第5章 第2話

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読了時間目安:50分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「夢…夢を見ている……」
「だから泣けってんだコノヤロウ!!」

恵里香
「ふふふ、もうすっかりやる気だね♪」


俺のネタに対し、恵里香は口元に手を当てて笑っている。
チクショウ…何だかネタを外したみたいでハズイな…。
とはいえ、俺は気を取り直して恵里香に確認を取る事にした。



「…恵里香、守連たちの世界は解ってるのか?」

恵里香
「当然だよ、ボクはキミの嫁だよ?」


「それは、失敗して諦めた時だけの約束だ!」
「今度の俺はひと味違う!」


俺はそう言って強く出る。
ちなみに、この約束は俺が勝てなくて諦めた時、恵里香を嫁にして永遠にこの最果てで暮らそうという口約束だ。
まぁ、前の時は絶望して反故にしたんだけどな…つか、あれはまだ小学6年の時だっての!
コイツも根に持ってるのか、相当執着してそうだが。


恵里香
「ふふ、ボクはどの道ここからは2度と他の世界へは行けない」
「キミが諦めても、ボクは一行に構わないけどね?」
「…もちろん約束さえ守ってくれるなら、だけど」
「ここなら、愛もずっと永遠だから…」


時空の最果て…またの名を歴史の終着点。
暴走し、闇堕ちしたアルセウスが全ての並行世界を消滅させた、何の救いも無い世界の果て。
俺は以前、奴に挑んで無惨にも敗北を繰り返し、諦めた。
そして全てに絶望し、恵里香をも見捨て…最終的に自ら命を絶ったんだ。
俺は、弱すぎたんだな…それであんなクソみたいな世界を作って、ただ幸せな夢だけを見ていた。

世界の理…俺が今まで救い、慕ってくれたヒロインたちが、先着4名で俺と家族になれるハッピーチケット。
ただ、あの理には沢山の穴が存在した。
俺が詳細なルールを指定しなかったせいで、夢見の雫が勝手にルール設定し、理はあまりに残酷なルールになってしまったのだ…

まず、ヒロインは5人以降も入場は可能。
しかし理により5人目以降は、俺に明確な恋心を抱いた時点で強制排除されるクソシステムが邪魔をする。
排除された物は存在自体をその世界から無かった事にされ、失敗した者は元の滅びが確定した世界に戻されるのだ。

あの世界での俺は、それまでの記憶をほとんど無くしており、その記憶を呼び覚ます可能性も排除対象と設定されていた。
この辺りも、雫が勝手に制定した制限ルールだな。
俺の記憶が戻る事で、世界を壊してしまわない様にと、雫の防衛システムでもあったのだろう。

他にも、俺に世界のルール内容を説明したり、現実の記憶を呼び覚ます可能性のあるワードを話すと、消滅してしまう。
現にユクシーちゃんは、これで自ら消えていった…



「…恵里香、まずは俺を1発殴ってくれ」
「……死なない範囲で」

恵里香
「…随分、酷な要求だね」
「ボク、これでも華澄ちゃんよりかは力あるよ?」


「すみません…やっぱ優しくお願いします!」


俺はあっさり恐怖に負ける。
いや、こんな豆腐メンタルでアルセウスに挑むとかあり得ねぇんだが…
恐い物は怖いのだ!!


バシィインッ!!



「ぶべらぁっ!?」


恵里香は不意打ちで容赦無く俺の横っ面をビンタする。
俺は意識の外から張り倒され、横回転で錐揉みしながらぶっ飛んだ。
画面端だったら容赦無く壁バウンドしてコンボに入られていた事だろう。
俺はそのまま1m程吹っ飛ばされてダウンした。
そして数秒後、ヨロヨロと起き上がり…



「不意打ちは酷くありません恵里香さん!?」

恵里香
「だって、歯を食い縛って耐えられたら面白くないし~♪」


本当に楽しそうに恵里香は笑う。
くっそ~遊んでやがるな…
いくらこの世界では体は傷付かないからって、精神的にはキツいんだぞ…?

ちなみに補足説明すると、この世界での俺たちはいわゆる精神体、魂だけの状態…みたいな感じになっているのだ。
肉体自体あるにはあるんだが、この世界ではそういった概念は酷く曖昧で、よく解らない状態って事らしいんだが…
恵里香いわく、無敵であり無防備…だそうで、俺にはやっぱりよく解らん!



「ったく、久し振りだからって浮かれてないか?」

恵里香
「えーそりゃ浮かれるよ~、だってボクの聖君がやっと復活してくれたんだから♪」


そう言って両腕を腰の後に回し、ニコやかな笑顔を見せる恵里香。
そんなに嬉しかったのかよ…?
前にここで会った時なんて、無愛想で無感情で愛呂恵さんと良い勝負だったのにな…
コイツは俺と出逢ってしまった事で、こんな何も無い暗黒の世界で永遠を共にしなければならなくなった。
そりゃ、数えるのも面倒な程の年月をここで過ごせば、無感情になっても仕方無かったんだろうが…

俺がこうやってネタとかを交わしてやる内に、コイツは次第に感情を取り戻していったんだ。
その甲斐あって、今はこんなにも屈託無く笑ってくれる様にもなったんだが…
まぁそれも、俺が逃げるまでだったんだろうな。


恵里香
「それじゃあ、そろそろ真面目にやろうか? で、誰から救う?」


「ちなみに難易度分けとかあるのか?」


俺が冗談混じりにそう聞くと、恵里香はウーンと唸り。


恵里香
「お勧めは女胤ちゃん、華澄ちゃん、阿須那ちゃん、守連ちゃんの順番かな?」


「…理由はあるんだろうな?」

恵里香
「大人の事情」


「シナリオの固定化は一本道過ぎて批判されると思います!!」


俺はビシッ!と手を上に上げてツッコムが、恵里香は半分冗談だった様で、口元に手を当ててウインクした。
そして、恵里香はそれなりに真面目な顔でこう続ける。


恵里香
「まぁ、その方が順番的にドラマチックかなぁ~?って」


「…成る程ね、まっロマンと解釈しておこう!」
「じゃあ、早速頼めるか?」


俺が促すと、恵里香はもちろん♪と、笑顔で能力を発動させる。
時渡りの力を失った恵里香が、代わりにこの世界で得た新たなる能力。
世界送り(ワールドメール)…それは、全ての世界が最終的にこの世界に収束する世界線を利用して生まれた能力…だそうだが。

恵里香はこの世界から、自由に誰かを別の並行世界に送り込む事が出来るのだ。
移動だけなら俺の夢見の雫でも可能だが、これだと俺は何かを犠牲にしないとならないという大欠陥があるからな…
雫の仕様は未だに不明な点が多く、みだらに使うのはあまりに危険すぎる。
だからこそ、ここでは恵里香の世界送りが必要となるんだ。
もっとも、この能力では恵里香自身を遅れないのが欠陥なんだがな…
どの道、恵里香はここに居続けるしかないってわけだ。


