53話 キョウ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ったく....あの爺さん、どこ行っちまったんだよ。 少しボロかったぐらいの家は廃墟レベルになってるし、わけわかんねぇ」
「ペンダントについて詳しく聞きたかったんですが....残念です」

ヒビキが全ての試練をクリアした翌日、ハルキ達は試練をクリアした報告と手に入れた宝石がどんな力を秘めているのか聞くため、試練について教えてくれたお爺ちゃんイーブイの家を訪ねることにした。
しかし、お爺ちゃんイーブイの家についたハルキ達が目にしたのは使われている気配が無い、ボロボロの小屋であった。 当然、あのイーブイの姿も無い

「ほぉんらけさがひぃへほ、みつはらなひならさぁ? もうほのしまひはひないじゃない?」
「ほうれぇすね」
「ヒカリ、ヒビキ。 頼むから食べるか話すかどっちかにしてくれ。 なんて言ってるかわかんねぇ」
「......ゴクン。 こんだけ探しても見つから無いならさー、もうこの島には居ないんじゃない?」
「....ゴクン。 そうですね」

満面の笑みで頬張っていたクッキーを呑み込み、ヒカリとヒビキがあらためて言い直す。
島の観光をしながらあのイーブイについて目撃情報などを聞いたりしているのだが、誰もあのイーブイを知っているポケモンはいなく、あの小屋についても昔からボロボロでもう何年も放置されっぱなしと聞いた。

「そうだね。 これ以上、探しても無駄に終わりそうだし、宝石とペンダントが揃うとどうなるかは僕らで検証してくしかないね......あっ、このクッキー美味しいね」
「でしょー」
「さすが名物です!」
「お前らな....」

ヒカリとヒビキに続いてクッキーを食べ始めたハルキに呆れた表情を向けるアイト。
このシュテルン島は観光地という事もあり、この島特有の名物を販売する出店が多く存在する。
その中で、お爺ちゃんイーブイを探す片手間に食べられそうな食べ物という事で、どうせならヒカリとヒビキがレベルグを出発する前に食べたいと話していた星形のスタークッキーを食べようという話になり、ポケモンが10匹以上並ぶ列に並んで購入した。
マゴのみの果汁で作ったシロップのかかったクッキーが大人気らしいが、探している最中に手がベタつくのは避けたいという事で今回はシロップなしのプレーンなクッキーを購入した。
ちなみに味に関しては、ハルキとアイトが食べる前にヒカリとヒビキがあっという間に1箱平らげてしまうほど美味しかった。

「そんなに美味いのか? ......サクッ。 ん! 確かにこれは美味い!」

アイトも目を輝かせながらクッキーを夢中で食べ、3箱買ったクッキーはあっという間に空っぽになった。
こうなると追加で購入したくなるのだが、先ほどクッキーを購入した店を見ると相変わらず行列のままだったので、今日は諦める事にした。
店の脇には物欲しそうにクッキーを眺めているミジュマルがいたが、一緒にいた侍がしてそうな笠をかぶったフタチマルに何か言われると少しションボリしながら店の前から去っていった。
さしずめ、小さい子供がクッキーをおねだりしたが失敗に終わった場面と言ったところであろう。
どこの世界でもこういった光景は変わらないようだ。

「おーい、ハルキおいてくぞー」
「ああ、ごめん。 今行くよ」

微笑ましくも懐かしい光景に足を止めてみていたハルキは先に行ってしまったみんなの元に小走りで合流した。
結局、この日は1日かけてお爺ちゃんイーブイについて探したり、聞いてみたりしたが有力な情報は得られず、また明日探す事にし、今日の所は旅館に戻ってさっさと寝る事にした。

――――――――――――――――――――

『・・・・・・』
「え? そうなんです? それじゃあ、朝になったらみんなと行きますね」
『いや。 君、1匹で来るんだ』
「えっ、でも....」
『これはジュエルペンダント..というより、君自身に関する大事な話なんだ。 できれば1対1で話がしたい』
「......わかったです」

