Episode 66 -Resident of eel-

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 謎の小屋で消息を立ったイヴァンとシャルルは、小屋の地下に複雑に広がる用水路をさまよう。彼らと合流したえっこ・ローレル・デンリュウに加え、意識を取り戻して落とし穴に落下したネロの元に、這い寄る大きな影があった。
 「おい、大丈夫かシャルル? 顔が真っ青だぞ。いや、元々お前は青色か……。」
「んむむぅ……もーダメ……ですぅ……。はぁっ!? こっ、ここは……!!!?」

ショックで気絶していたシャルルがイヴァンに揺り起こされた。2匹は真っ暗な空間に閉じ込められており、調査団ガジェットの画面のかすかな光で辺りを照らしているイヴァンが、シャルルの顔をまじまじと覗き込む。

シャルルはしばらくは半ばパニックになっていたが、イヴァンに宥められてようやく落ち着きを取り戻したようだ。

周囲には壁があるのか空間があるのかも分からない程の深い暗闇が続いており、ピタピタと水滴が落ちる音だけが周囲にこだまする。シャルルはイヴァンにがっしりとしがみつき、不安そうな目つきを暗闇に向けていた。


「ここはどこなのでしょうか……? 僕たち、確か小屋の入り口で突然何かに引きずり込まれて……。」
「そうだ。どうやら、あの小屋の地下には入り組んだ用水路があるらしくてな。水中に引きずり込まれたわけだが、私が抵抗して何とか奴らを引き剥がした。そして、一段高くなっているこの場所に移動してきたというわけだ。」

イヴァンたちのいる場所は、足元が深さ10cmの水路のようになっていた。イヴァンが言うにはここよりも深い場所があるらしく、2匹は落とし穴からそこに引きずり込まれたようだ。


「私はそんなに自由には泳ぎ回れないのでな、水タイプのお前が頼りだ。さあ、脱出のために探索を開始するぞ。」
「えーっ!? 僕が水の中を見るんですか!!!? 怖いです、嫌ですーっ!! って待ってくださいよリーダー!!」

イヴァンはそう告げると、ポトポトと水の跳ねる足音を立てながらその場から動き始める。シャルルはそんなイヴァンに置いてけぼりにされまいと、急いでその後を追った。


「おーい!!!! シャルルーー!! イヴァン!!!! どこ行ったんだよーーーー!!!!」

一方でフローゼルは、小屋の1階部分を探索しているようだった。あまり広くはない小屋ではあるが、内部には廊下の両側にいくつかの部屋があり、フローゼルが現在いるのは廊下の最奥にある物置部屋だ。


「うわっ!? 何だよこの大量の電池……。ったく、こんなもんばかりあると探索の邪魔だぜ……。」

フローゼルは、物置部屋を塞ぐダンボール箱から転がり出てきた電池を見つめて苛立ち紛れに呟く。
太い電池から細い電池、マンガン電池にアルカリ電池、充電池やリチウムイオン電池、果てには農機具や車などに使うバッテリーまで、多種多様な電池の数々がどさりと地面に散乱する。

そんな電池に気を取られ、フローゼルはえっことローレルとデンリュウが小屋に入ってきたことに気付かなかったらしい。
不気味な小屋にはあまりに不釣り合いな電池を足で押し退け、ダンボール箱をどかしながら部屋を捜索するフローゼル。しかし、イヴァンたちの行方は依然として掴めないままだ。











 「おわっぷ!? 何だこれ、水深が!!」
「落ち着いてください、君は水タイプでしょう……。やはり人間のときと比べて目線が低いですかね?」

「そりゃ170cmあった身長がケロマツの低さになってるんですもんー。というか、まさか30~40cmくらいの深さしかないんですかこれ?」
「ええ、その通りですよ。ハリマロンのえっこもかつて君と同じことを言っていましたよ、人間時代よりも目線や身長が低くて困ると。もっとも、今となっては進化すらしたがらないくらい、あの体躯が気に入っているようですが。」

落とし穴の先は先程と同じような用水路になっており、えっこは顔まで水に浸かったことで一瞬面食らっている様子を見せた。

どうやら人間時代とは大きく違うポケモンの体格は、人間からポケモンに転生した者にとっては共通の悩みのようである。


「あわわ……水がこんなに…………。僕はあまり泳ぎは得意ではないのですが……。」
「俺もだよー。でもケロマツだから普通に泳ぎ回れるようになっちまったさ。まあ、この中で唯一の水ポケモンだし、この間潜った海よりかはずっとマシだから、水中探索は俺に任せてください。」

