その⑦ “氷司” オニゴーリ

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《《タウン》》


……ボテッ!!


ピカチュウ「あいたたた……」

ドーブル「な、なんだったのかしら、アイツ……」

ゴーリキー「わからん。あいつ……カラマネロは十八司でも相当の変人だったからな。俺たちを舐め腐ってるような、そんな感じすら受けたし……」

ピカチュウ「とにかく、帰ってきたんだな……タウンに……。……お前もか」

イーブイ「あいたたた……」

ゴーリキー「……とりあえず、奴が心配だ。最寄りの病院へと送り届けて来るよ」

サンドパン「……」ハァ、ハァ

ドーブル「……ピカチュウ。私のことを話していないのにぶしつけですが、今度はあなたに聞かせてもらいたい。あなたとサンドパンには、一体どんな因縁が?」

ピカチュウ「……あぁ、話すよ──」


(……)


ドーブル「……そんなことが」

ピカチュウ「でも、俺は奴にもう恨みなどないよ。だって……」


俺とこのサンドパン……名前は『トサ』と言うんだが、俺は奴に挑み、話した通り、無残にも敗北を期した。

俺「ポカブ……しっかりしろ! ポカブ……」

俺の相棒だったポカブは、死んだ。
それ程までに、奴と俺の実力差はあったんだ。

……でも。

お母さん「ねぇ。なんかお金と手紙が置いてあるんだけど。もしかしてこれ、アンタあてのじゃないの?」

俺「……!?」

奴の謝罪の言葉。10の力の俺を、100の力で倒してしまったことへの謝罪。それと医療代と慰謝料の金。

……実のところ、悪かったのは俺だったんだ。無謀にも、格上に立ち向かっていった、俺が。

それなのに……。

その件でとある女友だちと喧嘩をしてしまうんだが、それはまた、後の話だ。



──やがて。



「「号外~、号外~!」」


イーブイ「あら、号外だってさ。ふ~ん、今日はお尋ね者の情報も出ているんだね。……えっ、これは……」


一大ニュースであった。


町の主、ハリテヤマの謎のポケモンの襲撃による負傷。

その“謎のポケモン”……お尋ね者“創蛙”。

そして、その仲間とされる……あのサザンドラ。
それらのポケモンの顔写真が、掲載されていたのだ。


イーブイ「あ、あのサザンドラさんが……!? 確かに、そんなことしそうな顔で、それでもってとっても怪しかったけど……」


──その時。


「いえ、間違いはありませんよ」


ピカチュウ「ん、あんたは……?」

オノノクス「私は個人探偵。あの二匹の行方を遥か昔から追い求めてきたのです。オルゴールのことは既に調べが付いています。あの二人を元の世界へと返す訳には行きません」

ピカチュウ「アンタがオクタンの言ってた探偵だったのか。俺たちは次にアイスロックへと向かうつもりだ。そいつがいたら、捕まえてやるよ」

オノノクス「ありがとうございます……。いえ探偵といっても、全然成果の挙がらない無名なもので──」

イーブイ「見た目、こんなに強そうなのにね」

オノノクス「力があったとて、頭がついていかなければ、探偵という職業は難しいのですよ。今はまだ情報は微小なものですが、次にあった時には、ご協力できると思います」

ピカチュウ「そうか、ありがとう!」


やがて、オノノクスは町外れの方へ去って行った。


ピカチュウ「……さて、船“シャイニング号”でアイスロックへ渡ろうか。そのための準備を……」


サンドパン「……待て」


ピカチュウ & イーブイ「!!」

突然にも、サンドパンが二匹に声をかけたのだ。

サンドパン「私も不本意ながら、元の世界へと帰還すべく十八司に潜入していたのだ。罪滅ぼしとして、私もピカチュウたちと共に行く」

ピカチュウ(……)

サンドパン「痛めつけた上に、そんな私を救ってくれたお前。……私を殺そうとすれば、チャンスはあったハズなのに、お前は、そうはしなかった」

ピカチュウ「……恨んじゃいない。ポカブを死なせたのは、その後の手際が悪かった俺の責任だ」

サンドパン「……次の戦いでは、先の不甲斐なさを解消することを約束する。だから私を、仲間に──」

ピカチュウ「ああ、いいぜサンドパン! お前も俺たちの仲間だっ!!」

イーブイ「……ピカチュウ」

サンドパン「ありがとう。……そして、今一度言おう。……すまなかった……」


こうしてサンドパンが、ピカチュウたちの仲間に加わった。

……そして一同は、アイスロックへと向かうのだ。


****


《《フレアグリン 北東部 寒冷地帯》》



イーブイ「うぅ、寒いね……」ブルブル

ドーブル「ここからはアイスロックへと続くことになるのだから、当然ですよ」

ゴーリキー「町はあるのか?」

ドーブル「えぇ、寒い場所を好むポケモンが集う町、『ブリザードライク』があるます。その町へと行きましょう」

ピカチュウ「俺、季節の中では冬が一番好きなんだ。なんていうのかな……一年の終わりって、ほら、冬だろ? 物悲しくなるんだ。雪は降って来るが年は終わる。過ぎ去るものと来訪するもの。……深い意味があるんじゃないかなって」

