第4章 第10話

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読了時間目安:28分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ミミロップ
「………」


皆さん改めまして、私は聖様専用メイドのミミロップです。
今日も聖様の部屋で直立待機。
聖様からの命令を待っています。
ですが、ただ命令を待つだけのメイドはメイドにあらず。
私は常に聖様の体調も注意しなければならないのです。


聖様
「ふっ! ふっ! ふっ!」


聖様は毎日恒例の筋肉トレーニング、略して筋トレに打ち込んでおられます。
毎日、腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット、etc…と、各種全身を満遍なく鍛えておいでです。
既に聖様の筋力も並以上にはなっておられ、今では逞しくも感じます。
そして、ここでも私はしっかりさん。
ちゃんと聖様の発汗量を計測し、メニューの合間を見て鈴を鳴らすのです。


チリンチリン!


ゲンガー
「はいよ~」

ミミロップ
「聖様、水分補給をどうぞ」


私はゲンガーさんが持って来たミネラルウォーターを聖様に差し出しました。
聖様は嬉しそうに笑い、こう一言。


聖様
「ありがとうございます、ミミロップさん♪」


タオルで顔の汗を拭き、水分補給をする聖様は汗で煌めいておいででした。
こんな姿をいつでも見れる私は、きっと屈指の役得ヒロインのひとりと言えるでしょう、わはは。


ゲンガー
「つーか、もう今更なんだけど、いちいち鈴鳴らして呼ぶの何でなの?」
「鍵あるんだし、自分でやったら良いんじゃ?」

ミミロップ
「論外です、それでは逐一聖様の体調変化を計れません」

ゲンガー
「…まぁ、そう言うと思ってたけどね」
「はぁ~まぁ、もう少しで終わりだし別に良いけどさ~」


ゲンガーさんは疲れた顔で、聖様からコップを受け取り部屋を出て行きました。
私は扉を閉め、しっかりと施錠します。
そして鍵は胸の谷間に差し込む。
この時、注意しなければ谷間に傷が着く恐れがあるので注意です。
私の胸のサイズではこのメイド服は少々胸がギリギリですので、谷間に余裕は無く、ピッチリと胸を引き締めていますので。
まぁ、100%アグノム様の趣味でデザインされたエロティック重視のメイド服ですので、こうなるのもやむ無しですね。


聖様
「ふぅ、続けるか」


聖様は次のセットメニューに入られました。
休憩はおよそ5分。
やはり聖様は規則正しい性格ですね。
聖様は毎日ほぼ同じ時間で起床、運動、食事…と、大体同じパターンで行動なされます。
まぁ、外に出られないこの軟禁状態では出来る事が少ない為と思われますが。
それでも、聖様の規則正しさは本人いわく、フツーだそうです。

これは、中々難しい命題だと私は個人的に思います。
確かに、規則正しくは人間として普通の生活リズムと言う事。
よって、それを本当に普通にこなす聖様は、本当に普通の人間でしょう。
ですが、実際にその普通を普通に毎日出来る人は、何割いるのでしょうか?

私には少なくとも、聖様の普通の生活リズムと同じ様に生活している人は知りません。
この城でしか私は他の方を知りませんが、それでも聖様の普通の生活リズムをこなせる方はそういないでしょう。

様々なメイドたちの中でさえ、皆リズムはバラバラ。
それはメイドとしてどうなのか?と正直思うのですが、今までこの城の生活はパルキア様の性格もあり、ほぼ適当。
そもそも各メイドたちには担当区画が存在し、そこで与えられた仕事をこなすだけです。
そして、メイドたちにはそれぞれ1日のノルマが課せられているだけで、この時間にこれだけやれ…という事が無いのが大きな理由かもしれません。
自由すぎるスローメイドライフですね。

やがて、次のセットが終わりそうになった頃、私はまた鈴の音を鳴らす。


チリンチリン!


