第22話 1つの願い
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
......ただただ、黒煙だけが立ち込めている。 当然の事ながら、ポケモン達は皆口を閉ざしてそれを見つめる事しか出来なかった。 モスノウに至っては、飛ぶ事を忘れ崩れ落ちてしまう。
「ユキハミ......ああ、ユキハミっ......!」
モスノウは娘の名をうわ言のように呟いている。 近くにいるポケモン達は、彼女に寄り添いその背中を優しく撫でた。
そんな中、村のポケモンの1匹ーーシャンデラが呟いた。
「......モスノウサン、オチコムヒツヨウハナイヨウデスヨ」
「えっ......?」
全員が反射的にシャンデラの方を見やる。 シャンデラは、静かにその紫紺の炎が灯った腕を伸ばした。 その炎は少し強さを増している。 まるで、「生気を吸い取れるもの」がその先にあるのを象徴するかの様に。 時間が経つ中で、煙は少しずつ晴れてゆく。 そして、状況が分かる程になった時ーー。
「......えっ!?」
全員から驚きの声が漏れる。 そこにあったのは、[てだすけ]で強化されていたのか少しひび割れながらも未だある[ひかりのかべ]。 ーーそして、それに守られたユズ、キラリ、そしてユキハミの3匹だった。
「......よ......余所者が......」
「ユキハミを......助けた......」
村のポケモン達に動揺が走る。 娘を攫った悪者らしからぬ行動だったのだ。 言うまでもない。 むしろ娘を盾にでもしたのかという疑念もあったのに。
だが守った。 足を凍らされながらも。 3匹よりも、2匹の方が身を守りやすいにも関わらず。
流石に爆風の衝撃は受けたようで、ユズとキラリはかなり苦しそうに息をしていた。 勿論ユキハミも例外ではない。 だが、彼女は2匹の前にすっと出た。 その目は、どこまでも純粋だ。 穢れなど知らない目だった。
「......気づいて、くれたかな? ......ママ、みんな。 この2匹は悪いポケモンなんかじゃないよ」
「ユキハミ......」
「信じられないと思う。 ママ達だって、怖いんだよね? 何をしてくるかなんてわかんないんだから」
ポケモン達は何も言わない。 邪魔する者は、完全にいなかった。 もう、もう。 こんな「証拠 」を見せつけられたら。
何を疑っても、虚しいだけだーー。
「......私だって、少し怖かった。 ワクワクの方が大きかったけど、もし本当に悪者だったらって......」
ユキハミは少し縮こまる。 そこから、全ての思いを吹雪として吐き出すように、「......でも!」と高らかに叫んだ。
......吹雪といっても、冷たいものという意味では無い。 氷のように気高い強さを込めた、彼女だから起こせる風。
「話してみて分かったんだ! 凄いポケモンさんだった! 私に、色々な事を教えてくれたの! 優しかったの!
......それを全部、全部嘘だと思えって言うの!? 出来るわけないよ!」
少し声は涙混じりになる。 ユキハミには手は無い。 拭う事も出来ないまま、嗚咽を漏らしている。
「......ごめんなさい。 私、勝手に村の外に出ちゃったの。 あの2匹がどうしても気になって......でも2匹は怒らなかった。 何かしたなら謝りたいって、言ってくれた。 だからーー」
「ユキハミ、もういい」
ユキハミの言葉を、1匹のギガイアスが堰き止める。 彼は地面を強く踏み[じならし]を起こすと、未だあったユズとキラリの足元の氷はあっけなく砕けた。
「うわっ!」
2匹はその場に転んでしまう。 突然の事ではあったが、彼が何を思っていたのかは十分分かった。 そして、それは今の村の総意。
「......あ、あの......」
「......あくまでユキハミに免じて、だ。 もし怪しい行動でもしたらただではおかない。 して、何故にここに来た?」
「ちょっとギガさん! その話は長老も含めてやった方がーー」
「長老は来ませんよ」
その声に一同が振り向く。 そこにいたのは、まるでずっとそこにいたかの様に佇んでいるケイジュであった。 状況を理解しているのか、冷静にこちらへと進んでくる。
「来ないって?」
「ええ。 私も偶然このゴタゴタを見て、呼んだ方がいいか悩みましたが......昨日外に出て少し腰を痛めたとのことですので、家で安静にしておいた方がいいでしょう。 ですので代わりに私が」
「ああ......そういや今朝、湿布の注文来てたっけ」
「ジュリさんは?」
「朝から森で矢の練習を。 ......ですのでこれは私のただの独断です。 しかし分かります。 彼らに悪意は無いでしょう」
「じゃ、じゃあ......!」
ユズが希望を込めてケイジュに問いかける。 それをちゃんと受け取る様に、ケイジュは頷いた。
