だって僕達、パートナーでしょ?

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読了時間目安:16分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「レイ達って、ケガレが言っとる事、分かるの?」
「ああ、分かるぜ。」

レイは、アイの問いに答えた。

「ジンから聞かされてなかったのですか……?」

ヨミが不思議そうに聞いていたので、アイ達は首を縦に振る。

「しょうがないんじゃない?結構刺激が強い話しだし……私達は、ジンに直接聞く機会があったけど……」

アザミが少し表情を暗くして言う。明らかに重苦しい空気なっていく場に、アイ達は不安になる。

「そうですね……しかし、まさか私達が話す事になるなんて……」

ヨミは少し顔を俯かせたので、影で表情が読み取れない。不安なアイ達に、レイは真剣な眼差しを向けた。

「アイ、チカ。今から話す事は、とても重要な事だ。そして、少しショッキングな話しでもある。覚悟はいいか?」

アイ達は頷く事で答える。それを見て、レイ達は話しだした。

「ケガレはそのポケモンのコピーじゃなくて、そのポケモンが幽体離脱した物なんだ。」
「「えっ」」

アイ達は、その驚くべき内容に言葉を失った。幽体離脱とはあれか!?あの心霊現象の一つの!?二人の頭はもう半分機能していなかった。驚きと不安で顔を歪ませる二人を見て、レイ達は少し申し訳なく思った。しかし、祈祷師をしている以上、いずれ知る事になる事だ。そう自分に言い聞かせ、次の言葉を放った。

「しょうがない……これが真実なんだ。俺達ゴーストタイプは、ケガレに一番近い存在だから、聞き取れるらしい。そして、ケガレを浄化する時は、時間に気をつけなければいけない。」

レイが突然時間がどうのこうのと言ってきたので、アイ達は首を傾げる。すると、アザミが言った。

「聞いた事ない?幽体離脱したら、早く戻さないと戻りにくくなるって話……」

彼女に言われて、アイ達はハッとした。その話なら、聞いた事があった。幽体離脱は、肉体と魂が別々になってしまう現象。時間が経つと、肉体から魂が離れすぎて戻りにくくなってしまうと良く聞く。ならば、もしかすると

「ねえ……もしかして……」
「ええ……少数ですが、間に合わなかったポケモンも、何匹かいます……」
「だから祈祷師の仕事は、ただ浄化するとかいう安易な事ではないんだ。ポケモン達の命が賭かってる。」

レイ達から自分達の責任の重大さを教えられ、アイ達は俯いた。私達は、今まで何をしていたのだろうか。そんな重大な事を知らずに、ただ浄化すればいいと、ただ助ければいいとだけ思って責任なんて微塵も感じていなかった。今、知ったのだ。今さら分かったのだ。自分達の情けなさに。自分の無責任さに。
アイ達はレイ達三人に促され、小春町を後にした。全員一言も話さなかった。










「ごちそう様……」
「えっ!?全然食べてないよ!?」

力なく隣から放たれる言葉に、チカは反応して横を見る。そこには夕食を半分も食べていないアイがいた。いつもはキラキラと輝いている瞳は暗く、顔色も少し悪そうで、チカは心配になった。先ほど暗い話しを聞かされた事もあるだろうが、それ以外にもありそうだった。何よりも彼は、アイが今月から体調を崩している事に薄々とだが気づいている。

「大丈夫なの?」
「うん。多分、疲れただけやと思う。もう、寝るわ。おやすみ、チカ。」
「おっおやすみ……」

アイは、ぐったりとした様子で告げると、部屋へと戻っていった。去っていくアイの後ろ姿はいつもより小さくて、彼は余計に不安になった。












アイは部屋にたどり着くと、ドアを閉め、机の引き出しの中にある箱二つを取り出す。その中から錠剤をそれぞれ二つほど取り出すと、口に放り込み、淹れていた水で無理矢理流し込んだ。彼女が飲んだのは、胃薬と風邪薬だった。みんなに悟られぬよう、内緒で買ってきた。本当は全然大丈夫なんかじゃない。もう今にも倒れてしまうのではないかと思うほど、体調不良が悪化している。今日の依頼だって、薬でどうにか持ちこたえていたような物だ。
アイはベッドへ倒れ込む。ガンガンと痛む頭と、重しを乗せられたように重い体が沈む。何で私はこうなのだろう。目元に溢れた雫が枕を濡らした。

















