第十三話 騎士団の彼女と思念の彼(02)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「――となると、フロルは何が起こるか分からない。そう言いたいのかね? 」
 「ええ。リツは四十五パーセント、って言ってたから何とかなったけど、そもそも生態チップを抜く事を想定して造られてない。だからなんとも言えないわ」
 「……。しかし、出来ない事はないんだよな? 」
 「……理論上は。けど出来たとしても命は助からない、って思っておいて」
 「……」


――




 「ごちそうさま! 」
 ビアンカと一緒に街に出た私は、行きつけのカフェで色々と話し込んだ。カフェまでの道中もそうだったけど、見たところ復興半ば、って言う感じ。今日街に出て初めて実感したけど、“ラクシア”は数週間前に“ルヴァン”に襲撃されている。その日“研究三課”が急に休みになったから、襲ったのは私の元職場仲間。そのうち出張で行ったメンバーだと思うから、多分シャサは入ってない。ファルツェアさんの話からすると、襲わせたのは生物兵器……、多分AC型辺りで、課員達はそれらに指示を飛ばす役割、だと思う。一歩間違えると私が襲わせる事になってたもしれないから、そう考えると怖いわね……。
 話を元に戻すと、復興の最中だったけど、一応カフェとか売店とか……、店の数々は仮設の建屋で営業を再開していた。そのうちの一軒が行きつけのカフェだけど、建屋が壊されても味は同じだったから、凄く安心してる。
 「じゃあ、次に行きましょ」
 それで頼んでいたものを食べ終えたって事で、私は席を立ってこう一言。まだ尻尾の感覚になれてないから隣の机にぶつけたけど、ひとまず私は店を後にする。尻尾が三本あるから周りの目が怖かったけど、今のところそれほど怖がる事はなさそうな気がする。カフェに来るまでに確かに声をかけられはしたけど、腫れ物に触るように扱われたりとか好奇の目で見られたりとか……、そういう事は無かったと思う。知り合いとか仕事で関わった人は特に、行方不明になってた私の事を心配してくれさえもした。中には尻尾が増えて便利になったんじゃない、ってうらやましそうにしている人もいた。お世辞とか皮肉って言われたら、何も言い返せないけど……。
 「うん! じゃあリツァ? 次はどこに行く? 」
 「そうね――」
 ひとまずカフェの建屋を出てから、ビアンカは真っ先に私に尋ねてくる。あまりに待ちきれないって感じだったから、私はすぐには返事は出来なかった。出来はしなかったけど、これがいつものビアンカだから、私は慣れてるつもり。だからって事で私は、一度視線をあげて色々と考えてみる。
 「トゥワイスは次はどこに行ってみたい? 」
 一応あるにはあるけど、念のため私の中のエーフの彼にも声をかけてみる。トゥワイスと言えば、私に中にいる状態でもある程度の事が分かるらしい。私が見てることはもちろんだけど、聞いてること、それから味も分かるらしい。さっき食べたアップルパイも、私を通してトゥワイスも味わってくれたらしい。トゥワイス自身も流石に予想外だったらしく、凄く甘くておいしい、って言って喜んでくれていた。普通に生活してたらここまで感動してくれる事は無いと思うけど、トゥワイスはこの限りじゃ無い。“ルヴァン”で造られてずっと出た事が無いなら、生きている間はあの残飯食べさせてもらえていなかったはず……。だからもしかすると、彼はある意味カルチャーショックを受けたのかもしれないわね。
 『うーん。じゃあ次は、リツァの家、って言うの、かな? リツァが住んでる場所を、見てみたいよ』
 「わっ、私の? 」
 「トゥワイス、何て? 」
 「私の家に行きたい、って言って――」
