6.決断の第一歩

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 歩いて数分。少し濃い霧を抜けると、そこは小さいが綺麗な砂浜だった。霧はブライトベースの方向以外には全くなく、さんさんと輝く太陽を反射する波に思わず目を細めた。板張りの桟橋が一つだけ設置されており、そこに大きな帆船が泊まっている。

「これが自分たちの船、ヴォヤッジ号です。もし移住するんでしたら、この船を使うことになると思いまs……じゃなくて、使うことになるよ」
「無理しねーでいーぞ」
「いや。自分が言われて分かったんだ。やっぱり敬語はやめたい」

わにまるの優しさをキッパリと撥ね付けるきのえ。私もやめられるように頑張ろう。ビショップも頑張って口を開く。

「なんで船を使うの? マグナゲートじゃダメなの?」
「マグナゲートは四匹までしか通れないんだよ。それにあんまり大きいのは通せないし、今回みたいに場所間違ったら悲惨だからね」

帆船が波に合わせてゆっくり上下に揺れる。まるで二匹の努力を認めるように。

 きのえはタブレットを操作すると、その画面を二匹に見せた。何かの地図だ。タブレットを取り囲むように腰を下ろす二匹。

「これが、自分たちの考えてる設計図。ゆくゆくはここをフロンティアの首都──ブライトシティにしたいと思ってるんだ……まあ、それにはこの設計図もまだまだなんだけど」

きのえが示す設計図は、中央にゲートと港を繋ぐメインストリート、その道沿いに主要な店が立ち並んでいる。脇道は描かれてはいるものの、道沿いの店に関しては一切記載がない。わにまるがその一帯を指さして言った。

「なあ、この辺は何なんだ?」
「その辺はまだ何も決まってなくて……」
「それなら! オイラ、劇場建てたい!」

わにまるが目を輝かせた。劇場を建てるのは彼の長年の夢だった。それを聞いて、きのえの目も輝き、尻尾の葉っぱが、たしたしと砂浜を叩く。

「いいね、劇場! すごく素敵だよ!」
「だろだろ? よし決めた。オイラ、フロンティアに移住する!」
「本当!? 助かるよ!」

即決するわにまる。笑顔で手を取って握手を交わす二匹を見て、ビショップは気楽な二匹が少し羨ましくなった。だが自分は今、ギルドの長。ちゃんと判断しなければ。

(ギルドを建てるってなったら場所は……ここか。“ギルド設営用地”。隣は“開拓士本部”で……割と便利そうな場所ね)

『首都にする』と言っても、そこはやはり開拓ありき。開拓士の拠点はきちんと街の中心に置かれている。

「そんで、ビショップs……は、どう? 今すぐ決めろとは言わないけど、感想とかない?」
「うん。まあ、悪くはなさそうかな。そんで、ここにギルド建てても元の大陸とマグナゲートで行き来できるの?」
「うん。と言っても最初のうちは難しいんだけど。マグナゲート使うには、このフロンティアでのある程度の実績が必要なんだよね」

トレジャーバッグと同じような感じなのね、とビショップは思い至った。どうせ引越したばかりの頃は何かとバタバタするだろうから、行けないとしてもさほど問題無さそうだ。

(問題は『あの言葉』。でも私から言い出した以上、ギルドのみんなにも、やめるとは言いにくいな……)

 それさえなければ、ビショップも喜んで移転を受け入れていたかもしれない。その様子を見て、きのえが提案する。

「とりあえず、一旦戻ろうよ。留守番組も待ってるだろうし。移転は色んなポケモンの意見聞いてゆっくり決めてくれればいいよ」
「うん、ありがとう」

そうは言ったものの、ビショップの気分は乗らなかった。土地代は安く将来性もあるこの土地に移住する機会を、誰が反対するだろうか。きのえは少し離れた所でマグナゲートの準備をしており、わにまるはその脇できのえから貸してもらったタブレットを眺めている。

(ま、心配しても仕方ないか。とりあえずルークやみんなの意見を聞こう)

ビショップも立ち上がり、二匹の方へ歩いていった。さらさらした砂は足を進めるたびに不安定に動いて足の形に沈み込み、ビショップの歩んだ痕跡を残した。マグナゲートが開き、きのえが満足そうに鼻を鳴らした。

「よし、今回は絶対大丈夫! さ、入って入って!」

ビショップはマグナゲートに入る前にチラリと後ろを振り返った。相変わらず残っている足型を見て、ビショップは直感した。きっと私はまたこの土地を踏むことになる。多分ではない、直感だった。

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 断言しただけあって、今度はちゃんとギルドの中庭に戻ってきた。続いて、ルーク、ひのと、ダッシュ(ジャンケンに勝った)がマグナゲートをくぐったが、十分経たないうちに帰ってきた。ビショップたちと違い、きちんとブライトベースにゲートが開いたらしく、せっかちなダッシュがすぐ飽きたようだ。

