第3章 第8話

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読了時間目安:28分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ザァァァァァァァァッ!!



「………」


10月…もうすっかり寒くなって来ており、季節が変わったのだと思い知らされる。
ちなみに外は超巨大台風直撃で、今日は学校も中止。
家の中もエアコン無しで割とひんやりしており、湿度があるにも関わらず、半袖だと寒く感じる程だった。



「流石にそろそろ上着出して着るか…」


俺は長袖のシャツをタンスから出し、半袖の上に羽織る。
それから俺は部屋の外に出る事にした。
皆も、そろそろ衣替え考えないといけないな。



………………………



華澄
「あ、聖殿…どうかなされましたか?」


1階に降りると、華澄が掃除をしていた。
珍しいな、この時間に華澄が起きているなんて。
ちなみに今はまだ昼前だ。
いつもの華澄なら、朝食食べると昼までは寝ているのが通例なのだが…



「今日は寝れなかったのか?」

華澄
「いえ、今日は店長から休めと念を押されました…」
「天候があれでありますし、拙者の身を案じてくださったのかと」


成る程、確かにあの雨風じゃ自転車とか危ないからな。
もっとも、水タイプたる華澄ならこの程度、本当は問題無いんだろうけど。



「阿須那は?」

華澄
「阿須那殿は仕事に出られました」
「一応、店は開けるそうですので…」
「ですので、今日のお昼は拙者がお作り致します」
「何か食べたい物はありますか?」


「そうだな…気温も下がって来たし、ラーメンとかも良いな」
「確か、袋ラーメンの余りがあったはずだから、それにしよう」

華澄
「承知しました、この華澄にお任せあれ!」


そう言って華澄は掃除を続ける。
俺はそのままテレビのあるリビングの方に向かった。
すると、そこにはニコニコ顔の守連がテレビを見ている。



「よっ、調子はどうだ?」

守連
「あ…うん、大丈夫だよ♪」
「最近は気分も良いし、良い感じ♪」


リビングのソファーに座って、守連はゆったりしていた。
今はゲームをやるでももなく、テレビのニュースを見ていた様だ。



「あ~今日1日は完全に雨だなこりゃ」

守連
「うん、しょうがないね~」


この時間、やっているのはどこも台風情報だ。
代わり映えのないテレビから俺は目を逸らし、ポケットからスマホを出す。
そしてテキトーにインターネットを見ながら時間を潰していった。



………………………



守連
「味噌ラーメン美味し~♪」


「やっぱ、袋の味噌はこれに限るよな~」

華澄
「おかわりもありますので、足りなければお申し付けを」

女胤
「ふぅ、野菜多目で助かりますわ…♪」

華澄
「女胤殿は野菜好きでござるから、あえて多めに入れておきましたので」


相変わらず華澄は気遣いが出来る良い女だ。
女胤もその辺はかなり気遣いが働くが、やはりまだまだ家の事となると華澄の方が分があるだろうな。



「ふぅ、ごちそうさん!」

守連
「私はおかわり~♪」

華澄
「はい、少々お待ちを…」


華澄は俺のどんぶりと守連のどんぶりを持って炊事場に向かう。
俺はお茶を飲みながら再びテレビを見た。
すると、少し気になるニュースが報道されているのに注目する。


TV
『たった今速報です!』
『喫茶店、こすぷれ~んの店員ひとりが、突如誘拐される事件が起こりました!』
『犯人は現在、逃走中との事です!』



「これ、風路さんだ!?」

守連
「えっ? どれどれ?」


俺は画面写真を見ながら、犯人に抱えられているシスター服の店員を指差す。
頭から垂れるふたつのツインテール。
あの店であの長さの茶髪ツインテールの女性は、きっと風路さんのはずだ!

俺は、何故か一瞬心臓が止まりそうになった。
理由は解らないが、何か…とてつもなく嫌な予感が?


女胤
「マズそうな状況ですわね…阿須那さん、暴走したりしなければ良いのですが…」

華澄
「大丈夫でござろう、阿須那殿は拙者たちの中でも最も感情のコントロールが上手いお方」
「今頃は冷静にどうしようか考えている事でしょう」
「さぁ、守連殿…おかわりをお持ちしました」

守連
「ありがとう華澄ちゃん~♪」


「お前、よく冷静に飯が食えるな…」

華澄
「聖殿、急がば回れ…です」
「ここで拙者たちが焦って現場に向かったとしても、時間がかかりますし、この台風の中」
「まずは、しっかりと食事を取りましょう」
「動くのは、それからでも遅くはありませぬ…」


最後に華澄はキッと目を鋭くする。
俺は一瞬ドキッとするが、華澄がそれなりに本気なのは伝わって来た。
女胤も緊迫した顔をしているが冷静だ。
守連は幸せそうにラーメン食っとる…
やれやれ、無茶とかするなよ阿須那?



