第13話 前進の兆し
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「何も言ってないけど大丈夫かなぁ......?」
「多分大丈夫! おじさん結構アポ無しで探検隊の修行手伝ってるし......」
オニユリタウンにあるレオンの自宅。 その前にユズとキラリはやって来ていた。
レオンは、昔他のポケモンとコンビを組んで探検隊をやっていたのである。 その後、解散して探検家も引退したわけではあるが、今でも豊富な知識と高い実力を有している。 そのため、頼るにはもってこいなポケモンなのだ。
キラリは思い切り玄関のベルを鳴らす。
「おお、お前らどうし......」
「おじさん! 私達を鍛えて下さい!!」
「はぁっ!?」
ドアを開けたなり飛んでくるお願い。 レオンはそれに驚きを隠せず戸惑った。
「い、いや今日は暇だし良いけどさ......せめて事前に一言言ってくれよ......」
「ごめんなさい......夜に急に決めたものだから」
「おじさん基本暇だし大丈夫かなーって......」
キラリの苦笑する姿に、レオンは軽く溜息をつく。 だが別に嫌そうな感じはせず、むしろ少し嬉しそうだ。
「親しき仲にも礼儀ありっていうだろ? ......暇なのは当たってるけどさ。
立ち話もなんだし、まずは家に入れよ」
レオンはオレンの実のジュースを出してくれた。 グラスの外側が少し濡れており、よく冷えている事を感じさせる。色合いといい、段々と暑くなってきたこの頃にはちょうどいい。
「取り敢えず、まずは方針決めからだな。 で? どんな感じで鍛えて欲しいんだ?」
「うーん......実はまだそこから掴めていなくて......ただこのままじゃダメだ!って感じで......」
「あーそっからか......分かった、じゃあ、まずはお前らがよく使う技とか、もしくは最近覚えた技を教えてくれ」
2匹は少し考え、順に答える。
「私は[スピードスター]ばっかり使ってるかな......色々な場面で使えるし。あと[はたく]もちょっと使う」
「私は[はっぱカッター]と[げんしのちから]と......あと、『黒曜の岩場』で[マジカルリーフ]と確か......[リフレクター]を覚えたぐらいかな」
「成る程な......ちょっと待ってろ」
レオンは本棚へと向かい、色々本を取り出して調べる。 ちょくちょく小さな唸り声が聞こえる。 ......かなり悩んでいるようで、床にいくつか本が乱雑に散らばる。
「ああ......これだな」
そうボソッと呟き、レオンは静かに本を閉じた。 そしてテーブルに戻り、少し咳払いをする。
「えーっとな......まず、戦法といっても色んな種類があるってのは先に言っておくぞ。 攻撃中心だったり、変化技をうまく活用したり、はたまた持久戦に持ち込んだり、だな。 だからチームによってそれは様々だ。 勿論、ポケモンによって向き不向きはあるから、それを考えないといけない。
そこで、お前らに1つ提案だ。 役割分担ってのはどうだ?」
ユズとキラリは少しきょとんとする。 役割分担といっても、どのようにやるのか? その疑問に、レオンはすぐさま答えを示す。
「内容は簡単だ。 ユズが補助中心、キラリが攻撃中心......って事だな。 チコリータとチラーミィ。 その2つの種族が覚える技について本で調べたわけだが......チコリータは完全にサポートに向いてる感じだった。 さっき覚えたって言ってた[リフレクター]もその技の1つだな。
で、チラーミィは攻撃型だ。 どんな感じかと言うと、技のタイプの範囲はやろうと思えば広くできるし、連続攻撃で相手を追い詰めることも可能なタイプ。 このやり方なら周りとの差別化も図れると思う。
といっても、流石に偏り過ぎはダメだ。 あくまでそこに特化するだけであって、もう1つの方も平均並みには出来なきゃなんねぇ。 このやり方の弱点として、単独戦闘でかなりやりづらいってのがあるからな」
「ほお......」
自分達には思いつかなかったやり方に、2匹は思わず感嘆した。 そしてそれと同時に、今まではただガムシャラにやっていたのだというのを実感して少し苦笑する。
「で、おじさん。 具体的にどうしていけばいいの?」
「ああ。 それは今話すさ。 まずはキラリからだな」
「お願いします!!」
