第5章 第3話

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読了時間目安:82分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「◯ロモンよ! 私は帰って来たーーー!!」

恵里香
「お帰り聖君、遂に…ひとつ成し遂げたね♪」


俺はネタの叫びをあげ、重い頭を誤魔化しながらも意識を覚醒させる。
どうやら、女胤共々ちゃんと戻って来れた様だな。
女胤は俺の腕に抱かれたまま、少しづつ意識を覚醒させていった。
俺は驚く女胤を腕から下ろし、とりあえず立たせてみる。
ここでは、足場のベクトル概念は本人の意志に委ねられるから、慌てると無茶苦茶な立ち位置になっちまうが…
女胤はさほど慌てる事も無く、俺たちと同じ目線で立ってみせた。

そして、キョトンとした顔で周りを確認し、女胤は俺たちの顔を見てこう聞く。


女胤
「…こ、ここは? それに、聖様!?」

恵里香
「とりあえず、初めましてだね…」
「ボクは恵里香…ようやく会えたね」


恵里香は長かった…といった表情で女胤を見る。
女胤は流石に戸惑っている様で、まずは俺から説明してやる事にした。
恵里香の初見会話は、聞く者にとってはキング◯リムゾンだからな…



「女胤、コイツはとりあえずセレビィの恵里香だ」
「俺はコイツと手を組んで、お前を滅びの未来から救い出した」

女胤
「…成る程、まさか聖様が助けてくださっただなんて」


女胤は何だか複雑そうな顔をしていた。
まるで、こうなるのを望んでいなかったかの様な顔で。
いや違うな、女胤の事だからどうせ自分の事を不甲斐ないとでも思ってんだろ。
まぁ、その辺はおいおい話すとして…



「…とりあえず、どうやって女胤を回復させる?」

恵里香
「とりあえず、安全な世界に世界送り(ワールドメール)で送って、気長に静養…が本当は理想なんだけど」
「ボクの世界送りは一方通行だから、キミが一緒にいないと帰っては来れない…」
「だから、とりあえず回復は置いておいて、まずは華澄ちゃんを救いに行こう」
「恐らく彼女も他のふたりも、相当瀕死に近い状態になると思うけど…」
「回復は全員救出してからでも構わないと、ボクは判断する」


確かにそれが良い気もする。
だけど、ここにいる限り時間の概念は無いも同然。
だから、俺はあえて聞いてみる事にした。



「…それは、女胤を回復させてからでも、変わらないんじゃないのか?」

恵里香
「…それだと、アルセウスに感づかれて刺客を送り込まれる可能性がある」
「特に1度発見されたら、それだけ次のチャンスは減っていくと思った方が良い」
「可能なら、回復は1度だけのチャンスで終わらせるのが理想だよ?」


俺は、それを聞いて何も言えなかった。
安全な世界で回復自体は構わないが、ひとりづつやるとその度に危険が高まるのか…



「…そんな簡単に感付かれる物なのか?」

恵里香
「…パルキアの最期を見ただろう?」
「あの限られた空間ですら、84日かかったとはいえ、最終的に感付かれて刺客を送り込まれた」
「パルキアが助けてくれなければ、キミたちは既に死んでいたんだよ?」


俺は、あの時の事を思い出す。
何者かの手によって、心臓を貫かれたパルキアさん。
俺が必ずアルセウスを倒すと決意させた憎き相手…
だけど、俺は憎しみを抱かない。
負の感情は、夢見の雫を濁らせる。

夢見の雫は正しい心で使わなければ、どんどんその色を濁らせていく。
最終的に完全な負の感情に染まれば、溜められた負の感情は取り返しのつかない暴走を引き起こすかもしれない。
俺は、それだけは絶対に避けなければならないと、何故だか確信していた。



(俺は正しい心で雫を使う)


最初は完全に透明だった夢見の雫…
今もまだ若干透き通ってはいるものの、既に様々な色が付いて濁ってはいる。
これは、今まで俺が使用した分の濁りだ。
人間である以上、完全に負の感情を無くす事なんて出来ないという証明でもある。
ましてや、当時の俺は小学生…それこそ無邪気な心のままに使っていたろう。



「…分かった、まずは全員救出だな」

恵里香
「それが良いよ…全員同時に回復させるなら、刺客を送り込まれる確率も下がる」
「もちろん、救出の度に毎回ボスを倒せれば、その後が1番安全なんだけど…」


そう上手くはいかないわな…騰湖たちの様な味方が都合良く現れるとは限らないし。
以前の様な無念は、もう御免だ…
女胤をただ危険に晒すわけにはいかない、慎重に事を進めよう。
とりあえずここにいるなら、女胤の本体は時間が進む事も無いからな。


女胤
「あの、質問よろしいでしょうか?」

恵里香
「何だい?」


女胤は右手を肩の上辺りまで上げて、恵里香に言う。
恵里香は特に気にもせず、女胤の言葉を待った。


女胤
「ここは、一体何なんですか?」
「後、私は少なくとも瀕死だったはず」
「何故、私の傷は何も無いのですか?」

恵里香
「…ここは、時空の最果て」
「ここでは、肉体の消耗は意味を持たない」
「本来のキミの肉体は確かに瀕死だけど、ここではその損傷は意味を持たなくなる」
「まぁ、細かい事はおいおい説明するよ…」
「まずは、聖君…次の世界はあれだ」


恵里香はそう言って次の世界への道を示す。
さて、次は華澄を助けるとするか…
女胤の力を借りられないのは残念だが、それも仕方ない。
俺は決意を固め、華澄の世界に走って行く。
やるしかないんだ…皆と、世界を救う為には!!



………………………




「……っ」


俺は、無事に華澄の世界に辿り着く。
だが、開幕は当然丸腰の無防備だ。
しかも、今回は騰湖や鳴たちの力は借りられない。
もしかしたら、喜久乃の様なイレギュラーはいるかもしれないが、あまり期待しない方が良いだろう。

本来なら、雫の限界まで何度もコンティニューしてやり直す事が前提の戦いだからな。
1発勝負で勝つなんて、元々虫が良すぎる。
俺は、俺の持っている強みで戦うしかないんだ…!
俺はそう強く思い、まずはスマホを耳に当てた。



「…まず、方角を頼む」

恵里香
『…確信が無くて悪いけど、とりあえずそのまま真っ直ぐ進もう』


「…確信が無い?」


世界を見渡せる恵里香にしては、珍しい言い方だった。
それとも、それ程までに解り難い何かがあるのか?


恵里香
『正直、その世界は以前とは違いすぎる』
『女胤ちゃんの世界を修正したせいなのか、それとも人化の影響なのか…少なくともこの世界は以前よりも食い違いが多すぎるんだ』
『地形の形は何となくあってる気はするけど、曖昧だ』
『敵の気配も近くに少なからずあるし…ここは、上手く隠れながら進もう』


俺はそれを聞き、まず周辺を見渡す。
前回と違い、今回は最初から森。
それも明らかに鬱蒼と繁る森で、背の高い草が大量に群生していて視界が悪すぎる。
これは森というより、むしろジャングルだ…気温もかなり高い。

それなりに生物は住んでいるのか、野鳥や虫の声が所々に聞こえてくる。
静けさは何も無い…返ってそれが怖い位だ。
少なくとも、アルセウス配下のポケモンに出会えば俺は一瞬で死ぬ。

とにかく生き延びなきゃならない…!
何が何でも、華澄を見付けて最果てに舞い戻る!
本当はボスを倒して世界ごと修復出来れば最良だが、恵里香も言った様に、俺ひとりでそんな事は絶対に出来ない。
俺ひとりでは、逃げる事しか出来ないのだから…



………………………



恵里香
『次は、左だね…敵が潜んでる、過ぎ去るまでは待った方が良い』


「………」


命を賭けたスニーキングが、これ程怖いとは思わなかった。
これが、フツーのポケモン相手ならまだマシだったんだが…
ここにいるのも異形と言えるポケモン人間たちばかり。

肉体要素すら皆無で、剣から手足が生えただけのニダンギル。
顔以外マトモな人間に見えない岩肌のガメノデス。
もはや木の姿に人間の頭が乗っているだけのオーロット。

正直、嫌悪感しかない…
アルセウス配下のポケモンは、何故こんなにも異形なんだ?
まるで、中途半端に人化しただけの様な…


カツン…


そんな、軽く…本当に軽く、まるで石を蹴る様な音と共に、何かが爪先に当たったのを俺は感じる。
そして、俺は恐る恐る足元にゆっくりと視線だけをやった。
するとそこには…小さな頭のメレシーっぽいのが地面に埋まっていたのに俺は気付く。
本来なら可愛いポケモンのメレシーだが、コイツもアルセウスの影響で暴走している異形のポケモン。

そんな、人間とは思えない感情の無い視線で、ソイツは俺と目が合った。
瞬間、俺は他の敵の目も気にせずに背を向ける。
そして、数秒後……


ドッバァァァァァァァァァン!!



「っあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


俺はメレシーの『大爆発』で吹き飛ばされる。
メレシー特有の岩肌の破片が俺の足や背中に突き刺さり、俺は痛みで悶絶した。
そして、それが狼煙となったのか、多数の敵が俺を囲み始める。
素直にダメだと思った…今回は流石に無理だ!
雫の力でコンティニューするしかない…多少濁るかもしれないが、ここで終わるよりかはマシだ…
何より、俺が死んでからじゃもう戻れない!
ダメージひとつですら、そのまま引き継がなきゃならないのだから…!


ヒュン! ビシィッ!!



「!?」


突然、俺に1番近付いていたいたオーロットの頭が、黒い矢に貫かれる。
そのままオーロットは動かなくなり、頭を串刺しにされたまま息絶えた。
俺は何事かと思うが、次の瞬間何者かに体を抱えられ、その場から高速移動する。



「なっ、何なんだ一体!?」


「…大丈夫、間に合ったから」


声の方を向くと、俺を片手で抱えて走る美女が見えた。
赤く、たてがみの様にも見える長い髪。
頭には阿須那と似た感じのケモ耳が生えている。
身長はかなり大きく、190cmはあるだろうか?
服は黒いジーンズに白いシャツ。
その上に赤のジャケットを着ており、その姿は明らかにアルセウス配下のそれとは思えない人間性だった。
そして、ある程度逃げた所で、彼女は俺を優しく地面に下ろす。
俺は改めて息を整え、助けてくれた女性を見た。



「あ、ありがとうございます! でも、貴女は一体…?」


「…私はウインディ、貴方を助ける為に来た」


そう言った女性は、とても嬉しそうな顔で微笑んでくれていた。
大人っぽい雰囲気で、やや内気そうだが冷静そうな口調。
しかし、それに込められている力強い何かは、俺を助けると本心で言ってくれている様に感じた。


ニダンギル
「シィァァァァァッ!」

ウインディ
「!!」


ドォォォォォンッ!!



