第122話 赤色と金色たち

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 カントー地方にある小さな街、マサラタウンのレッド宅にマイはいた。レッドの自室のベッドの上に体育座りで身体を小さくさせて彼の話に耳を傾けている。

「俺とイエローがピカチュウに覚えてもらった究極技の名前は"ボルテッカー"って言ってな?」
「ほえー……キューキョクワザ?」

 部屋の主であるレッドはというと、ベッド際の床にひいてあるカーペットに胡坐を掻いて座りこんでいる。手の届く範囲にあるテーブルの上にはポケモンバトルの関連雑誌が何冊も置いてあり、その一冊をマイに渡してページを指定して見せた。
 電気タイプの究極技「ボルテッカー」とデカデカ書かれたページにマイの大きなどんぐり眼が注目していた。

「う~ん。そんな反応か~。マイのピカチュウにもこの技を教えてやれば大会で有利になるんじゃないかなって思ったんだけど、どうかな?」
「それってズルじゃないですか?」
「へ?」
「究極技って裏技みたいじゃないですか!」

 期待していた反応よりも小さかったマイにがっかりして肩を落とす。しかも、それに続けと「ズル」呼ばわりされてしまって気の抜けた声まで出る始末。

「たはは~。でもさ、究極技ってポケモンは勿論、トレーナーの相当な努力なしじゃ成り立たないんだぜ? だから、ズルじゃないと俺は思うよ」
「そっか……。じゃあ、流星群も大丈夫か……」
「流星群ってドラゴンタイプの究極技だったか? マイのカイリュー、あれ出来るのか~!」
「まだ成功した事は一回しかないですけど……」

 それでも先輩として面目を守るため顔を上げて苦笑い。それでも、言葉が猫のように柔らかい口調。
 マイは独り言のように「流星群」と呟いたが、聞き逃さずに鋭くなった赤い瞳を向け、顔を合わせるといつものように気のいい優しい瞳に戻る。そんなレッドに申し訳ないと言わんばかりに身体をさらに小さく曲げながら、右腕を見つめるマイにまたレッドが言う。
 
「右腕に何かあるのか?」
「えっ……ま、まあちょっと痺れると言うか、そのちょっとの間だけ感覚がなくなるって言うか……その時だけ、なんですけど」

 ゴールドにすら相談できなかった事なのに、レッドには素直に伝えてしまった事実に目をパチクリさせる。それからゆっくりと喉に何か詰まったかのように途切れ途切れ話す。

「うーん、そっか。俺の場合は痛みも何もなかったけどなー。ドラゴンタイプっつーくらいだから大変なんだろうな。俺は育てる者じゃないからコレってアドバイスが出来ないけど、むやみに使わない方がいいかもしれないな」

「レッド先輩……ぼんやりさんかと思ってたけど以外と考えてるんですね」

 かつての自分を思い出しているのか天井を見上げるレッド。そんな姿にマイは裏表のない台詞を放つと顔が天井からマイに向かって異常なスピードで向いてきた。

「むむ……ゴールドの言う通りマイは言葉に毒があるな~。あ、そうだ。ボルテッカーなら痛みとかもないし、俺でも教えれるから練習するか? この絶縁グローブ貸してやるよ」
 
 その顔は決して怒っているとかではなくて、心を開いてくれた子供に嬉しそうな大人の顔にも見えた。その顔のまま自分の手に付けていたグローブを脱ぎ、マイに手渡す。

「何を言ってるんだろうゴールド! え、と言うか、ぜつえんぐろーぶ?」
「電気を通さない手袋って感じかな?」
「へぇ~! ありがたく使わせてもらいます!」
 
 絶縁グローブを貰ったマイが自分の手に嵌めると大きいのか手首に向かってぐいぐい引っ張る。簡単な説明にマイはため息に近い声を出し、礼を述べる。

(はは、ゴールドと同じ事言ってる……)
「さっそく特訓と行きますか! レッド先輩!」

 バネのように跳ね上がったマイに合わせるようにレッドも立ち上がる。

「おう! シロガネ山と行きたい所だけど強力な野生がいるからなぁ。チャンピオンロードとかだったらいいかな」
「チャンピオンロード! なんだか強そうですね!」 

 特訓に少し興奮しているらしいレッドは夢中で階段を降りる。マイも二段飛び、三段跳びくらいで階段を降りる。その勢いで玄関の扉を開けるとレッドは急ブレーキをかけたため気づかずにマイは背中に鼻をぶつける。
 
「いてて、レッド先輩、急に止まらないでくださ――」 

 レッドの前にいたのはゴールドで。それはまるで、そびえ立つ壁、否、グレン火山のように思える。胸に無言の圧力を加えられたかのようにマイは警戒しながらずるずる後ずさりする。

「レッド先輩」
「ハイッ!」 

 たった一言名前を呼ばれただけなのに、ぞっとする程低い、押しこもった声にレッドは肩を上げて返事を返す。 

「マイをどこに連れて行く気っすか?」
「ちゃ、チャンピオンロード……」
「そこ、強い奴らばっかりがいるんでしたよね? そこ、連れて行くんすか?」
「ウ、ウン……」

 風向きが悪い。どうやらゴールドの逆鱗に触れたようだ。

「でもでもゴールドあのねレッド先輩て強いんだよ? だから大丈夫だよ~!」
「あのなァ!」
「ハイィッ!」 

 怯えきって何も言えなくなったレッドから顔を出したマイの顔は青白い。それを更に追い込ませるようにゴールドは歩きながら靴を脱ぎ、マイを壁へと追い上げた。
 
「お前が旅に出たいっつった時も俺、反対したよなァ!? なんで反対したか覚えてるか? 覚えてねぇだろ! お前が危ない目に合うかと思ったから反対したんだよ! 分かってんのか!?」
「あ……う……ごめんなさい……」

 一年前の話を思い出させるような雰囲気。あの時も壁に追いやってマイをこうして脅迫じみた事をした。それがまた繰り返された。
 右腕を壁につけて、余った左手でマイのおでこを何度も突く。
 
「俺を……これ以上……置いて行くなよ」
「ゴールド?」

 頭から煙が出そうなマイが聞いた言葉は意外な言葉。怒りに声を震わせていたと思い込んでいたが、泣き出しそうな切実な声にマイは何度も瞬きをする。 

「レッド先輩に技を教えてもらうのは結構だけど、俺も連れて行け! いいな?」

 何も言わなくなったレッドにも聞こえるように壁に手を付けたまま顔だけをレッドに向けてゴールドは言う。敬語がなくなったがそんな事にも気づかないレッドはまた「はい」とだけ答えた。
 
「じゃ、じゃあ三人でチャンピオンロードにレッツゴー!」
「おーっ!」

 動くことができなくなる程恐ろしいゴールドを見てレッドは聞こえないようにマイに「お前、あれを手懐けてたんだな……」と心底感した声で言ったそうな。


(というかなんでゴールドはここにいるって分かったんだろ……)

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