「......旅の者よ。 わざわざ何を求めてこの村へ?」
「......解せぬ」
空が茜色に染まっていく中、長老の家の玄関でジュリはケイジュに鋭い目線を向けていた。 ケイジュの隣には、ユズとキラリが立っている。
「なんで昨日の余所者がいるんだおい?」
「害は無いと判断したので入れたまでです。 どうやら虹色聖山に行きたいとの事なので、長老に許可を貰いに......」
「はあ!? そんな証拠どこに......」
「ここです」
そう言ってケイジュは2匹から受け取っていたオニユリタウンからの遠征許可の紙を見せた。 街の印も押されており、身分証明にはとてもありがたい書類である。
「オニユリタウン? なんじゃそりゃ......」
「ここから東の方にある、探検隊の多い街ですよ。 ......一応知名度は高い方だとは思うのですが、もしかして貴方はそこまで世間知らずですか?」
「お前......今度こそただじゃおかんぞ!!」
ケイジュの嫌味を込めた口調に、ジュリの怒りはオーバーヒートする。 本来苦手なはずな炎さえ感じさせる顔で、素早く矢を引き絞ろうとする。 ......まあ、その様な事は許される訳もなく......
「お主ら......また喧嘩か。 たまには我慢というのを覚えたらどうだ?」
長老が杖を携えこちらにやってくる。 腰に手を当てている事から、腰痛というのは本当なのだろう。
「長老様......!」
「ジュリ、お主は本当に懲りぬな......。 我の言葉はお主には届かぬか?」
「......それはっ......!」
「自重するがいい。 ケイジュもケイジュだ。 喧嘩を売るのはよくないぞ......だが、ジュリもそれにすぐに乗る短気さは直さねばならぬぞ?」
「......はい」
グッと堪えるかのようにジュリは口を閉ざす。 そして、何も言わずに家の奥へと消えてしまった。 その目にあったのは反省か、憤りか、不満か。 もしかしたら全てかもしれない。
「.......さて。 村の者が無礼を働いたようだな。 村を代表して謝罪する。 誠に申し訳なかった。 だがお主らが何者か預かり知らぬところではあったからな。 どうしても警戒心は拭えなかったことは理解してもらおう」
「いっ......いえいえ!そんな事言わないでください!」
「......私達も何も考えずにずけずけ入っちゃいましたし、こちらこそごめんなさい」
お互いが深々と頭を下げる。 ゴリランダーがチコリータとチラーミィに頭を下げるという光景は中々シュールだったのか、ケイジュは悟られないぐらいに笑みをこぼして見せる。
「......で、お主らは何をしにこんな辺境へ?」
「あっえっと......探検隊としての遠征で、虹色聖山に行きたいんです」
「......なるほど。 で、一応その理由を教えてはくれぬか?」
「理由、ですか?」
「我も村の長として、情報は少ないながらも外については気にかけているつもりだ。 きっと世界には謎が多くあるのだろう。 その中で、何故この山を選び取ったのか。
......村も何も関係無く、我自身が興味がある」
長老が鋭い目をこちらに向ける。 老いている? いや、とんでもない。 これはまさに鷹の目だった。 ジュリがこちらに向けてきたのと似ていた。 ユズとキラリに悪寒が走る。
そういえば、何故ここに来たのか。 ユズはなんとなく行きたいと思ったから。 キラリはユズの願いを尊重したかったから。 どちらも大した根拠にはなるわけが無い。 そんな事を言えば、今度こそ射抜かれるだろう。今度は矢ではなく、彼の目に。
「......どうした?」
どうやら時間を取らせてはくれないようだ。 何にせよ、取り繕った理由でも意味は無いのだ。 でも、行きたいと思う確固な理由なんて、理由なんて......。
......いや、簡単じゃないか。 「行きたい」と願う理由なんて。 誰でも、根源は同じはずだ。
「......知りたいなって......」
「なぬ?」
ユズが重かった口を開く。 長老は少し訝しげな表情を浮かべた。
「正直、表立ってこれをしたいとかは無いんです。 ただただ、知りたいんです。 この山に何があるのか」
「......ユズ」
キラリがふっと微笑む。 そしてそのまま、背中を押すかのように彼女も続く。
「例えばどうして虹色って名前についてるのとか......えーっと、とにかく気になる事がいっぱいなんです! 私達は知りたい! 謎を追い求めるのが、私達探検隊ですから!!」
「うん......私達は何も知らない。 だからこそ、未知の世界へこの足で踏み込みたいんです! ......それじゃあ、駄目ですか?」
長老は何も言わない。 ......と思いきや。
「......くくっ、あっはははははは!!」
いきなり大声で笑い出した。 別に笑われるような事は言っていないはずだが......?
