第6話 謀を帷幄の中に運らし勝つことを千里の外に決す

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 僕がスパルタさんの修行を乗り越え、舞い込んできた新たな仕事は、水レンジャーのメンバー、ターコイズさんとかつて水レンジャーが壊滅された改造技マシンを製造していた会社に勤めていた従業員の暴動を鎮圧せよ、との事だった。
 そんな中、僕はターコイズさんに呼び出されたとある店で手持ち無沙汰になりながら待ち惚けていた。何故水レンジャーの基地とも言える喫茶店ラーバリーではないのだろうか、とそんな事を考えながら暇を潰していると、ふと僕の背後に座る客の会話が耳に入った。

「なあ、聞いたか? 今夜決行の……」
「ああ、あれだろ? ルーブルさんが言ってた……」

 背後の客は、僕に気付く様子もなく、ヒソヒソと小さな声で話している。店内は騒がしい、余程耳を傾けない限り、彼等の話は聞こえないだろう。ルーブル、その言葉に彼等が改造技マシンの製造していた会社の元従業員である事を理解した。ルーブルというポケモンの名前は事前に知っていたし、そいつが暴動の中心である事も把握済みだ。一応、自身の存在を透明(姿は見えるけど、気配が限りなく薄い状態)にして、彼等の話を聞く。

「確か、中央公園でデモを起こすんだよな」
「お前は参加するのか?」
「あたりめーよ、俺達被害者だぜ。デモの一つや二つ起こしてもしょうがねえっつーの」

 被害者、一体どういう事だろうか。彼等は改造技マシンの製造や販売をしていた訳で、完全なる加害者ではないか。自身の悪行を棚に上げたその発言に、若干の憤りを感じながらも僕は耳を傾けながら、ターコイズさんを待っていた。

「己自身が正しいと感じている時、過ちに気付かない」
「…………うわあっ!?!?」

 ふと、前に目を向けるとそこには眠そうな顔をしたミズゴロウがいた。話によると、彼がターコイズさんの筈だけど……

「結局の話、正義というのは独り善がりなんだ。その正義が自主的なものであれ営利的なものであれ突発的なものであれ計画的なものであれ事務的なものであれ大衆的なものであれ革命的なものであれ前衛的なものであれ国家的なものであれ名目的なものであれ理知的なものであれ一時的なものであれ…………そいつだけの正義にしか過ぎない」

 ターコイズさんは一切僕に目を向けず、紅茶をぐるぐるとティースプーンでかき混ぜながら、つらつらと語る。

「僕達は水レンジャーと呼ばれ、正義の一員として活動をしているが、しかしどう足掻いてもある者から見れば僕達が悪になる。今回の例がそうだ、僕達は改造技マシンの流通を阻止すべくメンバー総動員で製造元を潰した。側から見れば良い事、だろう。しかし、残念ながら改造技マシンを製造していた会社の従業員の中には、本当に何も知らない者もいた。ルーブルもその一匹だ。考えてみて欲しい、ある日突然自身が務める会社が悪事を働いていた事を知り、そして一日して全て消え去っていた何も知らなかった者の気持ちを。その怒りをどこへぶつければ良いのか、会社か? それとも潰した僕達にか? どちらにせよ、その者からしたら僕達は悪なんだ。理屈では分かっていても、感情がそれを拒む、よくある事だ。つまるところ、僕達がすべき今回の仕事は暴動の鎮圧、なんかではない。残念ながら彼等にとって僕達は“悪”だ。そんな僕達が彼等の暴走を止めた所で更なる確執を生むだけだ。ならば僕達のすることは一体なんだろうか?」
「えっと……その……」

 矢継ぎ早に繰り出される言葉の弾丸に対処出来ず、僕は言葉に詰まる。そんな僕に対して、ターコイズさんは変わらず紅茶をかき混ぜ続け、そこでようやく目線を僕にへと向けた。

「スパルタに何を聞いたか知らないけれど、君が望む様な、あるいはスパルタが考える様な争い事は僕は極力避けたい。というより避けるべき手段だ。それは何故か、先に語った通り彼等は彼等なりの正義で動いている。ただ普通に生きていただけなのに突然の暴力で職を失った。それに対して僕達はまた暴力で解決するのか? それが本当に解決と呼べるのか? いいや、違うね。僕達がすべき行動は決して暴力による鎮圧なんかじゃない。話し合いによる鎮圧だ」
「……和平交渉、みたいなものですか?」
「少し違うかな。そもそも僕達と彼等に何か争いがあった訳ではない。加えて彼等は今少し過剰にはなってはいるが、彼等の怒りの矛先は改造技マシンを作っていながらもそれを黙認していた経営陣に向けられている。僕達が“正義”である以上、するべき事はまず彼等の怒りに共感する事だ。その上で、彼等が納得する様な“策”を提供する」
「策?」

