『竜の波動』かっ!?
大きさも相当だ、直径50cmはある。
あんな物をマトモに貰ったら、一撃でゲームオーバーだ!
コンティニューするにしても、俺は最低限生き残らなきゃならない。
くっそ…こんな不幸な事ってあるのかよ!?
それとも、今までラッキーだったツケが来たのか!?
変だとは思ってたんだ…ここまで出来過ぎだろって。
そしたら、コレかよ!? こんなの、コンティニューした所でどうする!?

恵里香の世界送りは実の所万能じゃない。
送るにしたって、正確な時間も場所も指定出来ないから、1度場所を決めると、他の場所を指定出来なくなるんだ…

俺がある程度進んだ所で雫を使って戻れば、恵里香はそこを次から指定出来る様になるが、つまりそれまでスタート地点は変えられない。
つまり、開幕からソッコー全滅の無理ゲーに突入って訳だ。
こんなのは、どうしようもない。
最悪、リスク承知で華澄と女胤を回復させて同行してもらうしか勝ち目が浮かばない!!


ディアルガ
「祈りは済ませたか? なら、死ね!」


ディアルガはそう言ってワザとらしく振りかぶる。
俺はそれを好機と判断し、その場からタイミングを見計らって横に思いっきり跳んだ。


ドォォォォォォンッ!!


まるで空気が抉れるかの様な一撃。
横に跳んだ俺は着弾の衝撃で一気に吹っ飛んで行った。
だが、これが俺の狙い!



「バカめ! これぞ我が逃走経路!」
「貴様は俺との知恵比べに負けたの…よべらぁっ!?」


俺は断末魔の叫びをあげてしまう。
それもそのはず、俺は計算して吹っ飛んだは良かったのだが、場所を考えてなかった。
俺の真下にあるのは、いわゆる崖下。
そう、ここは山岳地帯…当然、高所である。
遮る物の無い空中で、俺は重力に従って自由落下を始めた。



「サラダバーーーーーー!?」


もはや、涙がソッコー乾く勢いで俺は下に落下していく。
ヤバイヤバイヤバイ!!
こんなモン、ソッコーで雫使うしかねぇ!!
後何秒で地面に落ちる!?
後何分で死ぬ!?
っていうか、思考がまとまらねーーー!!



「やれやれ…危なかっしいね~」


「!?」


突然、俺の横で何か声が聞こえたと思った。
直後、俺は気が付けば森の中で這いつくばっている。
いや、森と言うより泉…?
泉を中心に森が広がってるのだ。
俺はRPGでよくありそうな、神秘的な泉の前でひとり踞っていた。



「あ…あ!?」


俺は頭がどうにかなりそうだった。
崖下に落ちたら泉にワープって、どんな裏技だよ!?
俺は慌てて周りをくまなく見渡すが、ディアルガの姿は見えない。
見た感じ、安全地帯の様だが…
俺は、状況確認の為にスマホを取り出した。



「恵里香、ここはどうなってる!? 何で突然、こんな所に……」


「ああ…や~っと、再会出来たよ」

恵里香
『聖君、今キミは……聖君? ねぇ、聞いてる?』


俺はスマホを耳に当てたまま放心していた。
恵里香の声が聞こえるが、その声はまるで頭に入らない。
何故なら今、今……俺の前に立っている人は…!



「はは、やっぱり驚いた顔してる♪」


あの時と同じ微笑みで…いや、あの時以上に嬉しそうな声で、その人は微笑んでいた。
俺は、あの時の思い出を全て脳裏にフラッシュバックさせる。

84日の思い出。
あの時の日々は、今でも鮮明に思い出せる。
俺は我慢出来ずに、視界を涙で埋もれさせた。
スマホを手から滑り落とし、思いの丈を叫んぶ。

そして、俺は大切な家族の胸に…思いっきり飛び込んだ。



「うああああああああっ!? ああぁぁっ!? わあぁぁぁぁぁっ!?」


もう、言葉になっていなかった。
俺は泣き叫び、ただその人の胸に力無く抱き付いている。
その人は、そんな俺の情け無さすぎる姿をも、笑って優しく抱き止めてくれていた。


パルキア
「ここまで、よく来てくれたね…」
「オレは、信じてたよ…」
「よく、頑張ったね…」


「パルキアさん、パルキアさぁん!!」


俺は小さな子供の様に泣き叫ぶ。
あの時、何も出来なかった…!
あの時、俺はこの人を救えなかった…!
俺は…この人の事を、ただ助けたかった…!!


パルキア
「…よしよし、今は母さんの胸で思う存分泣きなさい♪」


「うあぁ…あああああああぁぁぁ……!」


涙が枯れるかと思う位、俺は泣いた。
これ程泣いた事は、多分初めてだ。
俺は数分後、ようやく落ち着いた所でパルキアさんの胸から離れる。
パルキアさんは多くを語らず、ただ俺を優しく抱き止めてくれていた。
俺は涙を拭い、改めてパルキアさんを見る。
それは、亡霊や幻覚なんかじゃない…確かに存在する、大切な人の姿だった。


パルキア
「…落ち着いた?」


「はい、すみませんでした…取り乱してしまって」


俺の言葉を受けても、パルキアさんは一切嫌な顔はしなかった。
そうだ…パルキアさんは、いつだってこんな優しい顔で俺を抱き締めてくれる人だ。
でも、前はクソ世界のルールのせいで、こうやって思う存分甘える事なんて出来なかった…
でも、今は…違う。


パルキア
「ようやく…思う存分、抱き締められたよ」


パルキアさんも同じ気持ちだった。
俺もそうだ…ずっと、パルキアさんに甘えたかった。
消える可能性にビクビクしながら、俺はパルキアさんに近付くのを恐れてた。
もう、そんな心配も無いんだ…!



「やれやれ、完全にお子ちゃまだなお前」


「アグノム!? それに…エムリットちゃんに、ユクシーちゃんも!?」


後から現れた3人もまた、俺のよく知る人物。
パルキアさんの娘であり、三つ子の神様。
そして、その中でも一際我慢していたであろうエムリットちゃんが、 真っ先に俺に飛び付いて来る。
俺は上体を仰け反らせるものの、エムリットちゃんを顔面でしっかり抱き止めた。


エムリット
「聖お父さん! 会いたかったのです!!」


「あ、あはは…エムリットちゃん」
「もう、消える事無いんだよな…? 思いっきり、抱き締めても良いんだよな!?」

エムリット
「良いんだよ…」


「…うん」

一同
「○リーンダヨ!!」


「糖質70%オフ!!」


思わず、全員一丸でネタをかました。
ちなみにユクシーちゃんだけは恥ずかしかったのか、流石に参加してくれなかった…残念。


エムリット
「えへへっ、お父さん温かいのです♪」


「ははっ…俺はお父さんじゃないぞ?」
「せめて、お兄ちゃんにしてくれ…」

エムリット
「ん~! でも、私はお父さんが欲しい!」

パルキア
「あははっ、まぁ聖君さえ良ければ、オレはいつでもOKだけどね♪」


「はは…すみません、俺まだ未成年ですし」

アグノム
「なら高校卒業したら、結婚しろよ?」
「しかもその場で母さんを孕ませろ! それが条件だ!!」


「お前は、ホント変わらないな…愛呂恵さんに会えたら懲らしめてもらおうか?」

アグノム
「ごめんなさい! それはマジで勘弁してください!!」


アグノムの豆腐メンタルも相変わらずだった。
俺は思わず吹き出す。
そうだ、これが俺の求めていた空気だ。
家族の空気…両親を失って、俺には想像しか出来なかった、親子の空気。
パルキアさんは、俺にとってやっぱり、本当の母さん同然だったんだ…



