第3章 第4話

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:23分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


「おーれとの愛を守る為! おーまえはたーびーだーちぃ!!」

光里
「あし~たを~みーうーしなったっあ~♪」


「ほーほえみ忘れた顔など!」

光里
「み~たくはなっいっさぁ~♪」

聖&光里
「あーいを! とりもどっせっえっえ~!!」


って、俺たちは開幕から何をやっているのか…
光里ちゃんも巻き込んでしまったのはある意味悪かっと思わざるを得ない!
しかし、光里ちゃんも何気にノリが良いな…意外だったわ。


光里
「あははっ、たまにはこういうのも良いよね~♪」


「光里ちゃんって、何気にノリが良いよね…」


俺がそう言うと、光里ちゃんはあははっと笑ってみせる。
この娘は大物になる…そんな気がした。


光里
「まぁ、楽しければ良いじゃない!」
「私はそういう聖君のネタは結構好きだよ?」


「うむ、そう言ってもらえるとやり甲斐もあるのだが」


俺は光里ちゃんの意外な反応にちょっと戸惑う。
何気に光里ちゃん、あれから良く俺に絡んでくれるよな…
気に入られてるのかもしれないが、ちょっと疑問に思う事もあった。



「聞いて良いのか解らないが、光里ちゃんって他の友達はいないのか?」

光里
「…おっと、聖君さり気に痛い所を突くね~?」
「まぁ、私ってコスプレ好きだし、あまり趣味に合う同世代は少ないよね~」
「聖君みたいに、気兼ねなく受け入れてくれる人って、意外と貴重なんだよ?」


成る程…と俺は納得する。
確かに、高校生でガチなコスプレイヤーってあんまり聞かないもんな…
光里ちゃんは転校生という事もあって、あまりクラスに馴染めてないのかもしれない。


光里
「ふふっ! 聖君って、ホントに良い人だよね♪」
「私にとっては、初めての親友になれる人かも!」
「じゃあ、これからバイトだからまた明日ね☆」
「もちろん、お店に来てくれるならサービスするよ♪」


光里ちゃんはそう言ってスキップで去って行く。
今日はピンクの下着だった…脳に刻ませてもらおう…
俺はそのまま寄り道せず、家に帰る事にする。



………………………




「ただいま~」

守連
「あ、聖さん…おか……」


ドシンッ!!



「え……?」


俺はいきなり思考が停止する。
フツーに家に帰ったら、迎えに来た守連がその場で無造作に倒れたのだ。
俺は全身の血が凍ってしまいそうな感覚に陥り、何も考えられなくなる。
そして、次の瞬間別の声があがった。


女胤
「守連さん!? …これはいけません! 凄い熱ですわ!!」
「華澄さーーん! 守連さんが!!」


女胤が珍しく俺に目もくれずに華澄を呼ぶ。
ただならぬ空気を感じ取ったのか、華澄はすぐに2階から飛び降りて来た。


華澄
「守連殿!? いかがなされた!!」

女胤
「凄い熱ですわ! 何か病気かもしれません!!」

華澄
「…! 確かに、40度以上の熱を感じまする…!」
「聖殿! すぐに氷枕の用意を!!」
「拙者は守連殿を部屋に連れて行くでござる!!」


俺は放心していたが、華澄に言われて我に帰る。
何やってんだ俺は!?
守連が病気なら、助けてやらないと!!
俺は鞄を放り捨て、急いで靴を脱ぐ。
俺は無我夢中でまず冷凍庫へ向かった。
確か、緊急用で氷枕をちゃんと冷やしてたはず!



