メモリー22:「脱出の代償~でんじはのどうくつ#10~」の巻

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 「ユウキ!!ユウキーーー!!」


 私は目の前で起きてる事態に成す術もなく、無事を祈って叫び続けることしか出来ませんでした。次々と土煙を上げながら崩落していく“でんじはのどうくつ”。まだその中にはコイルの仲間たち、それにユウキが取り残されたまま。


 (何とかしないと、ユウキが………死んじゃう!!)


 そのとき、私の頭の中は真っ白でパニック状態だったでしょう。とにかく電撃を岩にぶつけ続けました。ユウキを助けたい想いで何度も何度も。でも、一向に目の前の岩に変わった様子は見られません。


 (早く………崩れて!お願い!あっ…………!)


 私は赤いほっぺたから放出される電撃が弱くなっていくのに気付きました。なんとかエネルギーをチャージしようと懸命になりましたが、全然電撃のパワーが回復する様子は見られません。むしろ、弱まるばかり。


 (こんなところで…………エネルギー切れしちゃうなんて………これじゃユウキを助けられない………)


 道具箱が空っぽな今、これ以上目の前の岩を崩す手段はありません。またもや肝心な所で何も出来なくなってしまったのです。


 (ダメだ………こんなことじゃ。しっかりして。“パートナー”の私がユウキを助ける役目にならなくちゃ………)


 ………とは言うものの、私には特に良いアイデアが浮かびませんでした。そうしている間にも耳を塞ぎたくなるほどの大きな音、土煙を立てながら洞窟の崩壊は続くばかり。しかし、そのままじっとその様子を見ることしか出来ませんでした。


 (一体どうしたら良いの?このままユウキが助からなかったら………私………どうなっちゃうの?)
 「チカサン!………ビビビ!」
 「シッカリシロ!………ビビビ!」


 自分にはどうすることも出来ない。夢を叶えさせてくれた“たった一人の味方”の力にもなれない。結局自分は何も出来なかった。“役立たず”だった。段々と自らを否定し、悲観的になったせいでしょうか。どうやら私はその場でボロボロ涙をこぼしながら泣き崩れていたようです………。




  ドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 いきなり洞窟内に物凄い音が響いた。恐らく今までの爆発で床が抜けたり、壁が崩れたりして洞窟の天井の重みを支えることが出来なくなったのだろう。次の瞬間、天井を構成していた岩が大小様々な岩なだれとしてバラバラと落下してきたのである。


 「危ない!!コイルたちも伏せろ…………ぐわああああ!!」


 もちろんボクたちも例外ではなかった。コイルたちはボクの指示がなんとか間に合って、たまたま近くにあった隙間に退避して難を逃れた。しかしボクの周りには退避出来そうな場所は無かった。そのため岩なだれはボクの体にまともに直撃してきた。


 「く…………!痛い………!なんてこった………動けない!」


 ただでさえこれまでの救助活動でボロボロだった体に、この岩なだれはトドメだった。更に悪いことに、ボクは仰向けの状態で岩の下敷きになってしまったのである。なんとか窒息せず、しっぽの炎がかき消されずに済んだが、こうなってしまってはもう体を動かせない。せいぜい短い手足をバタバタする事が出来るくらいである。さすがに万事休すかと思われた。


 (こんな状況、どうすれば良いんだ!?)


 こうなればコイルたちに力を借りるしか解決策は無い。彼らの技で僕の上に積み重なった岩を壊してさえ貰えば、また出口を塞ぐ岩を崩す作業が出来る。
 救助隊としてあってはならない考えだし、本当に情けなく悔しい。でも、全員が助かるにはもうそれしか無いのだ。こうしてる間にも洞窟の崩壊は続く。時間は無い!!


 「(よし………!)コイルたちー!!頼む!この岩を…………退かしてくれ………あっ!?」


 その青写真も崩れてしまった。ようやく顔を持ち上げた時に目に飛び込んできたもの………それはコイルたちの前に2匹のビリリダマがいる様子だった。


 (くっそ………まだビリリダマたちが。しつこいな、ちくしょう………!)