「そういえば、愛呂恵さんたちは?」
「ゲンガーさんや、ラランテスさんは!?」

パルキア
「…あの娘たちは、本来別の世界のポケモンだから」
「今この世界では、他の皆は存在しないんだ…」


そうか…パルキアさんは空間を超えられる。
愛呂恵さんたちは、別の世界で出会った人たちだったのか…
それは、残念だな…


アグノム
「とにかく、お前はディアルガに狙われている」
「キュウコンの阿須那を探す事も重要だが、まずはその体を休ませろ…」


俺は言われて、体の痛みを感じる。
そういえば、ジガルデ戦のダメージを引きずったままだったからな…
思い出すと、結構キツいもんだ…


エムリット
「大丈夫? 私、『癒しの願い』なら出来るけど?」


「ダメだ! そんな事したらエムリットちゃんが死にかねない!」


癒しの願いは、使用者の命を使って対象を完全回復させる大技。
だが、現実にその技を使えば、エムリットちゃんの命が危険になってしまう。
つい前にメレシーの大爆発を食らったから解る。
人化したポケモンにとって、自爆技はほぼ死を意味するはずだ。
それだけは絶対にダメだ! エムリットちゃんはまだ幼いし、危険な目には、絶対合わせるわけにはいかない…


ユクシー
「…とりあえず、普通に休む事をお勧めするわ」
「…ディアルガもダメージを引きずっているみたいだし、しばらくは時間も稼げると思う」


「そういえば、ディアルガのダメージは誰と戦ったんだ?」
「少なくとも、炎技を受けた様な感じだったけど…」

アグノム
「そこまで解ってるなら察しろ…」
「あのディアルガにそこまでダメージを与えられる奴は、この世界では限られている」


俺は言われて察する。
あの焼け焦げた後…そんな事が出来るのは限られている、か。



「阿須那、か…」

アグノム
「理解が早いじゃないか…? つまりはそういう事だ」


成る程、ディアルガは阿須那と戦ったは良いが、ダメージを負ったってわけな。
それで、そのダメージがある内にパルキアさんと戦うのはキツい…ってこった。


パルキア
「とりあえず、ここはオレの空間剥離で安全地帯にしてある」
「いわゆる、同世界ではあるが別の世界の空間とでも思ってくれれば良いよ」
「要は、城の時と同じ様な状況だ…少なくとも例外を除いて誰も入っては来れない」


「…つまり、その例外であるディアルガは、それを突破して入って来れると?」


パルキアさんはコクリと頷く。
パルキアさんが言うには、ディアルガの時間操作もパルキアさんの空間操作と打ち消し合う能力らしい。
だから、空間剥離によって安全だと思われたあの城も、ディアルガの潜入を許したんだ…


パルキア
「少なくとも、ディアルガが直接攻めて来ない限りは安全だと思ってくれて良い」
「その間にディアルガのダメージが回復するのは癪だが、聖君の体の方が遥かに大事だ」
「布団もあるから、ゆっくりしててくれ♪」


そう言ってパルキアさんは何も無い空間からベッド一式を取り出した。
流石は空間ポケモン…ホントにチート能力だよなコレ。
俺はとりあえず、本当に休ませてもらう事にした。
正直、ここ2日マトモに寝られなかったからな…
今は、安心したし…更に眠く……



………………………




「………」

パルキア
「あらら…もう寝ちゃったね」

ユクシー
「…余程、気を張り詰めていたんでしょうね」


聖君は布団に入ると、ものの数秒で眠りに落ちた。
安心しきった顔で、安らかに寝息をたてている。
オレは改めて決心した。
今度こそ、この人を護りきってみせると…

ここなら、もう理の制限は無い。
この日の為に、柄にも無く技の訓練なんかもしたよ…
元嫁に勝つ為、オレは全力を尽くす。
全ては、愛する人の為に…


アグノム
「やれやれ、まぁコイツは所詮ただの人間だからな」
「特異点とはいえ、体は生身の人間に変わりは無い」

ユクシー
「…それでも、この人は戦う道を選んでくれた」

エムリット
「う~ん、私も一緒に寝るのです~♪」


エムリットは我慢出来なくなったのか、髪をピコピコ動かして聖君の布団に潜り込んだ。
はは…よっぽど聖君に甘えたいんだな。
オレは、もう枷が無くなって、思う存分聖君と触れ合える様になった娘の姿を見て笑う。
そうだ…これが家族なんだ。

オレは、こんな家庭で、こうやって笑いたかった…


アグノム
「…母さん、ハンカチいるか?」

パルキア
「いや…良いよ」
「こんな事位で、泣いてたら…すぐに涙が枯れてしまうからね♪」


オレはそう言って涙を堪える。
嬉し涙を堪えたのなんて、生まれて初めてだ。
オレは、この人の前で弱い所は見せてはならない。
オレが聖君の背負う物を、軽くしてやらなきゃならないのだから…



………………………




「……ぅ」

パルキア
「…目覚めたかい?」


俺は、気持ちの良い布団の中から感覚を呼び覚ます。
やや体が重いが、何かに抱き付かれてる?
見ると、俺の腰に腕を回してしがみつくエムリットちゃんの姿があった。
エムリットちゃんはまだ眠っている様で、幸せそうに寝息をたてている。


パルキア
「久し振りに、こんな幸せそうなエムリットを見れたよ…」
「やっぱり、聖君にはパパになって欲しいな~♪」


そう言ってパルキアさんはワザとらしく笑い、俺の顔に自分の顔を近付けた。
俺は、その綺麗な顔に素直にドキッとし…恥ずかしくて顔を背けてしまう。
それを見て、パルキアさんは更に頬笑んだ。
クッソ…やっぱパルキアさんは美人だよな~
…心が元男だったとは、とても思えないわ。


アグノム
「オイ、ベッドシーンに入らねぇなら、さっさとこっちに来い!」
「折角母さんが、腕によりをかけて飯を作ってくれたんだぞ!?」


アグノムがそう言うと、途端に鼻腔をくすぐる良い臭いを感じ取る。
俺はエムリットちゃんを優しく起こし、抱き抱えて食卓に向かった。
…フツーに椅子とテーブルがあるな。
しかも、カレーライスとは…どこで作って来たのか。


パルキア
「あはは…久し振りに料理なんてしたから、あまり美味しくないかもしれないけど」


「いえ、有りがたいです」
「ここん所、偏った食生活でしたし…何より久し振りに米が食える!」


俺はエムリットちゃんを椅子に座らせてあげ、俺も隣の椅子に座った。
円卓型のテーブルなので、グルリとテーブルを囲む形で全員が着席する。
そして、パルキアさんが一言…


パルキア
「それじゃ、いただきま~す♪」

一同
「いただきます!」


その号令と共に、皆一斉にスプーンを動かす。
味は文句無し! うん、これは美味しい♪
あくまで、フツーの食材で作られたカレーライスだけど、家庭の味って感じでとても美味かった。


エムリット
「はむ、美味しい~♪」

アグノム
「流石にゲンガーのよりかは、遥かに美味しいわな!」

ユクシー
「…それ、本人が聞いたら何言われるか」


「何だ? お前ゲンガーさんにもお仕置きされてんのか?」


俺がツッコンでやると、アグノムはうぐっと喉を詰まらせる。
そしてすぐに水を流し込み、呼吸を整えた。
図星か…一体どんなお仕置きされたのか?


