第3話 結成! 探検隊ソレイユ!

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「おーいユズ! もうすぐ街だよー!」
 「ま、待って......4足歩行まだ慣れてない......」
 「人間って2足なの?」
 「覚えてないけど......慣れないって事は多分そう!」
 
 ユズとキラリは、買い物のために街の方へと向かっていた。 ......もっとも、これはユズに街を案内するという意味合いの方が強い。 キラリは街の事をユズに知って欲しかったのだ。
 そして、それだけでは無い。 キラリは1つの覚悟を固めていた。 さっき言えなかった、もう1つの願い。
 
 
  (絶対に、ユズに言うんだ......探検隊やろうって!)
 

 
  疲れてヨタヨタ歩くユズを横目に、キラリの心には炎が燃え上がっていた。
 
 
 
 
 
 (ポケモンの数が多くなってきたな......)

 街に向かえば向かうほど、ポケ通りが増えてくるのをユズは感じ取っていた。 とても賑やかだという事を予感させる。......そして。
 
 「よっし着いた! ユズ! ここが私達の街......『オニユリタウン』だよ!!」
 
 ユズが顔を上げる。 その顔はすぐに笑顔へと変わった。
 
 「......わぁ!」
 
 眼前に広がるは、陽気さに満ち溢れた街だ。 盛んに商いが行われ、皆愉快そうに笑っている。まるで、この街全体が外から来た者を歓迎しているようだ。
 
 「凄い、こんな場所があるなんて......」
 「えへへ、そう言って貰えるとなんか嬉しい......ここはね、この辺りでは1番立派な街なの! 世界でも有名な方なんだよ!......あ! レオンおじさーん!」
 
 キラリは大げさに手を振り、ポケ混みの向こうにいるゴルダックーー「レオン」を呼ぶ。 彼は嬉しそうに振り返った。
 
 「おおキラリ! 今日も元気だなぁ......お? 見ない子だな?」
 
 レオンはユズの方を向き、首を傾げる。 ユズはオドオドした様子でキラリの後ろに少し引いた。
 
 「おや? そんな怖がんなくてもいいだろうがよー......キラリ、この子は?」
 「ユズっていうの! 新しい友達なんだ!」
 「友達! じゃあ俺とも友達だな! 友達の友達は友達って言うだろ! ガハハ!......というわけで、俺はレオンだ。 気軽に頼ってくれよ? ユズ!」
 
 彼の笑顔には、純粋さが滲み出ていた。 それに少し安心したユズはペコリと「あ、ありがとうございます!」と言う。
 
 「そういや......」とレオンが言葉を紡ぐ。
 
 「キラリはユズと探検隊をやるって感じなのか? その感じだと」
 「ひょえ!?」
 
 当然、叫んだのはキラリ。 彼女がレオンに憤りを感じたのはご察しだろう。 心の準備が出来てから言おうと思ったのに、いきなり一瞬でそれを終わらせろと迫ってきたも同然なのだから。
 
 (このおじさん本当デリカシー無い......本当にいつも)
 
 キラリは心の中で、誰にも届く事の無い愚痴を漏らす。
 だが、1つの声がその思考を遮った。
 
 「あの......探検隊って......?」
 
 それはユズの不思議そうな声。 キラリは1つ深呼吸して決意を固めた。
 ーー今までずっと夢見てきたんだ。
 これはまたと無いチャンスなんだ。
 そして、私は何より、ユズと一緒にやりたい。
 
 言うならもう、今しかない。
 
 「あのね、ユズ。私ー!」
 
 
 
 
 

 
 「キャーーーー!」
 
 その瞬間、街に金切り声が鳴り響く。 それは非常事態を自覚するのには十分だった。
 
 「な......何ダァ!?」
 「......っ、行ってみよう、ユズ!」
 「えっ......う、うん!」
 
 2匹は声のした方向へと駆けていった。
 
 「お、おい! 待てよー!」
 
 ......レオンを置き去りにして。
 
 
 
 
 
 
 「この野郎待てえ!」
 1匹のポケモンが声を荒げている。 そこまでたどり着いたキラリとユズは近くのポケモンに状況を尋ねた。
 
 「一体どうしたんですか!?」
 「泥棒よ......店の木の実がごっそりと盗まれたの! 」
 「けっ......警察は?」
 「今連絡しているみたい......でも、間に合うかどうか......」
 
 ......2匹は向き合い、互いに頷く。 まるで心がリンクしているかのように。
 
 「......どこに逃げました?」
 「えっと、あっちの方に......」
 「そうですか、ありがとうございます!」
 
 2匹は同時に走り出した。
 
 「え、あなた達!?」
 
  制止は聞かない。 脇目も振らずに走り続ける。 論理的に何かを考えているわけでもない。 何ができるのかも分からない。
 でも、それでも。
 
 
 「へへっ、警察も来ねえんじゃ楽勝だな♪ 街の腰抜け共が追いかけてくる感じもねえし......こりゃあ俺の勝ちか......」
 
 余裕そうに窃盗犯は街外れを走り抜けている。 その足取りは軽く、もうそこまで本気で走っているわけでもない。
 ......だが、順調に事が運び過ぎたが故に彼は大事な事を忘れていた。
 
