54話 そういうのもう嫌なんだよ!

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

5時を少し過ぎた頃、旅館の入り口付近で待っているハルキの前に息を切らしたアイトがあらわれた。
おそらく待ち合わせ時刻を過ぎてしまっているので急いできたのだろう。

「はぁ、はぁ、...み、みつかった..か?」
「いや、海沿いの方にはいなかったよ。 そっちは?」

アイトは俯きながら両膝に手を当てながら息を整えているので、喋れない代わりに首を横にふって見つからなかったと答えた。

「そっか」
「ヒ、ヒカリは...?」
「ああ、ヒカリも見つからなかったみたい。 ただ、アイトを待っている時間がもったいないって言って、アイトが戻ってくる前にまた探しに行っちゃった。 お昼に話した通り、島の外に出られる手段を使っていないか確認するため、船着き場の方に行ったよ」
「はぁ、はぁ...ふ、船着き場? わかった。 じゃあ、俺達も早く行こう」
「いや、確認しに行くのはヒカリだけで十分だと思う。 確認しに行ってるヒカリと合流するよりも、僕らは僕らで1度探した場所をもう1度手分けして探したほうがいいと思うんだ。 僕は森の中を探すから、アイトは海沿いの方をもう1度探して来てほしい」
「ちょ、ちょっと待て」

アイトは1度深呼吸をして息を整えてから、ハルキに問いかけた。

「待ち合わせ時間を過ぎたことは悪かった。 けど、10分も遅刻していない俺を待てないほどヒカリには余裕が無かったのか? アイツってそんなにせっかちだったけ?」
「......きっとヒカリなりに心配してるんだと思う。 まあ、誰でもこれだけ探しても見つからないなら焦るよ。 正直、こう見えて僕もわりと焦ってるからね。 ハハハ...」

苦笑いをしながら返答するとアイトの表情が一瞬曇ったような気がした。

「....じゃあ俺も探しに行くから、また後でな」
「うん」

アイトはハルキに背を向けると、海沿いの方に向かって歩き始めた。
陽が沈むまではアイトにヒビキの事を話さないと約束した手前、ここで嘘をつくのは仕方ないことだ。
ハルキも頭ではそう理解している。
けど、大切な友達に嘘をつくのは気持ちのいいことではない。
それにヒビキの居場所を知っているハルキは、絶対に見つかるはずのないヒビキを探しに行ってとアイトに頼んでいるようなものなので、すごく申し訳なく感じていた。
そんな罪悪感を悟られないようにハルキは表情を変えずに立ち去るアイトを見送っていると、アイトが途中でピタリと足を止めた。

「なあ、ハルキ」

背を向けたままアイトは続ける。

「....何か俺に、言うことないか?」
「....待ち合わせ時間、決めてなかったね。 陽が沈んだらまたここに集合でいい?」
「......わかった」

ハルキの言葉に短く答えるとアイトは海沿い方面に向かって走って行った。

「あっ....」

ハルキは走り去るアイトを無意識に呼び止めようと伸しかけた右手を咄嗟に左手で抑えた。
おそらくアイトはハルキが何か隠している事に気がついている。
気が付いているからこそ、あんな質問をしたのだろう。
けど、ハルキはその質問にちゃんと答えなかった。
ヒビキと約束した以上、ハルキの口から説明するわけにはいかない。
たとえそれが、アイトを1番傷つける事だと知っていたとしても....

「......ごめん、アイト」

ハルキは小声で呟き、ヒカリとヒビキの元に向けて走った。
自分の決心が揺らいでアイトに本当の事を伝えに行かないよう、一刻も早くこの場から立ち去るために、ただひたすら森の中を走った。

―――――――――――――――――――――――

「あ、おかえりハルキ。 どうしたの? そんなに汗かいて?」
「はぁ、はぁ....ちょっと、走ったからね。 それより特訓の状況は?」
「ん? そうだねー...」

ヒカリは視線をチラリとヒビキの方に向けた。
その視線の先には、背筋をピンと伸した状態で座ったヒビキが難しい顔をして、ペンダントに両手を当てながら「うーん…うーん….」と唸っていた。

「見てのとおりかな?」
「いやわかんないよ。 何となく難航してるって事はわかるけど....」

見てのとおりと言われてもハルキには目を閉じながらヒビキが思い悩んでいるようにしか見えない。
一体あれが何の特訓に繋がるというのだろうか。

『ああ、そうじゃない! もっと流れを意識して!』
「ギャギューンって感じです?」
『いや、それだと多すぎる。 ギャギューンじゃなくてジュギューンってぐらいで....あー、それだと今度は少ない』
「うーん。......なら今度はスギューンって状態から徐々に増やしてくです」
『....あっ、いま一瞬だけどいい感じにピギューンってなったぞ! でもすぐに通り過ぎてギャギューンってなったけどな』
「む、難しいです....」

