メモリー27:「どうして現実は………。~ハガネやま#2~」の巻

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 3月に入りましたが、これが2020年初投稿になります。リメイク作品も発売されますね。みなさんはもう購入予定なのかな?
 「もうダメだねって一体どういうことなの!?」
 「そのままの意味だよ」
 「ひどい!!」


 最悪な雰囲気だった。ボクはチカに冷たく接していた。まるで彼女のことを敵と認識してるかのように、鋭く冷たい視線で見ていた。でもこれが今のボクの気持ちでもある。正直なんだか今の自分とチカは気が合わない。考え方が合わない。本当に彼女にはボクとチーム関係を解消させて、別のポケモンと新たにチーム関係を築けばいいやと…………それくらい投げやりな気分になっていた。


 確かに最初はお互いのことをあまり知らないことも関係して、なんとなく気が合うとか一緒にいて楽しさを感じる。ところが一緒にいる時間が長くなって相手の考え方や性格なんかが見えてくるうちに、急にそんな感情が冷めてくる可能性があるのも事実。


 (これがいわゆる“すれ違い”ってものなのかな。価値観なんて合わなくて当然なのにね。育った環境、接してきた人、経験して得てきたものなんか一致しないのが当たり前なんだから)


 そこまで分かっているのに素直に歩み寄れない自分が腹立たしかった。人間のときの記憶が全く無い今、確かめる方法が無いが果たしてボクは以前から、こんな複雑な神経をしていたのだろうかと思ってしまう。


 「ユウキお願い。そんなこと言わないで。ようやく救助隊にも慣れてきた頃なのに………」


 チカの態度はすっかり変化していた。ボクを半分無視していたようなあの振る舞いは一体なんだったのか。今はボクの機嫌が悪くならないように必死である。ボクはその姿を見ると何だか余計に腹が立ってきた。


 「………だったら」
 「え?」
 「………だったら最初からあんな風にボクの気持ちを試すようなことするなよ!!?」
 「!!!?」


 フロア中に響いただろうボクの怒鳴り声。チカはますます動揺して萎縮する。もはや対等な対話ができるような状態ではない………そのように解釈したのか、チカは小さく何度か「ゴメンね、ゴメンね…………」と平謝りしていた。ブルブルと体を震わせて。小さく黒い円らな瞳を潤ませて。もちろんそのあと彼女から話し掛けられのはしばらく減ることになった。


 (どうしてこうなっちゃったんだ………)


 ボクは怒鳴ったあとにすぐ後悔していた。元々強気とは言い難いチカ。そんな彼女に果たして声を荒げる必要があったのかと。確かに彼女がボクのことを試すかのように、耳を全く貸してくれなかったのは事実。でも、ボクだってチカの意見に耳を傾けなかったことのは事実だ。一方的にどちらかが悪いって感じでなければ、何もあそこまで起こる必要は無いのである。そんなことはボクにだって理解できていた。それなのに…………冷静に判断できなかった自分が情けない。


 (でも、こうなっちゃったら仕方ないや。ボク一人で頑張るしかない。チカとの約束、また破ることになるけど)


 確かにボクの中には後悔がある。でももう………それも忘れることにしたい。逆に今はお互いの為に最適な方法だと思う。これ以上チカと話しても平行線のままだし、ボクもまたイライラが募って爆発するかも知れないから。それなら一旦チカの存在を忘れた方が良いだろう。


 それからボクは後ろを振り向く回数が激減した。たまに聞こえる小さなチカの悲鳴が気になって何度か振り向こうとしたが、それではダメだと必死に自分を抑え続けていた。


 (大丈夫。大丈夫だ………、今のチカなら)


 ボクは信じていた。初日のときと違って自分をサポートできるだけの力があるんだから………と。直後に電撃が発射された音、相手ポケモンと思われる別の悲鳴が聞こえた。ボクの思惑はちゃんと当たってくれた。


 (お互いに一旦冷静にならなきゃ。チカには悪いけど、仲間に仕事を任せるのも“リーダー”の役目なんだ………)


 ボクはひたすら前を向いて歩いた…………。


 (…………一体どうするつもり?ユウキ、教えてよ。これ以上私を苦しめないで…………お願い)


