第4章 第3話

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読了時間目安:23分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

アグノム
「ただしたくあん、テメーはダメだ!」

ゲンガー
「好き嫌いするなつってんだ!!」


俺様はたくあんという名の暴力に屈していた。
カレー皿にはたくあんがびっしりと敷き詰められており、本来漬物が置いてあるであろう場所にはカレーのルーが気持ち程度に盛られている。
こんなの絶対料理じゃねぇ…


エムリット
「はむむ…結構美味しいのです」

ユクシー
「………」


ふたりは普通のカレーをそれなりに美味そうに食っている。
畜生…何で俺様だけ? …理不尽だ。


ゲンガー
「残すなよ? 全部食ったら次からは普通の飯を食わせてやる」
「アンタはアタシの主人だが、コック怒らせたらどうなるか思い知れ!?」


アグノム
「…ゴメンナサイ、モウモンクイイマセン」

パルキア
「あはは…その辺にしてあげたら? もう反省してるみたいだし」

ゲンガー
「パルキア様は甘い!」
「だからアグノム様みたいなのがワガママに育っちゃうんですよ~?」


ゲンガーは母さん相手でも強く言う。
まぁ、コイツのこういう所が母さんも気に入ってるんだろうけど。


ゲンガー
「エムリット様もユクシー様もこんなに可愛らしいのに…」
「何でアレだけあんなんなんすか? ホントは別の遺伝子で出来てんじゃ?」


ゲンガーは完全に舐めた目で俺様を見る。
しかし、ここで怒ってはいかん…こういう時程冷静ならねば。
よし、まずはごく自然に行ってみよう。
あ~お腹が空いたかな~…ぱくっと。


アグノム
「やっぱたくあんじゃねーか!?」
「こんなもん食えるかっ! もう良いわ!!」
「今度は別のメイドに頼むーーー!!」


結局、無駄な足掻きで、その日は晩御飯抜きだった…ちゃんちゃん。



………………………



アグノム
「くっそ~腹減った…でも作業しねぇと」

ゲンガー
「おいクソ主人、カレーサンド作ってやったから3辺回ってワンと鳴け」

アグノム
「くるくるくる、ワン!」


俺様はプライドよりも食料を選ぶ。
プライドで腹は膨れんのだ!


ゲンガー
「ほらよ人面犬!」

アグノム
「パクッ!」


俺様はゲンガーが空中に放ったカレーサンドを浮遊して口でキャッチする。
うむ、味はまぁまぁだな…とりあえず腹には溜まる!


ゲンガー
「しっかし、こんな面倒なモンよく作りますね~?」
「ってか、何でここまで敵有利にプログラムしてんすか?」


ゲンガーは指令室の巨大モニターを見てそう聞く。
俺はカレーサンドを頬張りながら軽く答えた。


アグノム
「ぶっちゃけ意味は無い…これはただの時間稼ぎで、デザインは俺様の趣味だ」
「ちなみに、敵有利なのは意図的じゃなく、そうしか出来ないからだ…」

ゲンガー
「? どういう意味っすか?」

アグノム
「これは、俺様の超能力の総量から分散させて作ってる代物でな…」
「俺様のパワーじゃアイツ等ひとりにも及ばない…それで4人分も相手させなきゃならないんだ」
「あくまで目的は時間稼ぎだから、こんな風にゲーム的な世界を構築したって訳だな」


俺様はモニターを見ながら、机に頬杖を着けてそう言った。
こんな物はクリアされる事が前提だからな…最小の戦力で最大の効率と結果を生む事が重要なんだ。


ゲンガー
「なーる…要はアグノム様がヘタレ過ぎるから、と」

アグノム
「黙れアホゥ! こっちだって無理を通してやりくりしてんだからな!?」


俺様がツッコムとゲンガーはケラケラ笑う。
コノヤロウ…おちょくってやがるな?
しかし、飯の件もあるだけに俺様はそれ以上強く言う勇気はとても出なかった…
だ、断じてヘタレじゃねぇからな!?