………………………



阿須那
(ちっ! 雨風が鬱陶しいな!!)


ウチは透明のレインコートを来て、コスプレ服のまま犯人を追う。
今日はシスターコスやから露出が低く、少々動き辛かった。
しかも、思ったより雨がキツい。
炎タイプのウチは本能的に水が苦手やからな…

風呂とかなら慣れてしまえば入れるけど、ウチは未だに泳いだりは出来へんのや。
そして、温水のシャワーとかならともかく、体温を容赦なく奪うこの冷たい雨は、確実にウチの体力を奪っていった。


阿須那
「しゃあないか…消耗は早なるけど、体内温度高めて少しでも代謝高めな!」
「しかし、何モンやアレ? 雨でウチの動きが鈍くなっとるとはいえ、全力で走って追い付かん!」


相手は相当足が速いらしい。
とはいえ、それはウチ等ポケモン娘の基準で、や。
ただの人間に、こんな劣悪な状況で走って、時速40km以上が維持出来るか!!
明らかに人間やない! 何の目的で風路はん拐うんや!?



………………………



華澄
「……!」


拙者はあれからひとりで外に出ていた。
聖殿たちには家に残る様に言及している。
拙者は濡れても大丈夫な水着で外に出ており、恐らくひとりで追っているであろう阿須那殿を探していた。
拙者は家屋の屋根伝いに高速でジャンプしながら移動して行く。
水タイプである拙者にとって、この雨はまさに天国。
とはいえ、風が強いので跳ぶ時は注意しなくては…


華澄
「見付けた! 阿須那殿!!」


拙者は10分程探した結果、ようやく阿須那殿を発見した。
かなり急いでいる様で、雨の中時速40km以上の速度で水飛沫をあげながら道路を高速で走っている。
そして、その阿須那殿に追われる犯人を見て、拙者は驚いた。
阿須那殿のあの速度相手に、ひけを取らない速度で逃げているのだ。
全身を青いレインコートで包み、右腕には風路殿を抱えている。
間違いなく、あれは人間ではない!
恐らく阿須那殿も気付いているはず。


華澄
「いかん…下手をすれば罠かもしれぬ!」
「すぐに拙者も助太刀……っ!?」


ヒュンッ!と、風を切る音。
拙者は瞬時に見切って首を捻り、それをかわしたものの、右頬に掠めた様で、そこから血が滴る。
瞬間、拙者は飛んで来た方角を見る…が、何も見えなかった。

すぐに移動したか、それともそれ程の射程か…?
しかし、これは益々マズイ…敵はひとりではない!
すぐに次弾が来ない所を見ると、今のは明らかに警告。
介入するなら殺すとの警告でござる。


華澄
(どうする…阿須那殿を信じるて任せるか?)
(とはいえ、拙者が行けば正体不明の敵も加わる事になる…)
(ならば、ここは拙者が新手を押さえるべき!)
(阿須那殿、どうかご無事で! すぐに拙者も駆けつけるでござる!!)


拙者は腹を決め、今この場で敵を排除する事を選んだ。
相手が何を考えているか解らぬ以上、迂闊な行動は即、死を招く。
拙者はとりあえず見晴らしの良いこの場は危険と感じ、一旦地上に降り立ち、障害物に隠れて相手の出方を待った…



………………………



阿須那
「はぁ、はぁ、はぁ!」


ウチは尚も全力疾走で追う。
このまま進んだら隣町やで…どこまで逃げる気や?
つーか、どこまで体力続くねん!
流石にウチもキチぃで…!
とはいえ、愚痴ってても仕方あらへん。
風路はんが人質にされてる以上、止まるわけにはいかへんねや!!
既に風路はんはあのままで数10分も雨に晒されとる…このままやったら風邪じゃ済まへん!


