君はもう一人やない

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

アイ達は、ジンに貰った地図を見ていた。彼らが言っていた霜解けの小川は、今いる八雲町のすぐ近くにある、銀雪山という山の麓ら辺にあるようだ。しかし、ワカバが言っていたように、そのダンジョンがある場所は、とても気温が低く、今の何も着ていない状態で行くのは、とても危険だとチカは言う。

「その霜解けの小川っていう所は、そんなに寒いん?」
「うん。凍える程寒くはないけど、少なくとも、何も着ないで行くのはよした方がいいかも。」
「でも、私、着れる服なんて持ってないで?」
「大丈夫!僕のを貸してあげる。」
「へっ!?」

アイは、戸惑った。本人は大丈夫でも、アイも花も恥じらうお年頃の少女。流石に男の子の持ち物を、自分が身につけるのは、少し抵抗があった。しかし、服なしでは行けないので、渋々話しに乗った。
今は服は持ってないと言うので、チカの自宅に寄ってから行く事となった。

「本当に行って大丈夫なん?」
「うん。おじいちゃん達も、そうそう気にしないよ。」

アイは、お母さんやお父さんではなく、チカの口から出た、おじいちゃん達という言葉が気になった。聞いてみると、彼は少し言いずらそうにしていた。

「あぁ!別に無理して話さへんくていいからな?」
「ううん。これから一緒にやってくパートナーだもの。話すね。」

チカは少し間を置くと、話し始めた。

「僕のお父さんはね、まだ僕が小さい頃に交通事故で亡くなってるんだ。」














ーーーーー
僕はその頃は、まだ小さかったから、覚えてないんだけど……僕は、お父さんの顔を知らない。その後は、お母さんが女手一つで、僕を育ててくれた。

「チカ、ご飯出来たよ!」
「はーい!」

特に不自由なく暮らせてた。近所の人達も、僕達に親切にしてくれて。学校でも、先生達や同級生が気遣ってくれて。

「チカ、母さんがこれ、お前に渡してくれって。」
「えっ!?いいの?」
「おう。何か作りすぎたから、お前に渡してくれって。」

よく、同級生達がお母さん達が、おかずとか作りすぎた時に、渡しに来てくれてたよ。いじめも起きなかったしね。でも……お母さん、頑張りすぎちゃったのかな……。去年、僕が13歳になった年に、よく体調を崩すようになって。

「お母さん、大丈夫?」
「えっ、ああ……大丈夫よ……」

お母さん、いつも大丈夫大丈夫言ってたけど、たぶん大丈夫じゃなかったんだろうね……。僕、心配になって、おじいちゃん達に頼んで、病院まで連れていって貰ったんだ。そしたら案の定、病気だった。僕、その時信じられなくて……たぶんぼぉーとしてたのかな……担当のお医者さんが言ってる事、一言も耳に入らなかった。でも、これだけは入ったんだ。

「彼女が生きられるのは、早くて半年、長くて一年でしょう。」

それらは、おじいちゃん達の家に居候させてもらってる。でも、いつまでもおじいちゃん達に頼る訳にはいかないから。
そんな時に、アイに出会ったんだ。君となら立派な祈祷師になれるって僕ってアイ!?

ーーーーー












チカがアイの方を向くと、彼女は泣いていた。その大きく黒色をした澄んだ瞳から、大粒の雫を溢しながら。チカは、ひどく困惑した。

「アイ、どうしたの!?何で君が泣いてるの!?」
「だって……だって……ッ」

僕、何か泣かせるような事したっけ!?チカはそう思いつつも、アイの背中を撫でてやった。アイは涙を拭うと、しゃくりあげなからも言葉を紡いだ。

「チカッ……に、そんなッ……辛い過去があった事しったらッ……ッ」
「僕は気にしてないし、泣かないで?」

チカは、アイの瞳に再び現れる雫を拭う。

「チカ……君はもう一人やない……私の事、いっぱい頼ってや……」

アイは困ったような悲しいような、全ての感情がごちゃ混ぜになったような表情で、チカを見た。彼は、彼女の言葉に、表情に、心がキュッと締め付けられるような感覚に襲われた。

「うん……いっぱい頼らせてもらうね……ッ」

彼はこの日、初めて泣きながら笑った。













「はい!これ着て!」

アイ達は、チカの自宅に到着していた。チカはアイに白いパーカーを渡す。彼女は、渡されたパーカーを羽織った。しかし、持ち主が年頃の男子という事もあって、アイには少しサイズが大きかったようだ。チカも、薄い赤色のパーカーを羽織る。