………………………



守連
「………」

華澄
「…多分、風邪でしょう」


「何だ…風邪かよ、もっと深刻な病気にでもかかったかと思ったぜ」


俺は少し安堵する。
とはいえ、高熱には違いない。
氷枕で冷やしているものの、熱は高いままなのだから。
華澄がしばらくして氷水にタオルを浸し、それを絞ってから守連の額に乗せ変える。
守連は苦しそうな息づかいで、声を出すのも苦しそうだった。


華澄
「…聖殿、ここは拙者にお任せを」
「まだ制服姿のままですし、まずは着替えて落ち着かれるのが良いでしょう」
「鞄も玄関に置きっぱなしです…ちゃんと忘れぬ様に」


華澄は優しくそう言ってくれる。
俺は重い腰を動かして守連の部屋を出た。



「…風邪に気付けなかったなんて」


俺は今朝の食事風景を思い出す。
思えば、守連は妙に元気が無かった様な気がした。
顔色も、良く見たら悪かったのかもしれない。



「何やってんだ、俺…?」


俺は肩を落としてトボトボ歩く。
これまでに無い位、体に力が入らなかった。
俺は何も出来てないじゃないか…


女胤
「聖様、鞄をお持ちしました……聖、様?」


俺は女胤から鞄を無言で受け取り、力無く部屋に向かう。
俺はどんな顔をしてたのだろうか?
女胤は俺の顔を見て、相当驚いていた様だった。


女胤
「…! 聖様、お気になさらないよう」


意を決した様に女胤は強めの口調でそう言う。
気にするなとは、何の事なのか…
歩みを止めない俺の背中に向かって、女胤は尚言葉を放つ。


女胤
「守連さんの病状を見抜けなかったのは、同室で生活している私の失態です!」
「ですから、どうかご自分を責めないでください…」


俺は何を聞いたかも曖昧だった。
もう頭に言葉が入って来ない。
ダメなんだ…俺は。



………………………




「………」


俺は宿題も着替えも忘れ、部屋の端で踞っていた。
どうしようもない無力感に俺は苛まれる。
そして、何故か俺は何かを思い出しそうになった。
それが何かは解らない。
ただ、前にも似た様な事があった気がする。



………………………



コンコン…と、誰かが俺の部屋のドアを叩く。
俺は何も答えずにいると、ドアは勝手に開き、誰かが俺の部屋に勝手に入って来る。
俺は身動きひとつ取らず、一々誰かを確認する事もしなかった。


華澄
「聖殿…」


「………」


声は華澄の物だった。
俺は何も答える事も反応する事もなく、その場で静止している。
やがて、華澄は痺れを切らしたのか、俺にゆっくりと近付いて来た。
俺は何も反応する事なく、その場でじっ…と踞っている。


華澄
「…聖殿、何たる姿か」


「………」


華澄は俺の姿に呆れたのか、そんな事を呟く。
それは、呆れを通り越して、怒りの感情すらこもっている様だった。
そして、次の瞬間。


バシィッ!!



「!?」


俺は顎を掴まれ、顔を引き上げられて思いっきり横に引っぱたかれた。
華澄が、俺に手をあげた…?
その衝撃と痛みで、俺は徐々に意識を取り戻していく。


華澄
「聖殿、貴方がそんな事でどうするのですか!?」
「貴方は、そんなに弱くないはず!」
「拙者には、何故聖殿がそうなったのかは正直解りませぬ…」
「ですが! 守連殿があんな状態なのに、聖殿は何をしておられるのですか!?」


俺は華澄の叱責を受け、意識を覚醒させていく…
そうだ、俺は何を考えてるんだ?
今、1番辛いのは守連なのに…
何で、俺…こんな所で踞ってるんだ?
俺は頬の痛みを感じながら、ゆっくり立ち上がった。



「…悪い華澄、着替えるから外に出てくれ」
「すぐに守連の所に行く」


華澄
「はい…聖殿、ご無礼お許しください」


華澄は礼をし、それだけ言って部屋を出て行った。
ひとりになった俺は、意識を切り替えてすぐに服を着替える。
もう、俺の記憶とかどうでも良い!
守連を介抱してやらないと…!