恵里香
「…あれだよ、あそこが女胤ちゃんの世界だ」


恵里香が指差す先、そこには光の道筋が走っている。
そして、その先にはうっすらと世界が見えた。
この世界では、全ての同一時間軸にある並行世界の過去がランダムに映されてる。
これも恵里香の世界送りの応用で映し出された映像だそうだ。

恵里香はこの世界から繋がる、あらゆる同一時間軸の並行世界に誰かを送り込めるが、その道筋を使って並行世界の状況も視る事も出来るのだ。



「なぁ、恵里香は俺の造った世界も見ていたのか?」

恵里香
「…うん、でもその意味は解ってるんだよね?」


見えていた…という事は、あの幸せな夢の世界も、やがてはこの世界に繋がるって事だ…
つまり、どう足掻いたって幸せな未来なんて何も無かったって事か…
こんな、無意味な事なんて無いよな…

パルキアさんたちは、本当に無意味な事をしようとしていた。
だけど、俺はパルキアさんたちに勇気を貰った。
パルキアさんたちは報われなかったかもしれない…だけど、その生き様は決して無意味なんかじゃない!
無意味な84日にしてはならない!!

俺は強く決意し、女胤の世界に向かって走る。
やがて、その世界の入り口に近付くにつれて、俺の体が光の粒子となっていく。
そして、俺は世界送りによって並行世界へと突入した。



………………………




「…くっ」


気が付くと俺は倒れている様だった。
どうやら目的の世界に辿り着いたらしいが、ここは荒野か?
俺は起き上がって周りを見るが、そこは酷く荒廃している。
既に未来が奪われる予定の並行世界…
そんな世界で、今もなお女胤は戦い続けている。
だけど、アイツが勝つ未来はここには存在しない…だからこそ、俺が介入して救ってやらなきゃならないんだ!

以前は、誰も救えずに諦めた…
だが、今度はあの時の様な弱い子供じゃない!
俺は何度でも立ち上がって必ず救ってやる!!



「とはいえ、我武者羅に歩いても目的地には着かない、か…」


俺はそう思い、ポケットからスマホを出す。
当然もう電池切れで電源すら入らない役立たずだが、一応ネタ的な意味でも使い道はある。



「…ああ、俺だ」
「何とか女胤の世界に入る事は出来た…だが、すぐに奴らに気付かれるだろう」
「大丈夫だ、こっちの事は心配するな…これも、○ュタインズゲートの選択だ」
「○ル・プサイ・コングルゥ…」

恵里香
『あっはは、聖君程厨二病が似合わない主人公は中々いないね~』


そうネタを返される。
実は、恵里香は自分を送る事は出来ない物の、自分の体以外の物は送れるのだ。
この声もまさにそれ。
声も所詮は音の塊だから、体の一部じゃない。
よって、自由に送り込めると言うわけだな。
ただ、ざっくりとした場所に音を送ってもそうそう聞こえないのが人間の聴覚。
故に、俺はスマホを媒体にして、そのスピーカーに音を送ってもらう様にしているのだ。
これなら、恵里香も声を送りやすい様で、正確に会話する事が出来る。



「で、方角的にはどっちだ?」
「つーか、以前の記憶とは大分違う世界に感じるが…」

恵里香
『そうだね、キミが高校生になって少し齟齬が生まれたのかも』
『基本的には変わらないはずだけど、もしかしたらアルセウス側が何か対策を敷いている可能性もある』
『気を付けて進んで…絶対に敵に見付かっちゃダメだよ?』
『…方角は、そのまま真っ直ぐ進めば良い』
『やがて、森が見えるはずだ』


俺はスマホを耳から離し、走り始める。
まずは森って事だが、前もそうだった気はするな。
という事は、そこで女胤とアルセウスの部下が戦ってるのか?
このミッションは、正直相当無茶だ。
何せ戦闘能力皆無の俺が、女胤を救出して恵里香の元に送り届けなければならない。

つまり、ベストとしては敵に1度も見付からずに女胤と合流し、後は俺の雫の力で恵里香の世界に戻る。
本来なら雫の使用はリスクを伴うが、最果てへの世界移動が対象の場合だけ、何故かそのルールが適用されない…っぽい。
理由は恵里香でも全く解らないそうだが、最果ての特殊過ぎる環境では、雫の機能も正常動作していないのかもしれない…って推測はしてたな。

とにかく、ミッションはそういう内容!
以前は誰も救えずに諦めたが、今度はどうなるやら…?
まぁ、夢見の雫がある限り、俺は何度でも恵里香の所に戻ってここに返って来れるからな…
さて、ますは森だ!!



………………………




「ふぅ…ふぅ…あれか?」

恵里香
『そうだよ…ただ、何かがおかしい、妙な感じがする』
『以前感じた存在じゃない…?』


恵里香は俺を通して向こうからここを見ている。
で、恵里香の持つ超能力を介して索敵出来るんだが…
珍しく曖昧な言い方だな…



「どうする? 入って良いのか?」

恵里香
『…うん、その方が良いね』
『どうやらボクの杞憂だったみたい…ふふ、そういう事だったのか』


何だか、急に楽しそうに恵里香は笑った。
何だよ気になるじゃないか…


恵里香
『大丈夫、その先にいるのは敵じゃない』
『むしろ、心強い味方だよ…以前は存在しなかった味方』


「えっ…? 味方…解るのか!?」

恵里香
『うん、キミは覚えてないだろうけど…』
『大丈夫、会えばきっと思い出すよ』
『パルキアたちの事を思い出した様に、きっと彼女たちの事も…』


どうやら、俺が過去に出会った誰からしい。
だが、俺は忘れている…? 会えば思い出す、か。



「なら、早速思い出しに行こうじゃないか!!」


俺はそう思い、意気揚々と森の中に突入した。
鬱蒼と繁る大森林の中、俺は道無き道を歩いて行く。



………………………




「くっそ、どこにいるんだその味方は?」


俺は足場の悪い木々の間を上手く抜けて行く。
だが、視界は悪く状況は最悪だった。
そして、俺は何かの気配を感じる。
…これは、人の気配!?



「おい、何でここに人がいる!?」

恵里香
『あれはポケモンだよ、人化した』


俺はギョッとする。
ここは、かつて俺がポケモンになって救ったはずの、ポケモンたちの世界だ。
つまり、ここに住んでいる住民は、基本的にフツーの姿のポケモンのはず。
なのに、人化してるってのか!?