みんなが寝静まった真夜中。
旅館からコソコソと周囲を気にしながら1匹のポケモンが外に出た。

「あのー、真っ暗ですけど....」
『雷の試練に比べれば明るい方だろ』
「いえ、そう言うことでは....」
『うだうだ言ってないで、案内するから早くついてこい』
「は、はい」

小さな声で誰かと話しながら、外に出たポケモンは真っ暗な森の中に向かって行った。

――――――――――――――――――――

「はぁ!? ヒビキがいなくなったぁ!?」

朝っぱらからアイトの声が部屋に響いた。
その声の大きさにヒカリは思わず目を瞑って、両手で耳を塞ぐ仕草をする。

「もー! アイト、声がでかいよー!」
「ああ、わりぃ。 それで、ヒビキがいなくなったってどういう事だよ?」
「朝起きたらいなくて、こんな書き置きが残されていたんだ」

[少し散歩に行ってきます。 ヒビキ]

「なんだよ、書き置きが合ったなら心配ねぇだろ。 俺が起きた時間とハルキが起きた時間なんて大差ねぇし、心配するにも早すぎないか?」
「確かに僕も起きた時は心配していなかったよ。 けど、さっきフロントのオドリドリが夜中に1匹で外出するヒビキの姿を見たって言ってたんだ」
「何だって!?」

ハルキも起きてすぐ書き置きに気づいたが早めに目覚めて散歩に行くことは不思議ではないので大して気に留めなかった。
ヒビキが戻ってくるのをただ待っているのも手持ち無沙汰感が否めなかったので、お爺ちゃんイーブイを探すのに少しでも手がかりになりそうな情報を聞きにフロントに行き、そこでフロントにいたオドリドリから深夜に1匹で外出したヒビキを見かけたと聞いたのだ。

「そのオドリドリってポケモンが寝ぼけて見間違えたって事は無いのか?」
「それはないと思うよー。 あの紫色のオドリドリは[まいまいスタイル]って言って、ゴーストタイプを持っているから深夜に起きていてもおかしくないんだー」
「そうか....」

ゴーストタイプだからという理由だけでは根拠足り得ないかもしれないが、旅館のスタッフとも言えるポケモンが深夜に誰も起きていないのは不自然だし、夜に強そうなゴーストタイプが夜間に起きているのは説得力のある話だ。
おそらく、アイトもそれがわかっているからヒカリの言葉に何も言わないのだろう。

「なんで夜中に外出したのかという理由を考えるのは後にして、今はヒビキを探したほうがいいと思う」
「そうだな。 何時に出ていったかは分からねぇが、少なくとも陽が昇る前に外出したのなら帰りが遅すぎる」
「書き置きがあるって言っても心配だからねー」

全員の意見が一致したところで、ハルキ達はそれぞれヒビキを捜索する範囲を決め、昼頃に再び旅館に集合する事にし、手分けしてヒビキを探しに出かけた。

――――――――――――――――――――

「どうお? 見つかった?」
「いや、俺が探した範囲にはいなかった」
「僕も同じ」
「そっか....」

お昼を少し過ぎた、時間で言うと午後の1時過ぎに旅館に集まったハルキ達は午前中に探した範囲を教え合った。
大きな島とはいえ、周囲が海に囲まれている島である以上、行ける範囲は限られている。
範囲が限られているのであればローラー作戦で片っ端から探していけば見つかると話したアイトの意見を採用し、午前中に探さなかった場所を探すことにした。
これはヒビキが移動していない事を前提にしているので賭けではあるが、無策で探すより遥かにマシだろう。