「じゃあ、霜解けの小川に出発!」
「おー!」
「ちょっと待ちなさい。」

後ろから声を掛けられた。振り向くと、リザードンが立っていた。男性の声で、普通より背が低く、腰が少し曲がっている事から、チカのおじいさんという事が伺えた。

「おじいちゃん。」
「チカと……」
「アイです。」
「アイちゃんだね。二人共、これを持っていきなさい。」

おじいさんが渡してくれたのは、オレンの実、十個と、ヒメリの実が五個、そして、二つのふっかつの種だった。

「いいんですか?」
「ああ、いいんだよ。ワカバちゃんの家族の方々には、お世話になっているからね。二人共、気をつけて行ってくるんだよ。」
「「うん。/はい。」」

アイは改めて、この世界のポケモン達は優しいなぁと思った。
















「これが、初雪の花……」

アイ達は、ジンから渡された初雪の花の写真を見ていた。それはまさに初雪と言える程に白い色をしていた。
彼らは、霜解けの小川にたどり着いていた。まだ、周辺に雪が少し残っている。

「小川の周辺に咲いているはずだから、早く探して持ってってあげよ。」
「うん。」

二人は、小川周辺を隈なく探す。雪をどかして、手が悴んでも、彼らは作業を止めなかった。ワカバの母親の為に、薬草を見つけ出す事しか考えていなかった。
そして、アイは見つけた。

「んっ?チカ、何かある!」

アイは、それを隠している雪をどかしていく。
そして、それは露わになった。それは紛れもなく、初雪の花だった。

「アイ、お手柄だよ!見つけたんだよ、僕ら!」
「えっ?私、見つけたん?……やっやったぁァァァァ!」

二人はハイタッチして喜んだ。
しかし、その幸福は束の間だった。なんと、彼らの前に、先程までいなかったはずの、ケガレに憑かれたゆきぐにポケモンのユキノメコが立っていたのだ。ユキノメコは、体から黒い靄のような物を放ちながら、虚ろな目でこちらを見つめている。これはマズイと、二人は思った。祈祷師になり、ケガレと戦う術は手に入れたが、自分達はなりたてホヤホヤの新米祈祷師だ。果たして、このケガレの相手が務まるのだろうか。

「チカ、やろう。」
「えっ?」

そう言って前に出たのは、アイだった。

「今は、戦うしかないんや!」
「ッ!」

そう言われても、やはり後ずさってしまう。やっぱり自分は臆病だ。女の子より怖がって、本当に情けない。でも……僕は変わりたいんだ!その為に、アイと一緒に祈祷師になったんだ!!

「……うん、戦おう!もう、大丈夫!」
「そうこなくっちゃ!」

二人は、自分の武器を召喚する。すると、その武器に反応するように、ケガレが猛スピードで向かってくる。アイは、チカの前に出ると、叫んだ。

「防!」

すると、二人の前に、薄桃色のバリアが出来上がる。ケガレはそれに弾かれ、向こうに飛ばされた。しかし、ケガレはすぐに起き上がり、こちらに迫ってくる。アイはすかさず、次の攻撃に移る。

天日てんぴ!」

彼女がそう叫ぶと、眩しい程の光が、ケガレに向けて放たれる。ケガレが眩しがっているのをいい事に、チカが畳み掛けるように攻撃する。

星月夜ほしづきよ!」

彼が光の矢を放つと、一つだった矢が、何本にも分かれていき、数十本の矢がケガレに襲いかかった。流石にこれには堪えたらしい。ケガレは立ち上がれない程になっていた。すると、二人の武器から、精霊達が出てきた。それらは、アイ達の頭上で大きくなっていく。そして、十分な大きさに達した時、二人は叫んだ。

「光輝燦爛!」

彼らが叫んだ瞬間、精霊達は急降下し、ケガレを貫いた。精霊達は戻ってくると、また掌サイズに戻り、武器の中に入っていった。
前を見ると、ユキノメコが倒れていた。もう、黒い靄は出ていないので、大丈夫だろう。アイ達は、ユキノメコを揺さぶる。ユキノメコは、案外すぐに気がつき、お礼を言って帰っていった。
ユキノメコがいなくなると同時に、チカはアイに抱きついた。突然の事でアイは動揺したが、すぐに正気に戻った。何故なら、彼が泣いているからだった。

「怖かった……ッ」

彼は、ケガレが怖かったのではない。折角出来た友達を失う事が、とてつもなく怖かったのだ。あんな過去があるのだもの。アイは、優しく囁くように言った。

「大丈夫。私は、何処にも行ったりしいひん。ずっと、チカの側におるから……」
「うんッ……うんッ……」

アイはチカが泣き止むまで、そのままでいた。
チカの悲しみが舞い散る桜に乗って、旅立つまで……

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