長老は顔に手を当てる。 その口元は少し緩んでいた。
「......いやあ......普通なら宝が欲しいやら、難関ダンジョンを突破して名声を得たいとか言うものだと思うがな......馬鹿にする気は無いが、特に若者はこの村でもその感じが強いのだ。野心というべきかな? だが......くくっ、まさか知的好奇心で踏み込んでくるとはな......面白い!」
長老は立ち上がり、おもむろに木のドラムを取り出した。 そこから何故かそれをリズム良く叩き出した。 正直熟練していてとても上手なのだが、この状況はそれをのんびり聴けるようなものではない。
「......これは......一体......」
「......長老は気分が高まるとドラムを叩きまくるのです。 といってもめったにこうなる事は無いので、これを見られる貴方達はとても幸運ですよ......と言いたいところですが......」
ドラムの爆音に負けないよう、ケイジュは思い切り息を吸い込む。
「......長老! もう日も暮れますし近所迷惑です! あと腰はいいんですか!? またぶりかえしますよ!」
「ええい、久々に心が踊ったのだ! 今ぐらい......はうあっ!?」
電撃が走ったような声を上げ、急に音が止まる。 カランとバチを落とし、そのままうずくまってしまった。 ケイジュははあと溜息を吐く。
「ぐっ......おのれ、この我が......」
「だーから言わんこっちゃない......ユズさん、キラリさん。 悪いですが少し手伝って頂けませんか?」
『ええっ!?』
......こうして、2時間程が長老のお世話に費やされ消えていった。
「ユキハミ......ああ、ユキハミっ......!」
モスノウは娘の名をうわ言のように呟いている。 近くにいるポケモン達は、彼女に寄り添いその背中を優しく撫でた。
そんな中、村のポケモンの1匹ーーシャンデラが呟いた。
「......モスノウサン、オチコムヒツヨウハナイヨウデスヨ」
「えっ......?」
全員が反射的にシャンデラの方を見やる。 シャンデラは、静かにその紫紺の炎が灯った腕を伸ばした。 その炎は少し強さを増している。 まるで、「生気を吸い取れるもの」がその先にあるのを象徴するかの様に。 時間が経つ中で、煙は少しずつ晴れてゆく。 そして、状況が分かる程になった時ーー。
「......えっ!?」
全員から驚きの声が漏れる。 そこにあったのは、[てだすけ]で強化されていたのか少しひび割れながらも未だある[ひかりのかべ]。 ーーそして、それに守られたユズ、キラリ、そしてユキハミの3匹だった。
「......よ......余所者が......」
「ユキハミを......助けた......」
村のポケモン達に動揺が走る。 娘を攫った悪者らしからぬ行動だったのだ。 言うまでもない。 むしろ娘を盾にでもしたのかという疑念もあったのに。
だが守った。 足を凍らされながらも。 3匹よりも、2匹の方が身を守りやすいにも関わらず。
流石に爆風の衝撃は受けたようで、ユズとキラリはかなり苦しそうに息をしていた。 勿論ユキハミも例外ではない。 だが、彼女は2匹の前にすっと出た。 その目は、どこまでも純粋だ。 穢れなど知らない目だった。
「......気づいて、くれたかな? ......ママ、みんな。 この2匹は悪いポケモンなんかじゃないよ」
「ユキハミ......」
「信じられないと思う。 ママ達だって、怖いんだよね? 何をしてくるかなんてわかんないんだから」
ポケモン達は何も言わない。 邪魔する者は、完全にいなかった。 もう、もう。 こんな「証拠 」を見せつけられたら。
何を疑っても、虚しいだけだーー。
「......私だって、少し怖かった。 ワクワクの方が大きかったけど、もし本当に悪者だったらって......」
ユキハミは少し縮こまる。 そこから、全ての思いを吹雪として吐き出すように、「......でも!」と高らかに叫んだ。
......吹雪といっても、冷たいものという意味では無い。 氷のように気高い強さを込めた、彼女だから起こせる風。
「話してみて分かったんだ! 凄いポケモンさんだった! 私に、色々な事を教えてくれたの! 優しかったの!