「あと探してないのは...この海沿いのなんかでっかい建物が並ぶ場所周辺と昨日クッキーを買った観光ショップが並ぶ区域、そしてこのあたりの森かな?」

ハルキはフロントにいたオドリドリから貰った地図をみんなに見えるように広げて、場所を手で示しながら話した。

「そうだな。 とりあえずそこを探すか」
「そうだねー」
「大雑把に決めているから、範囲がとんでもなく広そうだけど平気?」
「ま、何とかするさ」
「だねー」

こうして午後はハルキが海沿い方面、アイトが観光ショップ方面、残った森方面をヒカリが探す事となった。

「5時ぐらいにもう1度ここに集合しよう。 もし、そのタイミングでも見つかっていなかったら、ローラー作戦を止めて、船着き場とか島の外に出られる手段を使用していないか確認しに行った方がいいかもしれない」
「できればそれまでに見つかってほしいところだけどな」
「うん。 そうだねー」
「......ん?」
「どうした? 何か気になることでもあるか?」
「いや、なんでもない。 それじゃあまた後で」
「うん」
「ああ、わかった」

話が終わると、ヒカリとアイトはそれぞれが探す場所に向かって走っていった。
旅館の前に1人残されたハルキは少し考えた後、海沿い方面ではなく森の方面に向かって走り出した。

ヒビキが試練を突破した日からずっと考えている。
雷の試練が終わった後、ヒカリが誰かと話していた会話の内容を….
あの場で会話をしていたとなると相手は試練の案内をしてくれた謎の声、試練の案内者と言ったところかな。
その試練の案内者とヒカリの会話の中で名前や地名を指していると思われる単語がいくつか飛び交っていたが、ほとんど聞いたことすらなかった。
でも、『虹色の戦い』という言葉はこの世界に来てから何度か耳にしている。
会話の内容から察するに『虹色の戦い』に間接的、あるいは直接的に僕とヒカリが関係していることは間違いないだろう。
それに血筋とかも話していたし、もしかしたらヒビキも関係している可能性が高いのかもしれない。
だから....

「どうしてさっき、嘘をついたんだ? ヒカリ....」

ハルキはヒカリに疑念を抱いても隠し事の1つや2つは誰にでもあると自分に言い聞かせ、たとえ気になっても追求するのは避けていた。
しかし、先程の会話でアイトの[見つかってほしい]という発言に対してヒカリは同意する言葉を発したがその発言にハルキは違和感を覚えてしまった。
[見つかってほしい]という言葉に同意する事が嘘だとすると考えられる可能性は3つ。
[見つかってほしくない]か[すでに見つけている]、もしくはその[両方]。
『虹色の戦い』に関係しているかもしれないヒビキが急に消え、ヒカリはヒビキの行方について何か知っているけど隠している。
でも、試練が終わった直後にヒカリと試練の案内者がしていた会話を聞いていないアイトがいる前で、確信が無いまま言及することはできなかった。
だから、ハルキは1人でヒカリを尾行することにしたのだ。
この判断が後になって、間違っていたと思い知らされるとは知らずに。

――――――――――――――――――――

太陽の光を遮るほどに木々が生い茂り、日中なのにも関わらず薄暗い森の中をヒカリにバレないようハルキは隠れながら追いかけた。
油断したら見失いそうなほど視界は悪いが、尾行をするのには好都がいい。
しはらく尾行を続けるとだんだん木々が減り始め、数10メートルはあるであろう大きな崖が目の前にそびえ立った。
ハルキが今いる森は山の麓という事もあり、崖はかなり高く、何の準備もなしに登ることは難しい。
木の陰に隠れながら、そんな事を思っているとヒカリが崖に沿って右方向に走っていった。
ヒカリの後を追い崖に沿って進むと、まもなく岩肌にできた大きな洞穴が見え始め、そこには見慣れたポケモンの姿があった。