恵里香
『…これは推測でしかないけど』
『キミがあのクソ世界で皆を人化させた事が、何かの引き金になったのかもしれない』


「…バカな、理の力はあの世界だけのルールのはずだろ?」

恵里香
『だけど、現にポケモン娘はここにいる』


確かにその通りだ。
俺は訳が解らなくなってきた、恵里香も違和感はあった様だが、こういう事だったのか?



「で、あれが味方さんかい?」


俺は遠目に見えるふたりのポケモン人間を見て、恵里香に聞く。
一応、木に隠れる様にして見ており、まだ相手に発見はされてないはず。


恵里香
『いや、そのふたりじゃない』
『気を付けるんだ、あれは敵だよ!』


俺は言われて体を震わせる。
マジか…敵かよ。
だけど、それも妙だ。
以前、敵はボスひとりだけだった。
他のポケモンも確かにいたが、明確に敵と呼べる様な相手はいなかったのだ。
俺は、特に気を引き締めて相手をまず確認する。

見た所、片方は赤い炎タイプの様だ。
両手が異様に長い、膝の下辺りまである。
相当な筋肉の様で、服の様な物は纏っておらず、分厚い毛で局部を隠している感じだ。
守連たちとはえらい違いだな。
アイツ等は少なくとも最初から服着てたんだが…
これじゃポケモン人間と言うより単なる獣人だな…


恵里香
『相手はヒヒダルマとペンドラーだ』
『どちらもパワーとスピードがある、絶対に近付いちゃダメだよ!?』
『もうすぐ、味方が駆け付けてくれるはずだから、何とかやり過ごすんだ!』


恵里香のナビを聞き、俺はスマホを胸ポケットに仕舞って相手から離れる。
が、既にそれが不味かった…


バキッ!


ペンドラー
「!?」


グルリと勢い良くペンドラーらしき男の顔が向く。
毒々しい色で、感情の無い瞳が空恐ろしく感じた。
そして、あの異形の下半身…まさにムカデだな。
ペンドラーの腰から下はムカデの体の様になっており、異様な蠢きで足場の悪い木々の間を高速で駆け抜けて来た。
恐いなんてもんじゃない!!

何で、敵の奴らはこうまで異形の人化を遂げているんだ!?
しかし、実に理には適っている!
人間の足であの機動力は絶対に出せない!
俺はその場から離れようとするが、いかんせんペンドラーが速すぎた!
俺は為す術無く追い付かれ、ペンドラーに飛び掛かられる。



「はぁぁっ!!」


ドゴァァァァッ!!と、突如爆炎が迸る。
俺に飛び掛かろうとしたペンドラーは、その炎によって空中で爆散した。
俺は何が何だか良く解らず、バラバラになったペンドラーの成の果てを見て腰を抜かす。
そして、俺に声をかけるのは謎の白い女性…



「聖殿、お久し振りです」


「あ…?」


俺は彼女を見て、脳内に何かが走るのを感じる。
その女性はとても綺麗な翼と顔立ちで、ハイレグの様な白い服。
特徴的な大きい尻尾をモーターの様に回転させ、それを赤く輝かせていた。
俺は、そんな女性にこう告げる。



「レシラム!? どうしてここに!?」


そう、レシラムだ!
あのクソ世界で出逢い、そして理によって消えてしまった友人。
俺はあまりの事に思考が追い付かず、ただその場であたふたするだけだった。


レシラム
「ここは、我とゼクロムが住んでいた世界ですよ?」
「そして、女胤殿も…」


「そうだったのか…だけど、やっぱりお前らも人化したままなんだな?」


少なくとも、俺の目の前にいるレシラムは、間違いなくクソ世界で見たレシラムだ。
いや、微妙には違うか? 何だか、以前より大人っぽくなってる気もする。
身長も少し伸びてるみたいだし、もしかして年齢が違うのか?


レシラム
「我々が元の世界に戻った時、理由は解りませんが、以前の記憶を継承したままでした」
「そしてその時、既にこの世界はこの様に変わっていたのです」


「変わっていた?」

レシラム
「はい、この世界に住む、全てのポケモンが人化していたのです」


何だって…? じゃあ、やっぱりそれは夢見の雫の副作用なのか?
世界の理でレシラムたちが消された際、記憶も人化もそのままに、世界観すら変化してしまったのかもしれない…



(だとしたら、世界の方が無理矢理修正したって可能性もあるか…)


フィクション作品ではよくある設定だ。
誰かが異世界に行って、変化して戻って来たら、元の世界が勝手に辻褄合わせをしてしまうって現象。
この場合は、女胤やレシラム、ゼクロムの変化に合わせて世界が修正を加えたと見るべきか…


レシラム
「我々が、あの世界からここに戻り、もう3年は経っています」
「そして今、私はここにいられるのです…」


「3年!? でも、俺がガキの時、ここに来てお前たちは見かけなかったぞ?」

レシラム
「そうでしょう…何故ならばその時、今から約3年前に、我々は死んでいましたので」


その言葉に俺は衝撃を受ける。
レシラムたちは、本来この世界においては3年前の時点で死んでいる存在だったという。
だけど、まだ生きている内にたまたま俺の夢の世界へ来て、そしてその結果、歴史自体が変わってしまったと…?


ヒヒダルマ
「ごおぁぁぁっ!!」


ドバァァァンッ!!


気が付くと、ヒヒダルマがいつの間にか接近して飛び掛かって来ていた。
だが、レシラムは意に介する事無く右手を上に振り、ヒヒダルマを爆散させる。
全く情け容赦は無いな…ヒヒダルマも爆炎でバラバラになってしまった。
ヘタに人化してるせいで、いくら敵とはいえ、少々精神的に来る…


レシラム
「聖殿、ここからは我が護衛いたします」
「ゼクロムもすぐ近くにいますので、まずは合流しましょう」


レシラムは真面目にそう言う。
な、何か全然印象が違うな…? 前は桃色脳ミソでエロネタしかマトモにイメージ無かったのに。
3年もあれば、人は変わる…か?
とはいえ、これはこれでやっぱりレシラムの美貌スペックの高さをまざまざと感じる。
真面目にしてれば、これ程綺麗な人はそうそういないだろう。



「そういえば、3年って言ってたけど…俺が1度救った時は何年前だったんだ?」

レシラム
「あの時は、確か5年程前ですね」
「懐かしく感じます…我も聖殿と共に戦って」
「聖殿のパートナーである女胤殿には、よくゼクロムと一緒に嫉妬してました…」


そんな事考えてたのか…
俺も流石に色々救い過ぎて、詳細はあんまり覚えてないんだよな~
あの時の俺を本気でぶん殴ってやりたい気持ちだ。
あんな軽率な事しなきゃ、こんな事態にはならなかったろうに…


レシラム
「我は、感謝しています」
「滅びかけていた、この世界を救ってくれた事を…」
「そして、また聖殿はこの世界を救う為に駆けつけてくれた」
「今度は、我々が恩を返す番!」
「この3年、鍛えに鍛えた技を持ちて、必ず聖殿に真実の勝利を導きましょう!!」


そう言ってレシラムは俺の前で片膝を着き、まるで西洋騎士の様な敬礼をする。
心強い味方だった。
この状況で、これ程頼もしい味方はいない。
過去の俺は、余計な事ばかりをしたと思ってた。
でも、それは違ったのかもしれない。
俺は確かに軽率だったかもしれないけれど、それでも救われた人はここにいたんだ。
それを噛み締めると、俺は泣きそうになるが拳を固く握って我慢する。
泣くのは、ちゃんと成功して終わった後だ。



………………………



レシラム
「はぁっ!」


ドォンッ! ゴオァッ! ドジュゥゥゥッ!!


