第2章 第5話

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読了時間目安:49分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

阿須那
「女胤、しっかり持っときいや?」

女胤
「分かっていますわ…早くしてください」


俺たちは、結局あれからレシラムとは遭遇する事無く、予定通り人気の無い岩影に隠れた、狭い海岸に辿り着いていた。
俺たちはそこで、まず着替えをしている。
一応、人目が完全に無いわけでもないので、ひとりがブルーシートを広げて壁を作り、もうひとりがそれに隠れて岩影で着替える。
これを全員分ローテーションで繰り返し、何とか無事に着替えは終了。
ちなみに俺はあらかじめ海パン着用の為、脱ぐだけなので問題は無い。
帰りは流石に着替えるつもりだが。



………………………



守連
「じゃ~ん♪」


「お、似合ってるじゃないか」


守連の水着は無難なスポーツタイプの水着。
元々筋トレで鍛えてはいるせいか、体のラインはしっかりと筋肉を強調している。
腹筋も割れてるのが解るし、何気にマッシブだよな…

そして、水着の色は黄色で実にピカチュウカラー。
ちなみに尻尾の所は穴を空けて加工してある。
加工したのは華澄…流石の器用さだな。


阿須那
「ほ~ら、聖~どない~?」


阿須那が選んだ水着はタンキニ。
タンクトップ+ビキニの略で、上がタンクトップ、下がビキニという組み合わせの水着だ。
比較的露出は少な目で、阿須那にしては控えめにも見える。
とはいえ、そこは阿須那の身長とバスト。
やっぱり大人の魅力は振り撒いていた。
ちなみに、阿須那は尻尾がデカ過ぎるため尻の部分はギリギリまで切り取られている。
普通に穴を開けても尻尾が通らない為、左右からロックして留めるタイプに改造されていた。
色は当然の様に赤。



「良いんじゃないか? 阿須那のスタイルなら、その位の露出でも映えるよな」

華澄
「聖殿、お待たせしました」


次に現れたのは華澄。
っても、華澄は元々最初に出会った時に来ていた青のビキニだが。
マフラーも相変わらず装備しており、華澄だけが初期装備だった。



「まぁ、流石に改めて見ても、華澄はギリギリだよな…」

華澄
「…?」


華澄自身は解っていない。
あれ、ビキニはビキニなんだけど、華澄の胸が大きすぎてそこだけマイクロビキニみたく見えるんだよな…
実に目の保養だが、流石にガン見するのは恥ずかしくもある。


女胤
「聖様! どうぞご覧あれ!!」
「この私(わたくし)の、美しい水着を!!」


そう言って出て来た女胤は緑のパレオだった。
花の刺繍も入っており、実に草らしい。
そして、何だでコイツもスタイルは良いので実に目の保養。
当然とはいえ、頭の花は着脱出来んだけにそのままだが。
って、アイツあの頭で泳げるのか?



「聖! さぁ、どうだ俺の水着は!?」


「ぶっ!? お前、そのスタイルでマイクロビキニとかやり過ぎだろ!?」
「そもそも、翼も尻尾もデカ過ぎだし、そんな小さ過ぎる布面積じゃ裸も同然じゃないか!」
「しかも全体的に色は黒で、かなりエロチック!」
「レシラムに比べると髪はバサバサで短めだが、お下げはチャームポイント」
「体も思ったより筋肉質で腹筋スゲェな…! バストはレシラムより上か?」
「例によってレシラムと似たデザインの尻尾で、こんな特徴持ってるとか…」
「ってゼクロムじゃあねぇかーーーーー!?」
「テメェ、何当たり前の様に馴染んでんだよ!?」
「つか、お前らも気付け!!」
「何で俺がひとりでボケてひとりでツッコまなきゃならんのだ!?」


俺が、ぜぇ…はぁ…と、ひとしきり叫ぶと、華澄がスポーツドリンクを渡してくれる。
俺はそれを無言で飲み、少し頭を冷やした。


華澄
「い、いえ…拙者たちも今し方見たばかりで…」

女胤
「そういえば、私の時は誰がビニールシートを持っていたのですか?」

ゼクロム
「俺だ! 何か楽しそうだったから、勝手に混ぜてもらった!」


「とりあえず何が目的だ? お前は遊びに来ただけか?」


俺がそう聞くと、ゼクロムはワハハと笑う。
豪快な性格そうだな…守連以上に筋肉質な身体といい、性格は大雑把そうだ。


ゼクロム
「まぁ、遊びっちゃあ遊びかな! っても、ルールなんか設定してねぇけど」


ルール…?
ちょっと待て、ルールって何だ?
遊びと言えば遊びだが、ルールは設定してない。
もしかして、これは何かのゲームなのか?
コイツが俺の所に来たのは、何か目的があるのか!?


ゼクロム
「レシラムの野郎がいねぇのは好都合だ」
「とりあえず、俺の目的はお前だ聖…」
「お前を貰って行く」


ゼクロムはそれだけを淡々と言って笑い、目の前で拳を固く握る。
その姿に警戒心を露にした華澄が俺の前に立つ。
その姿を見て、ゼクロムは更に薄ら笑った。


ゼクロム
「へぇ、やる気かい? 見た所水タイプのポケモンっぽいけど」
「手ぇ出すなら容赦しないぜ?」

華澄
「…やれやれ、これは相当躾がなっていませんな」


華澄はゼクロムの態度を見て、ため息をひとつ。
何て言うか、完全に舐めた態度だ。
当然の様に、ゼクロムは激昂し身体を震わせていた。
そして、ゼクロムの尻尾が稼働を始める。
『テラボルテージ』の発動だ。
とはいえ、華澄の特性には関係無い能力だが、それでも戦闘体制に入ったのは解る。
華澄もそれが解っていながら、一切動じてないが。
むしろ、それを更に上回るかの様な威圧的な気を、無言でゼクロムにぶつけていた。


華澄
「…警告は、1度だけでござる」

ゼクロム
「あぁ…!?」

華澄
「このまま退くならそれで良し…しかし!」


バババババッ!!


華澄は右手を素早く水平に払い、5枚の水手裏剣でゼクロムの足元に軽い溝を作った。
そして、凄みを加えてこう続ける。


華澄
「聖殿の許可無しにその線を越えた場合、一切の容赦はせぬ!!」


圧倒的な圧。
華澄の放つ気は、明らかにゼクロムを上回っているのが俺にでも解った。
ここまで本気になった華澄は見た事が無い。
元々、菩薩の様に優しい娘なのに…
だが、それだけ本気になった彼女は、恐ろしいのかもしれない。

そして、俺は背後に同じ様な気を放つ者をも感じ取る。
前にも、一瞬感じた事のある異質な気。
俺は後を振り向けずにその場で震えた。


ゼクロム
「ちっ…! 上等じゃねぇか!! やれるもんなら、やってみ……」


バチバチバチバチバチィ!!