アグノム
「…まぁ、相手側からしたら、実際RPGやってる様な感じだろうな」
「逆にこっちからしたら、アジト系SLGな訳だが…」

ゲンガー
「ゴリの奴、戻ってきませんな…」

アグノム
「アイツはもう放っとけ!!」
「じゃなくて! 合ってるけど違う!!」
「本格的なそっち系と違って、こっちはあくまで用意したアルゴリズム内の行動しか出来ん」
「無論、城内戦になれば自由に配備も出来る様になるが…」

ゲンガー
「その時はもう力技って事っすか…」


俺様はその通りと笑う。
そして、ここまでの戦闘データを元に、改めて奴らのパラメーターを計算し直した。


ゲンガー
「この数値は何すか?」

アグノム
「敵のCP…Combat Pointって奴だよ、ざっくり戦闘力を計算した数値だ」


俺様はそう答え、順に敵のCPをモニターに超能力で表示させる。
なお、モニターの表示は俺様の超能力で全て自由に切り替えられる。



守連(ピカチュウ)特性 静電気
CP 32450
補則 電気玉の効果により攻撃力2倍


阿須那(キュウコン) 特性 日照り
CP 28962
補則 日照り時は炎の威力が5割増


華澄(ゲッコウガ) 特性 変幻自在
CP 29731
補則 特性により全技の威力は5割増


女胤(ドレディア) 特性 葉緑素
CP 27016
補則 日照り時は素早さ2倍



ゲンガー
「へぇ~…で、これってどの位凄いんすか?」

アグノム
「…知りたいか? 軽く絶望を味わえるぞ?」


俺様はやや凄んで念を押す。
一瞬躊躇したゲンガーだが、ゆっくりと頷いた。
俺様は比較対象となる、こちら側の最大戦力をあえて表示させる。



パルキア 特性テレパシー
CP20478
補則 白玉の効果でタイプ一致技は2割増



ゲンガー
「……え?」

アグノム
「言っとくが、バグじゃないぞ?」
「むしろ、バグであってほしい位だがな…」
「これが正真正銘、彼我戦力差だよ」
「アジト系SLGって言ったろ? こっちはこんなバケモノ4人相手に、湯水の様に戦力投入して、少しでも相手の戦力を削いでいかなきゃならない…」
「何せ最大戦力の母さんでさえ、ひとり勝てるかは怪しいんだ…」
「唯一の救いは、敵が強すぎてこれ以上強くなる事は無いって所か」


まさに俺様たちは前途多難…母さんもよくひとりでケンカ売りに行ったもんだ。
例え母さんでも、万全のアイツ等じゃタイマンでも勝てない。
だから、こうやって小細工して少しでも有利にしていかなきゃならないんだが。


ゲンガー
「ちなみに、勝算あるんですか?」

アグノム
「無けりゃこんな所にいない」
「さっさと人質解放してトンズラするのが現実的だ」
「だが、その勝算が見付かってしまったから、こんな事をしてる」
「もう止められない…どっちかが完全消滅するまではな」


今も奴らは魔物と戦っている。
順当に進めば、あと数日で第一大陸は攻略されるだろうな。


ゲンガー
「…一応聞きますけど、アタシたちも戦力に入ってんすか?」

アグノム
「バカかお前? むしろ切り札だよ…」
「お前とミミロップは特にな…後はもうふたり分位切り札が欲しいが、間に合うかは微妙だ」
「間に合うなら勝利は確実…だが奴らがそれより早くここに辿り着いてしまったら、勝率は一気に下がる」


予定ではおよそ100日程で城内戦だ。
その猶予期間内に、何とか切り札を完成させなきゃな…
頼むから、最低歩数クリアとか止めてくれよ…?