アグノム
「ふんっ、今いない奴の事を言ってても仕方が無い!」


「じゃあ、もし別の世界で会ったら今日の事を詳細に語っておこう」

アグノム
「いやぁぁぁぁ! それは勘弁してぇぇぇぇぇっ!?」


全く、怖いなら余計な事言わなきゃ良いのに…
この辺がまだまだ子供だよな~


パルキア
「あははっ、ホントこんな楽しい食事初めてだね♪」

ユクシー
「…そうね、今まで追いつめられながらの逃亡だったし」


「そういえば…この世界は、パルキアさんたちの世界でもあったんですね」


俺の言葉に、パルキアさんは少し間を置いて…そうだね、とだけ答えた。
そして顔を俯け、少ししてから言葉を切り出す。


パルキア
「…この世界の出身と言っても、オレはこの世界を1度見限ったから」
「だから昔の聖君とは面識も無いし、阿須那ちゃんとは顔を合わせた事も、話した事も無い」
「あの夢の世界が無ければ、こんな出逢いはきっと有り得なかっただろうね…」


「…ひとつだけ、聞いても良いですか?」

パルキア
「…何だい?」


俺はどうしてもひとつだけ気になる点があった。
それは、騰湖たちや舞桜さんたちとは決定的に違う部分。
信じてはいるが、疑問に思う部分は聞く事にしたのだ。



「…どうして、俺を助けてくれるんですか?」
「どうして、縁も縁も無い俺を…こんなにも愛してくれるんですか?」
「パルキアさんは、他の皆とは…違うのに」
「俺は、パルキアさんに好きになって貰える根拠が、解らないんです…」


それは、安易に受け入れて良い物かが解らなくなった事でもある。
少なくとも、パルキアさんは昔の俺と接点が無い。
言ってしまえば、パルキアさんとはあの夢の中の84日しか接点が無いんだ…

俺は、多分不安そうな顔をしていたんだと思う。
だから、パルキアさんは優しく微笑んで、まるで何を今更…といった口調で簡単に答えてくれた。


パルキア
「一目惚れってね、きっと本当にあるんだよ?」
「そして、オレは聖君と再会して、それが間違いで無かったと確信した」
「ああ…この人は、きっと家族を幸せにしてくれる」
「そんな確信が持てる程の、素敵な恋…」
「オレは、聖君が大好きだよ…愛してる」
「そして、そこまで愛している人を助けるのに…理由はいるかい?」


「………」


俺はスプーンを片手に震え、涙を堪えた。
パルキアさんは本気で言ってくれている。
たった、あの84日の日々で、俺を愛してくれると…

結局、巡り巡って、あのクソ世界は意味を持っていたのかもしれない。
確かに、あの世界は残酷だった。
それでも俺とパルキアさんたちとの繋がりは、今ここに意味を成したんだ…

あのクソ世界が無ければ、俺はディアルガの驚異に立ち向かう事すら出来なかったかもしれない。
いや、そもそもそんな事を思う事も無く、俺は現実で自ら命を絶ったのだ…
そして、この現実は恐らく変えようが無い。
全ては、俺の自業自得…だからこそ、俺は全てを清算して地獄へ行かなければならない。
その先に、俺の未来は無くても…


エムリット
「お父さん、苦しいの?」


「え? あ、いや……そうだな」
「だけど、大丈夫だ」


俺はエムリットちゃんの言葉に強がろうとしたが、止めて正直に答えた。
エムリットちゃんは感情の神。
俺の内心を見抜かれている可能性は高い。
だから、せめて心配はかけない様にしないとな。


エムリット
「つらい事があっても、負けないでね?」


「うん、ありがとう♪」


俺はそう笑ってエムリットちゃんの頭を撫でてあげた。
すると、エムリットちゃんは嬉しそうに笑いかけてくれる。
俺は、この笑顔を2度と忘れない。
きっと…地獄でも良い土産になるな。
俺はどうせ、天国には行けないだろうから…



………………………




「…ご馳走様です」

パルキア
「はい、お粗末様♪ さて、聖君の体の方はどう?」


俺は軽く腰を回し、調子を確認する。
まぁ、多少軋むけど問題は無さそうだな。



「大丈夫です、特に問題は無いと思います」

パルキア
「そっか、それじゃあそろそろ…」

アグノム
「ああ、とりあえず阿須那の救出だ」
「が、その前に…あのキュウコンだけ名前で呼ぶのは癪だ」
「お前、俺様たちにも名前を寄越せ!」


突然、アグノムはそんな事を言う。
とはいえ、これはパルキアさんとの約束でもある…勝利はしてないけど。
だから、俺は順番にこう言った。



「じゃあまず、エムリットちゃんは『夏翔麗愛』(かとれあ)」

エムリット
「了解なのです!」


「アグノムは『藍』(らん)」

アグノム
「ふん、まぁ良いだろう」


「で、ユクシーちゃんは『棗』(なつめ)」

ユクシー
「………」コクリ


で、最後のパルキアさんは…


パルキア
「………」


パルキアさんはニコニコして俺の名付けを待っていた。
さて、どうするかな…?
とりあえず三姉妹はなけなしのストック引っ張り出して名付けた物の、パルキアさんとなると…
イメージもあるし、でもここはやっぱり…
俺は悩みに悩み抜いた結果、こう名付けた。



「…『白那』(しろな)で、どうです?」

パルキア
「うん… 聖君が付けてくれるなら、どんな名前でも嬉しいさ♪」


ホント、ネタに走らなくて良かった…
マジにパルキアさんだと受け入れかねんからな。
まぁ、とりあえず今までの中でも最難関と思われた名付けラッシュは無事終わった…



「さて、それじゃ阿須那を救出…と行きたい所だが、まず問題点がいくつかある…」


藍は真面目な顔をし、俺たちにそう告げる。
そして、俺が黙って聞いていると、藍は言葉を続けた。



「ひとつは、阿須那が独自にディアルガと交戦している事だ」
「これが意外に厄介で、俺様たちからしても、いきなり救出…とはいかなくなる」


「どういう事だ? 交戦しているなら、こっちもいっそ乱入して共闘すれば…」


「そこでふたつ目の問題点」
「ディアルガの時間操作…これがとにかくチート能力だ」


俺は言われてギョッとする…そうか、白那さんが空間操作を出来る様に、ディアルガも時間操作が出来るんだな。
って事は、下手に乱入したは良いものの、その時は俺をピンポイントで狙う可能性もあるのか…
そもそも、時間操作とかどうやって対処するんだ?



