その⑯ 厚情故の寡黙 ブリガロン ②

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ナエトル。お前と最初に出会った時、私はこう思ったのだ。
『なんと弱い存在だろうか』、と。

だが、そんなお前が……。
私の、この世界での、初めての『友だち』となるとは……あの頃は思いもしていなかった。

私は不器用だ。
これまで生き長らえてきた中で、十分理解している。

『『ねぇ、あのポケモン……なんか怖くない?』』

『『本当だな。顔も厳ついし殺気立ってるし……下手に近づいたら殺されるぞありゃあ……』』

ブリガロン『あの……』

『『ひぃっ! す……すみませんっ、殺さないで……犯さないでぇ~っ!!』』

ブリガロン『……』

ただ、食料を買いに来ただけなのに……。
いつもよりにこやかにしていたつもりだったのに………。

ブリガロン『ハァ……』

この世界に来てからどれだけ経ったのだろうか。

もっと愛嬌のあるポケモンになっていれば、少しはこの生活も変わっていたのだろうか。

ブリガロン(……)

そんなこんなで買った食べ物を、人目の付かない穴倉まで運び入れる。

今日はシチューにしよう。……それしか作れない。

ブリガロン『……ん?』

ナエトル『……あ』


そして、ナエトル……お前と出会ったんだ。


ナエトル『わぁっ、す、すみませんっ! 僕、ただ誰かいるのかな~って、そんな興味本位でこの穴倉を覗いてただけでっ!!』

ブリガロン『むぅ』

ナエトル『だ、だから、食べ物を盗ろうとか、そ、そんな悪いことなんてっ、僕……なにも思ってなくてっ!! ……確かに、食べ物は摂りたいんですけど……』グウゥゥ

ナエトル『あ。』

ブリガロン『……お前。……腹が……空いて……?』

ナエトル『……はひ、す、すみません、そうです……』

僕、この世界に来てから間もなく。
弱いからダンジョンでモノもお金も調達できなくて……どうしようもなくて……。

……正直、途方に暮れているんです……。

ブリガロン『……確かに……。その頭の葉も萎えてしまっている……な……』

ナエトル『すみません……だから僕、独りなんです。……初対面のポケモンさんについこんなことを打ち明けてしまったけど……困惑……しましたよね……?』

ブリガロン『……そうか、お前も……。独りなのか……』

ナエトル『は、はい……?』

ブリガロン『……私だって……お前と同じだ』

(……)

人間の頃から途轍もない強面で、それでいて人見知り。少年時代も虐められることはなく、それどころか逆に虐められると周囲は怯えているように見えた。

専門の学校を卒業後、憧れていた鍼灸整体師の職に就いた時も、そのままの顔では患者が怯えてしまうだろうと忠告され、顔をサングラスやマスクで覆い隠した。

顔知れずだが、腕は確かだと結果的に名は売れた。
最初は整形も考えた……だが悟った。整形などしてしまったら、偽ってしまうことになると。

今まで共に付き合ってきた顔を、自分自身を偽り、そして偽りの顔で、これからの人生を育む。

……たったそれだけの、誰もが行っていることを。私の中の惚けた正義感とやらが、許さなかった。

ブリガロン『い、いや……。やっぱり私は、その、ルーを買いに……』

ナエトル『さぁっ、行きましょうっ、ブリガロンさんっ! 貰いにっ、鍋をっっ、ちゃんこ屋からっっっ!!』ドスドス

ブリガロン『お、おい……。ちょっと……お前……』

こうして半ば無理やりに、私はそのちゃんこ屋に行くことになったのだ。


****


──ガララッ。


オクタン『いらっしゃいぃん。……おや、えぇと、あぁそうだぁぁん……アンタ、ナエトルじゃないかぁぁん。この前無銭飲食したばっかりのぉぉぉん』

ナエトル『あ、あはは……。その、もうお詫びの掃除も洗い物も終わったことですし……』

オクタン『で、なんだいぃぃん。今度こそウチの鍋料理を食べに来たってのかいぃぃぃぃん』

ナエトル『あ、いえ、実はですね……』

ナエトル(ブリガロンさん……どうしてそんな格好なんかしてるんですか?)