阿須那
「クソッタレ…! 人質の事なんか何も考えてへんのか…!」
「つまり、これはあからさまにウチを狙っとるんや…!」
「せやったら…! 正々堂々勝負せいやーーー!?」


ウチは遂に堪忍袋の緒が切れた。
雨の中、ウチは走りながら右手に高熱の炎を練る。
あまりの熱量に雨水が一瞬で蒸発し、レインコートの右袖が溶けて無くなる。
コスの袖は前以て捲ってあったので、こっちは燃える事は無い。
そしてウチは炎が凝縮された炎球を、あのクソッタレの足元に投げつけた。


ドゴァァァァァァァッ!!


犯人
「!?」


高速で移動する犯人の足元から『炎の渦』が巻き起こる。
威力は弱めに調整してあるから、動きを止めるのは一瞬や。
風路はんの体を軽く暖める目的もあるしな。
ただし、この雨の中で弱めた結果、持続時間は僅か1秒。
それでも、ウチが追い付くには十分やがな!?


犯人
「ちっ!」

阿須那
「遅いわアホんだら!!」


バキャアッ!と、鈍い音がする。
ウチは『電光石火』の速度で犯人の側まで駆け寄り、そこから右に一回転して『アイアンテール』を相手の頭部に放った。
ウチの大きな尻尾で鋼の様に硬質化させたはこれは、人間の体やったら首の骨が折れるであろう威力。

そして、インパクトと同時にウチは回転しながら風路はんを無理矢理取り返した。


ズシャシャシャシャシャシャ!!


ウチのアイアンテールを顔面で受け、犯人は10m程アスファルトを滑る。
そしてそのまま無造作に仰向けになって倒れた。
せやけどウチは警戒する。

正直、殺す気で打ち込んだのに手応えがイマイチやった。
アイツ…食らう瞬間に後に飛び退きよったな?
狙ってやったんかは微妙やが、威力は殺されたやろ…
ウチは決して油断せず、警戒を強めたまま、抱えた風路はんの体を自分の体温で暖める。
今のウチの体温は60℃位まで上昇しとる、その体全体から発せられる暖かい熱で、風路はんを雨風の冷たさからウチは守った。

そして、予想通り倒れてた犯人は寝たまま体のバネだけでその場から飛び上がり、軽快に地面に着地する。
その際、首をコキコキと鳴らし、青のレインコートに包まれて全容の見えへん顔をこちらに向けた。
見た目は身長170程やな、体格はウチと変わらん位や。
しかも、レインコートの上からでも解るそのバストは女性である事を強調してた。


犯人
「やるじゃん…あんな方法でアタシに追い付くなんて」
「まぁ、元々アンタの体力減らすのが目的だから、これで十分ちゃあ十分だけどね♪」


女は軽い口調でそう言う。
やっぱ大して効いてへんかったみたいやな…こら、かなり面倒な事になりそうや。


犯人
「この雨の中、その体温はいつまで保つかな?」
「更にそんな邪魔な荷物抱えて素早く動ける?」
「もう息あがってるよね? そろそろ限界じゃない?」


女は『挑発』する様な口調でウチに言葉を連続で放つ。
これで補助技は封じられたか…搦め手無しで勝てるか?
ウチは先手必勝とばかりに遠距離から『炎の渦』をもう1度放つ。
今度は手加減無しや! 死んでも恨むなや!?


犯人
「あーそうそう、良い事教えてあげるよ♪」


ドゴァァァァァァァッ!!


犯人
「アタシ…『フローゼル』だから♪」


阿須那
「速…っ!?」


フローゼルと名乗った女は、目にも止まらぬ速度でウチの背後を取った。
あまりの速度にウチは反応を遅らせ、背後からの強襲に晒される。
瞬間、ゴッ!と鈍い音がウチの横っ面を襲った。
ウチは風路はんの体を離さん様に抱えるも、衝撃によって吹き飛ぶ。


ズッ…ザザザザザザザァッ!!と思いっきり滑るも、ウチは風路はんを両手でしっかりと抱え、アスファルトを両足で踏みしめて耐えていた。
衝撃で数m程滑ったが、ウチはしっかりと相手を睨み付ける。


フローゼル
「わぉ! 倒れる事なく踏み止まるなんて、根性あるね~♪」
「まぁ、効果今一つだし仕方無いか~」


フローゼルと名乗った女は軽い口調でそう言う。
食らった技は『アイアンテール』や…意趣返しのつもりかっ。
フローゼルはそれなりに力も強い種族、倒れへんかったのは運が良かったわ。
それに、今のでコイツのレベルは大体解った。

レベルはウチの足元にも及ばんわ…せやから正面切って戦おうとはせんかったんや。
雨の中、ワザとギリギリの距離感で走らせ続けてウチの体力を削る。
ホンマはもうちょっと走らせるつもりやったんやろうけど、ウチはそれを許さんかった。
とはいえ、風路はんを奪われる事を前提にコイツは戦闘を開始…
後はギリギリまで隠してた自分の種族特性で不意討ちを行う。
鬱陶しい位に引っ掻き回されたな…せやけど。


ゴォッ!!