難しいのは君たちの会話内容だと思わずツッコミたくなるほど、ヒビキとキョウの会話は何が何だかサッパリわからなかった。
そもそもズギューンとかピギューンとは何なのか。
ただの擬音のように思えるがこの世界特有の単語だったりするのだろうか?
もしそうだとしたら、あの単語の意味がわからないと何をしているのか見当もつかない。
ハルキはあの謎の擬音のような単語の意味を知るため、状況を理解しているであろうヒカリに聞いてみる事にした。

「ねえ、ヒカリ。 1つ聞きたいんだけど、ヒビキとキョウの会話に出てくるズギューンとかピギューンっていう擬音みたいな感じの単語の意味って何?」
「え? 単語? いや、あれはそのまんま擬音だよー?」
「えぇ......」

なに当たり前のこと聞いてるの? と言いたそうな表情でハルキを見るヒカリ。
数秒前まであの擬音に深い意味が隠されているのではないかと勘ぐっていた自分がなんだか馬鹿らしく思えてきた。
大体、あれがただの擬音なら何でヒカリは、さっきのヒビキとキョウのやり取りを見るだけで理解できると思ったのか。
まあ、仮に聞いたとしてもヒカリからまともな答えが返ってくるとは思えないけど。

「ごめん。 僕にはわかりそうに無いからちゃんと説明してくれると嬉しいかなーハハハ....」
「えー、そうお? うーん...説明って言っても魔法の特訓としか言えないかなー」
「魔法の特訓?」
「そ。 正確には魔力のコントロールについての特訓を今はしてるね」
「魔力? ....あ、そういえば前にマジカルズが魔法の説明ついでに話してた気がする」

ハルキ達が救助隊の試験を受ける前にマジカルズが魔法のレクチャーをしてくれた時のことをハルキは思い出した。
魔法は地味な反復練習が基本な上に進化すれば誰でもできるような内容なため人気が無い。
その魔法を使うために必要なのが魔力。
魔力を感じ取り、コントロールすることが魔法を使うための必須条件だったとマジカルズは話していた。
先程、ヒビキとキョウが謎の擬音を交えながら「少ない」とか「多い」と話していたのはきっと魔力の量のことだろう。

「つまり、ヒビキは魔法を使うための魔力を感じ取れはしたけど、まだコントロールできてないって状態で合ってる?」
「そうだねー。 感知自体は早かったみたいだけどコントロールが大雑把すぎるみたい」
「なるほどね。 やっていることは何となくわかったけど、なんで魔法なの?」

特訓内容は理解したが何故このタイミングで魔法の特訓をしているのか。
存在こそ知ってはいたが、マジカルズの説明を受けている時のヒビキは完全に魔法初心者であったし、わざわざ特訓する理由が分からない。

「ジュエルペンダントの力を引き出すには魔法、というより魔力をコントロールできないとダメなんだよねー。 ほら、あのペンダントって魔法道具だからさ」
「つまり魔法道具を動かすのには魔力が必要ってこと?」
「そうそう。 ついでに言うと、魔法道具って呼ばれる道具は例外なく魔力をエネルギーとして動くから魔力を持たないポケモンは基本的に使えないんだよー」
「へぇー」

人間の世界に置き換えて例えるとするなら、[魔法道具を電化製品]、[魔力を電気]といった具合に置き換えればイメージしやすいだろう。
電気で動くのが電化製品、魔力で動くのが魔法道具といった感じだ。
つまり、ヒビキは魔法道具であるジュエルペンダントを動かすために必要なエネルギーである魔力をコントロールする特訓をしているというわけだ。

『ほら、また多く込めすぎてるぞ。 早く霧散させろ』
「は、はい」

キョウに言われてすごい勢いで両手をブンブン振り回すヒビキ。
魔力を感知できていないハルキでも、今の動きからヒビキが慌てて魔力を霧散させているのだろうと何となくわかった。

「やたら慌てて魔力を霧散させたみたいだけど、多すぎると何かあるの?」
『魔力を多く込めすぎると暴発する可能性があるんだ。 料理をする時に火を強くしすぎて焦げる事があるだろ? それと一緒さ』
「そういうことね。 ちなみに暴発するって具体的には何が起きるの?」
『込めた魔力の量にもよるが、ボンッって感じに小規模な爆発が起きる。 まあ、相当な量を込め続けでもしない限り怪我をするほど強い爆発は起きないから安心しろ』
「あー、なんとなく想像ついた」

ハルキの知るアニメや漫画の世界に登場する魔法と原理は違えど、取り扱いに注意する点は大体同じようだ。
もしかすると、昼頃にヒビキがやたらバテていたのは魔力の使いすぎが原因かもしれない。
魔法を使うのに体力を消耗するって事も十分ありえる話だろうし。