キラリは敬礼のポーズをしてレオンの指導を仰ぐ。 レオンは「ちょっと毒舌になるけど許せ」と一言断ってから話し始めた。
「率直に言うと、技が貧相ってことだ。 1つの技に頼りすぎてる事。 そして、あとは技のタイプの偏りがちょっと致命的な弱点。 その技が封じられたりしたら終わりなんだからな。 ひとまず色々技を覚えていった方がいい。 選択肢は広い方がいいからな。 ノーマルタイプの可能性は広いし、それを生かさない手はないと思うぜ?」
「ほえー......」
目からウロコが落ちるような表情で、キラリはレオンを見つめる。 流石と言うべきか、かなり的確なアドバイスに脱帽せざるを得ない。
「で。次はユズなんだが......お前には技以前に、ちょっと言っときたいことがある。」
「はい?」
「昨日、キラリから聞いたんだが......お前は急にパワーアップするっつー不思議な力を持っている、そうだな?」
「うん」
「その力は生まれつきとか、代々受け継がれてる的なものか?」
「いや、全く分からない......」
「そうなると、出所とかも謎なわけか」
「......うん」
「......そっか。 ユズ、一個言っとく......それ、出来る限り使わん方がいい」
......暫く沈黙が続く。 2匹が完全にそれを理解するのには少し時間を要した。
『......えええええええっ!?』
2匹の叫びが響く。 キラリが机に身を乗り出しレオンに物申す。
「ちょっと待っておじさん! 別に邪悪な力ってわけでもないと思うけど......その力のお陰で結構助けられたし」
「じゃあ聞くが、いい力とも言い切れるか? どんな力か分からない状態っつーのが1番怖いんだよ。 もし副作用とかでユズの身に何かあったらどうする? 現に今回倒れてるんだぞ? 完全にその力が引き金になってると俺は思うんだが」
「あっ......そっか......」
「で、でも、最初の時はなんともなかったけれど......」
ユズは少し混乱しながら疑問を示す。
「うーん、多分それ、結構体力使うんじゃねえかと俺は思うんだよな......今回は、怪我の回復に結構前から体力使って、元々が万全じゃない状態で発動したからキャパオーバーで倒れた......って考えるのが普通だなあ。 要するに、ちょっと無理するだけでも危険が伴う可能性があるって事だ」
「うっ......」
ユズは完全に反論出来ない。 2回しか発動していないわけではあるが、確かに体力の消耗が激しい事はうっすらと感じていたのだ。 だからこそ、最初の時は少し息を吐いて脱力し、2回目は倒れるまで至ったのだから。
「まあそれもかなり怖いんだよな、探検隊としてやっていくんであれば、しょっちゅう倒れちまうのはかなりきついところがある。 ......でもなあ......」
「でも?」
体の不調以外に、何か重要な事があるのか? 2匹の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「正直言っちまうと、俺にとって1番不安なのはそこじゃない。
......ユズ、お前がその力に依存することなんだ」
その時。 ユズの体に悪寒が走る。 力への、依存。 心当たりがあるのか、ユズは何も言えない。
「い、依存って......?」
動けないユズの代わりに、キラリが質問する。 もっとも、彼女の声も少し震えているが。
「1度吸った甘い蜜っていうのは、どうしてももう一度味わいたくなるもんだ。 強大な力に頼り続けて勝利を重ねれば、そりゃあその力への信頼は増すさ。
......だが、失っちまう信頼もある。 自分の実力への信頼だ。 自分じゃダメだ、でもあの力があればいける!ってな。 それは凄い危険なことだ。 力への執着は、時に思考を止める。 そんな時に力に裏切られる事があったりしたら......どうなるだろうな?」
ユズの体が無意識のうちにブルリと震える。
レオンが示した破滅への道のり。 それが、最後まで言わなくても容易に想像できてしまう。
......最終的には、心をも壊されかねないこと。
ユズは、『紫紺の森』での出来事を思い出す。
......あの時こそまさにそうだった。 ただただ単純に、力の発動を望むばかりだった。 もしかしたら、他に方法があったかもしれないのに。 探検隊コメットが、変化技をテクニカルに使い相手を倒したように。