フローゼル
「!?」

阿須那
「特性隠してたんはアンタだけとちゃうぞ?」
「ウチの特性は、こんな天気やったら目立つさかい封じてたんや…!」


ウチの体温が一気に上昇する。
とはいえ、風路はんに影響の無い程度には抑えてある。


フローゼル
「…特性? アンタの特性は『貰い火』だろ?」
「そんなの、水タイプのアタシにはどうでも……」


カァァァァァァ…と、突然ウチの頭上を中心に雨雲が消え、暑い日差しが降り注ぎ始める。
今は昼過ぎとはいえ、まだまだ太陽はほぼ真上。
ウチは一身に強い日差しを浴び、くだらなさそうに前髪をかき上げてフローゼルを見た。
もうここら一帯の天候は『日照り』状態や!


フローゼル
「バカな…!? 『挑発』で『日本晴れ』なんて使えるはずが…」

阿須那
「誰が日本晴れを使うたって言うた?」
「これがウチの特性、日照りや!」


フローゼル
「マズっ!?」


ジュアアアアアアアッ!!


フローゼル
「グァァァァァァァァッ!?」


ウチは右手を前にかざして『ソーラービーム』を放つ。
フローゼルは辛うじて反応し、それをかわそうとするものの、右半身の水分を一瞬で蒸発させられ焼け焦げた。
普通ならこの時点で死ぬレベルやがな、立ったままとは根性あるやんけ。


阿須那
「これでもう形勢は逆転や」
「とりあえず、目的から何かまで全部吐いて貰う事にしよか…?」

フローゼル
「くっ…そがぁぁぁぁぁぁっ!!」


痛みに耐えながらもフローゼルは水を纏って特攻して来る。
とはいえ、ダメージも大きい上に既に大雨でも無い。
ましてや、レベルでウチに負けてるフローゼルが出せる速度はたかが知れてる速度やった。


阿須那
「…!!」


ウチが目を光らせると、ボッ!と突然フローゼルの体に青い炎が複数出現して燃え上がる。
その瞬間、フローゼルは突進中に体を捩らせ、まだ湿ってるアスファルトの上に倒れよった。
これは『鬼火』や、もう挑発の効果も消えとるからな。
これでコイツはもうロクな攻撃が出来へん。
ここまで見ても、接近戦に特化しとるのは解っとったからな。


フローゼル
「ぐぅぅぅ…!」

阿須那
「頑張るやんか…まだ実力差が解らへんか?」

フローゼル
「黙れ黙れ黙れっ!!」
「こんな痛みが何だ!? アタシの望みの高さに比べたら、こんな事何て事無い!!」


ウチは、この必至なフローゼルの顔を見て不思議に思った。
コイツは、ただの愉快犯の類いや無い。
明確に別の目的を持ってウチに立ち向かっとる。
何なんやコイツ…? 何がそこまでウチの事が憎いんや…?


阿須那
「…理解出来へん、何がアンタをそこまで奮い立たせるんや?」

フローゼル
「それだよ…アンタのその態度が許せないんだ!!」
「何でだよ…アンタはそんなに強いのに、何で何も知らねぇんだよ!?」


ウチは、その糾弾に何も答えられへんかった。
そもそも、意味が解らへん。
何の事や? 何も知らへん…?
ウチが動かずに棒立ちで考えていると、気が付いたらフローゼルが立ち上がり、ウチの胸元を握って…泣いていた。

ウチは抵抗せず、ただフローゼルの言葉を待つ。
フローゼルの手はガクガクと震え、痛みが伝わって来る程に力が無かった…


フローゼル
「何でだよ! 何でアンタ等だけがそこにいられる!?」
「アタシだって!! 『聖』さんの事……」

阿須那
「!?」


最後の言葉を言おうとした瞬間、フローゼルの体は突如光の粒子に変わって行く。
そこから先は声も聞こえなくなったが、フローゼルは泣きながら何かを口パクしていた。
そして、数秒後…フローゼルは完全に目の前から消える。
ウチの胸元も解放され、やがて日照りの効果が消えて再び大雨に変わった……


ザァァァァァァァァァァッ!!