 まさかこんな返事が返ってくるなんて思わなかったけど、彼は興味津々って言う感じで提案してくる。私の家に来てもこの何週間も帰れてないから、少なくとも散らかってるか埃がかぶっていると思う。酷いともしかすると、例の襲撃の件でアパート自体がこわされてしまっているかもしれな――。
 「リツァ! よかった。本当に無事だったんだね? 」
 『ん? リツァ、知り合い、なの? 』
 私の家に行きたいって言ってる、そうビアンカに伝えようとしたけど、その途中で別の声が飛んでくる。何かついさっき見たような光景だけど、その声の主も空から私を見つけたのか、急降下してくる。再開した時のビアンカと同じでホッとしたような声をあげたのは――。
 「リフェリス! ええ、なんとかね」
 私の同業者のオオスバメで、潜入中も二、三回会っていた彼。私が見上げた時には、丁度大きな翼を羽ばたかせて着陸しているところだった。
 「ええっとリツァ? このオオスバメって、誰? 」
 「私と同じ“リフェリア”の情報屋で、オオスバメのリフェリス。とヒバニーの彼が、医者のビアンカよ」
 この感じだと二人は初対面だと思うから、共通の友達の私がお互いを紹介してあげる。ビアンカはリフェリスを私を見上げるようにしているけど、私に紹介されてから、よろしくね、って彼に右手を差し出す。するとリフェリスもそれに快く応じてくれて、右の翼で握手を交わしていた。
 「そういえばリツァ? リツァが行方不明になってる間も情報を一つ掴んだんだけど――」
 「情報? 騎士団が全面的に復興に協力してることとか? 」
 一通り自己紹介が済んだところで、二人は最近の時事について話し始める。私自身“ラクシア”の事は全然分かってないけど、知っている事と言えば、今復興している真っ最中、そのぐらい……。だから実家とか家の事は何一つ分かってないし、ビアンカとかリフェリス以外の友達が無事なのかさえ分かってない。だからといって私はAB型の生物兵器だから、あまり私からは会いに行かない方が良いと思うけど……。
 「――リツァが潜入していた研究所からまた実験体が脱走したらしいんだけど、何か聞いてる? 」
 「……あっ、それ、私の事ね」
 彼は特ダネのつもりで教えてくれたんだと思うけど、このことは物凄く心当たりがある。昨日の今日で情報を掴んでいるのは流石だと思うけど、私はいわゆる例の件の当事者。……というよりは脱走した実験体本人だから、相手が彼だから包み隠さず話してみる事にする。
 「どっ、どういうこと? 」
 「僕も今日初めて知ったんだけど、潜入に失敗しちゃって――」
 「捕まって生物兵器に改造された、って感じね」
 「しっ、失敗って……」
 「聞いての通りよ。私の尻尾、三本になってるでしょ? 」
 本当は私が話すつもりだったけど、その前にビアンカに先を超されてしまう。多分彼はトゥワイスから聞いたんだと思うけど、私の尻尾が三本になった原因を話してくれる。だけどこのまま話してもらう訳にもいかないから、彼の言葉を遮ってでも自分の言葉で説明する。彼も理解してくれて嬉しいけど、これは私達……、リツァとトゥワイスの問題。だから私は、三本の尻尾を彼にも見せてあげる。いつもはバレないように、できるだけ真ん中の尻尾に寄せてるけど……。
 「その尻尾……、まさか……」
 「そうよ。さっきも言ったけど、潜入調査は失敗。捕まってエーフィを辞めさせられて、生物兵器に改造された。……あと一歩遅かったら戻って来れなかったけ――」
 寄せていた尻尾の力を抜いて、外側の尻尾を楽にする。ずっと力を入れてたから筋肉痛になりそうだけど、解す意味合いも込めて軽く動かしてみる。AA型に改造されてたら尻尾をしまえたと思うけど、あいにく私はその劣化版の戦闘乙型。だから体の中にしまおうと思っても、しまう事が出来ない。……だけど尻尾を切られて亡くなったエーフィ……、トゥワイスともう一人の事を思うと――。
 「あっ、きみは昨日の! 」