『アイは本当にお利口さんだな。』
『本当!?』
『ああ。本当だ。』
『きゃははっ!』

大きくてがっしりとした手が幼い少女の頭に伸ばされる。褒められた事が嬉しいのか、アイと呼ばれた少女は満面の笑みを浮かべる。アイを撫でている父親と思わしき男の横では、アイの母親であろう女が静かに微笑んでいた。

~~~~~~

『アイ!凄いじゃないか!!』
『まあ!上手に弾けたじゃない。』
『やったぁ!!』

アイは畳の上に座布団を敷いて座っており、目の前には美しい曲線を描いた箏が鎮座している。恐らく箏を弾いていたのであろう。幼い華奢な手の先には、親指と人差し指、中指に箏爪がはめられており、箏の前に置いてある譜面台には、「さくらさくら」と書かれた箏曲用の楽譜が置かれている。幼い少女が弾いたとは思えないほど、美しい音色だった。それを聴いた父親と母親は驚いた。

『本当に、アイは凄いなぁ!!』
『わーい!!』

父親に褒められ、アイはとても喜んでいた。

~~~~~~

大分大きくなったアイは、音楽に興味を持ち始めた。音楽の種類にも色々とあるが、彼女が気に入ったのは、色々な雰囲気が楽しめるバンド曲だった。母親が昔バンドを組んでいた事で、家にエレキギターがあった事を思い出した彼女は、日々コードの練習などをして、簡単な曲を弾けるようになった。父親にも聴いてもらいたくて、アイは父親がいる部屋_和室へと向かった。

『パパ、見て!私、ギター弾けるようになったで!』

いつもは凄いと褒めてくれる父だが、この時ばかりは違っていた。優しく細められている目は、鋭く冷たく変わっていた。

『止めなさい、そんな物。』
『えっ……なん
『何でもだ!いいから止めなさい!今すぐ!!』
『わっ……わかったよ……』

渋々部屋から出ていったアイだったが、父が何故駄目だと言ったのか分からなかった。いつも温かい微笑みを向けてくれていたのに……。胸の辺りがキュッと締め付けられて痛かった。









『……イ……アイ……アイッ!!』

誰の声だ?これは……私の……












アイはゆっくりと目を開けた。横を見ると、ベッドのすぐ横で、心配そうに自分を見ているチカと、同じような顔をしたウララとセッカそして、ジンとナミがいた。みんな揃ってどうしたのだろうかと思ったが、起き上がろうとした時に、頭の内側から殴られるような酷い頭痛がした事から、体調が悪化した事を悟った。何だか熱っぽい気もするし……。恐らく、なかなか起きてこないアイを心配して起こしにきたチカが、彼女が熱を出している事に気づき、ウララ達を呼びに行ったのだろう。
チカはアイが起きた事に気づくと、涙で少し潤ませた目を向ける。

「アイ?大丈夫?」
「さっき熱を測らせてもらったけど、凄い熱よ?」

ウララが心配そうに言ってきた。やはり、熱があるらしい。やってしまった……結局、迷惑をかけてしまった。

「ごめん……なさい……」
「アイは悪くないよ!」

熱のせいで泣いてるわけでもないのに潤んでいる目を反らしながら、アイは力なく言った。すると、すぐ横にいたチカが大きな声を張り上げた。しかし、アイの頭に響かない程の声である事から、気を遣ってくれている事に気づき、アイはさらに申し訳なく思った。

「僕だって、アイの体調が悪い事には気づいてたんだ……なのに……ごめんね……」

彼の声は震えていた。それにアイは罪悪感を覚える。チカの母親は、今病気で入院生活をしているのだ。それも、いつまで続くか分からないような難病なのだ。その為、チカはこの中で一番病気についてはデリケートなはずだ。だから、心配させないように頑張っていた。けれど、結局は逆効果だった。自分は誤ってしまったのだ。なんて事をしてしまったのだろうか。アイは少し泣きそうになった。そんな空気を感じてか、ジンが場違いなほどに明るい声で話し始めた。

「しょうがないよ。二人ともお相子だ。調子が悪いのに放置していたアイも、アイの体調の事に気づいていたのに、何もしなかったチカにも、どっちにも問題がある。でもね……」

ジンは一呼吸置く。そして、優しく微笑みながら言った。

「そんな事は忘れちゃおう。」
「そうだな……」

ジンの後を継ぐように、ナミも言う。

「過ぎた事を悔やんでも仕方がない。肝心なのは、次はどうするかだ。」
「そうだね。とりあえず、アイは今日は仕事は休みだね。」

諭すように言うナミに同情してきたのは、セッカだ。そして、彼は話しを切り替えると、アイの今日の体調を見て、休めと言った。すると、先ほどまで落ち込んでいたチカが、勢いよく顔を上げ、言い放った。