「ヒビキー。 りんご持ってきたよー」
「ハァ、ハァ....あ、ありがとうございます」

洞穴の前で息を切らしながら座り込んでいるヒビキにヒカリはリンゴを渡す。
ハルキは近くの茂みに身を隠し、しばらく2匹の様子を見ることにした。

「そういえば、ヒカリちゃんはご飯食べたです?」
「ううん。 ハルキとアイトはお昼も食べずにヒビキを探しているし、その間にヒビキを見つけている私だけ食べるのはズルいかなーって」
「そ、そうですよね。 みんなわたしを探しているのに、わたしだけ食べるのはズルいですよね」
「いやいやいや! ヒビキは大丈夫だよ。 むしろヒビキはどんどん食べて体力回復しないと!」

リンゴを返そうとするヒビキにヒカリは慌ててリンゴを食べるように促した。

「それに、お腹を満たさないと空腹で目が回って動けなくなっちゃうよ? この後も特訓するんでしょ?」
「ですけど...」
『あー! けどもですもねぇ! いいから食べろ!さっさとコツ掴めばお前を探している2匹とも早く会えるだろ!』
「キョウさん...」
「そうだよヒビキ。 だから今はリンゴを食べてしっかり休も? ね?」
「....わかったです」

ヒカリとヒビキ以外に洞穴の中からもう1つ誰かの声がする。
ここからじゃ姿までは見えないけど、声からして男、もとい雄のポケモンだろう。
それに『キョウ』って名前、どこかで聞いたような気がする….
あれは確か、そう。
救助隊の技能測定を受け終わった後に見た夢。
チームウイングとの依頼が終わった帰り道に脳裏に浮かんだあの光景。
そのどちらにも『キョウ』と呼ばれていたポケモンがいた。
単なる偶然かもしれないけど、もし『キョウ』と呼ばれているポケモンが僕の見たポケモンと同じなら、ヒビキを連れ出した事にも一応の説明はつく。
だけど、あの光景に対する僕の予想とは大きく矛盾する。
......どのみちこのまま隠れて聞いているだけじゃ、何もわからないか。

「ねえ。 今の話、僕にも詳しく教えてくれないかな?」
「えっ、ハルキ君!?」

隠れるのを止めて、茂みの中からハルキが出てくるとヒビキはギョッとした顔をし、思わず手に持っていたリンゴを地面に落としてしまった。

「あ、いや、その、これはですね、ちがうんです! えーと、そう! り、理由が合ってです....ってそんなことにはもう気づいてて、だから、えっと、で、すぅ....」
「あははは! ヒビキ、私に見つかった時とおんなじ反応してるよー」

両手を懸命に動かして何かを伝えようと、しどろもどろに言葉を紡いでいたヒビキだが上手く纏められずにそのまま口を開けたまま固まってしまった。
漫画とかだと開いた口から魂が抜けてしまったような演出がされそうな表情である。
一方、その傍らでヒビキを指差しながら大笑いしているヒカリ。
どうしてこうも対照的なリアクションなのだろうか。
まあ、ヒカリらしいといえばらしいが、こうも裏表ないようなリアクションをされると色々勘ぐっていたハルキとしては拍子抜けもいいところである。

「とりあえず聞きたい事が山ほどあるけど、問題ないよね?」

真顔や怒った顔で問い詰めても相手が萎縮して、まともに話ができなくなるのは人間の世界で学習済み。
だからここは笑顔で優しく問いかけたほうがきっと答えやすいだろうと思い、ハルキは満面の笑顔でヒカリとヒビキに問いかけた。

挿絵画像


「ひええぇぇ!」
「ちゃ、ちゃんと説明するから。 そんなに怒んないでちょっと落ち着こ? ね? ハルキ?」
「あれ?」

ヒカリは慌てた表情を浮かべながら両手でハルキを必死になだめるような動きをし、ヒビキにいたってはヒカリの背後に隠れてしまった。
予想とは真逆の反応をされてしまったのでハルキは怒っていないと言葉に出して伝えてみたが、ヒカリの背に隠れたヒビキが涙目で

