その⑬ カイロス・ザ・ムシバトラー ①
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サンドパンのカード
アクティオンゾウカブト(強さ200)
技 【グー】サマーソルトプレス(必殺技)
《相手を後方に弾き飛ばした後、相手に向かって迅速に突進して踏み台のようにして跳ね上がり、一回転後方宙返りしながら落下し、踏みつぶす》
【チョキ】ブルロック
《相手の突進を肩をつかみながら横にまわりこんでかわし、そこから闘犬のようにはさみつけ振り回しながら締め付け投げすてる》
【パー】ばいがえし
《相手に負けた後のじゃんけんで勝つと発動し、アカスジギンカメムシを呼んでこちらの攻撃後、毒ガスを見舞って貰う。こちらが連続で負ければ負けるほど毒ガスの威力は高まる。あいこになるとその後勝っても発動できない》
カイロスのカード
ヘルクレスリッキーブルー(強さ200)
技 【グー】ガンガンスマッシュ
《相手をつかみあげて左右に叩きつける》
【チョキ】クロスダイブ
《相手の攻撃をかわし横からはさみ上げ、左右に体をひねって振りかぶった後上空に投げ上げ、落ちてくるところを回転しながらダイブし、地面に押さえこみながら引きずる》
【パー】アースクエイクスロー(必殺技)
《地面にねらいを定めてから、思いきりツノをたたきつけ、その衝撃で吹き飛んでこちらにきた相手をつかまえ遠くに投げ返す》
****
ピカチュウ「こっちはグーが必殺技、相手はパーが必殺技、か。これは、少々厄介だな」
サンドパン「む、なにが厄介なんだ?」
ピカチュウ「必殺技はより多くのダメージを与えることができる。例えば互いに必殺技を繰り出そうとした際、じゃんけんの相性に打ち負けてるとどうなると思う?」
サンドパン「なるほど、そういうことか。相手の必殺技を喰らうわけにはいかないし、だからといい、こっちの必殺技も出したいわけだ」
カイロス「さぁ、この席に座れ」
《100円入れてね。カードがもらえるよ》
ピカチュウ「うっわ、懐かしい声」
カイロス「私が入れてやろう。カードは排出されないがな」
チャリン……。
カイロス、硬貨を投入する。
《僕は森の妖精ポ○。僕らの森が大変なんだ! 皆、僕たちを助けて!!》
カイロス「対戦は、1匹対1匹だ。1匹が負けたらそこで終了だ」
《さあ、君のカードをスキャンしてね》
ピカチュウ「あぁ、覚えてる覚えてる。カードをスキャンするんだな。昔はこのやり方すらわからなかった」
──スキャッ。
カイロス「さて、私もスキャンするとしよう」
──スキャッ。
サンドパン「……」
サンドパン(『スキャッ』って擬音に、誰か突っ込まないのか……?)
ポ○「ア○ー! ムシの改造なんてやめるんだっ!!」
ア○ー「フハハハ、ポ○め! 今日こそお前の命日だ!!」
ピカチュウ「この二人、5年間近くこんなことやり続けてたんだよな」
《すごいぞー、アクティオンゾウカブトだー。》パアァン
《すごいぞー、ヘルクレスリッキーブルーだー。》パアァン
そして、二人の勝負が始まる。
カイロス「10カウント内に、出す技を選べ」
《10……》
《9……》
サンドパン「よし、ぼちぼちいかせてもらおう」
《8……》
《7……》
カイロス「ああ、一つ言い忘れていた。互いの体力は、解りやすく『10』とした。通常の攻撃は『1』、攻撃技は『2』。必殺技はその2倍の『4』ダメージを被る」
《6……》
サンドパン「勝負の開始後に今更そんなことを言うのか。俺の動揺を誘っているつもりか?」
カイロス「ハハ、まさか」
《5……》
《4……》
サンドパン(なにせ…奴の必殺技が『怖い』)
ピカチュウ(多分サンドパンは『グー』は出せない。カイロスが短期決戦を狙い、いきなり必殺技の『パー』を出してくるかもしれないしな。飽くまでそれは、可能性止まりだが)
ピカチュウ(となるとサンドパンが出すのは、『チョキ』か『パー』。どっちを出すのかな、サンドパンは)
サンドパン(俺が出すべきは……。奴も読めてはいるはずだ。俺が奴の『パー』を警戒していることは)
《3……》
サンドパン(ならば、ならばだが……奴は『パー』を『出さない』。いや、『『出せない』』。)
《2……》
サンドパン(となると、奴の残りは『グー』か『チョキ』。さすがに、こっちの必殺技の『グー』に負ける『チョキ』を出すとは考え難い)
サンドパン(ならば……)
《1……》
サンドパン(……これしかないっ!)