 もう戻って来れなかったと思うけど、そう言おうとしたけど、今度は別の誰かに遮られてしまう。丁度前から歩いてきたから誰か分かったけど、私に話しかけてきたのは、二人組のうちのひとり。
 「ルミエール! 昨日はお疲れ様だね! 」
 私……達を助けに来てくれたうちのひとりの、ピカチュウの男の子。ビアンカが彼の事を呼ぶと、ピカチュウの彼は私達の方へ駆けてくる。彼とビアンカが知り合いだったのは意外だったけど、よく考えたら知り合っていてもおかしくないと思う。何故ならビアンカは騎士団専属の医者で、ピカチュウの彼はその騎士団のメンバー。会っていても不思議じゃないから、多分どこかで知り合っていたんだと思う。
 「うん! 」
 「ええっと、あなたは確か昨日の――」
 『ルミエール、だよ。僕達を助けに来て、くれた』
 「ルミエール、君? 」
 結局私は彼の事を聞きそびれたけど、ちゃんと話していたらしいトゥワイスが教えてくれた。
 「そうだよ」
 それからもう一人は――
 「マリーも、元気そうで安心したよ」
 「うっ、うん」
 少し距離を置いているイーブイ。彼女に気づいたビアンカが声をかけていたけど、何故か泣いたような跡がある彼女は小さく頷く。私にとっては彼女の方がなじみがあるから。
 「マリー、元に戻ったみたいね」
 「この声……、もしかしてリツァさん? 」
 彼女の方をまっすぐ見、そのまま声をかける。一応昨日私は会ってはいるけど、私が着いた時には気を失っていた。だから実質数週間ぶりに話す事になるから、マリーは恐る恐る、確かめるように訊いてきた。
 「ええ、私よ。“大保管庫十六”の外で会うのは初めてだけど、元気そうで良かったわ」
 「私も……。二、三回会っただけで来なくなったから、心配だったけど……」
 「その事に関しては、ごめんなさい。心配かけたわね」
 だから私はにっこりと笑いかけてから、優しく彼女に話しかける。本当は毎日、フロルと交互に会うつもりだったけど、ホムクスに捕まって出来なくなってた。だから彼女……、と今はもう話せないけど、フロルには物凄く心配をかけてしまった。特にフロルには逃がしてあげる、って言ってあったから、約束を守れなくて本当に申し訳ない……。
 『01、だ……。本当に、01が……! 』
 トゥワイスに至ってはホッとした、っていう域を超えているみたいで、私の頭の中に響いている声に嗚咽が混ざっている。多分彼は私の記憶を通して聞いてると思うけど、トゥワイスにとっては、マリーを逃がす時に話して以来になるはず……。それも逃がした後で彼は亡くなってるから、彼自身もう一度マリーの声を聞けるなんて夢にも思ってなかったんだと思う。
 「ううん。私もリツァさんが教えてくれたから、進化“させられずに”済んだと思う」
 「進化……? そういえば昨日、マリーってブラッキーだったよね」
 「マリーの能力でね。……それよりもマリー? 私よりも話したいひとがいるんじゃないかしら? 」
 だから私は、実質生き別れになっている二人のために、こう提案してみる。
 『……えっ? 』
 「会いたい……ひと? 」
 直接方法を聞いた訳じゃ無いけど、一応トゥワイスの話で、やり方だけは知っているつもり。そもそも私の生物兵器としての能力だから、彼に出来て私に出来ないはずが無い。実際私もトゥワイスの能力を使えたし、トゥワイスも私の能力を使って“ラクシア”まで戻ってきてくれた。……今思い出したけど、私の荷物、多分“ルヴァン”の私の部屋に置きっぱなしだけど……。
 「そうよ」
 「あっ、そっか! 」
 この感じだとビアンカは気づいたらしく、思い出したように頷く。彼には私の事を全部話してあるから、これだけで分かってくれたと思う。実際に私から生態チップを引き抜く手術をする時、私は意識を失って眠っていた。だから表に出ていたのはトゥワイスで、ビアンカに生物兵器のことを色々話してくれたはず。……だからトゥワイスの事も、ちゃんと知ってくれている。
