Episode 87 -Curtain-

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ワイワイタウンのポケモン調査団から来た4匹は、『ヤマトタウン』近郊へと降り立つ。市街地から遠く離れた位置のとある藪には、守らなくてはならない決まりがあるというのだが……?
 「あー、何か寝てたらあっという間に着いちまったな!! 機内食食いそびれちまったぜ!!」
「さすが先輩、食い意地しかないですねー。それに僕にとってはちょっと退屈でしたしねー。」

「まあ、6時間のフライトだったから無理もないよね……。私も狭い席にずっと座ってて疲れちゃった……。」

ポケモン調査団の一行は、ヤマトシティから60km程離れた空港へと着陸した。一帯の地域の巨大ハブ空港として機能する場所であるため、空港では絶えず飛行機が離発着を繰り返し、ターミナルの建物内もポケモンたちで溢れ返っていた。

この世界のポケモンたちも余程身体が重かったり大きかったりする者を除けば、人間と同じように航空便を利用して旅行やビジネスに出かけることが多いらしい。今回のイヴァンたち調査団メンバーも、ワイワイタウン空港から片道6時間かけ、エコノミークラスの狭さに辟易しながらもここまで辿り着いたという訳だ。


「で、これからヤマトシティに向かう訳だよな? 何せあそこはこの辺で一番デカい大都市だからな。あそこで一休みして、腹ごしらえでもしてだな……。」
「いいや、我々が向かうのは街とは反対方向だな。この空港がある地域にダンジョンがあってね、そこ目指して行軍を進めねばだよ。」

「えー? こんな辺鄙な田舎のダンジョンですかぁ? うーん……せっかくお洒落な街を堪能できると思ったのにー……。」
「もう、シャルルってば……。遊びに来たんじゃないのよ、我慢してダンジョンを探索しなきゃ。」

都会に遊びに寄れると期待を抱いていたネロやシャルルはがっくりと肩を落とす。イヴァン曰く、空港のあるこの地域に問題のダンジョンがあり、彼らは空港に着いたその足でそこへ向かうことになるようだ。

巨大空港がある場所だけに、周囲には町はおろか村すらもあまり見られないような平地と、高速道路だけが漠然と広がるこの地。それ故にきっと退屈極まりない道のりが延々と続く、ネロやシャルルはそんな予感に溜め息をついていた。


「飛行機も定刻通り着いたし、あまりボヤボヤしている時間はないぞ。丁度高速バスに乗り継げる便を選んだものでな、後20分で空港発だ。何か必要物資があれば、各自10分以内に買ってきて戻るように。」
「おいおい、いきなり唐突だな!! あーっ、たく分かったよ!! おい行くぞシャルル、メアリ!! さっき売店があったし、色々売ってんだろうぜ。」

「待ってくださいよ先輩ー!! ちゃんとバス停の場所チェックしとかないとー!!」

イヴァンが広げたバスの時刻表を見ると、1日に2~3本しかないような小さなものらしく、イヴァンはこのバスに乗り継げるような旅の計画を立てていたようだ。

そんな事実を突然突き付けられたネロたちは、大慌てで売店に買い出しに出かける。調査団の旅路はいつだって、このようにドタバタ劇の連続だ。











 「カムイちゃん、様子はどないや?」
「目を覚まさねぇ……。命に別状はねぇが、当分意識を取り戻しそうな様子はないし、怪我が治るのにもかなり時間を食いそうとのことだぜ。」

病院の廊下に佇むシグレが、ミササギの問いかけにそう答えた。カムイの傷は内蔵まで達していたらしく、致命傷ではないにせよ非常に重篤な状態だそうだ。


「カムイの奴ならきっと大丈夫だ……。あのときもアイツは俺たちを裏切らず、俺たちのために戦ってくれた。今度だって、必ず俺たちのために帰ってきてくれるだろうぜ……。」
「ええ、うちも信じとるよ……。それにしてもミハイルちゃんも気がかりや……。あないな調子やと、あっちが先に参ってしまうで。」