ポチッ。
そして、互いの出す技は選ばれた。
ピカチュウ「なるほど……『パー』を出したか。……なっ……」
サンドパン「……!」
カイロス「弱者が弱者なりに必死に知恵を巡らせたようだ。だが、所詮は……君の考えていることなど、私には丸わかりなのだよ」
カイロスは、『チョキ』を選んでいたのだ。
《ヘルクレス「ブオォォーッ……」ギリギリ》
クロスダイブが、アクティオンに炸裂する。
カイロス「大方、『グー』に負ける『チョキ』は出せまいと考えたのだろう。フフ、それは実に浅はかな考えだ」
サンドパン「……」
カイロス「君が私の『パー』を恐れて『グー』は出せないのなら、君は『チョキ』か『パー』しか出すことができないということになる」
サンドパン「ならば、お前が『チョキ』を選んでいたら、少なくともお前はあいこには持ち込めた。……私が『グー』を出せないと、踏んでいたのか」
カイロス「だって君、『石橋を叩いて渡る』タイプだろ? むしろ、叩き過ぎて壊してしまうような。そんな奴が、いきなり打ち負けている技を出すわけがない。私は、そう判断したのだ」
サンドパン「出だしで躓いたか、最悪だな。だが、まだ勝負は始まったばかりだ。図に乗るな」
カイロス「そうそう、始まったばかりだから……。気楽にいこうじゃないか。気楽にね」
【アクティオンの体力 8/10】
【ヘルクレスの体力 10/10】
ピカチュウ「奴のヘルクレス……フルアタだな。ああ、フルアタとは、ポケモンでいうところの、技が全部攻撃技の構成のことだ」
サンドパン「ああ、奴は特殊技を一切入れていない。つまり……」
ピカチュウ「特殊技などに頼わなくとも、勝てる。そう慢心できるほど、読み合いに自信があるということか。手強い」
サンドパン「いや、案外……そこに付け入る隙があるのかもしれない」
ピカチュウ「?」
サンドパン「まぁ、そんな隙など、敵さんは出してくれないかもしれないがな」
そして、再びカウントが始まる。
《10……》
サンドパン(子供の発想だが、奴は『同じ手は再び使わないだろう』と考えているのではないだろうか)
カイロス(さぁ、悩め、藻掻け、苦しめ。果たして私の選ぶ手は、グーか、チョキか……パーか? たった三手の出し合いの単純なゲームですら、真剣勝負になり得るのだ。面白いだろう?)
《9……》
サンドパン「……私は、これだ」ポチッ
カイロス「今回は、選ぶのが早かったな」
サンドパン「余計なお世話だと言っておこうか。それより、貴様も早いところボタンを押したらどうだ」
カイロス「待て待て、じっくりと考えさせてはくれないか。あぁ、言っておくが手の動きを見るとかいったコスいことはしていないからな。安心してくれ」
サンドパン「そんなことをしていたら、真っ先に貴様の両手を圧し折る」
カイロス「ハハ、怖い怖い。では……私はこれだ」ポチッ
【サンドパン『パー』 『パー』カイロス】
ドゴォ……。
ピカチュウ「あいこ、か……。野郎、必殺技を出しやがった。グーを出していれば大打撃だった」
サンドパン「……私が必殺技を出すとでも、予測したのか?」
カイロス「必殺技を出していれば良し、こちらの必殺技に対しあいこを狙ってくるならそれでも良し。まぁ、狙いは……もっと“別”のところにあったわけだが」
サンドパン(別……?)