 僕の問いには答えず、ターコイズさんは席を立ち、店の出口へと歩を進めた。その行動に戸惑いながらも、僕はターコイズさんの後をついていった。



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 ターコイズさんの言う“策”が何なのか分からないまま、僕はターコイズさんに連れられるがまま到着した場所は、廃れたビルの一室だった。誰も利用してなさそうで、誰も寄り付かなさそうな、密談には向いてそうな場所だ。

「それで、ここで何を?」
「呼び出したんだよ、彼等のリーダー、ルーブルとやらをね」
「えっ、呼び出した!? どうやってですか!?」
「まぁ……そこは色々とだよ。説明すると長くなる」

 詳しく説明する気は毛頭無いらしく(仮に詳しく説明してもらったとしても恐らくターコイズさんの説明は冗長なものだと思う)ターコイズさんは目を瞑った。
 沈黙の時はそう長くは続かなかった。何者かが部屋の扉をノックしたのだ。

「どうぞ」

 目を瞑っていたターコイズさんはその音で目を開け、ただ一言そう言った。
 その言葉に反応して、部屋の扉がゆっくりと開く。そして、開かれた扉からは部屋の様子を伺うように慎重にルチャブルが入ってきた。

「心配せずとも、我々は敵ではありません」
「……どうだかな」
「信用出来ないのも無理はありません。しかし、こちらに来ていただいたという事は我々の話を聞こうという意志がある、という事でよろしいですね? どうぞ席にお着き下さい、ルーブルさん」

 ルーブルと呼ばれたルチャブルは、まだ少しの警戒を残しながらも、ターコイズさんに相対するように席に着く。そんなルーブルさんに対して、ターコイズさんは警戒を解くかのように、先程僕と話してた時とは打って変わって柔和な笑みを浮かべ、ファイリングされた書類を取り出した。

「…………これは?」
「こちらは貴方が勤めていた会社が行なっていた改造技マシンの販売元ですね」
「どうしてお前がこんなものを……?」
「私達は、貴方達の会社を爆破した者の一味です」
「…………!!」

 ルーブルさんの眉が動く。そして、書類を手に取りパラパラと目を通す。

「……いくつかは、俺も一緒に仕事した事がある会社だな」
「ええ、我々はとある情報網から改造技マシンの製造元が、貴方が元勤めていた会社だと突き止め、それを阻止すべく動いていたんです」
「それが、あの爆破事件と繋がるって訳か? そういえば上の方に重役しか入れねえ階があったな」
「そこには、改造技マシンの製造方法等の情報が保管されたサーバーがあり、それを無力化する事が一つの目標だったのです」
「成る程な、お前達はお前達の正義で動いていたって訳か。だが、俺達はそのお前達の正義のせいで職がなくなったんだがな?」

 その目に怒りを込めて、ルーブルさんはターコイズさんを睨み付ける。しかし、ターコイズさんは表情を崩さず、ルーブルさんの顔をしっかり見据えて口を開く。

「それは言い逃れの出来ない事実です。だからこそ、我々は正義であるならば貴方達を救済しなければならない」
「分かってんじゃねえか、職でも紹介してくれるのか?」
「……今、私達は改造技マシンを協力した会社や顧客を追っています。しかし、いかんせんポケ数が足りない。なので、私達は今回の件で職を失った者達全員を雇おうと思います」
「…………悪くねえ話だな」
「ええ、私達に対する怒りはあると思いますが、貴方達の行動はあの会社の怒りからでしょう。その会社に協力した会社を共に探し出して欲しいのです。勿論、その捜査が終わった後もそのまま我々のサポートという形で雇わせていただきます。給料も存分に支払わせてもらいますし、福利厚生も充実させます。いかがでしょうか、貴方が声をかけていただければ、貴方についてきてくれている仲間も共に来てくれるでしょう」
「…………俺はな、あの会社に骨を埋める気概で勤めてたんだ。それなのに、俺はあの会社に裏切られた。そんな思いは二度と御免だ。お前達の言ってることは最もだし、頷きたい俺もいる。だから、見せてくれよ。お前達がどれくらい本気だというのか」