 なんとか追撃したいところだが、息を吸い込むのも苦しい。とても技を放てる状態ではなかった。つくづく自分が情けなく感じる。攻めて仲間のもとへコイルたちを戻してあげたいと思ったが、それさえも叶わなさそうだ。ここまでの苦しみは一体なんだったんだろう。全て無駄な努力に終わってしまうんだろうな。


 「ククク、もうお前らのことを庇う救助隊もいないぜ?この岩の下でくたばってるんだからな!覚悟するんだな!!おらっ、“ソニックブーム”!」
 『ウワッ!!…………ビビビ!』


 そうしてる間に1匹のビリリダマによって“ソニックブーム”が繰り出された。いくらコイルたちが“ふゆう”していても、天井から地面まで高さを利用して攻撃されてしまっては意味がなかった。しかも、


 幸いコイルたちははがねタイプ。ノーマルタイプのこの技が直撃してもなんとか踏ん張ることが出来たが、それも時間の問題だろう。しかも彼らのように、外の世界からダンジョンに迷いこむポケモンたちの多くは、別のポケモンたちに救助要請するだけあってバトルの実力は乏しい。ダンジョンに潜むポケモンを倒すことはほぼ不可能に近かった。


  ドドドドドドドドドド!!
 (まずい、ますます洞窟が崩れてる!早くコイルたちを助けて脱出しないと!………!うっぐぐぐ!!)


 ボクは体に覆い被さってる岩をなんとか退かそうと懸命になった。だが、かなりの重さとなっている岩はそう簡単に動きはしない。それでもボロボロな小さい体を懸命に動かしてみる。全てはみんな一緒に脱出するため。………チカと再会するため。


 「このままお前たちのことも道連れにしてやる。この至近距離で“だいばくはつ”食らわしたら、どうなるかな?」
 (なんだって!?)
 「ヤメロ………ビビビ!!」
 「タスケテクレ………ビビビ!!」


 コイルたちに危機が迫っていた。確かに“だいばくはつ”も、彼らにはダメージがあまり強くないノーマルタイプ。だけど至近距離で、それも二匹分の“だいばくはつ”となれば、一たまりも無い。本当に命の危険というべき事態である。コイルたちも本能的な恐怖を感じてるのか、青ざめた表情をしていた。


 「ククク、命乞いしたって無駄だぜ。どのみちこのままじっとしていても、洞窟が崩れ続けたら生き埋めになるんだからな!」


 憎たらしい笑いを飛ばしながら、体が眩しく輝き始めた。それはまさしく“だいばくはつ”の前兆。このままではマズい。………しかし、もう一匹のビリリダマの方には何も変化は見られなかった。それを見た先ほどのビリリダマが段々と急かすように怒鳴りつける。


 「おい、お前。何をモタモタしてるんだ?とっとと準備しやがれ!」
 「………え?でも………」
 「何か文句でもあるのか?」
 「いえ!!」
 「だったらとっとと準備しやがれ!!」
 「はい!」


 怒鳴り付けられた方のビリリダマの体も段々と眩しく輝き始める。………しかし、どこか様子がおかしい。もう一方のビリリダマのそれと比べても眩しさが違うのだ。再び怒鳴り声が響いた。


 「てめぇ!?ふざけてんのか!!」
 「!!」


 怒りで興奮しきった彼に、もはや味方も何も関係なかった。”だいばくはつ”のチャージを一旦中断させて“スパーク”で、すぐ隣の自分の仲間を攻撃したのである!!!


 「何するんだ!!やめてくれ!!」
 「ごちゃごちゃうるせーんだよ!!俺の言うことを効かないやつぁ、仲間でも何でもないわ!くたばっちまえ!!」


 “スパーク”や“たいあたり”などが直撃する度に苦しいそうなうめき声がした。完全なる仲間割れである。攻撃されてる仲間は気の毒だが、これでチャンスができた。再度コイルたちに力を貸して貰おうと考えたボク…………だったが、先ほどの“ソニックブーム”で完全に怯んでる様子で、固まってるのがわかった。と、なればもはや自力でこの岩を破壊するしか無い。



 (うう………!頼む!もう一度、もう一度だけ炎よ………強くなれ!)


 最初僕はなんとか岩を退かそうと懸命になった。しかし、相変わらずびくともしない。いくらもがいても手足をやっとバタバタ動かせるくらいだ。


 (頼む!あの力よ、もう一度………もう一度だけボクに貸してくれ………!!)


 歯を食い縛り、握り拳を作る。目一杯の力を入れる。あの不思議な力さえ出てくれたらと、僅かな望みを託して「炎よ強くなれ!」と強く念じてみる。








 ……………すると、どうだろう。


 (………!?。体が………熱くなってきた?もしかして………!)