サンドパン(なるほど、“そういう”ことか。奴は、俺の性格を見極めていた。同じ手を2回続けて出す程の、狡猾な性格なのかどうか)
ピカチュウ(念には念を、ということか。つまり今のは捨ての一手。敢えて今は負けてもいい、そう判断したのだろう)
サンドパン(これで奴も考えるはずだ。また俺が続けてパーを出すのか、それとも……と)
ピカチュウ「……外野だが俄然燃えてきた。これがム○キングの醍醐味。読み合いに読み合いを重ね、それでも勝利するのはたったの一匹。あの頃を、思い出すな」
サンドパン(しかしこれは、たががじゃんけんのような……)
ピカチュウ(メラメラ)
カイロス「さて、次はどうするかね?」
【アクティオンの体力 7/10】
【ヘルクレスの体力 9/10】
サンドパン(奴は今、必殺技『パー』を出した。私が必殺技を出せないのをいいことにか?)
カイロス(私が『パー』を出したことを、どう受け止めるだろうか? 『グー』は出すべきではないという、牽制だと捉えるか?)
《10……》
サンドパン(私が警戒すると考えて、まさか……もう一度、『パー』は出してこないとは思うが……)
カイロス(相当迷っているらしい。私が『パー』を出すか、否か? 先刻のお前と同様のことをしてくるか、あえて?)
《9……》
《8……》
サンドパン(となると『グー』か『チョキ』。もう、受け身はやめることにする。このままでは埒が明かないからな。奴が『チョキ』を選ぶことを祈ろう)
カイロス(私の出すべき手は……)ポチッ
《7……》
サンドパン(『グー』を出す。そうだ、出すのだ。これは、『勇気』の『一撃』……!!)ポチッ
カイロス「……」ニヤッ
サンドパン(な、なんだ……笑った──?)
ピカチュウ「あっ……あぁっ!!」
【サンドパン『グー』 『パー』カイロス】
ピカチュウ「二匹とも、必殺技を……!!」
《やったぁー、ちょーひっさつわざだぁー》
ヘルクレス『グルルル……』ズガァン
超必殺技『アースクエイクスロー』を、まともに喰らってしまうこととなる。
サンドパン「クッ……」
カイロス「『自分と同じことをやることはないだろう』という甘い考え、加えて『必殺技を出したい』という焦り……。これらが合わさったことにより、このような結果を生み出してしまったのだ。お前自身が招いた現状だ」
ピカチュウ「アイツ……そこまで計算して……?」
【アクティオンの体力 3/10】
【ヘルクレスの体力 9/10】
カイロス「おやおや、さっきまでの余裕はどこに行ってしまったのかな? 冷や汗ダラダラ、表情もどことなく虚ろ……隠しても無駄だ。君はこの私に『勝てないかも』と薄っすら考えている」
サンドパン「……言っていることがさっぱりわからない」
カイロス「そうだ、良いことを教えてあげよう。『勇気』の対義語は、『臆病』だ。君はこの私に、怯えてるんだよ」
サンドパン「勝負だと言うのに、よく喋る奴だ」
カイロス「勝負中に喋っては悪いか? むしろ、脳内が刺激され立ち回りも振る舞いも上手く行えるようになると思うがな。根拠はないが」
ピカチュウ「アイツの口を塞いだらどうなるかな」
サンドパン「多分、ケツからでも喋るんじゃないか? カイロスめ」
サンドパン(さて……どうする)
《10……》
サンドパン(どうする……? ……どうする………?)
どうすれば、いい…?