まだ2回だけのはずなのに。 もう、既にまずいところまで来てしまっているのか。 そんな不安がユズの心を覆う。
だが、何も言わないユズに対してレオンは優しく語りかけた。
「......大丈夫。 そんなに悲観することもないと思うぞ? 依存への恐怖を感じてくれただけでも十分さ。 まだそこまで発動はしてないだろうし、ちゃんと戻れるところにはいる。 それに、お前に関して言えば今回の特訓は自分自身の自信の向上のためでもあるからな。
まあキラリの言う通り、お前らを助けてくれた一面もあるし......ちゃんと色々分かるまで様子見っていうのが言い方としては正しいかもな。 ひとまず落ち着け。 顔色ちょい悪いぞ」
「あっ......うん、ごめん」
ユズは落ち着くために少しジュースを飲む。 少し時間は経ったものの未だ残る冷たさ、また程よい酸味と甘さはクールダウンにはとてもありがたく感じられた。
ユズが落ち着いたのを見計らい、レオンは再び話し始める。
「......そんじゃ、話は技の方に戻るぞ。 攻撃技については問題無しだ。 弱点の補完も出来る感じではあるしな......ただ、お前の場合はまず変化技をちゃんと使いこなさなきゃなんねぇ。 そういう意味ではただ覚えるってわけじゃないからかなり大変だが......俺もそれ系の技は結構使えるし、技マシンもいくつか持ってる。 出来る限りのサポートはするぞ」
「......分かった。 頑張ってみる」
ユズは真剣な顔で頷く。 それを見て安心したのか、レオンはほっと息をついた。
「取り敢えずこんな方針でいいな? 早速やろうと思うが」
「うん! どんどんやっていこう! ほら早く!」
「ちょっと待て......俺も体の衰え感じてんだから急かすなよ......」
待ってましたと言わんばかりにキラリはレオンに駆け寄る。 長年の付き合いであるからなのか、それはまるで親子のようにも見えてほっこりさせられる光景だった。
外に出ると、かなりの暑さと湿気が3匹を襲う。 さっきのジュースがやけに恋しくなるような感じを覚えた。
(強く、ならなきゃ......力に頼らなくてもいいように)
胸の奥に小さな決意を秘め、ユズは一歩ずつ歩き出す。
......それの不安定さを自覚しないままに。
「多分大丈夫! おじさん結構アポ無しで探検隊の修行手伝ってるし......」
オニユリタウンにあるレオンの自宅。 その前にユズとキラリはやって来ていた。
レオンは、昔他のポケモンとコンビを組んで探検隊をやっていたのである。 その後、解散して探検家も引退したわけではあるが、今でも豊富な知識と高い実力を有している。 そのため、頼るにはもってこいなポケモンなのだ。
キラリは思い切り玄関のベルを鳴らす。
「おお、お前らどうし......」
「おじさん! 私達を鍛えて下さい!!」
「はぁっ!?」
ドアを開けたなり飛んでくるお願い。 レオンはそれに驚きを隠せず戸惑った。
「い、いや今日は暇だし良いけどさ......せめて事前に一言言ってくれよ......」
「ごめんなさい......夜に急に決めたものだから」
「おじさん基本暇だし大丈夫かなーって......」
キラリの苦笑する姿に、レオンは軽く溜息をつく。 だが別に嫌そうな感じはせず、むしろ少し嬉しそうだ。
「親しき仲にも礼儀ありっていうだろ? ......暇なのは当たってるけどさ。
立ち話もなんだし、まずは家に入れよ」
レオンはオレンの実のジュースを出してくれた。 グラスの外側が少し濡れており、よく冷えている事を感じさせる。色合いといい、段々と暑くなってきたこの頃にはちょうどいい。
「取り敢えず、まずは方針決めからだな。 で? どんな感じで鍛えて欲しいんだ?」
「うーん......実はまだそこから掴めていなくて......ただこのままじゃダメだ!って感じで......」
「あーそっからか......分かった、じゃあ、まずはお前らがよく使う技とか、もしくは最近覚えた技を教えてくれ」
2匹は少し考え、順に答える。
「私は[スピードスター]ばっかり使ってるかな......色々な場面で使えるし。あと[はたく]もちょっと使う」
「私は[はっぱカッター]と[げんしのちから]と......あと、『黒曜の岩場』で[マジカルリーフ]と確か......[リフレクター]を覚えたぐらいかな」