 そういう事で私は、彼に対しても大きく頷く。マリーはまだ首を傾げてるけど、多分トゥワイスと入れ替わったら分かってくれると思う。
 『リツァ? どういう――』
 「すぐに分かるわ」
 この感じだとトゥワイスも分かってないみたいだけど、私は構わず目を閉じる。トゥワイスが話していた通りに、私は意識を活性化させる。その状態で私は、私の一部になってるエーフィの彼の事を強く思い浮かべる。すると――




―・―・―・―




 『リツァ? どういう、こと? 』
 リツァが何考えてるから分からない、から、“思念”の僕は彼女の中で訊ねて、みる。リツァの一部になって、から、僕は“思念”の状態でも話せるようになった。話せはする、けど、僕が話せる相手は、リツァだけ。一回リツァの体を借りたから分かる、けど、裏にいる時でもリツァが見たり聞いたりした事が、分かる。それからこれは僕も初めての経験だ、けど、リツァが食べたものの味まで分かった。……だけど全部が全部分かる訳じゃ、なくて、リツァが考えてる事とか、触れたり触ったりした感覚は分からない。
 それで僕はリツァに聞いてみた、けど、その途中なのに目の前が急に暗くなる。多分目を閉じたんだと思う、けど、その瞬間、急に僕は何かに引っ張られるような感覚に、包まれる。昨日は僕が作動させたから気にならなかった、けど、この感じは多分、リツァが僕と入れ替わろうとしてるんだと思う。その証拠に尻尾を風が撫でる感じが、してきた。今まで感じられなかった地面の感じが、足を通して伝わってきた、から――。
 「リツァ、そういう事、だったんだね」
 僕と入れ替わったリツァに、こう声をかける。多分リツァは、自分の機能を使ってみるために僕と入れ替わったんだと、思う。
 『そういうことよ』
 するとあっていたみたいで、リツァは裏でこんな風に答えてくれる。今まではずっと裏側だった、から、僕の中でリツァの声が響いてるのはちょっと不思議な感じがする。そんな感じに包まれながら、目を開けると――
 「こっ、声が変わった? 」
 さっきまでリツァが見ていた景色が映る。僕が尻尾だけになってから表に出るのは二回目だ、けど、目の前には、昨日話したピカチュウのルミエール。隣にはリツァの知り合いらしいオオスバメもいる、けど、それよりも僕は――。
 「その目……、それにこの声――」
 目の前にいる、よく知ったイーブイに視線を落とす。僕がいままで……、逃がしてずっと気になっていた彼女は、僕の目をまっすぐ見ると、急に涙ぐみ始めて――
 「02……。本当に、02なんだね……? 」
 僕が02か、って訊いてきた。だから僕は、リツァの体で大きく頷き――
 「うん、僕、だよ。僕は尻尾だけになった、けど、会いたかったよ! 」
 前足を01の首筋に回そうとする。もちろん僕もそうだ、けど、本当に嬉しかったみたいで、01は僕だって分かると跳びついてきてくれる。死ぬ前は目線が一緒だったけど、リツァの体だから、01の事が小さく見える。だけどすごく勢いよく跳びついてきた、から、僕は背中から後に倒されてしまう。だけどそれも凄く嬉しかったから、優しく、守るって決めた01を受け止める。
 「私もだよ! 本当に……ほんとに、私も会いたかった! 」
 すると限界が来たらしく、01の黒い目からは、沢山の涙が、あふれ出す。僕ももう二度と会えないんじゃないかって思ってた、から、熱い物がこみ上げてくる。本当なら失敗作の僕は、解体されて頭を切り落とされる……、それで終わり。だから本当にあのとき、尻尾に“思念”を移して……、01を研究所から逃がして、本当によかった!
 




  続く

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