「ま、でもいい場所だよな。俺は賛成だぜ、ギルド移転。俺たちの“旅をする”って目的にも合ってるし」

ダッシュの意見。続いてディフの意見。

「あたしは別にどうでもいいけど、トレジャータウンを離れるいい機会だなって思った。悪くはないんじゃない? ま、最後はビショップの判断だけど」

そして、オフェン、サポの意見。
「うむ。余は良いと思うぞ。この地は思う存分探検出来なかったからな。見知らぬ地を訪れてみたいと思っていたところだ」
「僕は賛成。色んなポケモンと知り合ってみたいなあ」

一方で反対意見もあった。まずは誰にでも敬語で話す真面目なリンク。

「自分はあんまり……。今までこの街で築いてきた信頼関係とか全部まっさらになるじゃないですか」

そして、ギルドのメンバーでありながらブティック(スカーフ屋)を営んでいるエネコのシロフォン。

「シロフォンもはんたーい。お店あるもん。ずっとやりたかったお店だから閉めたくないもん」

 シロフォンは元女優・ロロの娘。彼女は田舎者のわにまるやリンクが知っているほど有名なエネコロロだったが、シロフォン──当時の名はネネ──をアイドルにさせるべく虐待まがいの指導をしていた。リンクの活躍によってそのことが発覚し、トレジャータウンから追放。母親から解放されたネネは『シロフォン』と名を変えて、長年の夢だった衣服店を営んでいる。

「ルークは意見ないの?」

ビショップはギルドマスター室で各々の意見をノートにまとめながらルークに話しかけた。視察から帰ってきて三日ほど経つが、ギルドのメンバーは賛成意見が断然多い。そんな中、ルーク何も言っていなかった。

「ボクー? うーん……まだ頭の中ごちゃごちゃなんだよね……」
「それでもいいから言ってよ。ルークの意見も聞きたい」

ルークはしばらくごにょごにょ呟いていたが、やがて心を決めてゆっくりと話し始めた。

「……そりゃ、土地代とか作業が浮いてビショップと一緒に探検できるのは嬉しいよ? でも……なんて言うんだろ。ボク、人見知りだし……それに……」
「それに?」

ルークは「悪く思わないでね」と言うとビショップの目を見て一気に打ち明けた。

「ビショップは、行きたくないんじゃない?」

図星の指摘にギクリとしながら、ビショップは聞き返す。

「な、なんで?」
「だって、視察から帰ってきからずっと難しい顔してるよ? みんなの前ではそんな感じないけど、ギルドマスター室とかずーっとそんな感じだし……」

話し始めて止まらなくなったのだろう、ルークがビショップにずい、と詰め寄る。

「ねえ、何かあったの? 言ってくれなきゃ、分からないよ。ビショップはさっき、ボクの意見も聞きたいって言ったけど、ボクもビショップの意見を聞きたいよ」
「わ、私は……」

ビショップは一瞬、視線を泳がせた。あの夢のことを話しても良いものだろうか……。その時ふと脳裏にある光景が浮かんだ。時限の塔からの帰り道の、涙で滲んだ視界とルークの泣き顔。

(また『あんな思い』はさせたくないし、したくない。今度こそちゃんと言おう)

ビショップは深呼吸をして心を落ち着けると、ルークに事の顛末を全て話した。謎の霧、その中で見た夢、言われた言葉……。

「そうだったんだね……うーん、でも引っかかるなあ」
「何が?」
「そのポケモン?の言った『無駄な人間』って言葉だけどさ」

ルークは一瞬、言葉に詰まったが、ビショップを真っ直ぐ見つめて言い切った。

「ビショップは『無駄な人間』なんかじゃないよ」

急に言われて思考が追いつかない。いや、だって話したばかりじゃない。

「ど、どうして? だって人間は『エネルギー』を止めちゃうんだよ?」
「だって、ビショップがいたから今のこの世界はあるんだよ。世界を救った人間がどうして『無駄な人間』なの? それに、その『エネルギー』のことだってボクたち全然知らないじゃないか。もしかしたらパルキアの時みたいにソイツの勘違いかもしれないし、ひょっとするとダークライみたいな悪者かもしれないよ?」
「た、確かに……」

ビショップは素直に納得した。言われてみれば私の意見は穴ぼこだらけだ。『人間』の言葉に完全にビビっていた。その様子を見て、ルークはニッコリ笑った。

「よかった。元のビショップに戻ったよ。それで、ボクの意見だけど……」

その顔を見て、全てを理解したビショップはルークの言葉を手で制した。

「分かってる。私に気を遣ってたんでしょ」
「あれ、バレた?」
「正直言うと今、分かった。だって人見知り程度で反対するルークじゃないでしょ」

そう言ってビショップは得意そうに笑ってみせた。こっちだって分かってる。だって、相棒だから。世界の脅威を二度も救った絆、舐められちゃ困る。

「明日の集会で発表する」

ルークは顔色を変えずにこちらを見つめている。でもきっと向こうも分かってる。私がこれから言う言葉を。ビショップは軽く息を吸い込むと、誰へともなく宣言した。

「ギルド・チェックメイトは、フロンティアに移転する!」

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 それからの日々は大忙しだった。まず、メンバーの一匹一匹に、フロンティアに行くかこちらに残るかを聞いてリスト化。残る者でプクリンのギルドへの斡旋を希望するポケモンには、プクリンのギルドの掟を叩き込む。全員を受け入れてくれるとは思わないが、かける負担が小さければ受け入れてもらえる可能性は高い。指導の担当はルークが請け負った。対してビショップは、いつにも増して大量の書類を捌いていった。なおかつ、全体の依頼量の調整と、引越す時の担当決め。

