第2章 第2話

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読了時間目安:24分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

阿須那
「ほな、行ってくるで~」

守連
「うん、気を付けてね~?」


ウチは玄関で守連に送られ、家を出る。
時間は朝の8時半、今から仕事や。
女胤が増えた事で、また生活費カツカツに近付いた。
ウチの収入だけで、5人は正直キツいやろ…
聖は何とかする言うとったけど、そんなすぐには解決出来へんやろな。

ウチはそんな事を考えながら、商店街へ向かう。
徒歩なら、大体15分。
仕事場に着くのはおよそ9時前や。
もっとも、開店自体は朝の6時から。
名目上はコスプレ喫茶店やけど、実はコスプレ喫茶店としての営業時間は10時~18時までの間だけや。
それ以外の時間は通常の喫茶店として営業しとる。
まぁ、ウチはその内のコスプレ部隊の店員やから、8時間勤務って訳やな。



………………………



『喫茶 こすぷれ~ん』


阿須那
「……」


ウチは相変わらずのユルい店名が書いてある看板を眺める。
看板は店先に置いてある奴で、内臓ライトで光る奴や。
時間は予定通り9時前、店内には既に何人か客がおる。
ウチはそれを一瞥して店の裏側に向かい、店員用の出入り口に向かった。



………………………



阿須那
「おはようございま~す」

店員
「あ、阿須那ちゃんおはよう~」


ウチがそう挨拶すると、店員がひとり、またひとりとウチに挨拶を返す。
今ここにいるメンバーが、いわゆるコスプレ部隊。
計8人体制で、内バイトの学生が5人。
学生部隊は基本4時間勤務で、10~14時の前半部隊と14~18時の後半部隊に別れてる。
今ここにいるのは、当然前半部隊やな。
で、ウチ含めた残りの3人がフルタイムの社員部隊。
基本的に18歳以上で、社会人。
ちなみに、この中ではウチの20歳が1番若い事になる。


年上の店員
「阿須那ちゃんも慣れてきたし、もう立派な店員ね♪」


そう言って笑顔でポージングし、ウインクするのが、この店で最年長の風路(ふうろ)はん。
年は24歳で、経験年数は何と10年。
この店の店長はんの娘で、実質次の店長候補らしい。

見た目は腰の上まで来る茶髪ツインテールが特徴の美女。
風路はんは、この店のスタッフで店長の次に地位の高い人でもある。
とはいえ、基本的に気さくな方で、何でも親切に教えてくれる良い先輩や。

元々この店でコスプレをやる事を提案したのも風路はんで、店名を考えたのもこの人。
コスプレイヤーとしてもかなりのベテランで、そのコスプレレパートリーも多岐に渡る。
風路はんの様々なコスプレを着こなす様は、まさにベテランその物。
コミケとかにもよう出てるらしく、その道ではちょっとした有名人らしい。

おかげで、こんな小さな街でも客は相当来る。
風路はん目当ての客が大半みたいやが。
とはいえ、後に店長をやる事も考えてるんか、最近は若手を育てるのが楽しみらしい。
コスプレ部隊として店員やるのも、今年が最後言うとったからな。
実質、それからは本格的に店長として働く気なんやろ。
それだけ、この店がやっぱ好きなんやな。


バイト店員
「阿須那さん、いつも狐耳と九尾の尻尾を付けたままで来ていますけど、動き難くないんですか?」

阿須那
「まぁ、慣れとるさかいな…そんなに辛くはあらへんで?」


ちなみに今着ているワンピースは給料で新しく購入した奴や。
色は赤で、スカート部分がかなり大きいタイプ。
これならウチの九尾でもしっかりと下まで隠れる。
とは言え後方に不自然に広がりは出来るから、やや違和感はあるかもな。

帽子も自分用に新しくし、耳が余裕を持って隠れる様に大きめの麦わら帽子にした。
帽子の中に余裕があるから耳も潰されへんしな。
元々耳は良いさかい、帽子に隠れても音は十分拾える。


