第4章 第6話

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読了時間目安:31分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ゲンガー
「…絆、ねぇ~」

アグノム
「…あくまで伝承のひとつだ」
「必ずしもそれが必要とは限らない」
「だが、今の所他に確たる要素が解らん」
「…信頼、か」


俺様はメガストーンを手で転がすゲンガー相手にそう言う。
ゲンガーは半信半疑な様で、大きくため息を吐いた。
俺様だって吐きたいが、今はダレてても仕方無い。
モニターでは今も進撃して来る4大ボスが映ってるんだ。

第三大陸は実の所大陸と言いながらも、ほぼ全てが海。
むしろ群島の様な感じで、移動は基本船となる。
つまり、自分たちの足で移動がままならないという事。
それなりに安定して時間が稼げるエリアのはずだ。

とはいえ、それでも安心は一切出来ない。
船の上は戦闘はあっても移動中休んでられるからな…
しかし砂漠世界の後に大海原のコンボは、精神的にはダメージを与えられるはずだ。
何せマトモな食料が少ないからな…
定期的に宿屋を見付けて、往復でもしないと持たない。
そして、そうなれば更に時間は稼げるって寸法だ。


ゲンガー
「ここの予定はどの位なんですか?」

アグノム
「予定では15日前後だ、誤差を入れて残り60日ってとこか」
「今の時点で計30日目、ようやく中盤戦開始だな」


時間稼ぎのボーダーは100日。
そこまで稼げれば勝率はグッと上がる…
言っててバカらしいが、勝てるじゃない。
確率が上がるだけだ。
元々勝てる見込みの無いギャンブル…今はほんの少しの希望に全てを賭けなきゃならない。


アグノム
「…ちっ、コイツもコイツで面倒なもんだ」

ゲンガー
「それが最後の切り札っすか?」


俺様はああ、と言ってゲンガーに見せてやる。
とは言え、まだ器が出来ただけで何の力も無い…ただの透明な水晶体だがな。


ゲンガー
「それはメガストーンじゃ無いんすよね?」

アグノム
「ああ、こいつは一般的に『Zクリスタル』と呼ばれる物だ」
「ポケモンの技の効果を大幅に強化するアイテムだな」
「メガストーンと違って誰でも使えるのが売りだが、今回は拾い物じゃないせいで、ほとんど0から生成しなきゃならないから時間がかかる」
「まぁ、どうせひとつしか作れないだろうし、決戦前に仕上がれば上々だが」


俺様は器に草のエネルギーを与え続ける。
これも面倒な作業だ…満タンになったら試し撃ち。
効果が出なけりゃ器を代え、エネルギーの濃さや量を調節する。
細かい作業は嫌いじゃないが、成果が出なさすぎて気が遠くなる作業だな…


ゲンガー
「それ、『ジュエル』とは違う効果なんすか?」

アグノム
「おっ、良い所に気が付いたな?」
「そう、コイツはジュエルとは大きく違う」
「ジュエルは攻撃技の威力を上げるだけだが、こいつは変化技も強化出来る」
「更に、攻撃技に関しては技その物が変質し、『守る』ですら完全には守れない程だ」


俺様がそう説明すると、ゲンガーはおお…と感嘆の息を吐いた。
とはいえ、コイツにもしっかり弱点はある。
ジュエルは『リサイクル』出来るが、コイツは正真正銘1発限り。
再度使用するには、ある程度時間を置かないといけないデメリットがあるからな。
まぁ、使って無くならないだけでも十分なメリットなんだが。
正直、コレがあればジュエルにそこまで価値は無い。
汎用性ではほぼ上位互換のアイテムだからな。


ゲンガー
「でも、それ誰に使わせるんすか?」
「残りのメイドに戦闘向きなのいないでしょ?」

アグノム
「スカかお前は…? メイド以外にいるだろ、戦闘向きなのが」


俺はバカにした顔で言ってやる。
ゲンガーはカチンと来たのか、眉を釣り上げた。
おっと、あまり怒らせるとまたたくあん地獄だからな…
この辺でバカにするのは止めておこう。