 そして、ついにプクリンのギルドに挨拶に行く日がやってきた。ビショップのカバンの中には手続きに必要な書類たくさんと、最後の手段セカイイチ。ビショップはプクリンと直談判、ルークはぺラップに希望者を斡旋する係だ。格子が敷き詰められた穴を見下ろすルーク。

「ここに乗るのも、最後だね」

ルークが足を踏み出し、格子の上に乗る。

「ポケモン発見、ポケモン発見!」
「誰の足型、誰の足型?」
「足型はルーク! 足型はルーク!」

ディグダとドゴームの聞きなれたやり取り。これも最後かと思うと感慨深い。続いてビショップが格子の上に乗る。

「ポケモン発見、ポケモン発見!」
「誰の足型、誰の足型?」

そうだ、とビショップは昔を思い出した。初めてギルドに来た時は、ヒノアラシが珍しすぎてディグダとドゴームが揉めてたっけ。

「足型はビショップ! 足型はビショップ!」

まあ、今はもうそんなこともないけれど。ディグダの報告が続く。

「以上二匹、チェスのメンバーを確認! 以上二匹、チェスのメンバーを確認!」

ガガガガガ、と重たい音を立てて鉄格子が開く。そこに居たのはドゴームだ。

「よう。久しぶりだな」
「うん、ここ最近忙しくて」

ルークが話しても良いものか迷っているとドゴームが先手を打ってこっそり言った。

「聞いてるぜ。ギルド移転するんだってな。親方はともかく、ぺラップはカンカンだぞ」
「うっ……そりゃそうだよね……収益減るんだもんね」

ルークが苦々しい表情を浮かべる。ビショップも出来ることなら一緒に行きたいが、書類はどれもギルドマスターの署名が必要なものばかりだし、スケジュールはギチギチに詰まっている。頑張ってもらうしかない。

「ルーク。なるべく早く終わらせるから、それまで持ちこたえてて」
「な……なんとかするよ」
「着いたぞ」

ヒソヒソ声で話していると、いつの間にか親方の部屋の前に来てしまった。二匹はギルドの意匠が描かれた扉を睨みつけて、固唾を飲んだ。この扉を開けてしまえば、もう元には戻れない。ここからはそれぞれの戦いだ。

二匹は扉に一歩近づくと、同時に息を吸いこんだ。

「「こんにちは、チェスです! ギルド移転の件についてお話しに参りました!」」
ありがとうございました!

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感想

お名前:オレンジ色のエースさん
 更新お疲れ様です!遂にギルドの移転決定かぁ………歴史的瞬間を目にしたかもしれない!ビショップが受けた言葉は確かに気になる所だけど、それよりも周りの意見で前に進もうって考える辺り……………やはり探検隊って感じがする!ルークの一言って抱え込みやすい性格には本当に助かるんだよなぁ。

 ペラップは………やっぱり彼らしいかなぁ。(汗)確かヨノワールの件でも最後の最後まで信じなかっただけあって、頑固者って感じ。

 きのえが意外なところで可愛いキャラって感じがします。普段クールなキャラがちょっとしたことでバタバタしちゃうシーンはある意味痺れるや!

 次回も楽しみにしてます!
書いた日:2020年02月05日
作者からの返信
感想ありがとうございます! 早くてびっくりしました笑

少し語らせていただきますね。
探検隊のパートナーは「主人公に勇気をもらった」と話しますが、それは主人公にとっても同じなんじゃないかと思いました。勇気をもらったパートナーが、主人公の消滅という悲しい出来事を乗り越えてどう成長したのかを想像すると、「かつての自分のように一歩を踏み出せない者への後押しをする」という方向に落ち着きました。今回の話の中心はビショップですが、主役はルークかもしれません。

ぺラップはやっぱり主人公たちの障害として立ち塞がってほしい願望……いつも嫌われ役押しつけてごめんよ!

きのえはこの作品で魅力的に描きたいキャラ上位に食いこんでいるので嬉しいです! クール……というか、色々にぶいんですよね。肝が座っているというか笑 その辺も今後描いていきたい所でもあります。

楽しみにしてくださって嬉しい限りです。今後も『フロンティア!』をよろしくお願いします。
書いた日:2020年02月05日