50話 炎の試練

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お爺ちゃんイーブイと別れた後、ハルキ達は言われた通り遊覧船に乗った。
あのイーブイの話した通り、遊覧船は1つの小島に約1時間停泊したあと、次の小島を目指す事になっていて、順路は西→北→東→南東→南西という順路で巡った後、本島に戻る事になっている。
試練があると言われたのは北、南東、南西、この3つの小島だ。
最後は移動時間があるとはいえ、連戦状態になる。
試練の内容がどんなものかわからない以上、僕達がヒビキをどれだけ上手にサポートできるのかも重要になってきそうだ。
そんなヒビキはというと、遊覧船が出港してから、顔を強張らせて露骨に緊張しているのが見てとれる状態であった。

「大丈夫だって! ヒビキならできるよ。 それに言っただろ? お前はひとりぼっちじゃない。 今こそ俺達を頼ってくれよ 」
「アイト君...」
「そうだよ。 それに、最初につく島は試練とは関係ないんだ。 少しは肩の力を抜いてもいいと思うよ」
「リラックスだよー! ヒビキー!」

ヒカリが深呼吸するように促すと、ヒビキは深く息を吸い、そして吐き出す。

「...みんなありがとうです! せっかく観光で来てるんですもんね! 楽しまないと損です!」

笑顔で答えたヒビキの表情から強張りは消え、多少緊張をほぐすことはできたみたいだ。
ヒビキの言うとおり、僕達は休みをもらって観光に来ている。
余計な心配をせず、楽しむことも重要だ。
そんなこんなで、最初の停泊地である西の小島についた。
降りてみると、ビーチで貝殻を拾っているポケモンや写真を撮っているポケモンもいた。
というか、この世界に写真撮れるカメラって存在したんだ....

「せっかくだし少し探索しないか? 1時間も船の付近にいても仕方ないし」
「そうだね。 こうして遊覧船で巡っているわけだし、ヒビキの言った通り、僕たちは観光で来てるんだから、まず楽しまないとね!」

というわけで、島をぐるっと1周することにした。
広く続くビーチ、小さな入江。 そんな光景を横目に歩いていくと、ちょっとした丘の上に謎の石碑が置いてあった。
何か書いてあるが劣化が激しいのと、知らない言語のためわからなかったが、「こういう観光スポットにはありがちな、よくある意味深なオブジェだろ」とアイトが言っていたので、それもそうだなと思った。
そんなこんなで西の小島をアッサリと見終わった僕達は、遊覧船に戻ると、試練があると言われる北の小島に向かった。
北の小島につくまで時間があるので、今のうちに情報を整理しようと、みんなで話し合うことにした僕達はパラソルベンチに座った。

「まあ小島って事もあって、脇目も降らずに歩けば、1時間どころか30分ぐらいで1周できちゃうな」
「でも、試練を受けるヒビキからしたら少しでも時間に余裕が持てた方がいいし、簡単に見て回れるのは単純に好都合だよ」
「そうだねー。 どんな内容かもわからないって、さっきのイーブイも言ってたし、時間がかかるかもしれないと考えればいいことだよー」
「ハルキとヒカリの言うとおりだな。 それに島のどこに試練を受ける場所があるかわかんねぇしなー」
「あっ、その心配なら無用だよー!」

そう言うとヒカリは鞄から1枚のメモを取り出した。
そのメモには
[試練は入江にある洞窟内の最新部で行われる]
と書いてあった。
おそらく、僕らより後にイーブイの家からヒカリは出てきたので、その時に手渡されたのだろう。

「よし! なら、次に上陸する北の島ではまっすぐに入江を目指すぞ! それでいいよな? ヒビキ! ......ヒビキ?」
「あっ、は、はいです!」

全く会話に加わってこないヒビキを見ると、耳をピンと立てて、ガチガチになっていた。
先程も緊張していたのを一旦は落ち着かせたとはいえ、ヒビキの性格からして、緊張するなと言う方が無理なのかもしれない。
なんとか試練の前にヒビキの気負いを取り除かないとな。
ハルキはアイトに視線を向け、アイトはハルキの意図を汲み取り無言で頷くと、努めて明るい声色でヒビキに話しかけた。