ゲンガー
「で? メイド以外って誰すか?」
「アタシぶっちゃけ城内で他の人員見てないっすよ?」

アグノム
「ああ…そういや、顔は会わせてなかったっけか?」


俺様は思い出してみるが、確かに会わせた記憶は無い。
ゲンガーは城の外には出ないから、そうそう会わないわな。
アイツも滅多に城内には入らないし…外の方が落ち着くつってテント生活してる位だからな。


アグノム
「まぁ、良いや…ついでに用あるし、直に会ってみるか?」

ゲンガー
「良いんすか? それは気になるっす!」


ゲンガーも乗り気の様で、俺様はクリスタルを持って浮遊する。
そして、ゆったりと城の外を目指した。



………………………




「へぇ、これはそういう花なんですか?」

ラランテス
「はい、ここにある花は全て花言葉が存在します」
「あれは永遠の愛、あれは思いやり、そしてあれは調和…」


「…ふむふむ」


ざっくり聞いてみたが、やはり人気が高いのか花言葉はそういった愛情的な内容が多いみたいだ。
まぁ、縁起の悪い物もあるだろうし、どうせ飾るなら縁起良い方が良いわな。


アグノム
「何だ、お前もいたのか…」


「うん? アグノムじゃないか、どうしたんだ?」
「ミミロップさんに会いに来たのか?」

ミミロップ
「……?」


俺が突然現れたアグノムにそう言ってやると、アグノムは違うと一言良い、ラランテスさんを見る。
そうか、ラランテスさんに用があったのか。


ラランテス
「…アグノム様、何か?」

アグノム
「折角だから紹介しとこうと思ってな」
「まだ会った事無いんだろ? コイツに…」

ゲンガー
「どうも~メイド長やらされてるゲンガーでーす」


ゲンガーさんは割とテキトーに自己紹介した。
つーか、やらされてるとか雇い主の前で堂々と言うなよっ。
ラランテスさんは、特に動じずフツーにこう返す。


ラランテス
「これは初めまして、噂には聞いておりましたが成る程…」
「私は、庭師のラランテスです…以後お見知り置きを」


そう言ってラランテスさんは丁寧に礼をする。
ゲンガーさんはそれを見て戸惑っている様だった。
まぁ、ゲンガーさんの性格だとそうなるのかな?


ゲンガー
「何か堅い奴っすね…」

アグノム
「お前がユルすぎるんだ…マトモに敬語も使えんし」

ゲンガー
「だって面倒~口動かさなくても仕事は出来るし」


それでメイド長まで行ってしまったのだからバカには出来ない。
つーか、メイドが敬語使えんてどうよ?


ラランテス
「ふふふ、本当に噂通りの方ですね」
「…仕事嫌いのメイド長様」
「されど、その仕事は誰にも真似出来ない程の完璧さ」
「ここでは、仕事の出来る物が上に立てるという見本でもありましょう」

ゲンガー
「な、何かムズムズする…」


ゲンガーさんは複雑そうな表情で一歩退いた。
ああいう風に褒められるのは慣れてないみたいだな。


アグノム
「まぁ、そっちはついでだ」
「お前にはコレの実験を頼みたい」

ラランテス
「…これは?」


「透明の水晶?」


見た感じそんな風だ。
透き通った透明で菱形のクリスタルって所か…
って、コレもしかして…?



「まさか、Zクリスタルかコレ?」
「透明で色が無いけど、そんなタイプのあったっけ?」

アグノム
「ほう、よく知ってたな」
「確かにそれはZクリスタルの器だが、まだエネルギーが入っていない」
「何度か別口で草エネルギーを注入したが1度も成功しなかった…」


アグノムがそう説明すると、ラランテスさんはクリスタルを指先で摘まみ、太陽の光に当てる。
すると、日光はクリスタルに当たって乱反射し、奇妙な光を放った。
特に意味は無かったのか、ラランテスさんはすぐにクリスタルを持ちなおし、興味深そうにアグノムにこう聞く。