ゲンガー
「はいよ~」

ミミロップ
「聖様…小休憩の後、朝食と致しましょう」

聖様
「はい、ありがとうございます♪」
「いつも、本当に助かります」


聖様は本当に嬉しそうな顔をする。
こんないつもの同じ光景でも、聖様は楽しそうに笑うのです。
私は笑う事はありませんが、それでも聖様は優しく微笑みかけてくれる…


ゲンガー
「…じゃあ、食べ終わったらまた呼んで」

ミミロップ
「はい、ありがとうございます」


私は食事を受け取り、ゲンガーさんに礼を言う。
ゲンガーさんはそれを聞いて部屋を出て行き、扉を閉めて行きました。
私は食事の乗ったトレーを机の上に置き、聖様からタオルを受け取る。
タオルからは聖様のかぐわしい香りが充満しており、並のヒロインでは発狂して悶え苦しむ事でしょう。
ですが、パーフェクトメイドたる私には、この程度何ともないのです、えっへん。

さて、私はこれからこのタオルを洗濯機の方に持ち込みます。
今まで語りませんでしたが、この部屋にはトイレの他にもバスルームと洗濯機が存在します。
洋風のお城とはいえ、ちゃんと電気も通っていますし、ハイテクもあるのです。
どうやって入手したかはあえて省略させていただきますが、アグノム様の天才的頭脳のおかげと、ここでは言っておきましょうか。

私はとりあえずタオルを洗濯機に入れ、次にバスルームの乾燥機で乾かしていた新しい服を聖様に持って行く。
既に聖様は食事を始めており、私は着替えをベッドの上に優しく置いて聖様の朝食を見守ります。
いい加減、ゲンガーさんの料理もマトモになってきたのか、聖様も味に不満は無い様です。



………………………



聖様
「…………」


朝食後、お着替えになられた聖様は机に向かって手記を書いておられます。
それなりに詳細に書かれておられるようで、朝昼晩と3回に分け、いつも追記なされています。
規則正しい聖様らしく、手記の内容もきっと規則正しいのでしょう。

私は、この間に部屋の掃除です。
と言っても、部屋は一切散らかっておらず、家財も生活に最低限必要な物があるのみ。
なので、掃除と言ってもほぼ拭き掃除がメインとなります。
そして、それが終わる頃には聖様も一段落。
聖様はまた筋トレのメニューを始めました…



………………………



聖様
「はっ…はっ…はっ!」


今日の午後は外出。
聖様は折角という事で、大庭園で走り込んでおられます。
この庭園は1周約3㎞はありますので、中々の長距離。
流石にペースを考えてか、聖様も無理はせず、流す様にジョギングのスピードで走っていました。


ミミロップ
「………」

ラランテス
「…聖様は、本当に真面目な御方ですね」


私の隣で佇んでいたラランテスさんがそう呟く。
私たちは庭園の中央広場で外周を走る聖様をゆったりと見ていた。


ラランテス
「もうそろそろ決戦が始まるというのに、聖様はああやって運動をなされる」

ミミロップ
「…1日でもサボると癖になる」
「聖様は、そう言っていました」

ラランテス
「成る程、几帳面な性格なのですね聖様は」
「そして、決してそれを他人に強要する事はしない…」
「聖様の器の広さは、やはり素晴らしい方の証拠でしょう」


ラランテスさんは微笑しながら感心していた。
かくいう私も肯定します。
聖様は自分に厳しく、他人に甘く。
それでも、間違っていると思えば厳しく叱る。
聖様の心は、常に誰かを想う優しさ。
そして聖様の優しさは、等しく皆に向けられている。


ラランテス
「…勝ちたい物ですね」

ミミロップ
「ですが、それは同時に聖様の家族を失うという事でもあります」


ラランテスさんは、私の言葉を聞いて帽子の鍔を下げた。
解ってはいるものの、心苦しいと言った感じでしょうか。
この戦いは、勝つにせよ負けるにせよ、必ず誰かが涙を流す。
そしてその結果がどうなっても、涙を1番に流すのはきっと聖様なのです。
私は今はまだ聖様のメイドですが、決戦が始まればその契約も切れる。
そしてその後、もう私はこの世にいない。
戦って散るのか、それとも勝って消えるのか…
どちらにせよ、私に選択はありません。