バイト店員
「うーん、そこまで横着しなくても、店で着替えたら良いのに」


そらそうや、人間ならわざわざこんな面倒臭い偽装せぇへんやろ。
ウチがポケモンなんわ、バラす訳にはいかへんからな。


阿須那
「ほな着替えてくるわ」

バイト店員
「はーい」

風路
「阿須那ちゃん、今日はメイドデーだから専用リボン忘れずにね?」


ウチはそれを聞き、はいと答えて更衣室に向かった。
この店では日毎に何のコスプレをするかが決められており、客にも前以て解る様に公開しとる。
せやから、その日その日によって客層は全く異なり、毎日がほぼ新しい顔ぶれになる事も珍しくない。
もちろん、毎日来てくれる固定客も数多くおるから、毎日商売繁盛や♪



………………………



店長
「それじゃあ皆! 今日も1日!!」

店員一同
「こすぷれ~ん♪ ハイッ!!」


店長の合図と共に、ウチらは全員一斉に腰を曲げ、額に右手を翳し、左手は腰に当て、やや見上げる様な顔の角度でウインクして笑う。
そして、次に右手を上げて軽くジャンプし、ハイッ!の掛け声。
これは毎日恒例の挨拶や。
そしてこの基本ポージングがこの店の特徴。
毎日これをやる事で、その日の店員の調子を店長が確認しているらしい。


店長
「おっけ~♪ 今日も皆素敵よ!」
「それじゃあ! 皆頑張ってね!!」


店長がそう言ってパンッと手を合わせると、皆はそれぞれ客のいる店内に入って行った。
ちなみに、ここの店長はガチムチのニューハーフ男性。
優しくも厳しい誠実な人で、皆全幅の信頼を寄せてる。
ウチもこの店長は尊敬しとるし、この街でも店長は相当な有名人や。
本人はコック担当の為、客の前に出る事はあまり無いけど、店長の料理は絶品で、コスプレやのうて料理目当てで来る客もいる位凄い。
ホンマ、これで何で男やったんやろ?
女やったら誰でも放っとかんかったやろな。
とはいえ、これでも風路はんの父親らしいし、一体何があったのか?
その辺は流石に聞くのは躊躇われたし、ウチも突っ込む気は起きんかった…


店長
「あ、阿須那ちゃん、今日終わったら1度私の所に来てくれる?」

阿須那
「あ、はい…何かあるんですか?」

店長
「うん…ちょっと話したい事があるのよ」


店長は綺麗な金髪のウェーブがかかったセミロングの髪を靡かせ、笑いながらもやや真剣にそう言った。
私はとりあえず了承し、そのままホールに向かう。
さぁ、今日も楽しい仕事が始まる。



………………………




「阿須那ちゃん、こっち向いて~♪」

阿須那
「はいは~い♪ ご主人様に、こすぷれ~ん☆」


ウチは客のリクエストに答えてポージングする。
すると数人の客が大歓声。
大体いつもこんな感じだ。
皆、美味しく料理を食べて、笑顔で帰って行く。

店の制限で、ひとりの客毎に入店は1時間の時間制限がある為、小さな店ながらも客の回転は速い。
テーブル席の数は40席程で、テーブル数は10。
他にもカウンター席もあって、そっちでは5人程が座れる。
とは言え、コスプレ時間の内はカウンターを使う事はあまり無い。
そこはどちらかと言うと、コスプレ時間でも普通に来店したい一般客用の席やからや。
一応、ここは普通の飲食店でもあるからな。



………………………



そして、時刻は18時。
フルタイム部隊も今日はこれであがりや。


店長
「皆お疲れ様! 今日はこれでお仕舞いにしましょ♪」


店長の言葉を聞き、ウチたちは仕事モードを解く。
そして、各々仲間内で今日のコスプレの感想等を言い合ったりしていた。


阿須那
(そう言えば、店長が話ある言うとったな)


ウチはそう思って先に店長の下に向かった。
ウチの姿を見ると、店長はパァッと笑う。


店長
「今日もありがとう阿須那ちゃん!」
「それじゃあ、着替えてからで良いから、後でスタッフルームに来て」

阿須那
「はい、分かりました」


ウチも笑ってそう返す。
そして、一足先に更衣室へと向かった。
スタッフルームか…一体何があるんやろ?
とりあえず疑問に思いながらも、ウチは早く普段着に着替えてスタッフルームに向かった。



………………………



阿須那
「店長、それで話って何です?」

店長
「うん、その事なんだけど…阿須那ちゃん、仕事辛く無い?」


店長はやや心配そうにそう言うた。
ちなみに今も店長はコック服で、すぐに夜の仕事にも回らんとあかん。
店長の見た目は、あえて口髭を濃い目に生やしており、綺麗に手入れもされてる。
髪は肩まで着く位のセミロングで金髪に染め、体格はガチムチの肉体派系。
コック服の上からでも解るその筋肉は、本人も誇りに思っている肉体美やそうや。