ラランテス
「成る程、そこで私のエネルギーで試してほしいと…」

アグノム
「話が早くて助かる」
「そいつにどの位のエネルギーが必要なのかは解らん」
「試し撃ちしたら全部失敗して、その度にエネルギーはパァだ」


「って、使い捨てじゃダメだろ…」
「レプリカみたいなモンなのか?」


俺がそう聞くと、アグノムは少々苛立った感じで頭を掻いた。
相当上手くいってないのが解るな。
もうずっと先の事を考えているんだろう…あまり眠れてない様にも見える。


アグノム
「…レプリカには違いないな」
「器は俺様が作ってみたが、当然本物を持ってないんだから見よう見真似でやるしかない」
「…決戦までに最低1発使えたら良い、それは任せる」

ラランテス
「それは、重要な役割ですね…では、私が選ばれたと?」

アグノム
「そうだ、ここにいる3人が切り札となる」


切り札…それはつまりミミロップさん、ゲンガーさん、ラランテスさんの事だろう。
このままだと、3人は守連たちと戦う事になる。
その前に俺は真相に辿り着かなければならない。
いや、辿り着いても解決出来るとは限らない。
最悪、それが悲劇の引き金になるかもしれないと思うと、思わず躊躇してしまうな。
だが、俺はもうそれにすがるしかない。
ミミロップさんは言ってくれた…諦めるなと。



「…止めても無駄なんだよな?」

アグノム
「甘えるな、俺様たちは絶対に勝つ…!」
「払える犠牲ならいくらでも払ってやる…コイツ等はその為の生け贄だ」
「あの4匹の悪魔を弱体化させる為のな…!」


アグノムは憎悪に歪んだ顔でそう言った。
悪魔、か…これじゃ、どっちが魔王なんだか。
俺は想像して怖くなった。
アグノムは守連たちをそれ程に恐れている。
生贄とまで言い放った3人は、つまり死ぬ事が確定している。
そして、3人共それを歯牙にもかけない。
皆、本当に死ぬ事を前提にしている。
そんな結末だけはダメだ! 俺は諦めないぞ…!?



「…ラランテスさんたちは、怖くないんですか?」

ラランテス
「恐怖ならばありません」
「その時が来れば、迷いも無く戦いましょう」

ゲンガー
「戦うのが怖いならとっとと逃げてるよ」
「アタシはメイド長だ、パルキア様やアグノム様の為ならちゃんと仕事は全うしてやる」

ミミロップ
「……私は何も怖くありません」
「ですが、あえて恐れる物があるとすれば…それは貴方の死です」


「? ミミロップさん?」


皆恐怖が無いのは解った。
だけど、ミミロップさんだけは、あえて俺が死ぬ事が怖いと言った。
それは、俺の身を案じているというより、深追いはするな…という警告の様にも捉えられた。
道を間違えれば、まさか俺が死ぬのか…?
それは怖いな、本当に…絶対に足がすくむ。
皆、そんな恐怖にさえ立ち止まらずに前を見てるってのに。


アグノム
「…ミミロップ」

ミミロップ
「問題はありません」
「私は正常です…消える事は絶対にありません」


「…消える?」


今、何か重要なワードが聞こえた。
消えるって、何だ?
もしかして、これは凄まじく重要な事なんじゃないのか?


ミミロップ
「………」
「出来れば、今のは聞かなかった事に」

アグノム
「……バカが」

ゲンガー
「っていうか、別にその位ならバレても大丈夫でしょ?」

ラランテス
「…程度にも寄ります」
「あまり触れない方が良いのは確か」


どうやら重要ワード確定らしい。
消える…それがパルキアさんたちの呪いなのか?
単純に消えるって言うと、フツーに消滅って感じだけど。
それが何も教えられない理由か…喋れば消される。
もしかして、パルキアさんたちを呪ってる何者かが存在するのでは?
とはいえ、そうなったら最悪だ。
俺の力じゃ対処出来そうにない…所詮俺はフツーの高校生なんだから。
パルキアさんたちを呪う様な力の強い物だったら、俺はとても戦えないだろう。
ミミロップさんも深追いするなと暗に示していたし、踏み込みすぎると死が見えそうだな。


