27話 だから、私は対等でありたい

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

  ◇

「……話すと長くなるけど、どのあたりから話す?」
「全部って言ったよね、イブ」
「わかった。最初から話すね」

  ◇

「まず、パラレルワールドってのがあるんだけど、知ってる?」
「平行世界ってことだよね。紙と鉛筆ある?」
「あるよ、ちょっと待って」
 イブは立ち上がり、それらを用意する。
「こういうのは機械じゃないんだね」
「機械でやる人もいるけどね。でも、こういうのはそう簡単には消えないと思うよ。アナログにはアナログのよさがある」
「あなろぐ?」
「あ、ごめん。こういう機械に頼らないもののこと」
「いや、デジタルは断続で、アナログは連続だぞ」
 機械音による訂正が入った。カズオだ。イブは何やら声を返す。「そんなことはわかってるけど一般的な意味合いってものがあるでしょうよ」と聞こえた。で、イブはこちらに視線を向けた。あたしはその間に、2本の平行な直線を引いていた。
「こんな感じだよね」
「その通り。平行な直線みたいな世界のことだね。この平行な直線ってのはね、絶対に交わることがないの。ずっと同じ距離を辿ってて、未来永劫、交わることはない」
「それを、何かしらで超えて来たってことだよね」
「うん。あるひとりの女性が、パラレルワールドを行き来する機械を開発して。それで」
「……さすがにあたしもその原理はわからないかな。まあパラレルワールドを行き来できるようになったのはいいよ。ニンゲンが少なくとも2人、他にもっといっぱいいる世界なんて、どう考えてもあたしたちのいる世界とは別の世界だもの。……でも、じゃあどうやって、イブはイーブイになったの?」
「それが次の話ね。ハートスワップって知ってる?」
「マナフィの技よね。2匹の中身を入れ替えるんだっけ」
「あれを、機械で再現したの」
「はあ……」
 機械、恐るべし。呆れて声も出ない。さっきの自動翻訳やら、パラレルワールドの行き来やら、ハートスワップやら。できないことなんてないんじゃないかと思えてしまう。
「で、何? それを活かしてあたしたちのことを征服しようとしてるの?」
「言ってしまえば。私たち、力は弱いけど、いろんな機械のお陰であなたたち以上の力を持ってるからさ」
「ふうん、力は弱いんだ」
「そりゃ、ポケモンみたいに技は使えないし」
「え?」
「火も吐けないし、水も出せない。かと思えばリオやローネみたいな近接攻撃だって弱いよ。人間は無力で、そしてその分技術を発達させてきた」
「なるほどね」
「の割に、誘拐はポケモン任せなのがまたタチ悪いよね。人間には確かに、それができるだけのスキルはある。だけど、表立っては動きたくないから、そういうポケモンに依頼したって所かな……。実行犯にだけ技術を振りかざせばいいし……」
「イブ?」
「あっ、ごめん! 思わずのめり込んじゃって……。続きに戻るね。
 それで、なんでそんなことをする必要があるのかって話なんだけどさ。私たちの世界って、あんまりにも発展し過ぎてて、人間が増えすぎたのよね。そのせいで、食料やら土地やらが、足りなくなって来ちゃった」
「それを、あたしたちの世界で補おうとしてる訳?」
「そういうこと。土地も食料も、まだまだあるからね、そっちの世界には。これは私が調べたことだけどさ」
「なるほど」
「それで、人間の方が強いってことを伝えたくて誘拐なんてしてるんだよね」
「そういうことか……だから誘拐なんかしてたんだ」
「うん。しかも、ポケモンのペット人気にあやかってて、どこまでも人間にとっては利益しかない作戦だと思うよ。……だけど、私としては、もっと対等に交易したいなと思ってるんだよね。こちらからも提供するものはして、そして私たちは土地や食料をもらう。そんな風に、平等な貿易を。基本的に、いい人……ポケモンばっかりだったから」
「例外は、あなたを襲った奴?」
「……まあ」
 イブは黙り込んでしまった。あたしはふっと思い付いて、問いかける。
「失踪は、イブが来る前から始まってた。だけど、イーブイになってすぐに襲われたとは限らないよね。しばらくあたしたちの世界を見て、その内に誘拐が始まって、それからイブは襲われてリオの所に来た、違う?」
「……その通りだよ」
 これで、全てが明らかにされた訳だ。いやまあ、リオの過去とか気になる部分はあるけれど。少なくとも、この事件におけるイブの立ち位置は、もう完全に明かされた。
「わかった。ねえイブ。せっかく合流できたんだし、あたしもあなたを手伝いたい」
「……ありがとう。やっぱり、魚心あれば水心だね」
「え?」
「仲良くなろうと思っていたら、向こうもそう思ってくれるってこと。どうしようもないすれ違いとかはあるかもしれないけどさ。
 だから、私は対等でありたい。お互いに、仲良くなりたいし、助け合えると思うから。
 ローネ、凄く嬉しいよ。ありがとう」
 イブはニコリと笑った。あたしは首を横に振る。
「……お礼を言われるようなことでもないよ。あたし、助けてもらってばかりだから」
「……そっか」
 イブはカズオの方に視線を移し、何やら声をかけた。カズオはひとつ、頷く。それからイブはあたしの方へと視線を向ける。その顔は、いつものイブの笑みだった。ニンゲンに戻ったとしても、その微笑みは変わらなかった。
「それで」とあたしは問いかける。「その、敵のナマエって? ニンゲンだしナマエも持ってるんでしょ?」
「敵? ……ああ、そっか、そうなるんだ」
 不意にイブの表情が曇る。訊いちゃ悪いこと訊いた? と尋ねると、イブは「大丈夫」と首を振る。
「ただ、トギリさんは、私の恩人でもあるからさ。単純に敵とは言ってしまいたくなくて」
「トギリさん……恩人?」
「うん。まあ、おいおい話すよ。トギリ、それが、私たちが止めたい人間の名前だよ」
 トギリ。あたしはひとつ呟いた。その音が示す意味はわからなかったけれど、人間の言葉なのだから仕方ない。ふと気付く。
「あれ、そういやイブって本当のナマエなの? あたしたちにも聞きやすい言葉だったけど」
「うん。ポケモン語から取ったんだって。ポケモンとも仲良くなれるようにって願いを込めて」
 イブ。意味は知らないけれど、ポケモンにとって聞き馴染みのいい音だった。カズオやトギリのようなわかりにくいものではなく。きっと辞書には載っているのだろう。
「まあ、意味は大したことないんだけどね」
「へぇ」
 あたしはそして、話を戻す。
「にしても、そのトギリ、どうやって止めるの?」
「……まだ、考え付いてない。だけど一番確実なのは、内部告発だろうね。誘拐の確たる証拠を掴めば、それを暴けば退任まで追い込めるはず。だけど……それをやっているという証拠がない」
「ないの?! 機械使えばわかったりしないの?」
「できないことはそりゃあるよ。機械は人間の補助であり、よき相棒でもある。でも……決して対等にはなれないんだけどね」
 イブはそのマシンを撫でる。
「意思を持たないなら、道具として使役すればいい。だけど、ポケモンには意思がある。それなら、単なる使役関係じゃ駄目だよね」
「……それは、お互いに。あたしたちの方が力は強いから、従えることだってできるかもしれない」
「それが一番の問題。もしね、あたしたちが強引にポケモンを従えたとするね。それでもいつかは、誰かがそんな状態は駄目だって思う。昔、私たちの世界にプラズマ団って組織があって、ポケモンを人間から解放しようって訴えたらしいの。それはまあ、いろいろ裏があったんだけど、でもその思想に共鳴する人はいた。そんな人も同調して、ポケモンを解放するかもしれない。
 そうなったら、もう終わりは近いよね。そっちのポケモンは、こっちのポケモン以上に知恵を発達させてる。だから、ポケモンが解放された時、きっと反乱がおきるよ。そうなった時、私たちは対抗できるかな。たぶん無理だ。
 だから、初めからそんなリスクはなくしたい。そういう利己的な理由もあるんだ。初めから対等で、お互いにとって付き合うことがメリットであればさ。
 私たちは技術で得られるものをそっちに提供する。代わりに、土地とかをそっちからもらう。技術そのものは渡さないよ。技術自体を渡してしまうともう人間に勝ち目ないもん」
 イブはいたずらっぽく微笑んだ。
「勝ちたくはないけど、負けたくはないからさ」
「なるほど……」
 あたしはもろ手をあげた。ここまで深く考えていたのか。きっと、あたしは敵わない。一矢報いたのが関の山だ。
「でも、ここまで考えられるイブですら、トギリを止めるのはお手上げな訳?」
「……ホントに。難しいよ。絶対にボロは出さないんだもん」
「ううん……あたしにできることって何かあるかな」
「今の所は、ないかな。だけど、一緒にいて欲しい。ローネと一緒にいたい」
 イブはこちらを向き、そう言った。
「あたしで……いいの?」
「ローネのことも、大事だよ。そりゃ、リオのことは好きになっちゃったけどさ……。それでも、ローネがいてくれるだけで私、少し元気になれそうだから」
 あたしはイブの手に触れた。体毛に覆われていないその皮膚は、滑らかな手触りだった。