......それを全部、全部嘘だと思えって言うの!? 出来るわけないよ!」
少し声は涙混じりになる。 ユキハミには手は無い。 拭う事も出来ないまま、嗚咽を漏らしている。
「......ごめんなさい。 私、勝手に村の外に出ちゃったの。 あの2匹がどうしても気になって......でも2匹は怒らなかった。 何かしたなら謝りたいって、言ってくれた。 だからーー」
「ユキハミ、もういい」
ユキハミの言葉を、1匹のギガイアスが堰き止める。 彼は地面を強く踏み[じならし]を起こすと、未だあったユズとキラリの足元の氷はあっけなく砕けた。
「うわっ!」
2匹はその場に転んでしまう。 突然の事ではあったが、彼が何を思っていたのかは十分分かった。 そして、それは今の村の総意。
「......あ、あの......」
「......あくまでユキハミに免じて、だ。 もし怪しい行動でもしたらただではおかない。 して、何故にここに来た?」
「ちょっとギガさん! その話は長老も含めてやった方がーー」
「長老は来ませんよ」
その声に一同が振り向く。 そこにいたのは、まるでずっとそこにいたかの様に佇んでいるケイジュであった。 状況を理解しているのか、冷静にこちらへと進んでくる。
「来ないって?」
「ええ。 私も偶然このゴタゴタを見て、呼んだ方がいいか悩みましたが......昨日外に出て少し腰を痛めたとのことですので、家で安静にしておいた方がいいでしょう。 ですので代わりに私が」
「ああ......そういや今朝、湿布の注文来てたっけ」
「ジュリさんは?」
「朝から森で矢の練習を。 ......ですのでこれは私のただの独断です。 しかし分かります。 彼らに悪意は無いでしょう」
「じゃ、じゃあ......!」
ユズが希望を込めてケイジュに問いかける。 それをちゃんと受け取る様に、ケイジュは頷いた。
「......旅の者よ。 わざわざ何を求めてこの村へ?」
「......解せぬ」
空が茜色に染まっていく中、長老の家の玄関でジュリはケイジュに鋭い目線を向けていた。 ケイジュの隣には、ユズとキラリが立っている。
「なんで昨日の余所者がいるんだおい?」
「害は無いと判断したので入れたまでです。 どうやら虹色聖山に行きたいとの事なので、長老に許可を貰いに......」
「はあ!? そんな証拠どこに......」
「ここです」
そう言ってケイジュは2匹から受け取っていたオニユリタウンからの遠征許可の紙を見せた。 街の印も押されており、身分証明にはとてもありがたい書類である。
「オニユリタウン? なんじゃそりゃ......」
「ここから東の方にある、探検隊の多い街ですよ。 ......一応知名度は高い方だとは思うのですが、もしかして貴方はそこまで世間知らずですか?」
「お前......今度こそただじゃおかんぞ!!」
ケイジュの嫌味を込めた口調に、ジュリの怒りはオーバーヒートする。 本来苦手なはずな炎さえ感じさせる顔で、素早く矢を引き絞ろうとする。 ......まあ、その様な事は許される訳もなく......