「僕が看病するよ。」

その言葉に、一同は一瞬動きを停止させた。

「今日は僕達には依頼は来てなかったし、アイがこうなったのには、僕にも責任があるし……」

それを聞いて、ウララとセッカは顔を見合わせる。そして数秒ほどすると、同時に頷きチカを見た。

「じゃあ、お願いするわね。」
「僕達は、医務室にいるから、何かあったらすぐに呼ぶんだよ?」
「僕達もいるからね。」
「遠慮なく頼ってくれ。」

彼女達に続き、ジンとナミも微笑みを浮かべながら言う。それを聞いたチカは、嬉しそうに目を輝かせながら言った。

「みんな……有り難う!」











ウララ達が部屋から出ていった後、チカは洗面器とタオルを取りに行った。一人、部屋に残されたアイは、負の感情に呑まれる。なんて自分は駄目なのだろうと。何処で道を間違えてしまったのだろうと。しかし、熱のせいで上手く回らない頭では、何も考えられない。考えようとすればするほど、ぼやけていく視界。気がつくと、アイは眠ってしまっていた。

「アイ、戻ってきたよ。」

チカは氷水の入った洗面器とタオルを抱え、戻ってきた。しかし、アイから返事がない。不審に思った彼はベッドまで近づく。すると、苦しげな顔をして寝ているアイがいた。チカはそっと彼女の頬に触れると言った。

「ごめんね……」

罪悪感と共に、彼の頬を何かが伝った。













『アイ、あれほど止めなさいと言ったはずだ。』
『何でなん!?私の事なのに、何でパパに決められなあかんの!?』

さげずんだような目線を向けられ、アイは反論する。手に持っているのは、桜の模様が付いた、ピンク色のエレキギターだった。九歳になったアイは、近所の仲の良かった友達とバンドを組んでいた。しかし、バンドを組んだ途端に、父親の態度が変わっていくのをアイは感じた。それでも、アイはバンドを続けたかった。だって、これは自分の道だから。アイは他人には決められたくはなかった。

『そうか……お前がそんな分からず屋だとは思わなかった。』
『ちょっ!パパ!?』

父親は静かに呟くと、部屋へと戻っていった。その目は曇った硝子のように、暗く冷たかった。

~~~~~~

次の日、リビングに行くと、いつものように父親はソファーに座り、新聞を読んでいた。台所では母親が朝食を作るべく、世話しなく動いている。アイはいつものように、父親に挨拶をすべく、近づいた。

『おはよう!』
『……おはよう。』

挨拶をした。した?
アイは違和感を感じた。何だかいつもと違う……。いつものパパじゃない……。そう思った。いつもはこんな間を置いたりしない。こんな静かじゃない。こんな……







冷たくない……。

『ッ……パパ』

アイが何か喋ろうと口を開いた瞬間、父親は新聞を読むのを止め、立ち上がった。

『どこ行くん……?』

アイが付いていこうとすると、父親はバッと振り返った。何も言わずにアイを見つめる。それにアイは震え上がった。彼の視線は簡単に刺す事が出来る針のように、鋭く冷たかった。その目は何も言わずとも、何を言っているのか分かった。

付 い て く る な

~~~~~~

『ヨヒラさんところのアイちゃん……後継ぎの問題で、ヨヒラさんと険悪な状態なんですって……』
『大変ね……何事もなければいいけれど……』

『アイさんって、お父さんに疎まれてるんだって……』
『えっ!?そうなの?何で……』
『それがね……』

みんな、私の事を噂してる……。苦しい……辛い……。
アイはあれから、父親から避けられ続けていた。アイの父親は、有名な箏の先生だった。何人かお弟子さんもいた。その中から、アイを後継ぎにする事を決めていたのだ。しかし、アイはそれを聞かされていなかった。そして、彼女はもう自分がしたい事を見つけていた。それは、今組んでいるバンドで、有名になる事だった。それだけは、譲りたくなかった。しかしそのせいで、アイは父親と半絶縁状態だった。
ある夜の事だった。喉が渇いたので、水を飲もうと、リビングへと行った時だった。何やら話し声が聴こえたので、アイはリビングへと通じるドアの前で立ち止まる。