 勝負は、勝ちを確信し「油断した時」が最も危ないのだ。
 
 
 『まぁぁぁぁてぇぇぇぇええ!!』
 
 ーー遠くから、逆転の予兆が響いた。
 
  
 「なあっ!? 嘘だろオイ!?」
 
 窃盗犯は急にスピードを上げる。 流石と言うべきか、やはり逃げ足は速い。 2匹の足はそれに追いつけず、どんどん距離は離れてくる。
 
 「どうしたら......」
 
 キラリは息を切らしながら呟く。 当然、ユズもこの状況を一気にひっくり返す方法を思いつかない。 このままでは逃げられてしまう!
 
 (あっちの足を遅くする魔法とかでもあれば......ん?魔法?)
 
 ユズは思考を巡らせる。 脳裏に浮かんだのは......家で撒き散らした葉っぱ達。
 
 (魔法みたいな力といえば......ポケモンの技!)
 
 「キラリ! 何か技を撃とう!」
 
 ユズはとっさにキラリに叫んだ。
 
 「え!? なんで!?」
 「当たれば少しは足止めになると思う!」
 「......そっか、よし、やってみよっ!」
 
 めいめいに力を込める。 そして、全てを出し切るかのように、彼女らは叫んだ。
 
 『いっっっけぇぇぇぇぇええ!!!』
 
 2匹の技が繰り出される。キラリは[スピードスター]、ユズは[はっぱカッター]だ。 気合と共に発せられた2つの技は速度を落とす事なく一直線に相手の方へと向かう。
 
 ......バチィンッ!!
 
 「いぎっ......!!」
 
 ーーそして、その攻撃は相手の足のすねにクリーンヒット。窃盗犯は転び、盗んだ木の実を散らす。 流石は急所と言うべきか、痛みに悶絶してその場にうずくまってしまった。 ......警察の鐘の音が、遠くから響いてきた。

 
 
 
 
 
 「ヒュー......なんとかなったね......」
 「うん......疲れた......」
 
 ユズとキラリは家への道を辿る。 警察から事情聴取も受けたためもうくたくただ。
 キラリはふと空を見上げてみた。 そこにあるのは、沈みそうながらも最期の光を残そうとするような太陽。 昨日とは同じようでも似て非なる太陽。 そして、ここには昨日は想像もしなかった自分の姿。
 
 ......世界って、こんな簡単に変わるんだな。
 
 不思議と緊張はしなくなっていた。 キラリは立ち止まって、ユズに言う。
 
 「......ユズ。 一緒に探検隊やろっ!」
 「ふえっ!? ......というか探検隊って......?」
 「えっとね......この世界で色々と冒険をするポケモンの組織......かな? 簡単に言うと。 といっても、単に冒険するだけじゃなくて、依頼を受けるとか、とにかく沢山の事をするんだ! さっき追いかけた後に感じたの。 ユズは凄い力を持ってる。 だから、一緒にやれれば無敵なんじゃないかと思うの!」
 
 「そして......」と言いかけ、キラリは少し口ごもる。
 
 「私、あの太陽みたいになりたいの」
 
 キラリは空に浮かぶ太陽を指差す。
 
 「太陽......?」
 「うん。 太陽って、凄い力を持ってると思わない? 見ると元気が出たり、キレイだなって思ったり。 みんなの心を輝かせる力を持ってる。 ......私は、そんな探検隊になりたい。 みんなに希望を与えたい。 それが私の夢なんだ! だから......ユズと一緒に目指したいの!」
 
 ユズは言葉を失う。 真っ直ぐな瞳に何かを感じるのか、ただただキラリを見つめ続けた。
 だが、1つだけ胸の中に疑問が芽生えた。
 
 「......私でいいの? そんな大きな夢なのに」
 「なーに言ってるの! というか、私はユズだからいいの! ユズとやりたいの! 一緒にやりたい理由なんて、それだけで十分でしょ?」
 
 その疑問は瞬く間に解消される。 キラリはニカっと笑う。 それは夕焼けに照らされ、とても暖かい感じに包まれていた。
 ユズは少し間をおいて言う。
 
 「私、まだ分からない。 この世界の事も、自分の過去も。 だから......正直、少し怖い」
 「じゃあ......」
 
 不安そうなキラリに対して、ユズは首を振る。 そして、自分の前足を差し出した。
 
  「それでもいいのなら......キラリとなら、こちらこそ喜んで!」
 「......うん!」
 
 キラリもその手を伸ばす。 ......これが、2つの光が初めて交わった瞬間だった。
 
 
 その後、役所に申請書が提出され、無事受理された。
 メンバーには2匹の名前、そして、チーム名の欄には迷いの無い字でこう記されていた。
 
 チーム名:[ソレイユ]

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