第11話 冷たい雷雨

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「おーいお主ら! あったぞい!」
 「ああ......? なんだよ今深夜だぞ......くそジジーロン......」
 「黙れい! ポケモンの話はちゃんと聞くもんじゃ! あとわしには『ラケナ』というちゃんとした名前があるわい! 全く......」
 「普段呼ばねぇしいいじゃねえかよ......ふあぁ」
 「お主は老ポケモンへの配慮が足りん! 3回連続で徹夜したんじゃぞ! 老ポケモンにとってこれがどれだk」
 「御託はいい。 ラケナ、早急に目星をつけた場所を教えて」
 
 ヨヒラはフィニとラケナの終わりの無さそうな口論を止める。 ラケナは慌てて地図を広げた。

 「『黒曜の岩場』というダンジョンじゃ。 正直言って全く手がかりが無かったのでの......もしかしたら、ここの黒曜石なる物が依り代なのではないかと思った」
 「......結局運任せかよ」
 「かなり文献も漁ったんじゃがの......昔のことは分かっても、今についての事はてんでダメじゃ。そうなってしまった訳なんだが......ヨヒラちゃん、許してくれるかのう?」
 「......かなり真剣にやっていたのは分かる。 こちらからは文句の出しようもない。あなたがその1つの可能性に賭けるのなら、私もそれに乗ろう。
  ......だが、調査は続けること。 もしハズレだと分かったらすぐに報告するように」
 (信用してるんだかしてないんだか......)
 
 フィニははあとため息を吐く。そんな彼を横目に、ヨヒラは外出の準備を無駄の無い手つきでテキパキと行う。
 
 「じじい、そういやそのダンジョンの場所はどこなんだ?」
 「オニユリタウン......前行った『ソヨカゼの森』の近くじゃよ」
 「うげっ、あそこかよ......ヨヒラ、大丈夫か? あいつらに会っちまったらまずいかもだぞ? 特にあのチコリータ凄かったぜ?」
 「問題は無い」
 
 ヨヒラは準備を終え、立ち上がる。 その顔には揺るぎない決意が浮かんでいた。
 
 「私はやるべき事をやるのみ。 例え事情を知らなくても、妨害するなら排除する。 それだけのこと」
 「なっ......!」
 「頼もしいの......ほっほっほ」

 ヨヒラは2匹には目もくれず、準備を済ませてさっさと拠点を出ていった。
 
 「待っていてください......私が、必ず」
 
 ヨヒラは目を閉じ、優しく呟く。 外にある紫陽花の蕾が、少し開きかけていた。
 
 
 
 
 
 
 
 「うーん......」
 
 ユズはゆっくりと目を開く。 怪我がどんな状況かが少し不安材料ではあったわけだが、昨日の様な痛みは無かった。 流石はポケモンの回復力というところだろうか。 取り敢えずほっと息をついた。
 そして、次に気になることといえばキラリ。 キラリの怪我は、より酷いものだったはず。 ユズは隣の藁布団を見てみるが......
 そこには、既にキラリはいなかった。
 
 「......あれ?」
 
 ユズは違和感を感じる。 いつもなら、2匹は同じくらいの時間に目覚めるのだ。 それなのに、今日は違う。 何かが、おかしい。
 
 ユズは何をすべきか分からず取り敢えずキッチンに出てみる。
 そこには、既に起きて淡々と料理を作っているキラリがいた。

 「キラリ?」
 「あっユズ! おはよー」
 
 キラリはいつも通り、ニッコリと笑って挨拶する。 だが、その「いつも通り」は、ユズにとって本物には見えなかった。
 
 「キ、キラリ。 その、怪我とか大丈夫?」
 「大丈夫。 一晩寝れば元気もりもりだよー。 ユズこそ大丈夫? 辛くない?」
 「あっ......うん、私は大丈夫」
 「なら良かった......ユズ、昨日はごめんね」
 「えっ? どうして......?」
 「1匹で突っ走っちゃったこと。 他にもたくさん、迷惑かけちゃったよね。 ごめんね」
 「なっ......そんなことないよ? 今回の件は私にも責任はあるよ、謝らなくても......」
 「ううん。 ユズは凄いよ。 私なんてまだまだだって!」
 