『何でなんだ!』

父親のヨヒラの声だった。

『しょうがないわ。それがあの子の決めた事なのでしょう?』

母親の声も聴こえてくる。どうやら、後継ぎ問題の話しをしているらしい。逃げ出したいと思うアイの心とは裏腹に、体は動くという動作をしなかった。

『でも、あの子にやってもらわないと、この会の運命はどうなる!?もう、食っていけなくなるぞ!?』
『そうね……』

アイは嫌な予感がした。

『食べていけなくなるのは困るわね。』

その瞬間、アイは自分の部屋へと走っていた。もう何も信じられなくなっていた。唯一自分の見方だった母親ももういない。アイは泣いた。声を押し殺して、誰にも気づかれないように。












「ハッ!」

目を開けると、木で出来た天井が見えた。暫くぼぉーとしていると、だんだん頭が冴えてきた。今は何時なのだろうか。随分と寝ていたようだ。窓からは、夕方を告げる夕日のオレンジ色の光が入ってきていた。頭に何かの感触を感じ、手を持っていくと、濡れタオルが乗せられていた。それを取ると、時計を見ようと体を起こす。もう熱は大分下がったようで、まだ少し頭痛がするが、朝よりかは断然マシだった。時計を見ると、丁度四時を指していた。眠りについたのが八時頃だとすると、約八時間眠っていた事になる。ふと横を見ると、ずっと看病してくれていたであろうチカが、ベッドの上に顔と腕だけを乗せ、寝ていた。寝落ちするまでずっと看病してくれたのだろう。こんな長い間、ずっと自分の看病をしていてくれた思うと、少し泣きそうになった。

「チカ。」
「うぅん……」

アイはチカを起こすべく、声を掛ける。すると、チカはすぐに目を覚まし、アイを見た途端、安心したような目を向ける。

「良かった。熱、下がったんだね。」
「うん。まだ少し頭痛いけど。」

アイは苦笑しながら言うが、すぐに暗い顔をして言った。

「チカ……ごめん……。迷惑かけたやんな……。」

チカは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに微笑みを浮かべ、アイに言った。

「別にいいんだよ。だって僕達、パートナーでしょ?」

アイはチカに指摘されるまで分からなかった。自分が泣いている事に。

「どうしたの!?何で泣いてるの!?僕、何かした!?」

チカは焦るが、アイが首を横に振るのを見て違うと分かった。アイはひゃっくりあげながらも言葉を紡いだ。

「違う……のッ……嬉しくてッ……」

先ほどまであんな夢を見ていた事もあるだろう。今の彼女を泣かせるには十分過ぎる言葉だった。チカはその言葉を聞くと、何も言わずただひたすらアイの涙を拭っていた。ただそれだけは、涙で濡れてほしくない。そう思った。チカはアイの涙が止まるまで、抱き締めた。優しく優しく。それを美しく輝く夕日が見守っていた。
お久しぶりです。ドリームズです。
今回は風邪回&アイちゃんの過去というシリアスな回となっております。これからのチカくんとアイちゃんの関わりに注目してみていくと、面白くなるとおもいますよ。次回も見てくださると、とても嬉しいです。では、またお会いしましょう。

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感想

お名前:オレンジ色のエースさん
 アイの人間時代の話が出てきましたね。自分のやりたいことと、周囲の期待の食い違い………苦しいですよね。

ユウキ(ヒトカゲ♂):「だからと言ってアイだって両親が嫌って訳じゃないし、悪気だって一切無いだろう。事情がわからない訳じゃないけどさ。チカの看病、頼もしいね。こういうパートナーがいると、アイも心強いだろうな。同じパートナーに支えられてる自分にはわかるな。」

チカ(ピカチュウ♀):「私、ユウキに似たようなこと言われたことあったけど、自分のやりたいことは周りが決める事じゃないと思うんだ。アイちゃんがやりたいことで親子がバラバラになるなんて変だよ…………」

うちの作品から“メモリーズ”の二人を連れてきて、一緒に読んでました。


今はアイがしっかり元気になるのが先決ですね。

次回も楽しみにしてます。



 
書いた日:2019年12月08日
作者からの返信
御感想、ありがとうございます!
今回はアイの過去という少しシリアスな話しとなっていました。これからはこのような過去を抱えたアイと、パートナーのチカとの関係が重要となってきます。そこら辺に注目して読むと、面白くなると思いますよ。

チカ「頼もしいだなんて……。なんかくすぐったいなぁ。これからも、アイを支えていくよ。」
アイ「ありがとう、チカ。でも、過去の事は変えられへんから……。それを乗り越えるためにも、私頑張る。」

ユウキくんとチカちゃんも、ありがとう。うたかたの二人と共に見させてもらいました。
これからも、泡沫のあいを宜しくお願いします。
書いた日:2019年12月08日