ブリガロン(ちょっと……事情……がな。しかし……鍋をタダで貰おうなど……虫が良すぎるだろう……)

オクタン『おや……アンタァン』

ブリガロン『うむ?』

オクタン『そうん、そこのサングラスにマスクのいで立ちのお、いかにも不審者っぽいアンタだよぉぉぉんぅぅ』

ナエトル『あ、このポケモンですか? えぇと、成り行き上なんですけど、このポケモン、ブリガロンさん……鍋料理をしようとしたんですけど……』

ブリガロン(も、もういい、ナエトル……。恥ずかしいから……鍋は他のところで……)

『あぁ、お客さんが来てるのかい。』ガチャッ

オクタン『おや、ネーリドミの探索はもう終わったのかいぃぃん?』

どうやら、店の主人のハリテヤマが帰って来たようだ。

ハリテヤマ『……最近は森で採れる物資も減っちまったよ。十八司とかいう集団が、至るところのダンジョンにはばかってやがるもんでな』

ブリガロン『……十八司……か』

ナエトル『じゅ、じゅうはちし?』

ブリガロン『…ポケモンのタイプごと……計18名のメンバーから成り立つならず者たちの集団だ……。詳しいことは俺もよく知らないが……ダンジョンの物資を独占したりと……あまり良い噂は聞かないな』

ハリテヤマ『ハハ、そこまで知っていれば十分だな。そして関係ないが様子を見るところ、鍋がほしいそうだ。ここに使い古しの鍋がある。……持って行け』

ブリガロン『あ、あぁ……。い、良いのか……そんな気前良く……』

ハリテヤマ『丁度この鍋は捨てようと思ってたしな。それに、鍋好きが増えるのはいいことだ』

ナエトル『あ、ありがとうございますっ!!』



《《そして スーパーマーケット 黄金屋ショップ》》



ブリガロン『……なぜ、お前まで同行するのだ』

ナエトル『ブリガロンさん、鍋とかしたことないでしょう?
さっきの素振りでなんとなくわかりましたよ』

ブリガロン『……それが……どうしたと……』

ナエトル『だから、一緒に具材買いましょうっ! 僕、なんどもしたことありますしっ!!』

ブリガロン『確かに、したな……無銭飲食を』

ナエトル『あっ、いえっ! 僕あの時ホント来たばっかりで、鍋の匂いに誘われて……後からその……お金を持ってないんだってこと、気づいて……』

ブリガロン『…お前のことを一つ理解した。『抜けてる』、と……』

ナエトル『さ、色々買いましょうっ! 鍋って具材を選んでる時が一番楽しい気がしますっ!!』

ブリガロン『……お前が……代金を払ってくれるのか?』

ナエトル『あっ! い、あ、その、僕、お金、だから……なくて……』

ブリガロン『……まぁ、金はあるから……具材選びを手伝って貰おうか……』

ナエトル『はいっ、任せてくださいっ!! えぇと、シイタケ白菜モヤシに豆腐……そうだ、シメに鍋用の中華麺を……』

ブリガロン『俺はどちらかというと、雑炊の方が良い……』

ナエトル『雑炊ですか……あんまりしないなぁ。じゃっ、間を取ってうどんはどうです?』

ブリガロン『……なんでそうなる』

ナエトル『えー、じゃあこの際全部ブチ込みますっ? 色んな味楽しめそう、炭水化物ばっかだけど』

ブリガロン『それはまぁ……買い物の締めにしておこう』

ナエトル『……あ、そうだ、この長ネギも……』

ブリガロン『すまないが……俺はネギが嫌いなんだ……』

ナエトル『あっ、そうなんですかっ!?』

ブリガロン『ネギも、タマネギも…特にタマネギだが……。味とかじゃなく……あの噛み締めた食感と後々まで残る風味。……こんな大の男が情けないが……ダメなんだ』

ナエトル『へぇ~、意外だなぁ。……僕も嫌いなんですっ、ネギッ、大嫌いなんですっ!!』

ブリガロン『……え。じゃあどうして、ネギを……』

ナエトル『答えになってませんけど。ブリガロンさん、ネギをなんだか怪訝そうに見つめた気がしたから』

ブリガロン(……そう、見られていたのか。意識はしていなかったが……)

ブリガロン『……だ、だが。俺は……サングラスを……』

ナエトル『はい、だからちゃんとした確証もなくて、結局は“そんな気”止まりだったんです。だからちょっと、はっぱをかけたというか。エヘヘ……。草ポケモンだけに……』

ブリガロン『……参ったな……。まさか、考えを見透かされるとは……』

ナエトル『何かが嫌いって、別に恥ずかしいことじゃないと思うんです。ネギ抜きの鍋、いいじゃないですか! サビ抜きの寿司、ピクルス抜きのハンバーガー、福神漬け無しのカレー。僕は大好きですっ!!』