ミミロップ&ラランテス
「………」


私たちは思い思いを胸に聖様を見た。
聖様は、つらさを忘れるかの様に走り続ける。
きっと、今でも家族の事を考えているのでしょう。
聖様は、どこまでも優しい方ですので…



………………………



パルキア
「うん、聖君はやっぱり真面目だね」

聖様
「そ、そうですか? フツーだと思いますけど」


夕食が終わって夜。
今日のパルキア様の訪問があった。
もう、後何回会えるかも解らない。
パルキア様も、毎日記憶を消されてるとはいえ、つらそうですね。
聖様は、そんなパルキア様を労るように優しく声をかけている。
そして、その優しさは逆に危うい。
パルキア様は一線を越える前に立ち上がり、部屋から転移した。

聖様も苦しそうです。
自分の優しさが、パルキア様に負担をかけているのに気付いているからでしょう。
恐らく本音はもっとパルキア様と話したいはず。
ですが、理由が解っているだけに、それ以上は踏み込めないのです。
互いが互いに近付きたいのに、理がそれを許さない。
パルキア様も聖様も、戦いに勝たない限り、相思相愛になれないとは…


聖様
「………」

ミミロップ
「聖様、つらいのでしたらどうぞ私の胸に」
「むしろ、そのまま押し倒していただいても構いません」


私は両手を開いて聖様を待ちますが、いつも通り聖様は首を横に振って断る。
これも、もう何度も見た光景です。
聖様は、1度たりとて私の体を求めた事は無い。
一見我慢している様にも見えますが、それでも無理はしていない様です。
聖様は自慰ですら行っていないので、既に性欲は溜まり切っているはずなのですが、それでも大丈夫なのでしょうか?


ミミロップ
「聖様、無理に性欲を抑えるのは体に毒と聞きます」
「この際、私の体を使って内なる獣を開放してみてはどうでしょうか?」

聖様
「ダメです…そんな事ミミロップさんには出来ない」
「ミミロップさんだって、消えてしまうかもしれないのに」


言われて私は考える。
私は、消えるのでしょうか?
確かに、本来交尾とは愛し合う者同士が行う行為。
もし、それを聖様が私に求められたら…


ミミロップ
「…確かに消えるかもしれませんね、その時は」


私は自分で納得してしまった。
今のままなら、消えない自信はあります。
ですが、もし…もし、あの優しい聖様に愛を持って抱かれてしまったら、私は消える気がしました。
私に、愛情といった感情はまだ存在しない。
あくまで聖様に接するのは従属であり、友情です。
故に、私はまだここにいられます。
私以外に、聖様と共に消えずいられる者は、誰ひとりこの城にはいないでしょうから。


聖様
「ミミロップ、さん?」
「どうしたんですか? 今まで、そんな弱気な事1度も言わなかったのに…」


聖様は酷く怯えた様に私を見ていた。
私はすぐに言葉を続け、聖様の安心を得る事にする。


ミミロップ
「今なら私はまだ消えませんよ?」
「私が消えるのは、戦って負けた時です」


私はあえてそれだけ言った。
実の所、勝っても私が消えるのは確実ですが。
ですが、それを伝えれば聖様は酷く動揺してしまう。
聖様の心を安心させる為、私は余計な事は言いません。


聖様
「…じゃあ、勝ったら」
「その時は、お願いしようかな?」
「…確約はしないけど」


聖様は冗談半分で言っているのでしょう。
本当に私の体を求める事は無いのだと、私は確信しています。
聖様は、強くなろうとはしているものの、やはりまだ本質的に弱い部分がありますね。


ミミロップ
「聖様、この状況で曖昧な言葉は相手を傷付けます」
「約束をしてくださるのでしたら、是非確約を」

聖様
「…ミミロップさん、もしかして怒ってます?」


私は答えられなかった。
私は怒っているのでしょうか?
前にムカついた時とは今は違います。
ですが、聖様は何かを感じ取っている。
それは、一体…?


