その⑮ 厚情故の寡黙 ブリガロン ①

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《《ブラックタワー 3階》》


ニンフィアとゴーリキー(とナエトル)が3階に飛ばされ、数分間が経過した。
そして、彼らと対峙しているポケモンが一匹──


ニンフィア(ピカチュウ……サンドパン……。大丈夫……かな……)


ブリガロン「……」


ゴーリキー(……草司……ブリガロン……!)

ブリガロン「……さて……私は……“創蛙”から……『草』と『闇』のオルゴールを……預かっている……」

ゴーリキー「そ、そう、つまりお前を倒せばオルゴールは全部揃うってわけだ」

ブリガロン「……一つ……問いたい……。見たところ……お前は……オルゴールを……持っていない……な……?」

ゴーリキー「あ、あぁ、そうだが?」

ブリガロン「……そう……か……」

ゴーリキーが応じた、次の瞬間。


……シュッ。


ナエトル「!」

ゴーリキー(……え……なっ……えっ……? ブ、ブリガロンが……)


ブリガロンが彼らの前から、その姿を颯爽とくらまし。

……そして。


──タンッ。


ゴーリキー「うっ」ドサァッ

ブリガロン「……」

ブリガロンはゴーリキーの背後へと回り。
そしてそのまま、彼に当て身を食らわしたのだ。

ゴーリキー「」ピクピク

ニンフィア「ゴーリキーッ!?」

ナエトル「……!!」


巨体ながら、なんという速さっ!
加えてこの卓越した活殺術っ!!

無理だ……。
僕なんかじゃ……絶対に倒せないっ!!!


ブリガロン「……ナエトル」

ナエトル「ひっ……」

そ、そうだ、下からピカチュウさんたちが来たら……。
あ、あるいは……。

ブリガロン「……お前……頼る……のか?」

ナエトル「えっ……」

ブリガロン「……私に……頼って……このポケモンたちにも……助けられて……お前は……お前自身は……どうなんだ……?」

ナエトル「僕……自身……」

ブリガロン「……お前……なにか……“最終手段”を……。……持って……いる……な……?」

ナエトル「!」

ブリガロン「……図星……だ……な。……では……それをなぜ……私に使わない……? ……いや……“使えない”……の……か……?」

ナエトル「い、いや、僕は──」

ブリガロン「……今の……たった一回……一連の私の動きを見て……。『勝てない』だとか……『無理だ』とか……。そう……考えてしまっている……だろう……?」

ナエトル「うぅ」

ブリガロン「……駄目元でも……いいん……だ。……私は……お前自身の……本気が……力が……見たい。……その……最終手段を……最後の砦として……私に……挑んでみろ……」

ナエトル「で、でも……!」


ビシュッ。


ナエトル「つっ……」

ブリガロンの素早い手刀が、ナエトルの頬をかすめる。

ブリガロン「わかるか……私が本気を出していれば……今……お前は……死んでいた。なにもしなくても……死ぬんだ……」

ナエトル「くぅっ………」

ブリガロン「だったら……どうせなら……。あがいて……死ぬ方が……格好が……つくだろ……?」

ナエトル「でも、だって……どうせ、僕なんか……」


ブリガロン「「……ナエトルッ!!」」


ナエトル「!!」ビクッ

ブリガロン「……やってみるんだ……己自身で……己のやり方で……。無抵抗で殺されるのが……一番……男としてみっともない……。そこの女の助けは……待つな……自分で……切り拓け……」

ニンフィア(私、蚊帳の外。でも、黙ってた方が良さそう……)

ナエトル「ブリガロン……」

ブリガロン「さぁ……かかってくるんだ……ナエトルッ!!」


ナエトル「う……うおぉぉぉぉぉぉっ!!」ドッ

覚悟を決し、ナエトルは果敢にもブリガロンへと向かう。

ブリガロン「そうだ……それで……いいんだ……」

ナエトル「……ブリガロンッ、いくよっ! “いたみわけ”っ!!」ガガガガ

その様子を、ニンフィアが一匹見守る。

ニンフィア(ゴーリキー……泡吹いてるけど大丈夫かなぁ。“いたみわけ”……ナエトルとブリガロンには決定的な体力の差がある。そこをあの子は、逆に利用した)

ナエトル「まだまだだっ……すいへいぎりっ!!」スパパンッ

ブリガロン「ほう……」バッバッ

ナエトルの剣捌きをブリガロンは一つひとつ見極め、全てカットしていった。

ニンフィア(だけど、ナエトルは通常いたみわけもすいへいぎりも覚えないはず。どうしてあの子が……)

ブリガロン「……ナエトル……お前」

ナエトル「あぁ、ブリガロン。あなたには……二つ謝らなければならないことがある」

ニンフィア(……?)