「ええ、代わりにワタシはフラッシュを使って明かりを確保します。この環境下ですから、互いに助け合うことが一番ですとも。」

デンリュウがフラッシュを使うと、闇一色に染まっていた周囲の様子がはっきりと見えてきた。

細い用水路には湧き水と思しき綺麗な透き通った水が流れており、決して下水道などではないようだ。
壁は強固な石レンガで作られており、水が一気に流れ込んだとしても絶対に決壊することはないだろう。

かまぼこ型のアーチ天井からはピトピトと水面に滴が垂れ、暗い水面に波紋をいくつも形作っているのが見える。


ところどころに水深が深くなっているところがあるために、背の高いデンリュウがローレルを抱えたり、えっこが探索したりと協力して進む一行。
そんなえっこたちの前に、何か淡い光のようなものが現れる。


「おお、特別顧問にえっこ君にローレル君!! ごきげんいかがかな?」
「吐きそうでしたよー、主に誰かさんの運転のせいで……。でも無事そうで何よりです。」

「おや、フローゼル君がいないようですが……どこへ行ってしまったのですか?」
「団長とはぐれてしまったんです……。僕とリーダーだけ何かに引きずり込まれて、この用水路に落ちてきました。ずっと暗い中をさまよって、やっと皆さんにお会いできたところですぅ。」

えっこたちはイヴァンとシャルルを発見することができた。無事そうな2匹の姿を見て安堵するえっこたちだったが、すぐにフローゼルが行方知れずであることに気付く。一行はフローゼルが未だに1階にいると予想し、脱出経路を探る。


「とにかく、1階に戻って団長と合流しよう。この小屋はやはり様子がおかしい……。また私たちをここに引きずり込んだ存在に遭遇するかも知れない。そうなると厄介だからな。」
「僕も同意です。先程のロープを垂らした場所に戻りましょう。あそこからなら確実に上に登れるはずです。」

「うーん……さっきの場所がどこか忘れてしまいました……。この用水路、とても複雑でして……。」
「もー、あなたはいつも方向音痴なだけじゃないですかー!! 調査団ガジェットの行動ログを辿ればいいだけですよー!!」

シャルルに促され、行動ログを確認するデンリュウ。しかし究極に方向音痴な彼では道が分からないようだったので、えっこやローレルが見かねて道を辿る。
それにぞろぞろとついていく形で、他の3匹も入り口の落とし穴へと向かって行くのだった。








 その頃、平原の暗闇の中でようやくネロが目を覚ました。メアリの状態異常回復魔法による治療が功を奏したようだ。

「あー……マジで死ぬかと思った……。アイツの運転荒すぎんだよー!!!! 俺は遊園地の絶叫マシンでもダメだっつーのに、耐えられるかあんなもん!!」
「その様子なら元気そうだね……よかった。でも団長や特別顧問たち、みんなあそこに入って行っちゃった……。長らく出てこないし、ガジェットの通信も通じないし、何かあったんじゃ……。」

「よーし、そんならいっちょ突入するか!! どりゃぁぁっ、とびひざげりっ!!!!!! っておわぁーーっ!!!?」

ネロは助走を付けて思い切りとびひざげりをドアに食らわせようとするが、いとも簡単にドアが開いたため、勢い余ってそのまま滑るように廊下の奥へと消えて行った。

メアリが慌ててその後を追うが、ネロの悲鳴が足元の方へ消えて行くのが聞こえた後、彼の姿を確認することができなくなった。


「ひぇぇ……ど、どうしよう……。と、とにかくここに留まった方がいいよね……。全滅しないためにも、私だけは残らなきゃだし……。」

メアリは幸いにも建物内部には入っておらず、外でおろおろと身を縮めながらそのように呟いていた。ネロは豪快なとびひざげりの勢いのまま落とし穴に落下し、真下の用水路に大きな水柱を上げて着地した。


「今の音……!! 何かが落ちてきたみたいです、行ってみましょう!!」
「おお、ネロじゃないか!! 私の運転が快適過ぎてぐっすり眠っていたようだな。疲れは取れたか?」

「普段の500倍くらい溜まったわボケ!! ふー……。しかしこの落とし穴、俺じゃなけりゃお陀仏になってたぜ……。咄嗟の受け身は格闘タイプの基本だしなー!!」
「まーったく……。落ち着きのない先輩ですね……。どうやったらそんな落下の仕方するんですかぁ……。」

落とし穴の真下辺りに移動してきた一行は、落下してきたネロと合流する。ネロはマーキュリーと同じタイプのタフガイらしく、猛スピードで落とし穴に突撃して落下してきたにもかかわらず、傷一つなくピンピンしている。

そんな中、えっこが上から垂れたロープを見て思わず声を上げる。


「うわぁっ!? 何だこれ、ロープが途中で切れてる!! これじゃあ上に上がれない!!」
「もー、先輩のせいで切れたんじゃないですか!? 落ちてくるときに無意識に引っ掴んでちぎれたんですよきっと!!」