聖様
「ミミロップさん、どうかしました?」
「何か、今日はちょっといつもと違う気がしますけど…」


聖様が心配をしている。
主人に心配される様なメイドは、メイドではありません。
ですので、私はすぐにこう言葉を放つ。


ミミロップ
「問題ありません…少し、考え事をしていました」
「申し訳ありません」


私がそう言って頭を下げると、聖様は不思議そうな顔をするものの、何とか納得した様でした。
そして聖様はいつもの様に机へ向かい、手記に追記をする。
恐らく、先程の私も書き記されているのでしょう。
それを思うと、私は何故か妙な気分になった。

心が高揚している? それとも別の感情?
少なくとも今までの自分には無い。
私には解らない感情が多すぎる。
理解出来ないのではない、それを自分の中に感じる事が出来ないのだ。
他人の感情は理解出来る、ですが自分の感情は何も理解出来ない。



………………………



パルキア
「…君はどこから来たの?」

ミミロル
「………」


これは、小さな頃の私。
まだ10際の時の私。
ですが、この時私にはほとんどの記憶が無かった。
覚えているのは、自分がミミロルという事、そして10の年月を生きていたという事。
そして、何故か自分が人間になっていたという現実。


パルキア
「…君も、巻き込まれたんだね」

ミミロル
「………」


この頃から、私には一切の感情が無かった。
パルキア様に拾われ、城へと招かれた日。
そして、初めてユクシー様のメイドに任命された日でした。


ユクシー
「…う~」

ミミロル
「………」


まだ産まれたばかりのユクシー様は、私の耳を掴んで引っ張ったりしている。
私は無感情に、ただユクシー様を抱き上げていた。


パルキア
「あははっ、ユクシーはミミロルがお気に入りなんだね♪」
「ほ~ら、エムリット~おっぱいだよ~♪ 母乳は出ないけど…」


それでも、パルキア様の乳を真剣に吸うエムリット様。
エムリット様は例え母乳が出なくても、その温もりが心地良い様だった。


ゲンガー
「あたたっ! コイツ大人しくしろっ!!」

アグノム
「あ~!!」


アグノム様は、ゲンガーさんの腕の中で大泣きしていた。
そして、ゲンガーさんの顔を叩いたりつねったりで大変な様子です。
ゲンガーさんは私よりも5年上の先輩で、メイドの中では最年長者。
それでも、やんちゃなアグノム様をあやすのには手を焼いていました。


ミミロル
「………」

ゲンガー
「しっかし、コイツ何も喋らないけど、話せないんですか?」

パルキア
「う~ん、確かにまだ言葉を発した事が無いんだよね…」
「ねぇミミロル? 言葉は話せる?」


私はユクシー様を抱きながら、心配そうな顔のパルキア様を見て、コクリと頷く。
それを見て、パルキア様は息を吐いた。
少し安心した、そんな顔です。


ゲンガー
「無口なだけなのか…コイツにメイドやらせて大丈夫なんすか?」

パルキア
「しょうがないよ、他のメイドはまだ幼すぎる」
「君を除けば、このミミロルが最年長だ」
「それに、きっと大丈夫だよ」
「ユクシーの顔をご覧…すっごく落ち着いてる」
「ユクシーがこんなに安心するなんて、きっとミミロルが優しい娘だって、もう解ってるんじゃないかな?」


私の腕の中で、ユクシー様は気が付けば眠っていた。
すやすやと、安らかに寝息をたてて…



………………………



パルキア
「良かったね、ついにミミロップに進化だ♪」

ミミロップ
「…ありがとうございます」


15歳のある日、私は遂に進化しました。
体は一気に大きくなり、特に胸の成長が際立っている。
身長も体重もかなり上がった為、いきなりですと歩くのにも戸惑ってしまいました。
慣れるまでは、時間がかかりそうです。


アグノム
「ミミロップ! 記念に今日から俺様がしっかり調教してやる!」
「お前は俺様の最高傑作になる予定だぞ!?」

パルキア
「あはは…アグノム、どんどん口が悪くなるね~」


この頃から、既にアグノム様の性格は完成されている様でした。
ですが、そこは自称天才。
アグノム様は幼い子供とは思えない程知能が高く、誰よりもおかしな研究好きだったのです。
既に全てのメイドの調教を始めるつもりの様で、私もそのひとりというわけでしょう。
そして、この日から私はアグノム様によってメイドの全てを叩き込まれていき、名実と共に私はアグノム様の最高傑作となったのです…