………………………




「…ふっ! …ふっ!」


俺は部屋で腹筋を高める筋トレをしている。
どうせやる事は無いし、無駄にはならないだろ。
後どの位ここにいるのかは解らないが、今はこうやって汗を流す方が気も紛れる。


パルキア
「やぁ、聖…君?」


「あっ、パルキアさん…どうかしたんですか?」


俺は空間を開けて突然部屋に現れたパルキアさんを見て、筋トレを一旦止めた。
すると、ミミロップさんがすぐにタオルを差し出してくれたので、それを受け取って汗を拭く。


パルキア
「あ…いや、特に用事は無いんだけど」
「…ただ、顔を見たくて」


「えっ?」


突然、そんな事を言われて俺はドキッとしてしまう。
改めて見ても、やっぱりパルキアさんは抜群に美人だ。
高身長に良スタイル、大人の魅力に溢れるも可愛らしい目元がギャップの良さ。
しかも、優しくて思いやりがあって、家族思い。
こんな良い人、そうそういないだろうな。


パルキア
「…うん」
「ゴメン、もう行くよ…」


「あ、はい…」


パルキアさんはすぐに背を向けて空間を越える。
どうかしたのかな? 何か、前と雰囲気が違った様な。



………………………



パルキア
「…残酷だよな、これ」

ユクシー
「…でも、それも勝つ為」
「…今は忘れた方が良い」
「…無闇に近付いたら、また消さなきゃならないから」


オレは、虚空を見て呆ける。
聖君、笑ってたな。
オレを見て、ちょっと赤くなってた…脈あるのかな?
ダメだ…何も思い出せない。
いや、違う…思い出すな。
今はこれで良い…勝利するまでは、心を空っぽにでもしないと…



………………………



守連
「わぁ~港だよ~♪」


私たちは旅を続けて早1週間…ついに港町へと着いていた。
今度はここから船に乗って移動するらしい。


阿須那
「料金いるんかな?」

華澄
「恐らくは、多分余裕はあると思いますが」

女胤
「まずはそれを調べてから1度宿に向かいましょう」
「流石に1度入浴したい所です」


確かに私もそう思う。
前のお風呂から3日は経ってるし、臭いとか大丈夫かな?
着替えもちゃんと買った方が良いのかも…


阿須那
「しかし、下手に服買うのは躊躇われるよな…元の世界に戻ったら消えそうやし」

華澄
「確かに、せめて今来ている服は大事にしませんと」
「最悪、終わったら全員裸という事にもなりかねません…」

女胤
「そ、それは嫌ですわね…家の中ならともかく、外に放り出されたら最悪ですわ」


既に皆は勝つ事を前提に話していた。
う~ん、あんまり気楽に考えるのもどうかと思うけど。
とりあえず、私たちはまず船の料金を調べる事に。



………………………



阿須那
「ひとり1000Pやて、結構するなぁ~」

華澄
「とはいえ、既に50000Pは所持金があります」
「装備や道具を整えても十分足りると思いますが?」

守連
「それより食料だよ~…もうリンゴは飽きてきたよ~」


あれから、所々リンゴの樹が見つかり、大抵それで食を凌いでいた。
リンゴは好きだけど、ここのは甘くないし…
せめて他の果物が良いかも。


女胤
「とりあえず宿で食事にしましょうか」
「ある意味、守連さんのお腹が最大の敵になる気がしますわ…」


うう…そんな事言われてもお腹は空く物だよ~
私は唸りながらとりあえず皆の後を追った。



………………………



女胤
「ふう…お先に入りました」

阿須那
「ほな華澄か守連が先に入り、ウチは最後でええから」

華澄
「では、守連殿がお先に」

守連
「うん、分かったよ♪」


こうして、私たちは食事後お風呂に入り、明日に備えて眠る事にした。
明日は、いきなり船の上だ。



………………………



アグノム
「………」

ゲンガー
「おっ、第一大陸クリアされましたね」

アグノム
「…ここまではほぼ予定通りか」
「だが、今後もプラン通りに行くとは思えねえし、もっと策を練らなきゃな…」


俺様はプログラムの全体を1度見直し、不備が無いかを確認する。
正常動作はしてるし、そこは特に問題は無いな。
こっからは第二大陸…規模は第一大陸の倍以上だ。
計算なら半月はここでかかる。
逆に言えば、ここで誤差を見て修正しないといけない。