イーブイ「うん、私も冬は好きだよ。私には彼氏はいなかったけど……好きな人と冬景色を見ながら温泉にでも浸かれたら……どんなに幸せかなぁって。」

ゴーリキー「なんなら俺が彼氏になろうか? 嬢ちゃん」

イーブイ「アハハ、冗談みたいなのはその筋肉だけにしてね」

ゴーリキー(……笑顔で拒否された)



《《そして ブリザードライク》》



イーブイ「うわぁ。辺り一面……白、白、白っ! 雪が降り続いてるね。木々や屋根にも雪が積もってる!!」

ドーブル「屋根が三角屋根ですね。雪が振り続ける地域での、雪を屋根に残さないための知恵でしょうか」

イーブイ「あ、見て…雪だるまが作られてるよぉ! キャハハ、よく見たらユキノオーだ。かっわい~っ!!」


だが、そう呑気に観光をしている場合でもなさそうだ。


住人「アイスロックの名物……町の外れの“雪生塔”で十八司が暴れてるの。このままじゃ、崩れそうで怖いわ……」

住人「なんでも、『雪のオルゴール』とかなんとかを探してるらしい。ホント、迷惑だよ」


ゴーリキー「なるほどな。行くしか、ないよな……」

サンドパン「……あぁ」


かくして一同は、雪生塔へと向かうことになる。


****


《《雪生塔 頂上》》


イーブイ「……あの顔面は!」

オニゴーリ「オニオニ……我は“氷司”オニゴーリでオニ! お前たちか……相手になるぞっ!!」

ドーブル「……なんか、語尾からして実に雑魚っぽいです。オニゴーリになるくらいなら、ユキメノコになりたい」

ピカチュウ「その発言は全国のオニゴーリファンを敵に回すぞ。アニメでの活躍で好きな人も多いだろうし」

オニゴーリ「……甘く見やがって」


サンドパン「……リージョンフォームに、変形ッ!!」ボンッ


ピカチュウ「……おぉっ!?」


周辺の雪を纏い、サンドパンは戦闘態勢に入った。


オニゴーリ「……我の実力、見せてやるっ!!」ヒュンッ

サンドパン「つっ……」フラッ

オニゴーリの体当たりを、サンドパンは辛うじて避ける。

ドーブル「外見と口調から、少々油断をしていました。あの巨体で、なんという速さ……まるで、ドッチボールです」

オニゴーリ「ほら、ほら……ほらぁっ!!」ビュウンッ

サンドパン「……避けるばかりでは能がないか。こちらも攻撃あるのみ……“ブレイククロー”ッ!!」ガリッ

サンドパンは、自身の爪により、オニゴーリに対し攻撃を仕掛ける。

オニゴーリ「……ふんっ!」バリィッ


サンドパン「!!」


しかしなんと、オニゴーリの突進により……彼の爪は、砕け散ってしまったのだ。


オニゴーリ「どうした、ご自慢の爪が砕けたくらいで……もう降参かぁ!?」

サンドパン「……まだ、数有る中の一手が破かれたのみ。手札はまだ残っている……ニードルアーマーッ!!」ビィィィ

身体中の棘を強化し、そのまま回転を始める。

サンドパン「……ドッチボール対決、受けて立つ。 お前が凍てつく氷のボールなら…こちとら地の果て針地獄……ニードルボールだ!」グルンッ

オニゴーリ「面白い! 我に……球技で勝負を挑もうとはぁっ!!」グルルンッ


ズガアッ……!!


二匹の身体が、衝突し合う。

ゴーリキー「うおぉっ……なんという衝撃だっ……!!」ビリビリ

ドーブル「打ち勝ったのは、どっちなの……?」


ムクムク……。


サンドパン「う、うぅ……」

ピカチュウ「……サ、サンドパンッ!?」

オニゴーリ「……あ~あ、期待外れだなぁ」


地に伏せていたのは、サンドパン。

立ち誇っているのは……オニゴーリだ。


オニゴーリ「爪も駄目、棘も駄目ときた。呆れるばかりだ。最早お前の前には勝利など存在しない。待っているのは、壮絶なる“敗北”のみだ。さぁ、観念し……我の技を喰らい昇天するが良かろう」

サンドパン「……」

イーブイ「交代しよっ、サンドパン! 私がこんな奴……やっつけてやるんだからっ!!」

サンドパン「……いや、それではやはり駄目なのだ」

ゴーリキー「サンドパン……なぜ、そんな意地を……?」

サンドパン「……お前たちは、“友だち”だからだ」

ピカチュウ「!」

サンドパン「デザートサンでは、お前たちに危害を加えてしまった。友だちとして……恥ずべき行為。その私がお前たちの仲間となり、この初めての戦い……。どうしても、ケリは俺自身の手で付けたいんだ」