カイロス(そう言えば、奴……。なぜだ……? 一つ、ほんの些細なことかもしれないが……『気にかかる』ことがある)
《9……》
カイロス「そうだ……。まだこのム○キングバトルで敗北した際のペナルティを、貴様らには言ってはいなかったな」
サンドパン「なに……?」
カイロス「解り易く言い直せば……『罰ゲーム』だ」ポチッ
カイロスは、隠し持っていたリモコンのスイッチを押した。
……ジャララ。
サンドパン「!」
ピカチュウ「なっ、おい、これは……。どういうことだ虫野郎ッ!?」
サンドパンの両足が、床より這い上がってきた鎖により封じられたのだ。
カイロス「もし君が敗北したとして、素直に他と交代させると思うか? たかがゲーム、されどゲーム……負けたならば、それなりの罰が必要だと私は考えるんだ。よし、出てこい、お前たちっ!!」
『『グオオオォォーーッ!!!!』』ワササッ
ピカチュウ(え、な、なんだ……? あ、あれは、天井裏に今まで……潜んでいたというのか!?)
ピカチュウたちが目撃したのは、天井へと大量にしがみついている、虫ポケモンの集団であったのだ。
カイロス「この虫ポケモンたちは私の可愛いペットだ。数多の虫ポケモンを従え操る…それが私が“虫司”と称される所以なのだよ」
ピカチュウ「わかったぞ。貴様が俺たちに……“なに”をしようとしているのか!!」
虫ポケモンたち『あぁ~、喰いてぇ、喰いてぇよぉ……。旨そうなポケモンが3匹も……バヒュヒュヒュヒュッ!!』
カイロス「この虫ポケモンたちは、『ポケモンの肉』しか受け付けぬように私が調教したのだ。加えて数日前から食事を抜かしてある。もう……『どういうことか』お察しかな?」
サンドパン「精神的動揺を誘っているつもりか? それは飽くまで私の敗北前提で話を進めている。……私は『勝』つつもりでいるからな」
カイロス「言い方は悪いが、この絶体絶命の状況で未だに希望を捨て切れずにいるのか? 対した根性だが、私には到底不可能なことに思えるがね」
サンドパン(……)
カイロス「さぁ、それでは手を選ぶがいい。1手1手が破滅へと導く、そんな“キボウ”の手をな」
アクティオンゾウカブト(強さ200)
技 【グー】サマーソルトプレス(必殺技)
《相手を後方に弾き飛ばした後、相手に向かって迅速に突進して踏み台のようにして跳ね上がり、一回転後方宙返りしながら落下し、踏みつぶす》
【チョキ】ブルロック
《相手の突進を肩をつかみながら横にまわりこんでかわし、そこから闘犬のようにはさみつけ振り回しながら締め付け投げすてる》
【パー】ばいがえし
《相手に負けた後のじゃんけんで勝つと発動し、アカスジギンカメムシを呼んでこちらの攻撃後、毒ガスを見舞って貰う。こちらが連続で負ければ負けるほど毒ガスの威力は高まる。あいこになるとその後勝っても発動できない》
カイロスのカード
ヘルクレスリッキーブルー(強さ200)
技 【グー】ガンガンスマッシュ
《相手をつかみあげて左右に叩きつける》
【チョキ】クロスダイブ
《相手の攻撃をかわし横からはさみ上げ、左右に体をひねって振りかぶった後上空に投げ上げ、落ちてくるところを回転しながらダイブし、地面に押さえこみながら引きずる》
【パー】アースクエイクスロー(必殺技)
《地面にねらいを定めてから、思いきりツノをたたきつけ、その衝撃で吹き飛んでこちらにきた相手をつかまえ遠くに投げ返す》
****
ピカチュウ「こっちはグーが必殺技、相手はパーが必殺技、か。これは、少々厄介だな」
サンドパン「む、なにが厄介なんだ?」
ピカチュウ「必殺技はより多くのダメージを与えることができる。例えば互いに必殺技を繰り出そうとした際、じゃんけんの相性に打ち負けてるとどうなると思う?」
サンドパン「なるほど、そういうことか。相手の必殺技を喰らうわけにはいかないし、だからといい、こっちの必殺技も出したいわけだ」
カイロス「さぁ、この席に座れ」
《100円入れてね。カードがもらえるよ》
ピカチュウ「うっわ、懐かしい声」
カイロス「私が入れてやろう。カードは排出されないがな」
チャリン……。
カイロス、硬貨を投入する。
《僕は森の妖精ポ○。僕らの森が大変なんだ! 皆、僕たちを助けて!!》
カイロス「対戦は、1匹対1匹だ。1匹が負けたらそこで終了だ」
《さあ、君のカードをスキャンしてね》
ピカチュウ「あぁ、覚えてる覚えてる。カードをスキャンするんだな。昔はこのやり方すらわからなかった」
──スキャッ。
カイロス「さて、私もスキャンするとしよう」
──スキャッ。
サンドパン「……」
サンドパン(『スキャッ』って擬音に、誰か突っ込まないのか……?)
