第9話 新たな出会いと可能性
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
キラリが風邪を引いてから数日が経った。 キラリの反対を無理矢理押し切ってユズは彼女を無理矢理何日か休ませたため、久しぶりに依頼に挑むことになる。
依頼板を見に行くためにオニユリタウンを訪れる。 依頼板へと向かう道中、2匹はあることに気付いた。
「......ユズ。 ポケモンの数が多いような......」
「うん。 しかも、みんなチームみたい......探検隊かな?」
「なんで分かるの!?」
「単純だけど、1つのところに纏まってる集団がそこらかしこにあるから。 普段はこんな感じじゃないはずだし」
「ああー......」
いつもとは何かが違う。 街の賑わいが増しているようだ。 特に、探検隊の。
謎に思った2匹は近くにいる探検隊へと話を聞く。
「すいません......どうしてこんな賑やかなんですか?」
「え? 決まってるだろ!? 今日は年に1度の探検隊の交流日なんだ! 俺達の力を見せつけられるチャンス! 腕がなるぜ!」
探検隊は満面の笑みで答える。 その顔は自信に溢れていたように見えた。
「ああそっか! そういえば今日だったっけ!」
「キラリ、交流会って?」
「えっとね......その名前の通り、探検隊達がワーって集まって、交流するんだよ! みんなで勝負をするんだ!」
「えっ!? 勝負!?」
ユズの頭の中には、実際の戦闘のイメージが浮かぶ。 ......だが、実力的に考えて初心者と上級者では差があり過ぎるのではなかろうか。
考え込むユズを見て察したのか、キラリはその考えをブンブンと手を振り否定する。
「あっ、勝負っていうのはね、確か宝探しらしいよ! 私もこれ以上はよく知らないけど......」
「宝探し......」
ーーその時、唐突に「皆さん!」と甲高い声が響く。 それは賑やかな街を一瞬のうちに静寂で包み、皆をその声の方向に一斉に振り向かせた。
「えー、改めまして、この街の長である私バクオングが開会式を執り行いたいと思います! 本日は、オニユリタウン毎年恒例の探検隊交流会にお越しいただき誠にありがとうございます! この街で活動なさっている方だけでなく、別の街の方もいらっしゃっていること、とても喜ばしく存じます! 」
探検隊達から歓声が上がる。 バクオングは、街の長としてふさわしいといえる、力に満ちた顔をしていた。 彼は話を続ける。
「ルールを説明いたしましょう! 探検隊の皆さんには、この街の近くのダンジョン、『紫紺の森』に行って貰います! そこで、事前に私達が隠した宝箱を探し出してください! 不思議のダンジョンは入る度に地形が変わります。 つまり、私達ですら置いた場所は分かりませんし、ヒントも勿論出せません! 完全な実力勝負となるでしょう!
言っておきますが、難易度は同じ森と言えど『ソヨカゼの森』より高い! 初心者の方は特にそこを注意する様に!
そして今回もありがたいことに、初心者から上級者まで、幅広く集まってくださっています! そこで、同じぐらいの実力の探検隊と1対1で宝箱を集めた数を競って貰いますよ! どことやるかは依頼掲示板に貼り出すので、それを見てください!