阿須那
「…何やこれ? 何で、ウチ…風路はん抱えてこんな所におるんや?」


ウチは、全く今の状況が理解出来なかった。
確か、誘拐犯を追ってたのは覚えてる。
せやけど、何があって風路はん取り返したんかが、全く思い出せんかった。


阿須那
「? 袖が溶けとる…ウチ、炎でも使うたんか?」


自分の体温の高さが妙に感じる。
何で、こんなに温度上げてるんや?
何で大雨の中、風路はんの体が暖かいんや?
何も解らへん…理解が出来ん。

ウチが狐につままれたって言うんか? 笑い話にもならんやろ。
せやけど、ウチはまず冷静になる。
風路はんはレインコートを着とらん、全身を覆うシスター服とはいえ、このままやったらマズイ。
ウチはすぐに頭を切り替え、店に戻る事にした。
ちゅうか、ここ隣町の側やんけ! ここまで追って来たんか?

ウチは心の中でツッコミながら店に全力疾走した。
その際、自分に日照りの力が無くなっている事に気付く。
まさか、使ってたんか…どっかで?



………………………



華澄
「…追撃は無し、潜んでいるでござるな」
「下手に攻撃すれば位置を知られる事を危惧している」
「間違いなく、暗殺者の手口…それも、狙撃系の!」


拙者は周りに注意しつつ、移動をしていた。
大雨の中、視界は最悪。
如何に拙者が水タイプとはいえ、眼が良いわけではない。
視界が悪環境の中、狙撃を生業とする者相手には余りにも不利な状況。
しかも、相手は自分の強みも弱みも理解して拙者を泳がせている。
どうする…? どうやって敵を炙り出す?
恐らくこちらの居所は常に把握されていると見るべき。
相手の目的も解らぬ中、闇雲に動き続けるのは危険か…


華澄
「………」


拙者は、あえて足を止め感覚を研ぎ澄ませる。
雨の中、距離のある敵の呼吸を読むのは不可能。
かと言って視界には入らない。
ならば、もはや拙者の身体を囮にする他無し!


華澄
(あえて、攻撃を撃たせる)
(そして、そこから相手の居場所を特定するしかない)
(ですが、それは正に諸刃の剣…)
(失敗すれば拙者の命は潰えましょう…)
(さぁ、来るが良い! 拙者の命が目的なら、遠慮なく撃って来るでござる!!)


拙者は意識を集中し、雨音を意識から消して障害物の影から姿をあえて現す。
そして目を瞑り、直立不動で全身を弛緩させた。
後は相手の出方を待つのみ。



………………………



華澄
「………」


相手の攻撃はまだ来ない。
恐らく移動もしてないはず。
拙者が気配を探っているのには多分気付いている。
だが、ここは拙者も根比べでござる。
阿須那殿が気がかりとはいえ、この敵を向かわせるわけにはいかぬ。
例え拙者の身を危険に晒してでも倒してみせなければ!



………………………



華澄
(来たっ!)


遠距離から風切り音。
かなりのスピードで拙者の頭を的確に狙う角度!
拙者は目を瞑ったまま、首を微かにずらし、攻撃を寸前でかわす。


ビシィ!と音がし、拙者の足元を何かが貫く。
拙者はそれを確認する事無く、敵の居たであろう方向を見て飛び上がろうとする。
だが、この時点で既に罠にかかっているという事を、拙者は知る事になった。


華澄
(!? 足が動かぬ…! まさか、この技は…!?)


拙者は首を後の足元に向け、確認する。
そこには1本の黒い矢が刺さっていた。
物質ではなく、能力の一端で作られた矢。
それが、拙者の影に正確に刺さっていた。
正確にはこんな天候で影は見えない。
だが、恐らく日の角度から本来そこに影があるであろう位置に、この矢は刺さっているのだ。
迂闊…ここまで敵の全容を把握出来なかったとは…!