ミハイルのことを気遣う言動を見せるミササギ。そのミハイルは、かれこれ2日以上飲まず食わずでベッドに突っ伏して咽び泣いているのだという。


「ミハイルさん……。お気持ちは僕にも分かります。いや、寧ろ分からないと言った方が適当なのかも知れない。あなたがどれ程にカムイさんのことを案じて、どれ程に彼女に帰ってきて欲しいと願っているか……。それはあなた以外の誰にも完全には理解できないのかも……。」
「なら……放っといてよ……。もういいんだ、カムイが死んじゃうかも知れない……そんなの嫌だ、そうなったら僕もすぐに死んでやる……。だから、帰ってくれよ!!」

ミハイルの様子を見るように任されているカザネ・メイ・ルーチェの3匹が、心配そうに彼を覗き込む。しかしミハイルはこちらを見ようともせず、ただ顔を伏せて涙を零すばかりのようだ。
ルーチェがミハイルの身を案じて持ってきたマリナーラは既に冷えて固くなり、水の入ったグラスにはびっしりと水滴がまとわり付いている。


「お願い、少しでもいいから何か食べて体力を取り戻して。このままじゃあなたの方が先にやられちゃうわ……そうなったら、カムイちゃんが帰ってきたときに彼女が……。」
「もう会えない気がするんだ……。もう二度と……。ボクはまた見捨てられるんだ、ボクは誰とも一緒にいることを許されないんだ……!! みんなみんな、離れていく……!!!!」

「アンタ……さっきから聞いてりゃグズグズと……!!!!」

ルーチェはついに業を煮やし、ミハイルが被っている布団を勢いよく引き剥がした。そのまま胸ぐらを掴んで壁に叩きつけ、ミハイルの後頭部を打ち付ける。


「何で信じてやんないのさ!? アンタの一番大切な子なんだろ、まだ離れ離れになった訳じゃないのに……!! まだあの子は死んじまってなんかないのに……!!!!」
「ちょっ、落ち着いてルーチェさん!! カザネ、あんたも2匹を引き剥がしてっ!!」

「やめてくださいルーチェさん!! こんなことしてる場合じゃ……。ルーチェ……さん?」

カザネの目にルーチェの表情が映る。そこには、溢れんとする涙を必死に堪える彼女の怒りの形相があった。


「もー5時ですよ? こんな時間に、何もないど田舎のど真ん中に降りて何するんですかぁ?」
「我々が向かう『帰らずの藪』はここから更に僻地にあってな……。一応最寄りバス停って訳だ、一応な。はははっ。」

「笑い事じゃないよー……。こんな何もないのどかな平原に、本当にダンジョンがあるの? 何だか信じられないな……。」

調査団一行は、目的のバス停に降り立ったようだ。少し日差しが和らぐ夏の夕刻、周囲は細い道の両脇に広大な田んぼだけが広がり、茅葺屋根の家がところどころにぽつんと見える。

田舎の風景にうんざりなシャルルとメアリに対し、ネロはどこかまんざらでもない様子を見せている。


「なーんだかんだでこういうの悪くねぇな。俺の地元を思い出すような風景してんぜこれ!!」
「確か君の実家は山奥のキノコ農家だったかな? なるほど、自然と田園風景はホームグラウンドという訳か。」

「ど田舎ヤンキーですぅ、ネロ先輩……。というか、キノコポケモンがキノコ育てて食べるんですか?」
「俺たちはキノコじゃねぇし、キノガッサだし!! つかキノコナメんな、スープに炒め物に煮込み料理、あらゆる料理に使えてダシも取れて、栄養豊富の万能選手だぞ。どっかの銃撃しか能のない奴とは大違いだな!!」

「むぅ、年上じゃなかったらぶちのめしてますよー……。」

不貞腐れるシャルルを尻目に、ネロは意気揚々と歩き出した。そんな彼の後ろ姿に鼓舞されるように、他の3匹もどこか足取り軽やかに細い田舎道を突き進む。


宵闇の田んぼというのは、何故こうも心を惹かれるのだろうか? 濃い紫の空が地平線に注ぎ込む中、黒く沈んだ田んぼの水が静かにそよぎ、植わった稲穂が寝息を立てるかのように揺れている。

