7.自由への試練

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読了時間目安:13分
「ギルドを移転する?」

ルークはギルドの応接室でぺラップと向かい合っていた。片方の目を吊り上げるぺラップに気圧されかけるも、ぐっと堪える。

「う、うん」
「修行元のギルドを差し置いて?」
「う、うん」
「こっちの収益が減るのも分かってて?」
「う、うん」

どうしよう、頭真っ白だよ。ぺラップの目がどんどん吊り上がる。そして、カラフルな翼でルークとの間にあるテーブルをバン!と叩いた。

「ふざけるんじゃないよ! そんなことが許されるとでも思ってるのかい!」
「ひゃー!」
「まったく、急に来て何を言い出すかと思ったら……! お前たちはこのギルドののれん分けで十分だ! 新天地なんかお前たちには百万年早いよ!」

ぺラップは鼻を鳴らして回れ右をすると、部屋の出口へ向かっていった。

(うぅっ……やっぱりぺラップ説得するなんて無理だよ……)

ぺラップはどんどん出口に近づいていく。なすすべなく見送るルークの脳裏にビショップの言葉が響いた。

──なるべく早く終わらせるから、それまで持ちこたえてて──

(そうだ。今ボクがやるべきは時間を稼ぐこと。説得するのは無理かもしれないけど、話し続けることはできる!)

ルークはその場を飛び出すと、今にも部屋を出ようとしていたぺラップと扉の間に割りこんだ。

「待って!」
「なんだい? 話は終わっただろ。余計な時間を使わせるんじゃない」

イラついた口調のぺラップ。臆することなく言い返すルーク。

「ううん。まだボク何も話してないよ。そもそも話し合いにすらなってないじゃないか」
「結論は同じだ。何度言われても無理! それで終わり!」「終わらない!」

語気を荒らげたルークに戸惑うぺラップ。よし、これで流れはこっちに来た。でも、こちらが不利な状況には変わりない。この状況でメンバーの斡旋を切り出すなんて……

(ん? 斡旋?)

ルークの頭にある考えが閃く。最初はわずかな閃きだったが、それは次々と連鎖して、唯一の打開策としてルークを照らした。これなら、いける! ボクの、反撃への第一歩だ。

ルークはぺラップをまっすぐ見据えると真剣な面持ちで言った。

「ボクに案がある。ボクらとギルド。両方が幸せになれるやり方さ」
「……ふん。聞いてやろうか」

ルークは再びテーブルに着くと、足元に置いてあったカバンから書類を引っ張り出した。ギルド斡旋希望者のリストと履歴書だ。それら一式をぺラップに差し出す。

「この子たちは、ボクらのギルドの移転についていけないんだ。事情はそれぞれ書いてあるから省くけど、まだ探検活動を続けたいって思いは誰よりもある」

ぺラップは黙って聞いている。ルークは慎重に言葉を選びながら続けた。

「だから、この子たちをプクリンのギルドに弟子入りさせればいい。全員とは言わない、そっちで選んでもらって構わない。みんなギルドのやり方も教えてあるし、探検隊としての常識も実績もあるし、何より働き者だよ。ボクたちから取っていた収益はこの子たちから取ればいい」

その言葉で、難色を示していたぺラップの表情が一瞬和らいだ。それから、一枚の書類を手元に引き寄せて眺め始めた。ルークはさらに畳みかける。

「ぺラップだって年が経つにしたがって減る収益より、安定して一定数取れる収益の方がいいでしょ? そしたらボクたちも、この子たちも、ギルドにとってもいいことだと思わない?」

ぺラップは書類から目を離し、ルークを見つめた。

その瞳から感情は読み取れない。
それでも恐れることなく見つめ返すルーク。
長い長い沈黙。

「本気なんだな?」

沈黙を破ったのはぺラップ。ルークは目を逸らすことなく小さく頷いた。

「うん」
「コイツらを信用していいんだな?」
「うん」
「何かあっても助けに行ってやれないがいいんだな?」
「うん」

不思議と心は穏やかだ。ピンと張りつつも、打ち寄せる波にビクともしない水平線のように。ぺラップは小さくため息をつくと書類を持って席を立ち、出口の方へ向かっていった。そして、口を開きかけたルークに背を向けながら言った。

「明日からだ」
「え?」
「お前が持ってきたメンバーのことだ。全員採用する。明日の朝一で来い」

突然の話についていけない。ルークは目をパチパチと瞬かせた。

「あの……面接とかは?」
「要らん、時間の無駄だ。その代わり、明日の朝一で来なかった者は採らない。伝えておけ」

ぺラップはルークに「いいな?」と振り返りながら言った。

「う、うん!」
「ワタシからは以上。あとは親方さまがお許くだされば、お前たちは晴れて新天地に行ける」

ぺラップは再び出口に向かって歩き出した。そして、出ようとした所で一瞬立ち止まって呟くように言った。

「良かったな」

その言葉でルークはハッとした。固く強ばっていた全身がほろほろとほぐれていく。涙腺がほろほろとほぐれていく。ホッとしたやら嬉しいやらでぐちゃぐちゃの視界。やった、ボク、ついにやったんだ。