華澄
(次弾が来ない…という事は、目的は拙者の足止め!)
(完全に術中に嵌まった…! 初めから敵は阿須那殿をふたりで狙う予定だったのだ!!)
(…すぐに移動している、拙者の動きを止めたのを確認して移動を始めたな)


拙者は更に意識を集中し、敵の移動先を読み取る。
そして、拙者はすぐに状況を判断し、相手の移動先に素早く技を放った。


バシィッ!!


狙撃主
「なっ!?」


拙者の位置から数10m先、屋根の上を走っていた相手は屋根から屋根に飛び移ろうとした後、空中で真下の地面から放たれた拙者の技を食らう。
その結果、敵はバランスを崩し、家と家の間の道路に落下する事になった。


華澄
「やっと見付けたでござるよ…」

狙撃主
「どうして!? 何故動けるの!?」


敵は黒のレインコートに身を包み、全身の詳細を把握する事は出来ない。
だが、体は豊満な胸が強調されており、女性であるのは確実。
顔は僅かに見える緑の髪、そして赤く鋭い瞳。
更に両手から僅かに見える羽毛の様な毛並。
そして、拙者は食らった技から判断し、相手を特定してみせた。


華澄
「…『ジュナイパー』でござるか」
「この環境下においては危険な相手ですな」
「ですが、それはあくまで敵に捕捉されなければの話」
「こうやって対面してしまえば、それ程怖い相手ではござらん」
「それから、言い忘れていたでござるが、今の拙者はゴーストタイプ」
「『影縫い』の効果は無いでござるよ…?」

ジュナイパー
「!? さっきのは『影打ち』…! まさか、『変幻自在』の使い手だったなんて…!!」


やはり、相手は拙者の事を知ってて攻撃をして来た。
ただ、拙者の特性を『激流』だと思い込んでいた様ですな。
相手を知らぬと言うのは、恐ろしい物。
互いに騙し合いをするならば、情報を渡した方が負けでござるよ。


華澄
「そなたの立ち回りは見事の一言」
「拙者に警告をしておき、拙者の動きをそなたに向けさせる」
「そして、狙い済ました影縫いで拙者の動きを封じ、安全に阿須那殿をふたりで狙う算段」
「正直、何の不備も無い作戦でござる…拙者の特性を間違えさえしなければ…」
「そして、この時点で一対一を拙者は強要する」
「阿須那殿は強い…対策を強いていたとしても、ひとりでは勝てぬでしょう」


拙者はジュナイパー殿の実力を見切った上でそう計算する。
少なくともこのジュナイパー殿と同レベルの相手なら阿須那殿は十分あしらえるレベル。
無論、拙者にとっても負ける要素は無いでござる。


ジュナイパー
「…それはどうかしら?」
「少なくとも、知らないのは…貴女も同じっ!!」


ガッ!


華澄
「うぐぁっ!?」


突然、拙者の首が何かに掴まれる。
凄まじい力で締め上げられ、拙者の息が止められた。
ジュナイパーは目前に右手をかざし、握り込む様な仕草をしていた。
だが、ジュナイパーが握り込んでいるのは空気。
その手には何も握られていない。
それなのに、拙者の首は確実に絞められている。
そしてこの時点で気付いた。

この者は『遠隔』の特性…!
触れずとも遠くの物に触れる希少な特性。
更にこの力…『剣の舞』を最大まで使っているのか!?
今の拙者の力ではこれを振りほどけぬ…!
拙者は両手を首元に当てるが、何か手の様な物が拙者の首を絞めているのが解った。
目には見えぬが、確実に何かの手がそこにある!


ザシュウッ!!


ジュナイパー
「!?」

華澄
「がはっ! はぁっ! はぁっ!!」


拙者は首元の何かを『水手裏剣』で切り裂いた。
すると、拙者は締め付けから解放され、呼吸を取り戻す。


ジュナイパー
「クッ! 何度でも……」


ズバァッ!