「成る程な......ちょっと待ってろ」
レオンは本棚へと向かい、色々本を取り出して調べる。 ちょくちょく小さな唸り声が聞こえる。 ......かなり悩んでいるようで、床にいくつか本が乱雑に散らばる。
「ああ......これだな」
そうボソッと呟き、レオンは静かに本を閉じた。 そしてテーブルに戻り、少し咳払いをする。
「えーっとな......まず、戦法といっても色んな種類があるってのは先に言っておくぞ。 攻撃中心だったり、変化技をうまく活用したり、はたまた持久戦に持ち込んだり、だな。 だからチームによってそれは様々だ。 勿論、ポケモンによって向き不向きはあるから、それを考えないといけない。
そこで、お前らに1つ提案だ。 役割分担ってのはどうだ?」
ユズとキラリは少しきょとんとする。 役割分担といっても、どのようにやるのか? その疑問に、レオンはすぐさま答えを示す。
「内容は簡単だ。 ユズが補助中心、キラリが攻撃中心......って事だな。 チコリータとチラーミィ。 その2つの種族が覚える技について本で調べたわけだが......チコリータは完全にサポートに向いてる感じだった。 さっき覚えたって言ってた[リフレクター]もその技の1つだな。
で、チラーミィは攻撃型だ。 どんな感じかと言うと、技のタイプの範囲はやろうと思えば広くできるし、連続攻撃で相手を追い詰めることも可能なタイプ。 このやり方なら周りとの差別化も図れると思う。
といっても、流石に偏り過ぎはダメだ。 あくまでそこに特化するだけであって、もう1つの方も平均並みには出来なきゃなんねぇ。 このやり方の弱点として、単独戦闘でかなりやりづらいってのがあるからな」
「ほお......」
自分達には思いつかなかったやり方に、2匹は思わず感嘆した。 そしてそれと同時に、今まではただガムシャラにやっていたのだというのを実感して少し苦笑する。
「で、おじさん。 具体的にどうしていけばいいの?」
「ああ。 それは今話すさ。 まずはキラリからだな」
「お願いします!!」
キラリは敬礼のポーズをしてレオンの指導を仰ぐ。 レオンは「ちょっと毒舌になるけど許せ」と一言断ってから話し始めた。
「率直に言うと、技が貧相ってことだ。 1つの技に頼りすぎてる事。 そして、あとは技のタイプの偏りがちょっと致命的な弱点。 その技が封じられたりしたら終わりなんだからな。 ひとまず色々技を覚えていった方がいい。 選択肢は広い方がいいからな。 ノーマルタイプの可能性は広いし、それを生かさない手はないと思うぜ?」
「ほえー......」
目からウロコが落ちるような表情で、キラリはレオンを見つめる。 流石と言うべきか、かなり的確なアドバイスに脱帽せざるを得ない。
「で。次はユズなんだが......お前には技以前に、ちょっと言っときたいことがある。」
「はい?」
「昨日、キラリから聞いたんだが......お前は急にパワーアップするっつー不思議な力を持っている、そうだな?」
「うん」
「その力は生まれつきとか、代々受け継がれてる的なものか?」
「いや、全く分からない......」
「そうなると、出所とかも謎なわけか」
「......うん」
「......そっか。 ユズ、一個言っとく......それ、出来る限り使わん方がいい」
......暫く沈黙が続く。 2匹が完全にそれを理解するのには少し時間を要した。
『......えええええええっ!?』
2匹の叫びが響く。 キラリが机に身を乗り出しレオンに物申す。
「ちょっと待っておじさん! 別に邪悪な力ってわけでもないと思うけど......その力のお陰で結構助けられたし」
「じゃあ聞くが、いい力とも言い切れるか? どんな力か分からない状態っつーのが1番怖いんだよ。 もし副作用とかでユズの身に何かあったらどうする? 現に今回倒れてるんだぞ? 完全にその力が引き金になってると俺は思うんだが」
「あっ......そっか......」
「で、でも、最初の時はなんともなかったけれど......」
ユズは少し混乱しながら疑問を示す。
「うーん、多分それ、結構体力使うんじゃねえかと俺は思うんだよな......今回は、怪我の回復に結構前から体力使って、元々が万全じゃない状態で発動したからキャパオーバーで倒れた......って考えるのが普通だなあ。 要するに、ちょっと無理するだけでも危険が伴う可能性があるって事だ」