アグノム
「ちっ、まぁ良い…この際、ひとつだけヒントをくれてやる」
「察しろ」


「………」


察しろ、と来たか。
つまり、アグノムたちは何も言わない。
だが、会話の中には重要なワードが含まれているかもしれない。
俺はそれを断片的に繋ぎ合わせて、察するしか無いって事か。
そして、そこから真相に辿り着ける…のか?
正直、曖昧だ。
アグノムたちの反応から察しても、真相を言えば消える…と思われる点。
だが、他にも何かある気がする。



(あれから、1度もエムリットちゃんを見てない)
(パルキアさんは約束と言っていたから、きっとエムリットちゃんを俺に近付けない様にしているんだ)


そして、そこから察する結果は…消滅か。
エムリットちゃんは見た感じかなり幼そうな印象だった。
ポロッと口が滑って消える可能性は高いって事だろうな。


アグノム
「…とりあえず話は以上だ」
「そうそう、ヒントはやったが俺様たちの邪魔はするなよ?」
「特に、こうやって外に出る時は余計な事をするな」
「これは警告だ、俺様たちの邪魔になると判断したら、相応の対応をする…」

ミミロップ
「………」


アグノムは凄んでそう言うが、ミミロップさんがゆっくり脚を上げるとすぐ泣きそうになった。
メンタル弱ぇ~
思わず笑いそうになるが、これは重要だぞ?
そして、俺は方針を決めた。



(出来るのはほぼ会話だけだ)
(それも相手は真相を絶対に語れない)
(だから、俺は話が出来る人と会話して察するしかない)
(どこかに何かしらのキーワードが含まれている可能性もある)
(とにかく、情報収集だな)

ミミロップ
「聖様、攻撃命令を」

アグノム
「うわぁぁぁぁぁぁん!! 母さんに言いつけてやる~!!」


結局アグノムは泣いて逃げてしまった。
まさに子供だな…これ位でパルキアさんが怒るとは思えんが。
多分笑って注意してくれるだけだろう。
っていうか、そのイメージしかない!
パルキアさん、昼行灯でほんわかしてる人だからな~
逆に絶対に怒らせたくなさそうでもある…その分怒りゲージは長そうだが。


ラランテス
「ふふふ、随分ミミロップは聖様に懐いているのですね?」

ゲンガー
「いや、あれは純粋に任務遂行してるだけでしょ」
「今は聖様専用のメイドだし」

ミミロップ
「敵性因子の逃走を確認、追撃しますか?」


「いや、もう良いです…」


俺がそう言うと、ミミロップさんは構えを解き、いつもの直立不動待機状態に戻った。
ミミロップさんって、何も考えてなさそうでしっかり考えてるんだよな…
最近は俺の事を気遣うセリフも増えてきてるし、確かに懐かれていると言えばそうなのかもしれない。

だけど、任務に忠実なのも確かだ。
もしミミロップさんが俺のメイドでなければ、こんな行動は取らないのだろう。
…そう思うと、俺は少し寂しい気がした。



「…ミミロップさんは、やっぱり俺のメイドだから守ってくれるんですか?」

ミミロップ
「…言葉の意図が理解出来ません」
「私にはそういった意志がありませんので、答えられません」


「じゃあ、俺が守るなって言ったら、どうします?」

ミミロップ
「………」


ミミロップさんは黙ってしまった。
考えている様だが、すぐには答えが出ない様だ。
そして1分程経ったかと思うと、やがてミミロップさんは静かにこう答える。


ミミロップ
「…それが聖様の考えて出された命令であれば従います」


「…?」

ミミロップ
「少なくとも、先程の言葉は例題であり、本当の命令ではありません」
「ですので、正しい答えは出せないと判断しました」
「よって、仮にその命令が下された場合をシミュレート」
「聖様が間違いないと思って出した命令ならば、迷わず遂行します」
「ですが、冗談半分と判断した場合は否定します」
「それは反抗でありません」
「あくまで聖様の為に否定していますので、そこに反抗意志は含まれていません」
「そもそも、そういった意志の無い私には反抗などは生まれないと補足しておきますが」