 体全体はもちろん、足元にも若干熱を感じたボク。本能的にしっぽの炎の火力も増してるんだと認識した。ありがたいことである。これなら岩だって壊せるはず…………そう思ったボクは、自分を踏んでいる岩に向かって“ひのこ”を飛ばした。


   ビュンビュンビュンビュンビュン!
 (ボクの小さな炎よ、頼むぞ!もうお前だけが頼りなんだ!)


 ボクはひたすら岩が壊れることだけを願った。これでダメなら本当に打つ手が無くなってしまう。ボクらが生き延びれるかどうかは、この“ひのこ”にかかっているのだ。


 (頼む!壊れてくれ………!もう一度ボクをチカに会わせてくれ!コイルたちを仲間のところに届けさせてくれ!………頼む!)


 今残ってる体力。ボクはその全てを尽きるまで出し切っていただろう。息苦しい。なんとか楽にしようとして抵抗を試みる。しかし上手くいかない。せいぜい手足をバタつかせる程度。ますます強くなる苦しみで思わず目をつぶる。その間も汗はずっとダラダラと流れていた。


 (やっぱり………ダメなのか?死ぬしか無いのか?)


 少し時間が経過しても、ボクを踏んでいる岩に大きな変化は出てこなかった。途端に不安を覚えた。一瞬強く輝いていたしっぽの炎も小さくなってしまう。もはやここまでなのだろう。コイルたちを助けられなかったのが悔しい。
何のために“ヒトカゲ”になったのかさえもわからず、自分はこのまま命尽きてしまうだろう。いや、むしろチカには申し訳ないが、その方が良いのかも知れない。


 「もうダメだ」と、誰にも聞こえぬほど小さい声で呟き、ボクはそっと目を閉じる…………そのときだ。


  ピキッ………ピキピキッ………ピキピキピキ!
 (なんだ!?………もしかして!?)


 突然耳に入った小さな音。よく見ると岩の表面に亀裂が入っている。まさかとは思ったが、確かに岩に変化が起きていたのだ。一体なぜなのか?理由はこの頭上にあった。



 ガラガラガラ、ガツン!ガラガラガラ、ガツン!
 (そっか!!天井が崩れて落ちてきた岩が、この熱された岩にぶつかってヒビが入っていたんだ!よーし、それなら!!)


 一気に希望が見えてきた。自分を「頑張ってくれ!」と励ます。体力は底を尽いてる状態の為、気力に頼るしか無かった。それでも何とか“ひのこ”のエネルギーをチャージすることは出来た。


 (よし、行け!!がんばれ………!ボクの炎!!)


 息を大きく吸い込み、“ひのこ”を岩に向かって放った。さすがに万全なときと比べると見劣りする火力だけど、例の不思議な力によってだいぶカバーはされている。岩は崩れはしないが、先ほどよりも表面が赤く変色していた。それが冷えきるまでに崩落した点が衝突して更にヒビが出来上がる。


 (やっぱり………!ボクの予想通りだった)


 しかし呑気なことは言ってられない。天井が完全に崩落する前に岩が壊れないと、ボクも一緒に生き埋めになるんだから。


 (………なんとか間に合ってくれ!行け、炎よ!!頼む!)


 気力がどこまで持つかはわからないが、とにかくチャンスを逃すわけにはいかない。ボクは可能な限り“ひのこ”を連発し続けた。


 「このやろう………俺を怒らせたらどうなるか思い知ったか…………」
 「ううう………」


 一方でビリリダマたちの仲間割れには決着がついていた。2匹のうち1匹のビリリダマは仲間からの攻撃でボロボロになっている。ペッと唾を吐き捨てながら、もう一方のビリリダマが言った。


 「てめえみたいな足手まといがいるから、この洞窟を我が物に出来なかったんだよ、俺らは!せっかくマルマインさんが見つけた安息の地をな!誰のおかげでここまで生きてこれたと思ってるんだ!?この裏切りもんが!!」
 (!!?)
 「ぐああああ!!」


 憎しみが再び増してきたのか、自分の仲間に“スピードスター”をぶつけるビリリダマ。客観的に見てもここまでくると仲間割れというより、一方的な制裁にしか感じられなかった。


 (あり得ない………。自分の仲間をここまで傷つけるなんて………っ!?)