「いや、違うから!! 俺は何もしてねぇよ!! ホントだから、何疑いの眼差し向けてんだよ!?」

デンリュウが降りてくるときに垂らしたロープが、用水路から3m以上上の位置で切れていたのだ。先程まで何ら変わりなかったロープだけに、誰もがネロに冷ややかな目つきを見せる。

そんな中必死に弁明するネロだが、ローレルはロープの切れ端を拾い上げて冷静に観察していた。


「ネロさんが犯人ではありませんよ。見てください、このロープは綺麗に焼き切れる形で寸断されています。まるで熱した刃物か何かで一気に切り裂いたかのようです。草タイプのネロさんが、そのようなことを落下中にできる訳がありません。」
「違いないっ……!! 敵はやはりこの用水路の中だ!! みんな互いに離れるな、周囲を警戒しろ!!」

ローレルの説明を聞くと同時に、誰もが背中合わせに身を寄せ合って周囲をぐるりと見張る態勢を取った。
ロープを切断し、えっこたちが脱出できないようにした張本人は、恐らくイヴァンたちを襲撃した者だろう。緊張の糸が張り詰め、ひんやりとした地下用水路にもかかわらず、一同の額に冷や汗が光っていた。次の瞬間、ローレルが何かを察知したように振り向いて叫ぶ。


「この感じ……その金網部分!! 気を付けてっ!!!!」

ローレルが見つめる先には、隣の用水路へと続いていると思しき分厚い金網付きの鉄板があった。その鉄板の奥から、ローレルは何かの気配を感じ取ったらしい。








 突如、鉄板が大きな音を立てて吹き飛んだかと思うと、大きなポケモンが一行の前に姿を見せる。ぬるりとした感じの不気味な光り方に思わず固唾を飲みつつ、ランプの光をそちらへと向けると、そこには1匹のでんきうおポケモン・シビルドンが立ちはだかっていた。


「うわぁ……電気タイプですぅ……!! 僕はバックに付きます、直接戦うと危ないですしっ!!」
「シビルドンか……この場に奴の弱点を付けそうな者はいない。だが、数が圧倒的に多いこの状況、我々の有利に変わりはない!!」

「いや、そうとも限りませんよ……。このシビルドン、通常の個体よりもはるかに体格が大きい……。それ故に、身体もかなり丈夫だと推測されます。だとすれば、あれを使われてはまずい!!」

デンリュウが咄嗟に攻撃を仕掛けようとするが、シビルドンはそれと同時に用水路の水を巻き上げて周囲に降らせた。
さながら霧雨のようにはらはらと細かい水滴が一帯を包み込んだその瞬間、デンリュウが顔つきを険しくして攻撃を中断する。


「一歩遅かったか……!! これはかなり厄介な事態になりました。こちらの数が多くても、かなり苦戦を強いられる可能性がある。」
「どういうことです!? というか、何かこの霧みたいな水、肌がピリピリするような……。」

「ま、それなら苦戦する前にぶちのめしちまえばいい訳だよなぁ!? タフならタフで、速攻でケリを付けてやるぜ、ギガインパクト!!!!」
「……そうかっ、待つんだネロ!! その一手はまずい!!!!」

えっこの言う通り、シビルドンが巻き上げた霧のような水滴からは、ほんのわずかにピリピリと電気のような刺激が感じられるような気がした。
そんなことはお構いなしのチームの鉄砲玉・ネロは高威力の技で勝負を仕掛けるが、イヴァンが突然何かに気付き声を上げる。


「おりゃぁぁっ!!!! ……フン、どうだ? 俺のパワーとスピードなら、てめぇみたいな堅物でも一撃だろうよ。」
「いや……あの目つき……。イヴァンさんの言う通り、安易な大振りは最もやってはいけないことだった……!!!!」

ネロの破壊力抜群の一撃がシビルドンの長い身体に直撃し、早くも勝負あったかと思われたが、えっこは焦りを隠せない表情でシビルドンのギョロギョロとした赤い目を見つめる。
その目は、まるでネロの大技を食らっても、ほとんどダメージを受けていないかのようだ。


「何だと!? コイツ、全く動じてねぇっ!!!!」
「まずいっ!! 確かギガインパクトは威力は高いものの、隙が大きくて無防備になってしまう大技!!!! このままじゃネロさんが!!!!」

驚くネロに対し、シビルドンは反撃の構えを見せる。最悪なことに、ネロの使ったギガインパクトという技は、桁違いの破壊力と引き換えに大きな後隙を晒してしまう諸刃の剣のような一撃だった。

ローレルは丸い目を見開いてネロの身を案じるが、ネロは最早体勢を立て直すことができず、ただシビルドンの手痛い反撃を待つのみとなっていた……。


(To be continued...)

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