「うわっ!?」


静かに近付いて来たニダンギルに対し、ウインディさんは即座に反応して拳を降るい、拳から炎を爆発させた。
流石に鋼タイプが砕ける事は無かった様だが、それでも人体的には即死の様にも見える。
ウインディって事は、『フレアドライブ』辺りだろうか?
『炎のパンチ』は覚えないからな…もっともザコ相手に使うには少々危険なんじゃ?



「大丈夫ですか!? 今の、反動とかあるんじゃ…」

ウインディ
「気にしないで、あの程度の相手なら大した反動でもない」
「それより、ここは危険…まずは離れる!」


そう言ってウインディさんは俺を再び抱え、一瞬でその場を離れる。
あまりのスピードに俺は呼吸を乱すものの、目を瞑り息を止めて耐えた。
そして、数秒後俺は呼吸を荒くしながらも、何とか目を開けて状況を確認する。
どうやら森を既に抜けてしまった様で、気が付けば川のせせらぎが聞こえる水場に移動していた。


ウインディ
「…ゴメン、苦しかった?」


そう言って、心配そうに彼女は俺の顔を胸で抱き締める。
ぐはっ…このサイズ、華澄や愛呂恵さんと同格と見た!
俺は劣情を抑えながらも、何とか言葉を返す。



「だ、だ、大丈夫です!」
「ですから、離してもらえますか!?」

ウインディ
「あ、ゴメン…」


そう謝り、ウインディさんはシュン…と悲しそうな顔をして、俺を離す。
頭から生えてるケモ耳も、垂れて感情を表現していた。
な、何か大人なんだけど、子供っぽい所もあるんだな…?

俺は改めて自分の足で立ち上がり、周りを見る。
森の出口付近だが、場所は開けていた。
以前と同じ様なら敵は相当数出てくるはず…ウインディさんひとりではキツいかもしれないな。



「ウインディさん、とりあえずここを離れましょう!」
「敵は相当多いはずだ、見付かりやすい場所で同じ所に留まるのは得策じゃない」

ウインディ
「…いや、少し待つ」
「まだ、仲間と合流出来てない…」


仲間…? まだ、仲間がいるのか?
だとしたら、朗報だ。
俺にとって、仲間はいればいる程有りがたい。
ましてや、このウインディさん位の強さがあるなら、ボス打倒の期待感も出てくる。
流石に騰湖や鳴とは比べられないだろうが、決して大きく劣る力じゃないはず。



「その仲間は、どれ位で合流出来るんですか?」

ウインディ
「少なくとも、ひとりはもう…」


バシャァァッ!!


ガメノデス
「あああぁぁぁぁっ!!」

ウインディ
「!?」


「ウインディさん!?」


突然、水中からガメノデス男の不意打ち。
ウインディさんは、背後からの奇襲に若干反応が遅れていた。
いや、あれはただの速度じゃない、速度を明らかに上げている!
見ると、ガメノデスの岩肌が剥がれて細身になっているのが確認出来る…恐らくは『殻を破る』だ!

攻撃性能を倍加させるが、その分防御力は下げる技…しかしザコは所詮ザコ、そんな後先なんて一々考えてない!
マトモに攻撃をもらったら、ウインディさんは岩にしろ水にしろ効果抜群…!
だけど、俺がどうこう出来るレベルでもない。
もう、俺には祈る事しか出来なかった…


バッシャァァァァッ!!


ガメノデス
「ぎぃぁぁぁっ!?」


ガメノデスがウインディさんの背中に襲いかかろうとした直後、ガメノデスの速度を遥かに上回る速度を持って、水を纏い、体当たりする何者かが現れる。
ガメノデスはそれによって吹き飛ばされ、川原に落ちて無防備になった。
それを見た瞬間、ウインディさんがすかさず走る。


ウインディ
「はぁぁっ!!」


ガッ! バチバチバチィ!!


ウインディさんは地面にダウンしたガメノデスの顔面に電気を纏った拳を浴びせる。
ウインディが覚える電気技って事は、『ワイルドボルト』か。
この人、躊躇なく自傷技を使うな…何だか心配になってくる。

ガメノデスは完全に意識を絶たれた様で、そこから起き上がる気配は無い。
今ので死んでる可能性もあるわな…ウインディさんの力なら相当な威力だと思うし。

そして、俺は改めて割り込んで来た謎の人物を見る。
全身を青いレインコートで覆い、細かい部分は何も解らないが、女性なのは確実に解る程の大きなバストサイズ。
レインコートの上からでも、大きさが解る程に突き出ているその両胸は、ウインディさんに勝るとも劣らなかった。
いや、身長比で言えば、こちらの方が大分低い分、むしろカップサイズは上かもしれない!
ぬぅ、しかし…この人がウインディさんの仲間なのか?



「ウインディ~今更だけど、あんまり体力犠牲にしない方が良いよ~?」

ウインディ
「…フローゼル、ちょっと遅い」


レインコートの女性は『フローゼル』と呼ばれた。
成る程、水タイプとは予想してたが、フローゼルだったのか…
レインコートに覆われてると、全身が解らないから判断し難いわな。
俺がそう思ってたのを鑑みたのか、フローゼルの女性はレインコートのフードを脱ぎ、頭部を露にした。
そこから見えた顔は、少しやんちゃそうな感じで、ウインディさんに比べたらやや幼くも感じる。
髪は茶色の短髪で、後髪が首の下辺りまで伸びる位。
目は釣り眼で、ややキツそうなイメージもあるが、表情からは飄々としたイメージの方が上回っていた。

そして、ある意味特徴とも言える八重歯が、太陽光の反射でキラリと光る。
フローゼルだしな…顎は強そうだ。


フローゼル
「遅いって、ウインディが後先考えずに『神速』なんて使うからでしょ~?」
「いくらアタシの『アクアジェット』でも追い付けないっての…」

ウインディ
「…聖さんを護る為」


ウインディさんは真面目にそう答える。
それを聞いてフローゼルは頭を抱え、ため息を吐いた。


フローゼル
「…アンタがぞっこんなのは解ってるから」
「せめて、自傷行為は控えなよ? 聖さんが心配するし」

ウインディ
「…問題無い、聖さんの為なら死ぬのは怖くない」


「止めてくれ!!」


俺は強い口調でそう言った。
俺の言葉にウインディさんはビクッと体を震わせ、驚いた顔をする。
俺は俯きながら、こう言葉を続けた。



「俺の前で、死んでも構わないとか…絶対に言わないでください」
「俺は、もう誰も失いたくない…!」
「俺は! 例え偽善と言われ様とも、皆を救いたいんだ!!」


俺の前で言葉を受け、ウインディさんは呆然としている。
フローゼルはアハハと笑い飛ばしていた。
そして、笑いながらフローゼルはこう言う。


フローゼル
「ウインディ~? やっぱり聖さんの言う事は聞いた方が良いんじゃない?」

ウインディ
「当たり前…聖さんがそう言うなら、私は絶対に死なない」
「ちゃんと生き残る…皆の事も護って」


フローゼルの言葉を受け、ウインディさんはそう言った。
このふたりは、よく解らないが俺の味方だとは解る。
だけど、何故か危うくも見える。
特に、ウインディさんは以前の華澄に似てる気がした。

俺の為なら簡単に命を捨てる覚悟。
それは間違いなく高潔で、主思いの強い意志だろう。
だけど、俺はそれを望まない。
俺が望むのは、全員の生存。
仲間は嬉しいが、死ぬ事前提の戦いは絶対に望まない。
もう、パルキアさんたちの時の様な思いは…ゴメンだ。


ウインディ
「ゴメン、なさい…聖さん」

フローゼル
「そう思うなら、考えなよ?」
「聖さんはこんな風に優しい人だから、自己犠牲なんてやっぱりナンセンス…」
「むしろ、ここからの戦い考えたら、安全策で行かないと…」


フローゼルはウインディさんをそうたしなめる。
ここまでの会話を聞いてると、フローゼルはウインディさんと同じ位の年齢なんだろうか?
かなり気さくな感じだけど、気になってしまうな…



「ちなみに、ウインディさんたちは年齢どの位なんですか?」
「少なくとも、俺より上には感じるんですけど…」

ウインディ
「…私は21」

フローゼル
「アタシは19だね~」


って事は、ふたりとも俺より上なのか…
なら、フローゼルにもちゃんと礼儀は弁えた方が良さそうだ。
…そういえば、騰湖と鳴も一応年上だっけか?
アイツ等は初めて会った時と年齢が違ったせいもあるが、結局そのままの対応だったな…



「やっぱり、俺より年上なんですね…」
「それじゃあ、フローゼルさんもウインディさんも、何で俺を助けてくれるんですか?」


俺があえてそう聞くと、ふたりはキョトンとしてしまう。
俺はそれに対して何も反応出来ず、ふたりの反応を待っていると、フローゼルさんは突然笑い出した。


フローゼル
「アッハハハハ! 何でって…」
「そんなの、アンタが好きだからに決まってんじゃん?」

ウインディ
「そう、私たちは聖さんが好き」
「だから、聖さんの為なら命も賭けられる」


ふたりは当たり前の様にそう言う。
だけど、俺は何ひとつ納得出来ない。
それとも、このふたりも俺のパーティメンバーだったのか?
俺は確認の為、スマホで恵里香に語りかけた。



「恵里香、このふたりは…?」

恵里香
『味方なのは確かだね』
『そして、過去に君が関わったのも確か』
『…やっぱり、これはキミの人徳みたいだね♪』


恵里香はそんな事を真面目に言う。
俺の、人徳?
俺みたいな自分勝手な生き物の人徳?
そんなの笑い話にもならない…と、言い飛ばしたい所だが。
俺が過去にやった記録はもう計り知れない。

…きっと、このふたりもその関係者なのだろう。
そして、今はそれにすがらなければ、事態が容易に解決しないのも解っている。



「お願いします! どうか、俺を助けてください!!」


俺はその場で土下座をし、ふたりにそう懇願した。
俺にはロクな戦闘力は無い。
だけど、このふたりは違う。
少なくともかなりの実力を持ってる。
今は、これに頼るしかないんだ!


フローゼル
「アハハハハッ! だから、助ける為に来たんだってば!」

ウインディ
「そう、私たち3人は必ず聖さんを助ける!」


土下座する俺に対し、ふたりは笑って手を差し伸べてくれた。
俺は改めてその手を取り、そして立ち上がる。
足や背中に刺さった岩の破片が大分痛かったが、今は我慢した。
そして、更に意志を固める。



「…3人か、3人も仲間がいるなら、きっとどうにかなるよな」
「……ん、3人?」


俺は周りを見て確認するが、ここにはウインディさんとフローゼルさんのふたりしかいない。
しかし、確かウインディさんは3人と言っていたはず。
もしかして、聞き間違いだったか?