「…とりあえず、阿須那がディアルガと交戦してしまうと、乱入以外の選択肢が無くなる」
「かと言って、終わるのを待ってたら阿須那の命が危うい」


「阿須那に限って、無茶はしないと思うが?」


「それは、普通の相手ならの話だ」
「ディアルガの時間操作にかかったら、逃げる事すら苦労する」
「勿論、ディアルガの能力も無敵じゃ無い…」
「射程距離は案外低いし、持続時間もそれ程長くない」
「リチャージも意外に長いし、どこぞの○波紋と比べたら明らかに性能は劣る」
「母さんの空間操作に比べたら、汎用性は低い近距離戦闘特化の能力と考えたら良い」


成る程、近付けば強力無比だが、離れていれば対処も可能という事か。
なら、阿須那がまだ生きているのも、その辺を理解して立ち回っているって事だろうな。



「そして問題点3、お前が敗北条件のひとつって事だ」


藍は俺を指差してそう言い放つ。
そりゃそうだ…俺の雫が無ければ、最果てに戻る事すら出来ない。
ましてや、阿須那を救出してからディアルガを倒すのは相当難儀しそうだな…



「詳細は不明だが、お前は特異点としての能力で敵に危険視されている」
「個人的には阿須那を助けるのに、お前は置いて行きたいが…」


「それはダメだ…俺と阿須那が一緒にいないと、この戦いは勝っても意味が無い」


俺が言うと、藍は頭を掻きやっぱりな…と呟く。
そして、諦めた様な顔でこう言い直した。



「とりあえず、理由はいちいち聞かん」
「お前がそういう以上、それが勝利条件って事だからな」

白那
「で、どうする? 母さんの能力で一気に躍り出る?」


「…でも、そうなると乱戦になってしまう」
「…ふたつの敗北条件が同時に揃ったら、ディアルガもどっちかを倒すだけ良いのだから、返って危険度は高いわ」

夏翔麗愛
「う~ん、じゃあ阿須那お姉ちゃんを先に助けるのです!」


「それがベストではあるが、肝心の阿須那の居場所が解らない」
「ディアルガも追っている様だし、転移して即合流とはいけないな」
「あれから、大分移動しているだろうし…母さんもそういった探知は出来ないだろ」


やはり、問題は山積みか。
だけど、やはりまずは阿須那の救出だ。
どうにかして阿須那を見付けないと…


白那
「…いっその事、ディアルガの前に出てみるのも手じゃない?」


「でも、危険ですよ? そこに阿須那がいなかったら元も子もないですし」

白那
「だけど、オレたちが交戦したら、駆け付けてくれるんじゃない?」
「後は、オレがディアルガを倒せばハッピーエンドだけど…」


白那さんは軽く言うが、それはつまり特攻するという事。
白那さんは勝算があるのだろうか?
少なくとも、オレには解らない。
白那さんが強いのは間違いなく解る。
だけど、あのディアルガ相手に、確実な勝算があるのだろうか?



「…聞きますけど、ひとりで勝てるんですか、アレに?」

白那
「勝てなきゃこんな事言わないよ…ここで死んだらもう復活出来ないんだから」
「大丈夫だよ、オレは必ず勝つ」
「アイツとは、そろそろ因縁を絶ち切らなきゃならないし…」


因縁、それはディアルガとパルキアの間にある何かだろう。
そしてそれは、白那さんが自ら絶ち切らなきゃならない物…か。
俺は意志を固める。
白那さんがそう言うなら、俺は信じてあげるべきだ。



「分かりました、それなら白那さんを信じます!」

白那
「ありがとう聖君♪」
「今度こそ勝ったら、大人の夜を教えて…ア・ゲ・ル♪」


白那さんは甘い声で俺の耳元に呟く。
俺は心臓が飛び出しそうな程驚くが、白那さんはクスクス笑うだけだった。
どこまで冗談なのか…それとも全部本気なのか。

どの道、白那さんが自信を持っているのは確かだ。
前の時とは違う…死地に向かう戦士じゃない。
今度こそ、白那さんは勝ってくれる。
俺は、それを信じよう。



「ちっ…母さんがそうするなら、仕方が無いな」


「…私たちは全力でサポートするわ」

夏翔麗愛
「私も頑張るのです!」


方針は決まった。
阿須那の居場所は解らないが、ジガルデの時と同じ様に交戦して呼び寄せれば良い。
危険な橋だが、渡れれば最大の効果が期待出来る。
全ては、白那さん次第か…
俺は布団に置いてあるスマホを拾い、それを耳に当てた。



「恵里香、ここから反応は?」

恵里香
『無いね…っていうか、そこは空間剥離されてるから反応は見れないよ』
『こっちからも声だけしか届けられないし、とりあえず大丈夫なんだよね?』


成る程、そういやここは白那さんが空間剥離させてる安全地帯だったな…
恵里香からしたら突然消えた様に見えてるわけか。
で、俺から語りかけたから声だけは確認出来た、と。



「悪い…とにかく、こっちは大丈夫だ」

恵里香
『そう、それは良かった…』


「何だ? 愛人と不倫の電話か?」

白那
「あはは~モテるね、聖君」


横から余計な茶々が入ったが、今はツッコマないでおく。
俺はスマホをポケットに仕舞い、白那さんたちを見た。



「白那さん、行きましょう…そして、勝ちましょう!」

白那
「うん、聖君が信じてくれるなら、オレは勝つよ」
「それじゃあ、行こうか…ディアルガの場所なら、オレはいつでも解るから」
「聖君、なるべく夏翔麗愛たちの近くにいるんだ…いきなり攻撃されても大丈夫な様に」

夏翔麗愛
「私たちに任せるのです!」


「ふん、今回は手を貸してやる」


「…私が前方を護るわ、ふたりは後方両翼をお願い」


棗ちゃんはそう言って俺の前に立つ。
そして、後方両翼に夏翔麗愛ちゃんと藍が立った。
トライアングルの陣形で、俺を護る様に立つ3人。
それを見て、白那さんはこう告げる。


白那
「…さぁ、行くよ?」
「聖君、決して3人の輪から抜け出さない様に…」


白那さんはそう言って空間転移の準備に入る。
これで、後はディアルガを倒すだけ…
俺は白那さんを信じるだけだ。

騰湖たちも、舞桜さんたちも信頼に答えてくれた。
きっと、白那さんも答えてくれる!!
俺はそう確信し、優しい白那さんの背中を見続けた。
ここまで、ラッキー続きだと思ってたけど、俺はそうじゃないのだと何となく思い始めた。

ここまでの皆の助けは、ひとえに俺を助けたいと心から思ってくれる人たちばかり。
それは、きっと偶然なんかで片付けてはいけない。
これは、きっと必然。
俺が今まで育んで来た、信頼の答えなんだと…俺は思いたかった。



………………………




「何…だと……!?」

白那
「……!」

ディアルガ
「!? 貴様…! 何故ここに!?」


俺たちは、ある意味最悪の状況で踏み入れてしまったのかもしれない。
白那さんの空間転移でディアルガの元に転移した俺たちだったが、そこにあったのは最悪のシナリオのひとつだった。


阿須那
「………」


場所は山の麓の辺りで、道路を挟む様に森が広がっている。
俺たちは麓側、ディアルガは山側にいる形だ
そしてディアルガの右手には、髪を捕まれている阿須那の姿。
その姿は血塗れで、額や腕等の血痕からダメージの大きさを示している。
阿須那のコートが血で赤く染まっており、もはや虫の息なのも見て伝わるレベル。
俺は、思わず叫ばずにはいられなかった…



