第1話 光の邂逅
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
日が少し落ちかけてきた午後。
そんな中でも街の店は買い物客で賑わい、子供達がきゃっきゃと声を上げて遊んでいる。 まさに「活気のある街」を象徴するような光景である。
「ふんふふーん、ふふふーん♪」
そんな街の中を、1匹のチラーミィの少女がスキップしながら進んでいた。
「おお、どうしたんだキラリ? 随分とご機嫌じゃないか。」
「ふふ♪ 分かっちゃいますー?」
声をかけられた少女ーー『キラリ』は声をかけて欲しかったかのように街のポケモン、ゴルダックに振り向く。
「何かは知らんが......嬉しそうなのは分かるよ。 一体何があったんだい?」
「......ふふーん、よくぞ聞いてくれました! そう、私キラリは今日! 探検隊の申請書を! ゲットしたのです!!」
ババーンという効果音が似合うように申請書が掲げられた。 本ポケは自慢気な笑みを浮かべている。
この申請書はギルドなどの大きな施設を通さず、個々で探検隊を結成するために必要なものであり、探検隊基地などの審査に通ったポケモンなら貰うことが出来る。 あとは必要事項を記入して役所に提出すれば、晴れて探検隊が結成されるのだ。 探検隊は、世界に点在する不思議のダンジョンを冒険し、時には依頼を引き受けてポケモン助けも行う。 さらに、その中には世界を救う程の実力を持つ探検隊もおり、世のポケモン達にとっては憧れの職業なのだ。
「凄いなぁ!! お前が探検隊とは......! 俺もジジィになるもんだぜ!」
「なーによおじさん! まだまだ若いじゃないの!」
「おじさんと言われてる時点で俺はもうジジィなんだが......まあいいか! ガハハハハ!!」
妙なコントを繰り広げる2匹。 そして、ゴルダックは思い出したかのようにキラリにある質問を投げかける。
「そういや、キラリは誰と組んで探検隊をやるんだ?」
......その瞬間、キラリの中の時間は一瞬停止した。
「......え?」
「......やってしまった」
キラリは途方に暮れながら探検隊基地になる「はず」の自宅に帰っているところであった。 カァカァと、ヤミカラス達の切ない感じの鳴き声が辺りに響いている。 無慈悲に沈もうとする太陽は、まさに彼女の置かれた状況そのものだった。
「探検隊を作れる!」と盛り上がっていたキラリには、1つの大きな盲点があった。
......探検隊は、1匹だけでは作る事が出来ない。 「隊」というのはやはり1つの「組織」であるため、1匹だけでは成り立たないのだ。 現に、申請書の記入に関する注意事項にも、このように示してある。
[探検隊のメンバーは、必ず2匹以上記入すること。]
キラリはそこを完全に見落としており、探検隊を作る条件をまだ完全に満たしてはいなかったのだ。 さらに、彼女の思いつく限りでは、一緒に探検隊をやってくれるような友達はいなかった。 それもキラリの落ち込みを一層深くしていた。
ーーキラリは、小さい頃から探検隊に憧れていた。
彼女が5歳ぐらいの時だっただろうか。 勝手に不思議のダンジョンに行き迷子になった自分をある探検隊が助けてくれた時から、彼女は一気に探検隊に夢中になった。 街に探検隊が訪れるや否や、目をキラキラ輝かせて彼らに話を聞きに行くようになった。 そして、少しずつ探検隊について知っていくうちに、彼女の中に1つの「夢」が生まれたのだ。
......だが、このままでは、探検隊を作れない。 自分の「夢」を叶えられない。
「......あーあ、やっちゃったなー。 全然考えてなかったなー、私ったら」
わざとおどけたように言う。 そんな事でどうにかなるわけではないけれど。
「......やっと」
キラリの足が止まる。 その体は震え、悔しさが溢れ出すのを必死に抑えているようだった。
「やっと、できるって、思ったんだけどな......」
キラリの目に涙が滲む。 必死で堪えようとするが難しい。 そして、遂にわっと思いが溢れそうになった時ーー
「......あれ?」
自宅の玄関前に、何か見慣れない物体をキラリは見つけた。 ちんまりとしていて薄緑のような色だ。 だが少し遠くてまだ分かりづらい。 キラリは走って玄関に向かう。
そのうち、少しずつ見た目が明らかになっていく。 4足歩行の様な体。 生えている大きな葉っぱ。 玄関に着いた時には、キラリの心は驚きに支配されていた。 夕焼けの中で、キラリは叫ぶ。
「なっ......なんじゃこりゃっ!?」
......そこにいたのは、倒れている1匹のチコリータだった。
ーーまさかこの出会いが、世界を揺るがす物語の始まりになろうとは、この時は誰も想像していなかった。
連載開始です!
暖かい目で見守って下さったら幸いです。
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