第14話 太陽と彗星

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 2匹の修行が始まってから数日が経った。 別にその間に何があったというわけでは無いのだが、2匹は着実に技術を吸収していった。
 なんせ、レオンの教え方がかなり上手なのだ。 体験の豊富さがそれに結びついているのだろう。
 技の習得、それの効果的な使い方、そして、この戦術の要とも言えるコンビネーション。
 レオンはそれらのアドバイスを的確に伝え、2匹はそれに素直に受け止めていった。
 
 ......そして、暑さが日に日に増してきたある日。
 
 
 
 
 
 
 
 「実践?」
 
 突然レオンが持ち出した話題にキラリは首を傾げる。
 
 「そ。 実践だ。 ここまで1週間ぐらいやってきたわけではあるが......やっぱ若いって強みなのかな。 かなり飲み込みが早いんだよなぁ」
 「えへへ......なんか照れちゃう」
 
 キラリは顔を赤くして頭を掻く。 ユズもキラリほどではないものの、少し気恥ずかしそうな顔をしていた。 レオンはそれに「あのなぁ......」と言葉を漏らす。
 
 「まあそうなんだけどさ、やっぱ実践で使えてからこそ本物の実力として身についたと言えると思う。 だから依頼を通してそれをしてもらおうってわけだ。 流石にずっとやってないと鈍ってくるし、今ぐらいが丁度いいだろ」
 「なるほど......で、依頼の内容は......?」
 「それはもう着いてから決めるしかないよなぁ......取り敢えず掲示板向かうか」
 「よし来た! 頑張ろユズ!」
 「うん、キラリ!」
 
 3匹は話して英気を養いながら、掲示板へと歩き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「イリータ、今日はどの依頼を受けるんだい?」
 「......そうね。 お尋ね者とか良いんじゃないかしら? 少しレベルを上げてみるのも良いかも」
 「ははっ、君の向上心、毎回驚かされるよ」
 
 街を歩きながら、オロルはイリータに微笑む。そこから、「そういえば......」とふと思い付いたかのように呟いた。
 
 「どうしたの?」
 「......いや、あの2匹どうしてるかなーってさ」
 「探検隊ソレイユのこと? ......別に気にすることはないと思うけれど」
 「アハハ......でも、やっぱ同期でもあるし、ライバルとも言えるんじゃないかい?」
 「......冗談じゃないわ。」
 
 イリータは歩くスピードを速める。 オロルは悪いことを言ったかと少し苦笑した。
 
 
 (......まあ、そうだろうね。君は)
 
 だがオロルは彼女の考えがありありと頭に浮かび、それに納得して頷く。何事も無かったように後をついていった。
 
 
 
 「......ライバルって、そんなものじゃないでしょう」
 
 イリータは静かな声で呟く。 自らの矜持が、その声に表れていた。
 
 
 
 
 
 
 

 「......あ」
 
 掲示板の前に辿り着く。 そこにいたのはお互いのチーム(それプラス1匹)。
 要するに、偶然にもバッタリと鉢あってしまったわけだ。
 会うのは『紫紺の森』の時以来。 少し気まずさは募るが、キラリは勇気を持って話を打ち出してみた。
 
 「ひ、久しぶりだね! 2匹共......」
 「ああ、久しぶりだね。 怪我とかはもう大丈夫なのかい?」
 「あ、うん! あの、あの時はありがとね! 私、まだお礼言えてなかったから......」
 「......本当に、自分の実力をちゃんと考えなさいよね。 誰かを助けたいっていう思いは分かるけど、ちゃんと自分達の力をわきまえなければ、それは蛮勇ともとれるのよ」
 「ちょっ、イリータ......」
 
 いきなり辛辣な言葉を投げかけてくるイリータ。 オロルは彼女を諫めようとするが、ユズとキラリは言い返す気は別に無さそうだった。 何故なら、それは事実だから。 自分達の力におごりを持っていた証拠となる出来事でもあったから。
 ......だが、もう心を折られはしない。 ユズは2匹を真っ直ぐ見て言う。
 
 
 「......そう、だね。 確かにそうだと思う。 勿論、今もそれはちゃんと考えなきゃいけない。 ......だからこそ」
 
 ユズとキラリはお互いに頷く。 キラリは笑ってその言葉を引き継いだ。
 
 
 「私達は、もっと強くなっていくだけだよ!」
 
 
 2匹の目に迷いは無かった。 それを見たイリータは、少し驚いた後、気丈な顔で「......そう」とだけ言った。
 
 
 
 



 
 「......で、そういや依頼はどうする?」
 
 ずっと黙って聞いていたレオンだったが、やっとのことで話を持ち出す。 4匹は思い出したかのように掲示板を凝視した。
 ......しかし。
 
 「これって......」
 「......まさか」
 
 依頼が少ないというわけではない。 ......問題はただひとつ。
 
 

 「難易度、高くない......?」
 
 
 
 
 