ポ○「ア○ー! ムシの改造なんてやめるんだっ!!」
ア○ー「フハハハ、ポ○め! 今日こそお前の命日だ!!」
ピカチュウ「この二人、5年間近くこんなことやり続けてたんだよな」
《すごいぞー、アクティオンゾウカブトだー。》パアァン
《すごいぞー、ヘルクレスリッキーブルーだー。》パアァン
そして、二人の勝負が始まる。
カイロス「10カウント内に、出す技を選べ」
《10……》
《9……》
サンドパン「よし、ぼちぼちいかせてもらおう」
《8……》
《7……》
カイロス「ああ、一つ言い忘れていた。互いの体力は、解りやすく『10』とした。通常の攻撃は『1』、攻撃技は『2』。必殺技はその2倍の『4』ダメージを被る」
《6……》
サンドパン「勝負の開始後に今更そんなことを言うのか。俺の動揺を誘っているつもりか?」
カイロス「ハハ、まさか」
《5……》
《4……》
サンドパン(なにせ…奴の必殺技が『怖い』)
ピカチュウ(多分サンドパンは『グー』は出せない。カイロスが短期決戦を狙い、いきなり必殺技の『パー』を出してくるかもしれないしな。飽くまでそれは、可能性止まりだが)
ピカチュウ(となるとサンドパンが出すのは、『チョキ』か『パー』。どっちを出すのかな、サンドパンは)
サンドパン(俺が出すべきは……。奴も読めてはいるはずだ。俺が奴の『パー』を警戒していることは)
《3……》
サンドパン(ならば、ならばだが……奴は『パー』を『出さない』。いや、『『出せない』』。)
《2……》
サンドパン(となると、奴の残りは『グー』か『チョキ』。さすがに、こっちの必殺技の『グー』に負ける『チョキ』を出すとは考え難い)
サンドパン(ならば……)
《1……》
サンドパン(……これしかないっ!)
ポチッ。
そして、互いの出す技は選ばれた。
ピカチュウ「なるほど……『パー』を出したか。……なっ……」
サンドパン「……!」
カイロス「弱者が弱者なりに必死に知恵を巡らせたようだ。だが、所詮は……君の考えていることなど、私には丸わかりなのだよ」
カイロスは、『チョキ』を選んでいたのだ。
《ヘルクレス「ブオォォーッ……」ギリギリ》
クロスダイブが、アクティオンに炸裂する。
カイロス「大方、『グー』に負ける『チョキ』は出せまいと考えたのだろう。フフ、それは実に浅はかな考えだ」
サンドパン「……」
カイロス「君が私の『パー』を恐れて『グー』は出せないのなら、君は『チョキ』か『パー』しか出すことができないということになる」
サンドパン「ならば、お前が『チョキ』を選んでいたら、少なくともお前はあいこには持ち込めた。……私が『グー』を出せないと、踏んでいたのか」
カイロス「だって君、『石橋を叩いて渡る』タイプだろ? むしろ、叩き過ぎて壊してしまうような。そんな奴が、いきなり打ち負けている技を出すわけがない。私は、そう判断したのだ」
サンドパン「出だしで躓いたか、最悪だな。だが、まだ勝負は始まったばかりだ。図に乗るな」
カイロス「そうそう、始まったばかりだから……。気楽にいこうじゃないか。気楽にね」
【アクティオンの体力 8/10】
【ヘルクレスの体力 10/10】
ピカチュウ「奴のヘルクレス……フルアタだな。ああ、フルアタとは、ポケモンでいうところの、技が全部攻撃技の構成のことだ」
サンドパン「ああ、奴は特殊技を一切入れていない。つまり……」
ピカチュウ「特殊技などに頼わなくとも、勝てる。そう慢心できるほど、読み合いに自信があるということか。手強い」
サンドパン「いや、案外……そこに付け入る隙があるのかもしれない」
ピカチュウ「?」
サンドパン「まぁ、そんな隙など、敵さんは出してくれないかもしれないがな」
そして、再びカウントが始まる。
《10……》
サンドパン(子供の発想だが、奴は『同じ手は再び使わないだろう』と考えているのではないだろうか)
カイロス(さぁ、悩め、藻掻け、苦しめ。果たして私の選ぶ手は、グーか、チョキか……パーか? たった三手の出し合いの単純なゲームですら、真剣勝負になり得るのだ。面白いだろう?)