「そんなに心配するな! 俺達も手伝うし、それに、これはヒビキだけの試練じゃない」
「わたしだけの試練じゃない...です?」
「そう。 これは、俺達チームスカイにとっての試練でもある。 そうだろ、ハルキ?」
「そうだね。 試練の内容次第じゃ僕達も協力できるかもしれない。 それに....」
「ヒビキは私達の友達だもん! 1匹で背負えない時でも、みんなで分け合う事ができる。 それが友達のいいところだよ!」
「そういうこと。 だから、試練なんて言葉の重みに気負いしないで、ヒビキはいつも通りにしてればいいんだよ」
「みんな......そうですね...。 わたしは1匹じゃない....ありがとうです!」

こうしてヒビキを励ましている間に船は北の小島に辿り着き、僕達はヒカリが教えてくれたメモ通りに、入江の洞窟に向かった。

「洞窟見つけて、中に入ったのはいいけどよー。 すぐに行き止まりってどういうことだよ」

洞窟につくや否やアイトがぼやいた。
観光ポケモンもすぐに行き止まりだと知っているのか、洞窟に入ろうとしてくる者は1匹もいなかった。

「ジュエルペンダントは魔法道具。 魔法が関係しているはずだから、何かカラクリがあると思うんだけど...」
「あっ、みんな来て! ここの地面に星の模様があるよ!」

ヒカリに言われて、その場に駆け寄ると確かに地面に星の模様が描いてある。
それも、ちょうど僕達のような小さなポケモンが1匹入れる位の大きさだ。



(「この世界の魔法道具には、共通して星のマークが刻まれているんです」)
(「簡単に説明しますと結界魔法は魔法の中で唯一、個人識別機能を付与できる魔法なんです」)



って、マジカルズのイオが言っていた。それに、あの『イーブイ』は、ヒビキをペンダントに選ばれたと表現していた。
それならば、この模様が結界魔法の1種である可能性も考慮していいだろう。

「ヒビキ、試しにこの星の上に乗ってみて」
「わ、わかったです」

ヒビキは恐る恐る、地面に描かれた星の模様の上に乗った。
すると、予想通りと言うべきか地面の星が青く輝き始めると、行き止まりだと思っていた目の前の壁が音をたてながら左右にスライドしていくように開いた。

「うっわ! すっげぇー、大がかりな仕掛け」
「予想していたとはいえ、どんな仕組みなんだろう」
「なんかビックリしすぎて、うまく言葉がでないです...」
「何はともあれ、これで先に進めるね! みんな行くよー」

僕達が呆気にとられている中、ヒカリは開いた入り口から中に入って行ってしまったので、僕達も慌てて後を追いかけた。
中に全員が入りきると、それを待っていたかのように入り口が音をたてながら閉まり、同時に辺りはオレンジの色の光で照らされた。
まるでライトアップされてるような感覚だが、これも魔法の1種なのだろうか?
そんな事を考えていると、どこからともなく声が聞こえた。

『よく来たな。 ペンダントに選ばれし者よ。 ここは炎の試練。 君にこの試練を受ける覚悟はあるか?』
「......わたし1匹だったらあるなんて言えないです。 ....でも、今のわたしには、仲間が...友達が一緒にいてくれるです! 友達の前で試練を受ける覚悟がないなんて..言えないです!!」
『へぇ...面白い。 なら、その覚悟! 見せてもらおうか!』

謎の声がそう言いきると同時に突如、地面から厚さ1メートル程ある星の模様が描かれた正方形の壁が出てきた。

『ルールは簡単だ。 君のその胸に宿る熱いハートでこの壁を砕いて見せろ!!』
「えっ..まさかの力押し...?」
「試練とか大それた事、言っておきながら何の捻りもねぇなぁ...」

試練の内容が、まさかただ壁を破壊するだけとは思ってなかったハルキとアイトは呆れた表情をするしかなった。
もしかして、試練を1つの壁として見立てているのかもしれないが、それにしても安直すぎる。

『う、うるさい! これが炎の試練なんだ! さあ、わかったのならこの壁に熱いハートをぶつけるがいい!』
「ヒビキ! なんか簡単そうな内容だぞ! サクッと壊しちまえ!」
「は、はい! 行くです! 『とっしん』!」

