Episode 78 -Foreseeing-

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 地上に戻ったローレルたち。学校で彼女たちは、ツォンの故郷・『ランジン』の街近くに住むという未来予知者の話を聞く。これから起こる未来の中に敵の正体のヒントがあると考えた一行は、ランジンへ向かうこととなった。
 ローレルの正体は、翌朝にはローレルと関わるダイバーたちに明かされることとなった。だが誰もが驚きを見せながらも、ローレルのことを拒絶する様子など一切見せなかった。

えっこたちと同じくローレルを守りたいと願う者ばかりであり、ダークマターの種としての存在であっても関係ないのだと、ローレルと出会えてよかったし、ローレルの力になりたいのだと、誰もが口を揃えて答えてくれた。


「ふーん……未来を見る、ねぇ……。何か胡散臭いなー。」
「そんなことはありませんよ、些細な探し物から敵の襲来や災害の訪れまで、『ティエンロン』様の神通力は全てを見通すのです。でなければ、僕の故郷の『ランジン』だって、750年以上もの間途切れることのない繁栄を続けたりなどしませんでしたよ。」

えっこたちがアークに戻ってから数日後、高校の屋上でカザネとツォンが、そんな会話を繰り広げている。バリバリの現実主義者で理系脳のカザネは、未来を見通すという話に眉をひそめた反応を見せるが、一方のツォンは至って真面目に故郷に住むという未来予知者の話をしていた。


「見られるのは未来だけではありません、知りたいことの手掛かりが掴めないときにティエンロン様にお願いすれば、そのヒントを少しだけ頂くことができるようでして。」
「占いなんて、何か誰にでも当てはまりそうな無難なこと言っといて、後で適当にこじつけてるだけなんだよきっと。時間という現象は、この次元では先取りしたり過去にタイムスリップしたりなんてことは云々……。」

「では、未来予知が誰にでもできると? それならやってみてくださいよ。」
「いいよー、例えばそうだな……。ローレル、君は白いものに気をつけるんだ!! 今日は白いものに襲われるぞ!! 以上!!」

相変わらずの調子のカザネは、少し拗ねた様子のツォンに言われた通り、何とも当てずっぽうな占いをやってみせた。するとローレルに忠告した直後に野球ボールが降ってきて、カザネの脳天に思い切り直撃した。


「ああ、大丈夫ですかカザネさん!?」
「痛ぇーっ!!!! 何でボール降ってくるんだよ!!!! ここ屋上だぞ!!!!」

「さっきからグラウンドで野球やってるポケモンがいますからね……。ファールボールが飛んできたのでは?」
「うーむ、見事に外れましたね……。白いボールは飛んできたのですが、ローレルさんではなくカザネさんでした。でも、ティエンロン様ならそんなポカはしませんよー。」

ローレルはある意味奇跡的なタイミングで自分が予言の的になったカザネを、とても心配そうに見つめている。眼下のグラウンドを眺めるいるか曰く先程から野球に興じる生徒たちがおり、彼らの流れ球がカザネにクリーンヒットしたようだ。


「今は一刻も早く、レギオン使いたちの手掛かりを得ることが大切です。その方の未来予知の腕前がどれ程のものかはやってみなければ分からないものではありますが、今は行動あるのみだと僕は思います。」
「あー、何か気に食わないっ!! いいよ、その未来予知って奴、僕もこの目で確かめてやるから!! どうせ科学的な説明ができるような眉唾ものなんだよ、きっとね。」

「では決まりですね。ランジンは僕が案内いたしますよ、今週末にでも探検に出掛けましょうか?」

今のローレルたちは、藁にもすがる状態といえる。こうして、レギオンの手掛かりを掴むチャンスがあるならと、一行はランジンの街へと向かうことを決めたのだった。










 「あの……何か結構な大所帯パーティになっちゃいましたねこれ……。僕ら4匹だけかと思ってたのに……。」
「そりゃ、ローレルが頑張って敵の正体を探りに行くんだ、俺だってついて行くに決まってるじゃないか。それにもしものときのために、戦力は多い方がいいだろ?」