 私は動揺が収まりませんでした。ユウキは怒鳴ったあと、一度も自分の方を振り向いてくれないんですから。その事ばかりに気をとられてばかりの結果、私は背後から近づくポケモンたちに気付くのが遅くなることに。その結果、余計に攻撃を受けてダメージを溜めてしまうことになったのです。


 しばらくしても彼の様子が変化することはありませんでした。沈黙したままドンドン先へと足を進めていくだけ。自分のことなどまるでいないような…………そんな振る舞いに見えました。


 (もしかして………ずっとこのままなのかな?私がユウキの気持ちを試すようなことをしたから?私が全部悪いの?ユウキは絶対に自分が正しいって思ってるの?ふざけないでよ!)


 私はスルーされてる悲しみよりも怒りの気持ちがだんだんと強くなってきました。本当はその場で大泣きしたいほど。


 (やっぱり私のこと嫌いになっちゃったのかな、ユウキ………そんなの嫌だよ)


 私は半べそをかきながらユウキの後をついていきました。本当はちゃんと話し合いをした方が良いかもしれません。でもあんなに怒鳴られて、かつスルーをされていたら気軽に話しかけるなんて…………とてもじゃないけど無理な話。私は思わず心の中で呟いてしまいました。


 (どうしてこうなっちゃったんだろう………)


 …………ボクはチラッと後ろを見た。そこにはいつもより大分テンションが低く、しょんぼりしながら歩き続けるチカの姿があった。もはやお互いに会話が弾むシーンはほとんどない。それでも一生懸命自分の後ろをついてきてくれるチカに安心感を覚えたのは事実だった。


 (なんとか………しっかりついてきてくれてるみたいだな。よし、ボクも頑張らないと)


 チカと出逢って今日で4日目。本当はこんなに彼女に対して冷たく接するのは不本意であまる。だって彼女には笑顔でいてほしいから。その笑顔は、“ヒトカゲ”になった理由が未だにわからず、不安なボクにとっての唯一無二の癒しだったから。そんな彼女の笑顔を奪うように冷たく接してる自分が………本当は憎たらしい。


 (でも、ここで変に優しくなんかしないぞ。チカにはわかって欲しいから。ボクの本当の気持ち………)


 ボクはひたすら前を向いて歩き続ける。狭い通路が右に曲がっていたらそこを曲がったし、ダンジョンに住むポケモンに襲撃されれば色んな技を駆使して撃退した。チカのサポートを受けることなく、今までになく自分の力だけで歩き続けた。


 定期的にチカの悲しそうな声が聞こえる。「お願い。一緒に頑張ろう?」とか、「もう許して!ごめんなさい!」とか。それでもボクは彼女の方を振り返ろうとはしなかった。ここで振り返ってしまうと“無意味”になってしまうから………。


 (ボクは………“リーダー”なんだ。ボクがしっかり強くならなきゃ!チカには申し訳ないけど、本当にこのダンジョンはキミのサポート無しでも乗り越えたい…………!)


 ボクの本当の目的はこれだった。チカを嫌った訳でもなく、チカを試す訳でもない。単にボク自身が自分を成長させたい…………そんな目的があったのだ。


 確かにチカの考えが真っ当だと思う。二人で協力しながら依頼主を救助する。これが出来るのが本当は理想的なチームだろう。でも実際にはチカにばかり助けられてばかり。バトルだけでなく道具の使い方や、救助隊のシステム、しまいにはボクの住居兼基地の設定など…………ありとあらゆる場所までチカのサポートがあって成り立っている気がする。


 (そんなこと続けていたら、いつかチカだってどこかで限界を向かえてしまうかもしれない………。本人はそれでも大丈夫、平気だって言いそうだけど…………。やっぱりボクが彼女を守っていかないと!たった一人の味方なんだから………。ボクが強くなっていかないと………!)


 本当はチカにこの気持ちをわかって欲しかったのかもしれない。“リーダー”ゆえの………チームを守らないといけない大きな責任を。それに…………、


 (チカは言ってくれたんだ。ボクの頑張ってる姿が勇気をくれるって。だったら、なおさら頑張らないと。もっと強くならないと………!)