………………………



アグノム
「ミミロップ、飯!」

ミミロップ
「かしこまりました、すぐにお持ちします」

アグノム
「バカ者! 最高のメイドなら俺様が言う前に準備しとけ!」
「相手の好みもちゃんと考えるんだぞ?」

ユクシー
「…そう言って貴女は、嫌いな物を食べない様にするのね?」
「…今度ゲンガーに叱ってもらうから」

アグノム
「ち、違う! 俺様は断じてピーマンが嫌いなわけでは…」

ゲンガー
「ほ~う、じゃあこのピーマン特盛ご飯を食してもらおうか!?」

アグノム
「うわぁぁぁぁぁん! ごめんなさ~い!!」


アグノム様は昔からこの調子です。
しかし、こんなアグノム様の徹底があってこそ、今の私のスキルがあると思うと、侮れない事でしょう。


ユクシー
「…全く、ミミロップもアグノムをあまり甘やかしてはダメよ?」
「…貴女は、誰かの命令しか聞かないから心配で仕方ないわ」


ユクシー様はいつも私を心配してくれます。
ですが、主人を心配させるのはメイドの恥。
なので、私はユクシー様にこう言います。


ミミロップ
「心配無用ですユクシー様」
「今日からは、アグノム様にも厳しくいたしますので」

アグノム
「姉さん何て余計な事を!?」

ゲンガー
「良いからさっさと食えやクソ主人!?」
「アタシは料理なんてした事無いから、これは料理じゃないがな!」
「水洗いすらしてない、ぶつ切りのピーマン地獄を思い知れ!!」


アグノム様は大泣きし、ゲンガーさんに謝って許しを乞うていた。
しかし、ゲンガーさんは一切許さずにアグノム様を『黒い眼差し』で束縛し、ピーマン地獄を強要する。
これだけやられても懲りなかったのですから、アグノム様はある意味凄いです。



………………………



ミミロップ
「…見付けた?」

ユクシー
「…そう、ついに特異点を見付けたの」
「…これで、もう安息は終わったわね」


それは唐突な日でした。
聖様と初めて出会う10日前、私はユクシー様から計画の話を聞く。
魔更 聖という特異点、パルキア様とユクシー様たち姉妹を救うための計画。
そして、その先に私たちメイドの存在は消えるという現実。
ほぼ0に近い可能性の中、ようやく見付けた光芒。

この計画は、パルキア様たち家族にとって、最初で最後の悪行であり、非道。
例え誰に恨まれようとも、どれだけ世界に否定されようとも、必ず成し遂げなければならない、滅びの回避。

しかし、結果として何の罪も無い4人の少女たちの存在を奪うこととなり、それと引き換えにパルキア様と娘の3姉妹を救う事が出来る…

その後は…私たち城の従者、全てが消える。
そんな計画を、詳細に説明された日でした…

ユクシー様が私に出した命令は、聖様には何も語らぬ事。
特異点たる聖様に詳細を話せば、消える危険性を孕むからです。
そして、ユクシー様が特に危険だと言及された一点。
それは…



………………………



聖様
「ミミロップさん? 聞こえてます?」

ミミロップ
「!? 申し訳ありません聖様…何か?」


気が付くと、聖様が安堵の息を吐いていた。
私は聖様に心配ばかりかけさせている。
そんな私は、決して聖様に愛情を抱く事は無い。
だからこそ、聖様様の側に置いてもらえるのですから。
聖様と出逢えた事は、私の宝物。
だからこそ……


ミミロップ
(私は、聖様を決して愛してはならない)


ユクシー様が言及した事…
それは、決して聖様を愛してはならないという事。
聖様に愛を向ければ、世界の理により存在を抹消される。
そうなった時、実際に何があるのかは解りませんが、少なくともはっきりしている事はあります。

それは、消えた瞬間…この世界で関わった人物の記憶から、私という存在が『無かった事』になるという事。
そんな事は、出来ればあってほしくない。
ですが、私の消滅は既に確約。