ミミロップさんはつらつらと無感情にそう言った。
そして、改めてミミロップさんは機械的なだけのメイドではないと思わされる。
意志は無いと言ったが、判断はしてる。
むしろ意志が無いからこそ、ミミロップさんは結果的に最良と思う判断をする。
意志は無くても、選択は出来るのだ。
ミミロップさんは自分の意志で動いた事は1度も無い。
だけど、誰かが与えた道を判断してはいる。

アグノムの言葉を否定し、俺の言葉を選択する様に。
決して考えが無い訳じゃない…ミミロップさんはこんな俺なんかを信じると言ってくれた。
俺のメイドだからそうなんだと思うが、今のミミロップさんなら別の答えを出しそうな気もするな…



「…だったら想像してください」
「もし、ミミロップさんが俺のメイドじゃなくて、それでも俺が危機に陥っていたら」
「ミミロップさんなら、どうしますか?」
「もちろん、誰の命令も無しで」

ミミロップ
「助けます」
「聖様が私のご主人様でなくとも、聖様は私の友人です」
「友人の危機に駆けつけないのは、メイドとして失格ですので」


その言葉を聞けて、俺はただ嬉しかった…
ミミロップさんは俺を主人じゃなく、友人と言ってくれた事が。
主従関係抜きにしても、ミミロップさんは俺の事をそう思っててくれたんだ。
それが解っただけでも、大きい。


ゲンガー
(友人、ね…まぁそれならまだ大丈夫かな? だけど、釘は差しといた方が良さそうだね…)
「ねぇ聖様? 聞きたい事は色々あると思うけど…」
「あんまり、ミミロップ引きずり込まないでね? 怖いから」


「えっ? 引きずり込む…?」

ミミロップ
「問題ありません」


ゲンガーさんは額に手を当てながら溜め息を吐く。
とりあえず、何かを危険視している様だ。
俺は推測する。
エムリットちゃんだけが近付けない理由。
そして、ミミロップさんが引きずり込まれるという危惧。
これは、もしかして俺に何か問題があるのか?
俺はここで思い出す。
俺が特異点なのだという事を。



「……まさか」


俺はガタガタと震える。
それを察した瞬間、全部否定したかった。
だけど、辻褄が合う。
ここまでの会話でそれを繋げたら、今までのワードが何故か全て現実味を帯びていくこの恐怖。
それは、まさかの……



「俺が、消してるのか?」
「いや、俺が消すかもしれないって事か?」
「ミミロップさんは問題無いと…つまりまだ消えない」
「だけど、深追いしたら…」
「だから、ゲンガーさんは引きずり込むなと言ったんですか!?」


俺は不安を隠せずにそう叫ぶ。
俺は次の答えを待つ事無く、急に怖くなった。
俺が皆を消す可能性がある。
だからあそこに軟禁して、極力誰にも近付かせない様に?


ゲンガー
「早かったじゃん♪ 察するの…」
「でも、それを知ったらアンタはどうする?」
「急によそよそしくして、皆を避ける?」
「それこそ、残酷だよね…? パルキア様が壊れてもおかしくない」
「結局、アンタに出来るのはそれを知りながらフツーに振る舞う事だけ」
「むしろ、知らない方が幸せだったと思うけどね?」
「知らなければ、まだ楽しく決戦まではいられたかもしれないのに」


ケラケラ笑って言う、ゲンガーさんの言葉が次々と俺の胸に突き刺さる。
俺は心が折れてしまいそうになった。
皆が俺に近付けば消える可能性がある。
その消えるという事が具体的にどんな事なのかは解らないが、かなり重い事だろう。

だが、腑に落ちない事が増えた。
俺に関わって消えるのは解る。
だけど、それなら何で俺を拐った?
何でパルキアさんたちは戦う事を選んだ?
少なくとも、パルキアさんたちが良い人なのは解ってる。

軟禁されてるとはいえ、パルキアさんは毎日俺に会いに来てくれる位心配してくれてる。
そんな優しいパルキアさんが、何故?