「いえ、絶対にものすごーーく怒ってるです。 だってハルキ君、笑顔なのになぜかとっても怖いです! 腕組みしてるあたりマジです!」

と言われてしまった。
無意識とはいえ、腕組みしていたのは完全にハルキの失態だった。
もし、自分の後ろめたい隠し事がバレた時に腕組み + 笑顔で問いかけられたら誰だって怖いに決まっている。
ハルキは咳払いを1つして、仕切り直すと今度は普通に問いかけた。

「とりあえず、どうして僕とアイトに内緒でこんな森の奥にこもっているのか教えて」
『それについては俺から話そう』

ヒカリとヒビキの声とは違うもう1つの声がハルキの問いかけに答えた。
ハルキが声のした洞穴の方に目を向けると、中から白を少し濁したような毛並みのポケモンがゆっくりと姿を現した。
その姿は、ハルキの脳裏に何度か浮かんだ光景に出てきていた『キョウ』と呼ばれるポケモン、色違いのイーブイと全く同じ姿をしていた。

「あっ、紹介しますね。 この方は」
『その必要はねぇ』
「え?」

ヒビキがハルキに紹介しようとしたのを制止し、キョウはハルキに1歩近づくと不敵な笑みを浮かべた。

『そうだろ? ハルキ?』

何度か見た謎の光景に出ていた同名のポケモンがこうして目の前にいるという事実、そしてキョウはハルキの事を知っている。
つまり、ハルキが見た光景は夢でもなければ幻覚でもなく、実際に起きた出来事の可能性が高いという事になる。
あの光景は『虹色の戦い』、その最中の場面ではないかとハルキは予想していたが、あの光景が大昔に起きた『虹色の戦い』だとすると、そこに登場する『キョウ』が今の時代に生きているはずがない。
しかし、事実として目の前にいる以上、否定する事もできない。

「えっと、つまりどういう事です?」

考えがまとまらないハルキに代わって、状況がよく理解できていないヒビキがキョウに訊ねた。

『簡単な話だ。 俺とハルキは知り合い….いや、知り合いだったと言ったほうが正しいか』
「そうだったんですね! あれ? でも、キョウさんって大昔に….」
『ああ、バッチリお亡くなりになってるぞ』
「え!? ちょっと待って! それってどういうこと?」

混乱状態にあったハルキも今の発言はさすがに聞き逃せなかった。

『どういう事も何も言葉通りの意味だよ。 ハルキの世界で言うところの故人ってやつさ』
「いや、だったら尚更なんで...」
『そうだなー。 理由は色々があるが、わかりやすく言うなら俺のスゲー魔法による賜物だ』
「魔法って....それじゃあ君は」
『あ、先に言っておくぞ。 この世界に死者を蘇らせる術なんてない。 そもそも今この場にいる俺はキョウであって『キョウ』じゃない』

ハルキが聞こうとした事を先回りして答えたキョウ。
今この瞬間、存在しているキョウはハルキの見た光景にいた『キョウ』ではないということだろうか。

『まあ、ざっくり言っちまうと今の俺は『キョウ』の記憶と性格をそのままコピーした意思の残影、思念体みたいなもんだ。 だから』

おもむろにハルキに触れようとしたキョウの右手はハルキに触れることなく、そのまますり抜けていった。

『このとおり、実体はないってわけだ』
「つまりゴーストタイプと同じような存在ってこと?」
『確かに近いが厳密に言うと違う。 一般的なゴーストタイプは曲がりなりにも実体と言えるものを持っているが俺にはそれがない。だから実体を必要とするポケモンの技は1つも使えないのさ』

言われてみれば、ゴースやゴーストといった限りなく実体が無さそうなポケモンでも『したでなめる』といった物理的に干渉してくる術は持っていたので、ゴーストタイプはある意味、実体があると言えるのであろう。

「実体がないと技って出せないんです?」
『ほとんど認知されてないがな。 そもそも実体がない存在はレア中のレアケースだし、技が使えないって発想に行き着く奴がいないのさ』