「ってうちの部下が言ってるんでな、しゃーねぇから俺もついて来たって訳さ。それに白く可憐でありながら、熱帯の過酷な環境でも強く咲き誇るカラーの花のような彼女のためだ、デキる男として当然ってもんよ。」

案内役のツォンに加え、ローレル、カザネ、いるかだけでなく、えっこやトレも同行していた。ローレルを放っておけなかった過保護なえっこと、ローレルへの下心が透けて見えるトレを見て、ツォンといるかは何ともいえない表情を滲ませている。


「ま、まあ取り敢えずせっかくですし街で装備などを整えてから行きましょうか。僕も丁度寄りたい場所がありますし。」

ツォンは苦笑いを見せながらそう呟くと、先頭に立って一同に街を案内し始めた。


瓦屋根の付いた門をくぐると、城壁に囲まれたランジンの街が目の前に姿を現す。黒い茅葺屋根と灰色の石レンガで作られた建物には金色の枠の窓が付いており、その軒先には赤い提灯が列をなして風に揺れている。

市内を流れる川にかかるアーチ橋を渡ると、対岸には川にせり出すようにして建物が並んでおり、その裏側は石畳の道が碁盤の目状に張り巡らされているようだ。


「何とも異国情緒漂う場所だなぁ……。こんなところが地上にあったなんてね。」
「この街は750年以上、つまり人間の魂を受け継いだとされるポケモンたちの文明の黎明期から続く都だそうで。高い城壁と川、そして細い路地が長年この場所を外敵から守ってきたのです。」

「何か独特の香りがするな……。今までに嗅いだことのないような変わった匂いばかりだ。」
「この地方の料理は、山椒に八角、シナモンやパクチーなどの薬味を多く使用しますからね。一説には、人間の文明から受け継がれてきた味だといわれています。」

見慣れぬ雰囲気の街並みに思わず見惚れるカザネと、道の両脇の屋台や料理店から漂う香りにきょろきょろと辺りを見渡すえっこ。そんな彼らを連れ、ツォンたちは必要物資の買い出しなどを続けた。


「さてと……。後はここですかね。」
「何ですかこの建物? 外から中の様子が分からないし、お店とかでもなさそうだし……。」

「入れば分かりますよ。お邪魔させてもらいますか。」
「お、おい勝手にズカズカ入って大丈夫なのかよ? 完全に人んちだろこれ……。」

ふとツォンが立ち寄った建物、それは旧市街の斜面を登ったところに佇む大きな建物だった。まるでそれ自体が1つの城塞であるかのように、白く窓のない外壁がぐるりと建物を取り囲み、濃い青と赤の長屋根が中の方にあるのが見える。


「『パイ』!! いるのでしょう!? 僕です、ツォンですよ!! 久しぶりに戻って……。」
「おいっ、ツォン危ねえ!! 何か来っ……!!」

建物の中で誰かの名を呼ぶツォンに対し、突然何かに気づいたトレがそう叫ぶ。すると、どこからともなく白い影が視界の端を掠めていくのが見えた。


「流術・『鶏頭裂打』!!!!」
「ならばっ、守型・『通散功』!!!!」

「うわっ!? な、何、戦い始めたよ急に!!!! 敵!?」
「いえ、恐らくは違います……。見てくださいツォンさんの顔を。何だか嬉しそうです。まるで、親友に何年かぶりに会ったかのような……。」

急に飛び出してきたぶじゅつポケモンのコジョフーは、いきなりツォンに対して戦いを挑んできた。

まるで怒り狂ってところ構わずつつきまくる鶏のクチバシのような猛攻を、ツォンは全て右手の平だけで受け止めた。そのまま左手をゆっくり回しながら地面に付けると、一瞬でドゴッという粉砕音と共に床が潰れ、小さな陥没ができていた。


「僕がアークへ旅立ったあの日より、何倍も強くなっているようで。」
「当たり前じゃないか、最後の御前武道大会で、お前に僅差で勝てなかったあの屈辱を忘れてなんかいないぞ? 次の大会が来たら、今度は優勝もらってやるからな!!」