………………………



守連
「………」


「守連、ほら食べれるか?」


俺は横になっている守連にバナナを差し出す。
ちゃんと切り分けており、口にするのは簡単のはずだ。
守連は苦しそうにしながらも、ちゃんとバナナを食べた。
俺は少なからず安心する。
何とか、動く事は出来る様だ。


華澄
「聖殿、後は拙者が…」


「いや、良いよ…華澄は夕飯の用意を」
「守連には、お粥を作ってやってくれ」
「後、薬の用意を…リビングの棚に薬箱があるから」

華澄
「…承知、すぐに手配するでござる」


華澄は早足で部屋を出て、俺は守連とふたりきりになる。
守連はまだ辛そうにしながらも、俺の顔を見て笑った。


守連
「…ゴメンね」


「!? …何がだ?」

守連
「聖さん…とっても辛そうな顔してる」
「私のせいなんだよね? だから…ゴメンなさい」


守連は、誰も非難する事なくそう言う。
何でだよ…お前は何も悪くないじゃないか。
むしろ、何も気付けなかった俺のせいなのに…


守連
「ゴメンなさい…私、聖さんの重りになってるよね…?」


「何を…!?」


守連は、とても辛そうに自分を責めた。
コイツは何も悪くないのに、コイツは全部自分のせいにしようとしてる。
違うだろ…そんなの違うだろ!?



「お前は何も悪くない! 悪いのは俺だ!!」
「お前がこんなに辛かったのに、何も気遣えなかった俺の責任だ!!」

女胤
「違います聖様! この責任は私にもあります!!」

華澄
「そう、それなら拙者にも責があります…」


気が付けば、背後からそんな声が聞こえる。
女胤と華澄が俺に対して反論を述べていた。
女胤も華澄も辛そうだ…そうだな、皆…辛いんだ。


守連
「皆…」

華澄
「守連殿、この薬を…」
「ぬるま湯を用意しましたので、これで流し込むと良いでしょう」


華澄がカプセル型の風邪薬を守連に渡す。
守連は体を起こし、薬を受け取る。
そしてそれを口に含み、ぬるま湯でゴクリと飲み込んだ。
初めてのせいか、一瞬苦しそうな顔をしたが、何とか飲み込む。
すると、守連は再び横になって少し安心した様だ。
もっとも、人間様の薬がポケモンに効くのか解らないが、効いてほしいとは切に願う。

俺はタオルを氷水に浸し、それを絞って守連の額に乗せてやった。
冷たさが気持ち良いのか、守連は表情を和らげる。
俺は布団をちゃんとかけ直してやり、守連を横から見守った。



「…ゆっくり休めよ?」
「今日1日休んで、様子を見よう」
「治るまで食べ物はお粥になるけど、大丈夫か?」

守連
「うん何とか…あんまり、食欲無いけど…」


あの守連が食欲が無いと言う。
かなり重症だな…風邪にしても高熱だからな。
少しでも、体温が安定すれば良いんだが…


華澄
「それでは、拙者は夕飯の支度をするでござる」
「聖殿、ここは女胤殿に任せ、宿題に取りかかってくだされ」
「守連殿の事も大切ですが、聖殿の事も大切でござる」

女胤
「了解しました…さぁ聖様、習慣は守り通してください」
「サボれば、癖になるのでしょう?」


俺はふたりにそう促され、腰を上げる事にする。
そうだな…家にはこんなに頼れる家族がいる。
俺が、俺の作業を気兼ねなく出来るのも、家族のお陰だ。
俺は部屋を出て、自分の部屋に戻った。



………………………



そして、俺は宿題を30分で終わらせ、リビングに向かう。
そこには既に夕飯の仕度を終えている華澄が、テーブルに食事を並べていた。
そして、守連用のお粥をトレーに乗せ、守連の部屋に向かって行く。


女胤
「聖様、どうぞお席に…」


女胤に促され、俺は席に着く。
何とか食事を取る事は出来る様で、俺は無理矢理にでもおかずの唐揚げを口にねじ込む。
やっぱ、美味しいな…華澄の唐揚げは。
女胤も余計な口は挟む事なく、箸を進めていた。



………………………



守連
「………」

華澄
「………」


「華澄、代わるよ…華澄も食事しないと」


俺がそう言うと、華澄は無言で立ち上がり、部屋を出て行った。
守連の容態があまり変わらないのか、華澄も不安そうだな。
俺は守連の首元に手を当てる。
それでも体温は少しマシになっているのか、守連は若干ながらも呼吸が安定してる様だった。
俺は、氷枕を新しく交換してやり、温くなっていた氷枕を再び冷凍庫へ持って行く。