凄まじい爆炎が、群がる敵を次々に吹っ飛ばして行く。
森はかなり焼け落ちているが、大丈夫なのだろうか?
生態系が崩れなきゃ良いが…


レシラム
「ゼクロム!」

ゼクロム
「おっ、来たな~!」


「ゼクロム! お前も元気そうだな!」


あれから更に体付きの良くなったゼクロムを見て、俺は笑う。
性格は相変わらずの様で、落ち着きはあまり無い様だ。
前と同様、マイクロビキニでかなり露出度は際どいが、コイツの性格だと余りエロく感じないのはある意味個性なんだろうな…



「どうだ? いい加減ジムリーダー全員倒せる位には強くなったか?」

ゼクロム
「ハッハッハッ! 今なら強化四天王でも無双してやるさ!」


成る程、これは相当自信があるみたいだ。
こっちも十分な頼もしさだな…後は女胤を何とか救出出来れば良いんだが。



「レシラム、この森で女胤は見たか?」

レシラム
「いえ、少なくとも聖殿に会うまでには見かけませんでしたが」

ゼクロム
「こっちも見てないぜ? この森にはいないんじゃないのか?」


俺はふたりの言葉を聞き、スマホを取り出す。
そして、1度恵里香に確認を取った。



「恵里香は解るか?」

恵里香
『…確かに、この森にはいないかもしれないね』
『ボクの探知範囲だと、精々解るのはキミの周囲1km位まで』
『この森はそこまで広いわけじゃないけど、女胤ちゃんの存在は検知出来なかったよ』


という事は、ゼクロムの言う様にこの森にはいないのか?
となると、大分歴史が変わっているみたいだ。
本来死んでいるはずのレシラムとゼクロムが生きている以上、当然と言えば当然なんだが。



「よしっ、思い切ってここを出よう! 女胤は別の所にいる可能性が高い」

レシラム
「はい、聖殿の為であれば何処へでも!」

ゼクロム
「ひっさし振りに大暴れ出来そうだ♪」


俺たちは3人で手を合わせ、一致団結しこの森を抜ける事にした。
しかし、相当数の敵が俺たちに襲いかかって来る。
それらは、いずれも人間味を感じない姿のポケモンたちばかりだった。
あれも、アルセウスの暴走の影響なのだろうか?



………………………




「ふぅ…大分歩いたけど」

恵里香
『まだ、探知出来ないね…そこの近くには何がある?』


「近くって、言われてもなぁ~」


俺はグルリと周囲を見渡すが、ほとんど荒野か切り立った山ばかりだ。
敵から隠れる場所も無く、唐突に襲われるのは心臓に悪い。
幸い、レシラムとゼクロムが規格外に強い為、苦戦はまるで無いが。



「レシラム、この辺りで何か有名な場所はあるか?」

レシラム
「そう、ですね…強いて言うなら、ここから真っ直ぐ進むといずれ雪山に辿り着きますが」


「雪山が~? こんな乾燥した荒野にか?」

ゼクロム
「そこにゃキュレムの野郎がいるからな…」


キュレムと来たか…成る程、ソイツは大物だ。
確かに山のひとつやふたつは軽く凍らせてしまえるだろう。
それなりに曰く付きな気もするし、当たりの可能性は高いか。


恵里香
『可能性は高そうだね…キュレムがボスかもしれない』


「解るのか?」

恵里香
『もちろん、確信は何も無い』
『ただ、ここでレシラムとゼクロムの増援』
『そしてふたりに関連のあるキュレム、ちょっと偶然とは思い難い…』


確かに、出来すぎてる気もするな。
キュレムはレシラム、ゼクロムと融合が出来る。
最悪、取り込まれる可能性もあるのか…?


レシラム
「聖殿、我々の事なら心配いりません」

ゼクロム
「おう! 俺たちがいる限り、キュレムなんかにゃ絶対負けねぇ!」


心強い台詞だ。
なら、俺はコイツ等を信じるだけだ!
俺たちの目的地は決まった。
女胤がいるかどうかは解らないが、まずはキュレムに会いに行こう!


レシラム
「あ、あの…聖殿」


「ん? どうしたレシラム」


レシラムは突然顔を赤くしてモジモジしていた。
何やら恥ずかしそうだが、尿意でも催したのだろうか?
だとすると、ここは空気を読んでやるのが紳士だな。



「とりあえず、待ってるから行ってこいよ」

レシラム
「あ、いや、そうではなく! あの、その…!」

ゼクロム
「んなもんハッキリ言えよ? なぁ聖、俺たちにも名前くれよ!?」


ハッキリしないレシラムに我慢が出来なくなったのか、ゼクロムが代わりにそう言った。
成る程、それであんなに恥ずかしがってたのか。
3年もあれば恥じらいも覚える…成長したなレシラム!
まぁ、こう言われては俺も真面目に考えざるをえない!!



「じゃあ、アデクとゲーチスだな!」

ゼクロム
「待てい!! 流石にそれは全力で遠慮する!!」


ゼクロムはすかさず右手を上げて異論を唱えた。
ちっ、流石にマトモな感性は持ってたか…
しゃあねぇな…とりあえずマシそうなのなら。



「なら、レシラムは『騰湖』(とうこ)で、ゼクロムは『鳴』(めい)だ!」

レシラム
「は、はい! やった…我にも名前が」

ゼクロム
「可愛い名前で嬉しいぜ♪」


ふたりとも、とりあえずは満足の様だった。
しっかし、やっぱり女胤や恵里香が羨ましかったのかな?
過去にも女胤に嫉妬してたって言ってたし、やっぱり女の子としては張り合いたいのかもしれない。


騰湖
「では、これより我は騰湖!」


「俺は鳴だ!!」

騰湖
「これからも、愛する聖殿の為!」


「粉骨砕身、尽くして見せるぜ!」


ふたりは強くそう言って俺に敬礼した。
う~む、やっぱコイツ等は騎士道的な何かを感じるな。
まぁ、原作ゲームのイッシュ地方もそんな感じのオマージュはあったし、間違ってはいないのか。
とにかく、更に絆を深めた俺たちは、一路キュレムのいる雪山に向かうのだった…



………………………




「フハハハハッ! 俺にあるのは制圧前進のみ!! 」
「どこからでもかかって来るが良い!!」

騰湖
「はぁっ!!」

「うりゃあっ!!」


とはいえ、俺が何もせずとも、騰湖と鳴がザコは薙ぎ倒していく。
あれから1時間以上経ち、大体100近くの敵を倒したが、ふたりは大丈夫なのだろうか?