「おい」

ハルキが魔法について考察していると、ふいに背後から聞きなれた声がした。
その声に、キョウ以外の全員が思わず硬直した。

「これはどういうことだ? ハルキ?」

ハルキがゆっくり振り向いた先にいたのは、嘘をついてまでこの場から遠ざけたはずの存在、アイトが鋭い目つきでハルキを睨みつけた状態で立っていた。

「こ、これは、その、違うんです」
「そ、そうだよー。ちゃんと理由が合って....」
「お前らは黙ってろ。 俺は、ハルキに聞いてるんだ」

ヒビキとヒカリを無理やり黙らせたアイトはハルキの目の前まで歩み寄り、静かに問いかけた。

「ハルキ、もう1度聞くぞ。 何か俺に、言うことないか?」

先程、旅館の前で問いかけてきた時と同じ言葉。
あの時はハルキに背を向けていて、アイトがどんな表情をして問いかけてきていたのかハルキには分からなかった。
しかし、今は夕焼けに照らされたアイトの表情がハルキにもよく見えた。

「....ごめん。 僕は、君に嘘をついた」
「ッ!!」

アイトは胸ぐらを掴むようにハルキのスカーフを右手で掴んだ。

「そういう事を聞いてるんじゃねぇ!! なんで俺だけに黙ってたんだって聞いてんだよ!!」
「....言えない」
「チッ! そうかよ! じゃあ質問を変える。 さっきお前は俺に嘘をついたと言ったな? つまり、さっきの集合よりも前の時点でお前はヒビキの居場所を知ってたって事だ。 じゃあ、なんでお前はこの場所を探したんだ? 昼過ぎに集まった時、午後に森を探す予定だったヒカリがこの場にいるのはまだ納得できる。けど、お前は違うだろ?」
「......それも言えない」

まっすぐにハルキを睨みつけるアイトの視線から思わず顔を背けたハルキ。
その態度にアイトのスカーフを握る手に力がこもった。

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「何を思って森を探すことにしたのかすら答えられないのか?」
「........」

アイトの問いかけにハルキは俯いたまま何も答えなかった。
森を探しに行った理由はヒカリが嘘をついたから。
と言ってしまえれば楽なのだが、そう言ってしまうと今度は何故気づいた時点で言わなかったのかと問われるだろう。
そして、その問いかけに答えるためには雷の試練が終了した直後に聞いた、ヒカリ達の会話について話さなくてはいけない。
ハルキ自身、この件に関してヒカリに直接聞いていいのか迷っていた。
あの時のヒカリは明らかにいつもと雰囲気が違っていた。
なのに、ハルキはあの姿もヒカリらしいなと無意識に思っていた。
自分が感じたこの謎の気持ちに対する整理すらついていない状況で、誰かに話そうとは思えなかった。
だから、今、目の前で右手を僅かに震わせながら問いかけてくるアイトの質問には答える事が出来ない。

「そう、だよな」

これ以上、待っても答えてくれないと判断したアイトはハルキのスカーフを力なく離した。

「お前からしたら俺は頼りにならないよな」
「そんなこと..」
「そんなことあるだろッ!!」

アイトが地面に吐き捨てるように叫んだ。

「お前は昔っから何も変わっちゃいねぇ。 どんな些細な悩み事だろうといっつも1人で抱え込むし、俺がいくら聞いても苦笑いで誤魔化して何も話してくれない。 ユウマの時だってそうだった。 あの時も最後の方まで1人で抱え込んで、悩んで、俺にちゃんと話してくれた時にはボロボロだったじゃねぇか! 俺はそういうのもう嫌なんだよ!! なのに! これじゃあ....お前の助けになりたいって思ってる俺が馬鹿みたいじゃんか!!」

少し早口でまくし立てたアイト。
その声はいろんな感情が混ざり合ったように震えていた。

「........わるい。 ちょっと熱くなりすぎた。 頭、冷やしてくるわ」

アイトはそう言って、走り去ってしまった。

「ハルキ君、アイト君が行っちゃいますよ!? 追いかけないと! ハルキ君!!」

ヒビキが必死に声をかけるが、ハルキは俯いたままその場に立ち尽くすだけで動く気配が無かった。

「後で必ず追いついてください! 絶対ですよ!! ヒカリちゃん、ハルキ君を必ず連れてきてください! お願いします!」
「うん」

ヒカリが短く答えるとヒビキはアイトの後を追いかけていった。

「ハルキ.....」

心配そうにヒカリが名前を呼ぶが、ハルキは返事もせず、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
太陽が沈みかけ、鮮やかな朱色に染まり始めた夕焼け空。
そんな夕焼け空とは対照的にハルキの青色はくすんだように影がかかっていた。

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