「ウインディさん、仲間はもうひとりいるんですか?」

ウインディ
「………」

フローゼル
「あ~まぁ、いるにはいるんだけど…」
「あの娘、恥ずかしがり屋だから、多分姿見せないと思う」
「今も遠くから聖さんの事見守ってるしね~」


遠くからって…飛行タイプか何かだろうか?
少なくとも、この辺りは見張らしも悪くない場所で、隠れられる所はあまり無いはずだけど…


フローゼル
「…呼んでも出て来ないっしょ?」

ウインディ
「…無理だと思う」


「…一体誰なんですか?」


とりあえず聞いてみる事にした。
種族によっては意味があるのかもしれないし。
すると、フローゼルさんは少し悩んで…


フローゼル
「それよか、良い方法思い付いた♪」
「ねぇ聖さん、アタシに名前ちょ~だい♪」


そう言ってフローゼルさんは俺の腕に抱き付き、甘えた様にそう言う。
それを見ると、ウインディさんも耳をピコピコッと動かし、俺の逆の腕に抱き付いて来た。


ウインディ
「…フローゼルだけはズルい、私も欲しい」


何だかよく解らないが、名前を付ける方向になっている。
う~む、しかしネタが厳しいラインだな…
水と炎の野郎率の高さよ!!



「とりあえず、神狩(かがり)と水恋(すいれん)でどうです?」

ウインディ
「神狩…了解、それで良い」

フローゼル
「オーケーオーケー♪ アタシもそれで良いよ~」
「さて、じゃあとりあえず移動する?」
「この辺りも安全ってわけじゃないし~」
「お姉さんが寄り添って護ってあげよ~♪」


そう言って、水恋さんは楽しそうに胸を押し付けて俺に寄り添う。
神狩さんも、やや無表情ながら負けじと寄り添って来た。
そして、そんな俺たちのイチャつき具合を黙って見てられなくなったのか、2本の黒い閃光が突如として放たれる。


カカッ!!


水恋
「げっ!?」
神狩
「……!」


どうやら、ふたりの影に黒い矢が刺さっている様で、ふたりは驚いた顔をした。
そして次の瞬間、何者かに俺は無理矢理ふたりから引き剥がされる。
目に見えない、何かに掴まれて…



「ふたりとも酷い!! 解っててやってたんでしょ!?」


そう叫んだ何者かは、俺を空中に浮かし、今度は自分の腕でしっかりキャッチした。


(今のは一体何だ!? 何かに体を捕まれたみたい感じたけど、エスパーの類いか?)


何者かに空中で抱えられた俺は、ギュッ…と、強めに抱き締められ、豊満な胸に顔を埋める事になる。
ぐはっ…今回はおっぱい地獄だ!
もういつ昇天しても悔いは無い!!

その後、その何者かは俺を抱き締めたまま、地面にゆっくりと着地する。
ふわりとした挙動で、飛行タイプっぽさを連想させるな…


水恋
「ちょっ、まさかここまでする!?」


「だって、私を除け者にしようとしてたじゃない!!」
「しかも、私が最初にに貰うはずだった名前まで…!」


俺を抱き締めた女性はワナワナと震えている。
まさに怒り心頭、怒髪天を突くとでも言わんばかりに。
さしもの水恋さんも顔を青くしている様だ。
俺は彼女の腕から何とか離れ、1度距離を開けてじっくり姿を見る。



(草タイプ…っぽいな)


まず第一印象はそれ。
綺麗な緑の髪が肩にかかるまで伸びており、服は茶色のローブの様な物を羽織っている。
恵里香の物とは違い、マントの様に前は開いていて、胸元に手裏剣の様なオレンジ色の葉っぱ型ブローチが付いていた。
ローブの下はフツーの灰色シャツに、膝上位まで長さがある緑色のミニスカート。
靴は足首まで覆っている茶色のブーツで、動き回る事をそれなりに意識した格好に思えた。

そして、最後に顔をじっくり見る。
今はキッとしているが、目はどっちかと言うとタレ目で可愛らしい印象。
どちらかと言うと内気な感じにも思え、恥ずかしがり屋と言われるのも納得出来る第一印象だな。


水恋
「まぁまぁ~それはほれ、アンタが自分から出て来ないから…」


「敵がいるのに、姿を見せるスナイパーがいますか!?」


そりゃ、ごもっともだろう…
ってか、スナイパーだったのか?
と、ここで俺はすぐにピンと来た。
この風貌でスナイパー、更に弓矢使いと来れば…



「貴女、ジュナイパーなんですかね?」


「はっ!? は、はいっ!!」


俺が話しかけると、途端にビクついて後ずさりする。
成る程、恥ずかしがり屋か…
しかし水恋さんには強気に出ている感じ、怒ると周りが見えなくなるタイプなのかもしれない…



「とりあえず、仲間で良いんですよね?」

ジュナイパー
「は、はいぃぃっ! わ、わた、私なんぞ、草葉の陰から見守らせてもらえばそれで!!」


ちなみに草葉の陰とは、墓の下と言う意味だな。
実にゴーストタイプらしい例えだが、いくらなんでも卑屈過ぎるだろう…



「とりあえず、名前は舞桜(まお)さんで構いませんか?」

ジュナイパー
「えっ…?」
「………」
「……」
「…は、はいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「う、嬉しすぎてもう耐えれないーーー!!」


そう叫び、彼女は顔を真っ赤にして飛び去ってしまった。
って、翼も無しに身軽だなぁ~
気が付けばあっという間に近くの崖の上まで登って行ってしまった。
こっからじゃ既に豆粒みたいに見える距離だ。
やれやれ、スナイパーとしては優秀そうだが、色々コミュニケーションが大変そうだな…


水恋
「って、お~い! これ抜いてってよ~?」

神狩
「…足が動かない」


しっかりと『影縫い』されてるな。
迂闊な挑発は死を招きそうだ…
とりあえず、しばらく待ち……


ザバァッ!


敵多数
「シャアァッ!」


川から大量に敵が襲って来た。
うん、そりゃそうだよね…あれから動いてないんだから。


水恋
「でぇっ!? どうすんのよ、この状態で!?」
「アタシ等、基本接近戦メインなのに!!」

神狩
「…とりあえず、向かって来るのを叩く!」


そう言って、神狩さんは足が動かない状態なのに、腰と肩と腕の力だけで敵をカウンターで殴り飛ばした。
今度はただの力技の様で、別に反動は無いみたいだ。
ただ、そこは流石の伝説ポケモン。
その力技だけでも並のポケモンの比ではない。
水恋さんも、スピード溢れるスウェービングで攻撃をかわし、水技を駆使して何とかしていた。
そして、遂に俺にまで向かって来る敵の集団が…
俺は足をやられているので、マトモに動く事も難しい。


敵複数
「オオオオォッ!!」


「こんな時は秘技! ◯ッキーバリアーーー!!」


ドカカカカカカッ!!


俺が両手を広げてノーガードで立っていると、多数の黒い矢が敵の頭部を的確に貫いた。
全てヘッドショットとは…見事なスナイパーっ振りだ。
しかし、予想通りちゃんと見てるんだな…
信じてはいたが、一瞬焦ったぜ。
しかし、ここは神狩さんたちを何とかしないと…


神狩
「…解けた!」

水恋
「おっけ~! これで思う存分暴れられる!!」


どうやら影縫いも無事に解けた様で、後は大乱闘。
今回も敵は大多数の数でこちらを消耗させようとしたが、結局こちらはダメージもほとんど無いままに、敵は見事に全滅した。



………………………



水恋
「あ~、もう疲れた~」

神狩
「…もう、いない?」


「はい、大丈夫だと思います」


俺は念を入れて恵里香にも聞いてみるが、とりあえず大丈夫との事だ。
敵もそれなりに数を投入したせいか、打ち止めになってしまったのだろう。
とりあえず、ようやく移動だな…



「恵里香、華澄の居場所は解りそうか?」

恵里香
『ここからだと特定は難しいね…』
『ただ、何となくだけど、洞窟とかにいる気がする…』


「洞窟か…ちなみに根拠は?」

恵里香
『…ボスの気配的に、って所かな?』
『多分、ここのボスは洞窟にいる気がするんだ』


何とも曖昧な予想だが、何も考えずに移動するよりかはよっぽど良いだろう。
俺は怪我の回復も兼ねて、まずは休める所を探す事にした。
恵里香の探知にも反応は無い様で、俺たちは川を下って行き、やがて崖に囲まれた場所に辿り着く。
そこは滝壺になっており、かなりの水量が30m程の高さから降りて来ていた。


神狩
「聖さん、傷を見せて…」


「っ! 一応、歩く事は出来ますけど…?」

神狩
「ダメ、ちゃんと手当する」


やや強めにそう言い、神狩さんは俺の右足の傷を川の水で洗ってくれた。
水はかなり冷たく、濁りもほとんど無い綺麗な水だ。


神狩
「…水恋、お願い」

水恋
「あいよっ、ほいっと!」


ズバッと水恋さんは、神狩さんのジャケットの袖を肘の辺りから手刀で切り裂いた。
そして、神狩さんはそれを包帯代わりにして、俺の足にギュッと結び付ける。
少々圧迫感はあるが、これで少し痛みもマシになった気がするな。



「ありがとうございます、助かりました」

神狩
「…この位は大した事無い」
「これからは、絶対怪我はさせないから」


そう言って神狩さんは、片袖の切れたジャケットを再び羽織る。
右腕だけ肘から切れてるから、ちょっとバランスが悪くなってしまったな…
そのまま、神狩さんは背中の傷も洗ってくれた。
こっちは細かい破片ばっかりだったから、そこまで深くはなかったみたいだ。


水恋
「とりあえず、アタシ魚でも取って来るよ」
「神狩は薪でも集めてて…どうせ見張りは舞桜がやってるし」

神狩
「…分かった、任せて」


そう言って、ふたりはその場から離れて行った。
うーむ、実際には舞桜さんが見ててくれてるとはいえ、会話が出来ないと暇な物だな。
華澄の時は呼べばすぐ現れてくれたが、舞桜さんは多分無理だろう…あの性格だし。
照れ屋にも程がある…補正は無いがバランス良しと、御三家ならではのステータスを持つジュナイパーなら、相性は案外良いのかもしれないが。

しかし洞窟か…一体どんなボスが潜んでるのか…
果たして、今回の3人で倒せるレベルなのか?
前回のキュレムは、騰湖たちの合体技がマトモに決まったお陰で楽に勝てた様な物だったが、次はそうも行かないだろう。
考える事は多い…俺は足の怪我を直す事をまず第一に考え、少し休む事にした…



………………………




「親父…俺は気が付いたよ」
「この世の中、エロい奴らが多すぎる…」


俺は、夜フツーに寝ていた。
だが、俺のすぐ側には豊満な胸を俺の側頭部に押し付けて一緒に眠る神狩さんと水恋さんがいる。
布団も無い状態故、皆で寄り添って暖まろうという作戦だったのだが…



(正直、辛抱たまらん!!)


ここまでの巨乳を俺の側頭部にふたりして押し付けられては、俺の息子は既に怒髪天!!
だが、ここは我慢せねばならん…!
幸い、ふたりともぐっすり寝ている…俺の息子の怒髪天は気付かれずに済むだろう。
しかし、ここまで自家発電すら我慢した俺の息子は、限界を迎えようとしていた。



(ああ…時が見える)


きっと、人のエロスは心理の扉を開いて、永遠にすらなれるだろう…
もういっそ雫使って暴走してしまいたい位だ…
って、んなわけいくかぁ!? 俺はまだこんな所で屈しはしない!!