......それでは、長くなりましたが、交流会を開始致します!」
わっと、探検隊達のワクワクやドキドキが溢れ出した。
ーーその瞬間のポケモン達の盛り上がりはどう表すべきだろうか。皆、雪崩のように掲示板の前に走っていく。 ユズとキラリは呆然としてしまい、暫く動くことが出来なかった。
「って、そうだ行かなきゃ! ......と言っても、ポケモン多過ぎるよ......」
「......そうだね、ダンジョンに行くのは遅くなるけど、少し時間を置いてー」
「その必要は無いわ!!」
突然、上の方から声が響く。 2匹は咄嗟に上を見上げた。 家の屋根の上に、1匹のポケモンが立っている。 そして、そのポケモンは、軽やかにこちらに飛び降りた。 艶のある毛並みが虹のような美しさを放っていた。
「探検隊ソレイユ。 ただ依頼をこなすだけのあなた達など恐るるに足らずよ! この探検隊『コメット』が、本当の実力とはどのようなものかを見せてあげるわ!」
ーー再び2匹は呆然とする。 急展開に、理解が落ち着いていないようだった。 そんな中、また屋根からヒョイと違うポケモンが現れた。 ふわりとした白い尻尾を持った、優しげなポケモンだ。
「イリータ、 流石に段階を踏んで説明した方がいいんじゃないか? 2匹とも困惑しているぞ」
「あら......そうね。 敵相手とはいえ、そこの礼儀はわきまえなくてはね......」
その2匹は、ユズとキラリの前に並び立つ。
「先程は失礼。私はポニータのイリータよ。 といっても、私はこの辺りでは珍しい見た目らしいのだけどね」
「僕はロコンのオロル。 イリータと同じく見た目は珍しい方さ。 彼女とはそれがきっかけで出会ったんだよ」
「は......はあ......」
「あっそうだ、私達も......私はキラリでこの子はユズ! よ、よろしくね!」
キラリは2匹へと前足を伸ばす。 だが、それはイリータの前足によって払われた。
「勘違いしないでくれる? 私達はあなた達と馴れ合うつもりはないわ。 敵相手に握手を求めるなんて、甘いんじゃないの?」
「えっ......」
予想外の反応に、キラリはショックを受けているようだ。 力なくうなだれる。
「......ちょ、ちょっと待ってください!」
目の前の光景に何か思うところがあるのか、ユズが声を荒らげる。 イリータは鬱陶しそうな顔で、「何よ」とこちらに振り向いた。
「......敵とかなんだか知りませんけど、その態度はないんじゃないんですか? いきなりそんな事言われて、いい気持ちになんかなれるわけないです!」
「......それが何。 さっきも言ったけど、馴れ馴れしくする気なんて無いのよ?」
「そうじゃなくて......!」
「ストップ!」
オロルの声が響く。 彼はイリータに寄って穏やかな顔で彼女を諭そうとする。
「イリータ、今のは君が悪いよ。 あちらがせっかく僕らに歩み寄ろうとしているんだ。 せっかくの出会いだ。 大事にした方がいい」
「......私にはよく分からないわ」
「まあ今分からないとしても、これから分かっていけばいいさ。 今からの勝負でね」
「あっ! そうだ勝負!」
キラリが思い出したかのように叫ぶ。 オロルは2匹に向けてにこりと笑った。
「うちのイリータがすまなかったね。 さて、そろそろ森へと向かおう。 もう先輩方達は向かっているだろうし」
「う、うん!」
「......よろしくお願いします」
明らかにユズは不機嫌そうな様子だ。 ムスッとした仏頂面に、キラリは思わず可愛いなぁと笑みを溢す。
「ははっ、敬語じゃなくていいよ! 僕らは結成した時期的には君らと同期みたいなものだし......ねえイリータ?」
「なっ......オロル、何故それを今!」
「まあまあ......」
(なんか......面白い2匹組だなあ......)
(......ちゃんと関われる気がしない)
それぞれの思いを抱えながら、4匹は紫紺の森へと歩き出した。
「バクオングさん......」
「なんだ?」
探検隊達が皆出ていき、少し静かになったオニユリタウン。バクオング一行が一旦役所に戻ろうとするところに、彼の側近が声をかける。
「本当に、良かったのですか? あの森で」