「うわっ!?」

華澄
「聖殿!!」


ゼクロムが踏み込もうとした瞬間、とてつもない電撃がゼクロムの目の前に走る。
華澄は瞬時に俺を抱え、斜め横に飛び退いて安全地帯に離れた。
俺は、華澄に抱えられたまま、息を飲んで電撃の使用者を見る。


守連
「…どうして、喧嘩するの?」

ゼクロム
「あぁ!? これは俺の目的だ!」
「それをお前らが邪魔するからじゃねぇのか!?」

守連
「どうして、仲良く出来ないの?」


守連は静かな怒りを沸々と沸かせながら、ゼクロムにゆっくり歩み寄る。
そして守連から徐々に放たれるその強大な電力によって、守連の足元から蒼白いスパークが走り、守連の前髪がゆらゆらと静電気で浮く。
前に見た比じゃない…?
こんなモン、人間が喰らったら一撃で即死するぞ!?

だが、今守連の目の前にいるのは只の人間じゃない。
紛れもなく伝説のポケモン、ゼクロムだ!
電気とドラゴンの複合タイプで電気は大半減。
守連の電力でもマトモに通用するのか?


ゼクロム
「ちっ、うざってぇな…!」
「俺相手に電力勝負する気か!? なら、力の差を教えてやるぜ!!」


ゼクロムはそう言って両足を踏ん張り、電力を両手に溜める。
距離が離れてる、『雷パンチ』の類いじゃない。
だとすると…



「『クロスサンダー』かっ!? 守連、気を付けろ!!」
「マトモに喰らったら……」


俺が言い終わる前に、ゼクロムは両手をクロスさせて電撃を放つ。
一瞬の雷光、目がフラッシュでやられそうになったが、華澄が咄嗟に俺の目を塞いでくれた。
しかも、胸を押し付けて。



「ちょっ!? 華澄さん!? 当たってる当たってるってば!!」

華澄
「当てているのです! 今しばらくは目を閉じて!!」


バチチィ!!


ゼクロム
「なっ…!?」

守連
「…こんなの、全然私には効かないよ?」


技が放たれて少し経ち、俺は華澄にから顔を離され、目を開いて状況を確認する。
守連は無傷。
地面にはクロスサンダーで抉れたと思われる跡が残っており、威力を物語っていた。
だが、それは守連へ届く事は無く、守連の掲げている手の所で霧散した様だ。



「守連、大丈夫なのか?」

華澄
「聖殿、ご心配めされるな…あの程度、守連殿の敵ではござらん」


サラリと華澄さんの口からそんな事を言われる。
あの程度って…仮にも禁止伝説ですぜ!?


阿須那
「いくら強い種族やからって、ウチ等よりレベル高いとは限らへんで?」


「あ…」


いつの間にか阿須那が俺の横でそう言った。
レベルって…それは、つまり。


女胤
「まぁさしずめ、あのゼクロムは大したレベルでは無いのでしょう」
「私たちからしたら、赤子同然でしょうね…」


女胤までそんな事を言う。
っていうか、どういう事だよ?
いつの間にこんなバトル物になってんだ!?


華澄
「聖殿にはあえて秘密にしておりましたが、拙者たち4人は皆それなりに高い練度を有しております」
「ですので、こういった直接戦闘で聖殿が心配なされる事は、恐らく滅多にありません」


それなり…って、それなりで禁止伝説のポケモンをコイツ等は軽くあしらえるってのか!?
どんだけだよ…何だか、逆にあのゼクロムが哀れに見えてきたな。


ゼクロム
「ちっ! 今のが全力だと思うなよ!?」


ゼクロムは更に強力なクロスサンダーを放とうと溜める。
そして、それを放とうとした先に対象はいない。
守連の速度はまさに電光。
走るというより、翔んだと言う方が正しいとも言える移動速度で、守連はゼクロムの背後に立っていた。


守連
「それじゃあ遅すぎるね、私には当たらないよ」
「ちなみに、これでもまだ半分の速度しか出してないけど、それでも見えた?」

ゼクロム
「あ…あ……っ!?」


ゼクロムは声を震わせ、体もガクガクと震える。
絶望的な戦力差。
伝説のポケモン、ゼクロムがここまでコケにされるとは…



「何て事だ…これじゃあ、ひとつ目のジム戦もクリア出来てないポケモンが、リーグチャンピオンに挑む様な物、惨め…すぎる!」

ゼクロム
「やかましい! 誰がひとつ目のジム戦も、クリア出来てないポケモンだ!?」
「3つ目位なら行けるわい!!」


「アカンやないかい!?」
「もう良いゼクロム! 我々は偵察が任務だ!!」

ゼクロム
「◯ャア少佐だって戦って出世したんだー!!」


律儀に俺のネタに付き合って守連に突っ込むゼクロム。
うむ、中々いい筋してるじゃないか!
これは死なすには惜しい逸材だな。


ゼクロム
「接近戦ならどうだ!?」

守連
「甘いよ、腕力はあっても私の力は越えてない」


ゼクロムの渾身の雷パンチも、守連には軽く片手で止められる。
守連の奴、攻撃も特攻もデタラメに高いっぽいな。
素早さも相当だし、『高速移動』使ってあの速度なのか…?



「もうよせってゼクロム!」
「お前、そんな悪い奴じゃなさそうだし、話し合わないか?」

ゼクロム
「話し合う…だと!? 俺の目的はお前だ!」
「お前が必要なんだよ!!」


「なら、その理由を話せって!!」
「何で俺が必要なんだよ!?」
「俺は、一体何なんだーーー!?」


俺の叫びが場を静寂にする。
ゼクロムは拳を降り下げ、俯いて考えている様だった。
とりあえず、止まったのか…?



………………………



ゼクロム
「俺には、実の所よく解らない…」
「ただ、気が付いたらこの辺りにいた」
「そして記憶は無くし、体は人間みたいに人化してたんだ…」
「俺は、お前を狙ったのはもちろん殺す為じゃない」
「解らないけど、何故か必要だと確信してた」
「それだけだ…今話せるのは」


ゼクロムの言葉は、結局皆と変わらなかった。
守連たち同様、記憶を失って俺の所に来たんだ。
しかし、判明した事もまたある。



(別に、俺の部屋からしか出現するってわけじゃないのか…)


少なくとも守連たち4人は俺の部屋で出現したらしい。
でも、ゼクロムはこの辺りと言った。
そうなると、やはり原因は…俺、なのか?