(早く朝になれ早く朝になれ早く朝になれ…)


俺は煩悩を押さえ込み、呪文の様にそう繰り返す。
明日は間違いなく寝不足だな…
いつしか俺は仏にでもなれるのではなかろうか…?
そして舞桜さんはその日、結局現れる事は無かった。



………………………




「…眠い」


だが既に朝だ。
俺は重い頭をふらふらさせつつ、起き上がる。
足の痛みはまだあるものの、歩くのに問題は無い様だった。


水恋
「おっ、聖さん焼けてるぞ~?」

神狩
「…おはよう」


「…おはようございます」
「…舞桜さんは?」


食事時だというのに、未だに現れない。
それとも、焼魚は好みでないのだろうか?


水恋
「全く…あの娘は」
「おーい! 飯位一緒に食えーーー!!」


水恋さんは大声を天に向かってあげる。
そして数秒後、滝の上から飛び降りて来る人影。
両手を真横に広げ、ふんわりとした落下速度で俺たちの前に着地したのは舞桜さんだ。

そして、彼女はモジモジしながら、ちょこちょこと歩いて俺に近付いて来た。
ホントに恥ずかしがり屋だな。
とりあえず、俺は挨拶をする事にした。



「舞桜さん、おはようございます」
「昨日、あれから姿を見せなかったから、心配しましたよ?」

舞桜
「は、はいぃぃっ! す、すすすみません!!」


舞桜さんは昨日と同様の反応で、ビクつきまくる。
ここまで恥ずかしがられると、逆にこっちがつらいわ…



「舞桜さん、もう少しフツーに出来ませんか?」

舞桜
「は、はひ…?」

水恋
「…いい加減、キョドるの止めろって事」
「聖さん、困惑してるじゃん」


水恋さんがそう言うも、舞桜さんの恥ずかしがりは筋金入りなのか、オドオドするだけだった。
う~ん、戦闘中でしかクールになれないとは…



「あの◯ルゴ13だって、人前には堂々と出るんですから、もっとどっしりと構えてください!」

舞桜
「そ、そうですね…! が、頑張ります!」
「では、用件を聞きましょうか…」


「今回の依頼は、華澄というゲッコウガを助ける為、その命を狙うボスを始末してもらいたい!」
「大多数を予測される敵が襲って来るだろうが、君なら必ずやり遂げてくれると信じている!」

舞桜
「……分かりました、やってみましょう」


「おおっ! ありがとう!!」


俺は両手で舞桜さんの右手を握り、感謝の気持ちを伝える。
ノリに乗った舞桜さんは到底似合いそうにない、キッとした表情で目を細めていた。


水恋
「それじゃ、そろそろネタも終わりにしてご飯に…」


ドガッ!


舞桜
「私の背後に立つな!」


瞬間、たまたま舞桜さんの背後に回った水恋さんが殴り飛ばされた。
プロの背後に迂闊に立つものじゃないな…
とりあえず、こうしてプロの空気を作り出す事により、舞桜さんは恥ずかしがりを克服した様だ…
って、ネタだけどそれで良いんかい!?



………………………




「さて、問題の洞窟だが…」


そもそも、洞窟はどこにあるのか?
俺はまず色々相談する為に、スマホを取り出す。
こういう時は恵里香に聞くのが1番確実だからな…



「恵里香、この辺りに洞窟はあるのか?」

恵里香
『う~ん、それっぽいのはあるけど、多分ハズレな気がする』
『どうにも、この辺りは小さな洞窟が多いみたいだからね』


「成る程、それなら逆に洞窟同士で繋がっている可能性もあるか…?」
「あえて手当たり次第入ってみるのはどうだ?」

恵里香
『その分、リスクも高まるけどね…』
『寄り道しまくった挙げ句、ボロボロの状態でボス戦とか、一昔前のRPGみたいな事になるかもしれないよ?』


確かに言い得て妙だな。
初期の◯ラクエとか◯Fはボス前に回復とか、まずあり得なかったからな。
今の温い環境はホントに楽になった物だ。
ポケモンだって、初代は後半フツーにPP切れとかはあったし…
適度に逃げるのが吉って事を思い知らされた覚えがあるな。



「洞窟前まで行けば、感知は出来るのか?」

恵里香
『深度にも寄るけどね…ボクの探知範囲は半径1kmだよ?』
『下や上に伸びてる分ならまだ何とかなりそうだけど、それにも限度はある』
『深追いはあまりするべきじゃない…今回の3人は、流石に騰湖や鳴程の強さじゃないんだから』


それは、俺でも解る。
何だかんだで騰湖たちは伝説のポケモン。
神狩さんも一応名目上はそうなんだけど、やはりレシラムやゼクロム程の大物ではない。
昔は騰湖たちも守連たちにあしらわれていたから、レベルで差が縮まるのもまた道理だが。



「…とりあえず、良い作戦をキボンヌ」

恵里香
『…まずはしっかり怪我を直す事』
『華澄ちゃんの事は心配だけど、今の彼女ならきっとそこまで無理はしないはず』
『運が良ければ共闘作戦も取れるし、ここは前向きに考えよう』


確かに、まだ俺の足は完治してないからな…
しばらく長距離移動は控えた方が良いのかもしれない。
だが、やはり華澄の事は気になる。
信じてはいるが、前の女胤の姿を思い出すと、不安が付きまとうな…


神狩
「…もう、行く?」


「ええ…とりあえず、それっぽい洞窟を探しましょう」
「早く華澄を見付けないと…」

水恋
「洞窟ねぇ…この辺りは結構多いけど」

舞桜
「うん、その内のどれかって事になるんだよね…」


とりあえず全員で唸るものの、良い案も出て来ない。
まずは移動だな…敵にも注意しないと。
俺はまだ若干痛む足を動かしつつ、移動を開始した。
とりあえず、洞窟を見付けたら手当たり次第に入って恵里香に探知してもらおう。
敵がいるなら、逆に華澄がいる可能性も高いだろうからな…



………………………




「まず、ひとつ目か…どうだ?」

恵里香
『ダメだ、華澄ちゃん所か敵の気配も無い』
『規模も小さいみたいだし、そこはハズレだね』


流石に1発ヒットは無いか…
まぁ、気長にやるしかないな。



………………………




「これで7つ目…どうだ?」

恵里香
『…敵の気配はある、だけど華澄ちゃんの気配は無い』
『多分危険だよ? 出来れば無理はしない方が良いと思うけど』


だが、この7つ目で初めて敵の反応があったのも事実。
ボスがいるなら、先に倒してしまう選択もあるが…



「そういえば、華澄を見付ける前にボスを倒したらどうなるんだ?」

恵里香
『その時は、この世界が修正され終わると同時に華澄も修正されてしまうよ?』
『女胤ちゃんの時と同様に、世界と一緒に消え始める事は無いけど、世界が完全に修正されきったら、そこにそのままの華澄ちゃんは居続けられない』


って事は、やっぱ華澄を先に見付けないと意味が無いって事か。
厄介だなチクショウ…


水恋
「聖さん、この洞窟だけど…入るなら覚悟した方が良いかも」


「えっ?」

舞桜
「この洞窟は相当下に広がっていて、巨大な地下空間があるんです」
「噂では、とんでもないポケモンがいるって話ですね」


ふたりはそんな重要な情報をくれる。
それは、まさに朗報じゃないのか?


恵里香
『…可能性は高そうだね』
『ボスがいるなら、華澄ちゃんもほぼ確実にいるはず』
『深さがあるなら、ボクの射程外に潜んでいる可能性も高いね』


なら決まりだ。
ここ程高い可能性は恐らく今は無い。
徒労に終わる可能性もあるが、今は賭けよう。



「…行こう、華澄を救いに!」

神狩
「でも、足は大丈夫?」


俺はまだ痛む足を動かす。
戦闘では足手まとい確定だろうな…


水恋
「後1日静養する事を、お姉さんは推奨します」

舞桜
「む、無理はしないでください!」
「この洞窟には目印を付けておきますので、1度滝壺の拠点に戻りましょう」
「あそこは敵がほとんどいない、数少ない安全地帯ですし…」


言われて、俺は仕方なく折れる。
このまま強行しても、皆のモチベを下げかねない。
俺は万全の状態で挑む事を選んだ。
洞窟内に敵がいるなら、消耗は避けられない。
今は、華澄の無事を祈ろう…



………………………




「………」

舞桜
「じっとしててくださいね…この薬草は切り傷とかに良く効きますから」


滝壺に戻って来た俺たちは、とりあえず分担作業に入った。
水恋さんは例によって食糧確保。
神狩さんは薪集め、そして舞桜さんは俺の治療と護衛だ。
そして俺は足と背中の怪我を舞桜さんに見てもらっている。
傷口を水で洗い、舞桜さんが確保していた薬草を俺の足と背中に塗り込んでくれた。
この薬草は、あらかじめすり潰していた物らしく、その汁が薬となるそうだ。
その後、別の葉っぱを俺の傷に絆創膏の様に張り付け、その上から軽く紐の様な柔らかい草で固定してくれた。
これで、手当は終わりだ。



「流石、草タイプって感じですね…」

舞桜
「い、いえ…たまたま知ってた知識を生かしただけで」


そう言って舞桜さんは顔を赤くして照れてしまう。
最初に比べたら大分話しやすくなったな…
舞桜さんも徐々に慣れてきているのだろう。
折角だから、色々聞いてみようかな…?



「舞桜さんも、水恋さんたちと同じ位の年齢なんですか?」

舞桜
「あ、はい…水恋ちゃんとは同い年ですね」


「…昔、ガキの頃の俺とパーティ組んでたんですよね?」
「華澄と…一緒に」


あくまで俺の予想だった。
舞桜さんたちが俺に向けてくれる愛情は、確かな物だ。
だったら、その根拠はそれしかないと俺は思った。
そんな俺の静かな問いに、舞桜さんは静かにコクリと頷く。
そして、思い出す様に舞桜さんはこう語り始めた…


舞桜
「…華澄ちゃんは凄かったです」
「いつだって皆の先頭に立ち、聖さんを護る」
「私や水恋ちゃんは、いつもそんなふたりの背中を見ていました」
「いつか、私も聖さんの隣に立ちたいって、思いながら…」
「多分、神狩さんも同じだと思います」


「………」


舞桜さんたちも、騰湖たちと同じだ。
俺の隣には必ずパートナーがおり、それは絶対的な壁。
俺も、当時は割と華澄たちを贔屓に見ていたのだろう。
そして、それが最終的にあのクソ世界を生み出す事に至るんだから笑えないが…
俺のお気に入りだった4人…その4人と、ただ幸せな夢を見るだけの、クソ世界。


舞桜
「…ごめんなさい」


「…え?」


突然、舞桜さんに謝られる。
俺は何の事か解らずに困惑していると、舞桜さんは暗い顔でこう告げた。


舞桜
「…私たちは、嫉妬のあまり華澄ちゃんたちを殺そうとしました」


「!?」


それは、あまりに衝撃的な告白だった。
だが、俺はその意味を痛い程知っている。
先住者を殺して成り代わる、理のクソシステム。
パルキアさんたちが、心を殺してでも選んでしまった、唯一の選択肢。
舞桜さんたちもまた、その道を選んでいたのか…


舞桜
「最初は、パルキアという人に情報を貰っただけでした」
「ピカチュウ、キュウコン、ゲッコウガ、ドレディアの何れかを殺せば、その存在に成り代わる事が出来る…と」
「ただ、そうなればオレたちと戦う事になる…とも」


そうだったのか…舞桜さんたちはパルキアさんに情報を貰って決断したんだな。
あのルール下において、ルールに抵触するのは俺への情報開示。
その他の人間に対しては、情報開示はルールに抵触しないって事だ。

パルキアさんたちからすれば、選択肢を与えたに過ぎない。
どの道滅ぶ運命なら、少しでも可能性のある方に賭けた方が良い。
それが、どんだけクソな選択肢でも…!