そんな店長に、ウチは笑って答える。


阿須那
「辛い事なんてありまへん、ウチはこの仕事大好きですし♪」
「店長はんもホンマに尊敬できる人やし、風路はんも凄い人や」
「そんな、素敵な店で働いてるんやから、辛い事なんて何もありません」

店長
「でも、あなたの顔は少し雲って見えるわよ?」


店長のその言葉に、ウチは一瞬固まる。
しまった…と思うが遅い。
店長は朝のポージングを見るだけで、全ての店員の体調を見抜ける程洞察力の高いお方や。
ウチの体調も、見抜かれてるか…


店長
「…やっぱり、無理してるのね?」

阿須那
「だ、大丈夫です! ウチは……」

店長
「聞いて、阿須那ちゃん?」


ウチが言おうとする前に、店長は口を挟む。
全部バレている…そんな気はした。
せやけど、店長の声は柔らかく、決して怒っている口調や無い。
むしろ、子供を諭す親の様な感じの声。
ウチは、そんな店長の声を聞いて、何も言えへん様になった…


店長
「私はね、貴女の事大好きよ?」
「初めて貴女を見た時から、あぁ…この娘は絶対人気者になると、確信を持てたわ」
「私にとって、貴女は宝石なの」
「でも、その宝石はまだ原石で、磨かなければ輝かない」
「私の言いたい事、解る?」


店長は優しも厳しくそう言うた。
解りやすく言えば、休んだ方がええ…や。
確かに週6フルタイムは精神的にもキツい。
せやかて、風路はんなんかほとんど休み無しで出てるんや、ウチだけ休んでられへん。
ただでさえ、生活があるんに…


店長
「気持ちは解るわ、でも考えて?」
「いかに素晴らしい原石でも、磨き方が悪ければ壊れてしまう物なのよ?」
「これが長く続けてる風路なら大丈夫だけど、貴女はまだ2ヶ月足らず…」
「端から見ても、コンディションが悪いのは解るわよ?」

阿須那
「店長の気持ちは有りがたいです」
「でも、ウチが稼がんと、4人も食いぶちおるさかい…」
「せめて、他の収入が見付かるまで…」


ウチも無理を言うとるのは承知や。
店長はんも、そう簡単には退かんやろ。
せやけど、金がいるのは事実や。
ウチは立場上年長者として、大人として家族を養わなあかんねや!


店長
「…家族思いなのね、阿須那ちゃんは」
「じゃあ、こうしない?」
「少しでも体調が戻るまで、夜メインだけでしばらく働かない?」

阿須那
「夜メイン、でっか?」

店長
「そう、フルタイムは少しの間止めて、代わりに夜に出る」
「夜の方の給料は、フルタイム以上に色を付けてあげるわ♪」
「多分、思っている以上にキツいから」


店長の提案を少し考える。
確かに、半分の勤務時間でそれなら、その方が幾分か楽やな。
給料に色付くなら、悪くは無い。
と、ここでウチは重大な欠点に気付く。
そう、ウチの耳と尻尾や…夜勤務やと、当然コスプレしてへん。
そのまんまホールに出たら違和感バリバリやないか!


阿須那
「あの、流石に夜でコスプレしたままってのは…?」

店長
「出来れば、それは止めて頂戴…夜のお客さんは、あまりそっちの趣味じゃないと思うから」


せやろな…となると、やっぱアカンか~
ウチが大きなため息を吐き、頭を抱えると店長は軽くこう言う。


店長
「阿須那ちゃん、その耳と尻尾…本物なんでしょ?」

阿須那
「えっ!?」


ウチは唐突過ぎて思いっきり驚き、店長の顔を見る。
店長はクスクス笑っており、ウチはまさか…?と思った。


阿須那
「店長、もしかして気付いてて…」

店長
「当然、面接の時点で気付いてたわよ?」
「だってアクセサリーみたいな臭いじゃなかったもの…」
「尻尾の動きもリアル過ぎるし」
「まぁ、多分気付いてるのは私と風路位だから、大丈夫だとは思うけど?」