「俺が必要、ねぇ…何でなのかね?」


結局、俺にとって1番の疑問はそれだ。
コイツ等は共通して俺に引き寄せられる。
それは何故なのか?
コイツ等は口を揃えて俺が必要だと確信している。
だが、その理由は本人たちにも理由が解らないと来た。
全く、厄介な存在だな…俺は。



「無様な姿だなゼクロム!!」

ゼクロム
「お、お前はぁっ!?」


唐突に放たれた声。
俺たちは全員が声の放たれた方向を注目し、ゼクロムは驚いて相手を見る。
その相手とは…


ゼクロム
「誰だっけ?」


ドズシャァッ!!と、凄まじい勢いで空中から砂浜にダイブするレシラム。
そうか、ゼクロムはレシラムの存在は感じられても、人間としての姿は知らなかった訳か。


レシラム
「ふ、ふふ…見ない間にすっかりギャグが板に着いた様だな?」
「そして、どうやら敵に骨抜きにされたか!?」
「ならば、この勝負は我の勝ち!!」
「さぁ、我が伴侶よ! 今すぐ我と子作りしよ……」



………数秒後



レシラム
「………」ちーん

女胤
「この痴れ者がっ!? 恥を知りなさい!!」


レシラムが服を脱いで最後の台詞を言い終わろうとした瞬間、女胤が『蝶の舞』で素早くレシラムの背後に回り込み、そこから近距離強Pで相手を仰け反らせ、それをキャンセルして『種マシンガン』を密着から全段ヒット。
そして、レシラムの仰け反り硬直が終わる前に、女胤はダッシュ中Pを当て、そこからキャンセル種マシンガン。
更にダッシュ中Pからキャンセル種マシンガンを再び決め、更に更にダッシュ中Pを決めたら、ラストにキャンセル『花弁の舞』を決めてフィニッシュ!
見事なまでの即死コンボで、レシラムはいざ尋常に勝負あった。


ゼクロム
「あ~あ…」


「FINISH HIM!!」

阿須那
「いや、そこはFINISH HER!!やろ」

女胤
「どっちにしても流石に究極神拳はやりませんわよ…」


「つか、お前のコンボはむしろ斬◯ム系だから、◯末奥義の方が合うんだがな…当時実装されてないが!」

ゼクロム
「つか、何の話だよ…?」


おっと、ついネタに走ってしまった。
まぁ、たまにはこういうネタを振らないと、この作品のコンセプトが勘違いされそうだからな!



………………………



レシラム&ゼクロム
「申し訳ございませんでした」


「うむ、許してやるから頭を上げよ」


俺が偉そうにそう言うと、ふたりは立ち上がってバツが悪そうに俯く。
本能的に俺を求めてるだけだもんな…コイツ等を責めるのはチト可哀想だ。
なので、俺は大きな心を持ってこう言ってやる。



「とりあえず、俺たちはただここに、楽しく遊びに来ただけだ!」
「だから、お前たちも一緒に混ざれ!」
「折角出会ったのも何かの縁だし、せめて一緒に楽しもう!」


レシラム
「あ、有り難い御言葉…!」

ゼクロム
「ハハハッ、じゃあよろしくな!!」


俺の言葉を真摯に受け止めるレシラムに対し、あっけらかんと受け取るゼクロム。
何ていうか、性格まで正反対なのな…
まぁ、らしいっちゃらしいのかもしれないが。



「うっし! なら、折角の海で水着なんだ、早速泳ぐぞお前らー!?」

一同
「おーーーー!!」


こうして、ひと悶着有りながらも、俺たちは当初の目的に立ち返る。
そうさ、何があってもコイツ等となら何とかなる。
楽しいのはきっと、これからだ!



………………………



守連
「それ~♪」


バシャシャシャシャ!!


守連はテキトーながらも浅瀬の所で泳ぐ。
海だけに沈む事もほとんど無く、実に楽しそうだった。
ちなみに感電大丈夫なのか?と聞いた所、さっきのバトルで少し使って軽く放電出来たから、多分大丈夫との事。

俺も守連とは少し離れた所から同じ様に泳いで行く。
深さはギリギリ足が着く程度の所。
その辺でとりあえず俺は仰向けになってプカプカ浮いてリラックスした。

すると、バシャッ!と音をたて、俺の近くで華澄が水面に顔を出す。
潜ってたんだな…かなりの時間潜ってた所を見ると、やはり相当水中戦は強そうだ。


華澄
「ふぅ…この体としては初めての海、ですがそれ程違和感は感じませんな」


「華澄は蛙モチーフのポケモンだからな」
「人間も蛙の泳ぎを真似した平泳ぎがある位だし、華澄にとってはそれ程違和感無くても納得なのかもな」


実際、華澄は流石に泳ぎが上手いとかそういうレベルでは無かった。
水タイプとして悠々と深い所まで潜り、泳ぐスピードも人間の比じゃない。
潜水時間もとんでもなく、普通に10分以上は軽く潜っていた。



………………………



女胤
「くっ! あんなに楽しそうに聖様と…!!」

阿須那
「まぁ、ウチ等はマトモに泳がれへんし、ええやん」


そう言って阿須那さんはビーチパラソルの下にシートを引き、そこで仰向けに寝そべっていた。
私も同様にそうする事にし、結局私たちは泳ぐ事無くゆっくりと静養する。
阿須那さんは炎タイプ故に冷たい水は苦手。

私は草故に海水は頭の花が萎れてしまいますからね…
ある意味、海というスポットは私たちに合ってないのかもしれません。



………………………



ゼクロム
「…な~んか、違和感はあるよな」

レシラム
「そうだな、聖殿は慣れとは言っていたが」


我々はふたりで砂浜を歩いていた。
微妙に足が波で打たれる位の場所で、2本の足を動かしている。
元々我らは翼の有るドラゴンタイプ、普段から歩く等という事はそれ程しない。
我々には折角の翼があるのだ、移動するなら飛べば良いのだからな。
とはいえ飛行タイプではない為、長くは飛べないのだが。

それに、今の体で歩く事も別に苦ではない。
尻尾の重みが気になると言えば気になるが、ごく自然にこの姿は馴染んでいる。
ゼクロムも同様の様で、まだ日の浅い人の体をより馴染ませている様だった。