ブリガロン『……ハハハ。確かに……ポケモンそれぞれ…そうなのかもな……』

ナエトル『あ、今笑った……ブリガロンさんっ!!』

ブリガロン『え……?』

ナエトル『ブリガロンさん、全然笑わないからさ。根暗なポケモンなのかな~って、勝手に思っちゃってて。でも、笑えるんですね。しかも、とっても良い笑顔っ!!』

ブリガロン『笑う……』

ナエトル『ええ、笑ってますよ! そうだ……もうそのサングラスとマスク、取りましょう!!』

ブリガロン『な……。それはちょっと…恥ず──』

ナエトル『風邪も引いてないのに、目に障がいもないのに、そんな格好はやっぱ変ですから! 取りましょう、取っちゃいましょうっ!!』

ブリガロン『ま、待て……。そんな、強引に』


──ババッ。


そして俺は、素顔をナエトルに晒すことになる。


ナエトル『あ。ブリガロンさん、あなたの顔……』

ブリガロン(……コイツも。俺の顔を見て、げんなりしたのだろうな)

ナエトル『……すごく、男前じゃないですか!』

ブリガロン『え。』

ナエトル『あ、気になります? はい、ここに手鏡ありますからっ!!』

ブリガロン『……』ジロッ


俺の、今の顔……。
……朗らかになっている……?


ブリガロン(今、笑ったからか……? 俺、こんな顔も……できたのか……?)

ナエトル『ど、どうしました……ヒビでも入ってましたか?』

ブリガロン『……なんでもないんだ……ナエトル』


俺は……もしかしたら少し。

ほんのちょっぴりだけど……変われる、か………?


──その僅か数秒後。


『『なんだぁ~、オメェ。ふざけるんじゃないぜっ!!』』


店員『ひっ……』

ナエトル『な、なに……?』

客が店員に対し、いちゃもんをつけているようだ。

ウツドン『おいは菜食主義者で、ここの野菜の品質を大いに評価しているんだ。だからこのダイコンを買ったわけ。それがおい……この葉の部分に虫食いがあるじゃねーか!!』

ナエトル(そもそもウツドンって虫を食べるポケモンだったような。)

店員『す、すみませんお客様、今すぐお取替えます……』

ウツドン『いーや、おいは精神的に苦痛を負った。知ってるよな、十八司。その恐ろしさも。……おいは十八司の“草司”だぞぉ~っ!?』

店員『じゅ……十八司。……あ、あの……最近……有名な……!?』


ザワ・・・
       ザワ・・・


ブリガロン『まずいぞ……客たちがざわついてる。……アイツを追い出さなければ、買い物もできない』

ウツドン『ん? ……なんだぁ~、オメーら!!』

そのウツドンは、こちら側を睨みつけ怒声を浴びせかける。

ナエトル『え……? オメーらって……』

ウツドン『なにとぼけてるんだぁっ! オメーらだ、そこのオ・メ・ー・らっ!! オイに……ガンを飛ばしやがったなぁっ!!?』

ナエトル『なにっ……?』

ブリガロン(……先に仕掛けてきたという既成事実……正当防衛になるか……)

ウツドン『ちょうど良い……オメーら二匹共草ポケモンか。このダイコンの代わりにオメーらを喰ってやるから、覚悟しとぉやーーっ!!!』ドビュッ

ウツドンはこちら側に対し、口を拡げ襲いかかって来た。

ブリガロン『……ふぅ──』

ウツドン『まずはオメーからやぁっ! ……往生せいやぁっ!!』ドボシュ


──グシャッ。


ナエトル『わぁ……』

ウツドン『ながっ……オ……オ…メ……ェ………』


ブリガロンはウツドンの口腔内へ、巨大な針の盾をブチかましたのだ。


ブリガロン『……ニードルガードは、なにも…防御だけに用いる技ではない……』

ウツドン『のぶがら……』フラッ


……ドドォン……。


ナエトル(あ、圧倒……的……。す、凄い……強いっ……!!)

周りのポケモン皆、言葉を失っていた。

ブリガロン『……さて、誰か……通報してくれ……。買い物を続けたいんだ』


──その時。


『『おやおや、草司さん。十八司ともあろう方が……なんという体たらくでしょうか』』


ブリガロン(!)


