第3話 海へ行こう!

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:8分
 食べ物も泊まるところもない私たちに、ご飯と宿泊所を恵んでくれた、ドサイドンのレンドに感謝の気持ちを噛み締めながら歩いていく。

「本当にいいポケモンだったね」

 歩きながら、トワに声をかけた。

「そうだね、たくさん良くしてもらえてびっくりだよ」
「ほんとにね」

 何メートルか歩いたところでふと、止まる。そして言った。

「次はどこへ行くの?」

 目的地を決めなければ先へは進めない。だから、私はトワに問いかける。彼は「うーん」と言いながら悩む。

 数分経ち、彼が顔を上げ、言った。

「海へ、行きたい」

 ……海。聞いた事だけある。真っ青で、大きな水たまり。そして、その眺めはとても綺麗らしい。引きこもりの私は、一切見た事がなかった。

「海……」

 海。気になる。一生に一度は見てみたい……!

「どうかな」

 トワが問いかける。

「……行こう、海」
「! うん!」

 こうして、次の目的地は海ということになった。


* * *


 海へ行こう! と二匹で張り切っていたのだが……。

「何この道、寒……」
「僕もこんなところを通るなんて知らなかった……」

 私たちは、険しい雪道に苦しんでいる真っ最中だった。……海へ向かうためには、この道を通らなければならないらしい。吹雪が吹き荒れ、ゴツゴツとした地面。こんなに過酷な道を歩いたのは初めてだった。
 こちらに向かって吹く冷たい風が私たちの足を止めようとする。戻るにしても、かなり歩いてきてしまったので厳しい。それに、この道を抜けない限り海にはたどり着けない。

「ごめんね、僕もこんなに過酷だとは知らなくて……」
「知らなかったのなら仕方ないわ……」

 吹雪に立ち向かいながら、私たちはゆっくりと進んでいく。しかし、しばらく歩いたところで私の足はもう限界だった。

「と、トワ……もう、無理……」
「フレア、大丈夫……じゃなさそうだね、少し休もうか」

 幸い、少し歩いたところに洞窟があったので、そこで休むことにした。空が雲に覆われているので今の時刻がどのくらいなのか分からないが、お腹が空いているので昼過ぎだろうか。レンドたちが持たせてくれたきのみをたべると、少し体力が回復した。

「大丈夫……行きましょ」
「え、本当に……? もう少し休んだ方が」
「大丈夫」

 正直言って、そこまで大丈夫ではなかった。まだ少ししんどい。でも、これ以上トワに迷惑をかける訳にも行かないと思って、多少無理してでも先に進もうと思った。それが、事をもっと悪くしてしまうとは、まだ知らなかった――。



 足取りが重い。しんどい、だるい……。明らかに体調が良くない。しかし、ここを抜けなければ目的地にはつけないのだ。もう少し、もう少し頑張らなければ……!
 トワの後ろを必死に着いていく。頭痛にだるさにしんどさに、つらかったがあと少しと言い聞かせ、がんばってついて行っていたのだが――。

(あれ、視界がぼやけて……)

 ……ここで私の記憶は途切れた――。


* * *


 ……ア、…………レア……フレア!

 ハッとして、私は目を覚ます。目の前にはトワの顔があった。

「よかった、目を覚ました……!」

 その顔は、安堵に満ちた表情をしていた。しかし、すぐにその表情は変わり、真面目な風になる。

「体調悪いんだったら僕に伝えてよ……! 無理しないで!」

 トワの口調が強くて、私は怯んでしまう。……ああ、と私は雪道で倒れてしまったことに気づく。

「ごめん……」
「全く……無事でよかったけど」

 ここは昼にすごした洞窟のようだ。トワが私を連れてここまで来てくれたのだろうか。
 ……申し訳ないことをしてしまった。無理してでも行こうとした私を恨めしく思った。結果的に、足止めしてしまったじゃないか……。

