封印の鉄壁鎧と長柄戦斧

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:12分
 今回の試合形式は、お互いの大将が五名の騎士を用意し、それぞれが一匹づつポケモンを出して、勝ち抜きで一騎打ちを行う。
 この形式に至るまでは少々複雑な歴史があり、元々は四名を選出し四対四の勝負であったが、いつしか最後に王自らがポケモンを出して戦うようになっていた。だが、よほどの武勇と指揮に優れた王でない限り、日々の鍛練を重ねている騎士たちに対して勝ち目がないため、最後の王の戦いは飾りになっていた。王侯貴族にとって血を流すことは卑しいこととされていたために、むしろ戦わないことが礼儀でもあった。
 そのため実際には四対四であり、偶数の四名では決着がつかないため、いつしか騎士を五名選出するようになり、この時代では六対六の戦いとなっていた。
 なお、ここでの四人+一は後に『四天王+チャンピオン体制』の元となり、六対六は後世のポケモンリーグ公式試合のレギュレーションとして、手持ち六体がフルバトルというルールに受け継がれている。また、最後の王が飾りと自覚した上で美麗なワザのパフォーマンスを行い、その美しさに相手が拍手して膝をつかせたことから、コンテストバトルという文化が生まれたとされている。

 カゲマサとゲンジは新教、つまりは民衆軍の三番手として試合にエントリーしていた。
 多く領地と資金を持ち、たくさんの優秀な騎士を抱える国王軍に対して、民衆軍にはそのようなものは無く、各地の騎士たちは国王および領主からの庇護を失うことを恐れ、ほとんどが民衆の味方につかなかった。
 新教への弾圧に怒って決起してみたものの、今こうして蓋を開けてみれば、自分たちに逆らう不穏分子を新教ごと潰そうという魂胆の、国王の巧妙な挑発に見事に乗ってしまったという形だった。その戦力に悩む民衆軍に、カゲマサは自分を売り込んだ。
 忍びの者は影に生きて陰に死ぬ、とカゲマサは幼き時から教わっており、当然そのように生きるべきだと考えていた。この土地にも影に生きて闇に暮らす生業は存在していたが、主との強い信頼関係によってのみ成り立つものであるため、何代にも渡って王侯貴族と密接に結びついていたそのような仕事を、見知らぬ場所からやってきた余所者がありつけるはずは無い。
 食うためには仕事をしなければならないが、そのためにはまず実績が必要だった。外套と頭巾で顔を隠し続ける影の暮らしにこだわらず、頭巾を脱いで光の前に出なければならない、カゲマサはこのチャンスを逃さなかった。
 五人のうちの三番手とは、あまり期待されていないポジションかもしれないが、悪魔の化身を連れた余所者ごときが、この晴れ舞台に立つなど夢物語だろうと思っていたため、戦いの場に出られるというだけで充分な成果であると自負していた。


 o◇  o◆  o◇  o◆  o◇  o◆


「まずは一勝か」
『然り。下の目標には到達できたか』
「ああ、最低限の仕事はできた」
 初戦は勝利を収めて、ひとまず成果らしいものを残すことができた。
 次の対戦相手が所定の位置に着くまでの休憩時間に、一人と一匹で話をする。
「なんとか勝てたな」
『薄氷を踏んだ気分だ、あまり博打は打ちたくない』
「仕方あるまい」
『ああ』
 先ほどのオンバーンとの戦いは一歩間違えれば負けになる危険な賭けだった、
 しかし、高射程で高命中力の狙撃、上下左右に全方向の範囲攻撃と隙が無く、持久戦に持ち込もうにも高名な騎士のポケモンなので鍛え方が違い、こちらが先に力尽きるかもしれない。
 先ほどのように奇策を用いて一気に勝負を決めない限りは勝機は無かったと思われる。
『さて、仮に勝ち進み、大きな成果を得たならば、主は如何にする? カロスに帰るか?』
「それは……」
 カゲマサは口ごもった、答えは定まっていたはずだが、自分の中でまだ迷いがあったかもしれない。
『御免、無粋な問いだ、忘れろ』
「いや失礼した、何か土産を持って、カロスに寄ってちゃんと詫びの一つは言わなければな、ただ帰るつもりは無い。俺はお前と忍びとして闇に住むんだと決めたんだ」
 そう話しているうちに次の相手が位置に着く。続けての対戦相手はボスゴドラのようだ。