「阿須那ーーーー!?」

阿須那
「………」


阿須那は一瞬、体をピクリと動かす。
良かった…まだ、死んでない!
俺は微かに安堵の息を吐き、状況を冷静に見た。


白那
「…やれやれ、まさか出遅れるとはね」

ディアルガ
「貴様…まさか、生きていたとはな!」

白那
「何を勘違いしている? オレたちは元々この世界の出身だろ?」
「理に則り、消えた者は元の世界に帰る…それが真理だ」


白那さんの言葉を聞き、ディアルガは明らかに狼狽える。
だが、すぐに余裕の笑みを浮かべ、白那さんを見て笑い飛ばした。


ディアルガ
「ふ、ふふ…ふははっ! 何を言っているのか解らんが、わざわざ特異点を連れて来てくれるとはな!?」
「これで、コイツにもう用は無い…餌の価値も無くなった!」


ディアルガは阿須那から手を離し、ドサッと阿須那の体は無造作に地面へと落ちる。
そして、それを見て白那さんはすぐに空間転移を使用して阿須那を俺の側に送った。



「阿須那!? 大丈夫か阿須那!?」

阿須那
「……さ、と…し?」


辛うじて、阿須那は生きていた。
俺は阿須那の血塗れの体を抱き締め、安堵する。
生きていてくれて、良かった…!



「阿須那、今は眠れ…起きる頃には、きっともう終わってるから」

阿須那
「………」


阿須那が理解しているのか解らなかったが、俺の腕の中で静かに眠り始める。
ちゃんと呼吸もしてるし、これで体力は徐々に回復するだろう。
俺は改めて白那さんたちを見た。


白那
「…聖君、決してそこから動かないでくれ」


「…し、白那さん?」


俺は、初めて見る白那さんの激昂を目の当たりにした。
いつもニコニコした笑顔で、おっとりした雰囲気の白那さん。
だけど、今俺たちの目の前にいる白那さんは、見た事の無い位、怖い表情をしていた。



「…聖さん、もう少し退がった方が良いわ」


「な、棗ちゃん?」


「とりあえず、言う事を聞け」
「母さん、手加減しそうにはないからな…」

夏翔麗愛
「聖さん、退がって…?」


俺は、3人に言われて数m退がる。
そして、やや遠目になってしまった白那さんとディアルガの対峙を俺たちは見ていた。


ディアルガ
「クククッ…もはや、特異点を始末すれば我々の勝利は確実!」
「貴様らがいくら足掻こうが、創造主様の滅びは変えられん!!」

白那
「…その創造主とやらに脳まで弄くり回されて、記憶も消し飛んだか?」


白那さんは静かな迫力を込めて声を放つ。
ここまで伝わる程の怒りが、今の白那さんからは感じられる。
こ、こんな白那さんは、ホントに初めてだ!
対するディアルガは白那さんの言葉に?を浮かべ、何も理解出来ていない様だった。


ディアルガ
「貴様は何を言っている? 記憶?」
「そんな物、我々には必要無い! 我々は創造主様の駒に過ぎないのだから!」


自分で自分を駒とか言ってやがる…
大した忠誠心だな。
だけど、その言葉を聞き、白那さんはより怒りのボルテージを高めた様だった。


白那
「もう良い…どの道こうなるのは、そういう因縁だ」

ディアルガ
「ふん…貴様など、何度でもこの手で始末してやる!」
「そして、そこにいる特異点をも始末し、全ての脅威を排除する!!」


ディアルガは高らかに叫ぶ。
その表情は恍惚とし、いかに相手を見下しているかが解る顔だった。
白那さんはこちらからは背中しか見えないが、相当のオーラを滲み出している。
もうすぐ、激闘が始まるのだと俺は予想した…


白那
「とりあえず…まず最初に一言、言っとくよ」

ディアルガ
「?」


その声は、比較的いつものおっとりとした口調だった。
まるで、笑いかけて言う様な…そんな感じ。
だが、そう思った次の瞬間…


白那
「2度も聖君の命を狙いやがって! このクソヤロウがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


バキャァッ!!と物凄い打撃音がした。
白那さんはその場で思いっきり右拳を振り抜き、空間を超えてディアルガの左頬に拳の衝撃をめり込ませたのだ。

ディアルガは完全に油断しており、その不意の一撃で兜は砕け、数m後ろに吹っ飛んで行く。
白那さんはそれを見てゆっくりと歩み寄った。
その重圧は凄まじく、背中越しに恐怖を感じられるレベルだ。


白那
「立てぇ!! テメェとの因縁は、ここで絶ち切る!!」

ディアルガ
「き、さ…まぁぁぁぁぁっ!!」


瞬間、俺たちは空間を転移していた。
そこは前にいた安全地帯。
そこで、俺は数秒程息を飲む。
俺には何が起こったのかも、よく理解出来ていない。
ただ、白那さんの背中は怒りに満ちているのだけは解った。



(つーか、怖ぇ!! やっぱり、この人は本気で怒らせたらダメな人だった!!)


俺が心の中でそう思うと、再びさっきの空間に戻る。
そこには、あからさまに慌てているディアルガの姿が。
一体、さっきの転移は何の意味があったんだ?


白那
「理解したか? テメェの時間停止はオレが空間を超えれば意味を成さない」

ディアルガ
「馬鹿な!? 何故これ程完璧なタイミングで転移出来る!?」


俺はようやく理解した。
白那さんはディアルガの時間操作を読んで空間転移したのか、と。
藍が言っていた様に、ディアルガの時間操作は射程も持続時間も無い。
発動タイミングさえ解ってるなら、空間転移で簡単に射程から逃げられるってわけだ。

だけど、これは白那さんもその状態で攻撃は加えられないという事。
あくまで、防御方としては最良と言うだけだな…


白那
「だからテメェは脳を弄くり回されてる、つってんだ…」
「オレとテメェは二極一対…オレにはお前の考えは手に取る様に解る」
「勿論、お前も出来なきゃおかしいんだがな?」


ディアルガは白那さんの言葉に狼狽えるだけだった。
時間停止を実質破られ、考えも読まれる。
だが、それはディアルガも同じ条件のはずだ。
なのに、ディアルガはああやって狼狽えるだけ…
まるで理解が出来ないといった顔で。


ディアルガ
「馬鹿な…何故貴様はそんな事が解る!?」
「二極一対だと…? どういう事だそれは!?」


ドガッ!と白那さんはケンカキックを右足で放つ。
空間を超えて蹴りの衝撃を放たれ、ディアルガは更に後へと吹き飛んだ。


白那
「これ以上の問答は無意味だ…さっさと立て!!」
「オレたちの戦いは、最終的にシンプルな殴り合いに帰結する…」
「時間と空間をそれぞれ超えられるオレたちには、距離すら意味を成さないからな!」

ディアルガ
「ぐ…うおおおおおぉぉっ!!」


バキィ!と今度は白那さんの首が後に吹き飛ぶ。
ディアルガは一瞬で白那さんの懐に入り、拳を振り抜いたのだ。
だけど、白那さんは一歩も退かず、すぐに蹴りを返した。

ドカァ!とディアルガの腹に蹴りがめり込み、アーマーが砕ける。
何だで邪魔な鎧だなあれは…防御力は高くなるし、重さもディアルガは克服出来る。
単なる殴り合いとなると、防具の無い白那さんが若干不利かもしれない。