「…でも、負けたんですね」

舞桜
「……はい」
「バチが当たったんです…自分可愛さに、他人を殺して居場所を奪おうだなんて」
「…最後の最期、華澄ちゃんは泣いてくれました」
「私、あの顔を見て後悔しました…」
「例え記憶を無くしても、私の事を覚えてなくても…」
「あの人は…昔と同じ、優しいゲッコウガのままでしたっ」


舞桜さんは懺悔する様に俯いて語る。
肩を震わせ、声を殺して涙を流していた。
誰も悪くなんて無い、悪いのは全部俺だ。
いっそ罵ってくれた方が気が楽だったかもしれない。
お前なんか死ねば良いのに!とでも言ってくれたら、返って笑い飛ばせたかもしれない。
だけど、全部終わってしまった事だ。
もう、過去は取り戻せない。
罪は…消せない。



「…俺は、あんなクソ世界を造った事を後悔しています」
「あんな、不幸な人しか生まなかったクソ世界は、造るべきじゃなかった」
「…俺は、舞桜さんたちに殺されても、文句は言えない」

舞桜
「そんな事ありません!」


俺は舞桜さんに強く否定され、目を合わせる。
舞桜さんの目は涙で溢れているものの、強い眼差しだった。
そして、俺の弱い心に渇を入れるかの様な声でこう言う。


舞桜
「あの世界が無ければ、私たちはこうして聖さんと再会する事はきっと出来ませんでした」
「あの世界があったから、私たちは自分を見つめ直し、更に強くなれたんです!」
「どの道滅ぶ運命、それならいっそ最期まで抗おう…」
「そう決めて、私たちは3人で鍛え、強くなったんです」
「そして、とうとう聖さんが来てくれた…」
「報われる時が来たんです…私たちの努力が!」


舞桜さんは最後に俺の手を取り、笑顔で強く言う。
舞桜さんは決して絶望していない。
俺は、どうやらまだまだ弱いらしい。
それなら、まだ強くなろう。
そして信じよう…俺を好きだと言ってくれる、彼女たちを。


水恋
「…ええい焦れったい!」
「こら舞桜! そこは一気に押し倒して既成事実作るとこだろ!?」

舞桜
「え? えぇっ!? き、ききき、既成事実!?」

神狩
「…ズルい、それなら私もヤりたい」


とりあえず一気に台無しになってしまった。
どうやら、隠れて見られてたらしい。
舞桜さんは顔を真っ赤にして狼狽えている。



「…とりあえず、食事にしましょう」


夕日も大分落ちて来てる。
暗くなる前に、さっさと準備した方が良いだろう。
結局、舞桜さんはそれから何も出来ずにオタオタしているだけだった。



………………………




「おっ、今日は肉もある」

神狩
「野鳥を捕まえた…しっかり焼いてから食べる」


見ると、野鳥を捌いたと思わしき肉片が木の枝に刺さっている。
魚も別であり、今回は少しだけ豪勢に思えた。


水恋
「アタシは魚で良いけど、やっぱ皆鶏肉とかの方が良いの?」

舞桜
「ん~私はどっちでも良いけど」

神狩
「断然お肉」


「俺も別にどっちゃでも」


まぁ、好みはそれぞれだわな。
俺的には今は肉食って血を補充したい所だが。
しっかし、タレが無いのはちょっとキツいな…塩でもあれば良いんだが。


舞桜
「えいっ、魔法の粉!」

神狩
「…何それ?」


突然、焼いている魚と肉に舞桜さんが何かを振りかけていた。
調味料っぽいが、塩とかじゃないな。
一体何…って、この臭いは。


水恋
「お~香ばしい~ガーリックの香りだ~♪」

神狩
「くんくん…じゅるり」

舞桜
「昨日の内に、たまたま見付けたから作っておいたの♪」
「細かく粉末状にしてあるから使いやすいし、足りなければ言ってね?」


うむ、これは食欲がそそられるな。
やはりにんにくと肉の相性は抜群だ。
今日はいつもより食べられそうだぞ!
こうして、俺たちは楽しく食事をした。
やっぱ良いな…こうやって誰かと楽しく食事をするのは。



………………………




「………」


そして夜…今夜もまた、忍耐の修行が始まった。
しかも、今夜は舞桜さんも混ざっての4人合体。
合体と言っても、断じて局部は繋がってないから安心してくれ!

ちなみに俺の側頭部には昨日と同じふたりの巨乳。
そして、俺の股間には胸を押し付ける舞桜さん。
既に爆発寸前の息子はもはや猛り狂っていた。
っていうか、何故股間に抱き付きますかね舞桜さん…?
あれだけ恥ずかしがってた人が随分積極的になったものである。


舞桜さん
「うぅ…寒いよ~」


どうやら、寒いから仕方なく抱き付いているらしい。
とは言え、それなら基本暖かい神狩さんに抱き付けば良いのでは?と思うのだが、これは素人考えだろうか?
そして、舞桜さんがギュッ!と俺の股間に胸を強く押し付け、俺の息子はより怒り狂う。



(むぅ、これはたまらん!)


思わず本気を出してしまいそうになるが、ここは菩薩の心で耐える。
心頭滅却すれば火もまた涼し!
こんな物、歴戦の猛者たる俺の無心の極意を持ってすれば耐えられぬわけはない!!


舞桜
「…ZZZ……聖さんの、大っきくて…暖かい、うふ♪」


(ぐあああああああぁぁぁぁっ!! 耐えろ! 煩悩に負けるな!!)
(つか、この人俺の股間に抱き付いてどんな夢見てんだ!?)


少なくとも舞桜さんの顔は幸せそうな顔だった。
神狩さんと水恋さんもぐっすりだし、皆心臓太いな!?
この状態で敵が来たら何て思うのか…
そして当然の事だが、次の日の朝一番に舞桜さんの叫び声で皆起きたのは言うまでもなかった。
完全に寝ぼけてたらしい。



………………………




「………」
「…眠い」


俺は完全に睡眠不足だった。
っていうか、昨日からロクに寝てない。
何故健全なフツーの少年である俺がこんな苦行に挑まねばならんのか…?
とりあえず、俺は足の怪我が大分良くなったのを確認し、その場で軽くステップしてみる。
よし、痛みはほとんど感じない。
舞桜さんの薬草は大したもんだ。
まぁ、俺のHPが30もないせいなんだろうが。


水恋
「聖さん、眠そうだけど大丈夫?」

神狩
「…もう少し寝てた方が」


「いや、大丈夫です」
「動き始めれば、覚醒すると思うんで」


俺は心配をかけない様にそう言って魚を食う。
昨日の夜と同じ味だ、うん美味い♪
っていうか、すっかり魚が主食になってしまったな…
米が流石に恋しくなる…パルキアさんの所では米も食べられたんだがなぁ~
まぁ、こんな状況で贅沢は言えない。
これでも作ってくれた人には感謝なのだから。



………………………




「…敵の気配は?」

恵里香
『昨日と変わらず…逆に動きが無いのが不気味だね』


俺たちは改めて目的の洞窟に辿り着いていた。
だが、ボスらしきポケモンの動きは変わってないという…
単に長い眠りとか、物臭してる奴とかなのかもしれないな。
しかし、それならそれでやりやすいかもしれない。
相手の位置が動かないなら、避ける事も出来るだろうし。
俺たちは頷き合い、早速洞窟内に入って行った。



「俺を中心に左右は神狩さんと水恋さん、舞桜さんは後方を見ててください」

神狩
「了解、何があっても必ず護る」

水恋
「いざとなったら、遠慮なくお姉さんを頼りなさい!」

舞桜
「背中は私が預かります!」


こうして陣形を組んで俺たちは探索していく。
思いの外敵は少ないらしく、ほとんど出会う事は無かった…
そして、1時間程進んだ所で、ついに恵里香が反応する。


恵里香
『見付けた! ビンゴだ、華澄ちゃんの反応!』


「遂にか! って事は、ここから最低1kmは進むのか?」

恵里香
『そうなるね…恐らく、後何階層か潜れば辿り着くとは思うけど』


「…敵の反応は?」

恵里香
『変わらず同じ位置だ』
『っていうか、そのままだともうすぐ接触するね…気を付けて!』


おいおい、もうすぐって…
ここまでほとんど、入り組んだ道は無し。
つまり、敵との接触は避けられないって事か?
一体、ボスはどんな奴なんだ?


神狩
「…嫌な気配がする」

水恋
「だね、多分例のボスって奴じゃない?」

舞桜
「…こんな気配、確かに感じた事無い」
「いや、何かに似ている気も…?」


「舞桜さん?」


俺が舞桜さんに話しかけると、舞桜さんは自分の世界で考え込んでいた。
やがて、特に良い考えは浮かばなかったのか、諦めた様に項垂れる。


舞桜
「ダメ…思い出せない」

水恋
「過去にやり合ったヤツなの?」

舞桜
「多分、そんな気もするんだけど…」
「でも、何かが違う」
「少なくとも私たちが近付いている気配は、知らないポケモンみたいなの」


俺たちは慎重に歩を進める。
ここまで敵の遭遇は無し。
つまり、前回のキュレムと同様…ボスの可能性が非常に高い。
一体どんな相手なのか? 勝てる相手なのか?
少なくとも、恵里香は幹部とまで言う相手だ。
騰湖たちの様な、規格外の禁伝ポケモンならともかく、果たしてこの3人で無事に勝てる相手なのだろうか?



………………………




「…いた、アレか?」

恵里香
『これは、相当厄介かもしれない』
『華澄ちゃんはまだ先にいるのに、ここでやり合うとなると…』


つまり、ボスは目の前なのに、肝心の華澄が更に奥にいるという最悪の状況。
どうする? 最悪俺だけでも華澄を探した方が良いのか?
それとも、戦闘が始まれば華澄から来てくれるか?