「どうしたんだ、今更心配して。 別に初心者でも絶対行けないというようなダンジョンではないぞ?」
「いえ......そういう意味ではなく......確かに、普通にやっていればまず大丈夫でしょう。 ですが、運が悪ければ、初心者探検隊が『ヤツ』に出くわす可能性も......」
「それはあまりに危険過ぎる、か?」
「......はい」
少しの間、風の音だけが響く。 そして、バクオングは急にワハハと大笑いした。
「確かにそうだろう! 『ヤツ』は強い。 もしかしたら、一捻りにやられて心にもダメージを負うだろうなぁ」
「それなら......!」
「だが! だからこそ、だ」
バクオングは間髪を入れず、楽しそうな顔をして言った。
「完膚なきまでに叩き潰された時に、その悔しさを強さに変えた者。 そして勿論、逆に『ヤツ』を知恵を振り絞り倒し、大きな自信を手に入れた者。 そのどちらもが、強大な力を持った探検隊になり得る。 メリットしかないじゃないか? もし出会わないとしても、宝探しで刺激は受けられるしな」
側近は静かに笑う。
「......なるほど。 あなたはどこまでも、探検隊に対して貪欲なようだ」
バクオングは空を見上げて、心を震わせているかの様に言った。
「さて......生まれるかもしれない新たな可能性。 この目で見届けさせてもらおうか」
依頼板を見に行くためにオニユリタウンを訪れる。 依頼板へと向かう道中、2匹はあることに気付いた。
「......ユズ。 ポケモンの数が多いような......」
「うん。 しかも、みんなチームみたい......探検隊かな?」
「なんで分かるの!?」
「単純だけど、1つのところに纏まってる集団がそこらかしこにあるから。 普段はこんな感じじゃないはずだし」
「ああー......」
いつもとは何かが違う。 街の賑わいが増しているようだ。 特に、探検隊の。
謎に思った2匹は近くにいる探検隊へと話を聞く。
「すいません......どうしてこんな賑やかなんですか?」
「え? 決まってるだろ!? 今日は年に1度の探検隊の交流日なんだ! 俺達の力を見せつけられるチャンス! 腕がなるぜ!」
探検隊は満面の笑みで答える。 その顔は自信に溢れていたように見えた。
「ああそっか! そういえば今日だったっけ!」
「キラリ、交流会って?」
「えっとね......その名前の通り、探検隊達がワーって集まって、交流するんだよ! みんなで勝負をするんだ!」
「えっ!? 勝負!?」
ユズの頭の中には、実際の戦闘のイメージが浮かぶ。 ......だが、実力的に考えて初心者と上級者では差があり過ぎるのではなかろうか。
考え込むユズを見て察したのか、キラリはその考えをブンブンと手を振り否定する。
「あっ、勝負っていうのはね、確か宝探しらしいよ! 私もこれ以上はよく知らないけど......」
「宝探し......」
ーーその時、唐突に「皆さん!」と甲高い声が響く。 それは賑やかな街を一瞬のうちに静寂で包み、皆をその声の方向に一斉に振り向かせた。
「えー、改めまして、この街の長である私バクオングが開会式を執り行いたいと思います! 本日は、オニユリタウン毎年恒例の探検隊交流会にお越しいただき誠にありがとうございます! この街で活動なさっている方だけでなく、別の街の方もいらっしゃっていること、とても喜ばしく存じます! 」
探検隊達から歓声が上がる。 バクオングは、街の長としてふさわしいといえる、力に満ちた顔をしていた。 彼は話を続ける。
「ルールを説明いたしましょう! 探検隊の皆さんには、この街の近くのダンジョン、『紫紺の森』に行って貰います! そこで、事前に私達が隠した宝箱を探し出してください! 不思議のダンジョンは入る度に地形が変わります。 つまり、私達ですら置いた場所は分かりませんし、ヒントも勿論出せません! 完全な実力勝負となるでしょう!
言っておきますが、難易度は同じ森と言えど『ソヨカゼの森』より高い! 初心者の方は特にそこを注意する様に!
そして今回もありがたいことに、初心者から上級者まで、幅広く集まってくださっています! そこで、同じぐらいの実力の探検隊と1対1で宝箱を集めた数を競って貰いますよ! どことやるかは依頼掲示板に貼り出すので、それを見てください!