つまり、キョウのような存在は観測されにくいから技が使えない事例があることに誰も気づかないというわけだ。

「君には色々と聞きたい事があるけど、先にこれだけ聞かせてほしい」
『なんだ?』
「君は、『虹色の戦い』に参加していたんじゃないのか?」
『ああ。 その通りだ』
「やっぱり」

やはりハルキの見た光景は『虹色の戦い』のものという予想は間違いではなかった。
どういう経緯で数千年前の出来事にハルキが関与する機会が合ったのかは定かではないが、ヒカリが関係者である可能性は極めて高かった。
ハルキは覚えていないがヒカリは大昔にハルキと会った事があると話していた。
そして今、発覚した事とつなぎ合わせると『虹色の戦い』の時にハルキとヒカリは接点を持っていたと考えて間違いないだろう。

「あの、つまりどういう事です? それに『虹色の戦い』って大昔に合った戦いの事ですよね?」
「ヒビキ、悪いけど詳しい話を聞くのはアイトが来てからにしよう。 たぶん僕達にとって大事な話だから」
「うーん...よくわからないですが、わかったです!」

わかっているのか、わかっていないのか判別しにくい返事だが、おそらくハルキが何でそう言うのかはわからないが、今ここで詳細な話を聞くのは控えるという事はわかったのだと思う。

「でも、アイト君をここに呼ぶのにはもう少しかかりそうです」
「え? なんで? って、そういえばまだどうして僕とアイトに内緒にしていたかの理由を聞いてなかったね」
『そうだったな。 すっかり忘れてたぜ』

キョウの存在に話題が大きく脱線してしまったが、元々ハルキが最初にした質問は[どうしてハルキ達に内緒で特訓しているのか]だった。

『そうだなー、簡潔に答えると特訓の内容はジュエルペンダントの使い方ついて。 内緒の理由はサプライズだ』
「それと、わた…」
『他にも色々あるがそこらへんはまだ話せない。 今はな』

ヒビキが何かを言おうとしたのをキョウが遮った。
秘密の特訓という理由だけで、わざわざ他のポケモンの目につきにくい夜中にヒビキを呼び出すとは考えにくいし、ヒビキが言いかけた内容が夜中に呼び出した本当の理由だろう。

「今は、という事はこの先どこかで話してくれると解釈しても?」
『ああ。 問題ない』
「....わかった。 話すつもりがあるならこれ以上、追及するのは止めておくよ」

ハルキはため息混じりに返事をし、話題を変えることにした

「とりあえず内緒にしたいってことはわかったから、アイトには何とか誤魔化しておくよ」
「ハルキ君....ありがとうです!」
「ただし!」

ハルキは指さすように右手をヒビキにビシッっと向けた。

「陽が沈んだら何があろうとアイトを連れてくる。 そして、心配かけた事と内緒にした事をアイトに謝る。 それが守れるなら僕もアイトに事情を話さないことを約束するよ。 だからヒビキ、君から事情を説明してちゃんと謝るんだ。 いいね?」
「はい! もちろんです!」
「うん、いい返事だ。 まあ、僕も一緒に謝るからそこまで心配しなくてもいいよ」
「え? なんでハルキ君も謝るんです?」
「それは、僕も一時的にとはいえアイトに嘘をつくからね。 いくら理由があろうと友達を傷つける嘘をついて謝らないのは違うと思うんだ」
「なんか、わたしのわがままに付き合わせてすみません」
「ううん。 気にしないで。 内緒にするって決めたのは僕だし、そこにヒビキが負い目を感じる必要はないよ」

申し訳なさそうにするヒビキにハルキは笑顔で言った。
それから、ヒビキの特訓を少しでも早く完成させるためにヒカリはこのままここに残る事になり、ハルキは捜索しているアイトに不審がられないよう集合場所である旅館に1人で戻る事にした。
実に3ヵ月ぶりの更新である( ˘ω˘ )

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