 更に信じがたい展開となった。なんと散々制裁を加えたビリリダマが、崩れた天井の隙間から脱出したのだ。ボロボロの仲間が苦しそうに絞り出した声で「待ってくれ………」と言ったのにも関わらず。とどめにそれを冷ややかな笑みで「知るか、そいつらと一緒にくたばりやがれ」と、捨て台詞を残して。それでも何とか仲間は起きあがる。そして後を追おうとしたが、その隙間も次に落下してきた岩で塞がれてしまったのである。


 「…………ぎゃああああああ!!待ってくれーーー!!ここから出してくれーーー!!まだ俺は死にたくない!!待ってくれーー!!」


 仲間に見捨てられた絶望。一気に急接近してきた死への恐怖感からか、彼は明らかに正常じゃない絶叫を発した。


 (見捨てた………!?アッサリと………。あれが仲間にする行動なのか!?ちくしょう!)


 この一連の様子を終始観ていたボクは言葉を失った。岩の下敷きで無ければ、今頃仲間を見捨てたビリリダマに攻撃していただろう。ボクはそれくらい腹立たしさを感じていた。さすがほのおタイプのヒトカゲになってるだけ、カッカするのは早い。


 (こうなったらあのビリリダマも一緒に連れて脱出するぞ!えーい!!)


 次に放った“ひのこ”が突破口になった。熱によって赤く変化した岩に崩落した天井が衝突すると、岩がバキパキと短く鋭い音を立てながら大きな割れ目が出来たのをボクは見逃さなかった。そこの部分を爪を立てて“きりさく”。本来的に岩に物理攻撃の効果はいまひとつなのだが、何度も熱されては冷えて、熱されては冷えての繰り返しで脆くなったその部分は、氷のごとくいともアッサリと粉砕できた。


 (やった!!…………ようやく、ようやく壊すことが出来たぞ!)


 もちろん全てが壊れた訳じゃなかったけど、小さなボクが脱出するためには何も問題なかった。ようやく自由の身となり、急いでコイルたちやビリリダマの元へと向かった。


 「みんなで一緒に脱出してみせる!負けるもんかー!!」


 ボクは叫んだ。体力は既に尽きているハズ。しかし万全な状態のときと素早さなど動きは変わらなかった。いや、むしろそれ以上にも感じる。あの不思議な力のおかげなのか、気持ちが猛火のごとく熱く燃えていた。


 「いっけぇ!!小さな炎よー!!力を貸してくれ!岩を………岩を崩せーーーー!!」


 ボクは何度も跳ね返された岩に、飛びっきりの“ひのこ”………いや、自分の背丈くらいはある火の玉を放ったのである。


  バシャーーーーン!
 「くっそ!!やっぱりダメなのか?一体どうすれば良いんだ?ちっきしょう!」


 結果はダメだった。あれほど気持ちを込めた巨大な“ひのこ”でさえも、出口を塞ぐ岩の前には歯が立たなかった。思わず握りこぶしを作って地面を殴ってしまう。


  ドドドドドドドドドドド!
 (くっそ。もう逃げ場所がない。時間がない!)


 ますます崩落が進む天井や足場。その様子を見ていたコイルたちが怯えた様子で小刻みに体を震わせている。…………あれ、ビリリダマがいない?


 (どこに行ったんだ?)


 ボクは慌てて辺りを見渡す。いくらビリリダマが素早さ自慢の種族とは言っても、あれだけの大きな怪我である。そんな短時間でたくさん移動できるとは到底考えにくい。そんなことを考えてるうち、少し離れた場所から眩しさを感じた。


 (これは………まさか…………!!)


 ボクは嫌な予感がした。そしてそれは的中する。光はビリリダマが放っているものであり、それは“だいばくはつ”の前兆を意味していた。


 「や、やめろおおおおおおーーー!!」



  …………懸命な呼び止めは届かなかった。











  ドッガアアアアアアアアアアアン!!
 「…………!!?ユウキーーー!?」


 その瞬間、私は大声で叫びました。今までとは正反対の方向で、急に爆発が起きたようなのです。外からは洞窟内の様子はわかりません。そのため、ますますユウキやコイルたちのことが心配で心配でたまりませんでした。


 (でも、今の私にはどうすることもできない。ゴメンね、ユウキ………。こんな役に立たないポケモンがあなたの“パートナー”で………)