あっさりそう言われる。
しかし、それなら何で今まで…?
そんなウチの疑問に答える様に、店長はウインクをして言葉を続ける。
こういう仕草とか、やっぱ風路はんと親子なんやな…というのを感じた。
風路はんも、ようウインクしはるからな…


店長
「言ったでしょ? 貴女を初めて見た時から、確信したって」
「その言葉に嘘偽りは一切無し」
「貴女には、隠さなければならない事情があるのも解ってる」
「だから、貴女は何も心配しないで?」
「夜の仕事も、基本は私のサポートに回ってもらうから」
「つまり、サブのコック…」
「風路同様に、私が直々に一からしっかり叩き込んであげるわ!」

阿須那
「ウチが…コック!?」


それはとんでもない話だ。
店長の味はかつてイタリアで鍛えられたと言われる、まさに三ツ星級の腕前。
そんな人が自ら、ウチに料理教えてくれる言うんやから…
成る程、想像以上にキツい言うだけあるわな…
せやけど、これはチャンスや!
店長の味を覚える事が出来たら、やれる事も沢山増える。
ウチの正体気付いてて、わざわざそう言ってくれたんや。
これには絶対答えんと…! 店長はんや風路はんに恩返しせな!!


店長
「どう? 腹は決まったって顔だけど」

阿須那
「やります! やらせてください!!」
「店長の味、必ず身に付けてみせます!!」


ウチが強い意志でそう言うと、店長はとても嬉しそうに笑ってくれた。
例え本物の人間でなくても、ウチを信じてくれる人はいる。
その信頼に、全力で答えるんや!!

こうして、ウチの新たな戦いが始まった。



………………………



ジューーー!!と夜の厨房で米を炒める音が響き渡る。
ウチは初めて扱う中華鍋を片手で扱いながら、相当に苦戦してた。


店長
「ダメよ! それじゃあ火力が弱すぎる」
「しっかりと適正火力で炒めなさい!」

阿須那
「はいっ!!」


ウチはまず簡単に炒め物を教わっていた。
シンプルな物やが、客の間では人気メニューらしく、大量に注文が入る。
せやけど、シンプル故に覚える事は割と少ない。
こういう基本がまずは大事なんやな…
それでも、今のウチには未体験過ぎる内容やった。
改めて、聖や華澄が料理してるのは凄い事なんやな…



………………………



店長
「阿須那ちゃん、追加が入るわよ!?」

阿須那
「はいっ!!」


時刻はもう20時前。
閉店が22時やから、後2時間。
せやけど、ここから仕事帰りで飯食いに来る客が急増する。
ウチの焼き飯はまだまだ微妙やけど、それでもとりあえず食えるモンにはなってるはずや!



………………………




「あれ? いつもと味変わった?」

店長
「あら、やっぱり解かっちゃう?」


私があえて阿須那ちゃんの作った焼き飯を持って行くと、客はすぐに反応した。
このお客は常連の人だから、やっぱりすぐバレるわね…
私はウインクをし、一言謝って事情を説明する。


店長
「ゴメンなさい…実はね、今日は私の弟子の初めての料理なの♪」


「そうだったのかい! そうか、店長も風路ちゃん以来に弟子見付けたのか~」
「うん、初めてにしては結構良い味出してる! しっかりと愛情が籠ってるのは解るよ♪」


常連客の感想を聞いて、私も頬が緩む。
やっぱり阿須那ちゃんは凄いわね。
ちょっと教えただけなのに、もう常連客に美味しいと思わせるなんて♪
私はまるで自分の事の様に内心喜ぶ。
ふふ…風路も最初は四苦八苦してたものね♪
あの時も、私はとても嬉しかったっけ…


店長
「そう言ってもらえると嬉しいわ♪」
「きっと、これからもっと美味しくなっていくと思うから」
「だから、これからも弟子の料理を期待しててね?」


私はまたウインクをしてそう言う。
大丈夫、きっとあの娘は答えてくれるわ。
だって、本当にあの娘は良い娘だもの…



………………………



阿須那
「お、終わった~~~…」


約4時間の死闘。
初め1時間程基本を教わって、結局ラスト2時間はひたすら焼き飯だけを作り続けた。
店長は後半ニコニコ顔で、自身で他の料理を作りながらウチに指導もしてくれたんや…改めて超人やなこの人は。
せやけど、それなりに満足してもらえたんかな?
ウチはキッチンから1度も出てへんから、不安でしゃあないわ。