徐々に姿を表す空の星や月は、そのまま眼下の田んぼのパレットへと色を写す。天上と足元、二方向から同時に星空に挟まれ、天空の細道を歩いているかのような感覚こそ、宵の田舎道が持つ魅力の正体なのかも知れない。

やがて彼らは目的地までそう遠くない地点にキャンプを張り、翌日明るくなってからのダンジョン潜入とすることにした。










 次の日、夜も明け切らぬ頃にシャルルがテントからもぞもぞと這い出てくる。

「もふぁ……。まだ4時半……トイレぇ…………。」

何とも情けない声を漏らしたシャルルは、寝ぼけ眼を開け切らぬままに、茂みの方へとふらつきながら歩いていく。


「ん? あれってシャルル……? こんな時間に一体どこ行くんだろ……。」

メアリもシャルルの立てた物音に目を覚まし、別のテントから出てきたようだ。やはりチームの紅一点とだけあり、他のメンバーたちと違うテントに寝泊まりしていた彼女は、単独でシャルルの後を追うように歩き出す。


「んぁ……? 何だろこれ……邪魔だなぁ…………。地面にこんなもの置く奴は誰なのぉ……むぐぐ……。」
「あっ、待ってシャルル!! そこから先って確か!!!! うぅ……もう入るしかないよねこれ……。」

何かに足を引っ掛けたシャルルは、一瞬よろめいた後に不満そうな声を上げ、そのまま構わずに先へと進んでいった。一方のメアリは、そんなシャルルの様子を見て途端に顔色を変えるが、やがて覚悟を決めたのか、彼の後を追いかけて何かをまたぐように飛び込んでいった。


その数時間後、地面を深刻な顔つきで見つめるイヴァンとネロの姿があった。テントを片付けることもなくぼそぼそと会話する彼らは、起きて早々のハプニングに慌てている様子だった。


「おいおい、『境界線』だよなこれ? 確かこの中に入るときって、きちんと準備してかねぇとやべぇんだろ?」
「ああ……。『帰らずの藪』というだけあって、この中では不可解な神隠しが多発している……。一説では空間が歪に乱れ、抜け出ることが難しい亜空間になっているとも。」

「だからコイツを持っていかなきゃならねぇ。万が一空間がおかしくなっても、これを辿れば入り口に戻れる訳だからな。だがまさか奴ら、こんなおっかねぇもん無視して中に入ってくとは……。」
「昨日私が散々注意したのにな。この注連縄から先には、道標代わりのワイヤーなしでは入るなと……。きっとシャルルが原因だろう、寝ぼけて中に入ったのを止めようとしたメアリも、中に閉じ込められて出られなくなったと見える。」

イヴァン曰く、ここが帰らずの藪と呼ばれる理由は、境界線と呼ばれる注連縄の向こうの空間にあるらしい。鬱蒼とした藪が広がる境界線の中は、地図上では500m四方程のさほど広くない区域ではあるが、特殊な魔力の捻れによって空間が歪になり、中で神隠しが多発するのだという。

それ故、どうしても内部に入る際には境界線にワイヤーを結び付け、境界線まで帰って来られるように準備しておくのが必須事項なのだ。


「あーあー……あのバカちんは……。ったく、こうなったら救助に行くしかねぇよな? 調査団のメンバーの癖してダンジョンで救助されるなんて、なんと間抜けな……。」
「だな。何にせよ、あのレギオン使いどもの情報を得るために探索はマストだったのだ、腹を括って飛び込むしかあるまい。この間のチーム・澪標の件から想像するに、情報を握られまいとするレギオン使いの誰かが、このダンジョン内に潜んで攻撃してくることも考えられる。そうなると、離れ離れでいるのは尚更危険なのだ、急いで探さねば……。」

イヴァンとネロは互いに顔を見合わせると、境界線に数本のリール付きワイヤーを結わえたのを何度も確認し、恐る恐る境界線の向こうへと足を踏み出した。

信心深くないネロでさえ、その瞬間から何か異様な肌寒さを全身に感じるようになり、その空間がどこか異常であることは誰の目にも明らかだった。

背丈2m程にまで伸びた草が目の前に立ち並ぶ中、イヴァンとネロはシャルルたちと一刻も早く合流すべく走り出した。


(To be continued...)

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

 この作品は感想が書かれていません。