第19話 廃れた昔話

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第3章 プロローグ
 「ねえねえ! 今日長老様の家に行こうよ!」
 「えー、行って何するの?」
 「決まってるじゃん! あの昔話聞きたいの!」
 「へー、ユキハミちゃんあれ好きだね......」
 
 山の麓に位置する趣を感じる小さな村。 その中を3匹ほどの子供が走り抜ける。 向かう先は周りより一際威厳を放つ大きな家だ。 そこに辿り着いた彼らはノックをし、元気よく叫ぶ。
 
 『長老様ー!』
 
 少し時間が空いた後、静かにドアが開いた。 そこにいたのは、老いていながらまさにこの家の様な強さを秘めた1匹のゴリランダーだ。 恐らく、彼が長老なのだろう。
 
 「おや、子供達。 何か用でも?」
 「あのね、長老様! 昔話聞かせて欲しいの!」
 
 ピョンピョン飛び跳ねるユキハミに、長老は少し驚いた顔を見せる。 だが、それはすぐに笑顔に変わった。ユキハミを優しく撫でる。
 
 「子供ながら昔話に感心を持つとは......大したものだ。 それで、お前たちもそうか?」
 「まあ、付き添いというかね」
 「たまには聞いとくのも良いかもだし!」
 
 長老はうんうんと頷く。
 
 「構わんよ。 どんな形であれ、後世に記憶を繋ぐに越した事はない。 さあ、入りなさい。 こういうのは落ち着いた面持ちで聞くものだ」
 『はーい!!』
 
 それを聞くなり、子供達は喜び勇んで家に飛び込む。 そして近くにあるソファーに座り、長老に早く来る様促した。 もっとも、彼は慌てずにゆっくり来るわけだが。
 そしてやっとの事で長老が座ると、子供達はそこに寄り添った。 長老は芯のある声で語り始める。
 
 「では、始めるぞ。 ......それは昔、まだ世界が混迷を極めていた頃ーー」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 ポケモン達は、今とは違う過酷な世界の中懸命に生き、様々なものから恵みを受けていた。
 

 
 山の幸や川の幸、そして空から溢れる光。 ポケモン達はそれを当たり前の様に享受していた。
 
 
 
 そして、ある日闇が世界を覆った。 世界に悪しきモノが舞い降りた。
 
 

 それはまさに獣の様に暴れ狂った。 全てを壊すため、見境なくこちらへと侵攻した。
 
 

 草木には深い爪痕が刻まれ、 川も寸断され、そしていつしか光も届かなくなった。
 
 

 そしてその化物は、世界を、ポケモン達を壊すことを繰り返した。 その強さはまさに一騎当千。 暴虐の限りを尽くし、そのまま世界を荒らし尽くそうとした。
 
 
 
 そして、ポケモン達が諦めかけた時。
 
 
 


 ーー美しき来訪者が舞い降りた。
 
 
 
 
 その者は化物と対峙した。 その戦いは互角ながらも激しく、地をも震わせるほどであった。 その気になれば、世界を滅ぼせてしまいそうなぐらい圧巻なもの。
 
 

 だが、ポケモン達はただ祈り続けた。 悪しきモノの破滅を。 来訪者の勝利を。
 
 

 ......そして。 ついにその者は化物を鎮め、そしてそれと共に空へと昇っていった。
 


 ポケモン達は正体も知らぬその者を崇め、信仰した。 我らはその心を忘れてはならない。
 


 時に記憶が流されぬように、全てを現世に留めるために。 我らはこれを伝え続け、記憶を繋ぐのであるーー。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「......これで終いだ」
 「......うーん、いつも思うんだけど、なんか謎いっぱいなんだよね......『あしきモノ』とか、『らいほうしゃ』とか。 長老様はやっぱ知ってるの?」
 「残念ながら我にも分からぬ事は多い。 どんなに後世へ伝えようとしても、歴史はやがて廃れていくものなのだ。 我らがすべき事は、今に残る伝承だけでもちゃんと守り抜く事だぞ」
 「ふーん......」
 
 ......その時。 空から少し雷の様な音が聞こえた。 窓の外を見てみるが、外は漆黒の雲に覆われている。
 
 「うわっ、まっくらだ!!」
 「さっきまで晴れてたのに......」
 「......もしかして、お山様が怒ってる......?」
 
 子供達は近くにある山の方を見上げる。 雲は山すらも暗く染めていた。 怒っているように見えても不思議では無い。
 
 「取り敢えず帰った方がよかろう。 親が心配するぞ」
 「うん......」
 
 子供達は足早に家を出て行った。 それと同時に、また1つ雷の音が響く。 長老は空を見上げ、ただ静かに息を吐いた。
 
 「......一雨来そうだな」

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