「ごめんなさい……」

 私の口から出る声は小さい。……身体は今もしんどいままだ。

「トワ、少し休ませてもらってもいいかな……」
「……うん、わかった」

 トワが目覚めていられるのは一週間だけなのに。その一週間に体調不良を起こすとは……。無理をした私を恨めしく思う。

「海へ行こうと無理に歩かせた僕も悪かった、ごめん」
「違う、私も海には行きたかったし……」
「もう少し君のことを見ていればよかったんだ」
「…………」

 お互い黙り込んでしまう。違う、トワは悪くないのに……。

 しばしの沈黙。先に口を開いたのはトワだった。

「とにかく。フレアはここで寝てて」
「……わかった」

 無理をするのは良くない。トワの言葉通り、寝ようと思う。幸い、この洞窟の中にいれば吹雪に吹かれずに済む。私がほのおタイプだということもあり、ここで寝ても凍死することは無いだろう。……私は、初めて自分がほのおタイプで良かったと感じた。

「それじゃ、おやすみ」

 トワの言葉を聞くと共に目を閉じ、そのまま私は眠りについた。


☆ ☆ ☆


 僕は、フレアが寝たのを確認すると、はぁ、とため息をついた。
 フレア。彼女は本当に変わっている。僕の前に現れたポケモンの中で、僕に願い事を頼まかったなんて今まで無かったのに。……でも僕は、それを居心地が良いと感じている。
 僕は、ずっとジラーチとして生きてきた。いつからだろうか、もう何万年も昔だ。覚えていない。そして、生まれたその瞬間から、僕は願いを叶えるという能力を授かっていた。……一見とても良い事のように思えるだろう。しかし、いい事ばかりでは……いや、悪いことの方が多かった。
 最初の方は、僕のおかげでみんなの願いが叶って、笑顔になってくれて嬉しかった。だが、僕が願いを叶えられるという噂を嗅ぎつけ、僕に願いを叶えてもらおうとする大勢の者たちが僕の前に押し寄せてきたのだ。その時、僕は悟った。……僕は、とんでもない力を持ってしまったのだと。
 世界征服とか、現実離れした願いごとをする者もいた。僕のせいで争いが起きたりもした。僕はもう、うんざりだった。願い事を叶えるのに疲れてしまったのだ。
 そんな中、現れたのがフレアだった。彼女は僕の心の内を知っているかのように――いや、本当に願い事が無かっただけかもしれないが――願いを叶えないで、ずっと一緒にいて欲しい、その"頼み"は僕にとっても大きな救いだったのだ。
 それに、僕が無理して笑っていたのすら見透かされてしまった。いつもはニコニコして本当は願いをあまり叶えたくないというのを押し殺していたのだが……彼女の前では素でいられる。僕はそう思った。

 そんな彼女が、今ここで倒れてしまっている。僕が無理させすぎたからだろう。……彼女の優しさに浸かりすぎてしまった。
 さらさらとした赤毛をそっと撫でる。彼女がほのおタイプだからか、そばに居ると暖かかった。……彼女、フレアのために、力を使っては駄目だろうか。彼女は、僕に力を使わせることを、何故か頑なにしなかった。……けど、これは僕の意思だ。僕がしたいからすることだ。そう、自分に言い聞かせた。

 全身に力を込める。すると、頭の短冊がキラリと光った。そして、手を伸ばした先に、きのみを出現させた。この力があれば、僕はほぼなんでも出来る。……フレアが起きた時に、このきのみを食べさせよう。そう思って、きのみを出した。さっきも言ったが、これは自分の意思でしたことだ。……と、ぐうと音が鳴る。気がつけば夜になっていたようだ。ちらりと僕の横にあるきのみを見る。そうだ、僕がお腹がすいたからきのみを出した。でも多く出しすぎちゃったからフレアにも――こう、フレアに言ったら納得してくれるだろう。そう思い、僕はきのみを手に取り食べ始めた。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。