 やはり彼女の一言がボクの心に火をつけてくれてるのかもしれない。今はちょっと素直に接することは出来てないけど、ボクの試行錯誤や努力が少しでも彼女の心を動かしているのであれば、もっとそれを続けるべきなんだろう………と、ボクは心に決めた。


 (だってチカは………少しずつ強くなっているから。初日とは印象が違う。何となくだけど、ボクの失った人間のときの記憶に………彼女が深く関わってくる気がする………)


 なんでそのような意見になったのかはわからない。だが、何となくチカには不思議な印象を受けるのだ。いわゆる恋愛感情とは全く別の…………不思議な印象が。


 そうこうしてるうちにボクたちは次の4階へと続く階段を見つけた。これまでであれば二人で喜びを分かち合う瞬間。まだ日の浅い“メモリーズ”にとって、数少ないルーティンになっていた。しかし今日は気まずい雰囲気が続いてるため、1階から2階へ上る段階からそのようなやり取りは無い。もちろんこのときもお互い喜ぶ素振りは特に無く、ボクとチカは沈黙のままその階段を上っていった。







 「確か入り口でダグトリオは、この“ハガネやま”は全部で9階まであるって言ってたよな…………」


 ボクは小さく呟いた。相変わらずの岩だらけの殺風景をしっぽの炎で照らしながら。ここは4階なので、ちょうど全体の三分の一を過ぎたといった所だろう。とはいえ、まだまだ先は長い。ボクは今一度気を引き締めてダンジョン内を進む。その後ろからは「待ってよ!」と言う声。久しぶりに後ろを振り返ると、チカも懸命に叫びながらついてくるのを確認できた。


 …………と、その時である。


   ヒュン!!ガツン!!!
 「キャッ!!」
 「チカ!!?」


 彼女が駆け出したそのタイミングで、突然目に見えないスピードで“何か”が飛んできた。その“何か”が体に激突したのだろう。チカは悲鳴を上げたかと思うと、苦しそうな表情をしてその場にうずくまってしまった。


 「チカ!?大丈夫!?くそ…………誰だ!!」


 ボクは急いで彼女のところへ近づいた。そして、ちょうど脇腹の辺りにキズが出来てるのを目にした瞬間に、一気に怒りの感情が爆発して思い切り叫んだのである。
 …………だが、次の瞬間!!


 「ユ………ウキ…………!危ない!!」
 「え…………うわあっ!!」


 体の痛みの影響で額から汗を滲ませながらも、彼女は差し迫ってきていた危機をボクに伝えてくれた。あれほどボクの考えによって、心に辛い目に遭わされたにも関わらず………に。だが、その結果は残酷にも現実というものに粉砕されてしまった。彼女の必死のメッセージが届く前に、ボクにも目に見えない“何か”がぶつかってきて…………それで吹き飛ばされて地面に倒れてしまったのである。


 (ぐっ!!一体なんなんだ?………何かの技なのか?)


 痛んだ体を庇いながら片膝をついて、ゆっくり立ち上がろうとするボク。するとまたチカの「ユウキ!伏せて!!」という叫び声が飛んでくる。だが、それに間に合うことはなかった。


 「ぐっ!?ちくしょう…………なんなんだ一体!コノヤロー!!出てこい!!」


 正体のわからないものに段々ボクはイライラしてきた。躍起となって壁に向かって“ひのこ”を飛ばす。当然のことながら、何かに当たったような手応えは全く感じられなかった。


 「ユウキ…………キャッ!!」
 「チカ!!誰だ!止めろ!出てこい!!」


 ボクを心配そうに気遣ってくれたチカを、再び“何か”が襲う。何とか正体を暴いて攻撃を防ごうと試みたボクだったが、それが叶うことはなかった。みるみるうちにチカもボクも体に傷が出来上がっていき、体力が削られていった。


 「ダメだ。これじゃ二人とも倒れてしまう!逃げよう、チカ!!」
 「う………うん!!」


 ボクの提案にチカは理解を示してくれた。不思議だ。さっきまで彼女と険悪な雰囲気だったのに、いざ危機的状況が訪れたらまた一緒に行動しようとしてるんだから………。


 (いや、違うか。チカはボクに合わせてくれてるんだ。彼女は自分が“パートナー”だからって理由だけで、自分を押し殺しているんだ)