「ぺラップーーー!!」

ルークは部屋の出口から既に廊下の奥にいるぺラップに大声で呼びかけた。ぺラップが振り向く。

「ありがとーーーーー!!!」

ぺラップは泣き笑いしながらこちらに手を振るルークを見て、やれやれと肩をすくめた。

「お客さまのいる前で、そんなみっともない顔で大声を出すんじゃないよ!」

いつもの口調で叫び返すとぺラップは二度と振り返ることなくプクリンの待つ部屋に向かっていった。

□■□■□■□■□■□■□■□■

「親方さま、ぺラップです。ルークとの話し合いの件についてですが……」

ぺラップが親方の部屋の扉を開けると、呆れるべき光景が広がっていた。

「ほらっ、まだ勢いが足らないよ! 友だち、友だち〜!」
「と、友だち、友だち〜……」
「親方さまー……何をやってらっしゃるんですか?」

その声に、いつもの彼女ならありえない速さでぺラップの方を向くビショップ。そして一目散に駆けてくると、ぺラップの陰に隠れて震えながら尋ねた。

「ぺラップさん……これ、何の拷問ですか?」
「いや、ワタシの方が聞きたいよ……何をやってたんだい?」

その問いかけにプクリンが答える。

「ぼくのスペシャル挨拶を伝授してたんだ〜。まずは挨拶! ほら、ビショップ。友だち、友だち〜!」
「ひゃあぁぁぁ……」

泣きそうな顔で震え上がるビショップ。コミュニケーションにあまり積極的ではない──言ってしまえばややコミュ障なビショップには相当キツい関門だったのだろう。ぺラップは咳払いを一つして、プクリンに切り出した。

「あのー、親方さま。挨拶の伝授は置いといて、チェスのギルド移転についてですが……」

その報告を聞いてハッと我に返って冷静になるビショップ。ぺラップに言い負かされているルークが目の前に浮かぶようだ。

(ああ、私が助太刀する間もなく終わっちゃったのか……ごめんね、ルーク。心細かったよね……)

「うん、分かった」

ところが、プクリンはぺラップの言葉を最後まで聞かずにビショップに向き直った。

「チェス、良かったね、おめでとう!」
「はいぃ!?」

素っ頓狂な声をあげたのはぺラップではなくビショップだった。え? どういうこと? いやだって、親方さま、ぺラップの話最後まで聞いてないじゃん。ジュプトルの無実弁明のときの押し切るパターン??

「ビショップ〜〜〜っ!!」

ビショップが目を白黒させていると、ルークが背後から走ってきてこちらに飛びかかってきた。ぺラップが怒声を浴びせる。

「こら! ノックをしろ!」「どわっ」

しかし、ルークの耳にはその怒声は届いていない。振り返った拍子に、目を潤ませながら飛びついてきたルークに仰向けに押し倒される。ねえ、これ、どんな状況?

「ビショップ! ボク、やったよ!」
「な……何を?」
「ぺラップを説得したんだよ! ギルド移転できるよ!」

ルークは相変わらず目をキラキラさせている。うん? えーっと? 私たちは今、ギルドに来てて……

「えっ」

跳ね起きてぺラップを見る。無言で頷くぺラップ。

「えっ?」

続いてプクリンを見る。「がんばってねー」と手を振るプクリン。

「えっ??」

振り返ってルークを見る。満面の笑みのルーク。

「えぇぇぇえええええ!!!??」

ビショップの絶叫が親方の部屋に響き渡る。今までの人生(ポケ生?)で出したことないほどの大声だ。ビショップは思わずぺラップを掴んでガクガクと揺さぶった。

「どうしちゃったんですかぺラップさんいやそりゃ嬉しいですけどもなんであなたが認めるんですかついに頭おかしくなっちゃったんですかそもそもあなた本物のぺラップ」「お、落ち着け落ち着け。地味に失礼なこと言うんじゃない、ワタシは本物だよ」
「ビショップ、さすがにぺラップは本物だよ……」

その状況を見かねたルークが「よいしょ」とぺラップからビショップを引き剥がした。

「で、でもそんな……」
「もちろん、最初は反対されたよ。でもね……」

ルークはビショップに語った。反対されたこと、負けそうになったこと、時間稼ぎをすることだけを考えて立ち向かったこと、そこで浮かんだ咄嗟のアイデアのこと……。ルークの話を聞いて、ビショップは関心せずにはいられなかった。なるほど、「仕事の斡旋」じゃなくて「弟子入り」にしてしまう発想はなかった。まあ、彼らには少し気の毒だが。それにしても、と、ビショップは生き生きと語るルークを見て考えに耽った。