例え決戦に勝っても、私は聖様の世界には残れない。
選ばれた4人以外の者は、等しく滅びを迎えるのですから…
そしてその滅びを回避する為に、パルキア様たちはこの非情な計画を立ち上げたのです。
私は、その為に消えるのなら、全く怖くはありません。
ですが……


ミミロップ
(聖様に忘れられるというのが、これ程までに怖いとは…)


私は、ある意味初めての恐怖を覚えた。
それも、戦う事や死ぬ事ではない。
ただ、聖様に忘れられる事が…怖い。

ですが、私は迷わず戦います。
主人の命令は絶対遵守…それがメイドの基本ですので。
私は、恐怖になど屈さず、命令通り全力で戦うでしょう。
申し訳ありません聖様…こんな完璧なメイドを、どうかお許しください。


聖様
「思いつめているんですね…」
「ミミロップさんでも、やはり怖いんですか?」


流石は聖様…素晴らしい洞察力です。
やはり聖様は素晴らしい方ですね。
ですので、私は正直に言う事にした。


ミミロップ
「はい、怖いです…聖様に忘れられる事が」
「ですが、私は戦います」
「私は、パルキア様たちの為に、礎となりますので…」


私の言葉を聞き、聖様は悲しそうに俯いた。
しかし、覚悟は決まっているのか、聖様は確かな意志で私の目を見る。
そしてその瞬間、私は全身に何か強烈な何かを感じた。
それは恐らく、危険な可能性を孕んでいる。

私は全てを否定し、今を選択する事を選んだ。
聖様はここまで、私を信頼してくれているのだと、胸に刻んで…


聖様
「…すみません、俺はこれ以上踏み込む事は出来ません」
「俺は、ミミロップさんを消したくはないから」
「だから、信じます」
「ミミロップさんが、決して後悔しない事を…」

ミミロップ
「…後悔?」


私はその意味を考えてみる。
後悔、それは後からそうすれば良かったと思う事。
私が後悔しない為には…?
私は、唐突にそれを思い付いてしまった。

ですが、それを聖様に要求してしまって良いのでしょうか?
いえ、聖様なら快く快諾してくださるでしょう。
問題は……


ミミロップ
(私が、消えずに済むのか?という事…)


私は迷ってしまった。
聖様の命令でありながら、即決出来なかった。
怖い…聖様に忘れられるのが怖い。
それでも、何か証を残したかった。
聖様が私の事を忘れても、残せる……


聖様
「…ミミロップ、さん?」

ミミロップ
「聖、様……たった、ひとつだけ…」
「ひとつ、だけ……我が儘を、許してくださいますか?」


私は、自分でも解る位、掠れた声でそう聖様に懇願した。
そして聖様は予想通り、優しく微笑んで頷き、それを快諾してくれる。


聖様
「…もちろん、エロいお願いじゃなければ」


そこは、避けるのですね…
別に私は一向に構わないのですが…グスン。
とはいえ、今はそんな事は望んでいません。
今、私が望む事…それは。


ミミロップ
「聖様、私に…どえか名前をください」
「守連さんたちの様に、私にも…名前を」


それは、私が言う最初で最後の懇願。
感情の無かった私、機械の様な私。
そんな私にも、残せる物があるとすれば…それしか浮かばなかった。


聖様
「そう、ですね…」
「………」
「…じゃあ、あんまりセンス無いかもしれませんけど」
「愛呂恵(あろえ)…は、どうですか?」

ミミロップ
「………」


それは、聖様が考えてくださった私の名前。
私の、たったひとつの、名前。
私は、それを聞いても消えなかった。
大丈夫です…私は、まだ消えてません。


聖様
「あ、もしかして気に入らなかったですか?」

ミミロップ
「いえ…ありがとうございます」
「…嬉しかったのです」
「私は…愛呂恵」
「聖様が与えてくださった…ただひとつの名前」


消えない…これ程、嬉しい事は無いでしょう。
そう、私は…嬉しいと思っている。
名前を与えられる事が、こんなに嬉しい…

でも消えません…まだ消えるわけにはいきません。
私は、この名を持って、戦い勝ちます。
私は…聖様のメイド、愛呂恵ですので。


聖様
「ミミロップさん、いえ…愛呂恵さん」

愛呂恵
「はい」

聖様
「愛呂恵さん…頑張ってください」
「俺は、絶対に忘れませんから」

愛呂恵
「…はい、頑張ってみせます」


聖様は約束してくれる。
ですが、その約束は恐らく果たされない。
私が消えれば、聖様は全て忘れてしまう。
怖くても、悲しんだとしても、それが現実。
それが、世界の理。