 そのトレーナーもがっしりとしたガタイの良い男で、分厚い甲冑を着こんで彼自身もよく鍛えられている。強いポケモンほど気性が荒くプライドも高く、弱い存在には従おうとしないため、トレーナー自身の強さも必要となる。仮に暴れた際にはトレーナーがポケモンを組み伏せる必要があったため、ポケモンと共に騎士自身の鍛錬も欠かせない。
 先ほどのオンバーンを連れたフィオラケス・アルビノウァーヌスのように、相手の詳しい経歴は知らないが、力自慢の重量系戦士であるのは間違いないだろう。
「ゲンジ、知ってるか?」
『否、だがブラム氏の処で数度見覚えがある』
「そうか」
 ブラムはカゲマサの友人で、彼が供とするブリガロンと共に王城の門や街の城壁の門を守る衛兵を務めている。
 そこを出入りしているならば、遠くから出張ってきている者ではないということか、とカゲマサは推測する。

 彼はこの土地では見ることがなく得体も知れぬゲッコウガの姿を、悪魔でも見るような眼で睨みつけていた。とはいえ軽蔑しているわけではなく、オンバーンを倒した確かな強者として警戒している様子だった。敏捷性に長けており水系統のワザを使うポケモンであるとは既に見抜かれてはいるだろうか。先ほどのように、相手の無知を利用して突破することはもうできないと見られる。
 ボスゴドラは鋼鉄の皮膚の上から、全身を重厚で鈍い輝きをした鋼の鎧で覆い、両手で扱うために作られたはずの無骨な長柄戦斧ハルベルトを片腕で軽々とつかむ。戦斧の柄の先端からはヒラヒラとした糸飾りが翻っていた。
 硬くて重い鎧はポケモンの敏捷性を削ぐ上に、激しく動くと皮膚と鉄が擦れて怪我をするため、できる限りポケモンの鎧の面積は減らすべきだとされるが、鋼の皮膚には鋼の装備はしっくりと良く馴染むため、鋼ポケモンに限れば例外とされている。
 敵がどんな鎧を着ようと叩き砕く戦斧、あのようなものがゲンジの柔らかな肌にかすりでもすれば、肉どころか骨ごと爆ぜ飛ぶことは目に見えている。
 
「ならば…… あれは、もしや……」
 カゲマサは相手のボスゴドラの装備について、ある疑念を抱いた。
「封印の結晶を埋め込んでいるかもしれない、まず確認をしよう」
『御意』
「波動展開、水と闇」

image1000

 試合開始の合図と同時に指示を出す。ゲンジはそれぞれ小さなものであるが、右手に[みずのはどう]、左手に[あくのはどう]を作り出し、両方同時にボスゴドラに向けて放つ。それに対してボスゴドラは猛然と戦斧を振り上げて、まっすぐ走って向かってくる。
 二つの波動攻撃は鎧の表面に触れると、弾けて消し飛んだ。ゲンジのすぐ横を駆け抜けざま、戦斧の一閃が襲う。ゲンジは姿勢を低くして前方に飛び出し、戦斧の軌道を下に避けて、地面で一回転してすぐに立ち上がった。
「ワザが、効かない……? やはり……そして速い」
『如何いうことか』
「疾風の首巻と…… なんだ? 封印の結晶か?」

 《封印の結晶》と呼ばれる、ポケモンが持っている不思議な力を打ち消してワザを無力化する特殊な鉱石がある。
 身近な例では、この街全体を覆う城壁にはこれが使われており、これによって外からやってくるポケモンの攻撃を防いでいる。
 本来ならば野生のポケモンの襲撃を防ぐために城壁や人間の盾に用いられるものだが、それを合金として組み込んで鎧を作っているようだ。これを装備にするとワザによるエネルギー攻撃を防ぐことができる一方で、その無力化効果により装備ポケモンはワザが一切使えなくなってしまう。
 だがワザを一切使わずともボスゴドラには元々の筋力と防御力、そして圧倒的な重量がある。ワザをお互いに封じ込め、元々のポテンシャルでの勝負に持ち込む心算のようだ。
 かつ、これだけの重装備に似合わない敏捷性を持っていたことから、ボスゴドラは《疾風の首巻》という『ワザを封じ込める代償に素早さを上げる道具』を身に着けているのだと推測した。
 つまり、唯一の弱点となる鈍足で無くなったこのボスゴドラに対して、ワザを使わない、純粋な力比べをしなければならないということになる。