「騰湖、鳴! 体力は大丈夫か?」

騰湖
「はいっ、問題はありません!」


「まだまだ大丈夫だぜ!」


ふたりの体力は確かに大丈夫そうだが、まだ雪山にすら突入出来ていない。
このまま進めるのか、正直不安ではある。



………………………



恵里香
『…不安だね』


「…お前もそう思うか?」


休憩中、俺は恵里香と通信していると、恵里香はそう不安の声をあげた。
ここまで、いくらなんでも敵が多すぎる。
あからさまに騰湖と鳴を消耗させようとするかの様な布陣に感じたのだ。
いくらザコとはいえ、ほとんどは最終進化系…積み重ねれば、疲労もバカにならないはず。



「騰湖、鳴! 無理をせずに一旦休もう!」
「いくら体力はあっても、技は無限に使えるわけじゃないんだから…」

騰湖
「はい、聖殿がそう言われるのでしたら」


「俺も異存は無いぜっ」


ふたりとも汗はそれなりにかいている。
どこか水浴びでも出来れば良いんだがな…
食料問題もあるし、安全に休める場所も必要だ。



「恵里香、近くに水源はあるか?」

恵里香
『そうだね、進行方向から右に向かえば川があるはずだ』
『その近くには洞窟もあるし、そこなら敵の気配も無さそうだ』


成る程、休憩には持って来いだな。
俺は騰湖たちに指示を出し、早速川の方へ向かう事にした。



………………………




「っかぁ~! 水の冷たさが結構キツいな…」

騰湖
「我々はドラゴンだからな…雪山に近付いているだけあって、この川も相当水温が低いのだろう」


ちなみに、今この場に聖殿はいない。
我々に気を遣ってくれており、今は洞窟で待機してくれているのだ。
故に、我等は気兼ね無く裸で水浴びをしていた。



「聖って、案外恥ずかしがり屋だよな…」

騰湖
「うむ、聖殿はこういった情欲をそそる展開が苦手と思えるからな」
「まさか、自らの性器に何かコンプレックスでも!?」


「いや~そういうわけじゃ無いと思うけど…」


鳴は否定的だが、聖殿も年頃の男性!
今や18歳の姉となった我が、聖殿をしっかりと癒してさしあげなければ!!


騰湖
「となれば、いざ!」


「おいおい! 服着ろって!!」


そして、我は裸のまま聖殿のいる洞窟に吶喊した。
鳴が後で何か叫んでいたが、今の我には聞こえていない。



………………………




「うわ…意外と狭いな」
「まぁ、とりあえず薪はこんなモンで良いだろう」


俺は近くに小さな森を見付け、そこで薪になりそうな物を集めて来た。
思ったよりもこの辺りは安全な様で、恵里香の探知にも敵の気配は引っ掛からなかった様だ。


恵里香
『とりあえず注意はしなよ?』
『ボクが敵として感知してなくても、何があるか解らないんだから』


「解ってる、何かあったらすぐに騰湖たちに頼るさ」
「ふたりともそんなに遠くにはいないし、とりあえず大丈夫だろ」


俺が安心しきった声でそう言うと、恵里香は少々不安そうだった。
まぁ、気が抜けないのは確かだからな。
恵里香の探知に引っ掛からない様なポケモンも、もしかしたらいるかもしれないし。
その時は、潔くコンティニューも視野に入れるしかない。
とにかく、今は騰湖たちの回復だ。
今後もあれだけの戦闘が起これば、ボス到達前に息切れしちまう。
雪山自体はもう近くまで来ているはず。
後は、こういった休憩ポイントがしっかりあれば楽なんだが…


騰湖
「聖殿! この我にお任せを!!」
「必ずや聖殿のコンプレックスを癒してさしあげましょう!!」


「………」


俺が振り返った先には、素っ裸の騰湖がドドーン!と、まるで効果音でも鳴りそうな雰囲気で、堂々と立っていた。
騰湖は両手を広げ、今にもこちらに飛び込んで来そうな状況に、俺は超高速で思考を回転させた。



三択問題です、以下の選択肢から正しい答えを選びなさい。

①ハンサムな聖君は咄嗟に反撃のアイデアを閃く
②鳴が颯爽と登場し助けてくれる
③逃げられない、現実は非情である




(俺が個人的に○をつけたいのは②だが、恐らく期待は出来ない…)
(と、なればここはやはり①だぜーーー!!)
「あ、○リーザ様!?」

騰湖
「何っ!?」


騰湖はネタに反応して勢い良く後を向く
俺はこの瞬間に匍匐前進で洞窟の奥に逃げ込んだ。
そんなに広くはないが、暗闇で向こうからは一見何も見えないはず。
後は鳴が助けに来てくれるのを祈るしかない!!



(と、とにかく間に合ってくれ鳴!)


むにゅ…


俺は匍匐前進で進んでいると、そんな柔肌の様な感触を腕に感じる。
俺は気になってそれを手で触ってみると、何やら髪の毛の様な物が確認出来た。



(ん? 髪の毛?)


そう、髪の毛だ。
しかし、地面から数㎝の高さに生えている髪の毛を、髪の毛と言って良いのだろうか?
となると、何かの毛皮か……


ビビビビビッ!



「アバババババババババッ!?!?」

騰湖
「さ、聖殿!?」


突然の電撃。
だが、体が焼け焦げる様な電気ではなく、俺は全身が痺れるだけだった。
強いて例を挙げるなら…電気ウナギにやられた様なので。


騰湖
「と、とりあえず炎で灯りを…ってうわぁっ!?」


「おーい、何やってんだよ~ってぇ何だぁコイツ!?」
「ペラッペラじゃねぇか!!」


そう、どうやら俺がやられたのは、ペラッペラのポケモン人間らしい。
騰湖は炎で洞窟を照らした所、その姿が露になって驚いていた。
そして、俺は体を痺れさせながらこう聞く。



「お、お前…何者だ?」


「まっ…ぎょっ」


それを聞いて、俺は納得した。
ここでトラップポケモンとはな…やられたぜ。



………………………




「で、何でまたこんな奇っ怪な姿になるかなぁ~?」

マッギョ
「…ぎょっ」


とりあえず、俺たちは洞窟の奥で薪を焚いて暖まっていた。
マッギョも敵意は全く無いらしく、基本的には大人しいものだ。
しかし、驚くべきはこの姿。
あまりにも説明し難いが、一言で言うならペラッペラ。
人間を無理矢理平べったく伸ばした様な姿なのだ。