《9……》
サンドパン「……私は、これだ」ポチッ
カイロス「今回は、選ぶのが早かったな」
サンドパン「余計なお世話だと言っておこうか。それより、貴様も早いところボタンを押したらどうだ」
カイロス「待て待て、じっくりと考えさせてはくれないか。あぁ、言っておくが手の動きを見るとかいったコスいことはしていないからな。安心してくれ」
サンドパン「そんなことをしていたら、真っ先に貴様の両手を圧し折る」
カイロス「ハハ、怖い怖い。では……私はこれだ」ポチッ
【サンドパン『パー』 『パー』カイロス】
ドゴォ……。
ピカチュウ「あいこ、か……。野郎、必殺技を出しやがった。グーを出していれば大打撃だった」
サンドパン「……私が必殺技を出すとでも、予測したのか?」
カイロス「必殺技を出していれば良し、こちらの必殺技に対しあいこを狙ってくるならそれでも良し。まぁ、狙いは……もっと“別”のところにあったわけだが」
サンドパン(別……?)
サンドパン(なるほど、“そういう”ことか。奴は、俺の性格を見極めていた。同じ手を2回続けて出す程の、狡猾な性格なのかどうか)
ピカチュウ(念には念を、ということか。つまり今のは捨ての一手。敢えて今は負けてもいい、そう判断したのだろう)
サンドパン(これで奴も考えるはずだ。また俺が続けてパーを出すのか、それとも……と)
ピカチュウ「……外野だが俄然燃えてきた。これがム○キングの醍醐味。読み合いに読み合いを重ね、それでも勝利するのはたったの一匹。あの頃を、思い出すな」
サンドパン(しかしこれは、たががじゃんけんのような……)
ピカチュウ(メラメラ)
カイロス「さて、次はどうするかね?」
【アクティオンの体力 7/10】
【ヘルクレスの体力 9/10】
サンドパン(奴は今、必殺技『パー』を出した。私が必殺技を出せないのをいいことにか?)
カイロス(私が『パー』を出したことを、どう受け止めるだろうか? 『グー』は出すべきではないという、牽制だと捉えるか?)
《10……》
サンドパン(私が警戒すると考えて、まさか……もう一度、『パー』は出してこないとは思うが……)
カイロス(相当迷っているらしい。私が『パー』を出すか、否か? 先刻のお前と同様のことをしてくるか、あえて?)
《9……》
《8……》
サンドパン(となると『グー』か『チョキ』。もう、受け身はやめることにする。このままでは埒が明かないからな。奴が『チョキ』を選ぶことを祈ろう)
カイロス(私の出すべき手は……)ポチッ
《7……》
サンドパン(『グー』を出す。そうだ、出すのだ。これは、『勇気』の『一撃』……!!)ポチッ
カイロス「……」ニヤッ
サンドパン(な、なんだ……笑った──?)