店長
「お疲れ様、初日にしては上出来だったわ♪」
「でも、私や風路の味にはまだまだ」
「時間はかかると思うけど、腐らずに続けてくれると嬉しいわ♪」


やっぱ、優しくも厳しく言われる。
せやけど、そんな店長の愛情こそがあの味を出してるんやろ。
ウチも…少しづつでも距離を縮めへんと。
まずは、風路はんに追い付ける様に…か。
あまりにも高い壁には感じた。
風路はんは小さい頃から店長直伝に料理は教わってたらしく、店長が忙しい時はヘルプで料理をする事もあるからな…
そんな風路はんは、やっぱりウチが尊敬する大先輩や。


店長
「阿須那ちゃん、決して無理はしちゃダメよ?」
「コックというのは、キッチンで戦う戦士」
「ここは戦場、決して甘い気持ちで立つ事は許されないわ」

阿須那
「解ってます…自分の体に嘘は吐きません」
「アカン時は、アカンて言います…」


正直、ここまで辛いとは思ってへんかった。
店長は朝イチからこの時間までほぼひとりで戦っとるんや…やっぱ超人やな。
改めて、コスプレ部隊の仕事は温いのだと感じた。
ウチ等があの程度で疲れてる間、店長はもっと地獄の戦場でニコニコして、ウチらを見守ってくれてるんやから…


店長
「それじゃあ、今日はここまで」
「帰ってからしっかり休んで、明日同じ時間から、また4時間頑張りましょ♪」

阿須那
「はいっ、必ず店長の期待に答えます!」

店長
「うふふ、でも絶対に無理はしないでね?」


ウチは最後にもう1度強く頷く。
せやな、ウチが倒れたりしたら、聖たちはどないしようも無くなる。
それだけは絶対にアカン。
ちゃんと、自分で体調はコントロールせな…


店長
「さ、もう着替えて帰りなさい? そしてしっかり休んで…」
「私も、明日の仕込みをしたら休むから♪」


そう言って店長はひとり仕込みに残った。
ホンマに超人やな…コックって皆あんなんなんか?
店長だけが特別やないんかな…?
ウチはそんなコック業に疑問を持ちながらも、ひとり帰路に着く…



………………………



阿須那
(アカン、想像以上に疲れとる)


仕事中は気が張っとるから全然大丈夫やったのに、終わった途端これか…改めて店長は超人やな。
いや、店長だけやない…風路はんも音なんかあげた事無いんやから。
とはいえ、ウチも早く体調戻して慣れていかなあかん。
店長も期待してくれてはるんや、何とかコスプレ部隊と両立出来る様にせな。


阿須那
「皆の事は、絶対助けたるからな…!」


ウチは誰に聞かれるでもなく、そう呟く。
それはウチの意地や。
例え何があっても聖たちは見捨てへん。
聖たちは、ウチの家族なんや…
それだけやった…今のウチの1番の支えになってるのは。


阿須那
(せやけど、なるようになる、か…ホンマ、面白いやっちゃなぁ♪)


ウチは聖が前に呟いた言葉を思い出す。
難しい事を難しく考えてもあかん。
もっと、前向きに考えな。
そうしたら、ウチは不思議と体が軽くなった気がした。
これなら、きっと明日も大丈夫や。


阿須那
(ありがとな、聖…ウチの事、受け入れてくれて)


それは純粋な感謝やった。
ウチひとりやったら、絶対途方に暮れてた。
せやけど、聖が受け入れてくれたから、ウチはここにおるんや。
そう思い、ウチは心を新たに歩いて行く。
これからも大丈夫や…皆が、居てくれるなら。



………………………



店長
「あら、まだ起きてたの?」

風路
「うん、今日は阿須那ちゃんが出てたんでしょ?」


私は笑ってお義父さんにそう言う。
そう、この店の店長である『苧環 勇気(おだまき ゆうき)』は、私の義理の父。
私は元々捨て子で、この店の裏で捨てられていたのをお義父さんに発見され、その後養子として迎えられた。
それから、私はお義父さんから料理を教わり、好きだったコスプレを生かす為に、お義父さんに無理を言ってこの店でコスプレ喫茶店をやらせてもらっている。