やはり、守連たちには何かがあるはずだ。
そうでなければ戦う必要は無い。
守連たちに勝利し、世界の一部になる。
異物……



(俺は…ワクチン?)


あくまでウィルスに例えた場合だ。
パルキアさんたちが世界にとっての悪性ウィルス。
そして、俺はそれを駆除するワクチン。

考えたくない…俺はそんな事したくないのに!
だけど、それは恐らく俺の意志に関係無く起こりうる現象。
何らかの条件が達成された時、彼女たちは消滅する。
その条件とは何なのか…解っても、何とかなるのか?
最悪の事態しか想定出来ない…確かに知らなければ良かったと俺は後悔する。

そして、絶望した…恐らく戦いは止められない。
下手に俺が何かすれば、その度に大切なパルキアさんたちの家族を消していくかもしれない。
これは恐怖だ…深追いした結果もたらされた、恐怖。
こんなの、どうしようもないじゃないか…?


ミミロップ
「…私は信じています」


「…ミミロップさん?」

ミミロップ
「私は決して消えません」
「ですから、聖様は諦めてはいけません」
「結果は変えられませんが、聖様には出来る事がきっとあります」
「ですので、お願いします」


ミミロップさんは無感情無表情に頭を下げた。
俺は、少し勇気を貰う。
そうだ…出来る事はまだきっとある。
諦めたら…この事実を知って諦めたら、もう2度と起き上がれない!



「ありがとうございます、ミミロップさん」
「俺、諦めずに頑張ってみます」

ラランテス
「聖様、戦いは必ず起こります」
「多大な犠牲も出ます」
「ですが、どうか我々の戦いを見届けてください」
「我々の死を、無駄にしないでください」
「そして、パルキア様をどうか…最後まで救ってあげてください…」


ラランテスさんも頭を下げ、静かにそう言った。
俺の心境を察したかの様な静かなトーンで、言葉を連ねて。
そして俺は察する…
パルキアさんは、俺に救われていたのか…と。
消えるのも恐れずに、俺に救われていた。
俺にはよく解らないが、パルキアさんはきっと俺に何かを求めてる。
だけど、深追いすれば消えるからそこまで出来ない。
パルキアさんが部屋に来る頻度が減ったのも、もう消えるギリギリだからなのかもしれない。


ゲンガー
「…まぁ、どうせ死ぬなら結果は残したいよね~」
「元々、絶望的戦力差だし」

ラランテス
「ふ…だからこそ、この切り札を使える様にせねばなりませんね」

ミミロップ
「私が必ず最初に成功させます」

ゲンガー
「おっ、言ったね~? だったらアタシが先にやってメイド長の実力見せてやる!」

ラランテス
「ふふ、これは負けられませんね」
「私も、切磋琢磨致しましょう!」


皆、底抜けに明るい。
戦う事も、死ぬ事も恐れてない。
むしろ、勝利の為に死ぬ事は誇りの様に振る舞ってる。
俺は、彼女たちの楽しそうな顔を見て、決断した。
諦めるわけじゃない…でも、受け止めよう。



「…俺、絶対皆の事忘れません」
「例え逃れられない、死の運命でも…絶対に覚えておきます」

ゲンガー
「な~に勝手に殺してんの!? アタシは勝ってアグノム様に自慢してやるんだから!」

ミミロップ
「でしたら、私も勝利して聖様に誉めてもらいます」

ラランテス
「ならば、皆で生き残りましょう!」
「勝てば官軍、されど死ねばその余韻は味わえません」
「出来るならば、皆と一緒に勝利の美酒を…」


おー!とゲンガーさんが腕を振り上げると、ミミロップさんとラランテスさんも続く。
決して空元気じゃない。
彼女たちは真剣にやっている。
勝てる見込みが無くても、全力を尽くすという意志表示。
俺はこの光景を目に焼き付け、そして手記に記そうと思った。
そうすれば、きっと忘れそうになってもまた思い出せる。
書いた手記を見れば、またこの笑顔が甦って来るだろう…



(確かに世界は残酷だな…)
(こんな良い人たちを死に向かわせるなんて…)
(誰なんだよ…こんなクソな世界造った神様は!?)
(もし会えたら、絶対ぶん殴ってやるのに…!)