クリアされるのは100%解ってる。
だが、その間にどれだけのダメージを与え、どれだけの消耗をさせたのかは正確に見なきゃならない。
最後の決戦前で、万が一ノーダメージ攻略されよう物なら、こっちの全滅はほぼ確定だ。
そうなったら戦う所の騒ぎじゃない…例え母さんの記憶を全て消してでも逃げ延びさせる。
俺様はそこまであの人間に入れ込む理由は無い。
姉さんもそうだろう…俺様の意見には同意するはず。


ゲンガー
「ぶっちゃけ、これ半分も生き残れるんすか?」

アグノム
「甘えるな、8~9割は死ぬ」


俺様の無情な返答にゲンガーは露骨に顔を歪ませた。
そう、隠す必要は無い。
コイツ等はぶっちゃけ鉄砲玉だ。
だが、この戦いにおいて鉄砲玉の意味は大きい。
相手はたったの4人…その内ふたりでも鉄砲玉が当たれば大戦果だからな。


ゲンガー
「あ~あ…短い人生だったな~」

アグノム
「否定はしねぇよ…別に恨んでくれて構わん」
「ただ、俺様は何があっても母さんたちを勝利させる」
「条件は最悪だ…あっちは強大無比な戦力4人」
「それ相手に、こっちは断捨離レベルで全戦力を持って相手を必滅」
「しかも、敗北条件は母さんと俺様たち姉妹のいずれかが死亡」
「あくまで、勝利条件は敵の全滅と俺様たち4人の生存だ」
「…正直、ギャンブルにも程があるな」

ゲンガー
「…聞けば聞く程、理不尽っすね」


まさしくその通りだ。
こんな戦力差の解りきったシミュレーションなんざ、理不尽以外の何物でもない。
これなら6面サイコロ3つ同時に振って全部1出せと言われる方が現実的だ。


ゲンガー
「勝算か…ちなみに今の想定での勝率は?」

アグノム
「…0.1%って所か」
「ここから、どれだけ確率を引き上げれるかが俺様たちの仕事だ」



………………………



パルキア
「………」

エムリット
「お母さん?」

パルキア
「ゴメン…」


お母さんは、部屋の隅でぐったりして泣いていた。
何が悲しいのか、私には解らない。
でも、あの人が関係している気がする。
私は、お母さんに浮遊して寄り、お母さんを抱き締めてあげた。


パルキア
「エムリット…」

エムリット
「泣いて良いのですよ? お母さん…」
「私が一緒だから、泣いても良いのです…」


お母さんは私の小さな胸の中で静かに泣く。
こんなお母さんは見た事無い。
どうして、なのかな?



………………………




「…! …! …!」


俺は腕立て伏せを繰り返す。
無理に酷使する事はない、少しづつ鍛えていかないと…
こういう地道なのは元々得意だしな。


ミミロップ
「………」


相変わらず、ミミロップさんは直立不動。
どうやら、彼女は目を開けたまま立って寝れるらしく。
定期的には睡眠しているらしい。
驚きの特技だな…
その分、何かあったら直ぐに行動出来るのが利点だそうだが。


ユクシー
「…魔更 聖」


「うおっ!? いつの間に!?」


ついに満を持して現れたのは、間違いなくユクシーだった。
他のふたりと同じく、浮遊しており特徴も服も同じ。
ただ、両目は閉じたままであり、その顔を俺に向けていた。
そういえば額に赤い宝石の様な物が埋まってるんだが…あれも姉妹の特徴か。
エムリットちゃんとアグノムは前髪が長いから目立たなかったからな。


ユクシー
「………」


「な、何か用か?」


ユクシーちゃんは俺の方を向いたまま、微動だにしなかった。
ミミロップさんと合わせて全く動く気配が無い…
しばらく待ってみると、ついにユクシーちゃんが静かに口を開く。


ユクシー
「…貴方は、お母さんの事は好き?」


「は? あ、いや…そりゃ、嫌いじゃないけど」
「…って、俺は母さんとかほとんど顔も覚えてないからな」


俺は思い出せる限界の母親を想像してみる。
それは当然若々しく、あからさまに造られたかの様な顔しか想像出来なかった。
当然だ、俺は小学校低学年位の頃にしか親の顔は見てないし。