......それでは、長くなりましたが、交流会を開始致します!」
わっと、探検隊達のワクワクやドキドキが溢れ出した。
ーーその瞬間のポケモン達の盛り上がりはどう表すべきだろうか。皆、雪崩のように掲示板の前に走っていく。 ユズとキラリは呆然としてしまい、暫く動くことが出来なかった。
「って、そうだ行かなきゃ! ......と言っても、ポケモン多過ぎるよ......」
「......そうだね、ダンジョンに行くのは遅くなるけど、少し時間を置いてー」
「その必要は無いわ!!」
突然、上の方から声が響く。 2匹は咄嗟に上を見上げた。 家の屋根の上に、1匹のポケモンが立っている。 そして、そのポケモンは、軽やかにこちらに飛び降りた。 艶のある毛並みが虹のような美しさを放っていた。
「探検隊ソレイユ。 ただ依頼をこなすだけのあなた達など恐るるに足らずよ! この探検隊『コメット』が、本当の実力とはどのようなものかを見せてあげるわ!」
ーー再び2匹は呆然とする。 急展開に、理解が落ち着いていないようだった。 そんな中、また屋根からヒョイと違うポケモンが現れた。 ふわりとした白い尻尾を持った、優しげなポケモンだ。
「イリータ、 流石に段階を踏んで説明した方がいいんじゃないか? 2匹とも困惑しているぞ」
「あら......そうね。 敵相手とはいえ、そこの礼儀はわきまえなくてはね......」
その2匹は、ユズとキラリの前に並び立つ。
「先程は失礼。私はポニータのイリータよ。 といっても、私はこの辺りでは珍しい見た目らしいのだけどね」
「僕はロコンのオロル。 イリータと同じく見た目は珍しい方さ。 彼女とはそれがきっかけで出会ったんだよ」
「は......はあ......」
「あっそうだ、私達も......私はキラリでこの子はユズ! よ、よろしくね!」
キラリは2匹へと前足を伸ばす。 だが、それはイリータの前足によって払われた。
「勘違いしないでくれる? 私達はあなた達と馴れ合うつもりはないわ。 敵相手に握手を求めるなんて、甘いんじゃないの?」
「えっ......」
予想外の反応に、キラリはショックを受けているようだ。 力なくうなだれる。
「......ちょ、ちょっと待ってください!」
目の前の光景に何か思うところがあるのか、ユズが声を荒らげる。 イリータは鬱陶しそうな顔で、「何よ」とこちらに振り向いた。
「......敵とかなんだか知りませんけど、その態度はないんじゃないんですか? いきなりそんな事言われて、いい気持ちになんかなれるわけないです!」
「......それが何。 さっきも言ったけど、馴れ馴れしくする気なんて無いのよ?」
「そうじゃなくて......!」
「ストップ!」
オロルの声が響く。 彼はイリータに寄って穏やかな顔で彼女を諭そうとする。
「イリータ、今のは君が悪いよ。 あちらがせっかく僕らに歩み寄ろうとしているんだ。 せっかくの出会いだ。 大事にした方がいい」
「......私にはよく分からないわ」
「まあ今分からないとしても、これから分かっていけばいいさ。 今からの勝負でね」
「あっ! そうだ勝負!」
キラリが思い出したかのように叫ぶ。 オロルは2匹に向けてにこりと笑った。
「うちのイリータがすまなかったね。 さて、そろそろ森へと向かおう。 もう先輩方達は向かっているだろうし」
「う、うん!」
「......よろしくお願いします」
明らかにユズは不機嫌そうな様子だ。 ムスッとした仏頂面に、キラリは思わず可愛いなぁと笑みを溢す。
「ははっ、敬語じゃなくていいよ! 僕らは結成した時期的には君らと同期みたいなものだし......ねえイリータ?」
「なっ......オロル、何故それを今!」
「まあまあ......」
(なんか......面白い2匹組だなあ......)
(......ちゃんと関われる気がしない)
それぞれの思いを抱えながら、4匹は紫紺の森へと歩き出した。
「バクオングさん......」
「なんだ?」
探検隊達が皆出ていき、少し静かになったオニユリタウン。バクオング一行が一旦役所に戻ろうとするところに、彼の側近が声をかける。
「本当に、良かったのですか? あの森で」
「どうしたんだ、今更心配して。 別に初心者でも絶対行けないというようなダンジョンではないぞ?」
「いえ......そういう意味ではなく......確かに、普通にやっていればまず大丈夫でしょう。 ですが、運が悪ければ、初心者探検隊が『ヤツ』に出くわす可能性も......」
「それはあまりに危険過ぎる、か?」
「......はい」
少しの間、風の音だけが響く。 そして、バクオングは急にワハハと大笑いした。
「確かにそうだろう! 『ヤツ』は強い。 もしかしたら、一捻りにやられて心にもダメージを負うだろうなぁ」
「それなら......!」
「だが! だからこそ、だ」
バクオングは間髪を入れず、楽しそうな顔をして言った。
「完膚なきまでに叩き潰された時に、その悔しさを強さに変えた者。 そして勿論、逆に『ヤツ』を知恵を振り絞り倒し、大きな自信を手に入れた者。 そのどちらもが、強大な力を持った探検隊になり得る。 メリットしかないじゃないか? もし出会わないとしても、宝探しで刺激は受けられるしな」
側近は静かに笑う。
「......なるほど。 あなたはどこまでも、探検隊に対して貪欲なようだ」
バクオングは空を見上げて、心を震わせているかの様に言った。
「さて......生まれるかもしれない新たな可能性。 この目で見届けさせてもらおうか」