………………………




「…華澄、ありがとな」

華澄
「…いえ、礼を言われる様な事は」
「むしろ、聖殿に手をあげた事、如何様にでも罰を…」


華澄はクソ真面目にそう言う。
俺はそんな華澄の反応に笑いが込み上げ、今日久し振りに笑った。



「華澄が俺を叩いてくれなかったら、俺はきっと死人と変わらなかったよ」
「やっぱり、本当は華澄も姉さんだよな…ちゃんと俺を叱ってくれる」
「…すっげぇ、嬉しかったよ」

華澄
「…お気になさらず、聖殿の為になったのでしたら、拙者は何も言う事はございませぬ」
「聖殿も早めにお休みを…明日も学校でござろう?」
「守連殿の事は女胤殿に任せて、気を休めてくだされ」
「家族の事は、家族皆で助け合うでござるよ…」


華澄は本当に頼りになるな…
俺は華澄の優しさを一身に受け、氷枕を炊事場で洗って冷凍庫へ突っ込む。
そして、自室に戻って休む事にした。



………………………




(…守連、良くなると良いな)


俺は自室で横になり、そんな事を考える。
時間的に寝るのは早いが、眠気は凄まじくあった。
守連の事を気にしながら、俺は眠りに誘われていく。
そして俺は、夢に落ちて行った…



………………………




『それでも我々は…』


『お前の事、いっちばん…』


(何だ、誰だ? 俺、どこかでこんな光景を…?)


俺は、夢を見ている様だった。
だが、それは俺の記憶に無い光景。
光に包まれ、粒子の輝きと共に消えて行く何か。
全てが曖昧で、俺には理解不能。
そして、気が付けば夢の内容は変わる。



(あれ、ここ…学校?)


俺は学校にいる様だ。
だけど、誰も俺には目もくれない。
誰ひとり、俺に目を止める学生はいなかった。



(何でだろ? 何故か懐かしい気がする)


俺の意識は再び沈んでいく。
そして、次に俺は自宅の夢を見た。
そこには、誰もいない…家にいるのは俺ひとり。
そうだ…これが、俺の日常。
何も無い、何も起こらない、何も意味が無い。
ひたすらにつまらなく、不毛な……



………………………




「聖! 聖っ!! 遅刻するで!?」


「…はっ!?」


俺は突然の声に叩き起こされる。
意識が少しづつ覚醒する中、俺の目の前に知ってる誰かがいる事に気付いた。


阿須那
「聖、大丈夫か?」
「寝坊するなんて珍しいやん、調子悪いんやったら学校休んで…」


「大丈夫だよ、姉さん…それより守連は?」

阿須那
「えっ!? ね、姉さん…? あ、いや! か、守連なら…もう朝食食べ終わったで?」


俺はまだぼやける意識を少しづつ繋ぎ合わせていく。
そして、鮮明に俺は意識を覚醒させた。



「そうだ、守連!? 守連は大丈夫なのか!?」

阿須那
「あ、あぁ…見た感じ、本調子では無さそうやけど」
「ちゃんとリビングには降りて来たし、朝食もちゃんと食べてたで?」


俺は阿須那からそれを聞いて安堵する。
そうか、少しは調子良くなったんだな…


阿須那
「それより、あんたも早よ着替え!」
「もう時間結構過ぎてるで!? 遅刻してまう!」


俺は阿須那に、そう言われてスマホで時間を見る。
げっ!? 結構ヤバイじゃねぇか!?
俺はすぐにパジャマを脱ぎ、制服に着替え始める。


阿須那
「朝食も弁当も出来てるから、すぐに降りて来ぃや?」
「もうアンタだけやで、食うてないの!」


そう言って阿須那は部屋を出て行く。
しまったな…寝坊なんて1年振りだぜ。
守連の事が気がかりすぎて、アラームかけるの忘れてたのか。



………………………




「守連はとりあえず大丈夫なんだな?」

阿須那
「あぁ、熱も下がって来たし、今日1日安静にしてたら大丈夫やろ」
「アンタは何も気にする事あらへん!」
「聖はちゃんと学校に行って、ちゃんと授業受けて来ぃ!」
「今日はウチも朝と昼とで家におるから、守連の事は任しとき!!」