白那
「っ…時間加速か、流石に速いな」

ディアルガ
「クク…殴り合いか、確かにこの状況では大技を撃つ隙は無いな」


互いに有効打となるのは、あくまで打撃。
距離の概念がほぼ意味を成さない以上、少しでも隙の多い技は即座にカウンターを取られる。
それだけに、搦め手すら許されないこの戦いは、正にシンプルだった。
本来なら、ディアルガもパルキアも特殊が高いポケモンなのに、特殊技のひとつも撃つ隙は互いに無いのだから…



「その気になりゃ、互いに一撃で相手を殺せる技は撃てる」
「だが、それは相手に膨大な隙が無ければ成立しない博打技だ」
「格ゲーで例えるなら、この戦いはひたすら弱中攻撃の差し合い」
「強攻撃や必殺技なんざ全部カウンター取られて潰される状況だな…」


正に藍の言う通りだ。
白那さんの戦いは、互いに必殺技を撃てない状況での差し込み合い。
いかに相手の隙を誘い、そこに必殺の一撃を叩き込むかという忍耐の戦いだ…


白那
「つぇあっ!!」
ディアルガ
「かぁっ!!」


今度は互いの顔が互いの拳で吹き飛ぶ。
ふたりはもはや距離も取らず、互いに手の届く範囲で殴り合っていた。
まるで互いに○想転生を纏った時の戦いの様だな。
もはや奥義は意味を成さず、いわば子供のケンカみたいな物…って所か。
そんな感じで、ふたりは互いに一歩も退かず、幾度かの攻防を交わしていった…



………………………



白那
「…ちっ」

ディアルガ
「ククク…息があがってきたか?」
「単なる殴り合いなら、防御の高い私が有利だからな…」


まだ数分程だが、既に白那さんは若干疲れを見せていた。
対するディアルガも言う程楽な状態ではない。
既に鎧は半壊し、大した防御力を発揮してもいない様だ。
そして、ドガッ!と白那さんはディアルガの顔面を空間操作で蹴り上げる。
そして、それがどうした?と言わんばかりに、不敵に笑ってみせた。


白那
「防御が高かろうが、最後まで倒れなきゃ良い!」
「オレは絶対に倒れねぇぞ!?」

ディアルガ
「ぐっ…ならば、死ぬまで殴り続けてやろう!」
「最後に立っているのは私だ!!」


ふたりは死に物狂いで殴り合う。
互いに何度も体を揺らし、ダメージを蓄積させていく。
何分間も止まらずに、ふたりは殴り、蹴りと、とにかく当てれる技をコツコツ当てていった…
そして互いに息を切らした頃、ふたりは遂に動きを止める…


白那
「はぁ…はぁ……」

ディアルガ
「くっ……」


既に互いは全身を痣だらけにしていた。
ディアルガの鎧もほとんどが砕け散り、もはや鎧の体を成していない。
しかし、どれだけ体力を失っても、互いの能力は衰えなかった。
例えスピードは落ちても、それは互いに同じ。
この決着は、まだ着かないのか…?


ディアルガ
「…褒めてやるぞ、この私をここまで追いつめるとはな」

白那
「…いい加減、鬱陶しくなってきたよ」
「だが、そろそろ…終わりだな」


そう言って白那さんは思いっきり右腕を後に振りかぶった。
もしかしなくても大技の態勢だが、この状況でそんな隙の多い技は…!?


ディアルガ
「馬鹿め! 自ら痺れを切らすとはな!!」


当然の様に笑うディアルガ。
そして、ディアルガは白那さんの大技が放たれる前に、心臓を目掛けて手刀を伸ばした。
自らの時間を加速させる事により、そのスピードは尋常ではない速度を叩き出す。

白那さんの能力と同様、見てから回避するのはほぼ不可能の攻撃。
だが、ディアルガの様子がおかしかった…
ディアルガの体は手刀を構えたまま、一向に前に進まないのだ。
その姿を見て、白那さんは薄く笑う。
そして、白那さんは隙だらけのディアルガの体を、空間ごと横に両断した。


ドバアァァァッ!!


ディアルガ
「がっ!? はっ…!!」


空気を切る…とか、そんな感じの音じゃなかった。
まるで聞いた事の無い切断音と共に、ディアルガの体が力無く地面に落ちる。
上半身と下半身が完全に切り離され、下半身が時間差で後に倒れた。


白那
「…テメェは、人間の体を理解してなかった」

ディアルガ
「何、だと…?」

白那
「テメェの時間加速は、自分の体を加速させて超スピードを出す能力だ」
「だが、それは同時に疲労も比例して加速倍加する」
「ここまでただの殴り合いとはいえ、出血も相当だ」
「人間の体ってのは、そこまで頑丈じゃない…テメェは最後の最期でそれを過信したんだよ」
「最後の攻撃で体が動かなかったのは、加速によって疲労の限界を一気に超えたからだ…」


白那さんはそう言って敗因解説を行い、ディアルガを見下ろした。
ディアルガは、もはや頭が回っていない様で、話も聞けているのか解らない程に狼狽えている。


ディアルガ
「こんな…こんな馬鹿な事が!?」
「創造主様! どうかもう1度チャンスを!! 次こそは、必ず…!!」


ディアルガは両手を天高く上げ、そう懇願する。
まさに哀れな狂信者だな…
白那さんは、そんなディアルガを見て、何故か悲しい目をした。
そして…そこにいるのは、もういつもの白那さんだった。


白那
「…お前は、元々冷血だったよな」
「夫婦円満なんて…そんな奇麗事、オレは信じてなかったけど…」
「だけど、子供たちの事だけは…出来れば愛してほしかったなぁ~」

ディアルガ
「創造主様! 創造主様ーーー!!」


白那さんの悲しい願いは、空しく響き渡る。
そして、ディアルガの体は光の粒子となって霧散していく。
これで、終わったんだな…



「…白那、さん」

白那
「…オレたちは、さ」
「人間みたいにして、生まれた夫婦じゃなかった…」


白那さんは肩を弱々しく落とし、静かに語り出す。
俺は何も言わずに、その背中に歩み寄って行った。


白那
「娘たちも、アイツが腹を痛めて産んだ子じゃない」
「ましてや、血すら繋がってない」
「だから、オレたちの間に愛情なんてこれっぽっちも無かった…」


「でも、白那さんは愛してしまった…」
「白那さんは娘の事が大好きで、それを護りたかったから、この世界を見限ったんですね…?」


俺の言葉を背に受け、白那さんは震えていた。
涙を堪えているのが解る。
俺は、阿須那を棗ちゃんに預け、白那さんの背中に抱き付いた。



「俺は、白那さんの優しさに何度も救われました」
「軟禁状態の時でも、毎日欠かさず会いに来てくれた白那さんは、俺の心をいつも癒してくれた」

白那
「…でもっ! オレはその度に棗に記憶を消してもらってた!」
「あの時のオレは、身勝手に娘を利用してキミに会っていたんだ!!」
「そんな事をしたら、自分が消えるのは解っているのに!」
「それでも! キミに! 会いたかったんだっ!!」