 ......やっぱり変だ。 本ポケは元気に振る舞おうとしている。 でも、奥底にあるものを隠し切れてはいない。 確実に無理している。
 そしてユズは、どうしてやればいいのか全く検討もつかない。 キラリがこんなに落ち込むのを見るなんて、初めてなのだから。
 そして、ユズが悶々とする間にご飯は出来上がる。 キラリは「早く食べよー」と催促した。
 
 「ユズ、今日も依頼頑張ろうね!」
 「えっ? 行くの?」
 「うん! 昨日の失敗を取り返さないと!」
 
 キラリは元気溌剌という感じで答え、ご飯を頬張る。
 ユズは少し悩んだが、確かに自分も失敗を取り返したい思いがあること、また、外に出ればキラリも元気になるかもという1つの希望が浮かんだことから、頷き肯定の意を示す。
 キラリはユズには聞こえない様、ぼそっと一言呟いた。
 
 「これ以上、迷惑かけない様にするんだ......うん」
 
 
 
 
 
 
 
 依頼板に訪れた2匹。 正直探し物など体力を酷使するものは流石に避けたかったため、依頼選びは難航する。 そこに、新たな依頼の紙を引っ提げレオンがやって来た。
 
 「おお! よお、ユズ、キラリ!」
 「おはよーレオンおじさん!」
 「お前ら大丈夫か? 怪我したって聞いたが......」
 「大丈夫! 一晩ぐっすり寝たからすこぶる元気だよ! アハハ!」
 
 ーーその時。 レオンの表情が少し変わったことにユズは気付く。 もしかしたらという思いが浮かび、ユズはレオンに声をかける。
 
 「おっおじさん!」
 「? どうしたユズ?」
 
 彼なら、解決策を教えてくれるかもしれない。

 「少しだけ、2匹で話させてくれませんか?」
 
 
 
 
 
 
 
 暫く経った後、2匹はキラリの元へ戻ってきた。 心なしか、ユズの表情は少しスッキリした様に見える。
 
 「ごめんキラリ。 待たせちゃって」
 「ううん大丈夫。 さっ、選ぼっか!」
 「ええっと......あっ! キラリ、これは?」
 「なになに......見張り? 何だろう......?」
 「見張りか......ちょっと見せてみろ」
 
 2匹は促されるままレオンに紙を見せる。 彼は成る程と言うようにうんうんと頷いた。
 
 「説明するとだな......不思議のダンジョン内には普通ではそこまで見られないようなものがわんさかあるんだ。 植物とかもそうだし、時折落ちてる金塊もその1つだな」
 「うん」
 「勿論、その中にも特定の1つや2つくらいのダンジョンにしか無いような珍しいものもあって......そういうのは不思議のダンジョン連盟っつーものが掲げるルールによって保護されているんだ。
  当然、その保護対象物を勝手に持っていくっていうのはご法度だし、犯罪として実際に捕まったケースもある。 でも、それでもやって来てぶん取っていく不届き者もいるからな......
 そんな奴がやって来たら食い止めるっつーのが、この依頼の大まかな内容だ」
 「成る程......大事な依頼だね」
 「まあ、もしやって来たらだけどな。 誰も来ないで暇なまま終わるパターンもある。 それが1番ありがたいんだけどなぁ......受けてくれるか?」
 「うん! ちょっくら行ってくるよー」
 
 2匹は行くダンジョンが『黒曜の岩場』である事を確かめ、足早にその方向に向かっていった。
  ......頼りあるようで、頼りないような。 今にも崩れそうな積み木のような2匹の不安定さを、レオンは感じずにはいられない。
 
 「......気を付けろよー!」
 
 レオンは叫ぶ。「2匹に」向かって。
 無理しているように見えるのは、ユズだって例外ではない。 どうかこの依頼でいつものペースを取り戻してほしい。 彼はそう、ただただ願うばかりだった。
 