マッギョは今、うつ伏せで寝ている感じなのだが、顔は真上を向いており、表情は潰れていて筆舌に尽くしがたい。
もはや骨と言える物は存在しないのでは?とさえ思える。

しかし、こんなのでもマッギョはちゃんと生きたポケモン娘で、感覚もあれば感情もちゃんとある様だった。
問題は会話が成り立たない所だな…

ちなみに服は着ていない…っていうか着れないだろ?コレ。
一応視覚的には背中側から見ている形になるのだが、尻の辺りには魚らしい尾ビレが付いている、エロさは皆無すぎだな…
つーか、これで発情するのは超上級者だろう…女胤も裸足で逃げる難易度だ。



「とりあえず、焼き魚位ならあるけど、お前も食うか?」

マッギョ
「…ぎょっ」


全く解らない。
だが、俺が口らしき場所に魚を近付けてやると、マッギョは器用にペラペラの手を使って串を持った。
そして、ゆっくりとした手つきで魚をしっかり食べる。



「う、美味いか?」

マッギョ
「まっ…ぎょっ」


よく解らないが、多分美味しいと答えたのだと思う。
もう、俺にも訳が解らなくなってきた。


騰湖
「しかし、コイツはアルセウスの配下ではないのか?」


「まぁ、敵じゃなさそうではあるけどな~」


「恵里香も敵は感知出来ないって言ってたから、敵じゃ無いんだとは思うけど」


とにかく、マッギョから敵意は全く感じない。
俺が痺れさせられたのは、不用意に触れてしまったからだろうし。
今見てもマッギョは魚食ってボーッとしている。
筆舌に尽くしがたい表情だが、気持ち安心している様にも見えるな。



「恵里香、マッギョの心とか読める?」

恵里香
『流石にここからじゃ無理だよ…直接会えるならともかく』
『とりあえず、敵じゃないとは思うし、放っておいたら?』


「でも、アルセウスの配下じゃないなら、ひとりで置くのも何だかなぁ…」

恵里香
『やれやれ…キミならそう言うとは思ったけど、あまりフラグは立てすぎない方が良いよ?』
『もしかしたら、その娘も以前のパーティメンバーだったかもしれないし』


言われて俺は思い出そうとする。
が、流石に当時のパーティまでは思い出せない。
女胤をパートナーにしてた記憶はうっすらとあるが、他のメンバーは記憶に無いな~



「騰湖たちは、当時俺や女胤と一緒だったんだよな?」

騰湖
「当時とは、聖殿がポケモンになった時の事ですね?」
「そうです、ね…確かに我々は一時期共にいましたが」
「聖殿が最後の戦いに赴かれる際には、我々は一緒にはいなかったので…」


「そうなんだよな~だから、女胤以外のメンバーはちょっと解らないな…」


そうか、ふたりは最後の戦いにはいなかったのか。
となると、本当にコイツがそうだったのか?
まぁ、マッギョなら草タイプと相性補完も良いし、『放電』や『地震』は便利だから使いやすそうではあるけど。


マッギョ
「………」


「…全員氷弱点か」


つい冷静に考えてしまう。
まだ騰湖は炎で相殺出来るが、女胤含めても鳴もマッギョも弱点だ。
正直、かなりつらいんじゃないだろうか…キュレム戦。
いや、まだ敵と確定はしていないんだけど、ほぼそうだろうし。


騰湖
「極力、我が前衛でカバーしましょう」
「鳴の一撃があれば、キュレムとて大ダメージは必至のはず」


「問題はどうやって近付くかだな…多分スピードじゃ分が悪いぜ?」


「…レベル差がどこまであるかだな」
「騰湖たちは、今のレベルで女胤に勝てる自信はあるか?」


俺が確認の為そう聞いてやると、騰湖たちは考えるも、首を横に振った。
流石にそこまでの自信は無い…か。


騰湖
「タイプ相性で有利とはいえ、あれ程のレベルにはまだまだ我々は到達していないかと…」


「ふたりがかりならともかく、タイマンでやり合うとなると微妙だな…」


やはり、女胤のレベルはそれ程なのだ。
少なくとも、前にクソ世界で見た鳴の実力と今を比べても、比較にならない位強くなっているのは俺でも解る。
今の騰湖と鳴は、紛れもなく伝説のポケモンと言って恥の無い強さを身に付けているのだ。
その強さを持ってしても、女胤はまだ上。
そして、そんな女胤でもひとりでは勝てないキュレムか…


恵里香
『楽観視は出来ない…だけど、そこまで悲観的になる事も無いと思うよ?』


「…根拠は?」

恵里香
『女胤ちゃんがボスに敗北したのは、消耗させられていたからというのが理由の大半だ』
『もし万全の状態でなら、女胤ちゃんは多分勝てたはずだよ?』


成る程、女胤がたったひとりで戦うなら、そうなるのも必然だって事か。
事実、今も女胤はひとり孤独なのだろう。
きっと味方もロクに巻き込めず、全部ひとりで背負い込んで戦ってるんだろうな…
今の女胤は責任感も強いし、誰にも迷惑はかけられないと勝手に思ってるんだろう。
なまじ自分が強すぎるせいで、他の仲間は誰も誘わなかったに違いない。


騰湖
「…万全の状態なら、か」


「なら、こっちを消耗させようとしてる理由も解るな」


「ああ、マトモにやったら負けるって言っている様なもんだ」
「だったら、こっちも極力戦闘を避ける方向で行こう!」
「ボスまで駆け抜けたら、ザコは手出し出来ないのがRPGのテンプレだし!」


俺たちは頷き合った。
マッギョは…よく解らんが目元がキッとしている…様に見えた。
恐らく同意しているのだろう。
とりあえず、マッギョも仲間と思って良さそうだ。



「じゃあ、コイツも名前付けてやろうぜ?」
「やっぱ地面だし、サカキとか?」

騰湖
「いや、電気でもあるし、ここはテッセンだろう」

マッギョ
「………」


マッギョは少しバチチ…と放電していた。
気に入らなかったらしい…
しょうがないので、ここは俺がとびきりのセンスで名前をプレゼントしてやる事にしよう!



「喜久乃(きくの)はどうだ?」

マッギョ
「……♪」


どうやら気に入ったらしい…目元が緩んでる。
やっぱり感情はしっかりあるんだな。
とりあえず、今からこの娘は喜久乃だ!