………………………



パルキア
「そうか~、そこまで辿り着いちゃったか…」
「まぁ、ずっと隠せるとは思ってなかったけど」


「…すみません、何も知らずにはいられなかったんです」


俺は自室に戻ると、しばらくしてパルキアさんが現れた。
そして、俺は今日知った事実をパルキアさんに話したのだ。
パルキアさんは少し困った様な顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
そして、優しい声で。


パルキア
「良いよ…むしろ、その方が覚悟出来るし」
「聖君がそう覚悟してくれるんなら、オレは迷わず戦えるよ」
「でも、戦いが終わったら……」


「ストップ! パルキアさん、フラグは止めましょう!」
「どっちが勝っても、俺は一切恨みません」
「全て、受け入れます…」


これが俺の決断だ。
つらいのは当たり前、フツーなら耐えられるわけ無い。
でも、皆は戦わなきゃならない。
その理由だけはどうしても解らなかった。
そして、それを考えた所で何も思い付かない。
下手に俺が動けば、誰かが消える可能性もある。
だったら、俺に出来るのはもう、最後まで見届ける事だ。

恐らく、相当な惨劇が予想出来る。
アグノムは死ぬ事前提みたいに話してたし。
ユクシーちゃんも、前に怒った(?)時…死ぬ事も出来ないくせにと言っていた。
俺は今更ながら、その言葉の重みを思い知った。


パルキア
「…ゴメンね、聖君」
「何も、教えてあげられなくて…そうしないと、下手したら消えちゃうから」


「もう、何も聞きません」
「俺も覚悟は決めてます…多分当日は相当パニクると思いますけど」
「俺は家族を、そしてパルキアさんたちを両方応援します」
「皆、皆俺には、かけがえの無い家族ですから…!」


俺は震えて泣いた。
そんな事しか出来ない弱さに泣いた。
するとパルキアさんは、まるで母親の様に俺を胸に抱き締めて頭を撫でてくれた。
もう久しく忘れた間隔。
こんなに、こんなに暖かい物だったのか…?


パルキア
「よしよし…つらいはずなのに、よく言えたね」
「ありがとう…お母さん頑張るから、もう泣かない」


俺はパルキアさんの胸でひとしきり涙を流し、やがて落ち着いた頃に体を放した。
俺の目の前には、こんなにも優しく暖かい人がいる。
だけど、大切などちらかを失わなければならない。

俺は強くなると決めた。
例え大切な物が失われても、もう決して絶望しないと心に誓う。
でないと、勝った方も報われない。
互いの命を賭けて俺を奪い合うルールなのだこれは。
しかも、パルキアさんに圧倒的不利の解りきったギャンブル。
それでも、パルキアさんたちは恐れずに立ち向かうのだろう。
パルキアさんが言う所の、世界の一部になる為に。



「ありがとうございます、パルキアさん」
「俺、絶対忘れません」
「例えパルキアさんたちが死んでしまっても、ずっと覚えています」

パルキア
「…うん、本当にそうしてくれると、嬉しい」
「覚えていてもらえるのなら、どれだけ嬉しいか…」


パルキアさんは物凄く悲しそうな顔をした。
一体、どうしたのだろうか…? 今にも泣きそうな顔でパルキアさんは顔を手で覆った。


パルキア
「ゴメン…今日はここまで」


その言葉を最後にパルキアさんは空間を越えた。
俺は、それを見届けると机に戻り、手記に手をつける。
この手記は宝物になりそうだな。



………………………



パルキア
「うぅ…うあぁぁっ!!」

ユクシー
「…お母さん」

パルキア
「嫌だよ…忘れられたくない!」
「何でこんなクソみたいなルールなんだ!?」
「こんなの…何やってでも勝つしか無いじゃないか!?」
「どんな犠牲を払ってでも、罪も無い女の子たちを殺さなきゃならない!!」
「やだよ…こんなの、理不尽だぁ……」