ナエトル「僕はこの“手段”に踏み入ることを、恥ずかしながらあなたに活を入れられるまで躊躇してしまっていた。そしてもう一つ。僕はまた、頼ってしまった」

ブリガロン「……やはり……か……」

ナエトル「そうだよ、ブリガロン……。“これ”、さ」サッ


──ナエトルがブリガロンへと示したものとは。


ナエトル「……ゲフッ」

ニンフィア(……プ、『プロアクション・フリーク』ッ!!)



【プロアクション・フリーク】

現実世界において某会社が製造販売を行っている、コンピューターゲーム上の“改造ツール”である。

このようなツールは当然ながらゲーム元の許可を得てはいないが、流出数があまりにも多いため、半ば黙認せざるを得ない形となっている。

“改造コード”と呼称されるチートを用い、『所持金最大』や『キャラクターのステータス改竄』、『所有アイテム数の変更』といったことが手軽に行える。

その性質上、主に余暇時間をゲームに費やす小中学生に人気が高い。



ナエトル「……フフッ、そうだよブリガロン。僕はこれを使って……。ポケモンを、自分自身を改竄した」

ナエトル(また頼ってしまったけど……“自分自身”であなたを倒すには、借り物の力に頼る他になかったんだ……)

ブリガロン「……確かに。……お前の……既存の技は……私がお前に……教えたもの……だ……。だから……私の知らぬ技を……繰り出せば……戸惑う筈と……」

ナエトル「あぁ、そうさ」

ブリガロン「……ただ……一つ……致命的な欠点が……それには……あると……見た……」

ナエトル「……へへっ、凄いねブリガロン。お見通しか」


プロアクション・フリークを用いた状態で活動を続けることにより、その身体には凄まじい負荷がかかる。

……100%オイシイ話など、あるわけがない。


ナエトル「……僕が身体に施した改竄は、『身体能力の底上げ』と『通常会得しない技の習得』。これ以上は僕の身体が保たなく、今だってギリギリだ」

ブリガロン「ナエトル……」

ナエトル「まだまだいくよっ、ブリガロンッ! ……次は、この技だっ!!」ポポッ

ニンフィア(……タネばくだん。放出した種を叩きつけ攻撃を行う草の技だ。でも、この技は)

ブリガロン(プロアクション・フリークで会得した技ではない)

ナエトル「あぁ、タネばくだんはあなたが僕に最初に教えてくれた攻撃技だ。『だからこそ』、あなたはなんなくこの技に対して防御体制を図ることができる)


そう、『『“だから”こそ』』……!!


ブリガロン「くどい……ぞ。ナエトル……。矢継ぎ早の攻撃で……私を……翻弄できる……とでも……?」ガッガッ

ナエトル「くどくなんてないんだ。全ては、“このため”の下準備」

ブリガロン「な……に……?」

ナエトル(このタネばくだんの目的は、一箇所の隙を生み出すためにあった。ブリガロン、僕はあなたの癖をよく知っている。その防御体制……実は腹部のガードが甘いんだ)


──だから。


ブリガロン(!)ヨロッ

ナエトル(腹に一発、タネばくだんを。でもあなたならば瞬時に立て直す。そう、あなたの行動をただ一つ……立て直すことのみに限定させられる!!)


正真正銘僕の全てを絞り尽くし、この一撃にかけてやる。身体能力はここまでしてもなお、僕の方が劣る。

ならばこの特大級の、あなたが未知の“最終手段”を以ってして、あなたを打ち倒してみせる!!


ブリガロン「ぐっ……」


ナエトル「ばくぅ……おんぱあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ド オ オ オ ォ ォ ォ ォ … 。


…ナエトルの放つ凄まじき音撃が、辺り一面に響き渡る。


ニンフィア「……えっ、まっ、待って! も、もしかして、私、吹き飛……やあぁぁっ!?」ビュウン


まず壁や床に亀裂が走り、そして周囲の物が成す術なく吹き飛ばされることとなる。


ナエトル(ブリガロン……。僕は、僕は……ただ、ただ……あなたをっ……)


……あなたをっっ……!!!!