ユクシー
「…じゃあ、私のお母さんの事は好き?」


「え…? そ、そうだな…」
「もちろん、嫌いじゃない」
「…だけど、好きなのか?と聞かれたら、まだ、答えられない」
「そんな、曖昧な気持ちで答えるのは、相手に失礼だろうし…」


俺は出来るだけの表現でそう言った。
ユクシーちゃんはしばらく無言で、何を考えているかも解らなかったが、やがて静かに言葉を放つ。


ユクシー
「…なら、良いわ」
「…正直怖いけど」
「…ミミロップ、これがこの部屋の鍵よ」
「…出入りは好きにして良いけれど、彼だけは決して外に出さない様に」

ミミロップ
「かしこまりました、ユクシー様」


ユクシーちゃんはミミロップさんに部屋の鍵を渡し、そう釘を刺す。
あくまで俺は人質なのだ。
ユクシーちゃんが部屋を出ると、ミミロップさんは扉を閉め、中から鍵をかけた。
って、鍵があれば内からかけれるのな…初めて知ったわ。



………………………



パルキア
「…ゴメン、エムリット」
「もう、大丈夫だから…」

エムリット
「…ん」


オレはエムリットを体から放し、ヨロヨロと立ち上がる。
弱いな…オレ。
こんなんで、本当に戦えるのか?
いや、戦わなければならない。
家族の為に、他の全てを犠牲にしてでも。

だけど、そこには恐怖しかない。
絶対的な壁…その高さをまざまざと感じさせられる、暴力的な戦力差。
オレはそんな絶望に、心を殺して立ち向かわなければならない。


パルキア
「…ちょっと、外に出るよ」
「何かあったら呼びかけて…『テレパシー』ですぐ解るから」

エムリット
「はいです、行ってら~」


私は笑ってエムリットの頭を撫でる。
すると、エムリットは嬉しそうに笑って見送ってくれた。



………………………



パルキア
「………」


オレは城の庭園に顔を出す。
見渡す限り色取り取りの綺麗な花畑は、全てひとりの庭師が剪定した物だ。
オレはその庭師を探す。
すると、少し離れた所で今も剪定をしている庭師を見付けた。


パルキア
「ラランテス」

ラランテス
「これは…パルキア様、何用でございましょう?」


庭師のラランテスが頭を下げ、そう聞く。
彼女は桃色の燕尾服に身を包み、両手にはそれぞれ剪定用の小さな鎌が握られている。
背中には薄羽の様な物が4枚あるが、飛ぶ事はほとんど出来ないらしい。
頭には服と同じ色のシルクハットを被っており、まるでその姿は庭師というより、むしろ奇術師の様だ。
髪は短髪だが綺麗に整えられており、もみあげだけが肩に着く位長い。
色も桃色で全身が統一感のあるカラーで纏まっていた。


パルキア
「ラランテス、男性に花をプレゼントしたいんだが、何が良いかな?」

ラランテス
「…ほう、麗しの母君殿も、とうとう身を固める決心を?」


ラランテスは片目を瞑り、からかう様に微笑んでそう言う。
オレも微笑んで軽く息を吐き、更にこう言葉を続けた。


パルキア
「まぁ、早くそうしたい所だけど、中々そうもいかなくてね~」

ラランテス
「やはり、敵は強し…ですか」


ラランテスも覚悟はしている様だった。
決戦になれば、彼女もまた戦い…そして散るだろう。
オレはそんな彼女たちを踏み台にしてでも、絶対に勝たなければならない。


ラランテス
「では…ベタな物ですが、この赤い薔薇を」


ラランテスはいつの間にか、一輪の赤い薔薇をオレに差し出していた。
オレは刺に気を付け、それをマジマジと見つめる。


パルキア
「何故、これに?」

ラランテス
「…さて? まぁ、全てが終わった時、それを聖様に渡されると良いでしょう」
「とはいえ、薔薇の切り花は寿命が短い」
「聖様に渡す時は、正式な花束を用意致します」
「それまでは、まだ渡すのは止めた方が良いでしょう」