ユクシー
「……!」


私は怨嗟の声をあげて泣き叫ぶ母さんの記憶をすぐに消す。
今回も相当ギリギリ…聖さん、ある程度の事に気付いた様だけど、本当に潜む最悪の理にはまだ気付いていない。
そして、戦いが終わるまで気付く事もないでしょうね。
そもそも気付いてしまったら、私たちはその場でゲームオーバーなのだから…


パルキア
「あれ…オレ、泣いてた?」

ユクシー
「…うん、でも消したから」

パルキア
「…そっか、ゴメンね?」
「聖君、今日は何言ってくれたのかな~?」
「告白とかしてくれた?」

ユクシー
「………」


私はふるふると首を横に振り、否定する。
すると、母さんはそっか~と、本当に残念そうにしていた。
1日1回とはいえ、毎日記憶は消している。
今日のは特にマズかった。
後少し遅れてたら本当に消えてたかもしれない。
でも、あそこは止められなかった…

聖さんのあの子供の様な涙…まるで、初めて親の胸で泣いたかの様な素振り。
私は少なからず、哀れに思ってしまったのかもしれない。
気を付けないと…失敗すれば全てが無に還るっていうのに。
ここまで来て、それだけは絶対出来ない。
もう、私たちは罪の無いあの4人を皆殺しにして勝利するしかないのだから。



………………………



ゲンガー
「…アイツ、そんな事言ってたっすよ?」

アグノム
「ちっ、バカが…どうせなら母さん孕ませるとか言ってみろってんだ」

ゲンガー
「アンタ本当に鬼畜だな、今日の晩御飯は唐辛子にするか?」

アグノム
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「お願いですからそれだけは止めてください!!」


俺様は最大の恐怖を感じ、すぐに土下座して謝る。
コイツはやると言ったら必ずやる凄みがある! 既に前科があるから怖すぎる!


ゲンガー
「ったく、少しは聖様の事認めてあげたら?」
「まだ16歳のガキンチョが、覚悟決めてんだから…」
「おっと、アグノム様はもっとガキンチョか…」

アグノム
「この野郎、俺様がアイツよりガキだと思うのか?」

ゲンガー
「じゃあ、晩御飯は唐辛子で良いな?」

アグノム
「すみませんすみませんすみません!!」


もうホントに嫌だこのメイド! 早く戦い終わってミミロップのご飯食べたい!!


ゲンガー
「全く、豆腐メンタルの癖に偉そうにするから」
「今更その性格直せとは言いませんけど、聖様は後にご家族になるんですから、今の内に好感度稼いどかないと、ミミロップけしかけられますよ?」


俺様は言われてうぐっ…と声を詰まらせる。
確かにヤバイな、もしアイツが家族になろうモンなら……



………………………




「アグノム、今日のテストはどうだった?」

アグノム
「うるせー満点に決まってんだろ? 俺様は天才だぞ!?」


「口が悪いな、ミミロップさん」

ミミロップ
「了解しました、今夜のアグノム様のメニューはワサビにします」

アグノム
「ぶわぁぁぁぁぁぁん! ごめんなさ~い!!」



………………………



アグノム
「…最悪だ」

ゲンガー
「ど、どうかしたんすか?」


思いっきり想像してしまった。
そして、容易に現実で起こりそうな風景だ。
クソ…好感度稼ぎだと? 俺様にそんな事が出来るかっ。
やはり多少遠回りでも、別の方面からポイントを稼がねば…


ゲンガー
「…とりあえず、アタシはもう行きますよ?」
「今日の晩御飯はうどん! 唐辛子はたっぷり入れといてやる!」

アグノム
「待ってぇ!? お願いだから適量にしてぇ!!」


結局、その日のうどんは普通だった。
うん、普通が1番! これ大事!!










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第6話 『真の戦場を知らぬ貴様らに、勝ち目などあろうはずがない!!』


To be continued…

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