ゼクロム
「ぶっちゃけ、何でかね?」

レシラム
「…何がだ?」

ゼクロム
「ここにいる理由」


ゼクロムは唐突にそんな疑問を問う。
そんな事は我には解らぬ。
恐らく、ここにいる誰もが同じだろう。
だが、やはり確信めいた物だけはある。


レシラム
「…聖殿の側にいられる事こそが、その理由なのではないのか?」

ゼクロム
「………」


我の言葉にゼクロムは無言だった。
恐らく同じ様に感じているはずだ。
楽しそうに海で遊ぶ聖殿たちを見ていれば、それが理由なのではないかと…我は何となくそう思う。



………………………




「いやぁ~遊んだ遊んだ!」

守連
「初めての海、楽しかったね♪」

華澄
「守連殿にとっては、それこそ人間として初めての外」
「楽しそうで誠に何よりです」

阿須那
「せやけど、やっぱ肌は焼かれへんかったな…」

女胤
「阿須那さんは炎タイプですからね、根本的に肌の性質が違うのかもしれません」


それぞれが思い思いの感想を述べる。
とりあえず全員楽しそうだったので、今回の旅行は本当に来て良かった♪



「さて、とりあえず日も沈みそうだし、そろそろ着替えて帰ろう!」
「またブルーシートで…って、もう流石に誰もいないか」
「まぁ、良いや! とりあえず足元にブルーシート張ってそこで着替えよう!」
「華澄、体洗うの任せて大丈夫か?」

華澄
「委細承知! その位、朝飯前でござる」


こうして、俺たちは華澄の出してくれる水で体を洗ってもらった。
流石にレシラムはビビっていたが、すぐに慣れた様で安心した。



………………………………




「さて、最後の問題は…」

レシラム&ゼクロム
「……?」


「とりあえず、旅館は無理だから何とか寝床は自分で確保してくれ」
「飯は後で持って行ってやるから、出来ればここで待つ様に!」

レシラム
「分かりました、お心遣いを感謝します」

ゼクロム
「まっ、しゃあねぇわな」


ふたりはとりあえず納得してくれた様だ。
俺たちはここでふたりと一旦別れ、旅館に戻る。
腹も減ったし、とりあえずは飯だな~



………………………




「いただきます!」

残り一同
「いただきます!」


俺たちは、旅館のレストランで食事をしていた。
単純なバイキング形式で、とりあえず有る物を好きなだけ取って良いタイプだ。
味も文句は無く、美味しく平らげられそうだな。


守連
「ハムハムッ! うん、美味しい♪」


守連はもはや取りすぎて何が何か解らなくなった料理の山をバクバク食っていた。
相変わらずよく食うな…運動させたせいか、いつもより食ってる気がする。


阿須那
「…やっぱ和食やと、もう少し味付けは工夫がいるかな?」


阿須那は味に不満は無いものの、和食メインの料理を食いながら色々考えている様だ。
最近は阿須那もすっかりコックらしくなったし、料理の腕なら華澄よりも上かもしれない。
少なくとも、もう俺なんかよりも上手いだろうな。


華澄
「………」


華澄は無言でゆっくりと食事している。
箸の使い方も丁寧で、いつも通り綺麗な食べ方だ。
取ったメニューは白ご飯と焼き魚と味噌汁、漬物だけだった。
相変わらず、少食だな…まぁ、体も小さいし仕方無いのか?


女胤
「………」


女胤はやはり洋食メイン。
ご飯にカレーにサラダ、ハンバーグと量もそれなり。
フォークとスプーンで優雅に食べていた。



(やっぱ、食べ物も好みは違うよな)


まぁ、守連は何でも食うタイプだが…ってアイツその辺好き嫌いあるのか?
阿須那も好き嫌いは無く割と色々食べるが、アイツはどっちかと言うと、最近は味が知りたいからって理由で食ってる感じがする。
一応傾向としては、中華料理が好きみたいだな。

華澄は大体和食好きで、魚を特に好んでいる。
普段からあまり量を食べる事は無く、常に腹八分目を心がけている位だ。

そして女胤は大体洋食メイン。
カレーにパスタにハンバーグ、後サラダは必ず頼むタイプだな。
好き嫌いもそれ程あるわけではないが、どこかに苦手意識はある様だ。

俺は、そんな皆の好みを分析しながらフツーに美味い唐揚げを平らげた。



………………………



レシラム
「………」

ゼクロム
「なぁ、お前腹は減る?」


ゼクロムは唐突にそんな事を問う。
気持ちは解らんでもないが、それは今は些細な事だな。


レシラム
「減らない方がおかしいだろう?」
「今の我々は、人の身と同様なのだから…」


恐らく、ゼクロムは人間として初めての空腹感に違和感を覚えていたのだろう。
我々は伝説扱いされているポケモン。
通常のポケモンとは体力も燃費も違う。
だが、この体は思いの外勝手が違っている。
数時間も動けば疲れるし、腹も減る。
以前の事は曖昧だが、ここまででは無かった気もした。



………………………




「よっ、お待たせ」

ゼクロム
「お~待ってたぜ~~♪」

レシラム
「有り難い、助かります」


俺はレシラムたちにカップラーメンとおにぎりとサラダを持って来てやった
予めブルーシートを渡していたので、レシラムたちはそれに座って休んでいた様だ。
割と近くにコンビニがあって助かった、弁当にするか悩んだけど、折角だから暖かい汁物の方が良いかと思ってカップラーメンにしたのだ。



「まぁ、定番物だから味はフツーかもしれないけど」


俺はブルーシートの上に一式置いて、ふたりに割り箸を渡した。
すると、ふたりはそれを持ってマジマジと見つめる。


ゼクロム
「何だこりゃ? これでどうするんだ?」

レシラム
「馬鹿かお前は、これをふたつ合わせて箸とやらにするのだろう」


「あ~違う違う」
「それは割り箸つって、これをこう持って…こう」


俺がふたりの目の前で割り箸の割り方を実演して見せる。
すると、ふたりは驚いて俺が割った割り箸を見ていた。


ゼクロム
「な~る、そうやって2本の箸になるのか!」

レシラム
「画期的な物だな…これなら持ち運びにも良い」


「そんな大した物じゃないんだけどな」


割り箸ごときに感動しながらも、レシラムたちはカップラーメンを食べ始める。
慣れない手つきながら、ちゃんと使って見せていた。


ゼクロム
「おっ、こりゃ美味いぜ! 初めて食うけどいける!」

レシラム
「ふむ、確かにこれは美味いな」


ふたりとも満足の味の様だった。
俺はそれを見て微笑し、食い終わるまでその場で話相手になってやる事に。
すると、こいつらの性格も段々解って来た。
レシラムは基本的には実直だが、やや近寄りがたい。
ゼクロムは大雑把だが、取っつきやすい。
常に対称のこのふたりは、一緒にいても特に何も無いのだろうか?