白那さんは思いっきり振り向き、俺に上から抱き付く。
俺は倒れそうになるが支えてみせた。
そして、何も言わずに白那さんの背中を優しく擦って安心させる。


白那
「もう、本当は離れたくない…!」


「…でも、もう」


既に修復は始まっていた。
世界は徐々に光へと変わり、白那さんたちもまた光に変わっていく。
俺は白那さんを体から離し、泣いている白那さんに向かって笑った。



「これは、運命なんかじゃないです」

白那
「え?」


「俺たちの出逢いは…運命なんて言葉で片付けられる物じゃない!」
「だから、また…会えますよ、きっと」


俺は白那さんを元気づける為にそう言った。
そして、白那さんは涙を流しながら、目を瞑ってゆっくり頷く。
これは、永遠の別れじゃない…むしろ始まりなんだ。
俺は、例え約束を破る事になろうとも、白那さんには再会を約束する。
そして、白那さんも優しく微笑み返してくれた。


白那
「…ゴメンね、結局約束はまた後回しだ」


「良いですよ、また次に会った時で」


「…聖さん」


俺は棗ちゃんから阿須那を譲り受ける。
俺は阿須那を背に背負い、そして皆を改めて見た。



「…まぁ、とりあえず礼は言う…ありがとな」


「…これで、この世界は救われるわね」

夏翔麗愛
「…お父さん」


俺は、無言で笑って夏翔麗愛ちゃんの頭を撫でてあげる。
夏翔麗愛ちゃんは何故か複雑そうな顔をするも、それでも最後は笑い返してくれた。


白那
「もう、行くんだね?」


「はい、後ひとり…大切な家族が待ってるんで」


俺はそう言って雫の力を行使する。
そして、世界が作り替えられていく中、俺は皆が手を振ってくれるのを笑顔で眺めた。



………………………




「………」

華澄
「聖殿! 阿須那殿も、よくぞご無事で!!」


俺は華澄の出迎えを受け、阿須那を背中から降ろす。
阿須那はキョロキョロと辺りを確認するが、状況が解らないのかこう叫ぶ。


阿須那
「何やここ!? まさか地獄かっ!?」
「皆揃って、地獄に落ちたんか!?」

恵里香
「ある意味、そうでもあるかもね」
「もっとも、ここでは地獄の苦難は待っていないけど♪」


恵里香はクスクス笑うが、阿須那は何ひとつ理解が追い付いていない。
全く、恵里香のこの癖は何とかならんのか…?


女胤
「とりあえず、落ち着いてください」
「ここはかなり特殊な場所で、いきなり理解しろと言う方が無茶な世界ですので…」

阿須那
「つーか、何でウチ無傷やねん?」
「かなりズタボロにされて眠ってたはずなんやが…」


「とりあえず、ここでは現実の肉体は一切関係無い」
「まずは、落ち着いて話を聞け…」


俺がそう言うと、阿須那はため息を大きく吐き、その場に座った。
それを見てか、俺たちもあえて座って語る事にした。
…何か奇妙な光景だな。
ここでは足の疲れとか一切無いんだが…


阿須那
「とりあえず、どうなってん一体? ディアルガのアホは倒せたんか?」


「ああ…白那さんがキッチリとカタを付けてくれたよ」


阿須那はそれを聞いて白那~?と唸った。
そういえば、名前知ってるわけ無いわな…


阿須那
「何やアンタ…? ウチの知らん間に、また女連れ込んだんか!?」


「アホかっ! 白那さんはあのパルキアさんの事だよ!」


俺がそう言うと、阿須那はギョッとした。
ちなみに華澄と女胤も同様の反応だ。


華澄
「あ、あのパルキア殿が助けてくださったのですか!?」
「それに、白那とは…聖殿が名付けて?」


「ああ、そうだよ」
「今回は白那さんのおかげで勝てた様なもんだ」

女胤
「…あのパルキアが」


女胤はちょっと信じられない…という感じだな。
白那さんとは何だで敵対してたわけだし、3人にとってはあまり良い印象は無いのかもしれない。


華澄
「拙者は信じます」

阿須那
「………」

女胤
「まぁ、そこまで疑うわけではないのですが…」
「あの戦いは、まさに死闘でしたからね」
「敵はまさに、命を賭して私(わたくし)たちを殺しに来たのですから…」


3人は表情を暗くする。
あの時の戦いを思い出しているのだろう。
やはり殺し合いをした仲だけに、割り切れない所はあるのかもしれない。



「白那さんは、本当に良い人だよ」
「あんなに優しくて、強くて、大切だと思える人は…そうそういないって位には」

華澄
「聖殿は、そこまであの方の事を…」


俺はあえて頷く事はしなかった。
決して華澄たちをないがしろにしているわけじゃない。
出来るなら、皆一緒に家族として俺は過ごしたい位だからな。


阿須那
「…なぁ、良かったら聞かせてや?」
「アンタがあの城におった時の話」


「そうだな、でもそれは守連も一緒の時に出来れば話したい」
「それまでは、コイツでも見ておいてくれ…」


俺はそう言って宝物の手記を阿須那に渡す。
阿須那はそれを手に取り、不思議そうな顔をしてページをめくった。
そして、以降は割と真剣な顔をし、じっくりと読んでいく。
流石に気になったのか、華澄と女胤も阿須那の隣に回って眺め始めた。
とりあえず、しばらくは休憩だな…疲労が無いから、する意味無いんだけど。



………………………



阿須那
「…あんな素晴らしい人たちを、忘れてんじゃねぇぞクソヤロウ!? ねぇ…」

華澄
「ふふ、聖殿らしい手記だと思います」

女胤
「そうですね…これを読めば、いかに聖様が彼女たちに大切にされていたかが解りますわ」
「そして、パルキアの悲哀も…」


全員が俯いてしまった。
そう、皆は知らなかったのだ…白那さんたちが何故あんな暴挙に走ったのか。
そして、もう止まる事も出来なくなっていた事も。
手記には真相が含まれていないが、その真相に関しても説明はした方が良いかもしれないな。



「アルセウスの暴走により、白那さんと阿須那がいたあの世界は滅ぶ未来になった」
「白那さんは、それに娘たちが巻き込まれるのを良しとせず、世界を見限って別の並行世界に逃げたんだ…」
「そこで、白那さんは娘と一緒に人化を果たし、俺の造ったクソ世界に巻き込まれた…」


華澄
「…拙者たち4人が選ばれた、幸せな夢を見るだけの世界…ですか」

女胤
「…その世界の理に則り、私たちを殺して自分たちが聖様の家族に取り入る」
「実に、自分勝手な計画ですわね…」

阿須那
「…せやけど、もうそれしか道は無かった」
「考えてもみぃや? ウチ等かて同じ状況で立場が違ったら…同じ事はしたかもしれへん」

華澄
「そ、それでも…拙者は」

女胤
「絶対にしないと言い切れますか?」
「大切な家族が確実に滅ぶと解っていて、それで唯一の選択肢を示された時、それでも華澄さんは家族を見捨てて滅びを受け入れますか?」


女胤の言葉は、華澄に強く突き刺さった様だった。
華澄は舞桜さんと1度殺し合っている…痛い程解っているはずだ。
そして、華澄は白那さんの事も信頼してくれてる。
その白那さんが、あれ程のクソ選択肢を涙ながらに選んだんだ。
華澄だって、同じ事をしないとは言えない。


阿須那
「ウチなら、迷わず同じ選択をするわ…」
「状況は逆やったけど、家族を護る為ならウチだって選択する」
「…そうなったら、ウチの方が毒づいとったんかな?」
「この悪魔め…って」


阿須那は俯きながら拳を握り、震えていた。
悪魔、か…確か阿須那は藍とゲンガーさんを相手にしてたんだったな。
藍の奴、きっと怖くて泣いてたんだろう。
阿須那はそんな藍をも殺そうとしたのだろうか?