 ますます自分を責めてしまう私。こんなにユウキが苦しんでるのに、何も出来ないことが悔しくてたまらない。洞窟に背を向けるような形で、いるかいないかわからない神様に向かって、ひたすらユウキの無事をお願いすることしか出来ませんでした。きっとコイルたちの仲間も同じような気持ちだったかもしれません。


 「神様お願い!どうかユウキたちを無事に脱出させてください!また私をユウキと一緒に救助活動させてください!私を………独りぼっちにしないで!お願い!」


 独りぼっちになるのが怖くてたまらなくて、気がついたら私の瞳からはまた涙が溢れてきました。…………そのときです。背後からユウキの声がしたのは。


 「チカ、心配させてゴメン。ケガは無かったかい?怖かっただろう?でもこれで大丈夫だ。ボクはもう離れないから」


 久しぶりに耳に届くユウキの優しい声。それだけでも私の中には安心感が出ました。暗闇の中でポッと温かく灯る炎のように、彼の言葉は不安でいっぱいな私の心を温めてくれたのです。


 「ありがとう、ユウキ。…………でも本当に大丈夫?また無茶してるの………私に隠してたりしてない?…………え!?」


 何気なく彼と会話をしているつもりの私でしたが、途中でおかしな事に気づき、慌てて後ろを振り返りました。そこには…………ずっと会いたかった“彼”がいたのです。


 「…………遅くなってゴメン。ただいま、チカ」
 「ユウキ…………」
 

 小さく首を傾げながらも、ニッコリと優しい笑顔で私たちに語りかけてきたユウキ。もう体にはあちこち傷が出来上がってボロボロでした。しかしその笑顔を見たときの安心感やそして“温もり”が、私の涙となって表現されたのでした。


 「オマエタチモ、モドッテコレテヨカッタナ!………ビビビ!」
 『シンパイカケテワルカッタ………ビビビ!!』
 「キニスルナ!モドッテコレタダケ、ヨカッタンダカラ…………ビビビ!」


 コイルたちもお互い涙ぐみながら、仲間との再会を喜んでいました。しばらくして依頼主が私に話しかけてきたのです。


 「オカゲデタスカッタ。アリガトウ、“メモリーズ”。ビビビ!」
 「わわっ、こんなに!?良いの………?」


 依頼主から渡されたカゴには、500ポケという大金、ダンジョン内で力尽きたときに元気を取り戻せる効果がある“ふっかつのたね”、それから固くて苦味があるけど、やけどに効果がある緑色の“チーゴのみ”という木の実でした。


 「ダイジョウブダ。コレカラモキュウジョカツドウ、ガンバッテクレ………ビビビ!」
 「うん、ありがとう!」
 「コチラコソ。ソレデハ…………ビビビ!」
 「さようなら~!!」


 私は自分と同じくらいのカゴを持ちながらでしたが、手を小刻みに振ってその場から離れていくコイルたちを笑顔で見送り続けました。


 …………ところがユウキはずっと俯いたままでした。どんよりとした曇り空のように、どこか浮かない表情をしたままでした。


 「ユウキ、何か気になってることでもあるの?」
 「チカ。いや………ボク、このまま救助隊出来るのかなって思って」
 「どういうこと?」


 話せば話すほど、ますますユウキの気持ちがわからなくなった私。気まずそうな雰囲気が出てくるなか、彼はポツッと一言だけ言いました。





 「ボクは…………みんなを助けることが出来なかった………」







 「…………え?みんなを助けることが出来なかった?それってどういう意味なの!?」


 予想通り、チカは戸惑いを隠せない様子。仕方ないか。色々あったとはいえ、「“でんじはのどうくつ”からコイルの仲間たちを助ける」という本来の目的を何とか達成したあと…………“メモリーズ”にとっての初仕事を成し遂げたあとに、チームリーダーを任せたボクから予想外の言葉が出てきたのだから。


 「よくわからんないよ、ユウキ!一体洞窟の中で何があったの………あわわわ!?」


 動揺したままのチカが聞いてくる。その拍子でバランスを崩しそうになり、抱えているカゴがぐらついた。急に恥ずかしくなったのか、ちょっぴり赤面したチカ。なんとか持ち直したが、そんな彼女に「そっちが落ち着いてよ………」と、心の中でボヤいたこと、読者のみなさんには内緒にして欲しい。


 話を切り出すタイミングがそびれてしまったが、ボクはチカに洞窟内の出来事を話し始めた。





 「やめろおおおおおおおおおおお!!」


 その瞬間、ボクは叫んだ。ただでさえ洞窟の崩壊だけでも、この場にいる全員が危機的状況。そこに“だいばくはつ”なんてされてしまったら、まず助かる保障は無い。それに…………!