ズ ゴ ガ ア ァ ァ ァ ァ … … 。



──やがて。



ゴ ツ ン ッ 。


ニンフィア「痛っ!?」

ニンフィア(……本当に、凄い衝撃だったけど……。ブ、ブリガロンは……後、あの子は……ナエトル……は………?)


「「ニンフィアさん……」」


ニンフィア「え……」

(……)

ニンフィア「……あ、ま、まさか……。まさか……?」

声の主がナエトルだと理解するには、彼女自身の頭の回らなさも合わさり、少々時間を有した。

……それ程までにその声は、か細く、掠れていたのだ。


ナエトル「……ハーッ。……ハーッ──」


“ばくおんぱ”に全精力を注ぎ込んだ結果。声は枯れ、頭の葉は窶れ、土の甲羅もヒビ割れた。


ナエトル「……ケホッ…いいよ、ブリガロン……。なぜあなたが十八司に入ったのか…なぜ僕を見放したのか…聞きたかったけど、もう……いいんだ……」

ブリガロン「……」シュッ

ナエトル(あぁ、ブリガロン……。最後にあなたと……)



……わかり合いたかった、なぁ……。


ド ス ッ 。


ナエトル「バグッ……」



──ドサッ。



ニンフィア「ナ、ナエトル……ナェ……ト……ル……? え、い、いや、やだ……そんなの……こ、この……最低、最低だっ、兄弟殺しぃっ!!!」

ブリガロン「……」ギリッ

ニンフィア「!」

……このままじゃ、私も殺されてしまう!


ニンフィア(私が……私が……)


ナエトル、ごめんね……。
だったら私がこのポケモンを倒さないと、オルゴールも奪われて……ここまでの旅が、皆の今までの苦労が……報われない……。


──その時。


「「弟を殺るとは、冷酷に徹したでござるな。しかも、自身の針で刺し殺すとは」」

ブリガロン「……“創蛙”……」

ニンフィア(そ…そうあっ!?)


ドロロンッ!


ゲッコウガ「ふぅ……」


ブリガロンの元に、あの“創蛙”が現れた。


ゲッコウガ「オルゴールは、どうしたでござるか?」

ブリガロン「……既に……コイツらから……奪った……」

ニンフィア(えっ……!?)

ブリガロン「……余計な……殺生は……したくはなくてな……。この女を……見逃してやっては……くれないか……?」

ゲッコウガ「それは追々考えるでござる。さて……これで五つの全てのオルゴールが揃い、後はこのアンホワイトの地へと捧げるのみ。さぁ……渡すでござる」

ブリガロン「……あぁ……今。……渡して……やる……」


──貴様に、引導をな。


……ザクッ。


ニンフィア「えっ」

ゲッコウガ「ぬ……ぬばがぁぁあっあーあ゛ぁァッ!!! 草司……草司ィィ……お主ッ、血迷ったかぁッ!!?」

ブリガロン「もう……草司だの……十八司だの……。お前のこしらえたくだらない肩書きは……散々だ」

ブリガロンは反旗を翻し、“創蛙”の身体を刺したのだ!

ナエトル「う……うぅ……」

ニンフィア「あっ、ナエトル……あなた、無事なの……?」

ブリガロン「……私は……お前の疲労回復のツボを刺した……。だから……先ほどのダメージも……なんとか騙せるだろう……。ナエトル……今まで本当に……すまな…かった……」

ナエトル「ブリガロン……ありがとうと、そう言えばいいの? でも、よりによってなんで今……。僕を助けて……せっかく入った十八司を裏切るの……?」

ブリガロン「違うんだ……ナエトル……。私は……“このため”だけに……十八司に潜り込んだのだ……」

ナエトル「…それって、どういう……」

ブリガロン「……これ、だ」ポロッ

ニンフィア「あぁっ……これは、『草』のオルゴールッ!!」

なんとブリガロンは、“創蛙”からオルゴールを掠め取っていた。

ブリガロン「……ナエトル……話せば……長くなる。……案外短くなるかも……しれないが」

………
……

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