「さて、もう夜遅いし皆眠っててくれ」
「俺が寝ずの番をやるよ…どうせ非戦闘員だし」

騰湖
「いや、ここは我が! 火を絶やすわけにもいきませんし…」


「それなら俺に任せとけって! 何かあっても全部蹴散らしてやる!」

騰湖
「そうか、ならばここは鳴に任せて我々は子作りしましょう!」
「鳴、ちゃんと見ておけよ!?」


「誰が許すかっ、この色ボケッ!!」


ドカァッ!と、ものスゴイ拳骨が騰湖の脳天を叩いた。
流石に効いた様で、騰湖は頭を抱えて悶絶している。
全く、変わった様で実は全然変わってないのか…?
単に普段は自制出来る様になっただけとは…
俺はため息を吐いて力を抜く。



「とりあえず、お前らが休め」
「ボス戦でPP足りませんでした、じゃ許さんぞ?」


俺が強めに睨んでやると、ふたりはバツが悪そうに納得した。
ふたりは最重要戦力だ。
このふたりを万全の状態でボスまで連れて行くのが1番勝率が高いのだから。


喜久乃
「………!」


バチバチバチィ!!



「うわっ!? 何だ?」


突然、喜久乃は全身から放電し、洞窟の入り口側に向かって電気を放った。
そして、その電気は網の様に変化し、まるで俺たちを護る様に天井、壁、床に引っ付いて蓋をする。
これ、もしかして『エレキネット』か?



「成る程…コレなら、皆安心して眠れるか…ありがとな喜久乃」

喜久乃
「…ぎょっ♪」


俺は優しく喜久乃の頭(額?)を撫でてやった。
喜久乃は嬉しそうに目元を緩めている…どうやら嬉しい様だ。
とりあえず、こうして俺たちはゆっくりと休み、次の日には万全の状態で雪山を目指す事が出来た。



………………………



騰湖
「見えた! あれがキュレムのいる雪山…」


「どうする? このまま正面から突っ込むのか!?」


俺たちは翌日、日も昇らぬ早朝から出発していた。
この時間は予想通り敵もあまり出て来ず、いくらアルセウス配下でも、人化したポケモンはやはり人間。
睡眠時間は取る必要があるのだと理解させられる。
そして、戦場において夜襲は基本。
敵はほとんど眠ってて、起きては来なかった様だな。



「大丈夫か喜久乃?」

喜久乃
「……ぎょっ」


俺は喜久乃をおんぶして運んでいた。
喜久乃の体はペラッペラに平べったいものの、体の大きさは人間にすると相当小さな娘の様で、体重はほとんど幼女の様な物だった。
まぁ、マッギョは図鑑でも11kgしかないし、元々こういう種族なのかもしれないが。
端から見たら、俺が喜久乃の皮を背中に羽織っている様に見える事だろう。
ちなみに、喜久乃の胸の感触は全く無い。
完全にペラッペラざます…萌え様が無い。
俺は喜久乃に両腕で俺の首にしがみつかせ、俺は空いた手でスマホを取り出した。



「どうだ恵里香?」

恵里香
『いる…間違いなく女胤だね、それも相当瀕死の』


俺はゾクッと背筋に悪寒が走る。
つまり、キュレムがボスなのは、ほぼ当たりって事だ。
恐らく女胤は勝てなかったのだろう…ただでさえ苦手な氷ドラゴンタイプ。
ましてアルセウス配下のキュレムなら、なおの事強いはず。
俺の脳裏に、女胤がボロボロになりながらも戦っている姿が浮かぶ。
今度こそ俺が、俺たちが助けてみせるぞ!!



「行くぞ皆!! 女胤を絶対に助ける!!」


俺たちは意志を固め、一致団結して雪山を一気に駆け抜けた。
ここから先は不気味な程に静かで、敵の気配も一切無い。
そして、登るにつれ気温が一気に下がっていく…
やがて吹雪も吹き始め、ここからがキュレムのテリトリーである『境界』だと感じる事が出来た。
『境界ポケモン』と言われるキュレム…一体どんなバケモノなのか…?


騰湖
「我が先行する! なるべく離れるな!!」


そう言って騰湖が尻尾を稼働させ、ターボブレイズを発動。
これにより、周りの気温が一気に上昇する。
俺たちは騰湖の後ろをピッタリと付いていき、山頂をひたすら目指した。



………………………




「!? 山頂だ!!」

騰湖
「いたぞ! キュレムに…女胤殿!!」


騰湖が叫ぶと同時、俺たちは一気に山頂へと辿り着く。
そこは半径100m程の開けた場所で、空は雪雲で覆われて雪が止めどなく降り注いでいた。
そして、キュレムから数m離れた場所に倒れる女胤の姿。
既に力尽きている様で、倒れた女胤の背中は雪で埋もれている。



「恵里香っ、女胤の容態は!?」

恵里香
『大丈夫、まだ辛うじて生きてる!!』
『だけど、時間は無い…このままじゃ遅からず凍死してしまう!』


「だったら先制攻撃だぁ! 騰湖、1発熱いのをくれてやれ!!」


俺が叫ぶと、騰湖は強く声をあげて呼応し、両手に強力な炎を集中させる。
その炎は蒼く、そして容易に人体など燃やし尽くすであろう火力が見て取れた。


騰湖
「我が『蒼い炎』! その身でとくと味わえ!!」


騰湖は棒立ちのキュレムに技を放つ。
それはまさに竜の吐息の如き、一見するとレーザーの様にも見えたそれは、約1秒程で着弾し、同時にキュレムを中心に蒼い炎の柱が立ち上がった。
その柱は空高く舞い上がり、雪雲すら吹き飛ばしてしまう。

その後、朝の光が若干差し込み、この周囲の気温は一気に上昇した。
女胤が被っていた雪も、一瞬で溶けてしまった様だ。



「よし、キュレムはどうだ!?」


俺がキュレムの存在を確認しようとすると、そこには驚愕の姿が見えた。
何と、キュレムはあの炎をフツーに耐えたのだ。
右手を軽く前に出したポーズで立っており、右腕は焼け焦げて痛々しい状態に見える。

キュレムの周りは大量の水蒸気で覆われており、キュレムの冷気とのぶつかり合いが凄まじかったのが、ひと目見て解る程だった。
俺はここで改めてキュレムの姿を見る。

身長はおよそ120cm程度の幼女体型。
髪は水色のセミロングで顔から感情は見て取れない。
そして、全身が氷の鎧で覆われている。
氷の鎧は青いが、透き通った様に透明度は高く、鎧の下に幼女の裸が完全に見えてしまっていた。
だが、エロい要素はまるで感じられない程の『プレッシャー』…
この状態じゃ、騰湖の蒼い炎も後2発が限界だろう。
しかも、正面からじゃ決定打にならないときた…!