そうか、そこまで阿須那も心配してくれたのか。
やっぱり、阿須那は頼りになるな…
俺は改めて自分の事を考え、すぐに頭を学生モードに切り替える。



「ごちそうさま! じゃあ行ってくるよ!!」

阿須那
「ん! 急ぎすぎて事故せぇへん様にな!?」


俺は大丈夫とアピールして家を早々に出る。
くっそ…走って学校だなんて初めてだぞ。
いつもは余裕持って出るからな…



………………………



光里
「聖君、調子悪い?」


「え、そう見える?」


昼休み、光里ちゃんは俺の顔を見るなりそう言う。
そうか、光里ちゃんから見ても、そう見えるのか。


光里
「もし、悩み事とかあるなら言ってね?」
「私じゃ力不足かもしれないけど、友達を助けたいって思う気持ちは本物だから」


光里ちゃんは嬉しい事を言ってくれる。
だが、俺は大丈夫とアピールして光里ちゃんを安心させた。



「大丈夫だよ、ちょっと気が張ってるだけだから」
「ありがとう光里ちゃん」

光里
「う、うん…それなら良いけど」


それ以上は言葉を交わす事なく、俺たちは昼食を終える。
俺は光里ちゃんに心配させない様、極力いつも通りに振る舞う様努力した。



………………………



光里
「じゃあ、今日もバイトだから!」


「ああ、頑張ってな!」


俺たちは校門で別れる。
だが、俺はすぐに別の事を思いつき、光里ちゃんと同じ方向に走って行った。


光里
「あれ? どうかしたの?」


「いや、商店街に用があるのを思い出した!」

光里
「あ、そうなんだ…じゃあ、一緒に行こ♪」


俺は頷き、ふたりで商店街に行く。
途中、たわいもない雑談を交わし、やがて俺たちは商店街へと辿り着いた。



………………………



光里
「じゃあ、今度こそまた明日ね♪」


「ああ、今度こそ頑張ってな!」


俺は激励し、光里ちゃんは背を向けて喫茶店に向かう。
俺はそれを見送り、今度は俺の目的の店へと向かった。



………………………




「ただいま~」

華澄
「お帰りなさい、聖殿」


「…守連は?」


俺が心配になって聞くと、華澄は笑顔でこう言う。
その表情からは、どことなく安心感が伝わって来た。


華澄
「もう、大丈夫でしょう」
「熱もある程度下がってきましたし、明日位には元気になれるやもしれません」
「ところで、聖殿が持っているのは?」


俺は華澄の言葉に安堵し、手に持っていたビニール袋を華澄に手渡す。
華澄は袋の中からまだ冷たい箱を取り出し、少し驚く。



「ケーキ、守連にと思って買って来た」
「冷蔵庫に入れておいてくれ…夕飯の後に皆で食べよう」

華澄
「そうでしたか…分かりました、ちゃんと保存しておきます」


華澄はそう言って冷蔵庫へ向かう。
俺は靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて自室に向かった。
そして部屋で着替え、俺は守連の部屋に様子を見に行く事にする。



………………………




「守連、入るぞ?」

女胤
『聖様? どうぞ…』


中から女胤が返答する。
そうか、女胤が見ててくれたんだな。
俺は静かにドアを開け、中に入って行く。
すると、守連は俺の姿を見て、ぱぁ…と嬉しそうに笑った。
もう、大分回復したんだな…顔色も良くなってきてる。


守連
「…お帰り、聖さん♪」


「ああ、ただいま…そのまま寝てて良いから、無理に起きるなよ?」


俺は体を起こそうとする守連を止める。
回復してきたとはいえ、無理は禁物だ。


女胤
「そうですよ、今は聖様の言う通りに」

守連
「う、うん…ゴメンね?」


「良いよ、気にするな…それより、気分はどうだ?」


俺は極力優しめの声でそう尋ねると、守連は苦笑いをする。
まだ、本調子には遠いか…
だけど、それでも守連は心配させまいと無理に笑って見せていた。


女胤
「大丈夫です、今日もしっかりと食事を取って、ちゃんと薬を飲めば、明日にはほとんど回復するはずです」

守連
「うん、分かったよ♪」


「じゃあ、俺は部屋に戻って宿題やるから」
「何かあったら言うんだぞ?」


俺がそう言うと、守連は静かに頷く。
俺はそれを確認すると、後は女胤に任せて部屋を出た。
そして自室に戻り宿題に取りかかる。
今日は少々量が多く、1時間程かかってしまった。