だが、ふたりの食事風景を見ていると、仲は悪くない様に思える。
特にキッカケが無ければ、争う事は無いのだろう。



………………………



レシラム
「ご馳走様です」

ゼクロム
「食った食った! あんがとな!」


ふたりは笑顔でそう言う。
量も大丈夫だった様で、良かった。
そして、ふたりがリラックスしている所に、俺は今後の事を聞く事にする。



「…お前ら、これからどうするつもりなんだ?」

レシラム
「………」

ゼクロム
「どうするったって…」


「悪いが、俺にはお前たちを匿える財力は無い」
「助けはしてやりたいが、限界はある」
「それでも、お前たちはどうしたいんだ?」


俺は真面目な顔で聞く。
マジな話、このふたりまで抱え込むのは無理だ。
放っておくつもりも無いが、無条件で助けてやれる程こっちは余裕は無い。
だから、せめてコイツ等の意志を聞いておきたかった。


レシラム
「…我々は、聖殿の側にいたい」
「だが、それは容易に叶わぬのだと、薄々理解していた」
「それは、我儘なのだと…」
「我々がここにいる理由は、間違いなく聖殿の存在があるから」
「今、我々がここにいられるのは、きっと聖殿がいるからだ…」


レシラムは絞り出す様な弱い声でそう言った。
ゼクロムも概ね同じ意見なのか、無言でレシラムの言葉を聞いて真剣な顔をしている。



「…そうか、やっぱそうなのか」


俺も俯いて考える。
俺は聖人君子でも無ければ、世界を動かせる大企業の社長でもない。
今、俺には明確にこのふたりを救う方法は思い付かない。
でも、見捨てるなんて事は1番したくない。
赤の他人ならともかく、関わってしまった以上、コイツ等はもう俺と無関係じゃないんだ。

だが、俺の力ではどうしようもないのも、また事実だった。


レシラム
「…やはり、優しいのですね聖殿は」
「貴方はそうやって、出会ったばかりの我々にすら、情を抱いてくれる」


「…?」


レシラムは頬を僅かに赤らめ、そんな言葉を放つ。
闇夜に輝く月明かりの下、そんなレシラムはとても美しかった。
俺は真面目に言われて少し気恥ずかしくなり、頬をポリポリと掻く。
別に、下心は無いんだがな…


レシラム
「そうか、この気持ちが…そうなのか」

ゼクロム
「だな…きっと、そうなんだろうさ」


「何が……って!?」


見ると、ふたりの体は淡い金色の輝きに変わりつつあった。
何なんだ、この現象はこんなの見た事無いぞ!?
ふたりは段々と体が透けていき、まるで今からいなくなるかの様な風に感じる。
だが、そんな状況を意に介さず、ふたりは幸せそうな顔でこう言った…


レシラム
「我は、真実を知ってしまった」

ゼクロム
「俺は、理想を叶えてしまった」


ふたりはそう言って、どんどん姿を光の粒子に変えていく。
俺はいても立ってもいられなくなり、レシラムたちに触れようと手を伸ばす。
だが、俺が触れようかという距離に入った途端。


ギュッ…



「!?」

レシラム
『ありがとうございます、聖殿』

ゼクロム
『ありがとな、聖』


俺は、今にも消えてしまいそうなふたりに、優しく抱擁を受けた。
そして、もう声になっているのかすら解らない様な頭に響く声で、ただ…ありがとう、と言われた。

俺は、思わず涙腺が刺激されて涙が出る。
何でだよ…何でいきなりこんな!?
俺は意味不明にテンパって言葉も出せないまま、やがてふたりは、俺から離れた。


レシラム
『もう、別れの時が来たようです』

ゼクロム
『じゃあな! アイツ等にも、よろしく言っておいてくれ!!』

レシラム
『子孫を残せなかったのは心残りだが、それでも我々は…』

ゼクロム
『お前の事、いっちばん……』


そして…ふたりは笑顔のまま全てを言い終わる前に、月明かりの差す夜の闇に、消えた。
微かな、光の粒子の軌跡を残して…
俺はその場で膝から崩れ落ち、声にも出せず、ただ震えて涙を流した。



………………………



華澄
「聖殿!」


「…あれ? 俺、ここで何してたんだ?」
「何で、ふたり分の食事が…?」
「あぁ…もしかして、お前と俺で食ってたのか?」

華澄
「さ、聖殿…?」
「一体、何を言っておられるのですか?」
「聖殿は、ひとりで外に出ていたのでは?」


華澄はそんな事を言う。
じゃあ、この食事跡は誰かが勝手に食って放ったらかしにしたのか。
全く、マナーのなってない奴だな…

俺はそう思い、落ちていたコンビニ袋にゴミを詰める。
そして、広げられているブルーシートを綺麗に畳み、後でゴミ箱に捨てる事にした。



「さて、とりあえず旅館に帰るか」
「華澄は、心配で迎えに来てくれたのか?」

華澄
「は、はい…その、聖…殿?」
「何故、泣いていたのですか?」


「え…?」
「泣いてた…俺が?」


俺は不思議に思い、自分の顔を指でなぞる。
すると、確かに涙の跡があった。
俺は微かに湿った人差し指を見て、不思議に思う。
が、全く心当たりがない為、こう返した。



「…目にゴミでも入ったんだろ」

華澄
「そう、ですか…それならば、良いのですが」
「では、もう戻りましょう…皆、心配しています」


「あぁ、そうだな…ゴミも捨てなきゃならないし」


俺たちはそう言い合い、ふたりで仲良く帰路に着く。
だが、その道中で俺は疑問に思う。
何故、微かに体に温もりが残っているのかを。
何故…こんなにも喉が枯れているのかを。



………………………




「ただいま~」

守連
「あ、お帰りふたりとも~♪」

華澄
「ただいまでござる」


俺たちが部屋に着くと、守連が駆け寄って来て出迎えてくれた。
見ると、全員いる様で安心する。
俺はやけに疲れている体を動かし、着替えと洗面具を持ってシャワールームに向かう事にした。



「先にシャワー使うから」

華澄
「はい、どうぞ」



………………………



サァァァァァァァァァ!