 本当のところはわからない。でもボクはそんな献身的なチカを庇い、息を切らしながら階段があったフロアから、別のフロアに繋がっているであろう狭い通路を目指した。こんなときに限ってフロアが広い。頼むからそこに辿り着くまではチカに何もしないでくれ………みたいなことを思いながら、とにかく懸命に進んだ。




 …………そういえば一昨日だったっけ。“メモリーズ”として始動する前にチームメンバーの役割を話していたの。





 「救助隊のチームメンバーには役割があるの。まず今ユウキがなってくれた“リーダー”。そしてもう一匹が“リーダー”を手助けする“パートナー”なんだ」
 「リーダーを手助けする“パートナー”かぁ。それってやっぱりチカの方が適任だよね。ボクはまず本当は人間だから、この世界のことボクは全然知らないし。ダンジョンや救助隊、道具の使い方も含めて全部チカにサポートされてきたし。何より色々優しくしてくれるし!!」
 「ユウキ………やめてよ。そんなに褒められると恥ずかしいよ」


 笑いながら話すボクの言葉にチカが俯く。ほんのりと顔を赤くさせながら。ボクは更に話を進めた。
 

 「何となく昨日の“ちいさなもり”でも感じたけど、ボクの今の仲間ってキミしかいないじゃん。だからこの世界のこと教えてくれるのもキミしかいないんだよね。だからさ、これからもボクを支えて欲しい。もちろんボクも頑張るからさ」




 …………でも実際は違った。ボクはチカが支えてくれればくれるほど、変な意地を張って彼女のことを困らせてしまっていた。やっぱり意識していたんだと思う。“リーダー”だからチカには弱音を見せちゃダメだ、自分が頑張んなきゃいけないんだ………と。そのことばっかり思い続けた結果、自分のたった一人の仲間であるチカに心無い言動に走ってしまった。


 (ボクは………とんでもない大馬鹿者だ……!)


 途端に自分の行動に腹立たしさを覚えた。結局自分の決意と裏腹にキャパオーバーしたボクは彼女に「そんなに考え方が合わないってなら、他のポケモンとチームを組めば良いじゃないか」なんて言っちゃったけれど、よくよく考えたら酷い発言だったように思う。事実チカのこと悲しませてしまったし。


 (本当ならきっと離ればなれになっても不思議じゃないよね………。だけど彼女は必死についてきてくれた。ボクがどれだけ無視しようと………泣きながらでも………)


 やっぱり今のボクには………チカしかいないんだろう………。自分が何者かさえわからない今、彼女だけが唯一頼れる存在。そして信じてくれる存在。だとすれば、やっぱりボクは彼女と一緒に行動すべきなんだろうか。







 (いいや、そんなこと!まずは逃げないと!チカと一緒に………!)


 ボクはチカを庇いながら、狭い通路へ向かって懸命に進んだ。さすがに走ることはできない。それでも目の見えない敵から逃れるため、必死になって安全なその場所へと進んだ。これ以上大切な“パートナー”が傷つかないために。


 …………だが、そう簡単には事は進んでくれない。


 「逃がすかよ!“しばりだま”!」
 「え!?いけない!ユウキ、離れて!」
 「どうして?キミを見捨てるなんて……」
 「良いから!!早く!お願い!」


 次の瞬間、天井から水晶玉のようなものが落下してきて眩しく輝いた。ボクはどこかでそれを見たような気がしたのだが、全くわからなかった。ぎゃくに彼女は何なのか理解しているのだろう。かなり焦った様子でボクに指示を送ってくれた。しかし、その努力が報われることはなかった。


 「うわっ!!なんだ………。体が………動かない!?」
 「ユウキ!?」


 そう。ボクは“水晶玉”からの光を浴びてしまったのだ。その影響なのだろう。まるで金縛りにあったかのように、体を全く動かせなくなったのだ。


 「ユウキ!!ユウキー!!………!?きゃああ!!」
 「チ………チカ!」


 ボクのことを心配してくれたのか、チカは既にかなり傷ついた体にムチを打って駆け寄ろうとした。しかしその結果、周囲の警戒が疎かになり、直後の目に見えない何者かの攻撃を彼女はモロに受ける羽目になった。彼女はまた吹き飛ばされたのである。ただでさえダメージが蓄積されていただけに、この一撃はかなりキツイものになってしまった。