……ボワンッ。


ナエトル『なっ……なんだ……? お前っ!?』

カラマネロ『おっと、自己紹介が送れました。私はカラマネロ。十八司がひとり、“超司”と呼ばれるものでございます』

ウツドン『お、おぉっ、超司……良い所に……』

カラマネロ『……お黙りなさい、この……雑草風情が』

店員『……え? 身体が、勝手に──』

ウツドン『ちょっ、おい、ま、嘘だろ(ボビュッ


ウツドン『  ぐ  べ  』


ドシャッ。


ナエトル『なっ……』


店員の身体がぎこちなく動き出し、持っていた包丁で、ウツドンの身体を真っ二つとしたのだ。


客『『きゃ……きゃあ~っ!!??』』

しんと静まり返っていた空間が、再び彩られた。

カラマネロ『敗者など、我が組織には不要。こう償う他に、仕様がないでしょう』

ナエトル『お、お前……。店員を操って……? ウツドンは、お前たちの仲間なのに……』

カラマネロ『……フフ、仲間、ですか……。本当に、便利ですよね』

ナエトル『……?』

カラマネロ『“ナカマ”、“トモダチ”、とかね。育った環境、培った性格、好きな俳優、嫌いな食べ物。個々によって全然違う癖して、そしてなぜかそんな者たちほど、そういった言葉で結束したがるのです』

ブリガロン『……確かにお前の言うことも一理ある。『友だちだから一緒にやろうぜ』とか……『仲間だろ、助けてくれよ』とか……その言葉の意味が安っぽいものになっているということは、否定はできない……』

カラマネロ『カラカラ、わかっているではありませんか。そう……私は私の所属組織においても、ナカマだからといって心を許した相手など誰一匹とていませんよ』

ブリガロン『……だから、制裁を加えることにも……躊躇はしない……か』

カラマネロ『……それより、そこの薄ら汚い死体の分。十八司に欠番が出てしまいましたねぇ』

ナエトル『な、なんだ……僕たちを恨んでいるのか!? 殺したのはお前自身だぞ!?』

カラマネロ『いや、そういう意味ではなく……。いますね、草ポケモン。新たな“草司”として適任が』チラッ

ナエトル『え、ま、まさか……!? でも、僕……弱』

カラマネロ『そう、あなたですっ!! そこの……イガグリニードルスキンヘッドさんっ!!』ビシッ

ナエトル『え。』

ブリガロン『……俺の、ことか……』

カラマネロ『先程拝見したあなたの戦闘能力。その抜きん出た能力があれば、十八司においても相当の地位に登り詰めることが可能でしょう』

ブリガロン『俺は……自ら悪党に成り果てようと思わない』

カラマネロ『そうでしょうね。そうおっしゃられるかなとは思ってました。……ちょっと、失礼』カキカキ

ナエトル(なんだ……?)

カラマネロは懐から紙とペンを取り出し、なにかを書き始めたようだ。

カラマネロ『えぇと、こんな文面でいいかな。差し上げますよ。読み終わりましたら、ツルを折るなりケツを拭くなりなんなりとご自由に』サッ

ブリガロン『……』

ブリガロンは、カラマネロから文書を受け取った。

カラマネロ『では、私はこれで。警察なり救急隊員なり訪れるでしょうから。いいお返事を、期待しています。明記してある私のアドレスにメール下さいね』


──シュッ…。


カラマネロの姿が、たちどころに消え去った。


ブリガロン『……ナエトル。面倒ごとになる前に……ここを出よう。別の所で買い物し直しだ』

ナエトル『あっ、うん……』


ナエトル(今の手紙のこと、なにも、言ってくれない……)


……それから、ブリガロンと僕の共同生活が始まった。

“共存”だったのかもしれない、あるいは。


ナエトル『ブリガロンー、卵焼きできたよー』

ブリガロン『……凄いな、ナエトル。俺も……作ったのだが』

ナエトル『へぇ、スクランブルエッグだ! ……こんな緑っぽい料理だったっけ。』


僕はブリガロンに、知っている限りの知識を教え。


ナエトル『僕は……ナエトルだあぁぁっ!!』ビリリリ

ブリガロン『朝っぱらから……うるさいぞ。なにをやってるんだ?』

ナエトル『僕、弱いからさ。せめて、声を大きくして相手を威圧しようと』

ブリガロン『……今度、俺が色々技を教えてやる。そういえば、今日もタウンに新参がやって来た。女の子のイーブイだったのだが……確か、記憶を──』


彼からは、生き延びるための数々の体技を教わった。



ある日──



ブリガロン『……ナエトル……お前は、まだまだ弱いな』

ナエトル『え……酷いよ、ブリガロン! 僕だって、あれからいっぱい力をつけたんだからさっ!!』

ブリガロン『わかってる、わかってるよ』

ナエトル(ゼッタイわかってない)

ブリガロン『……ナエトル。いつか、絶対に、帰ろうな』

ナエトル『ん?』


僕の覚えてる限りでは、それがブリガロンとの最後の言葉。
その後、僕一匹となった家にあの手紙が残された。


………
……

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