ヒビキが助走をつけて、壁めがけて思いきり『とっしん』をぶつけた。
しかし、壁には傷1つつかず、びくともしなかった。

「もう1度、です!」

ヒビキが再び『とっしん』をぶつけるが、結果は先程と変わらなかった。
それならばと、今度は『スピードスター』を放つが、やはりと言うべきか、壁は何事もなかったかのようにそびえ立っていた。

「あの壁...普通の壁じゃないな」
『その通り! あの壁はある条件をクリアしないと壊せない仕組みになっているのさ!』

謎の声が自慢げに僕の呟きに答えてくれた。
条件か....それがわからないことには無駄に体力を消耗していくだけだな。

「1つ質問していいですか?」
『なんだ?』
「僕達がヒビキに助言するのは...」
『それはダメだ。 これは自分で気づかないと意味がないことだからな!』
「じゃあ、私達があの壁に技をぶつけたりするのはいいよねー? だって、条件満たしてないと壊れないんでしょー?」
『......まあ、それぐらいならいいだろう。 よし、それは認める!』
「ありがとー!」

ヒカリが謎の声にお礼を言うと僕とアイトにしか聞こえないぐらいの小声で話す。

「つまり、私達が条件を解明して、それをヒビキに言葉以外の方法で伝えればいいってことだよね」
「今の話を聞く限りだとそうだな」
「まずは条件を解明しないと...。 ここまで見ていて何か気づいたことある?」

ハルキ達は、相変わらず傷が一切つかない壁に攻撃をするヒビキを横目にしつつ、会話を続ける。

「俺はあの壁が半端ない強度って事しか...」
「まあ、見ただけだとそうだよねー」
「きっと何かヒントがあるはずだよ。 試練の説明をしてくれる謎の声も言ってただろ? 自分で気づかないと意味がないって。 つまり、気づけるようになっているはずだと思うんだ」
「それなら説明してくれた内容に含まれてそうだよねー」
「確かに、シンプルな内容な試練だからな。 答えを潜ませたりしているかもしれないな」

アイトの仮説通りなら、きっと、答えは分かりやすく混ざっているはずだ。
今まであの声はなんて言っていた?
ハルキは先程から話しかけてきていた謎の声が言った言葉を思い出してく。

「........あっ。 わかったかもしれない」
「本当か!?」

アイトの問いかけに無言で頷く。
僕はアイトとヒカリに予想した答えを話す。

「いや、まあ、ハルキの言い分もわかるし納得もできる。 でも、そんな事でいいのか?」
「確証はないけど、今までの経験からして、この世界だと僕達がいた世界よりも重要視されてると思うんだ」
「うん。 ハルキの言う通りだよ。 この世界――ファンドモストでは、君達がいた人間の世界以上にあの力は強く反映されるからね。 まあ、その事実を知らないポケモンのが今となっちゃ多いけどねー。 あははー」

ヒカリが笑いながら教えてくれた情報からして、どうやら僕の考えは間違ってなさそうだ。

「あとはこの事をどうやってヒビキに伝えるか...」
「そういうことなら俺に任せろ! ほのおタイプの俺が適任のはずだろ?」
「....確かにそうだね。 任せたよ! アイト!」
「おうよ!」

こうして、アイトはハルキ達が考えたこの試練の突破方法を、直接的な表現を避けつつ、ヒビキに伝えるためヒビキの元に向かった。

「はぁ..はぁ...、あっ、アイト君。 どうしたです?」

度重なる技の連発に息の上がっているヒビキはアイトが近づいてくるのに気づくと、攻撃をやめてアイトの方に視線を向ける。

「ヒビキ....俺達は直接、口頭ではお前に助言ができない。 だから、今から俺のやる動きをよく見て、察してくれ」

アイトの言葉にヒビキは頷くと、アイトは目の前にそびえ立つ壁に視線を向ける。
ヒビキの攻撃を何度も受けていたとは思えないほど、表面に傷は一切ついていない新品同然のその壁。
おそらく俺の攻撃でも傷がつくか怪しいところだろう。
だが、今回はヒビキのヒントになればいい。
アイトは左手を自分の胸に当て、右手を握りしめ、目を閉じる。
そして、徐々に握りしめていた右手の拳に炎を纏わせ始める。
そんなアイトの姿をヒビキは真剣に見つめる。
右手に宿った炎が一際大きくなった瞬間、アイトはゆっくりと目を開け、「うおおおおおおッ!」と叫びながら駆け出すと、目の前の壁に『ほのおのパンチ』を思いきりぶつけた。
『ほのおのパンチ』を正面から受け止めた壁は砕けこそしないが、アイトの拳がぶつかった場所に大きな亀裂が入っていた。
アイトは壁に背を向け、ヒビキの元までゆっくりと歩き、隣で1度立ち止まると、視線を合わさずに一言口にした。