「………」


俺はシャワーを頭から被り、少し放心していた。
理由は解らない…ただ、凄まじい空虚感が心の中にある。
今日は、久し振りに電車に乗って、皆でトランプして…
バスが来るまで喫茶店で飯を食って…
そして旅館に着いて買い物して…
海に着いたら皆で遊んで…
旅館に、戻ったら皆でご飯食べて…



「………」


解らない…何で、こんなにも満たされてないんだろう?
楽しかったはずなのに、皆と笑っていたはずなのに。



「何で…物足りなく感じるんだ?」



………………………



阿須那
「あ~! また負けたー!!」

女胤
「本当にどういうセンスしているんですの!?」

華澄
「いえいえ、こういうのは相性もあります」
「単なる駆け引きなら、それ程差は無いでしょう」


どうやら、部屋のテレビに◯ーファミミニを繋いで対戦してた様だな。
HDMiケーブルさえテレビに差せば、外でも手軽に出来るのはホントに魅力だよな。


華澄
「まだ、やりますか?」

阿須那
「当ったり前や! 次は勝ったる!!」


そう言って阿須那はそのまま再戦する。
どうやら格ゲーの◯パⅡで対戦している様で、華澄が◯ュウ、阿須那は◯ガットを使っていた。


阿須那
「このっ!」
華澄
「……!」


まずは互いに牽制合戦。
阿須那は巧みに◯イガーショットを上下に撃ち分け、華澄はしゃがんだり相殺したり。
序盤は互いにほとんど被害も無く、拮抗状態だな。
だが、タイミングを覚えてきたのか、華澄は飛道具の出がかりを見切ってジャンプで飛び込む。
完璧なタイミングで飛び込まれた阿須那は、硬直中にジャンプ強Kをカウンターで食らう。
そして、着地と同時に立ち強Pを当て、すかさずキャンセルして弱◯竜拳を当ててダウンさせた。

見事なまでのセンスだな。
飛び込むタイミングも完璧で、阿須那の呼吸を読んでいる様だ。


阿須那
「くっそ、何で読まれんねん!」

華澄
「ふふ、熱くなるのは結構でござるが、冷静さを欠いては勝機は遠退きますぞ?」


そう言って華澄は相手の起き上がりに弱◯動拳を重ねる。
ガードするしかない阿須那はそれを素直にガードし、画面端に押し込まれてしまった。
そこから華澄は相手の牽制が届かない位置で◯動拳を撃ち、徐々に削りで追い詰めていく。
そして、痺れを切らして飛び込んで来る所に弱◯竜拳。
鮮やかなまでの読みに、阿須那はほとんどダメージを取れずに1Rを落とした。


阿須那
「あぁ~もう! 何でやねん!!」

華澄
「ふふ、冷静に冷静に」


やればやる程熱くなる阿須那に対し、常に冷静な華澄。
両者共にかなりの実力でそこまで差は無いと思うのだが、これはキャラ相性と言うよりプレイヤー相性だろうな。
阿須那はその辺でまだ華澄には勝てないって所か。


『しょうりゅうけんをやぶらぬかぎり おまえにかちめはない!』


阿須那
「あ~んまた負けた~もうアカン…ショックでしばらく立ち直れんわ~」

華澄
「阿須那殿、精神修行も大切でござるぞ♪」


完全に項垂れている阿須那に対し、余裕の華澄。
流石の貫禄だな…俺なんかじゃ相手にならないだろう。
何だで華澄はゲームもすぐにマスターしてしまった。
アクション、シューティング、レースもいけるし、そっち系なら何でもいけそうだ。


守連
「華澄ちゃん代わって~私、◯Fやりたい~」

華澄
「了解でござる、はい」


そう言って華澄は優しく守連にコントローラーを渡した。
そして、ゲームを切り替え守連は◯FⅥを起動する。



「どこまで進めたんだ?」

守連
「んっと~○大陸」


思ったより進めてるんだな。
守連もずっと家に居るせいか、段々ゲーマーなりつつある。
それなりには何でもこなせるみたいだが、やはり守連的にはRPGが1番好きな様だ。



「…中間セーブまでは来てるのか」

守連
「うん、どうしても欲しいアイテムがあるんだけど、中々手に入らなくて…」


「レアドロップか、何狙ってるんだ?」

守連
「リボン」


「◯ルテマウェポンかよ! 意外にヘビーだなオイ!!」
「縛りでないなら無理に取る事ないだろ…」

守連
「う~ん、でも気になって気になって仕方ないんだよ~」


気持ちは解らんでもないが…
図鑑機能も無い◯FC版じゃ完全に自己満足だな。
そして、守連は夜遅くまで粘るものの、まだドロップする事は無かった様だ…



(さて、明日は…また遊びに行くか)


俺は気持ちを切り替え、ベッドで眠りに着いた。
そして、夜中にややドタバタ騒ぎがあったのは、まさに予定調和だった…



………………………




「貴様が俺の中に鬼を見るのはこれからだー!!」

守連
「わぁ~何か久し振り~」


俺の久し振りの開幕ネタに守連が無邪気に笑う。
やはりたまにはこうやってネタ成分を振り撒いていかんとな!
ちなみに、旅行も2日目!
今日は朝から山に登っていた。
大きな山ではなく、普通に旅行客も居る大きな山道だ。
今日はここでバーベキューの予定なのだ!


華澄
「聖殿、疲れてはおりませんか?」


「心配すんなって、まだまだ若いんだ!」
「お前こそ大丈夫なのか?」

華澄
「はい、問題無く♪」


華澄は笑顔でそう言った。
まぁ、そりゃそうか…華澄たちポケモンは基本的に俺とは身体能力が違うみたいだしな。
そして、俺たちは他愛の無い雑談を交わしながら、山を登る。
目的地は、もうすぐだ。



………………………



守連
「わぁ~良い景色♪ 街があんなに小さい~」


守連は開けた場所を見付けて、そこから街を一望する。
100m程度の高さだが、確かに絶景だった。



「よしっ、じゃあここで今日はバーベキューだ!」
「守連、セットを下ろしてくれ」

守連
「は~い♪」


守連はパーツをバラして鞄に閉まっておいたバーベキューコンロを地面に置いていく。
俺たちは協力してそれをひとつづつ組み上げ、やがて簡単な作りのバーベキューコンロが出来上がる。
これならガスボンベひとつで簡単に出来るし、今やお手軽になったよな~


阿須那
「すぐに始めるんか? まだ、時間早いで?」


「とりあえず、セットだけして置いておこう」
「ここは幸い他の人間もいないし、誰かひとりでも見張ってたら危険は無いだろうから」
「折角山に来たんだし、交代で色々散策してみようぜ!」

俺がそう提案すると、全員納得して頷く。
そして、ここから仁義無き順番決めが始まった…



………………………



女胤
「それで、どうやって決めるんですの?」

阿須那
「そら、こういう時はカードで決めるに限るで?」


そう言って阿須那はトランプを出した。
って、これまた色々フラグじゃないのか?