 
 
 
 
 
 『黒曜の岩場』は、その名の通り多くの黒曜石の岩があるダンジョンだ。 その岩は艶やかな美しさを持ち、日の光が当たれば綺麗に輝くだろう。 今日は曇りであるから、それが叶う事はないが。
 
 「今のところは、大丈夫かなぁ......?」
 
 キラリは周りをこれでもかと言うほど見回している。 確かに今なら大丈夫そうだ。 意を決して、ユズはキラリに声をかける。
 
 「ねえ、キラリ」
 「ユズ? どしたの?」
 「......無理しなくても、良いんだよ? 私は、キラリが元気でいてくれた方がいい。 今のあなたは、とてもそんな風には見えない」
 「無理なんてしてないよ! 私......」
 
 キラリは、突然言葉を止める。 ユズの真摯な顔を見れば、言い返すなんて無理だ。
 
 
 
 そして、何故か急に頭の中がぐちゃぐちゃになるような感じを覚えた。
 
 本当に、無理をしていたのか? 
 
 また、ユズに心配をさせたのか?
 
 
 ......迷惑を、かけたのか?
 
 
 不思議とキラリの体が震える。 何故だろうか。なんと言うべきか、分からなくなった。
 
 ーー昔感じたもやもやした気持ちが、再び蘇る感じに襲われる。
 
 『キラリちゃん、いつもたんけんたいのほん よんでるねー』
 『うーん......あまりきょうみはないかなー』
 『キラリちゃん、ちょっとかわってるねー』
 
 夢と友達。 どちらも取るなんて欲張りなことは出来ないと感じた日々。やっと、叶ったと思っていた。
 
 
 「キラリ......?」
 
 
 
 だけど。 ......だけど。
 
 これじゃあ、ダメだ。

 
 
 「私は......」
 
 
 
 
 
 
 ......ガキンッ!
 
 どこかから高い音が響く。 2匹はすぐそれにハッとして、何か起きたか察する。 お互いに頷き走り出した。
 まさか、今起こるとは。 でも、キラリは内心それに感謝していた。 心を現実に呼び戻してくれたから。
 
 現場はすぐ近く。 1匹のピカチュウが、尻尾を使い黒曜石の岩を切り出そうとしている。
 明らかに、あの音の元凶。そして、黒曜石を奪おうとするポケモンだ。
 
 「すいません!」
 
 ユズは毅然とした態度で言う。そのピカチュウは気怠そうな顔でこちらに振り向いた。
 
 「......お願いします。 ここの石を取らないで。 ここの石はとても大切な物でー」
 「それが何」
 
 ズバッと言い返される。 ユズは少し返答に困るが、そこはキラリがフォローする。
 
 「とっ、とにかく取っちゃダメなの! だからっ......」
 
 そのピカチュウははあと溜息を吐き、こちらに顔を向ける。 そして、無表情のまま言う。
 
 「......探検隊か」
 「え......はい」
 「こちらを、妨害するというのか?」
 「......よく分からないけど、石を取るのなら止めるよ」
 
 ーーその時、そのピカチュウの顔は1つの感情に染まる。
 それは、どこまでも純粋で冷酷な、こちらへの「殺意」。
 
 「私はヨヒラ。 ある使命を果たすために行動している。 もし、その使命を少しでも邪魔するのなら......排除するのみ」
 
 パリッと、彼女の頬袋に静電気が走った。
 
 
 
 
 
 その刹那。 ヨヒラは、一瞬で[でんこうせっか]でユズに詰め寄る。 そしてそのまま、[アイアンテール]で叩き飛ばした。
 
 「ぐあっ!」
 「ユズ!」
 「[エレキネット]」
 
 隙もなく、キラリの頭上に電気の網が現れる。
 
 「[スピードスター]!」
 
 だが、それはキラリの飛ばした星によって切り裂かれ、すぐに消え去った。 そしてそのまま、キラリは次の攻撃を仕掛ける。
 
 「[はたく]ッ!」
 
 大きな尻尾をヨヒラに叩きつける。 だが、そこまでダメージを受けたようにも見えない。
 そして、ヨヒラの方から[エレキボール]が打ち出される。 キラリは攻撃に集中しようとしたのだから、当然守る術はない。 あえなく攻撃を食らう。 タイプ一致の電気技を。
 