(私は少しルークを甘く見すぎてたかな。一匹でやれるなんて思ってもみなかった)

「そろそろいいかな?」

ルークがひとしきり話し終わったとみて、プクリンが口を開いた。ビショップはてっきり眠っていると思っていたので『寝ないこともあるんだ』と、こちらでもある意味感心した。

「ぼく、ちょっとチェスの二匹と話したいからぺラップ出ていてくれる? 仕事もあるだろうからあんまり引き止めるのも悪いしね」
「承知しました。お気遣いありがとうございます」

ぺラップがすんなりと引き下がる。仕事が詰まっていて時間がないのは本当のようだ。

 ぺラップが完全に退室して、プクリンが改めて口を開いた。

「ぼくとぺラップもね、きみたちの言う〈開拓士〉と似たようなものだったんだ」

そこまで言って、プクリンは二匹に座るように促した。大人しく腰を下ろす二匹。プクリンはさらに続けた。

「このトレジャータウンも、元は何も無い、ただの海岸線だったんだ。そこに少しずつ文明を持ったポケモンたちが移り住んできて、お店とかも出来て……。不思議のダンジョンが増えてきて、ぼくらがここにギルドを建てようとしたのもそのくらいの時期だった。周りにすっごく反対された。『あんなド田舎にギルド建てるなんて』って。ぼくすっごく悲しくなっちゃったんだけど……そこで頑張ってくれたのがぺラップだったんだ」
「へえ〜」

ルークが意外そうな声で相槌を打つ。ビショップも意外だった。てっきりプクリンの思いつきで何も考えずにポンと建てられたギルドだと思っていた。

「だから、本来ならぺラップがきみたちのギルド移転に反対するはずがないんだ。ぼくらは無理やり作るしかなかった『チャンス』が、きみたちの場合は向こうから来てくれたんだからね。使えるチャンスは使っていかないと」

その言葉にルークの首が傾く。

「でも、ドゴームの話だとぺラップはボクたちのギルド移転に反対してたし、実際に話し合った時もそうだったよ? なんでなの?」
「そうだね、これはぼくの憶測に過ぎないんだけど……」

プクリンは、そう前置きしてルークに向かって言った。

「さっきも言ったとおり、ぼくたちは相当苦労してこのギルドを建てた。きみたちは今のギルドも移転先のギルドも、苦労してないとまでは言わないけど、ぼくたちがしたような苦労はしてない。ぺラップはそれを心配したんじゃないかな。
 ギルド建設の説得は大変だったけど、その苦労で得たものもいっぱいあった。それはぺラップも同じ、ううん、ぼくより多いはず。だから、ぺラップはルークに自分の役目を受け継いでほしかったんだと思う。ギルドと外を、リーダーとメンバーを繋ぐ紐帯っていう役割を、ね」

その言葉でビショップはある可能性に思い至った。

(もしかして、プクリンは私にルークの手助けをさせないよう、あえて無茶ぶりをして私を引き止めていたんじゃ……)

真相は分からない。『妖精』にそんなことを聞くだけ無駄なことは目に見えている。

「もちろん、これはぼくの予想。本当かどうかはぺラップ自身に聞いてみないと分からないけどね。だから、ぺラップが許可したなら、ぼくも反対しない」

プクリンは静かに息を吐き出すと、その勢いで大きく息を吸いこんで膨らんだ。そして……

「チェス! 独立おめでとう! 頑張ってね! たあ────────────っ!」
ありがとうございました!

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感想

お名前:オレンジ色のエースさん
 親方ーー!大好きだーー!!!!

 親方の普段の陽気なキャラクターからのギャップのある弟子たちを思う言葉、本当に好きなんですよ。ペラップのコメディ的な雰囲気とかよく再現されてると思います!

 とはいえ………「チェス」のお二人、ギルドの移転おめでとう!ルークが探検隊のパートナーっぽいちょっと引っ込み思案的な雰囲気が、どこか懐かしい気分になります。ビショップもがんばれ!

 次回も楽しみにしてます!
書いた日:2020年02月11日
作者からの返信
返信遅れてすみません! 感想ありがとうございます

今回はモロにルークの主役回でした。ぺラップも親方も本編で本当にいいキャラしてますよね……! 今まで結構シリアスな雰囲気が続いていたので、ビショップのあたりは息抜きのつもりで書きました。コミカルな雰囲気が伝わって嬉しい限りです

次回はついに新天地に行……けるのでしょうか!
今後も『フロンティア!』をよろしくお願いします
書いた日:2020年02月15日