ジュナイパー
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


拙者は再び振り被ったジュナイパー殿の右手を『水手裏剣』1枚で切り飛ばした。
ジュナイパー殿の腕から大量の赤い血が噴出し、彼女は右腕を左手で強く締め付け、出血を無理矢理止めた。


華澄
「もう負けを認めよ…これ以上戦うのは無意味でござる」

ジュナイパー
「ふざけないで!! 貴女に何が解るの!?」
「何も知らずに、さも当たり前の様に『あの人』の側にいられる貴女に何が解るのっ!?」

華澄
「…え?」


ジュナイパー殿の糾弾は、拙者に理解の及ばぬ内容だった。
あの人…それは、まさか。


華澄
「聖、殿の事…?」

ジュナイパー
「ほらっ!? やっぱり何も気付いてない!!」
「何で! 何で何で何でっ!?」
「どうして貴女たちだけが許されるの!?」
「あの人の事……好きなのは貴女たちだけじゃないのに!!」


ジュナイパー殿の顔は憎悪に満ちていた。
そして同時に哀しみに溢れていた。
拙者はそんな彼女の顔を見て、戦意を喪失する。

何故…何故、彼女はこんなにも必至なのだ?
何故、拙者たちがこんなにも憎まれる?
何故……聖殿がこんなにも愛される?
拙者の疑問に答えてくれる者は、どこにもいなかった…


ガッ!


気が付けば、ジュナイパー殿は出血を止めるのも止め、左手で拙者の首を絞める。
ですが、もう力がこもっていない…振りほどこうと思えばいつでも出来る。
だが、拙者にそれは出来なかった。
いや、その必要も無いのが現実。

ジュナイパー殿の体は、次第に光の粒子に変わっていき、もはや声も曖昧になっていたのだ。


ジュナイパー
『どうして、こうなるの?』
『私はただ…あの人の事が好きなだけだったのに……』


その言葉と共に、やがて彼女は完全に粒子化する。
そこには、雨に打たれる拙者だけが、ひとり残されていた。


ザァァァァァァァァァァッ!!


華澄
「…何故」
「何故、拙者は泣いているのでござるか?」
「拙者は、何故ここに居るのですか?」
「拙者は…確か誘拐犯を追う阿須那殿を助けるために外に出た…?」


酷く記憶が曖昧だった。
外に出た先から、何故か断片的にしか思い出せない。
そして、拙者は痛みのある首筋を手で触れる。
まるで、何者かに首を絞められた様な跡があった。
だが、理由が解らぬ。
もしかして、自分で自分の首を絞めた…?
そんなわけはない…拙者はそんな事はしない。
聖殿たちを残して、自決する等あり得ない。
では、一体何なのだこれは?


華澄
「…何も解らない」
「そうだ、阿須那殿は…無事なのか?」


大雨の中、拙者はその場で立ち尽くしていた。
そして、やがて拙者はその場から走り去る。
まずは、阿須那殿を見付けなければ。
解らない事をひとりで考えても仕方がない。
今は、阿須那殿の無事を確認する。



………………………



阿須那
「………」

店員
「阿須那さん! 良かった、無事だったんですね!?」
「風路さん! 気絶してるんですか?」

阿須那
「…ゴメン、後は任せるわ」
「ウチ、今日は早退させてもらう」


それだけ言ってウチは更衣室に向かう。
正直、頭の中がグチャグチャや…
理解が追い付かん。
体力も結構限界や…何であんな距離まで走ったんやろ?


勇気
「阿須那ちゃん、大丈夫!?」

阿須那
「あ…店長、すんまへん今日はちょっと…」

勇気
「良いわ、無理はしないで…」
「貴女も風路ちゃんも、無事で本当に良かった…」
「もうダメよ!? 勝手にあんな風に飛び出しちゃ!!」

阿須那
「すんまへん…風路はんの事、どうしても助けたくて」


ウチがそう言うと、店長は何も言わずウチの身体を抱き締めてくれる。
まるで、親が子供を抱き締める様に店長は優しくウチの身体を抱き締めていた。
ウチは少し気が楽になる。
良かった…ウチの取った行動は間違ってなかったんや。
ほとんど覚えてないけど、正しい事をしたんや…きっと。



………………………



華澄
「…良かった」


拙者は阿須那殿と風路殿の安否を確認し、安堵の息を吐く。
これで、一件落着…事件は解決しましたな。
ただ、心に残るこのしこりは何なのか、拙者には結局何も解らなかった。
そして、恐らく阿須那殿も同じ感覚なのだと確信する。

一体何が…拙者たちを襲ったのだ?
何故拙者たちはその時の事を覚えてないのだ?
考えても何も思い出せない…
まるで、部分的な記憶喪失にかかったような…そんな、感じ。
そして、恐らくこれは拙者たちも全く予想出来ない様な何かが動き始めている気がする。
それは…とても、とても悲しい何かが、潜んでいる気がした…










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第8話 『迫り来る、何か』


To be continued…

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