 ......そう、依頼の難易度が、全て星3つ以上という事態となっていたのだ。 レオンは少し困ったように頭を掻く。
 
 「あー、これたまーにあるんだよな......依頼は千差万別。 難易度が毎日均等ってことはないんだよ......結構バランスが取れているのが殆どだが、たまに今日みたいに難易度が偏ることがあるってこった」
 「にしても星3つやったことないよ!?」
 「そうなんだよな......今日はユズとキラリに関しては依頼のリハビリみたいなもんでもあるし、イリータとオロルも星3つは未経験だろう?」
 「ええ...... 正直、まだ避けたいところではあります」
 「だよなぁ......でも実践っていうのを考えると今日は依頼やらせたいんだよなぁ......どうしたもんか」
 
 暫く沈黙が続く。 行ってもどうせやられてしまうのがオチだ。 それこそまさに先程イリータが言った「蛮勇」と言える事だろう。 だとしても、依頼は受けたい。 解決策が浮かばずに思い悩む。
 
 
 「......あ」
 
 その沈黙を破ったのはユズだ。 全員がそちらに注目する。
 
 「あの、出来たらなんだけど......
 
 私達4匹が合同でやるっていうのはどう......?」
 
 
 
 
 

 

 「合同?」

 首を傾げるキラリ。 ユズはこくりと頷き話を続ける。

 「うん。 2つの探検隊......ソレイユとコメットで1つの依頼をこなすの。 そうすれば実力差も埋まってくると思うし」
 「なるほどな......そうすれば、依頼が難しくてもちゃんとやり切れる希望は生まれてくるな」
 「私は反対よ」
 
 キッパリと言い切るイリータ。 その顔は少し不機嫌そうだった。 声に怒りが帯びている。
 
 「そう簡単にやれるとは思わないわ。 確かに利点もありそうだけど、お互いをよく知らない2つのチームがうまく協力出来るとは限らない。 ......個人的な願望で申し訳ないのもあるけど、こういうのは自分の力で超えたいわ」
 
 孤立無援を望むイリータだが、そこにレオンが声を掛ける。
 
 「まあイリータ。 そう言うのも野暮ってもんだぞ? お前のプライドの高さは俺も知ってるつもりだ。 新しい扉を開くのも大事だと思うし、2匹も強くなってる。刺激も受けられるだろうし、少なくともデメリットは無いと思うが?」
 「おじさんの言う通りだよ。 まだ僕らだけでは難しい面もあるし、今回は船に乗っかってみるのもいいんじゃないかい?」
 「............」
 
 イリータは少し悩む素振りを見せる。 少し時間が経った後、少しため息をつき観念する。 立髪と耳が下がっている事から、腑に落ちていないようではあるが。
 
 「分かったわよ......行くわ」
 
 








 4匹がやって来たのは『オカリナ岳』。 そこらかしこにポツポツとほら穴が点在していることからこう呼ばれているようだ。 依頼の内容は、ここに住むポケモンに対して横暴な態度を取っているガチゴラスを懲らしめる事。 それもフロアが定まっていないものであるため、最初から注意が必要な依頼である。

 「ひとまずどうしようか?」
 「うーん、今回の場合は離れると危ないからね......チームごとで探すけど、離れ過ぎないように......って感じかな?」

 キラリの疑問に、すかさずオロルが答える。 その相変わらずな紳士的態度には、やはり尊敬せざるを得ない。

 「それじゃ......行こう!」
 
 ユズの掛け声と共に、2つのチームは歩き出す。 イリータは、文句すらも言わずにただただ押し黙っていた。

 
 
 
 
 
 
 「......イリータ、大丈夫かい?」
 「......大丈夫よ。 気にしないで頂戴。 早く終わらせてしまいましょう」
 
 オロルの方も向かずに、イリータは淡々とした様子で返事する。
 
 「なら良いのだけれど......」
 
 オロルは心配を隠しきれない。
 イリータは元々白い体ではある。 だが、今はいつにも増してその白さが増していたのだ。 普段通りとは思えない。 堪えられず、また声を掛けようとする。
 
 ......その時。 石が上からパラパラと落ちてくる。
 
 「何......?」
 
 自然に崩れるような場所では無いはず。 自然と2匹は上を見上げる。 そこにいたのは1匹のポケモンだ。

 「......嘘でしょ」

 オロルが冷や汗をかく。 何故なら......