ですが、私はそんな恐怖に勝つ為の名を与えてもらった。
愛呂恵…それが私の名。
私は、この名と共に死力を尽くします。
そして同時に願います…聖様が、私の事を覚えていてくださる様にと……



………………………



ユクシー
「…遂に、来たわね」

アグノム
「ああ…結局90日か、まぁよく稼げた方だろ」


私たちは、もう城の目の前に迫っている敵の姿を指令室で見据える。
ここまで来れば、もう小細工は無用。
遂に始まるのね…最後の足掻きが。



………………………



守連
「この城が…」

阿須那
「恐らくラストダンジョンや!」

華澄
「…ここに、聖殿が」

女胤
「ようやく、着きましたね…」
「さぁ、ラストバトルの開始ですわ!」
「皆様、ここに来て躊躇いは有りませんわね!?」


私はそう言って皆さんの反応を見る。
阿須那さんは問題無し、華澄さんはまだ躊躇いながらも、戦う覚悟は出来ている様です。
ですが、大問題の守連さんは…


守連
「………」


既に意気消沈しかけている。
このままではマズイですわよ…?
守連さんがこの調子では、下手をすれば万が一も有りうるというのに。


阿須那
「守連、ええ加減にせぇよ!?」

守連
「!? 阿須那…ちゃん」


阿須那さんの激昂に、守連さんは酷く狼狽える。
守連さんはこのままでは戦えません、誰が見てもそれは明らか。
少なくとも、ここから決戦となれば、守連さんには戦う覚悟が必要だというのに…


阿須那
「守連、アンタ聖を見殺しにする気か?」

守連
「そ、そんな事っ…」

阿須那
「ほんなら、そんな顔すなっ!!」


阿須那さんは力強く、鼓舞する様に叫ぶ。
そう、これは聖様を救う為の戦い。
それなのに敵に気遣いを向けるのは愚の骨頂。
守連さんは、こちらの最高戦力。
少なくとも、敵の大将を撃ち取る覚悟が欲しいのですがね…


守連
「…聖さんの事は大事だよ」
「でもっ! その為に人を殺しても良いの!?」


バチバチバチィ!と、守連さんの絶叫に合わせ、凄まじい電気が守連さんを中心に巻き起こった。
阿須那さんも流石に一瞬怯みましたが、すぐに守連さんの襟元を掴み上げ、同じ様に叫ぶ。


阿須那
「甘ったれんな!! ウチは聖を救う為なら人位殺せるわ!!」
「聖は、ウチの全てや…! アンタもそうや無いんか守連!?」


阿須那さんは、涙を流しながら叫んでいた。
そうでしょうね…聖様が囚われてないのなら、この様な問答は必要無かったでしょう。
ですが、これはあくまで聖様を救う為の戦い。
相手も、相応の覚悟を持って戦いに来るはず。
それに対抗出来なければ、私たちは死ぬ可能性がありますわ。


華澄
「…守連殿、戦えないならここで待っていてくだされ」
「聖殿は、拙者たちが必ず助け出してみせます」
「守連殿に覚悟が無いのでしたら、拙者が代わりにふたり分戦うでござるよ」

守連
「ダメだよ…私も戦う」
「殺したくなんて無いのに…他の道があるはずなのに」
「そんな、殺し合いしかない選択なんて、私は絶対に認めない!!」


そう言って、いの1番に守連さんは城門を目指す。
ですが、その背中は躊躇いに満ちていた。
これで無事に勝てるのですか?
それが、単純な私の疑念。
この戦い、必ず何かがある…
それを理解出来なければ、最悪の結果を招くかもしれませんね。










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第10話 『愛呂恵』


To be continued…

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