 ルーブルさんがそう言うと、ターコイズさんは黙って新しい書類を取り出した。そこには、僕も知っている様な政界の重鎮とも呼べるポケモンの名前が連なっていた。

「今まで、私達が調べてきて横領等の疑惑のある政治家をまとめたものです。私達は、其奴らを一匹一匹調べた上で、悪だと判明したらぶっ潰す覚悟で動いています」
「…………おいおいおい、とんでもねえ大物もいるじゃねえか。いくら正義の為とはいえ、そこまでやるのか?」
「私達、というよりリーダーの方針なんですよ。今回の様に、時には悪になる正義かもしれませんが、それでも何も知らぬ者を栄養分としか思っていない様な悪だけは許してはおけないんです。だから、潰す。果てしない、途方のない道だと分かっていても、私のリーダーも、メンバー全員が、そう決めたんですから」



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 結局、ルーブルさんはターコイズさんの申し出を受け入れ、とりあえずは“株式会社ルーブル”という名の下で、改造技マシンの製造をしていたあの会社に協力していた会社を追う業務に勤しんでもらうこととなった。その後、廃ビルを出た所で、僕とターコイズさんは話をしていた。

「争い事にならなくて、本当に良かったです……」
「……ああ、こっちも良かったよ。僕と会う前にスパルタと出会って、しかも修行をこなしたって聞いてたし、てっきり脳筋になってしまったかと思ったけど、どうやら君は僕と似ている様だね」
「似ている……?」
「不戦収勝、戦わずして勝ちを収める。それが僕の信条なんだよ。スパルタや、あとコメットとかはすぐ戦おうとするけど、本当なら戦わずして済むならそれで良いんだよ」
「まぁ、そうですよね」
「その為に、こちらの手の内を明かす羽目になったとしても、それで相手の信頼を得られるなら安いものだよ」

 僕は、ターコイズさんになんだか呑気そうな見た目をしている割には意外と鋭い、という印象を感じた。

「ところで……君の不思議能力って何?」
「え? あ、僕の不思議能力は『とうめい』です。自分や物体を透明化する事が出来ます」

 僕の返答に、ターコイズさんは少し呆れた様な顔を向けた。

「……君は少し疑うって事をした方がいいよ」
「疑う? どういう事ですか?」
「僕が悪者だったり、別の誰かが化けていたらどうするのって話。そうやって自分の能力をペラペラ話すような奴は、仲間の情報も簡単に口に出してしまうのさ」

 射抜かれるような瞳に僕は少し威圧され、言葉を詰まらせる。

「…………まぁ、今回は君のその純粋さに免じて、僕の能力も教えてあげるかな。僕の不思議能力は『ばしょがえ』と『ものがえ』だよ」
「……え? 二つ? 不思議能力って、一匹につき……」
「そう、普通は一つ。でも、能力が似ているからか、僕は『ばしょがえ』と『ものがえ』の二つの能力を持ち合わせてる。『ばしょがえ』は、ポケモンとポケモン同士の場所を、『ものがえ』は物体と物体同士の場所を入れ替えるという至極単純な能力さ」

 ターコイズさんがそう言うと、僕の視界からターコイズさんが消える。振り向いてみると、そこに手を振ったターコイズさんがいた。成る程、僕と自分の位置を入れ替えたのか。

「あー、そうそう。言っておくけど、本当なら僕はそう簡単に手の内を明かしたりはしないよ」
「え、それじゃあ……」

 能力を教えてくれたのは、僕への信頼の証かと問おうとした瞬間、僕の頭に何かが直撃した。死にはしないが、結構な衝撃だ。見ると、コンクリートの破片が落ちてきたようだ。

「疑う事は悪じゃない」

 そんなターコイズさんの言葉と共に、僕の意識は途切れていった。そうか、ターコイズさんはそれを避ける為に……どうして僕と入れ替える必要があったんだ?

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ターコイズ(ミズゴロウ)
『ばしょがえ』と『ものがえ』
・ばしょがえはポケモンとポケモンの場所を入れ替える
・ものがえは物体と物体の場所を入れ替える
・どうやらポケモンと物体という組み合わせでは入れ替えれない様だ

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