恵里香
『ここは、華澄ちゃんから来てくれるのを願おう』
『幸い、華澄ちゃんの反応は徐々にこちらへ近付いて来てる』
『多分、合流出来る可能性は高い』


俺はそれを聞いて方針を決めた。
まずはコイツを何とかする!
そんで、テキトーに追い詰めながら華澄を待つ、だ!
もっとも、この作戦は100%勝てる場合の作戦だが。
この戦いにそんな可能性は当然無い。
だけど、俺は諦めない…誰が何と言おうと皆を俺は生存させる!



「…しかし、眠ってるのか?」


遠目に見るが、ソイツは三角座りで踞っていた。
体色は黒色で、所々に緑の斑点の様な物がある。
体は痩身と言える程痩せこけており、顔は見えないが相当細いだろうと予想出来た。
とりあえず、先制攻撃でもしたい所だが…


舞桜
「…この位置からだと、影が狙えない」

水恋
「動きを止めて瞬殺ってわけにはいかないか」
「影はどっち側?」

舞桜
「方角が間違ってないなら、時間的に見ても丁度反対側」
「せめて空中に上がらないと、狙うのは難しいと思う…」


どうやら舞桜さんの『影縫い』は、実際の太陽の位置から算出される影の位置が重要らしく、目に見えている影はアテにならないらしい。
その分、影の見えない暗闇でも場所さえ合ってれば縛れるのが魅力だそうだが。


神狩
「…ここは私がまず先行する」
「ふたりはフォローをお願い!」

水恋
「しゃあない! それで行こう!」

舞桜
「聖さんは私に任せて! ふたりとも遠慮なく行って!!」


とりあえず作戦は決まり、それぞれが動き始める。
敵はピクリと若干の反応を見せるも、まだ座ったままだ。
そこへ、神狩さんが全力で拳を握る。
腕から炎が巻き起こり、『フレアドライブ』の態勢に入った証拠だ。
まずは、小手調べ所か全力で倒しに行ってるな…
流石にあれをモロに食らったら、ただじゃ済まないが。


神狩
「…いける、このタイミングなら!」


「!!」


それは、一瞬の事だった。
神狩さんが振りかぶって拳が届く直前、敵は…神狩さんの目の前から消えたのだ。
神狩さんはタイミングを完全に外され、勢い余って地面を転がる。
そして、次の瞬間。


ドギャァン!!


神狩
「ぐうっ!!」


突然、神狩さんの周りで地面が抉れる。
いや、どっちかというと、ならした感じだ。
つまり、あれは『地ならし』!?
まさか、地面タイプなのか!?

俺は改めて敵の姿を見る。
神狩さんの位置から遥か後方に位置し、しっかりと立ってこちらを見る姿。
その姿はまるで絶食で修行しているかの様な見た目だった。
全身の骨は浮き出ており、ミイラ寸前の痩身。
顔も頬骨が浮き出ており、目は虚ろで虚空を見据えている様だ。
ポーズはやや前傾姿勢。
まるで獣を思い起こさせるその姿に、俺はゾクリとしてスマホを耳に当てる。
そして、すぐに叫び声の様な恵里香の声が聞こえた。


恵里香
「気を付けて!! 彼女は『ジガルデ』だ!」
「今はまだ大した事の無い形態だけど、ダメージに応じてどんどんパワーアップする!」
「やるからには一撃で決めるつもりで行くんだ!!」


俺はそれを聞いてスマホをポケットに仕舞う。
何てこった…ここに来てジガルデとはな!
神狩さんはタイプ一致の効果抜群でいきなり大ダメージ。
有利が取れるのは草タイプの舞桜さんのみ…か!



「アイツはジガルデだ! タイプは地面、ドラゴン!!」
「気を付けて! 追い詰めれば追い詰める程強くなります!!」


俺の叫びに全員が気を引き締める。
あれですらまだ最弱形態…その分スピードはかなりある!
当てられるか…あの速度に!?


水恋
「だったら、これでどうだぁ!?」


水恋さんは両手に冷気を集め、それをジガルデに放つ。
強烈な『吹雪』がそこから巻き起こり、ジガルデは高速で移動するもダメージを与える事に成功した。
だが、浅い! ジガルデの周りにはすぐに緑色のジガルデセルがまとわり付き、ジガルデを更に強化していく。


ジガルデ
「!!」


一気にジガルデは痩身からフツーの体型にパワーアップした。
スピードは目に見えて落ちたが、逆にその分パワーは上がる!
ジガルデは、水恋さんにターゲットを合わせて走り出した。
水恋さんはそれを見てすぐに距離を取る。
フローゼルの速度は伊達じゃない、今のスピードなら水恋さんがダントツに速い!


ジガルデ
「ガァッ!」


ジガルデは突然スピードアップする。
このタイミングでそんな技となると、『竜の舞』かっ!


舞桜
「させません!!」


舞桜さんは、飛び上がってジガルデの足元を的確に撃ち抜く。
ダメージは与えられなかったものの、『影縫い』の効果でジガルデは縫い止められた。
そこは絶好の攻撃チャンスとなる。


神狩
「つあぁっ!!」


神狩さんがすかさず『神速』でジガルデの背中に突撃する。
メキィ!と背骨を軋ませる音をたて、ジガルデは悶絶した。
そして、また多数のセルがジガルデに集まっていく。
ジガルデは更に体をパンプアップさせ、段々巨大になっていった。
この時点でもう神狩さんの190cmよりも大きい!
スピードは落ちたとはいえ、竜の舞の効果は大きい。
影縫いの効果がある内に決め切らないと、ヤバイ感じがプンプンする!!


水恋
「離れて神狩さん!!」

神狩
「!!」


神狩さんは危険を感じ、すぐに神速で距離を取る。
瞬間、ジガルデの周りで『地震』が起こった。
流石に直撃はしなかったものの、神狩さんと水恋さんはダメージを受ける。
神狩さんは効果抜群…今ので目に見えて動きが鈍くなってしまった。


神狩
「く…こうなったら、炎タイプは邪魔!!」


直後、凄まじい炎が神狩さんの全身を包む。
神狩さんの着ている服すら焼き付くし、神狩さんはその強大な炎を両腕に集めてジガルデに放った。
ジガルデは動きを封じられたまま直撃し、大爆発。
凄まじい爆発に俺たちは全員吹き飛ぶ。

あれは『燃え尽きる』か…?
という事は、これ以降神狩さんはタイプ無し、無属性となる。
確かに、これなら抜群も突かれない…どの道炎は半減だからこっちの方が返って安全だ。



「くっ…どうなったんだ!?」


爆煙で視界が悪い。
だが、ジガルデセルが集まっていくのは解る。
そして、俺は理解した…聳え立つ巨大な人影。
いや、あれはもう人なのか?
俺は絶大な恐怖を目の当たりにした気がした。
俺の目に写るジガルデの姿は、もはや巨人だったのだ……



………………………




「きょ、巨人だ!!」


ジガルデ
「アアアアアアアアアッ!!」


ジガルデは口を大きく開けて咆哮する。
身長は5m程にまで達し、洞窟の天井スレスレまで到達していた。
肩には巨大なプロテクターの様な物が覆っており、それはまるで装甲の様。
そして、危険を感じた舞桜さんが、すぐに俺を抱いて大ジャンプする。


ドッギャァッ!!


そんな轟音と共に再び大地震。
空中にいた俺たちは無傷だったものの、神狩さんと水恋さんは直撃してその場に倒れこんだ。
ヤバイヤバイヤバイ!?
これでマトモに動けるのは舞桜さんだけ!?
既に追い詰められているのに、あの完全体ジガルデを倒せるのか!?


舞桜
「…大丈夫です、信じてください」


「舞桜、さん?」


舞桜さんの目は、決して死んでいなかった。
この絶望的状況でなお、希望の光を宿している。
俺は、気合いを入れ直す。
信じてくれと好いてくれる者に言われて、信じないヤツはただの軟弱者だ!!



「信じます! だから、勝ってください!!」


俺の言葉に舞桜さんは静かに頷く。
そして、右手に草のエネルギーを集め、落下中にそれをジガルデの顔面へ放つ。

ドォン!と軽い爆発、見た感じ『種爆弾』の様に感じた。
ジガルデはかわす事も出来ずに顔面で受け止める。
やはり、この形態ではアイツは鈍い!
タフな分、スピードは相当犠牲にしている…


水恋
「あああぁっ!!」


好機と見てか、水恋さんが倒れながらも『吹雪』をもう1度放つ。
タフになったとはいえ、弱点は弱点!
ジガルデはあからさまに怯み、全身からセルを少しづつ失っていった。
剥がれたセルはそのまま足元に落ち、そこから動く気配は無い。
本体は若干小さくなったものの、まだまだ4m以上はある。
そしてまた体を震わせ、攻撃態勢に入ったのを俺たちは確認した。


神狩
「くっ…!!」

水恋
「神狩さん、動ける!?」

神狩
「…ゴメン」


水恋さんは神狩さんの状態を察知し、神狩さんを抱えて『アクアジェット』の推進力で跳躍する。
これなら地震は効かない。


舞桜
「私たちも…!」


舞桜さんも、着地と同時に再び高く飛び上がる。
元飛行タイプとはいえ、進化して飛行タイプは失っている…俺を抱えたまま飛び続けるのはつらいだろうに…


ジガルデ
「ガァァァァァァァッ!!」


ジガルデは全身からいくつもの光の矢を放つ。
見た事の無い技に俺たちは困惑した。
そして、その矢は無数の閃光となって天から激しく降り注ぐ。


ドガガガガガガガガガッ!!


水恋
「う、うわっ!? …っぁぐぅっ!?」

神狩
「!?」


水恋さんは、降り注ぐ矢をかわしきれずに1発もらってしまった。
すると、矢は水恋さんの体を貫くわけでもなく、水恋さんの体を地面に叩き落とし、そのまま地面に縫い付けてしまったのだ。
俺はここでヤツの技をようやく理解する。



「今のが『サウザンアロー』!?」

舞桜
「くっ!? 聖さん、私にしっかり捕まって!!」


俺は舞桜さんの胸に顔を埋め、しっかりと背中に手を回して抱き付いた。
空中で自由には動けない舞桜さんは、この技を到底かわす事は出来ない。
俺は落下を覚悟し、後は舞桜さんを信じる。


ドカァッ!


舞桜
「くうぅっ!!」


舞桜さんは背中越しに矢を食らい、そのまま地面にまで叩き付けられる。
落下直前に俺を横に投げ捨て、俺は地面を転がるが、叩き付けられる衝撃は食らわずに済んだ。
だが、それでもかなり痛い。
全身が悲鳴をあげる位に痛かった。
それでも俺は立ち上がる。
こんな所で挫けるわけにはいかない…!

俺は倒れている舞桜さんの前に立ち、ジガルデを正面から見上げる。
舞桜さんが起き上がる時間位なら稼いでやるぜ…!



「来るなら来い!! 俺が相手をしてやる!!」

ジガルデ
「オオオオオオオオオォォォォッ!!」


ジガルデは再度咆哮し、今度は地面にエネルギーを放出する。
地震じゃない!? 地面から稲妻の様な軌道でエネルギー体が全員同時に向かって来ていた。



(クソッタレ! この状況で全体攻撃かよ!!)
(『サウザンウェーブ』…食らえば行動を阻害される!)
(どうする!? 絶体絶命か!?)