「お主ら......また喧嘩か。 たまには我慢というのを覚えたらどうだ?」
長老が杖を携えこちらにやってくる。 腰に手を当てている事から、腰痛というのは本当なのだろう。
「長老様......!」
「ジュリ、お主は本当に懲りぬな......。 我の言葉はお主には届かぬか?」
「......それはっ......!」
「自重するがいい。 ケイジュもケイジュだ。 喧嘩を売るのはよくないぞ......だが、ジュリもそれにすぐに乗る短気さは直さねばならぬぞ?」
「......はい」
グッと堪えるかのようにジュリは口を閉ざす。 そして、何も言わずに家の奥へと消えてしまった。 その目にあったのは反省か、憤りか、不満か。 もしかしたら全てかもしれない。
「.......さて。 村の者が無礼を働いたようだな。 村を代表して謝罪する。 誠に申し訳なかった。 だがお主らが何者か預かり知らぬところではあったからな。 どうしても警戒心は拭えなかったことは理解してもらおう」
「いっ......いえいえ!そんな事言わないでください!」
「......私達も何も考えずにずけずけ入っちゃいましたし、こちらこそごめんなさい」
お互いが深々と頭を下げる。 ゴリランダーがチコリータとチラーミィに頭を下げるという光景は中々シュールだったのか、ケイジュは悟られないぐらいに笑みをこぼして見せる。
「......で、お主らは何をしにこんな辺境へ?」
「あっえっと......探検隊としての遠征で、虹色聖山に行きたいんです」
「......なるほど。 で、一応その理由を教えてはくれぬか?」
「理由、ですか?」
「我も村の長として、情報は少ないながらも外については気にかけているつもりだ。 きっと世界には謎が多くあるのだろう。 その中で、何故この山を選び取ったのか。
......村も何も関係無く、我自身が興味がある」
長老が鋭い目をこちらに向ける。 老いている? いや、とんでもない。 これはまさに鷹の目だった。 ジュリがこちらに向けてきたのと似ていた。 ユズとキラリに悪寒が走る。
そういえば、何故ここに来たのか。 ユズはなんとなく行きたいと思ったから。 キラリはユズの願いを尊重したかったから。 どちらも大した根拠にはなるわけが無い。 そんな事を言えば、今度こそ射抜かれるだろう。今度は矢ではなく、彼の目に。
「......どうした?」
どうやら時間を取らせてはくれないようだ。 何にせよ、取り繕った理由でも意味は無いのだ。 でも、行きたいと思う確固な理由なんて、理由なんて......。
......いや、簡単じゃないか。 「行きたい」と願う理由なんて。 誰でも、根源は同じはずだ。
「......知りたいなって......」
「なぬ?」
ユズが重かった口を開く。 長老は少し訝しげな表情を浮かべた。
「正直、表立ってこれをしたいとかは無いんです。 ただただ、知りたいんです。 この山に何があるのか」
「......ユズ」
キラリがふっと微笑む。 そしてそのまま、背中を押すかのように彼女も続く。
「例えばどうして虹色って名前についてるのとか......えーっと、とにかく気になる事がいっぱいなんです! 私達は知りたい! 謎を追い求めるのが、私達探検隊ですから!!」
「うん......私達は何も知らない。 だからこそ、未知の世界へこの足で踏み込みたいんです! ......それじゃあ、駄目ですか?」
長老は何も言わない。 ......と思いきや。
「......くくっ、あっはははははは!!」
いきなり大声で笑い出した。 別に笑われるような事は言っていないはずだが......?
長老は顔に手を当てる。 その口元は少し緩んでいた。
「......いやあ......普通なら宝が欲しいやら、難関ダンジョンを突破して名声を得たいとか言うものだと思うがな......馬鹿にする気は無いが、特に若者はこの村でもその感じが強いのだ。野心というべきかな? だが......くくっ、まさか知的好奇心で踏み込んでくるとはな......面白い!」
長老は立ち上がり、おもむろに木のドラムを取り出した。 そこから何故かそれをリズム良く叩き出した。 正直熟練していてとても上手なのだが、この状況はそれをのんびり聴けるようなものではない。
「......これは......一体......」
「......長老は気分が高まるとドラムを叩きまくるのです。 といってもめったにこうなる事は無いので、これを見られる貴方達はとても幸運ですよ......と言いたいところですが......」
ドラムの爆音に負けないよう、ケイジュは思い切り息を吸い込む。
「......長老! もう日も暮れますし近所迷惑です! あと腰はいいんですか!? またぶりかえしますよ!」
「ええい、久々に心が踊ったのだ! 今ぐらい......はうあっ!?」
電撃が走ったような声を上げ、急に音が止まる。 カランとバチを落とし、そのままうずくまってしまった。 ケイジュははあと溜息を吐く。
「ぐっ......おのれ、この我が......」
「だーから言わんこっちゃない......ユズさん、キラリさん。 悪いですが少し手伝って頂けませんか?」
『ええっ!?』
......こうして、2時間程が長老のお世話に費やされ消えていった。