第9話「希望の鐘は拳で鳴らす」

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
── 「このバリヤーは、かの有名な開拓者"ルカリオ"ですら破れなかった!」
 そう声高に自慢する謎のポケモン。リオルたちも後に知ることになるそのポケモンは、バリヤードと呼ばれる"連続コドモ誘拐犯"だった。──



 ある日の夜、山頂にて。

「早く寝ろって言ったろ」
「げっ、マーシャドーまだ起きてたの?」
「僕は監視役でもあるから当然」
「監視かぁ」
「また君があの"海"に触れないか見張っていないとな」
「さ、触らないよ……。ただ寝れなかっただけ」

 リオルはボソッと呟いて、ほどよい大きさの岩に腰を掛ける。月の光に照らされてできた影からマーシャドーが彼の表情を見ていた。

「ワクワクして寝れないんだと思ったけど、違ったみたい」
「怖い夢を見るから?」
「え。ど、どうしてそれを」
「守りの里でミミロルに言われてたとき」
「あの時から見てたんだ……怖くないけど、イヤな夢を見るんだ」

 うつむくリオルをみて、「やれやれ」といった風にマーシャドーが影から出てきた。

「どんな夢を?」
「お父さんの夢。わざの訓練をしてて、厳しくて『"はどうだん"ができないと開拓者にはなれない』って言われる」
「それも守りの里で話してたな」
「そうだっけ」
「ミミロルと"きあいだま"の練習をしていたとき」
「ああ。"きあいだま"ならできるかもと思ったんだけど、それも結局できなかったんだ」

 リオルはマーシャドーが隣に立っても、それに気づいていないようにボーっと地面を見つめている。

「君は『"はどうだん"なんて使わずに開拓者になってやる』とも言っていた」
「うん。絶対お父さんの言う通りにはならないって決めたんだ」
「反抗期ってやつか」
「……? なにそれ」

 リオルはその時ようやくマーシャドーを見る。キョトンとした表情で。

「知らないのか。コドモが親に反抗する年頃のことだよ」
「そんな言葉初めて聞いたよ。親に反抗するコドモなんてボクくらいだし」
「そういうものか? おかしいな……」

 自嘲気味に笑うリオルのとなりでマーシャドーは口元に当てて何か考えていた。






「さっきの技、"きあいだま" のやり方を、ボクに教えてほしいんだ!」

 リオルは、ミミロルに弟子入りしてまで"きあいだま"を覚えようとした。
 しかし結果は散々なものだった。

「何でそんなにできないの?」
「ミミロル、そんな言い方したらリオル君がかわいそう」
「だって、簡単なことなのに……!」
「ミミロルにとっては簡単でも、リオル君にとってはそうじゃないかもしれないでしょう?」

 一向に上達しないリオルにミミロルがぶつけた言葉は、リオルにとっては父ルカリオに何度もぶつけられた言葉とよく似ている。
 リオルの父ルカリオは、リオルがどれだけ優秀でも"はどうだん"を使えないことを理由に彼のことを「一族の恥」とまで言った。

 "きあいだま"の発動……ミミロルは最初から自然にこなせており、それは"はどうだん"を習得することと比べれば決して難しことではない。
 だがリオルの心には、"きあいだま"を覚えようとするルカリオへの反抗心と同時に、"はどうだん"を覚えて父に認められたいと言う迷いが残っていたのだ。
 "きあいだま"を覚えようとしたのも、リオルが"はどうだん"への憧れを捨てきれなかった名残なのかもしれない。
 そういった微かな迷いが心に引っ掛かる違和感として、"きあいだま"の発動を妨げていた。


 ── 現在。
 ミミロルは謎のエンターテイナー"バリヤード"に捕まってしまい、彼女を閉じ込める壁はルカリオですら破れなかった最強のバリヤー。

「今ここでボクがあのバリヤーを壊してミミロルを助ける!」
「おい待て、それが出来ないから僕と作戦を立てたんだろう!?」

 マーシャドーは、リオルがどういう気持ちの変化で戦おうとしているかをよくわかってあた。リオルにあのバリヤーを破る術がないことも。
 だが今のリオルに迷いはない。

「道を切り拓くのが、"開拓者"だ!!」

 大きく息を吸い、胸の前に両手を構えた。
 そこに集中して力を込めると両手の間に小さな光の球体ができ、少しずつ大きくなる。
 そんな風に完成したエネルギーのかたまりは、あたりの林と水面を鮮明に照らした。

 ミミロルを含め、そこにいる全員がリオルが作り出した光に注目する。


「"きあいだま"!!」


 "きあいだま"は放たれ、ミミロルをとじ込める障壁に直撃した。光が弾け、辺り一面に衝撃が走る。

「まったく話を聞かない方々ですね……」

 攻撃が落ち着いて、バリヤーを確認する。壁には攻撃が当たった跡が少し残っているものの、やはり無傷であった。
 リオルの足下ではマーシャドーが、いつになく声を荒げてリオルに呼び掛けている。それも今のリオルには聞こえていない。

「今話したばかりでしょう。このバリヤーは ──」
「うるさーい!」

 リオルはバリヤードの自慢を遮って再び前かがみに、走り出すための姿勢をとる。

「落ち着けリオル!」

 マーシャドーの台詞を聞き取る前にスタートダッシュを切った。水の地面が足に蹴りあげられ、水飛沫が上がる。先ほどよりもうんと速くバリヤーに迫り、その勢いのまま殴り付けた。「ガンッ」とガラスを打ったような音に響く。勿論ビクともしない。