俺はロクな考えも浮かばないまま、その場で地面を踏み締め、睨み付ける事しか出来なかった…
このまま、終わるのか…?
もう、無理なのか……?



「諦めては、いかんでござる!!」


一同
「!?」


全員がその声に心を突き動かされる。
聞き覚えのある声。
力強い声。
そして、いつだって皆の前に立ち、皆を護ってくれた、大切な人の声。


バシィンッ!!


ジガルデ
「オォッ!?」


俺たちの全員の目の前に畳のオーラが立ち上がる。
そして向かって来たサウザンウェーブを全て弾き返した。
それを見て一陣の風が舞う。
俺たちの横を通りすぎた小柄な背の少女は、全身を血塗れにしながらも、なお俺たちの矢面に立ったのだ。
恐らく、本来なら満身創痍なのだろう。
だが、それでも彼女は、過去に必ず護ると約束してくれたのだ。
彼女は、今もその約束を守ろうとしてくれている。
俺は、そんな背中に向かって、こう叫んだ…



「華澄ぃぃぃぃぃっ!!」

華澄
「聖殿や皆の命は、必ず拙者が護る!!」


華澄は右手に巨大な水手裏剣を作り出し、それを遠くからジガルデに投げ付ける。
ジガルデは危険を察してか、身を捩って直撃は避けるものの、左腕を切り飛ばされ絶叫した。
そして、瞬時に反撃。
ジガルデの足元から衝撃波の様な物が真っ直ぐ俺たちに向かって来る。
今度はサウザンウェーブじゃない、これは恐らく『グランドフォース』!
サウザンウェーブよりもスピードが速い!
どうやってかわす!?


舞桜
「聖さん、退がって!!」


舞桜さんは俺の前に立ち、両手を地面に当ててグランドフォースを正面から受け止める。
地面タイプ故に草タイプなら半減…まして全体攻撃で分散してればこんなもんか…


水恋
「くっそ! どうすんのよこっちは!?」

神狩
「…ぐうぅ!!」


神狩さんは着弾直前で神速を発動させ、水恋さんと共に一気に地面を走った。
何とか効果範囲から脱出し、事なきを得る。
だが、神狩さんはもう限界の様だ…当然か、今は無属性とはいえ、前半でダメージを貰いすぎてた。
燃え尽きる時のパワーは相当体に負担もかかったはずだ、もう神狩さんは戦える力が残っていないだろう。


華澄
「…ふっ!!」


華澄はジャンプ1番で回避しており、再び水手裏剣を練る。
その際に夥しい血が飛び散っており、華澄のダメージの大きさも示していた。
大丈夫か華澄…!?


華澄
「はぁ…はぁ…!」


華澄は滞空中に両手で水手裏剣を練り終え、それらをジガルデに対して同時に投げ付ける。
回避が不可能と判断したジガルデは、右肩の装甲を盾にし受け止める態勢に入った。


ギャギャギャギャギャッ!!


まるで金属同士が擦り合うかの様な音。
水手裏剣はジガルデの肩のプロテクターを辛うじて寸断し、ふたつ目の手裏剣がジガルデの腰を切り裂いた。


ジガルデ
「グアァァァァァァァァッ!!」


ついにジガルデの巨体が膝を着く。
大量のセルが体から剥がれ落ち、ジガルデは完全体を維持出来なくなっていった。
華澄は着地するも、バランスを崩して倒れてしまう。
俺はすぐに舞桜さんと一緒に、華澄の元に駆けつけた。



「華澄!! お前、また無茶をして…!」

華澄
「だ、大丈夫です…この程度であれば」
「ま、まだ愛呂恵殿の拳の方が痛かったでござるよ…」


そう言って笑ってくれる。
逆に愛呂恵さんの拳に恐怖を覚える。
やっぱ、相当強かったんだな愛呂恵さん…


舞桜
「…華澄ちゃん」

華澄
「…ジュナイパー殿、申し訳無いでござる」
「あの時、拙者が何も覚えてなかったばかりに…」


舞桜さんはぶんぶんと強く首を横に振った。
舞桜さんはもう華澄を憎んでいない。
ただ、憧れだった華澄の事を真に心配しているのだ。


華澄
「!? いかん、聖殿ぉ!!」


「!?」


突然、華澄は俺を押し倒そうと抱き付く。
だが、その瞬間華澄の背中は何かによって抉り取られた。
そして俺は華澄に押し倒され、敵を見る。
そこには、想像もしたくないおぞましい光景が広がっていた。


ジガルデ?
「!!」


ジガルデは、全てのセルを引き剥がしコアが剥き出しの状態になっていた。
コアの姿は、まるで人間の胎児の様な姿で、全身緑の体で空中にて丸まっている。
そして、虚ろな目でこちらを見据え、大量のセルを操り、それを俺たちに仕向けてきていたのだ。



「華澄ぃ!?」

華澄
「ぐ…はっ……」


華澄はもう息絶え絶えだった。
背中の傷は浅い物の、広い範囲で肉を削り取られている。
これ以上華澄には頼れない、ここは舞桜さんに何とかしてもらわないと…!


水恋
「くっそ~! 何なんだよアレ?」

神狩
「多分…あのコアさえ潰せば、勝てる」

水恋
「そりゃ解るけど…あんだけ大量のセルが護ってるのに、どうやって!?」


ジガルデコアの周りは、鉄壁と言っていい程大量のセルが蠢いている。
この状態でコアに直接の攻撃を通すなんて、華澄の水手裏剣位の出力がいるだろう。


舞桜
「…聖さん、信じてください」


「えっ!?」


舞桜さんは、今1度俺に信じてくれと懇願する。
そして、変わらず…いや、より力強く舞桜さんは瞳に闘志を燃やしていた。
そこにいるのは、俺が今まで見た恥ずかしがり屋の舞桜さんではない。
俺の事を好きであり、そして華澄を尊敬する舞桜さん。
この、絶体絶命の窮地でありながら、舞桜さんは1㎜も希望を捨てていなかったのだ。


舞桜
「私は、必ず皆を護ります!」
「華澄ちゃんがそうしてくれた様に、今度は!」
「私が! 皆を護ります!!」


そう叫んだ舞桜さんの体は、突如として光に包まれる。
いや、オーラを纏ったと言った方が良い。
舞桜さんは全身を淡い虹色のオーラで包み、そして思いっきり両手を広げてその場で踏み込んだ。
そして、直後に跳躍。


ババババババババッ!!


舞桜さんが跳躍すると同時、無数の黒い矢が舞桜さんを追従して行く。
そして空中で1度停止、舞桜さんの周りには黒い矢が規則正しく並び、舞桜さんはジガルデコアを目標に見定めた。


舞桜
「この一撃、我が身を一矢とし! 魂の一撃とする!!」
「シャドーアローーーズ!! ストライィィィク!!」


舞桜さんは叫びと共にジガルデコアへと一直線に飛ぶ。
ジガルデコアは大量のセルを正面に回し、舞桜さんの一撃を止めようとした。


舞桜
「うあああああああああぁぁぁぁっ!!」


舞桜さんは眼前に右の手刀をかざし、大量のセルを貫いていく。
やがて眼前にコアを見据えるが、舞桜さんの一撃はそこで止まり、奇しくもコアを貫く事は出来なかった。
だが、これは布石。
舞桜さんの一撃は確実にセルの壁を掻き分け、コアへの道を示したのだ。
そして、舞桜さんの後方をを追従していた黒い矢が、大量にコアへなだれ込んで行った。


ドカカカカカカカカカカカッ!!


小さなコアに数十本の矢が連続で突き刺さり、コアに致命傷を与える。
ジガルデはコアの力を消失し、大量のセルは行き場も司令塔をも失い、挙動不審となった。
やがて、コアは無気力に地面へと転がり、やがて光の粒子となる…
それと共に、セルは高速で何処かへと逃げ去った。
どうやら、セルはセルで独立しているらしく、今度は別のコアでも探しに行ったのかもしれない…



「…舞桜さん」

舞桜
「はぁ…! はぁ…!!」


俺は華澄を抱き抱え、舞桜さんの元に歩み寄った。
神狩さんと水恋さんも一緒に駆け寄る。
そして、まずは水恋さんがこう一言。


水恋
「やったじゃん舞桜! いつの間にあんな隠し技覚えてたわけ!?」

舞桜
「あ、あはは…たまたま、前にクリスタルを見付けたから」
「密かに、練習してたんだ…こんな時の為にって」

神狩
「凄い威力だった…あんなの見た事無い」


ふたりにベタ褒めされ、赤くなる舞桜さん。
もうここにいるのは、いつもの舞桜さんの様だ。
そして、俺に抱き抱えられた華澄が、舞桜さんに言葉を放つ。


華澄
「ジュナイパー…いえ、舞桜殿」

舞桜
「華澄ちゃん…私、ちゃんと護れたよ♪」


華澄は静かに頷く。
満身創痍、意識朦朧としながらも、華澄はしっかりと舞桜さんを笑顔で見ていた。


華澄
「…立派に、なられましたな」

舞桜
「そんな! 私は、華澄ちゃんみたいなのに、ずっとなりたいって思ってて…」

水恋
「そうそう! アタシたちは、いつだってアンタが目標だった!」

神狩
「いつか、聖さんの隣に並ぶ為に、私たちは鍛練を続けてきた」


皆、思い思いの言葉を華澄に投げ掛ける。
その言葉を聞いて、華澄は満足そうだった。


華澄
「もう、貴女方は十分誇って良い…」
「拙者に劣っている所など、もはやありませぬ」
「その姿は、紛れもなく聖殿のパートナーに相応しい…」


「こら華澄! 今際の時の様な台詞は止めろ!」
「まだ、お前は絶対に死なせないからな!?」


俺が強くそう言うと、全員が吹き出す。
そして、満面の笑みに場は包まれ、やがて別れの時が来た。


舞桜
「…もう、お別れですね」

水恋
「あ~あ、折角なら付いて行けたら良かったのに」

神狩
「…仕方ない、それは華澄の仕事」


皆、世界と共に光の粒子へと変わって行く。
俺たちもまた、最果てへと戻らなければならない。


華澄
「…皆、また会えるでござるか?」

舞桜
「うん、必ず」

水恋
「今度は聖さん争奪戦だね♪」

神狩
「うん、それなら私も絶対負けない」


皆、笑顔で再会を約束した。
もう時間は無い…俺は最後に皆にこう言う。



「皆、ありがとうございます! この恩は絶対に忘れません!!」
「だから、また会いましょう!!」


俺は手を振り、皆にそう言って雫の力を行使する。
俺と華澄は、こうして最果てへと跳躍した。



………………………




「………」

恵里香
「お帰り、またひとつ成し遂げたね」

華澄
「!? こ、ここは…?」

女胤
「説明は後でしますわ…とりあえずお帰りなさいませ、おふたりとも」


恵里香と女胤がとりあえず出迎えてくれる。
俺は華澄を腕から下ろし、立たせてみた。
華澄も初見で問題無い様だな…


恵里香
「何とか、ふたつこなせたね…」


「ああ…次は阿須那だな?」

華澄
「…聖殿、今更ですが何故?」


華澄はそう疑問を投げ掛けた。
恐らく、女胤も疑問には思っている事だろう。
恵里香はまだ細かくは話してない様だし、1度話を整理しておくか。



「とりあえず、俺は過去に恵里香と約束した事がある」
「世界が滅びる原因となる創造主、アルセウスを倒して世界を救うと」

華澄
「せ、世界を!?」

女胤
「…アルセウスを、倒して」


ふたりは露骨に驚く。
まぁ、そりゃそうだわな…ふたりからしたら、俺は無力な高校生のはずだから。
俺は夢見の雫を体から取り出し、ふたりに見せた。
流石に以前より濁りは進行している。
だが、まだまだ暴走する事は無い。
下手にコンティニュー連発でもしない限りは大丈夫だろう…