キュレム
「……!」


キュレムは背中の翼を軽く振る。
その瞬間、周りが一気に凍り付いていく。
キュレムの焦げた右腕も完全に氷の鎧で覆われ、無理矢理痛みを遮断した様だ。


騰湖
「くっ、ならば今1度…!」


「退がれ騰湖ーーー!!」


俺は叫んで騰湖を止める。
俺はキュレムの背中から伸びようとしている、禍々しい触手の先に白黒の尖った楔が着付いていたのを確認したからだ。
そして、あれこそがこっちにとって最悪最低の武器。



「騰湖を、取り込ませてたまるかぁぁぁっ!!」


俺は喜久乃を背負ったまま、騰湖の前にダッシュで躍り出る。
そして、高速で向かって来る『遺伝子の楔』を、無理矢理自分の腕で絡め取った。
その瞬間、俺は強烈な痛みを感じる。
それは、まるで魂を焼かれる様な凄まじい痛みだった。



「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

騰湖
「聖殿! 今すぐに…」


「触るな騰湖! 取り込まれるぞっ!?」


俺は痛みに耐えて叫び、騰湖はギリギリで止まる。
この楔は、恐らく触れるだけでもヤバイ。
破壊出来れば1番良いが、どうやって破壊する!?
今は俺の腕で絡め取ってはいるが、激痛で既に意識が飛びそうだ。
まるで力を吸い取られる様な感覚…俺は後何秒耐えられる!?


喜久乃
「…!!」


突然、痛みが和らぐ。
何事かと思うと、俺の背中の喜久乃が俺に何か技を使った様だ。
背中から若干荒そうな息づかいがした…まさか『痛み分け』か!?
喜久乃は自分の体力を削り、俺に力を分け与えてくれた…?
確かに、これならまだ持つが…!



「騰湖!」

騰湖
「ああっ!」


騰湖と鳴は翼をはためかせて空中に飛び上がり、ふたり手を合わせた。
そして、その繋がった手から炎と雷が発生し、互いにその力を伝えていく。
直後、ふたりの尻尾は今までに無く強く輝き、有り得ない程の最大出力を生んでいた。
その後ふたりは叫び声をあげ、その力を一気に解放する。


騰湖&鳴
「クロッシング! フレイムサンダーーーーー!!」


ふたりが放つ、究極の合体技。
『クロスフレイム』と『クロスサンダー』を互いにシンクロさせ、威力を倍増させて同時にキュレムへ放ったのだ。

キュレムは危険を感じてかわそうとしていたが、もう遅い。
楔のコントロールに集中し過ぎたせいで、完全に出遅れてしまっていたのだ。
だが、それもキュレムとして本能的な行動だったのだろう。
アイツにとっては、レシラムとゼクロムはそれ程までに欲する存在だったのだ…


キュレム
「!?」


凄まじい爆音が雪山に響く。
近くにいた女胤も大きく吹き飛び、楔で絡められていた俺も、勢いで触手が千切れ、喜久乃ごと吹っ飛ぶ。
そして山頂全ての雪と氷が蒸発し、光と炎が天へと昇った…



「く…だ、大丈夫か喜久乃!?」

喜久乃
「…ぎょっ」


どうやら、大丈夫の様だ。
マッギョは体力の高い種族だし、それほど問題は無かったのかもしれない。
だけど、痛み分けの影響はそこそこ大きいはず…
もし彼女がいなかったら、俺は先に力尽きていたかもしれないな。
まさに、影の功労者か…



「助かったよ、ありがと喜久乃」

喜久乃
「…ぎょっ♪」


どうやら喜んでいるらしい。
そして、俺は改めてキュレムを見る。


キュレム
「………」


キュレムの体は半壊していた。
あまりの熱と電気を同時に食らったせいか、もう意識も無い様だ。
既に冷気も出ていない…楔も先端がその辺に千切れて転がっているだけだった。
俺は一応、その楔は回収しておき、ズボンのポケットに仕舞い込んでおく。


騰湖
「はぁ…はぁ…」


「やったよな? 俺たちの最高火力だぜ!?」


空中からフラフラと降りて来たふたりは、相当つらそうだった。
反動が相当あったんだろうな…1回の戦闘で使えるのは、恐らく1度きりの大技だろう。
だが、それでもふたりはまだ、闘志を失ってはいなかった。



「…恵里香?」

恵里香
『うん、大丈夫…ほら、見てごらん?』


恵里香がそう言うと、キュレムの体は光の粒子に変わっていく。
何故この現象が!?と、俺は驚いた。
ここは現実の世界のはずなのに…夢の世界と同じ現象が!?


恵里香
『キュレムを倒した事で、歴史が変わるんだ』
『そしてキミが持つ夢見の雫が、滅びの世界を再び正しい世界に変えてくれる』
『だから、早く女胤ちゃんを!』
『もうすぐ、世界ごと光の粒子に飲まれてしまうよ!?』


俺はそう言われてすぐに女胤の元に走る。
女胤は完全に気を失っているものの、まだちゃんと生きていた。
俺はホッとするが、どうやらすぐに一難去って一難なのを実感する事に…



「騰湖、鳴!?」

騰湖
「…どうやら、これが世界の修復の様です」


「ほら、喜久乃も今度はこっちだ」

喜久乃
「…ぎょっ」


鳴は俺から喜久乃を優しく引き剥がす。
皆、徐々に光の粒子に変わりつつあった。
いや、彼女たちだけじゃない。
気が付けば、世界その物が粒子に変わっていってる。
だけど、俺と女胤だけは例外の様だった。



「ありがとな、聖」

騰湖
「再び、この世界を救ってくれて」


「そんな…むしろ礼を言いたいのはこっちだ!」
「お前たちがいなかったら、俺はこんな簡単に女胤を救えなかった!」
「きっと…何度も、何度もやり直して…!」


俺はそう言って俯き、拳を固く握る。
そして、女胤をお姫様抱っこして騰湖たちを見た。
世界ごと光の粒子に変わる中、俺はギリギリまで彼女たちを見る。


騰湖
「今度は、以前とは違います」


「ああ、世界の理で無理矢理消えるんじゃない」

騰湖
「世界が、正しい形で未来を作るのです」


「だから、ちゃんと待っててくれよ?」

騰湖
「きっと、また会いに行きますので」


「ほら、喜久乃も最後に何か言えよ」

喜久乃
「まっ…ぎょっ」


俺はそう聞いて、ハハハッと笑った。
そうだな、今度は前と違う。
俺はきっと3人を忘れない。
そして生きている限り、またどこかで再会するのだろうとも思った。

もう、この世界は1度消えて再構築される。
今度は、滅びの未来ではなく、幸せが待つ世界に…
だから俺もしっかりとこう答える事にした。


「3人とも、また会おう!」

騰湖
「はいっ」

「おうよ!」
喜久乃
「…ぎょっ」


俺は皆の笑顔に見送られ、雫の力を行使する。
そして俺は再び、最果ての世界に戻るのだった……










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第2話 『真実と理想のアフェクション』


To be continued…

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