 「ビリリダマ、なぜなんだ!?一緒にボクたちと脱出しようよ!もう誰も仲間はいないんだぞ?それなのになんで………なんで自らを犠牲にするような真似をするんだ!?」


 …………そう。ボクは出来れば彼も一緒にみんなでここから脱出を図りたかった。このままだと彼の最期が仲間にも見捨てられ孤独になった………という惨めな内容になってしまうのだから。せめてここを脱出すれば、厳しい道のりになっても、また新たなチャンスがあるかもしれない。それさえも自ら手離そうとするのがわからなかった。


 …………しかし、彼の口から聞かされたのは意外な想いだった。


 「ケッ………!見捨てられたからいいんだよ!俺はこの下で既に倒れた仲間、逃げたアイツも含めて、この洞窟を散々荒らしちまったんだ!今さら無事に帰ろうなんかムシの良いことなんか、これっぽっちも考えてねぇよ!それに俺が“だいばくはつ”すりゃ、これくらいの岩なんか簡単に壊せる。お前らを生きて帰してやれんだぞ?嬉しくないのか?」
 「ぐ……………!」


 一瞬、彼の言葉に行動するのを躊躇ったボクだったが、すぐにまた気持ちを入れ直す。


 「そんなの………、ちっとも嬉しくないよ!」
 「ケッ、いつまでもキレイごと抜かすヤツだ」
 「あっ……………待て!!ヤバイ、伏せろおおおおおおお!!」


 ボクは彼を説得しようと呼び止めたが、ダメだった。逆に一段と眩しく光ったのを確認して、コイルたちに呼び掛ける。その直後、ものすごい“だいばくはつ”が起きたのだ!!


  ドッガァーーーーーーーーーーン!!
 「ぐわああああああああああ!!」
 「ウワーーーーーーーーーー!!」


 轟音と爆風がボクたちに襲いかかる。土煙が巻き起こり、爆心地だった壁はみるみるうちに崩落する。その影響でバランスを失ったためなのか、ますます天井の崩壊も加速していくのがわかる。このままでは本当にまずいと感じたボクはコイルたちを誘導しながら、壁の穴へと向かう。そこはたっぷりと外からの光が注いでいて、目を開けるのも少々辛く感じた。


 「ヨカッタ…………ビビビ!」
 「タスカッタ…………ビビビ!」
 (ようやく脱出出来る…………。でも、本当にこれで………本当にこれで良かったのか?)


 コイルたちが助かった安心感で歓喜に浸ってる横で、ボクは罪悪感に苛まれていた。もはや背後の景色となった洞窟内。そこにビリリダマの姿は確認出来なかった。苦しそうなうめき声すらしない。恐らくこの“でんじはのどうくつ”にいた他のポケモンたち同様、彼も崩落した壁や天井の下敷きになってそのまま命絶えたかもしれない。


 …………この脱出の代償として、ビリリダマの命が対価となったのだ…………………。



 ……………事実を全て話すと、彼は膝から崩れてしまいました。ずっと耐えていたのでしょう。私にはユウキの気持ちが痛いほど伝わりました。目の前でひとつの命が無くなる辛さは、私自身経験した悲しい思い出でしたから。


 「ユウキ、大丈夫。あなたが悪い訳じゃないから。あなたはむしろ被害者。訳も分からず大切な家族や友だちと離ればなれになって、昨日この世界にやって来ただけだから………」
 「チカー!!チカーー!!」


 なんとか励まそうとして、私がユウキの手を優しく握った瞬間、彼は大泣きしました。それはしばらく続いたのです。よほど辛かったのでしょう。


 …………本当は笑って“メモリーズ”初の仕事を喜びたかった。でもそれは遂に叶うことはなかったのです。


 …………これが私とユウキの二つ目の記憶でした。



         ……………メモリー23へ続く。





 
 




 


 


 




 


 

 




 


  






 
 






 


 









 


 


 







 







 


 




 






 



 



 







 


 
次回で第2章が終わります。

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