「ヒビキ...わかったよな?」
「はい! ちゃんと伝わったです!」

アイトの問いかけにヒビキも視線を合わせず、目の前の壁をただ見つめながら迷いのない返事をした。
その答えにアイトは満足そうに微笑みながらヒビキの頭をそっと撫でて、後ろで様子を見ているハルキ達の元まで戻っていった。
アイトが去った後、ヒビキは深呼吸を1つすると先程の光景を頭に浮かべながら目を閉じた。

(まず、ハルキ君でもヒカリちゃんでもなく、アイト君がわたしにヒントをくれる役を引き受けたこと。
アイト君が技を繰り出す前にしていた所作の意味。
そして、試練の説明をしてくれた謎の声さんの言葉...)

ヒビキは目を開け、大きく息を吸い込むと、その息を気合いを込めた叫び声として外に放出し、壁に向かって駆け出した。

「うわああああああああああああッ! 『すてみ、タックルウウウゥッ』!!」

壁にヒビキがぶつかった瞬間、凄まじい音が辺りに響き渡り、砂煙を巻き起こした。
そして、砂煙が晴れた時、先程までは壊れる気配のなかった目の前の壁が粉々に砕け散っていた。

「や、やりましたあ~」
「ヒビキィッ! やったなああ!」

全力を出しきって、その場にへたり込んだヒビキにアイト達が駆け寄る。

「お疲れ様。 すごかったよ!」
「ほんと! 見てるこっちまで熱気が伝わってきたよー」
「みんなありがとうです!!」

みんなに囲まれて、満面の笑顔を浮かべるヒビキ。
そこに謎の声が話しかけてきた。

『よくぞこの試練を突破した。 お前の熱いハート、見せてもらった!』
「やっぱり、熱い思いを込めた技をぶつけることが条件だったか」

ハルキはここの試練が炎の試練である事と、やたら熱い心(ハート)と言っていたのが印象に残っていたので、もしかしたら自分の使う思いを込めた『きあいパンチ』のように、技に熱い思いを込めるのではないか?
と推測したが、結果は大当たりだったようだ。

『その通り! 炎の試練には熱く響くハートを見せてもらう必要が合ったのさ! 君が砕いたあの壁も魔法道具の1種でね。 熱いハートを込めた一撃でないと壊れないようにしてあるんだ! まあ、試練の資格を持たない、そこのヒコザル君にヒビを入れられたのは計算外だったけどね』
「まあ、俺だってちゃんと思いを込めたからな! 逆にあれでうんともすんともしなかったら、少しへこむわ!」
『まあ、おしゃべりはこの辺にして、試練を突破した君へのプレゼントだ。 受け取りな!』

声がそう言うと同時にどこからともなく赤い宝石がヒビキの目の前に現れた。
空中に浮く、丸い宝石はヒビキが首から下げている【ジュエルペンダント】同様、星の模様が宝石内部に刻まれており、不思議な輝きを放ちながら、【ジュエルペンダント】の中に吸い込まれていった。

『その宝石の名前はルビー。 これから君の助けになってくれる。 さあ、炎の試練は終わりだ。 船が出港する前に早く戻りな』

声がそう言うと入ってきた入り口の扉が再びすさまじい音を立てながら開いた。

「やばっ! そういや結構、時間経ってた!」
「そうだね、みんな急ごう!」
「あ、あの...ありがとうございましたです!」
「またねー」

ハルキ達が全員洞窟内から出ていくと同時に試練が行われた入り口は再び閉まり、元の壁となった。

『さて、順番的に次はあの試練か。 期待してるぞ、俺の子孫!』
試練と言えば何か!→試練と言えばそこに立ちふさがる困難な壁→壁壊せばよくない?
という作者の安直な発想から生まれたこの試練。
思ったよりこの世界の事情に少し触れていたりと、当初考えていたモノより無駄に深堀されました(笑)

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