 「うわあっ!」
 
 地面を少し転げ回った。 体を動かそうとするが、体の痺れを感じてうまく動けない。 エレキボールは状態異常は引き起こさない攻撃のはず。 それなのに痺れるというのは、ヨヒラの実力の高さ故なのだろう。
 
 「キラリ! だいじょー」
 「......大丈夫!」
 
 駆け寄ろうとするユズをキラリは拒絶し、必死で起き上がろうとする。 痺れた体は、起き上がることも許してくれない。 それでも、キラリは諦めようとはしない。
 
 「なんで。 なんでそこまで......!」
 
 キラリは、何も答えない。 ユズは少し泣きそうになる。 会話だけでなく、ここでも無理をするのか。 何故こんな事をするのか。
 
 「......キラリのばかっ!! 教えてくれたっていいじゃない! あなたのそんな辛そうな姿、見たくないよ! 
 全部、教えてよ。 受け止めるから......私だって、キラリを支えたいよ......」
 
 ユズの本音が一気に飛び出す。 その顔は怒りと悲しさがごちゃ混ぜになっていた。
 
 
 ......その時、キラリから一粒の涙が落ちる。
 
 「って、か、たく、いよ......」
 「え?」
 「......だって、迷惑かけたくないよ......! せっかくできた大事な友達なのに、そんなの、絶対やだ......! 離れて欲しくなんかない......ずっと、一緒がいいの......!」
 
 溢れ出す感情を、キラリはもう止められなかった。 いつもの元気さは、もうどこにもない。
 太陽のような明るさを持つ姿ではなく、大事な友達を失いたくないと願う、ただの、普通のチラーミィだった。
 
 その姿を見て、ユズは少し辛そうな顔になったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
 キラリを前足で撫でる。
 
 「ありがとう、教えてくれて。 キラリの、思い」
 
 
 
 「......無駄話は終わりか」
 
 ここまで攻撃を仕掛けなかったヨヒラ。 案外慈悲はあるのか?
 まあ、そんな事を考える暇など無い。
 
 「キラリ、任せて。 今なら、きっとやれる」
 「えっ......?」
 
 ユズはヨヒラの方を向き、スッと息を吸う。
 体の奥底から、ゆっくりと力がみなぎる。
 息を吐き、目を開けた時。 かつてフィニを追い詰めた力が、この身を包んでいた。 

 「今度こそ、私はキラリを......友達を守る!」
 
 
 
 
 
 「成る程。 そういうことか......」
 
 ヨヒラはユズを見て納得する。 フィニが彼女を前にして戦慄した理由をその肌で感じとる。
 
 「[はっぱカッター]!」
 
 鋭い葉っぱがヨヒラを襲う。1発が、軽く頬をかすった。 そこで、ヨヒラは[エレキネット]を放つ。 だが、これも葉っぱによりすぐに粉砕される。
 
 「キラリ!」
 
 ユズは叫ぶ。 キラリは反射的にそちらを見やった。
 
 「私は、キラリに沢山助けられた!」
 
 もう一度、葉っぱを放つ。これは全弾回避されるが、根気よくもう1発。

 「ソヨカゼの森の時も! オニユリタウンに初めて来た時も! いつもいつも!」

 今度はヨヒラの[エレキボール]。 これは余裕でかわした。

 「キラリがいなければ、私は今ここにいないっ!」

 ユズは今度は[げんしのちから]を放つ。 岩石の攻撃を、ヨヒラの[アイアンテール]が迎え撃った。

 「迷惑とか......そんな事ひとっかけらも思ってない! むしろキラリは......」
 
 ユズは高らかに叫ぶ。
 
 「私の、1番の憧れなんだぁぁああ!」

 ーーその時、[はっぱカッター]は虹色の光を纏い、相手を追尾し必中する[マジカルリーフ]へと昇華した。
 勢いを増した葉っぱ達は、速く動けるヨヒラでも避けきれない。