阿須那
「…ウチは、半分後悔したわ」
「アグノムを追いつめた時、アイツわんわん泣きよった」
「そら、子供やさかいな…そんな泣き声聞いて、ゲンガーは半死半生の体でアグノム逃がす為に自爆しよった」
「ウチは、何やってんのか訳が解らん様なったわ…」
「アレやったら、まるでウチが悪役やん…」


「そう、か…ゲンガーさん、最期は自爆したのか」


俺は状況を想像して泣きそうになる。
藍が泣き叫んでゲンガーさんが自爆…これ程容易に想像出来てしまうシチュエーションは無い。
それでも、藍は阿須那を真っ先に助ける算段を立ててくれた。
きっと藍も、阿須那がただ憎くて戦った訳じゃないんだ…


女胤
「私と戦ったラランテスも、エムリットを逃がす為に最後まで退きませんでした」
「彼女たちは明確にあの子供たちを第一に考えて戦っていましたわ」

華澄
「愛呂恵殿もそうです、戦いの最中に隙を見せてでもユクシー殿を城外に逃がしていました」
「愛呂恵殿は強かった、拙者がもし途中で諦めていたら…」
「拙者がもし、殺す事を躊躇っていたら…死んでいたのは拙者でござった」


華澄は思い出して体を抱える。
余程の激闘だったのだろう…内蔵破裂して、肋骨がほとんど折られてたんだからな。
改めて愛呂恵さんの執念が伝わって来るダメージだった。


恵里香
「…あの戦いは、決して善悪論で語るべき戦いじゃない」


「ああ…そして、もう2度とあんな悲劇的な戦争を起こしてはならない」

華澄
「…はい」

阿須那
「…せや、な」

女胤
「決して、彼女たちはただ殺したいから戦ったわけではありません」
「退くに退けない理由があるからこそ、犠牲を払ってでも抗った」
「そういう点においては、むしろ私は尊敬の念すら抱きますわ…」


最後に女胤がそう締めた。
そして、場の空気がしんみりとする。
もう終わった事とはいえ 、やはりあの戦いはただの悲劇だった。
意味がある戦いになったとはいえ、もうあんな思いは2度としたくない。


恵里香
「さて、次はいよいよ守連だね」


「ああ、これで最後だ」
「守連を助けたら、俺たちはアルセウスに最終決戦を挑む」
「今度は絶対に諦めない…!」


俺は拳を強く握り、決意を固める。
騰湖たち、舞桜さんたち、そして白那さんたちとも約束した。
必ず、また会おうと…
俺は皆の信頼に答えてみせる。
そして、信じる…俺が選んだ4人が勝つんだって!!


阿須那
「そういや、気になっとったんやが…」


「あん? いきなりどうした?」


折角意気込んだというのに、阿須那が水を差す。
そして、何やら不信な顔を俺に向け、こう言い放った。


阿須那
「その白那さんの体は、気持ち良かったんか~?」


「……は?」


俺は全く理解が出来なかった。
いや、そりゃ抱き締められた時はホントにドキドキはしたけどさ…
あれは、確かに気持ち良かったなぁ…本物の母さんみたいで。
俺は頬を赤らめ、照れる様に頬を掻いた。
その様子を見て、阿須那は更にこう言う。


阿須那
「…図星かいな!? そんなにあの女の体が良かったんかいな!!」
「何発や!? 何発膣内射精したんや!?」


「何言ってんだテメーーー!?」
「お、俺はフツーに抱き締められただけだ!!」
「断じてやましい気持ちで白那さんに抱かれたんじゃない!!」

女胤
「ちょっと待ってください!? 抱かれた!?」
「まさか、無理矢理犯されたんですの!? 逆レイプ!?」

華澄
「あ、あの、ふたりとも落ち着いて~」


女胤まで勘違いを起こし、もはやパニックに。
華澄は普段見る事は出来ないであろう狼狽えている姿が…
俺はとりあえずこう叫ぶ。



「俺の童貞は不沈艦だーーー!!」

一同
「………」


俺は色々後悔する。
何をこんな所でバカな事を叫んでいるのかと。
そして、ますは恵里香がクスクス笑ってこう言う。


恵里香
「アッハハハ! 聖君、まだ童貞なんだ~♪」
「良かったら、ボクが初体験させてあげよっか?」

女胤
「お黙り小娘!! そんな貧相な体でどうやって聖様を満足させますの!?」
「ここは、ボディラインも完璧な私が聖様のお相手を…!」

阿須那
「引っ込んどれ女胤! 聖はむしろウチ位の巨乳が好きなんや!」
「バランスは認めたるが、聖の心を奪うのはウチみたいな特化型や!!」


もう、メチャクチャだ。
気が付けば俺の童貞を落とす事を前提に話が進んでいる。
バカめ…俺の童貞は不沈艦よ。
今の所、誰にも譲る気は無い!!


華澄
「…はぁ」


な、何か、あの華澄さんが諦めた様なため息をなされた!?
かつて、ここまでさげすんだ顔の華澄さんは見た事無いですよ!?


華澄
「皆様、その辺りに致しましょう」

阿須那
「何言うとんねん!? ここではっきりさせようやないかい!?」

女胤
「そうですわ! 聖様には誰が1番なのか!!」

恵里香
「これは、ボクも退けないね~」


俺は、体温が一気に下がるのを実感した。
今までなら、この空気は守連が発する物だったが、今回は全く別の方向から発せられている。
そして、その気を発する者が、静かにこう言った…


華澄
「ならば、拙者は聖殿を護る為…全力で皆様を排除させていただきますが?」
「それでも…よろしいか?」


全員が息を飲んだ。
無論冷静に考えて、この世界では肉体に傷は与えられない。
まぁ、この華澄の迫力の前では、そういった設定が頭から抜けてしまうだろうがな…


阿須那
「い、いや…何もそこまでせんでも」

女胤
「そ、そうですわ! 華澄さん、少し落ち着いて!?」

華澄
「ならば、聖殿に不利益になる様な争いは控えられよ」
「拙者は、聖殿を護る為なら…汚い事も平気で出来るでござるよ?」


その言葉と視線に、全員が体をブルッと震わせた。
守連の様なタイプの怖さじゃない。
華澄独自の、まさに悪タイプの怖さが如実に解った気がする…
華澄さんも絶対に怒らせたらダメだ!!
こうして、俺は本日2度目の怒らせたらダメ! 絶対!!のリストを更新するのだった…










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第4話 『パルキアの愛、白那の想い』


To be continued…

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