「諦めの悪いコですね。わかりました。好きなだけ試してみなさい」
「おぉりゃ!」

 1撃目とは違う方の拳でもう一度殴る。心なしかさっきよりも打撃音が大きくなっていた。

「もうやめろリオル! バリヤーは壊せない!」
「うおぉー!」

 いくら呼び掛けてもリオルは止まらない。
 静かな雨林に壁を打つ音が響く。2回目、3回目、4回目、5回目……と間隔は少しずつ短くなる。6回目、音はさらに大きく。揺れる枝葉のさざめきが聞こえた。
 次の7回目では、リオルの拳の作用点を中心に水飛沫が上がり、木々を揺らす風が雨林を鼓動させる。

「まだまだぁ!」

 そして8回目。リオルの拳が透明な壁に直撃した時、打撃音とは別に微かに軋む音が聞こえた。拳から腕にかけて、そして胸へとリオルの体に伝わるたしかな手応え。

「まさか……!」

 9、10、11、数を重ねるごとに手応えは増していく。12回目の衝撃で、ついにバリヤーが少し揺れ動いた。その頃には小さな拳がバリヤーを殴る音は、雨林全体に響き渡っていた。

「まさかそんなことが! やめなさい!」

 リオルを指差しながら叫ぶ敵の顔に、先ほどまでの見下した嘲笑はない。立てた指先から、ピンク色の電撃のようなものが発射される。

 ギザギザと蛇行しながら迫るの光線にリオルは気づいていない。ミミロルがバリヤーのなかからそれを必死に知らせようとしているが、それも届かない。

「悪あがきはやめなさい。リオル君」

 バリヤードがニヤリと笑った。その瞬間。
 「ドカン!」と光線は何者かの妨害によってリオルに直撃する一歩手前で爆発して止められる。
 爆発で発生した煙を払いながら、緑色の炎をまとったポケモンが現れた。

「な、ナニモノですか? いったいどこから」
「僕はマーシャドー。影の住人で、このコらのお目付け役だ」
「マーシャドー! 守ってくれたの!?」
「それが僕の仕事だから」

 彼の登場で我に帰ったリオル。殴り続けたバリヤーにはヒビが入っており、あと少しで壊れそうというところだった。

「僕がこいつを止めておくから、さっさと壊してしまえ」
「うん!」
「ワタシがそれをさせると思いますか!」
「悪あがきはよせ、エンターテイナー」

 バリヤードとマーシャドーが対峙するその後ろで、リオルは再度拳を握ってパンチの構えをする。壁の中のミミロルが衝撃に備えて耳と目を塞いだ。
 握りしめた拳の破壊力は平時のそれとは比べ物にならない。それはリオルが使ったわざで、そのわざを使う度に威力が強くなる。

「グロウパンチ!」

 最後の打撃音が響く。箱型のバリヤー全体に亀裂が走り、粉々に砕け散った。

「やった! ミミロル! 壊したよ!」
「リオル……」

 縮こまっているミミロルに手を伸ばす。その時の台詞はミミロルを助けるというより、バリヤーを壊せた喜びを表しているような言い回しだ。

「まさか本当にやるとは」

 マーシャドーは、ガッツポーズをとるリオルの姿に呆れたながら称賛を送る。

「マーシャドー、早く逃げよう!」
「ねえこのポケモンだれ?」
「説明はあとだ!」

 踵を返して、手元のバッグから急いで三つの"ふしぎだま"を取り出した。

「ワープ先は、守りの里。行くぞ」
「え!?」
「待って! 山の頂上の方が ──!」

 ふしぎだまを使おうとしたマーシャドーだが、「守りの里はダメだ!」と言わんばかりの二匹の反応に使用をためらう。その一瞬の隙、マーシャドーは敵に背を向けていた。

「これ以上恥をかかせないでいただきたいですね!」
「おめえら! 早くそこから離れろ」

 ケッキングの荒々しい叫びが静寂の雨林に響き渡った。そこではじめて、敵の方を警戒する三匹。しかしバリヤードはすでに攻撃を発動した後だった。

「"さいみんじゅつ"!」

 両手で作った丸から、ピンク色の波紋が広がる。避ける暇もなく三匹は眠りに落ちてしまった。

「コドモにここまで手こずるとは思いませんでしたよ……」
「チィッ。これじゃ俺の面目丸潰れだなァ、おい。」

 ケッキングは大きな地響きを立てて、バリヤードに接近する。

「ある意味で観客を出し抜くのはエンタメの十八番です。生粋のエンターテイナーであるワタシに敗北するのは、恥ずかしいことではないでしょう」
「悪いが、俺は見世物が大嫌いでね」

 二つの拳を握る。ニヤリと笑う。

「まだ挑みますか。結局あなたもあの下等なお猿さんたちと同類ということですか」
「エンターテイナーを名乗るなら、言葉遣いは気を付けろ!」
「学習能力が無いと言っているのですよ!」


 巨大な拳が透明の壁に直撃し、大きな音が鳴る。しかしそれ以降その音が雨林に鳴り響くことは二度となかった……。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

 この作品は感想が書かれていません。