華澄
「では、ルールは?」

阿須那
「ポーカーとかどないや?」

女胤
「流石にもっと単純な物が良いでしょう、ババ抜きで良いのでは?」

守連
「賛成~それなら出来るよ~♪」


とりあえず、無難にババ抜きに決まった様だ。
まず、阿須那がそれぞれにカードを配っていく。
やがて全てが配り終わり、俺は早速全員の顔を見渡した。



(ババは無し、と)
阿須那
(無いな、他の連中は?)
華澄
(無し…)
女胤
(私ではありませんね…)
守連
(う~…私がババだよ~)


誰が見ても一目瞭然の反応だった。
コイツにポーカーフェイスは無理だ。
とりあえず、ゲームを始めようか。



「なら、俺から時計回りな…じゃ、まず阿須那のを」


俺は迷わずカードを取る。
完全に安全だと解っているババ抜き程、空しい物は無いな。
続いて阿須那も迷わず華澄のカードを取る。
そして華澄もさっさと女胤のカードを抜き去った。

さて、ここからが本番だ。
女胤は守連の顔を凝視し、手を動かし表情の動きを見る。


女胤
「………」
守連
(う~)


守連は必至に読まれない様にしている様だが、顔でモロバレル過ぎる。
流石に俺はちょっと可哀想になって助け船を出してやった。



「守連、目を瞑って取られるのを待て、そうしたらどこにあるかなんか解らないから」

守連
「う、うんっ分かったよ~」


俺の助言で守連は目を瞑って俯き、カードを前に出す。
流石にこの状況では女胤も勘で行くしかない。
とりあえず女胤は適当に当たりを付けてカードを引いた。


女胤
「ふぅ、流石に1発目で食らいたくはないですからね」

守連
「えっと、それじゃ…」


「ほらよ、好きなの取れ」


こうして、何事も無く一巡する。
そして、守連がババのまま、何巡かした所で……異変は、起こった。


女胤
「くっ!?」

守連
「あ、やった~♪」


残り5枚程の所で遂に女胤が被弾する。
守連は嬉しそうに俺のカードを取り、更にカードを減らした。



………………………



華澄
「………」
女胤
「……!」


華澄は然程迷う事無くカードを抜き去る。
被弾は無し、まだ女胤がババのままだ。
そして、更に何巡か進みついに…


守連
「やった~♪ いちば~ん♪」


「良かったな守連、とりあえず休んどけよ」


結局、最初にババになるも、それ以降は運に恵まれ守連は1位でクリアする。
つっても、全員後2~3枚だから、終わりも近いだろうな。



「俺のは…よし後2枚!」

阿須那
「…ちっ」


阿須那は華澄のカードを取って舌打ちする。
手持ちは2枚のままか。
そして、華澄は女胤のカードを迷わず引く。
華澄はカードを確認し、2枚捨てる。
これで、残り1枚…リーチか。


女胤
「くっ…これで!」


女胤は俺のカードを引くが捨てられない為、残り3枚になってしまった。



「俺はこれっと! …ダメか」


俺も2枚を維持する。
そして、阿須那が引いた1枚で華澄はクリア。


華澄
「ふぅ…お先に」

阿須那
「こっちもあがりや!」


何と同時にふたりがクリアする。
って事は、完全に一対一か!?


女胤
「聖様、申し訳ありませんが、これも勝負! お覚悟を!!」


「ふ、抜かせ! 返り討ちにしてくれる!!」


俺たちは異様なテンションでゲームを続ける。
女胤はリスクが無いので俺のカードを取る。
そして2枚減る…これでオーラスだ!



(どっちだ…? どっちがババなんだ?)


女胤は不気味に笑い、待っている。
流石に表情からは読み取れない、勘で行くしかないか…
俺は意を決し、カードを抜き去った。


女胤
「………」にやそ


「ぐっ!? やられたか…」


俺は女胤に見えない位置でカードをシャッフルする。
とはいえ所詮は残り2枚、どうやったって確率2分の1だ。
俺はバッと女胤の目の前にカードを出し、目を瞑る。
表情を読まれない為だ、俺に相手を騙す様なテクニックは無い。


女胤
「聖様、申し訳ありません…」
「これで終了ですわ♪」


俺はガクッとその場で両膝を着き、敗北を噛み締める。
まぁ、どうせ運だしな!
俺は大きく息を吐いて結果を発表する。



「じゃ、最下位の俺がひとりで見てるよ」
「とりあえず皆散策して来い、ついでに準備もしとくから」

華澄
「あ、でしたら拙者も残るでござる」
「ひとりより、ふたりの方が良いでござるよ」

女胤
「くぉらぁっ華澄さん!?」
「2位あがりの癖に何1番良い所取ろうとしてるんですの!?」


華澄は無論下心0だろうがな!
そして、下心しかない女胤はこう主張する。


女胤
「最下位争いはこの私!!」
「つまり、聖様とふたりきりは私でございますわ~♪」


「よっし、女胤がやってくれるらしいから皆で行こうか!」

女胤以外
「お~♪」


こうして、俺たちはさっさとその場を離れた。
女胤はひとり取り残され留守番を余儀無くされる。


女胤
「えっ? あの、ちょっと……」ぽつーん
「納得いきませんわーーー!?」



………………………



守連
「あ~虫さん発見♪」


「おっ、カマキリじゃん、結構デカいな」

阿須那
「しっかし、まだまだセミはうるさいな~」

華澄
「それはそうでしょう、セミも夏に命を賭けているのですから」


とりあえず、俺たちはその辺を散策して歩いている。
やや山道からは外れた道で、林の中を進んでいたのだ。
道中には虫やら鳥やらが多数おり、まさに野生の宝庫の様だった。


華澄
「水場の音がしますな…近くに湧き水でも有りそうです」


「よしっ、なら行ってみようぜ! 案内してくれ」

華澄
「承知! 先頭はお任せを!」


そう言って軽快に先頭を歩く華澄。
俺たちはそれに付いて行き水場を目指す。



………………………



サァァァァァァァ!