 
 「くっ......」

 ヨヒラは顔をしかめる。 中々仕留める事が出来ない。 それどころか、逆に追い込まれているように感じられる。
どうすれば、排除出来るのか。 思考を巡らせる。 そして、1つのアイデアが彼女の中に浮かんだ。

 あの力は未知数だ。 だが、相手は「ポケモン」である事に変わりはない。

 ヨヒラはユズのところへと突っ込む。 当然ユズも後ろへ引く。
 だが、惜しくも間に合わない。 ヨヒラの電気の力が溢れ出す。
 
 「[10まんボルト]!」
 「つっ......!」
 
 微かにだが、ユズはその電気を浴びてしまう。 そして、その後の動きが少し鈍くなった。
 
 「......やっとか」
 
 ヨヒラはそう呟く。
 
 (......まさか!)
 
 ユズが体を震わせ辛そうに息を切らす姿から、キラリの頭に最悪の可能性が思い浮かぶ。 1割の可能性で起こる、10まんボルトの追加効果。
 
 (麻痺......して......!)
 
 麻痺状態ならば、ポケモンの俊敏さは大きく損なわれる。 例え能力が上がっていたとしても、無効化できるわけではない。
 そこで、無慈悲な[アイアンテール]がユズに襲いかかる。
 
 「......[リフレクター]!」

 ユズはとっさに技名を叫ぶ。 前に現れた壁の力で、ひとまず攻撃は防いだ。 もっとも、何故急にこの技が浮かんだのかは出した本ポケにも謎な訳であるが。

 「おのれ......っ!」

 ヨヒラは、それでもこちらに向かおうとする。 守る手段は生まれたとはいえ、状況的にはこちらが不利だ。
 これでは、おそらく勝てない。
 
 (どうしたら......)






 
 
 『ヨヒラちゃーん!!』


 ......急に、間抜けな声が響く。 どうやら通信機のようなものから出ている声であり、ヨヒラはそれを手に取りただ一言返す。

 「......ハズレ、か」
 『そ、そそそうなんじゃよ! だから戻って来ておくれ!次の場所さg』

 ヨヒラは何も言わずに通信機の電源を切る。 2匹は何が起きたか分からず困惑するばかりだ。 ヨヒラはまた溜息をついた。

 「......命拾いしたな」
 「え......ええっ!? 」
 
 キラリは驚く。 さっきまで殺意を剥き出しにしていた相手が、いきなり戦いを止めることがよく理解できない。
 
 「今はお前達を倒すまでする必要は無かったまでだ。...... だが、次は容赦しない」

 ヨヒラはそう言い、素早く走り去った。
 
 
 
 
 
 
  ーーそして、残された2匹は急展開にポカンとするばかりだ。
 
 「お、終わったの?」
 「......そうだね、よく、分からないけど......」

 ......暫く静寂が場を包む。 キラリはユズになんて言えばいいか分からず、うまく目を合わせられずにいる。
 
 (でも、ちゃんと、言わなきゃな......) 
 
 キラリが意を決して話そうとした時ーー



 


 何かが倒れる音が、その場に響いた。







 「え?」

 キラリは隣を見やる。 そこにあったのは、倒れているユズの姿。

 「ユ......ユズ?」

 少し揺さぶってみる。だが、目覚める気配がない。

 「ユズ!? ユズ、しっかりして! そうだ、取り敢えず......お、お医者さんに!」

 
 キラリは急いでユズをおんぶしダンジョンを出る。 ダンジョンの外に出てみれば、既に街には雨が降っていた。
 夕方に降る雨は視界を遮り、街に一足早い夜をもたらしていた。

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