「ワザは無効にされているようだ、構えろ」
『承知』

 再び打ち込もうとする相手に、ゲンジは一本のクナイを両手で構え、間合いから一歩踏み込んで戦斧の柄の部分を捉えて、相手の攻撃を上手に受け流した。相手は無闇に打ち込むだけでは勝てないと察して立ち止まり、それぞれの武器を握りしめて睨み合う。
 柔軟なゲッコウガの身体の欠点を埋めるために、硬く頑丈さが自慢のクナイであるが、戦斧の攻撃を受けることはできない。わずかでも届きさえすれば、鎧も盾も関係ない、すべてを叩き割って、一撃必殺となるのが戦斧という武器だ。
 先に動いたのはボスゴドラだった、ゲンジの脳天めがけ、叩き割る一撃を振り下ろす、ゲンジはそれを回避しつつ斜め前に跳び、相手の背後に回り込んだ。そして、がら空きの背中に突きを繰り出す。しかし、すばやく向き直ったボスゴドラはそれを斧頭で受け止め、さらにゲンジの身体をクナイごと弾き返した。たまらず後退する。速さは互角、膂力りょりょくでは完全に劣っている。ゲンジの足が半歩だけ後ろに下がった。

「隙は必ずあるはずだ。焦るな!」

 カゲマサの声で、目を凝らして相手の視線の動かし方やわずかな力のぶれを探り出す、そしてゲンジが目を瞑ったその隙を狙い、大きく踏み込んで間合いを詰めて戦斧が振り下ろされる。
 ゲンジは左足で踏み込んで、ワザの[まもる]を展開し、クナイの側面を向けて構える。結晶の効果でワザが大きく弱まっているため、まもるの障壁はあっけない音を立てて砕け散ったが、勢いを削るクッションとしては作用し、戦斧をクナイはぎぎぎと嫌な悲鳴を上げながら受け止める。
 クナイを横にずらして手を離し、戦斧を身体のすぐ横に振り下ろさせる。そして同時に脛当から二本目のクナイを引き抜き、右足を軸に体を一回転半させて、自らの膂力と遠心力が合わさった一撃を背後から、相手の鎧の装備の隙間がある脇腹にねじり込んだ。

 うまく刺さった。

 ねじ込んだクナイをテコのようにしてこじ開けて、出来た鎧の隙間へ更なるクナイを楔として打ち込む、全身をくまなくガードするために複雑に組み合った鎧は、このようにされると関節が固定されて、自由な動きができなくなる。
「渦潮を起こせ」
 ゲンジは地面に両手をつき、大地より大量の水を湧き上がらせて、身動きが取れない相手を巨大な[うずしお]の渦に閉じ込めた。結晶の効果はワザを完全に無力化できるわけではない、クナイによってできた装備の隙間から水が内部に浸水していく。
 そして、外側からの侵入を防ぐと言うことは内側から出ていくことも防ぐということで、鎧の内部に入ってしまった水はボスゴドラの体力を蝕み続ける。素早い動きを封じられて攻撃もままならない今、もう勝負は決まったも同然だった。

 審判の旗が振り上げられ、決着の合図がされると。
 民衆の歓声がどっと巻き起こった。


次回予告 【極彩の悪魔と滑腔式燧発銃】

 現われたのはキュウコン ――のような何かだった

「来るっ 逃げろ」
『ぐ、ぐぁ……』
「いや――」

 大仰な羽根帽子、原色をふんだんに使った胴着、黄金色に光る美しい体毛を台無しにするように、乱暴に絵具をぶちまけたように原色の布を何重も重ねている、本来ならば気品溢れる九つの尾にはまるで統一感がない縞模様や水玉模様の布が巻かれていた。さらに背中にバグパイプのような、ワケの分からない筒を乗せた姿は、背負ったバグパイプをブカブカと吹いて街を練り歩き、騒がしく祭を盛り上げるピエロにしか見えない。
 そんなキュウコンが、ゲンジの放つ水流を炎で焼き尽くし、水をすべて蒸発させながら襲い掛かる。
 悪魔の手先だと罵られてきたゲッコウガよりも、その姿は正真正銘の"悪魔"のようだった。

 そして、苦虫を噛んだように苦々しく、重い口を開く。
「時代は終わったのだ」

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。