 彼こそが、今回の依頼のお尋ね者、ガチゴラスだからだ。










 
 「探検隊......捕まってたまるか!!」

 ガチゴラスはこちらに飛び降りてくる。 逃げるよりも、倒す方が早いと思ったようだ。 彼の重さ故か、着地した地面は大きな音を上げた。 辺りに砂塵が舞い上がる。

 「えっ、嘘!?」
 
 この音でユズとキラリも感づく。 2匹はすぐにそちらへと走り出した。

 「っ......オロル! あられを......」
 「作戦会議なんてさせるかっての!」
 「きゃっ!?」

 イリータはガチゴラスの尻尾に薙ぎ払われる。 幸いにもちゃんと言葉は届いており、オロルは[あられ]を繰り出した。 冷たい氷の粒が空から降り注ぐ。
 ガチゴラスはその程度では痛くも痒くも無さそうだ。 だが、あられは味方であってもダメージを受ける。 イリータの事を考えると、短期決戦で行くしかなさそうだ。

 再び2匹は言葉によって意思疎通しようとする。 だがそれはガチゴラスが許さない。 巨体ながらも速く、そして鋭い攻撃が2匹を襲う。

 「......まずいね」

 なんとか全て回避し続けている2匹。......だが、完全に不利な状況になっていた。 オロルは悔しそうに呟く。
 探検隊コメットは、知恵の活用と絶え間無い変化技の応酬によって相手を仕留める事に長ける。
 しかし、戦術というのは「弱点」がどうしても生まれてしまうものだ。 彼らは今回、それをピンポイントで突かれてしまっているという状態になっているのだ。


 オロルはぎり、と歯を噛み締める。 イリータ自身も、平常心を保とうとはしているものの、焦りが出て来ている。 それでもガチゴラスは、容赦なく迫ってくるがー。

 「[スイープビンタ]!!」

 ガチゴラスの後ろに、激しい連続攻撃が奇襲をかける。 キラリのものだ。 キラリは2匹が無事であることを確認し、ひとまずほっと息をつく。
 
 「てめえ......やりやがったな!」
 
 ガチゴラスの標的はキラリへと移る。 爪が襲いかかってくるが、ユズが前へと躍り出て来る。 そこから[リフレクター]を張り、衝撃を和らげた。
 
 「大丈夫!?」
 「うん、ありがとユズ......ってうわあ!?」
 
 ガチゴラスの攻撃がすぐさまやってくる。 2匹は同時に後ろへと飛び退く。
 それを境に、場はしばらく硬直状態になった。 4匹はガチゴラスの動向を気にする。
 
 

「......ちっ、助けを呼ばれるのは面倒だな......」
 
 ガチゴラスは静かに呟く。 そうするや否や、しのぎの枝を4つ取り出しそれぞれに当てた。
 
 「いっ......!?」
 
  唐突な痺れが4匹を襲う。 その隙を突いて、ガチゴラスはダンジョンの奥へと逃げていった。
 状況がうまく理解出来ない。 動かない体とは裏腹に、追いかけられないもどかしさは体中を暴れ回るばかり。
 
 「......ま、待てええええええ!!」
 
 全員の心の声を代弁するかのように、キラリは叫んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「......これって、依頼失敗になるのかなあ」
 「それじゃあ凄いあっさりじゃん! 諦めたくないよ......」
 
 やっとの事で動けるようになった4匹。 ユズとキラリは悔しさを漏らす。 だが、オロルは冷静に言葉を返した。
 
 「待って。 まだ逃げられたとは限らないんじゃないかな? 奴がここにいる事は、依頼を見た誰もが知ってる。 結構あるらしいんだけど、お尋ね者がダンジョンから逃げ出したら待ち伏せされてて結局捕まった......って事もあるんだ。 それを考えると安易に脱出はしないだろうと思う。 それに、地の利は奴にある。 ここにいた方が、奴にとっては安全だろうからね」
 「じゃあ、まだチャンスはあるんだね?」
 「うん。 確実ではないけどね。 今からなら追いかけられそうだけど......いいかい?」
 「もちろん!」
 「早く行った方がいいしね」
 
 ユズとキラリはすぐに同意する。 ......だが、イリータは何も答えない。 ただ、立っているだけだ。 心無しか、少し表情が辛そうだ。
 
 「......イリータ?」
 「......ごめんなさい。 頭が、痛くて......」
 
 イリータはか細い声で呟く。 ここは少し標高が高い山岳地帯。 体調を普段よりも崩しやすい環境なのだ。 頭痛がしてきても、なんら不思議ではないのだろう。
 
 「え、じゃあ一回出た方が......」
 
 キラリは心配そうな顔をする。依頼は大事だが、無理して行くのはきついというのはその身を持って感じていたからだ。 だが、イリータは首を振る。 辛そうな顔は変わらないまま。
 
 「......それが良いのでしょうね。 でも......ねばつきのワナ。 あれに道中で引っかかっていたお陰で、あなぬけの玉は使い物にならないわ。 1つしか持っていないわけではあるし......」
 「それじゃあ......」
 
 ダンジョンの中から、出られない。 そんな不安が4匹を覆う。 だが、それを拭い去ろうとするようにオロルが妥協案を示してきた。
 
 「......仕方ない。 少し下って、いい感じのほら穴で一回野宿しよう。 それで良いね?」
 「......分かった!」
 
 めいめいに同意し、早速山を少しだけ下る。
 空は、少し淡い虹色のグラデーションの様な色合いになっている。 夜が近づいていた。

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