  ○

 噂の拡散力というのを、正直舐めていた。1週間もしないうちにミミロルが、「雑誌に載ってたって、襲撃の噂」と見せて来た。
 案の定、ミミロルの両親は何か感付いたらしく、僕たちと一緒に噂の拡散に付き合ってくれたらしかった。そして、これである。
「もう少ししたら警察も動けるか?」
 シシコの声に、「僕はわからないけど……」と苦笑する。
「でもきっと、大丈夫だよ」
 そんなことを話しながら、僕たちは学校に辿り着いた。

 クラスの中でも噂は流した。どれだけ広まるかはわからなかったけれど、ママが「チョロネコやマイナンをさらった集団がそういうテロを起こそうとしてる」と言えばインパクトは出るから広まりやすいと言われ、それに従った。
 それは正解だったみたいで、結果があの雑誌だ。本当に、ママは凄い。イブやローネと比べて、どっちの方が凄いんだろう。わからないぐらいだ。
 そんなことを思いながら席に着き、友達と他愛もない会話を交わす。3つの空席にも、もう慣れて来た。寂しいけれど、いつまでも立ち止まってはいられない。先生が入って来て、みんな散り散りに自分の席に戻る。
 その日の授業はもう、すらすらと理解できた。ここ最近、ずっとこうだ。わからないという枷が、どんどん消えて来ている。そりゃあ、イブやローネ程じゃないにせよ、僕のバカさが少しずつ消えて来ているみたいだった。

 家に戻り、さらさらと宿題を埋めていく。そして、ママの残したお金で晩ごはんを買い、それを食べていると、扉が開かれた。
「ただいま! リオル! 朗報だよ!」
「え?」
「あたしたちの作戦勝ちだよ!」
「ホント?!」
「ああ。今週末だよ。だから、しっかり休んで、しっかり体を鍛えておくんだよ!」
「うん!」
 僕は拳を握りしめた。そして、小さく呟く。
「……待ってて、ローネ。絶対助けるから」

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