………………………



夕飯の時刻、守連は女胤に体を支えられながらリビングに降りて来る。
そこまでフラついてはいないが、階段はキツいのだろう。
そのまま女胤に椅子まで連れられ、守連は席に着く。
阿須那は例によって仕事で今は不在のため、俺たちは4人で食卓を囲んだ。


華澄
「守連殿、食欲は?」

守連
「うん、何とか食べられるよ~いただきま~す♪」


守連はスプーンを片手にお粥を口にする。
お粥と言っても、栄養をちゃんと考えられた阿須那特製のお粥だそうだ。
俺も一口貰ったが絶品で、むしろこれがお粥なのか?と衝撃を受ける程しっかりした味だった。
基本は薄味なものの、別の方面から味付けがなされており、様々な薬用成分が入れられているらしい。
守連も大満足の様で、お粥だけで2杯食べてしまった。
これでもいつもより少ないもんな…


華澄
「守連殿、今夜はデザートもあるでござる」
「お粥は程々に食べられると良かろう」

守連
「ホント? わ~デザート~♪ 何かな~楽しみ~♪」

華澄
「ふふ、守連殿を元気付ける為、聖殿が買って来てくれたでござるよ」


守連は本当に嬉しそうな顔だった。
そして、俺に礼を言って2杯目のお粥を食べ切り、スプーンを置く。
そして、やがて皆の食事が終わり、華澄は食器を片付けた。
その後、女胤が冷蔵庫に向かい、ケーキを取り出して来る。
一応、1番小さいホールケーキだが、5人で割るには都合が悪かったか?
阿須那の分も残してやりたいしな。


女胤
「とりあえず、まずは8等分にカットいたしますね」


「ひとりひとつは確定として、余り3だが…守連はふたつ食えるか?」

守連
「うん、デザートは別腹だよ~♪」


成る程、それなら大丈夫か。
って、大丈夫なのかホントに!?
いつも思うんだが、別腹ってどういう事なのか…
まぁ、これで残り2。



「華澄と女胤はどうする?」

華澄
「拙者はひとつで構いませぬ」

女胤
「でしたら、私も構いませんわ」
「聖様と阿須那さんでお召し上がりになってください」


ふむ、まぁそれならそれで良いか。
俺は配分を決め、皿にふたつ乗せてもらう。
守連のも同様に、華澄と女胤はひとつづつ。
残りの二切れは阿須那用なので、華澄は冷蔵庫に持って行った。


守連
「はむ、あっま~い♪ もう、幸せ~♪」


「うむ、定番のイチゴケーキだが、たまには良いな」

女胤
「確かに、程良い甘さでイチゴの酸味が丁度良いですわ♪」

華澄
「ふむ、洋菓子はあまり食した事が無かったので新鮮ですな」
「…うむ、美味しいでござる♪」


皆、味は文句無しの様だった。
守連も上機嫌で二切れをあっという間に食べ切ってしまった。
心なしか、元気になった気もするな。
病は気からとも言うし、守連が笑顔ならもう大丈夫だろう。



………………………



華澄
「さて、食事も終わりましたし、守連殿は薬を飲んで部屋に参りましょう」
「その後は体の汗を拭いて着替えませんと」

守連
「うん…んくっ」


守連は華澄に促され、薬を飲む。
まだ慣れないのか、ちょっとだけ苦しそうな顔をした。
そして、それを確認すると華澄が守連を支えて2階に上がって行く。
俺はその背中を見守り、見えなくなるまで見ていた。
明日には…もっと元気になってくれると良いな。

俺はそう願い、柄にも無く心の中で祈った。
せめて、夢の中でも…幸せになれる様に。










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はするはずがない!』



第4話 『守連の病気、家族の想い』


To be continued…

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想