 「く…………くそ!!な………んなんだ………」


 またしてもボクは“パートナー”を守ることが出来なかった。その場にバタリと倒れた彼女の方へ駆け寄りたかったが、全く体を動かせない。


 「何故なのか知りたいか?さっき俺が投げたのは“しばりだま”ってヤツだ。こいつの光を浴びると体が動かせなくなる…………そういう“ふしぎだま”だ!」
 「“ふしぎだま”?…………ッ!?」


 カラクリを明かすとともに“目に見えない敵”が自らの正体を現した。その姿は間違いなくポケモンである。どぐうポケモンと呼ばれる種族のポケモン、ヤジロンだった。


 ボクはそれよりも“ふしぎだま”というワードに反応した。恐らくあの光を発した水晶玉のような道具のことを指してるのだろう。2階でチカが黙って同じように拾った道具ともそれは一致していた。


 「…………にしてもよ。救助隊のくせにそんなことすら知らないとは滑稽な話だぜ!しかも俺はじめんタイプも含まれているからな!身動きができるお前の相棒のピカチュウの電撃は俺には通用しない!既に成す術無いだろう!?ここでおとなしく、くたばることだな!」
 「な…………んだって!」


 ヤジロンは薄ら笑いを浮かべる。と、その直後に頭上から岩が降ってきた!身動き出来ないボクはあっという間にその餌食になってしまった。


 「ぐわあ!うわああああああ!!」
 「ユウキ!?」
 「行かせるかよ!!“こうそくスピン”“!!」
 「きゃあ!!」


 ボクのそばにチカが駆け寄ろうとした。だが、またしても何かが彼女に激突したらしい。「ドカ!」という鈍い音とチカの悲鳴がフロアに響く。その直後、天井から地面に向かって落下する彼女の姿がボクの目に飛び込んできた…………。無論、ボクの叫び声は届くことはない。チカはその場にうずくまる。肩から提げていた道具箱はなんとか外れはしなかったが、蓋が開いてしまったことで、中身が飛散してしまっていた。そのシーン全てを眺めることしか出来なかったボク。………絶望だった。


 (そうか………あの技で………。あの技でボクらを攻撃していたんだな。くっそ、もっと早くにわかっていれば!!)


 なんで今頃になってそんなことに気付いたんだ………と、ボクは自分に悔しさを感じた。しかし、そうしたところでこの状況が変化することは無い。「うぅぅ………」と苦しそうに呻いてるチカへ、ジリジリ迫るヤジロンを追い払うことさえ出来ない………なんて情けない話だ。こんなのが救助隊の“リーダー”を名乗っているなんて。


 (…………このまま終わってしまうのか?)


 初日の“ちいさなもり”、翌日の“でんじはのどうくつ”でも今回のようにボクが動けず、チカが追い詰められてるパターンは度々あった。いずれもボクやチカが自らでも理解できないような力を発揮して切り抜けてきたけど、今回もそれに賭けるにはリスクがあり過ぎる。どうすれば良いんだ…………。


 その時だ。うずくまるチカがギラリと目を光らせて力強く呟いたのは。


 「うぅぅ………私がピンチだからと言っても、まだ負けって決まった訳じゃないよ………!!」











 「負けって決まった訳じゃない………だと?状況を考えろ?お前みたいな電気ネズミに何が出来るってんだ?変な強がり言おうが動じたりしないぞ?」
 「強がりかどうかは、これからの結果を見て判断した方が良いよ!」


 ヤジロンの考えてるように、私は本当は強がっているだけでした。もちろん作戦は考えてるけれど。それが果たして上手くいくかどうか………本当に不安でした。


 (でも、ここで弱い姿なんか見せちゃったら………それこそヤジロンの思う壺だもんね。頑張らなくちゃ………!)