結果的には大成功したから良かったものの、もし失敗してたら、阿須那ちゃんにはきっと会えなかったわね…


勇気
「風路、貴女から見て阿須那ちゃんはどう思う?」

風路
「間違いなく逸材! …でも、隠し通すのには限界があると思う」


そう、何と言っても阿須那ちゃんは人間ではないのだから。
この事に気付いているのは、多分私とお義父さんだけ。
もちろん、この事について私は一切問い詰めないし、それを咎める事もしない。
だって、阿須那ちゃんは本当に良い娘だから…


勇気
「今日、阿須那ちゃんの正体の事は本人に話したわ」

風路
「!? そう…それで、阿須那ちゃんは?」

勇気
「その上で、私たちに恩返しがしたい…だって♪」


お義父さんは嬉しそうに笑った。
久し振りに、こんなお義父さんの笑顔は見たわね…
やっぱり、阿須那ちゃんは凄い娘なんだ。
例え人間でなくとも、彼女は人と同じ心を持ってる。
私も、嬉しくなって来た。
これからも、きっと阿須那ちゃんとは一緒に働けるのだろうから。
そしてそれは、とても楽しい事。
好きな仕事で、楽しんで働けるなら、それはとても幸福だと思う。


風路
「ふふ…♪」

勇気
「あら、嬉しそうね?」

風路
「もちろん! だって、阿須那ちゃんの事は、私も大好きだもの♪」


それは私の正直な気持ちだ。
きっとお義父さんも同じ気持ちのはず。
だから、お義父さんも嬉しそうに笑ってる。
きっと、阿須那ちゃんはこれからどんどん成長するんだろうな~
私も、追い付かれない様に頑張らないとね♪



………………………




「阿須那、初めての夜勤だけど大丈夫かな?」


俺は自室で宿題をこなしながら、阿須那の事を心配する。
そして思い出す、阿須那のあの疲れた顔を。
決して、自分から音は上げない阿須那は、やっぱり無理をしていたんだ。
それを、仕事先の店長に諭され、しばらく夜勤のみの4時間勤務で働く事になったらしい。


阿須那の給料はその店長さんが家庭に影響無い様にと、気を利かせてくれているらしいが、やはり迷惑はかけてるのかもしれないな…
やっぱり、他の収入も考えた方が良いかな?


コンコン…



「ん…もしかして華澄か?」

華澄
『はい、少々よろしいでしょうか?』


俺はああ…と返事し、華澄はドアを開けて部屋に入って来る。
別に暗い顔はしてないな…フツーの表情か。
しかし、一体何の用だろうか?


華澄
「聖殿、拙者…やはりバイトをする事に致しました」


「!? バイトだって…?」
「お前、それ何の仕事だ?」


俺はかなり驚くも、華澄は冷静。
そして、華澄は落ち着いた声でこう話す。


華澄
「新聞配達の仕事です」
「朝のみの仕事としてますので、家事には負担はかけませぬ」
「ご心配には及びません…きっと家族に負担はかけませんので」


華澄は微笑んでいた。
俺は、この際受け入れる事にする。
多分、こうなったら華澄も退かんだろうしな…隠れてやられる位だったら認めた方がまだ楽だ。



「分かったよ、その代わり無理はするなよ?」
「家事だって、休みの日なら俺も出来るから…」

華澄
「はい、ありがとうございます…この華澄、必ずお役に立ってませます!」


そう言って礼をし、華澄は部屋から出て行く。
俺は、はぁ…と大きく息を吐き、とりあえずこれからの事を考えた。
まぁ、なるようにしかならないか…
俺みたいな弱い人間は、こういう時…信じてやる事位しか出来ないもんな。

俺は、改めて自分が弱いのだと気付く。
所詮、俺は子供でしかないのだ。
阿須那や華澄の様に、働いて稼ぐ…ってのも出来なくはないんだが、守連や女胤の事を考えると出来ればそれはしたくない。
ましてや、華澄まで働くとなると、今まで以上に俺が家を見てやらないと…
華澄まで不調になったら、俺どうすりゃ良いのか…

俺は、そんな自分が少し嫌になった。
そして、俺はそんな自分から目を背ける様に宿題に没頭する。
こうしてる間は、不思議と嫌な事は忘れられる。
そんな俺は…最低の人間なのかもしれない。










『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』



第2話 『キュウコンの攻撃と特攻は実は5しか変わらない』


To be continued…

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