「確か3年に一度ですし来年でしたね、僕も楽しみにしておきましょう。お互い、それまで修行と鍛錬を重ねてもっともっと強くなり、最高の御前試合を演じられるよう、ね。」
 
ツォンたちは親しげにそう話すと、一同にようやくコジョフーのことを紹介してくれた。


「彼の名は『パイ』といいます。この街で僕の使う円環功と対を成す拳法・『流拳』の正統継承者でしてね。丁度同い年で幼馴染で、好敵手ともいえる存在なのですよ。」
「あなた方がアークでツォンがお世話になっているダイバーの方々ですね? ルーチェさんやメイさんとは別のチームの方でしょうか?」

「うん、今回はある事情があってね。複数のチームからバラバラのメンバーがこうして集ったって訳さ。パイ君だったね? 初めまして、よろしく。」

ツォンに紹介されたコジョフーのパイに、一同は自己紹介をした。パイはツォンの昔からの大親友であり、ライバルでもある間柄だ。落ち着いた性格のツォンに対してハキハキした性格の持ち主のようだが、武術に励んでいるためか丁寧で慎ましい感じなのはよく似ているように思える。


「なるほど……ティエンロン様のところに……。それは何とも大変な時に……。」
「大変? 何かあったのか、そのティエンロン様って奴によ?」

「ティエンロン様はこのランジンの街の奥にある『光雷峰』にいらっしゃるのですが、このところあの山が分厚く黒い雲に覆われていまして……。」

ローレルたちの事情を聞いて浮かない表情を見せるパイ。怪訝に思ったトレが尋ねると、パイは道場の窓を開けて外の景色を見上げながらそう答えた。


「ありゃ……本当だ……。でも、山なんだから天候が不安定なのはよくあることじゃないの?」
「それがもう2週間近くもあの調子なのですよ。あんな状態なので山に近付こうとする者はおらず、何か災厄が訪れる前触れなのではと、街のポケモンたちの間で騒ぎになっているんです。」

「何か、悪い予感がします……。ティエンロン様に未来を見てもらう前に、あの山で起こっている出来事を調査する必要がありそうですね。」

いるかは山を見つめながらもさほど驚いた様子を見せていなかった。しかし2週間近くも荒天が続くことは山地でも極めて稀であり、標高数千mの極限環境という訳でもないこの地で、そんな天気が続くことは異常といえるだろう。

ローレルの言う通り、ティエンロンの住むという光雷峰に趣いて現地の調査をし、悪天候の原因を解明せねば彼に会うことは難しそうだ。


「とにかく、その光雷峰に行ってみよう。もしかしたら例のレギオン使いたちの仕業かもしれない。何せ便利そうな未来予知能力だからな、本当にそんなものが存在するなら、奴らだって手に入れたがるかも知れない。」
「それならば俺も力を貸しましょう。ランジンのポケモンたちの困りごとを、あなたたちだけに任せるのもとても気が引けますし、こちらとしてもツォンが普段からお世話になっている恩義がありますので。」

「ありがとう、パイ。君がついてきてくれるなら百人力というものですよ。みなさん、ここから山道までは30分もあれば辿り着けます。暗くならない内に山奥へと向かいましょう。それならきっと或いは、何かこの事件の手掛かりが得られるかも知れません。」

えっこがローレルの意見に同調すると、パイも今回の探索に同行してくれることに決めたようだ。一行はそのまま道場を後にし、背後にそびえ立つ光雷峰へと向かう細道を足早に登り始めた。


「(だが何だこの妙な感じ……? 何かが引っかかるような、不可解でたまらないような……。俺の勘が騒いでやがる。何が起こるんだか分からねぇが、用心するに越したことはねぇな)」

列の最後尾を歩くトレは、一行をジロジロと眺めながらそのようなことを考えていた。逆境を数多く跳ね除けてきた猛者であり、何事においても非常に優秀な能力を持つトレだからこそ、己の勘を信用しているらしい。

息を呑みながらもトレは覚悟を決め、他のみんなが歩くところに合流するよう、一気に駆け出したのだった。


(To be continued...)

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