ピカチュウ「あっ……あぁっ!!」
【サンドパン『グー』 『パー』カイロス】
ピカチュウ「二匹とも、必殺技を……!!」
《やったぁー、ちょーひっさつわざだぁー》
ヘルクレス『グルルル……』ズガァン
超必殺技『アースクエイクスロー』を、まともに喰らってしまうこととなる。
サンドパン「クッ……」
カイロス「『自分と同じことをやることはないだろう』という甘い考え、加えて『必殺技を出したい』という焦り……。これらが合わさったことにより、このような結果を生み出してしまったのだ。お前自身が招いた現状だ」
ピカチュウ「アイツ……そこまで計算して……?」
【アクティオンの体力 3/10】
【ヘルクレスの体力 9/10】
カイロス「おやおや、さっきまでの余裕はどこに行ってしまったのかな? 冷や汗ダラダラ、表情もどことなく虚ろ……隠しても無駄だ。君はこの私に『勝てないかも』と薄っすら考えている」
サンドパン「……言っていることがさっぱりわからない」
カイロス「そうだ、良いことを教えてあげよう。『勇気』の対義語は、『臆病』だ。君はこの私に、怯えてるんだよ」
サンドパン「勝負だと言うのに、よく喋る奴だ」
カイロス「勝負中に喋っては悪いか? むしろ、脳内が刺激され立ち回りも振る舞いも上手く行えるようになると思うがな。根拠はないが」
ピカチュウ「アイツの口を塞いだらどうなるかな」
サンドパン「多分、ケツからでも喋るんじゃないか? カイロスめ」
サンドパン(さて……どうする)
《10……》
サンドパン(どうする……? ……どうする………?)
どうすれば、いい…?
カイロス(そう言えば、奴……。なぜだ……? 一つ、ほんの些細なことかもしれないが……『気にかかる』ことがある)
《9……》
カイロス「そうだ……。まだこのム○キングバトルで敗北した際のペナルティを、貴様らには言ってはいなかったな」
サンドパン「なに……?」
カイロス「解り易く言い直せば……『罰ゲーム』だ」ポチッ
カイロスは、隠し持っていたリモコンのスイッチを押した。
……ジャララ。
サンドパン「!」
ピカチュウ「なっ、おい、これは……。どういうことだ虫野郎ッ!?」
サンドパンの両足が、床より這い上がってきた鎖により封じられたのだ。
カイロス「もし君が敗北したとして、素直に他と交代させると思うか? たかがゲーム、されどゲーム……負けたならば、それなりの罰が必要だと私は考えるんだ。よし、出てこい、お前たちっ!!」
『『グオオオォォーーッ!!!!』』ワササッ
ピカチュウ(え、な、なんだ……? あ、あれは、天井裏に今まで……潜んでいたというのか!?)
ピカチュウたちが目撃したのは、天井へと大量にしがみついている、虫ポケモンの集団であったのだ。
カイロス「この虫ポケモンたちは私の可愛いペットだ。数多の虫ポケモンを従え操る…それが私が“虫司”と称される所以なのだよ」
ピカチュウ「わかったぞ。貴様が俺たちに……“なに”をしようとしているのか!!」
虫ポケモンたち『あぁ~、喰いてぇ、喰いてぇよぉ……。旨そうなポケモンが3匹も……バヒュヒュヒュヒュッ!!』
カイロス「この虫ポケモンたちは、『ポケモンの肉』しか受け付けぬように私が調教したのだ。加えて数日前から食事を抜かしてある。もう……『どういうことか』お察しかな?」
サンドパン「精神的動揺を誘っているつもりか? それは飽くまで私の敗北前提で話を進めている。……私は『勝』つつもりでいるからな」
カイロス「言い方は悪いが、この絶体絶命の状況で未だに希望を捨て切れずにいるのか? 対した根性だが、私には到底不可能なことに思えるがね」
サンドパン(……)
カイロス「さぁ、それでは手を選ぶがいい。1手1手が破滅へと導く、そんな“キボウ”の手をな」