ラランテスは含みのある言い方でそう説明した。
成る程…意味は知らない方が良い、か。
ある意味怖いね…


パルキア
「ありがとうラランテス、その時を楽しみにしてるよ♪」

ラランテス
「はい、お体にはどうかお気を付けて…」


ラランテスは最後に一礼し、再び剪定に戻る。
いつもながら良い手際だ。
オレは花を手に、再び城内に空間を繋げた。



………………………



エムリット
「お花さん」

パルキア
「そうだね~お花さん♪」


オレは自室で花瓶に受け取った薔薇を入れていた。
ユクシーいわく、ちゃんと手入れをすれば1~2週間は持つ事もあるそうだ。


ユクシー
「…薔薇、ね」

パルキア
「花言葉って何なの?」

ユクシー
「…これは、魔更 聖に?」


オレはコクリと頷く。
それを見て、ユクシーは数秒考えた。
まさか知らないとは言わないと思うけど…。


ユクシー
「…教えない」

パルキア
「あれ…珍しいね? ユクシーがそんな意地悪するなんて」

ユクシー
「…意地悪じゃ、ない」
「それは、勝つまで知らない方が良いから」


成る程、ユクシーもそう言うのか。
これは、そんなに意味のある花なんだね…
聖君は、知ってるのかな?
渡したら、どんな顔してくれるのかな…?
でも、ダメだ。
必要以上に踏み込んだら、また苦しくなる。
後、2ヶ月以上もあるのか…本当に地獄だな。


パルキア
「…ユクシー」

ユクシー
「…1日1回まで」

パルキア
「え?」

ユクシー
「…それだけなら、許してあげる」
「その代わり、その度に記憶は消すから」


それはユクシーの最大の譲歩だった。
1日1回か…それは、嬉しいな。
でも、その度にその記憶は消されていく。
オレは、その度にギリギリの恋が出来るのか…


ユクシー
「…もうひとつ条件」
「…会う時は、必ず私も一緒にいる」

パルキア
「…分かったよ、そうしよう」


いつまた消えかけるかもしれない。
オレはこんな儚い想いを潜ませて、聖君に会おうとしている。
会った所で、何も思い出せない。
下手すれば消えるかもしれない。
でも、消えなければ聖君は覚えていてくれる。
そうしたら、戦いが終わる頃には、きっとオレたちを愛してくれているはず。
だから、会いたいな…聖君に。


ユクシー
「…今日は我慢して」
「…約束は明日から」

パルキア
「うん、もしもの時はお願い」

エムリット
「お姉ちゃんだけズルいのです~!」
「私も聖お父さんに会いたい~!」


エムリットはユクシーだけ特別扱いされたのが気に入らなかったらしい。
だけど、この娘だけは絶対にダメだ。
エムリットの能力だと、すぐにでも消えてしまう。
幼くてもこの娘は感情の神。
例え直接会わなくても、聖君の感情を読み取っているはず。
会えば必ず想いが弾ける。

聖君の優しさはエムリットを一瞬で恋に落とすだろう。
それだけは何としても阻止する。
可哀相だけど、オレは母親なのだから。


パルキア
「エムリットは我慢」
「その代わり戦いが終わったら、1番最初に聖君に抱いてもらうから」

エムリット
「…ホント?」

パルキア
「うん、約束」

エムリット
「じゃあ指切り!」


エムリットは信用出来ないのか、そんな事を言い出す。
だけど、オレはそれに素直に応じる。
エムリットの小さな小指に自分の小指を絡め。


パルキア&エムリット
「ゆ~びき~りげ~んま~ん! うっそつ~いた~らはっりせ~んぼ~んの~ます!」
「ゆ~びきった!」

パルキア
「…これで良い?」

エムリット
「うんっ、楽しみなのです♪」


エムリットはそう言って笑う。
オレはそんなエムリットの頭を優しく撫でてあげた。
指切り、か…
ホント、勝てれば良いんだけどね…
オレは何ひとつ約束なんか守れる自信は無かった。
その位、敗色濃厚…
今も、悪魔の手先がこの城に迫っている…
その恐怖だけでも、オレは心が折れてしまいそうになるのに…










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第3話 『つけものは犬に食われて死にました』


To be continued…

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