ピカチュウ「しかし、この絶望的な状況……。もう“希望”なんて……!!」

オニゴーリ「もう良いだろう……終わらせよう……。れいとう……ビイィィ~ムウゥゥッ!!!」ピキピキ


一同「!!」


サンドパン「……!」


ピキ、ピキィ……。


サンドパンの身体が、凍りついてしまった。

オニゴーリ「オニオ二、後はこの凍り付いた身体を踏み潰せば任務完了! 瞬時に凍り付いたもの程、脆いものはないからな、本当に呆気がない。少しは期待したのだが……損をしたわぁ!!」

ピカチュウ「もういい、俺がコイツを……」

イーブイ「いや、これはチャンス! ドーブル、サンドパンに…火を放つのよぉっ!!」

ドーブル「!」

ゴーリキー「な……なんだって!? 気でも狂ったのか、イーブイッ!! そんなことをしたら……サンドパンが焼け死んじまうぜっ!?」

イーブイ「大丈夫っ! サンドパン……あなたは確かにこう言った!! 私たちのことを……“友だち”だって!!」

オニゴーリ(なにを考えているのだ……この小娘は)

イーブイ「その“友だち”の手を借りることは、決して恥ずべきことなんかじゃないっ! “友だち”だからこそ、助け合って支え合って…ええぃ、上手く言えないけど、とにかく……私たちはあなたを助ける!!」

サンドパン(……)

オニゴーリ「ごちゃごちゃと、綺麗事をほざきおって……。コイツは踏み潰されて死ぬ、それで終わりだ! 小娘……現実を、この惨劇を……よぉ~く見ておけっ!!」

イーブイ(つまり、こういうことなの……。ゴニョニョ……)

ピカチュウ……(そういうことかっ! なんか昔、そういう展開を漫画で読んだことがあるぞ)

オニゴーリ「仲間の冥福でも祈っているのか!? ……死ねえぇぇぇっ!!!」ゴォォォ

ドーブル「では、いきますよ……ふんっ!!」ボォォ


オニゴーリ「!」


ドーブルは炎を具現化し、凍ったサンドパンの身体に向け、火を放った。


オニゴーリ「も、もしや……!」

ドーブル「普通の炎攻撃や、刺々ボールはあなたには通用しないかもしれない。しかし、それが合わさったら……どうなる……?」

オニゴーリ「小娘、これが狙いで……!!」

イーブイ「私は、ただサンドパンやドーブルのことを信じていただけ。それだけよ。私は……何もしていないじゃない」

サンドパン「むんんんっ……」ボオォォ

サンドパンの氷が程良く溶け、彼女の身体に炎が渦巻いた。

ドーブル「奇しくも身に纏う氷のおかげで、あなたに炎のダメージはそれ程伝わってはいない。さぁ、サンドパン……今こそ“あなた自身”の手で、トドメを刺すのよっ!!」

サンドパン「……ありがとう、皆。本当に感謝する。オーバーヒートォ…ニードルゥゥ…ボールゥゥゥッ!!!」

オニゴーリ「う……うおぉぉぉぉぉぉっ!?」


ドゴォッ……。


鋭い棘と燃え盛る炎を纏ったその“ボール”は……。

邪悪なる大敵 十八司 に向け………。


渾身の一撃を込め、突撃した。


オニゴーリ「……」


サンドパン(決まった、か……?)


オニゴーリ「う、うおぉ……」



「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」



ピキピキピキピキィ……。

パリイィィン………!!


オニゴーリの身体に亀裂が走り……。


ボコォンッ!


そのまま、少爆発を遂げた。

落下していくオニゴーリの氷の破片は、煌めき、淡く、幻想的なものであった。
しかし、それは地面に吸い込まれるや刹那、瞬時に溶け込んでいくのであった。


“氷司”オニゴーリ ~撃破~


****


サンドパン「……逆転勝利と言ったところ、かな……」

イーブイ「サンドパン。あなたは、私たちの友だちだよ」

サンドパン「……あぁ、皆、本当にありがとう」


──その後ピカチュウたちは、町に戻り事情を話した。


住民「その『雪のオルゴール』のことなのですが……。もしかしたら、手掛かりはこの町のすぐ近くにあるかもしれません」

イーブイ「ほ、本当ですか!? ぜ、是非教えてくださいっ!!」

住民「この先の『氷塊遺跡』から生きて帰って来たものは、デザートサンの遺跡よろしく……やはり、誰も居ないのです。あの遺跡の最深部には、遺跡の護り主とも呼べる……鬼の様に強い存在が棲んでいるらしいのです」

ピカチュウ「あの、レジロックと同じ様な……」

住民「もしかしたら、あなたがたならば……。デザートサンの遺跡を突破し、今しがたあのオニゴーリを撃破した。そんなあなたがたならば、その存在をも突破できるやもしれませんね」

住民「あなたがたのおかげで、町に活気が漲りました。せめてものお礼です。お代は要りません。この町の宿に泊まって、英気を養ってください」


こうしてピカチュウたちは、ブリザードライクの宿へと宿泊することになったのだ。

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