「うっ......」
ユズは完全に反論出来ない。 2回しか発動していないわけではあるが、確かに体力の消耗が激しい事はうっすらと感じていたのだ。 だからこそ、最初の時は少し息を吐いて脱力し、2回目は倒れるまで至ったのだから。
「まあそれもかなり怖いんだよな、探検隊としてやっていくんであれば、しょっちゅう倒れちまうのはかなりきついところがある。 ......でもなあ......」
「でも?」
体の不調以外に、何か重要な事があるのか? 2匹の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「正直言っちまうと、俺にとって1番不安なのはそこじゃない。
......ユズ、お前がその力に依存することなんだ」
その時。 ユズの体に悪寒が走る。 力への、依存。 心当たりがあるのか、ユズは何も言えない。
「い、依存って......?」
動けないユズの代わりに、キラリが質問する。 もっとも、彼女の声も少し震えているが。
「1度吸った甘い蜜っていうのは、どうしてももう一度味わいたくなるもんだ。 強大な力に頼り続けて勝利を重ねれば、そりゃあその力への信頼は増すさ。
......だが、失っちまう信頼もある。 自分の実力への信頼だ。 自分じゃダメだ、でもあの力があればいける!ってな。 それは凄い危険なことだ。 力への執着は、時に思考を止める。 そんな時に力に裏切られる事があったりしたら......どうなるだろうな?」
ユズの体が無意識のうちにブルリと震える。
レオンが示した破滅への道のり。 それが、最後まで言わなくても容易に想像できてしまう。
......最終的には、心をも壊されかねないこと。
ユズは、『紫紺の森』での出来事を思い出す。
......あの時こそまさにそうだった。 ただただ単純に、力の発動を望むばかりだった。 もしかしたら、他に方法があったかもしれないのに。 探検隊コメットが、変化技をテクニカルに使い相手を倒したように。
まだ2回だけのはずなのに。 もう、既にまずいところまで来てしまっているのか。 そんな不安がユズの心を覆う。
だが、何も言わないユズに対してレオンは優しく語りかけた。
「......大丈夫。 そんなに悲観することもないと思うぞ? 依存への恐怖を感じてくれただけでも十分さ。 まだそこまで発動はしてないだろうし、ちゃんと戻れるところにはいる。 それに、お前に関して言えば今回の特訓は自分自身の自信の向上のためでもあるからな。
まあキラリの言う通り、お前らを助けてくれた一面もあるし......ちゃんと色々分かるまで様子見っていうのが言い方としては正しいかもな。 ひとまず落ち着け。 顔色ちょい悪いぞ」
「あっ......うん、ごめん」
ユズは落ち着くために少しジュースを飲む。 少し時間は経ったものの未だ残る冷たさ、また程よい酸味と甘さはクールダウンにはとてもありがたく感じられた。
ユズが落ち着いたのを見計らい、レオンは再び話し始める。
「......そんじゃ、話は技の方に戻るぞ。 攻撃技については問題無しだ。 弱点の補完も出来る感じではあるしな......ただ、お前の場合はまず変化技をちゃんと使いこなさなきゃなんねぇ。 そういう意味ではただ覚えるってわけじゃないからかなり大変だが......俺もそれ系の技は結構使えるし、技マシンもいくつか持ってる。 出来る限りのサポートはするぞ」
「......分かった。 頑張ってみる」
ユズは真剣な顔で頷く。 それを見て安心したのか、レオンはほっと息をついた。
「取り敢えずこんな方針でいいな? 早速やろうと思うが」
「うん! どんどんやっていこう! ほら早く!」
「ちょっと待て......俺も体の衰え感じてんだから急かすなよ......」
待ってましたと言わんばかりにキラリはレオンに駆け寄る。 長年の付き合いであるからなのか、それはまるで親子のようにも見えてほっこりさせられる光景だった。
外に出ると、かなりの暑さと湿気が3匹を襲う。 さっきのジュースがやけに恋しくなるような感じを覚えた。
(強く、ならなきゃ......力に頼らなくてもいいように)
胸の奥に小さな決意を秘め、ユズは一歩ずつ歩き出す。
......それの不安定さを自覚しないままに。