 私はユウキをチラッと見ました。彼は岩の下敷きになってる痛みで、汗が滲み出しながら歯を食い縛っていました。多分何とかしないとって考えているのかもしれません。躊躇いはありました。ここで私が動いてこの状況を打開しても、彼の機嫌を損ねてしまって終わるかも知れない…………そうなったらまたギクシャクしてしまう………そんなことが頭を過ったからです。


 (怖いなぁ…………さっきみたいな状態になったら嫌だなぁ………あんな姿のユウキなんか見たくないのに………)


 さっきのことを思い出すと、自然と体の動きが固くなってしまいました。でも、悩んでる時間はありません。多分次の一撃を受けたら確実に私は倒れてしまう。そうなったら、外に戻されて………それこそユウキを独りにしてしまう………。それだったら…………!!


 (戦う!!私はユウキの“パートナー”なんだ!!ユウキがピンチのときは…………私が………彼の力にならなきゃ!!)


 私は気持ちを固めると、ちょうど自分の手の届く場所に転がっていた“ふしぎだま”をなんとか掴みました。しかし、その僅かな動きもヤジロンに気づかれてしまったのです。


 「………何しようってんだ?もう一度“こうそくスピン”の餌食になってしまえ!」
 (いけない………お願い。間に合って!!)


 頭上からヤジロンの技、“こうそくスピン”と思われる空気を斬る音が聞こえてきます。必死に私はその“ふしぎだま”を体で抱き締めるようにして、強く願い続けました!!間に合って………間に合って…………と!!


    ピカッッッッ!!


 私の抱き締めていた“ふしぎだま”。それは、“なげとばしだま”というものでした。相手ポケモンに不思議な力を働かせて、文字通り投げ飛ばしてしまうという道具。


 「なっっっっ!?うわああああ!!」


 ヤジロンの叫び声が聞こえてきました。私には彼の姿が目に入って来ませんでしたが、ドカッという鈍く強い音と、「ぐっ………」といううめき声みたいな声から判断するに、追い払うことは出来たのかなと思いました。頭を上げて周囲を見て、ヤジロンが気絶してる姿を確認したことでその推測は正しいものだったようです。


 (さっき落ちているのを見つけて良かった………)


 シーンと不気味な静けさを取り戻したこのフロア。私はまだ呼吸が荒く、体の震えも止まらないくらい動揺が続いてました。たまたま偶然見つけた道具で、運良くピンチを脱出出来たのですから無理は無いでしょう?改めてこの「不思議のダンジョン」のシビアさというか、怖さを思い知った気がしました。



 ………でも。なんか今の私の行動。………なんだか別のもっと好戦的なピカチュウじゃないのかなってくらい自分じゃない感じがしました。その感情が過ったのか、急に寂しいような何とも言えない感覚が襲いかかったのです。


 「やっぱり無理なのかな、優しい救助隊を目指すなんて。難しいね………。そうだ!!ユウキ………ユウキは!?」


 我に返った私。急にユウキのことが気になり、すぐに背後を振り返りました。一滴の水滴を右目から溢し……………って、…………え?


 (私、泣いてる?なんで………なんで?)


 自分でも無意識に溢していた涙。その理由は何故だかわかりませんでした。言うほど悲しいことはなかったはず。むしろピンチを脱出できたんだから、安心感が先に来るはずなのに………なのに……………どうして?


 …………どうして現実は………わざわざこんな歯痒いものを遺してしまうの………?


 …………私の心に余計な新しい荷物を詰め込むの?


 …………私はただ………ただ、ユウキを支えたい………この世界で家族や友達のいない彼を………


 …………温かく………優しい光で支えたいだけなのに。





 ……………どうして?








 そんな余計な新しい荷物を詰め込められた私に誰よりも熱いものを抱え込む…………、ちょっと変わったヒトカゲが涙ぐんだ声で言ったのです。


 「チカ?どうしたんだい?また泣いてる。笑顔を見せてよ………ねぇ…………?」




         ……………メモリー28に続く。






 







 


 




 











 



 




 


 





 













 





 





 



 
 “ふしぎだま”。実際にプレーしてるときはほとんど使用したことないんですよね。だから描写もこれで良いのか正直分かりません。次回はどうなるのでしょうか。お楽しみに。

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