「コイツは夢見の雫」
「俺はこの力を使って、人間界からお前たちの世界へと渡り、いくつもの世界を滅びから救った」
「だけど、当時小学生だった俺は、無邪気にそれをいくつもやり続け、いつしかアルセウスに目を付けられてしまったんだ…」
「そして俺はアルセウスに敗北し、俺が救った全ての並行世界は滅びの一途を辿った…」

華澄
「で、では…拙者たちの世界は?」


「今はもう大丈夫だ、世界を支配しているボスを倒し、お前たちを救った事で、その世界に限っては滅びを回避した」
「だが、それも俺がアルセウスを倒せなければ無意味となる」

女胤
「では、何故私たちがここに導かれたのですか?」

恵里香
「それは、キミたちが聖君の選んだ勇者だからだ」


俺の代わりに恵里香が答える。
俺は少々気恥ずかしくなりながらも、恵里香の言葉を聞く事にした。


恵里香
「聖君は、アルセウスとの決戦に君たち4人を選んだ」
「聖君がこれだと思える、最も信頼する4人」
「全員の中で飛び抜けてレベルが高く、そして聖君を愛してくれる4人」
「キミたちは、アルセウスと戦う為に選ばれたんだよ?」


恵里香は淡々と言うが、華澄と女胤はしっかり受け止めている様だった。
自分の立場を思い、そしてその意味を確かめる様にふたりは自分の手を見る。
やがて、全てを受け入れる様に、その手をギュッと握り締めた。


華澄
「解りました、ならばもう何も言いませぬ」

女胤
「ええ、聖様の信頼に答える為、全力を尽くしますわ!」


ふたりは強くそう言ってくれる。
いや、解ってた…きっと迷わずそう言ってくれると。
だけど、俺はまだふたりには謝らなきゃならない事がある。



「ふたりとも、すまなかった…」

華澄
「えっ?」

女胤
「突然、何を仰いますの?」


「…俺が弱かったせいで」
「俺が諦めてしまったせいで、あんなクソ世界を生み出してしまった」
「そこにお前たち4人を閉じ込め、幸せな夢を見る為に滅びから目を背け、終わりの無い夢を見続けていたっ!」


俺は拳を固く握り締め、俯いて言葉を告げる。
あえて、自殺の事は触れないでおいた。
それを聞けば、ふたりはパニックになってしまうだろう。
この事は、最後まで明かすつもりは無い。


華澄
「…確かに、幸せではありましたな」

女胤
「ええ、聖様と夢の様な家族になれるだなんて…」


「だけど、それは夢だ」

華澄
「夢でしたが、現実でもありましょう?」


「…え?」


華澄の言葉に、俺は一瞬戸惑う。
だが、俺が考えるまでもなく、女胤が補足してくれた。


女胤
「私たちの胸に残る、聖様からの寵愛は、思い出は…今もずっと残っていますよ?」

華澄
「パルキア殿たちの事も、決して夢で終わらせるべきではござらん」
「あの様な悲劇を2度と起こさぬ為、聖殿はあの世界を終わらせたのではないのですか?」


そうだ…もう、パルキアさんの様な人を生まない為に、舞桜さんたちの様な悲しみを増やさない為に…
俺は、夢から覚める道を選んだ。
だから、もう今は迷わない。



「想いは…夢じゃない、か」

恵里香
「そうだね、世界は夢であったけど」

華澄
「そこにあった想いは、現実でござるよ」

女胤
「私たちの想いも、また真実です」


そして、パルキアさんたちや舞桜さんたち、騰湖たちの想いも…だな。
皆、俺を好きだと言ってくれた。
俺は、そんな皆の想いを背負って戦わなきゃならない。
そして、今度こそ絶対に終わらせる…
家族の力を借りて、今度こそアルセウスを倒す!!



「ありがとう、ふたりとも」

華澄
「その言葉は、阿須那殿と守連殿を助けてからにしてくだされ」

女胤
「ええ、まだ半分でしかないのですから…」


確かに、まだ折り返しか…ここまで苦難続きだってのに。
俺は、また誰かに助けてもらえるのだろうか?
騰湖たちや、舞桜さんたちの様に…


恵里香
「まぁ、最悪諦めてボクを嫁にしてくれれば良いけどね♪」

女胤
「なっ!? その言葉聞き捨てなりませんわよ!?」
「聖様の嫁になるのはこの私です!!」

華澄
「女胤殿、それは少々過ぎた発言ですぞ?」
「聖殿の伴侶は、聖殿が決める事…拙者たちが無理矢理奪い取る物ではございますまい?」


何だか、久し振りに感じるな…この空気。
俺は、改めて家族が帰って来たのを実感した。
後はふたりだ…阿須那に、守連。


恵里香
「これは聖君が約束してくれた事だからね…」
「諦めたら、ボクと一生添い遂げてくれるって♪」

女胤
「な、何ですってぇぇぇぇっ!?」

華澄
「むぅ…聖殿がそう仰られたのならば、拙者は受け入れるでござるが」
「聖殿、本当にそんな約束をなされたのですか?」


「ああ…小学生の戯れで約束した奴だけどな」


当然、ロクに意味なんて理解してない。
当時の俺に嫁だとか、永遠だとか、マトモに考えてるはず無いからな。


女胤
「このショタコン!! 聖様があどけない頃を狙って唾を付けておくなど、風上にもおけませんわ!!」

華澄
「口約束とはいえ、年端もいかぬ聖殿との約束では、あまり信頼はおけませんな…」

恵里香
「でも、約束は約束」
「今でもちゃ~んと有りなんだよね?」


「ん…そうだな、まぁ諦めればな」


当然諦めるつもりが無いからな。
そして、そういう約束だ。


女胤
「ふっふふふ…ならば話は簡単ですわね!」

華澄
「確かに、要は聖殿を勝利に導けば良いのですから」

恵里香
「ふふふ、それならそれが1番良いんじゃないかな?」
「キミたちは、その為にここに来たのだから」


恵里香は気楽に言うが、実際問題そう上手く行くかは別問題だ。
何度でもやり直せる…とは言うが、実の所雫の使用は常に暴走の危険を孕んでいる。
実質、コンティニュークレジットは有限も同然なんだ。
俺たちは、そんな危ない橋を渡ろうとしている。
そして、ふたりはそこに恐怖は持っていない。
いや、返って知らない方が良いだろう。
この制限は、あくまで俺の中だけに留めておく。
…墓の下までな。



「そういや、もしアルセウスを倒したら、お前はどうするんだ?」

恵里香
「何を言ってるんだい? ボクは永遠にここを出る事は出来ないと知ってるはずだけど?」


「それは解ってる」
「そうじゃなくて、お前は…ずっとひとりで良いのか?」


俺がそう言ってやると、恵里香は顔をしかめた。
俺の言いたい事は伝わっているらしい。


恵里香
「…ダメだよ、ボクはここを動かない」
「例え、キミの雫でそれが可能だとしても、ボクはそれを受け入れない」

華澄
「…それは、何故ですか?」

女胤
「少なくとも、この様な何も無い場所で永遠を過ごすだなんて、気が狂いそうな物ですが…?」


ふたりも疑問に思ったのかツッコンで来る。
恵里香は目を瞑り、耐える様に声を絞り出した。


恵里香
「…ダメなんだ」
「ボクは、ボクの為に雫の力は使ってほしくない」
「その力は実質有限だ…決して無限に使えるものじゃないんだから」


「…バカ」

恵里香
「…あ」


恵里香は自分で言って、しまった…という顔をする。
俺は顔を押さえ、ふたりの顔を見た。


華澄
「有限…」

女胤
「成る程、そんなに上手い話があるわけ無いとは思いましたが…」


「知らない方が楽だったんだがな…」
「どの道、コンティニューしたら俺と恵里香以外の記憶はリセットされるんだから…」


最果てにいる者は雫の概念を直接受けない。
コンティニューの際には俺だけが最果てに戻り、恵里香の世界送りでコンティニューポイントに送り込むという形だ。

その際、当然俺以外の連中は俺がコンティニューした事には気付くわけもない。
俺だけが、その後の展開を読めるって訳だな。
ただ、この場合守連たち全員で一緒に送られてコンティニューした場合どうなるのか?って所なんだが…
まぁ、それもやってみなきゃ解らない。
どっちにしても、可能ならノーコンが基本だ。
コンティニュー前提の作戦なんて、わざわざ立てる必要は無い。


華澄
「…やはり、可能な限り1発勝負ですな」

女胤
「ええ、ある程度の失敗は許されるとしても、それは決してプラマイ0には出来ない…」


「難易度の高いやり込みなのは百も承知だ」
「だけど、俺たちは必ず成し遂げなきゃならない」
「俺は、皆と約束した…必ず再会しようと」


俺の言葉に華澄と女胤は頷く。
恵里香はニコニコしながらその光景を見ていた。
最終的に恵里香をどうするかは、雫の濁り次第か。
出来れば、こんな所からは連れ出してやりたい。
全てが終われば、もう2度とここに来る事は無いだろうからな…

この世界は、あくまで全てが滅んで辿り着く最後の世界。
アルセウスが倒れ、滅びの未来が改変されれば、恐らくここは俺たちの世界線から隔絶される。
つまり、恵里香も2度と俺へ言葉を届ける事も出来なくなるだろう…
恵里香も、それは解っているはず。
だからこそ、一瞬つらそうな顔を見せたんだろうな…


恵里香
「さぁ、そろそろ阿須那ちゃんを助けに行こう」
「…あの世界だ、あそこが阿須那ちゃんのいる世界」


恵里香は阿須那の世界を指差す。
俺はそこに繋がる光の道筋をゆっくり歩き始めた。
華澄と女胤は心配そうにしてるが、俺は何も言わずに歩く。
阿須那は必ず連れ帰る。
もう、ラッキーは続かないかもしれない。
だけど、それでも何とかするのが、今の俺の役目だ…










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第3話 『進撃のジガルデを屠る、黒刃の弓矢』


To be continued…

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