「おっ、これか~」

守連
「小さな川みたいになってるね~」


守連の言う通り、そこは山から湧き出る水で川になっていた。
小さいとは言っても30cm程は川幅があり、深さも魚がちゃんと住める位の物。
ここからずっと下って行けば、海にまで繋がっているのかもしれない。


阿須那
「この辺の魚とかって食えるんかな?」


「どうだろうな? 食えなくはないだろうが、そんなに大きくないし、止めた方がいいんじゃないか?」

華澄
「そうですな、川の大きさから言っても小魚ばかり」
「食べるのに適しているとは思えませんな」


俺と華澄がそう言うと、阿須那も納得した様でそれ以上は何も言わなかった。
守連はニコニコしながら川の魚を見て笑っている。



(守連、楽しそうだな)


思えば、コイツは俺と初めて出会ってから1度も外には出なかった。
俺に従順で、いつも俺を頼っている。
だけど、コイツも成長しているのかもしれない。
気が付けば俺に意見する様にもなったし、家の事を少しでも任せられる様にもなった。
今や、こうやって一緒に旅行に来て、コイツもしっかり家族しているのだと、改めて気付かされるな。


華澄
「…そろそろ戻りましょう、徐々に日が傾き始めています」
「今から戻れば、丁度良い位の時間になりましょう」


華澄がそう言うので、俺はスマホで時間を確認する。
確かに良い時間だ。
結局、女胤は放置してしまったが大丈夫だろうか…?
俺は妙に不安を抱きつつ、広場に戻る事にした。



………………………




「何じゃ、ありゃあ…?」

守連
「わぁ~鳥さんと蝶々さん一杯~」


戻って来てみると、女胤は折り畳みの小さな椅子に座りながら、鳥や蝶々と戯れていた。
妙に甘い香りがし、俺たちの回避が下げられた様だ。
とりあえず俺は声をかける事に。



「何やってんだお前、こんなに鳥とか集めてどうする!?」

女胤
「いえ、何となく寂しくなってしまって…」
「気が付いたら、色々集まってましたわ…」


「気が付いたらじゃねーだろ!?」
「明らかに『甘い香り』だよ! お前の花から漏れてるよ!!」
「良いから止めろ! バーベキューが出来ん!」
「食材やられてないだろうな…?」


俺はクーラーボックスを開けてみるが大丈夫の様だった。
とりあえずしばらく鳥やら虫やらを追払い、俺たちはバーベキューの準備をする。



………………………




「よっし、火はOK! 早速食材焼いていこうぜ!」

華澄
「承知! 肉と野菜と…」

守連
「とうもろこし~♪」

阿須那
「で、焼けたらタレを塗ると…」

女胤
「流石に結構煙がしますわね…」


俺たちは思い思いのペースでバーベキューを焼いては平らげていく。
皆仲良く、本当に楽しく、やがて全員が満腹になり、バーベキューパーティは幕を閉じた…



………………………




「ゴミはちゃんと持ち帰るぞ? 立つ鳥跡を濁さずだ…」

華澄
「コンロの方はお任せを、網は軽く洗っておくでござる」

阿須那
「食材も見事に食い切ったな…さっすが守連」

守連
「えへへ~美味しかった♪」


守連は心底幸せそうだった。
本当に来て良かったな。
皆楽しそうだったし、今回の旅行はやっぱり来て良かった。
母さんには感謝しないとな。



(母さん…か)


俺はゴミを集めていた手を思わず止める…守連に会ってもう2ヶ月。
このままだと、いつかは親の目に触れる事になるだろう。
そうした時、俺は親に何て言えば良いのだろうか?
家族が4人増えました!とでも言うのだろうか?
普通に考えたら有り得ない…流石に誤魔化しは効かないだろう。
いくらあの親でも、俺の親だ。
いずれは、正直に話さなきゃならなくなる。
その時、俺はしっかりコイツ等を守れるのだろうか?


華澄
「聖殿?」


「えっ? 何だ?」


見ると華澄が心配そうに俺の顔を覗いていた。
何か、最近多いな。
華澄の奴、洞察力良いから、いつも俺の表情とか見てるもんな…


華澄
「何か、不安があるのですか?」


「…あると言えばある」


俺は正直にそう言う。
これは、決して避けては通れない道だから。
俺は意を決し、皆に向かってこう言った。



「きっと、いつか俺の親も帰って来る」
「その時、俺は包み隠さず、お前たちの事を白状するつもりだ」
「お前たちは、俺の大切な家族だって…」

華澄
「…そうですか」

阿須那
「そんなん、気にする事無いねんで?」


俺が言うと、華澄は微笑し、阿須那は軽く言う。
そして、それを聞いていた残りふたりも。


女胤
「例え何があろうとも、聖様にご迷惑はお掛けしません」

守連
「私も、邪魔になったらいつでも出て行くから…」


「バカッ! そんな事言うなよ!!」


俺が強く言うと、守連はビクッと驚き、耳を垂れ下げて俯く。
俺はそんな守連に優しく、こう言ってやった。



「大丈夫だ、俺は絶対にお前たちは見捨てない」
「親がダメだって言うなら、家を出て、お前たちと一緒に暮らす方を選ぶ」
「その時は前途多難になるだろうけど、それでも皆で力を合わせれば絶対大丈夫だから!」

阿須那
「そうそう! そうなったら、ウチがちゃんと食わしてやるさかい、心配いらへんで?」

華澄
「住まいも窮屈にはなりましょうが、それもまた一興でござろう」

女胤
「そうですわ! そうなったら、今度こそ私も働いて稼いで見せます!」

守連
「うん、そうだね…信じるよ、聖さんの事」
「信じるよ…皆の事を♪」


もう日も沈みかけ、徐々に暗くなるキャンプ場。
そんな中で、俺たちは家族でひとつの誓いを立てた。
必ず、皆で一緒に生きようと。
何故なら皆…欠け換えの無い家族なのだから。



………………………




「………」


俺は帰りの電車でうたた寝をしていた。
昨日はあまり眠れなかったからな。
これからの事を考えると、気が張ってしまっているのだろう。
もう、夏休みも終わる。
退屈な学校生活が、また始まるのか。

守連たちは、それでもいつも通り生活するのだろう。
そこに、何か変化はあるのだろうか?
俺には何も予測出来ない。

ただ、皆とは絶対に離れたくないと、思った…


守連
「………」


俺の肩に重り。
俺が僅かに目を開くと、守連が俺の肩に寄りかかって寝ていた。
昨日も遅くまでゲームやってたみたいだからな…
俺は気にせず、そのまま眠る事にする。
皆も気を使って静かにしてくれているのか、電車の音位しか今は聞こえない。

そして、俺の側で眠っている守連が、小さく呟いたのが聞こえた。


守連
「…離れたく、ないよ」


それはまるで、祈る様な呟きだった。
ただの寝言なのだろう。
だが、その言葉は何故か印象に残る。
俺はそれでも眠気には勝てず、しばらくして完全に眠りに落ちた…










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第5話 『大切な家族、大切な誰か…真実と理想の果てに』

第2章 『家族の誓い』




…To be continued

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